説明

トロイダル型無段変速機

【課題】外輪8aの凹部9aとトラニオン1aの支持梁部5aの円筒状凸面4aとの当接面に、潤滑油による油膜を形成し易い様にして、これら凹部5aと円筒状凸面4aとの揺動(摺接)を円滑に行える構造を実現する。
【解決手段】外輪8aの凹部9aとトラニオン1aの支持梁部5aの円筒状凸面4aに、ディンプル加工と微細溝加工とのうち少なくとも一方の加工を施す事により多数の微小凹部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両(自動車)用の自動変速機、建設機械(建機)用の自動変速機、航空機(固定翼機、回転翼機、飛行船等)等で使用されるジェネレータ(発電機)用の自動変速機、ポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節する為の自動変速機として利用する、ハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速装置としてハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機を使用する事が、特許文献1〜4等の多くの刊行物に記載されると共に一部で実施されていて周知である。又、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて変速比の調整幅を広くする構造も、特許文献5〜6等、やはり多くの刊行物に記載されて、従来から広く知られている。これら各特許文献に記載されているトロイダル型無段変速機は、何れも入力ディスクと出力ディスクとの間に、それぞれの周面を部分球面状の凸面とした複数個のパワーローラを狭持している。これら各パワーローラは、それぞれトラニオンに回転自在に支持されており、これら各トラニオンは、それぞれ前記各ディスクの中心軸に対し捩れの位置に存在する傾転軸を中心とする揺動変位自在に支持されている。
【0003】
上述の様に構成されるトロイダル無段変速機の入力回転軸と出力歯車との間の変速比を変える場合には、前記各トラニオンを前記各傾転軸の軸方向に変位させて、前記各パワーローラの周面と前記各ディスクの軸方向側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きを変化させ(転がり接触部にサイドスリップを発生させ)、これら両面の接触位置を変化させる。前記特許文献5〜6に記載の構造の場合、前記各パワーローラを前記各ディスクの軸方向に変化させる為の構造が複雑で、部品製作、部品管理、組立作業が何れも面倒になり、コストが嵩む事が避けられない。
この様な問題を解決する為の技術として前記特許文献3には、図5〜10に示す様な構造が記載されている。本発明は、これら図5〜10に示した従来構造の1例を一部改良し、一部利用するものであるから、次に、この従来構造の1例に就いて説明する。この従来構造の1例の特徴は、トラニオン1に対してパワーローラ2を、入力、出力各ディスクの軸方向の変位を可能に支持する部分の構造にあり、トロイダル型無段変速機全体としての構造及び作用は、前記特許文献5〜6に記載の構造と同様である。
【0004】
前記従来構造の1例を構成するトラニオン1は、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸3a、3bと、これら両傾転軸3a、3b同士の間に存在し、少なくとも入力、出力各ディスクの径方向(図6、9〜10の上下方向)に関する内側(図6、9〜10の上側)の側面を円筒状凸面4とした、支持梁部5とを備える。前記両傾転軸3a、3bは、それぞれラジアルニードル軸受6、6を介して、トロイダル型無段変速機のケーシングに固定された支持板に、揺動を可能に支持する。
【0005】
又、前記円筒状凸面4の中心軸イは、図6、10に示す様に、前記両傾転軸3a、3bの中心軸ロと平行で、これら両傾転軸3a、3bの中心軸ロよりも、前記各ディスクの径方向に関して外側(図6、9〜10の下側)に存在する。又、前記支持梁部5とパワーローラ2の外側面との間に設けるスラスト玉軸受7を構成する外輪8の外側面に、部分円筒面状の凹部9を、この外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、この凹部9と、前記支持梁部5の円筒状凸面4とを係合させ、前記トラニオン1に対して前記外輪8を、前記各ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
又、前記外輪8の内側面中央部に支持軸10を、この外輪8と一体に固設して、前記パワーローラ2をこの支持軸10の周囲に、ラジアルニードル軸受11を介して、回転自在に支持している。
【0006】
上述の様に構成する従来構造の1例のトロイダル型無段変速機によれば、前記パワーローラ2を前記各ディスクの軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、前記パワーローラ2の周面と前記各ディスクとの接触状態を適正に維持できる構造を、簡単で低コストに構成できる。
