説明

トロイダル型無段変速機

【課題】トラニオン7bに対してパワーローラを回転自在に支持する為の転がり軸受に、十分量の潤滑油を送り込み易い構造を実現する。
【解決手段】前記トラニオン7bを構成する支持梁部23にパワーローラを回転自在に支持する為の外輪16b及び支持軸12aを、揺動可能に支持する。又、前記支持梁部23側に設けたキー27aと、前記外輪16b側に設けたアンカ溝28aとの係合により、この外輪16bが前記支持梁部23の軸方向に変位する事を阻止する。前記キー27aと前記アンカ溝28aとを、前記外輪16b及び支持軸12aの中心から外れた部分に設ける事で、上流側潤滑油流路29aと下流側潤滑油流路30aとの間で、潤滑油の受け渡しが円滑に行われる様にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両(自動車)用の自動変速機、建設機械(建機)用の自動変速機、航空機(固定翼機、回転翼機、飛行船等)等で使用されるジェネレータ(発電機)用の自動変速機、ポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の自動変速機として利用する、ハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速装置としてハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機を使用する事が、特許文献1〜4等の多くの刊行物に記載されると共に一部で実施されていて周知である。又、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて変速比の調整幅を広くする構造も、特許文献5等、やはり多くの刊行物に記載されて、従来から広く知られている。図11〜12は、これら各特許文献に記載されて従来から広く知られているトロイダル型無段変速機の第1例を示している。この従来構造の第1例の場合、入力回転軸1の両端寄り部分の周囲に1対の入力ディスク2、2を、それぞれがトロイド曲面である内側面同士を互いに対向させた状態で、前記入力回転軸1と同期した回転を自在に支持している。又、この入力回転軸1の中間部周囲に出力筒3を、この入力回転軸1に対する回転を自在に支持している。又、この出力筒3の外周面には、軸方向中央部に出力歯車4を固設すると共に、軸方向両端部に1対の出力ディスク5、5を、スプライン係合により、前記出力筒3と同期した回転を自在に支持している。又、この状態で、それぞれがトロイド曲面である、前記両出力ディスク5、5の内側面を、前記両入力ディスク2、2の内側面に対向させている。
【0003】
又、前記両入力ディスク2、2と前記両出力ディスク5、5との間に、それぞれの周面を球状凸面とした複数個のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれトラニオン7、7に回転自在に支持されており、これら各トラニオン7、7は、それぞれ前記各ディスク2、5の中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸8、8を中心とする揺動変位自在に支持されている。即ち、これら各トラニオン7、7は、それぞれの軸方向両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8、8と、これら各傾転軸8、8同士の間に存在する支持梁部9、9とを備えており、これら各傾転軸8、8が、支持板10、10に対し、ラジアルニードル軸受11、11を介して枢支されている。
【0004】
又、前記各パワーローラ6、6は、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面に、基半部と先半部とが互いに偏心した支持軸12、12と、複数の転がり軸受とを介して、これら各支持軸12、12の先半部回りの回転、及び、これら各支持軸12、12の基半部を中心とする若干の揺動変位を自在に支持されている。この様な各パワーローラ6、6の外側面と、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面との間には、それぞれが前記複数の転がり軸受の一部であり、スラスト転がり軸受である、スラスト玉軸受13、13と、同じくスラスト転がり軸受であるスラストニードル軸受14、14とを、前記各パワーローラ6、6の側から順番に設けている。このうちのスラスト玉軸受13、13は、前記各パワーローラ6、6に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ6、6の回転を許容するものである。