即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、入力、出力各ディスク、各パワーローラ2等の弾性変形に基づき、これら各パワーローラ2をこれら各ディスクの軸方向に変位させる必要が生じると、これら各パワーローラ2を回転自在に支持している前記スラスト玉軸受7の外輪8が、外側面に設けた部分円筒面状の凹部9と支持梁部5の円筒状凸面4との当接面を滑らせつつ、この円筒状凸面4の中心軸イを中心として揺動変位する。この揺動変位に基づき、前記各パワーローラ2の周面のうちで、前記各ディスクの軸方向片側面と転がり接触する部分が、これら各ディスクの軸方向に変位し、前記接触状態を適正に維持する。
【0007】
前述した通り、前記円筒状凸面4の中心軸イは、変速動作の際に各トラニオン1の揺動中心となる傾転軸3a、3bの中心軸ロよりも、前記各ディスクの径方向に関して外側に存在する。従って、前記円筒状凸面4の中心軸イを中心とする揺動変位の半径は、前記変速動作の際の揺動半径よりも大きく、前記入力ディスクと前記出力ディスクとの間の変速比の変動に及ぼす影響は少ない(無視できるか、容易に修正できる範囲に留まる)。
【0008】
上述の従来構造の1例の場合、給油パイプ12を通じて支持梁部側給油路13に導入された潤滑油が、支持軸側給油路14を介してスラスト玉軸受7及びラジアルニードル軸受11に供給される。この時、前記潤滑油の一部が前記外輪8の凹部9と前記支持梁部5の円筒状凸面4との当接面に送り込まれ、これら両面に油膜を形成される。この油膜によって、この当接面の潤滑が図られる。
【0009】
ところで、入力、出力各ディスク、各パワーローラ2等の弾性変形に基づいて発生する、前記円筒状凸面4に対する前記外輪8の凹部9の揺動変位は僅かであり、変位速度も小さい。又、押圧装置が前記入力ディスクを前記出力ディスクに向けて押圧する時に、前記各パワーローラ2が前記各トラニオン1に向けて押し付けられ、前記凹部9と前記円筒状凸面4との当接面の面圧が大きくなる。この結果、これら凹部9と円筒状凸面4との当接面に油膜が形成されにくくなる為、この当接面で揺動(摺接)を円滑に行えなくなる可能性がある他、微小摩耗、微小剥離(ピーリング)等の損傷を発生する可能性がある。
上述の様な課題を解決する方法として、前記凹部9と前記円筒状凸面4との当接面に低摩擦材を皮膜処理或いは塗布する等によって、この当接面の摩擦抵抗を小さくする事が考えられる。しかし、この様な低摩擦材の皮膜処理或いは塗布による加工は、長期間の使用により効果が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−214516号公報
【特許文献2】特開2007−315595号公報
【特許文献3】特開2008−25821号公報
【特許文献4】特開2008−275088号公報
【特許文献5】特開2004−169719号公報
【特許文献6】特開2009−30749号公報
【特許文献7】特開2006−283800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、外輪の凹部とトラニオンの支持梁部の円筒状凸面との両面に、潤滑油による油膜を形成し易い様にして、これら凹部と円筒状凸面との揺動(摺接)を円滑に行える構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のトロイダル型無段変速機は、前述した従来のトロイダル型無段変速機と同様に、少なくとも1対のディスクと、複数のトラニオンと、これら各トラニオンと同数のパワーローラと、同じく同数のスラスト転がり軸受とを備える。
又、これら各スラスト転がり軸受を構成する外輪は、それぞれの外側面に設けられた凹部と、前記各トラニオンの支持梁部の円筒状凸面とを、潤滑油の油膜を介して係合させる事により、これら各トラニオンに対し、前記各ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
又、前記各ディスク同士の間の変速比の調節は、前記各トラニオン毎に設けられたアクチュエータによりこれら各トラニオンを各傾転軸の軸方向に変位させて、これら各トラニオンを、これら各傾転軸を中心として揺動変位させる事により行わせる。
【0013】
特に、本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、前記各外輪の凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面とのうちの少なくとも一方の一部に、前記潤滑油の油膜を保持する為に多数の微小凹部を形成している。