これら各スラスト玉軸受13、13は、前記各パワーローラ6、6の外側面に形成された内輪軌道15と、外輪16の内側面に形成された外輪軌道17との間に、それぞれがスラスト転動体である複数個の玉18、18を、転動自在に設けて成る。又、前記各スラストニードル軸受14、14は、前記各パワーローラ6、6から前記各スラスト玉軸受13、13を構成する外輪16、16に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら各外輪16、16及び前記各支持軸12、12の先半部が、これら各支持軸12、12の基半部を中心に揺動する事を許容するものである。
【0005】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸19により一方(図11の左方)の入力ディスク2を、押圧装置20を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸1の両端部に支持された1対の入力ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、前記各パワーローラ6、6を介して前記両出力ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比を変える場合は、油圧式のアクチュエータ21、21により前記各トラニオン7、7を前記各傾転軸8、8の軸方向に変位させる。この結果、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化する(転がり接触部にサイドスリップが発生する)。そして、この力の向きの変化に伴って前記各トラニオン7、7が、自身の傾転軸8、8を中心に揺動し、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との接触位置が変化する。これら各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の内側面の径方向外寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の内側面の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が増速側になる。これに対して、前記各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の内側面の径方向内寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の内側面の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が減速側になる。
【0006】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供される各部材、即ち、前記入力、出力各ディスク2、5と前記各パワーローラ6、6とが、前記押圧装置20が発生する押圧力に基づいて弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、前記入力、出力各ディスク2、5が軸方向に変位する。又、前記押圧装置20が発生する押圧力は、前記トロイダル型無段変速機により伝達するトルクが大きくなる程大きくなり、それに伴って前記各部材2、5、6の弾性変形量も多くなる。従って、前記トルクの変動に拘らず、前記入力、出力各ディスク2、5の内側面と前記各パワーローラ6、6の周面との接触状態を適正に維持する為に、前記各トラニオン7、7に対して前記各パワーローラ6、6を、前記各ディスク2、5の軸方向に変位させる機構が必要になる。上述した従来構造の第1例の場合には、前記各パワーローラ6、6を支持した前記各支持軸12、12の先半部を、同じく基半部を中心として揺動変位させる事により、前記各パワーローラ6、6を前記軸方向に変位させる様にしている。
【0007】
上述の様な従来構造の第1例の場合、前記各パワーローラ6、6を前記軸方向に変位させる為の構造が複雑で、部品製作、部品管理、組立作業が何れも面倒になり、コストが嵩む事が避けられない。この様な問題を解決する為の技術として前記特許文献3には、図13〜18に示す様な構造が記載されている。本発明は、この図13〜18に示した従来構造の第2例を改良するものであるから、次に、この従来構造の第2例に就いて説明する。この従来構造の第2例の特徴は、トラニオン7aに対してパワーローラ6aを、入力、出力各ディスク2、5(図11参照)の軸方向の変位を可能に支持する部分の構造にあり、トロイダル型無段変速機全体としての構造及び作用は、前述の図11〜12に示した従来構造の第1例と同様である。
【0008】
前記従来構造の第2例を構成するトラニオン7aは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8a、8bと、これら両傾転軸8a、8b同士の間に存在し、少なくとも入力、出力各ディスク2、5(図11参照)の径方向(図14、17〜18の上下方向)に関する内側(図14、17〜18の上側)の側面を円筒状凸面22とした、支持梁部23とを備える。前記両傾転軸8a、8bは、それぞれラジアルニードル軸受11a、11aを介して、支持板10、10(図12参照)に、揺動を可能に支持する。
【0009】
又、前記円筒状凸面22の中心軸イは、図14、17に示す様に、前記両傾転軸8a、8bの中心軸ロと平行で、これら両傾転軸8a、8bの中心軸ロよりも、前記各ディスク2、5の径方向に関して外側(図14、17〜18の下側)に存在する。又、前記支持梁部23とパワーローラ6aの外側面との間に設けるスラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外側面に、部分円筒面状の凹部24を、この外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、この凹部24と、前記支持梁部23の円筒状凸面22とを係合させ、前記トラニオン7aに対して前記外輪16aを、前記各ディスク2、5の軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
【0010】
又、前記外輪16aの内側面中央部に支持軸12aを、この外輪16aと一体に固設して、前記パワーローラ6aをこの支持軸12aの周囲に、ラジアル転がり軸受であるラジアルニードル軸受25を介して、回転自在に支持している。このラジアルニードル軸受25は、前記パワーローラ6aの中心孔の内周面に形成した、円筒状のラジアル外輪軌道と、前記支持軸12aの外周面に形成した、円筒状のラジアル内輪軌道との間に、それぞれがラジアル転動体である、複数本のニードルを転動自在に配置して成る。更に、前記トラニオン7aの内側面のうち、前記支持梁部23の両端部と1対の傾転軸8a、8bとの連続部に、互いに対向する1対の段差面26、26を設けている。そして、これら両段差面26、26と、前記スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外周面とを、当接若しくは近接対向させて、前記パワーローラ6aからこの外輪16aに加わるトラクション力を、何れかの段差面26、26で支承可能としている。
【0011】
上述の様に構成する従来構造の第2例のトロイダル型無段変速機によれば、前記パワーローラ6aを前記各ディスク2、5の軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、このパワーローラ6aの周面と前記各ディスク2、5との接触状態を適正に維持できる構造を、簡単で低コストに構成できる。
即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、入力、出力各ディスク2、5、各パワーローラ6a等の弾性変形に基づき、これら各パワーローラ6aをこれら各ディスク2、5の軸方向に変位させる必要が生じると、これら各パワーローラ6aを回転自在に支持している前記スラスト玉軸受13aの外輪16aが、外側面に設けた部分円筒面状の凹部24と支持梁部23の円筒状凸面22との当接面を滑らせつつ、この円筒状凸面22の中心軸イを中心として揺動変位する。この揺動変位に基づき、前記各パワーローラ6aの周面のうちで、前記各ディスク2、5の軸方向片側面と転がり接触する部分が、これら各ディスク2、5の軸方向に変位し、前記接触状態を適正に維持する。
【0012】
前述した通り、前記円筒状凸面22の中心軸イは、変速動作の際に各トラニオン7aの揺動中心となる傾転軸8a、8bの中心軸ロよりも、前記各ディスク2、5の径方向に関して外側に存在する。従って、前記円筒状凸面22の中心軸イを中心とする揺動変位の半径は、前記変速動作の際の揺動半径よりも大きく、前記両入力ディスク2、2と前記両出力ディスク5、5との間の変速比の変動に及ぼす影響は少ない(無視できるか、容易に修正できる範囲に留まる)。