これら各微小凹部の深さ寸法は、好ましくは、自動車用自動変速機として一般的に使用されるトロイダル型無段変速機の場合で、0.5〜4μmの範囲とし、更に好ましくは2〜3μmの範囲に規制する。前記深さ寸法が0.5μmよりも小さい場合には、前記潤滑油の油膜を十分に保持する事が出来ない。一方、前記深さ寸法が4μmより大きくしてもそれ以上の効果は期待できない。即ち、前記各微小凹部の底部に溜まった前記潤滑油の一部は、油膜形成時にこれら各底部に留まり、前記各外輪の凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面とには供給されない。又、4μmを越えて大きくすると、前記各微小凹部の開口面積の総和が過大になり、それに伴って、前記凹部と前記円筒状凸面との当接面積(受圧面積)が狭くなり過ぎて、当接部の摩耗抑制の面からも不利になる。尚、前記各微小凹部の密度(ピッチ、間隔)は、前記各外輪の凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面との間に形成すべき油膜の性状(厚さ等)を考慮して適切に規制する。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機によれば、各外輪の凹部と各支持梁部の円筒状凸面とのうち少なくとも一方の一部に形成された、多数の微小凹部により潤滑油の油膜を保持し易い構造を実現できる。即ち、前記両面で潤滑油が不足した場合に、前記各微小凹部より潤滑油が供給され、各外輪の凹部と各支持梁部の円筒状凸面との当接部に油膜を形成して、この当接部の摩擦抵抗を小さくできる。この結果、前記各外輪の凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面との当接面で揺動(摺接)を円滑に行って、微小摩耗、微小剥離(ピーリング)等の損傷の発生を防止でき、前記各外輪とトラニオンとの耐久性を確保できる。この様な各微小凹部による潤滑油の油膜保持の効果は、長期間の使用によっても低減する事はない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、スラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンを各ディスクの径方向内側から見た状態で示す斜視図。
【図2】組み合わせる以前の状態で示す、外輪(A)と、トラニオン(B)とを示す斜視図。
【図3】外輪の別の実施の形態の5例を示す斜視図。
【図4】トラニオンの別の実施の形態の3例を示す斜視図。
【図5】従来構造の1例を示す、スラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンを、各ディスクの径方向外側から見た斜視図。
【図6】同じく、ディスクの周方向から見た状態で示す正面図。
【図7】図6の上方から見た平面図。
【図8】図6の右方から見た側面図。
【図9】図7のa−a断面図。
【図10】図6のb−b断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜2は、全請求項に対応する、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本発明の特徴は、外輪の凹部とトラニオンの支持梁部の円筒状凸面とに、潤滑油による油膜を形成し易い様にして、これら凹部と円筒状凸面との揺動(摺接)を円滑に行える構造を実現する点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図5〜10に示した構造を含め、従来から知られているトロイダル無段変速機と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0017】
本例の場合、各パワーローラ2を回転自在に支持しているスラスト軸受7の外輪8aの外側面に設けた部分円筒面状の凹部9aの全体{図2の(A)の斜線部分}に、ディンプル加工と微細溝加工とのうち少なくとも一方の加工を施す事により、多数の微小凹部を設けている。同様に、トラニオン1aを構成する支持梁部5aの内側面に形成された円筒状凸面4aの全体{図2の(B)の斜線部分}にも、ディンプル加工と微細溝加工とのうち少なくとも一方の加工を施す事により、多数の微小凹部を設けている。
そして、前記外輪8aの凹部9aと、前記支持梁部5aの円筒状凸面4aとを係合させ、前記トラニオン1aに対して前記外輪8aを、入力、出力各ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
【0018】
上述の様に構成する本例の場合、給油パイプ12(図5〜6、8〜9参照)を通じて支持梁部側給油路13に導入された潤滑油の一部が、前記外輪8aの凹部9aと前記支持梁部5aの円筒状凸面4aとの間の隙間に送り込まれ、これら両面同士の間に、十分に強固な油膜が形成される。この時、これら凹部9aと円筒状凸面4aとに設けられた多数の微小凹部内に前記潤滑油の一部が保持される。この結果、前述した従来構造の1例と比較して、前記凹部9aと前記円筒状凸面4aとの両面に於いて潤滑油が不足した場合にも、前記各微小凹部から潤滑油が供給されて、前記両面同士の間に油膜が形成される。この為、前記凹部9aと前記円筒状凸面4aとの揺動(摺接)を円滑に行う事ができ、微小摩耗、微小剥離(ピーリング)等の損傷の発生を防止でき、前記外輪8a及び前記トラニオン1aの耐久性を確保できる。