【0013】
図13〜18に示した従来構造の第2例の場合、図11〜12に示した同第1例に比べて、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図り易いが、変速動作を安定させる面からは、改良の余地がある。この理由は、前記各支持梁部23を中心とする前記各外輪16aの揺動変位を円滑に行わせる為、これら各支持梁部23の両端部分に、前記各トラニオン7a毎に1対ずつ設けた、前記各段差面26、26同士の間隔Dを、前記各外輪16aの外径dよりも少し大きく(D>d)する為である。これら各外輪16a、及び、この外輪16aと同心に支持された前記各パワーローラ6aは、前記間隔Dと前記外径dとの差(D−d)分だけ、前記各支持梁部23の軸方向に変位可能になる。
【0014】
一方、トロイダル型無段変速機を搭載した車両の運転時、前記各パワーローラ6aには前記各ディスク2、5から、加速時と減速時(エンジンブレーキの作動時)とで逆方向の力(トロイダル型無段変速機の技術分野で周知の「2Ft」)が加わる。そして、この力2Ftにより、前記各パワーローラ6aが、前記各外輪16aと共に、前記各支持梁部23の軸方向に変位する。この変位の方向は、前述した各アクチュエータ21、21による各トラニオン7、7(図12参照)の変位方向と同じであり、変位量が0.1mm程度であっても、変速動作が開始される可能性を生じる。そして、この様な原因で変速動作が開始された場合には、運転動作とは直接関連しない変速動作となり、何れ修正されるにしても、運転者に違和感を与える。特に、トロイダル型無段変速機が伝達するトルクが低い状態で、上述の様な、運転者が意図しない変速が行われると、運転者に与える違和感が大きくなり易い。
【0015】
上述の様にして生じる、運転動作とは直接関連しない変速動作の発生を抑える為には、前記間隔Dと前記外径dとの差(D−d)を僅少に(例えば数十μm程度に)抑える事が考えられる。但し、ハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機の運転時には、トラクション部から前記各パワーローラ6a、前記各外輪16aを介して前記各支持梁部23に加わるスラスト荷重により、前記各トラニオン7aが、図19に誇張して示す様に、前記各外輪16aを設置した側が凹となる方向に弾性変形する。そして、この弾性変形の結果、前記各トラニオン7a毎に1対ずつ設けた段差面26、26同士の間隔が縮まる。この様な状態でも、これら両段差面26、26同士の間隔Dが前記各外輪16aの外径d以下にならない様にする為には、通常状態(前記各トラニオン7aが弾性変形していない状態)での、前記間隔Dと前記外径dとの差を或る程度確保する必要がある。この結果、特に違和感が大きくなり易い、低トルクでの運転時に、上述の様な、運転動作とは直接関連しない変速動作が発生し易くなる。
【0016】
一方、前記特許文献3には、支持梁部側に設けた円筒状凸面の一部に係止したアンカ駒と、外輪側の凹部の内面に形成したアンカ溝とを係合させる事により、前記力2Ftを支承する構造が記載されている。即ち、図20に示す様に、支持梁部23の一部に、係止部材であるキー27を、この支持梁部23の外周面から突出する状態で固設すると共に、外輪16bに形成した凹部24の内周面に、係止溝であるアンカ溝28を、この凹部24の周方向に形成する。そして、前記キー27をこのアンカ溝28に係合させる事により、前記外輪16bを前記支持梁部23に、この支持梁部23を中心とする揺動変位を可能に、且つ、前記力2Ftを支承可能に支持する。
【0017】
又、トラニオン7bに対しパワーローラ6aを回転自在に支持する為のスラスト玉軸受13a及びラジアルニードル軸受25に潤滑油を送り込む為に、前記トラニオン7bの内部に上流側潤滑油流路29を、前記外輪16bと一体に設けた支持軸12aの内部に下流側潤滑油流路30を、それぞれ設けている。そして、これら両潤滑油流路29、30同士を、前記キー27の中央部に形成した通孔31を介して連通させて、前記上流側潤滑油流路29の下流端開口と前記下流側潤滑油流路30の上流端開口との間で潤滑油の受け渡しを可能としている。前記上流側潤滑油流路29から前記通孔31を通じて前記下流側潤滑油流路30に送り込まれた潤滑油は、前記支持軸12aの外周面に存在する、この下流側潤滑油流路30の下流側開口からこの支持軸12aの周囲に吐出し、前記スラスト玉軸受13a及び前記ラジアルニードル軸受25を潤滑する。又、図示は省略するが、円筒状凸面と凹部との互いに整合する部分に形成された、それぞれが断面円弧形である転動溝同士の間に複数個の玉を掛け渡して、前記力2Ftを支承する構造も記載されている。
【0018】
上述の様な構造によれば、前記パワーローラ6aは前記トラニオン7bに対し、前記支持梁部23の軸方向に変位する事を抑えて、しかも、このトラニオン7bの弾性変形に拘らず、このトラニオン7bに対する前記パワーローラ6aの揺動変位が円滑に行われる様にできる。この為、低トルクでの運転時にも、運転動作とは直接関連しない変速動作が発生する事を防止できて、運転者に違和感を与える事を防止できる。
【0019】
但し、前記上流側潤滑油流路29の下流端開口と前記下流側潤滑油流路30の上流端開口との間に前記キー27が存在するので、前記上流側潤滑油流路29の下流端開口から吐出された潤滑油のうちの多くの部分が、前記下流側潤滑油流路30内に取り込まれずに周囲に流失したり、或いは、これら両潤滑油流路29、30を含む潤滑油供給経路の抵抗が大きくなる。前記転動溝同士の間に複数個の玉を掛け渡した従来構造の場合も、同様の問題がある。何れにしても、前記スラスト玉軸受13a及び前記ラジアルニードル軸受25に十分量の潤滑油を送り込む面からは不利になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2003−214516号公報
【特許文献2】特開2007−315595号公報
【特許文献3】特開2008−25821号公報
【特許文献4】特開2008−275088号公報
【特許文献5】特開2004−169719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易で、コスト低減を図り易く、しかも変速動作を安定させる事ができ、且つ、トラニオンに対してパワーローラを回転自在に支持する為のスラスト、ラジアル両転がり軸受に、十分量の潤滑油を送り込み易い構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のトロイダル型無段変速機は、前述の従来から知られているトロイダル型無段変速機と同様に、少なくとも1対のディスクと、複数のトラニオンと、これら各トラニオンと同数のパワーローラと、これら各トラニオン毎に設けられたスラスト転がり軸受及びラジアル転がり軸受とを備える。そして、これら各トラニオン側又は前記スラスト転がり軸受を構成する前記スラスト外輪側に支持した係止部材と、このスラスト外輪側又は前記各トラニオン側に設けた係止溝との係合により、前記各パワーローラに加わる力を支承し、前記各スラスト外輪が前記各トラニオンに対し、この力の作用方向に変位する事を阻止する様にしている。又、前記各スラスト転がり軸受及び前記各ラジアル転がり軸受に潤滑油を供給する為に、前記各トラニオン内に上流側潤滑油流路を、前記スラスト外輪の中心部に設けた支持軸内に下流側潤滑油流路を、それぞれ設けている。
【0023】
特に、本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、前記各係止部材及び前記各係止溝を、前記各支持軸の中心から前記各支持梁部の軸方向に外れた部分に設けている。そして、前記各上流側潤滑油流路の下流端開口と前記各下流側潤滑油流路の上流端開口との間に前記各係止部材を配置する事なく、これら各下流端開口とこれら各上流端開口とを直接対向させている。
【発明の効果】
【0024】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機によれば、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図り易く、しかも変速動作を安定させる事ができ、且つ、各トラニオンに対して各パワーローラを回転自在に支持する為のスラスト、ラジアル各転がり軸受に、十分量の潤滑油を送り込み易い構造を実現できる。
このうちのコスト低廉化は、前述の図13〜18に示した従来構造の第2例と同様の理由により、図り易い。
又、変速動作の安定化は、前記各トラニオン側又は前記スラスト転がり軸受を構成するスラスト外輪側に支持した係止部材と、これら各スラスト外輪側又は前記各トラニオン側に設けた係止溝との係合により、これら各スラスト外輪がこれら各トラニオンに対し、前記各パワーローラに作用する力の方向に変位する事を阻止する事により図れる。
更に、各転がり軸受に十分量の潤滑油を送り込み易くする事は、各上流側潤滑油流路の下流端開口と各下流側潤滑油流路の上流端開口との間に前記各係止部材を配置する事なく、これら各下流端開口とこれら各上流端開口とを直接対向させる事により図れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、トラニオンと外輪とを取り出した状態で示す断面図。