更に、前記外輪8aの凹部9aと前記支持梁部5aの円筒状凸面4aとの揺動(摺接)を円滑に行う事ができる為、押圧装置により入力ディスクを出力ディスクに向けて軸方向に押圧する力を小さくできる。この為、押圧装置の油圧室内に送り込む油圧を低くして、ポンプ損失の低減を図る等により、トロイダル無段変速機全体としての効率を向上できる。
【0019】
[潤滑油保持の為の構造に就いて]
外輪の凹部と支持梁部の円筒状凸面との揺動(摺接)を円滑に行って、当該部分の微小摩耗、微小剥離(ピーリング)等の損傷の発生を防止する為には、特にこの損傷の発生し易い部分に潤滑油を保持する必要がある。この様な観点で考えた、潤滑油保持の為の構造の5例に就いて、図3により説明する。
【0020】
図3の(A)〜(E)に示した、全ての請求項に対応する構造は、何れも、外輪8aの凹部9b〜9fの一部に、ディンプル加工と微細溝加工とのうち少なくとも一方の加工を施す事により、多数の微小凹部を設けている。
このうちの図3の(A)に示した構造の場合には、凹部9bのうち、実際に支持梁部5の円筒状凸面4(図5〜7、9〜10参照)と摺接(揺動)する部分{図3の(A)の斜線部分}に、多数の微小凹部を設けている。
【0021】
又、図3の(B)に示した構造の場合には、凹部9cのうち、外輪8aが、パワーローラ2が押圧装置の発生する押圧力に基づいて弾性変形するのに伴い、図3の(B)中に矢印で示した方向に弾性変形する事によって、前記円筒状凸面4(図5〜7、9〜10参照)との面圧が高くなる部分{図3の(B)の斜線部分}に、多数の微小凹部を設けている。
又、図3の(C)に示した構造の場合には、凹部9dのうち、上述した様に、外輪8aが弾性変形するのに伴って前記円筒状凸面4との面圧が高くなる部分のうち、特に面圧が高くなる部分{図3の(C)の斜線部分}に、多数の微小凹部を設けている。
又、図3の(D)に示した構造の場合には、凹部9eの全体に、多数の微小凹部を設けている。更に、上述した様に、外輪8aが弾性変形するのに伴って、前記円筒状凸面4との面圧が高くなる部分{図3の(D)の斜格子部分}の微小凹部の数を、他の部分{図3の(D)の斜線部分}よりも多くしている。
【0022】
又、図3の(E)に示した構造の場合には、凹部9fのうち、トラニオン1の支持梁部5(図5〜7、9〜10参照)に加わるスラスト荷重により、このトラニオン1が外輪8aを設置した側が凹となる方向に弾性変形するのに伴って、円筒状凸面4(図5〜7、9〜10参照)との面圧が高くなる部分{図3の(E)の斜線部分}に、多数の微小凹部を設けている。
【0023】
それぞれが上述の様に構成する、図3に示した(A)〜(E)の5例の場合には、前記外輪8aの凹部9b〜9fと、前記トラニオン1の支持梁部5を構成する円筒状凸面4(図5〜7、9〜10参照)との揺動(摺接)を円滑に行う事ができる。即ち、前記凹部9b〜9fの一部に形成された微小凹部に保持された潤滑油は、図3の(A)に示した第1例の構造の場合には、伝達トルクが特に大きくならない通常運転時に、実際に外輪8aの凹部9bと前記支持梁部5の円筒状凸面4とが接触する部分に、(B)〜(D)に示した第2〜4例の構造の場合には、特に伝達トルクが大きくなって、パワーローラ2が押圧装置の発生する押圧力に伴う弾性変形により、外輪8aが弾性変形する事によって、特に面圧が高くなる部分に、(E)に示した第5例の構造の場合には、前記トラニオン1の支持梁部5に加わるスラスト荷重により、このトラニオン1が外輪8aを設置した側が凹となる方向に弾性変形するのに伴って、特に面圧が高くなる部分に、主に供給される。
【0024】
[潤滑油保持の為の別構造について]
外輪の凹部と支持梁部の円筒状凸面との両面のうち、特に損傷の発生し易い部分に、潤滑油を保持する為の別の構造の3例に就いて、図4により説明する。
図4の(A)〜(C)に示した、全ての請求項に対応する構造は、トラニオン1aの支持梁部5aの円筒状凸面4b〜4dの一部に、ディンプル加工と微細溝加工とのうち少なくとも一方の加工を施す事により、多数の微小凹部を設けている。
このうちの図4の(A)に示した構造の場合には、円筒状凸面4bのうち、トラニオン1aの支持梁部5aに加わるスラスト荷重により、このトラニオン1aが同図に矢印で示す様に、外輪8(図5〜10参照)を設置した側が凹となる方向に弾性変形するのに伴って、この外輪8の凹部9との面圧が高くなる部分{図4の(A)の斜線部分}に、多数の微小凹部を設けている。
又、図4の(B)に示した構造の場合には、円筒状凸面4cの全体に、多数の微小凹部を設けている。更に、上述した様に、トラニオン1aが弾性変形するのに伴って、外輪8の凹部9(図5、9〜10参照)との面圧が高くなる部分{図4の(B)の斜格子部分}の微小凹部の数を、他の部分{図4の(B)の斜線部分}よりも多くしている。