【図2】トラニオンのみを取り出して、各ディスクの径方向に関して内側から見た状態で示す斜視図。
【図3】支持軸を設けた外輪のみを取り出して、各ディスクの径方向に関して外側から見た状態で示す斜視図(A)と、正投影図(B)と、アンカ溝の形状を異ならせた別例を示す正投影図(C)。
【図4】図1のa部拡大図(A)と、b部拡大図(B)と、c部拡大図(C)。
【図5】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図6】同じく、図2と同様の図。
【図7】本発明の実施の形態の第3例を示す、図2と同様の図。
【図8】同第4例を示す、図2と同様の図。
【図9】同第5例を示す、図2と同様の図。
【図10】同第6例を示す、図2と同様の図。
【図11】従来構造の第1例を示す断面図。
【図12】図11のd−d断面図。
【図13】従来構造の第2例を示す、スラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンを、各ディスクの径方向外側から見た斜視図。
【図14】同じく、ディスクの周方向から見た状態で示す正面図。
【図15】図14の上方から見た平面図。
【図16】図14の右方から見た側面図。
【図17】図15のe−e断面図。
【図18】図14のf−f断面図。
【図19】パワーローラから加わるスラスト荷重に基づいてトラニオンが弾性変形した状態を誇張して示す、図17と同方向から見た断面図。
【図20】従来構造の第3例を示す、図18と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、変速動作を安定させるべく、各トラニオン7bの支持梁部23に対し、スラスト玉軸受13a(図13〜18参照)を構成する外輪16bを、これら各支持梁部23に対する揺動変位を可能に支持しつつ、これら各支持梁部23の軸方向に変位しない様にし、且つ、前記各トラニオン7b側に設けた上流側潤滑油流路29aから前記外輪16bと一体に設けた支持軸12a側に設けた下流側潤滑油流路30aに、効率良く潤滑油を送り込み自在とする為の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図13〜19に示した従来構造の第2例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0027】
本例の構造の場合、前記外輪16bを前記支持梁部23に対し、揺動変位を可能に、且つ、この支持梁部23の軸方向への変位を阻止した状態で支持する為の係止部材であるキー27aと、係止溝であるアンカ溝28aとを、前記外輪16bの中心から前記各支持梁部23の軸方向に外れた部分に設けている。即ち、この外輪16bの外側面に凹部24を、この外輪16bの径方向に形成しているが、前記アンカ溝28aを、この凹部24の長さ方向中央部ではなく、この凹部24の長さ方向一端寄り(図1の左寄り)部分に形成している。又、前記キー27aの片半部を、前記支持梁部23の一部外周面で、前記トラニオン7bと前記外輪16bとを組み合わせた状態で、前記アンカ溝28aに整合する部分に形成した嵌合凹部32に、締り嵌めにより内嵌固定している。この状態で、前記キー27aの他半部が、前記支持梁部23の外周面から突出している。尚、前記アンカ溝28aは、図3の(A)(B)に示す様に、前記凹部28の全幅に亙って形成しても良いし、同図の(C)に示す様に、前記トラニオン7bに対する前記外輪16bの、必要とする揺動変位を可能にする範囲にのみ設けても良い。
【0028】
何れにしても、前記トラニオン7bと前記外輪16bとを組み合わせ、前記アンカ溝28aに前記キー27aの他半部を係合させた状態で、この外輪16bの外周面と前記トラニオン7bの段差面26、26との間には、それぞれ隙間が存在する様に、各部の寸法及び位置関係を規制している。前記支持梁部23の軸方向に関する前記両隙間の厚さ寸法は、前記キー27aの他半部両側面と前記アンカ溝28の両内側面との間に存在する微小隙間よりも大きくして、前記外輪16bの外周面と前記トラニオン7bの段差面26、26とが当接しない様にしている。又、前記両隙間の厚さ寸法は、前記トラニオン7bが、前述の図19に示す様に弾性変形した場合にも消失しないだけの大きさを有する。
【0029】
更に、前記トラニオン7bの内部に設けた上流側潤滑油流路29aの下流端開口が、前記支持梁部23の外周面の長さ方向中央部に開口している。又、前記外輪16bと一体に設けた支持軸12aの中心部に設けた下流側潤滑油流路30aの上流端が、前記外輪16bの外側面に形成した凹部24の底部の長さ方向中央部に開口している。前記上流側潤滑油流路29aの下流端開口と前記下流側潤滑油流路30aの上流端開口との間には、前記キー27等の部材が存在する事はなく、これら下流端開口と上流端開口とは、直接対向している。このうちの上流端開口部分は、部分円すい凹面状の傾斜面として、開口部の面積を十分に確保し、前記トラニオン7bに対する前記外輪16bの、若干の揺動変位に拘らず、前記上流側潤滑油流路29aの下流端開口と前記下流側潤滑油流路30aの上流端開口との対向部の面積が十分に確保される様にしている。この為、本例のトロイダル型無段変速機によれば、前記トラニオン27bに対しパワーローラ6aを回転自在に支持する為のスラスト玉軸受13a及びラジアルニードル軸受25(図17〜18参照)に、十分量の潤滑油を送り込み易くできる。
【0030】
[実施の形態の第2例]
図5〜6は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、トラニオン7bの支持梁部23の一部に形成した嵌合凹部32aに、係止部材である円柱状のピン33の片半部を、締り嵌めにより内嵌固定している。そして、前記支持梁部23の外周面から突出した、前記支持梁部23の他半部を、外輪16bの外側面に形成した凹部24の内周面に形成した、係止溝であるアンカ溝28bに係合させている。尚、このアンカ溝28bの断面形状は、図示の様な矩形に限らず、前記ピン33の他半部とがたつきなく係合する、半円形であっても良い。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0031】
[実施の形態の第3〜6例]
図7〜10は、本発明の実施の形態の第3〜6例を示している。前述した実施の形態の第1例はキー27a(図1、2、4参照)を、上述した実施の形態の第2例はピン33(図5〜6参照)を、それぞれ上流側潤滑油流路29aの下流端開口が向いている側で、支持梁部23に設けた円筒状凸面22の周方向中央部に設置している。但し、前記キー27a及びピン33は、必ずしもこの様な位置に設置する必要はない。例えば、キー27aに関しては、図7に示した実施の形態の第3例の様に、上流側潤滑油流路29aの下流端開口が向いている側で円筒状凸面22の周方向中央部から外れた位置に設置する事もできる。或いは、図8に示した実施の形態の第4例の様に、上流側潤滑油流路29aの下流端開口が向いているのと反対側に設置する事もできる。前記ピン33に関しても、図9〜10に示した実施の形態の第5〜6例の様に、前記キー27aと同様の位置に設置する事もできる。要は、前記キー27a、前記ピン33の何れの部材に関しても、他の部材との干渉防止、トラニオン7bの強度確保等を勘案して、適切な位置に設置する。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、トロイダル型無段変速機単独で実施できる他、特許文献5に記載されている様な、遊星歯車機構と組み合わせた無段変速装置として実施する事もできる。
又、図示の例とは逆に、各スラスト外輪に形成した凹部の内周面に係止部材を設け、各トラニオンの支持梁部の外周面に係止溝を形成する事もできる。
【符号の説明】
【0033】
1 入力回転軸
2 入力ディスク
3 出力筒
4 出力歯車
5 出力ディスク
6、6a パワーローラ
7、7a、7b トラニオン
8、8a、8b 傾転軸
9 支持梁部
10 支持板
11、11a ラジアルニードル軸受
12、12a 支持軸
13、13a スラスト玉軸受
14 スラストニードル軸受
15 内輪軌道
16、16a、16b 外輪
17 外輪軌道
18 玉
19 駆動軸
20 押圧装置
21 アクチュエータ
22 円筒状凸面
23 支持梁部
24 凹部
25 ラジアルニードル軸受
26 段差面
27、27a キー
28、28a、28b アンカ溝
29、29a 上流側潤滑油流路
30、30a 下流側潤滑油流路
31 通孔
32、32a 嵌合凹部
33 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対のディスクと、複数のトラニオンと、これら各トラニオンと同数のパワーローラと、これら各トラニオン毎に設けられた同じく同数ずつのスラスト転がり軸受及びスラスト転がり軸受とを備え、