又、図4の(C)に示した構造の場合には、円筒状凸面4dのうち、外輪8がパワーローラ2が押圧装置の発生する押圧力に基づいて、前述の図3の(B)に矢印で示す方向に弾性変形するのに伴って弾性変形する事により、円筒状凸面4dとの面圧が高くなる部分{図4の(C)の斜線部分}に、多数の微小凹部を設けている。
【0025】
それぞれが上述の様に構成する、図4に示した3例の場合には、以下の様にして、外輪8の凹部9(図5、9〜10参照)と、前記トラニオン1の支持梁部5aを構成する円筒状凸面4b〜4dとの揺動(摺接)を円滑に行う。
即ち、前記円筒状凸面4b〜4dの一部に形成された微小凹部に保持された潤滑油は、図4の(A)(B)に示した構造の場合には、トラニオン1aの支持梁部5aに加わるスラスト荷重により、このトラニオン1aが外輪8を設置した側が凹となる方向に弾性変形するのに伴って面圧が高くなる部分に、(C)に示した構造の場合には、パワーローラ2が押圧装置の発生する押圧力に伴う弾性変形により、外輪8が弾性変形する事によって、面圧が高くなる部分に、主に供給され、当該部分に油膜を形成する。
【符号の説明】
【0026】
1、1a トラニオン
2 パワーローラ
3a、3b 傾転軸
4、4a〜4d 円筒状凸面
5、5a 支持梁部
6 ラジアルニードル軸受
7 スラスト玉軸受
8、8a 外輪
9、9a〜9f 凹部
10 支持軸
11 ラジアルニードル軸受
12 給油パイプ
13 支持梁部側給油路
14 支持軸側給油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対のディスクと、複数のトラニオンと、これら各トラニオンと同数のパワーローラと、同じく同数のスラスト転がり軸受とを備え、
このうちの各ディスクは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を自在に支持されたものであり、
前記各トラニオンは、それぞれの両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記各ディスクの径方向に関する内側の側面を、前記両傾転軸の中心軸と平行でこの傾転軸の中心軸よりも前記各ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凸面とした支持梁部とを備えたもので、軸方向に関して前記各ディスクの軸方向側面同士の間位置の周方向に関して複数箇所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けられており、
前記各パワーローラは、前記各トラニオンの内側面に、それぞれスラスト転がり軸受を介して回転自在に支持され、部分球状凸面としたそれぞれの周面を、前記各ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させており、
前記各スラスト転がり軸受は、前記各トラニオンの支持梁部と前記各パワーローラの外側面との間に設けられたもので、これら各支持梁部側に設けられた外輪と、これら各外輪の内側面に設けられた外輪軌道と前記各パワーローラの外側面に設けられた内輪軌道との間に転動自在に、それぞれ複数個ずつ設けられた転動体とを備えたものであり、
前記各スラスト転がり軸受の外輪は、これら各外輪の外側面に設けられた凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面とを、潤滑油の油膜を介して係合させる事により、これら各トラニオンに対し、前記各ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されており、
前記各ディスク同士の間の変速比の調節は、前記各トラニオン毎に設けられたアクチュエータによりこれら各トラニオンを前記各傾転軸の軸方向に変位させて、これら各トラニオンをこれら各傾転軸を中心として揺動変位させる事により行わせるものであるトロイダル型無段変速機に於いて、
前記各外輪に設けられた凹部と前記各支持梁部の円筒状凸面とのうち少なくとも一方の表面の一部に、前記潤滑油の油膜を保持する為の多数の微小凹部を形成している事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
ディンプル加工と微細溝加工とのうち少なくとも一方の加工を、各外輪に設けられた凹部と各支持梁部の円筒状凸面とのうち少なくとも一方の表面の一部に施す事により、多数の微小凹部を形成している事を特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−2611(P2013−2611A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137247(P2011−137247)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】