このうちの各ディスクは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を自在に支持されたものであり、
前記各トラニオンは、それぞれの両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記各ディスクの径方向に関する内側の側面を、前記両傾転軸の中心軸と平行でこの傾転軸の中心軸よりも前記各ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、部分円筒状凸面とした支持梁部とを備えたもので、軸方向に関して前記各ディスクの軸方向側面同士の間位置の周方向に関して複数箇所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けられており、
前記各パワーローラは、前記各トラニオンに、それぞれ前記各スラスト転がり軸受及び前記各ラジアル転がり軸受を介して回転自在に支持され、部分球状凸面としたそれぞれの周面を、前記各ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させており、
前記各スラスト転がり軸受は、前記各トラニオンの支持梁部と前記各パワーローラの外側面との間に設けられたもので、これら各支持梁部側に設けられたスラスト外輪と、これら各スラスト外輪の内側面に設けられたスラスト外輪軌道と前記各パワーローラの外側面に設けられたスラスト内輪軌道との間に転動自在に、それぞれ複数個ずつ設けられたスラスト転動体とを備えたものであり、
前記各スラスト外輪は、それぞれの外側面に設けられた凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面とを係合させる事により、前記各トラニオンに対し、前記各ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されており、
前記各トラニオンの一部で前記各支持梁部を軸方向両端から挟む位置に設けられた、これら各トラニオン毎に1対ずつの段差面同士の間隔は、前記各スラスト外輪の、前記各支持梁部の軸方向に関する直径よりも大きく、
前記各支持梁部の外周面と前記各外輪の凹部の内周面とのうちの一方の周面の一部で同じく他方の周面と対向する部分に、これら各一方の周面から突出する状態で、且つ、前記各支持梁部の軸方向の変位を阻止された状態で支持された係止部材と、前記各他方の周面に、これら各他方の周面の周方向に形成された係止溝とを係合させる事により、前記各支持梁部に対する前記各スラスト外輪の軸方向変位を阻止しており、
前記各ラジアル転がり軸受は、前記各スラスト外輪の内側面の中心部にこれら各スラスト外輪と同心に設けられた支持軸の外周面に設けられたラジアル内輪軌道と前記各パワーローラの中心孔の内周面に設けられたラジアル外輪軌道との間にそれぞれ複数個ずつのラジアル転動体を、転動自在に設けたものであり、
前記各スラスト転がり軸受及び前記各ラジアル転がり軸受に潤滑油を供給する為に、前記各トラニオン側に上流側潤滑油流路を、それぞれの下流側端部を前記各支持梁部の軸方向中央部で前記各スラスト外輪の凹部の内周面に対向する部分に開口する状態で、前記各支持軸の中心部に下流側潤滑油流路を、それぞれの上流端を前記各スラスト外輪の凹部の内周面に、それぞれの下流端を前記各支持軸の外周面に開口する状態で、それぞれ設けると共に、前記各上流側潤滑油流路の下流端開口と前記各下流側潤滑油流路の上流端開口との間で潤滑油の受け渡しを可能としたトロイダル型無段変速機に於いて、
前記各係止部材及び前記各係止溝を、前記各支持軸の中心から前記各支持梁部の軸方向に外れた部分に設ける事により、前記各上流側潤滑油流路の下流端開口と前記各下流側潤滑油流路の上流端開口との間に前記各係止部材を配置する事なく、これら各下流端開口とこれら各上流端開口とを直接対向させた事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記各一方の周面が前記各支持梁部の外周面であり、前記各他方の周面が前記各凹部の内周面である、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−2609(P2013−2609A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137178(P2011−137178)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】