説明

トロイダル巻線モータ及びそれを用いたエレベータ用巻上機

【課題】ラジアル方向とアキシャル方向に磁石対向面を有する永久磁石型のトロイダル巻線モータにおいて、トルクリップルを小さくできるトロイダル巻線モータを得る。
【解決手段】回転子3と、回転子のラジアル方向に設けられた第1の永久磁石8aと、回転子のアキシャル方向に設けられた第2の永久磁石8bと、回転子に設けられた第1の永久磁石に対向して配置され、コイル7が巻線されてラジアル方向に磁束を形成する第1の固定子6aと、第1の固定子に取り付け可能に構成され、回転子に設けられた第2の永久磁石に対向して配置され、アキシャル方向に磁束を形成する第2の固定子6bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラジアル方向とアキシャル方向に磁石対向面を有する永久磁石型のトロイダル巻線モータ及びそれを用いたエレベータ用巻上機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、回転子に永久磁石を備え、コイルが巻回される固定子の外側に回転子が配置される外転型の永久磁石モータにおいて、回転子は、一端が開放され他端が閉面で形成され、該閉面の中心部から伸びる回転子軸を備える円筒状体から構成され、永久磁石は、円筒状体の閉面内面に設けられる環状の永久磁石と、円筒状体の筒部内面に設けられる筒状の永久磁石とから構成されたエレベータ用巻上機に組み込むのに好適な永久磁石モータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−257734号公報(図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の永久磁石モータは、磁石対向面が固定子外側のラジアル方向を向いている部分と、磁石対向面がアキシャル方向を向いている部分を有するトロイダル巻線の固定子構造であり、また固定子はアキシャル方向のみに電磁鋼板を積層する一体構造で形成されている。そして、固定子のティース先端間の距離(スロット開き幅)は、巻線部の空間の幅とほぼ同様で広くなっている。
一般的に、従来のようにティース先端間の距離(スロット開き幅)が広いと、回転子が回転するとき、磁束の流れがスムーズでなく、トルクリップルが大きくなる可能性が大きい。そのため、永久磁石モータをエレベータ用巻上機に用いると、エレベータの乗り心地が悪くなり、乗客に不快感を与えることになる。コイル巻線の空間も有しかつラジアル方向にもアキシャル方向にもスロット開き幅を小さくするには、ティースの形状が一様とならず(特許文献1の図2参照)、スロット開き幅をコイル巻線の空間よりも狭い形状にする必要がある。従来のアキシャル方向に電磁鋼板を積層する一体構造で形成されたものでは、アキシャル方向の固定子を構成するのに、多種形状の鋼板を積層する必要があり、その分、鋼板の抜き型が必要となり現実的でない。すなわち、抜き型は高価なもので、不経済であるとともに長時間使用において型の形状管理などのコストが嵩むという問題がある。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、ラジアル方向とアキシャル方向に磁石対向面を有する永久磁石型のトロイダル巻線モータにおいて、トルクリップルを小さくできるようにしたトロイダル巻線モータ及びそれを用いたエレベータ用巻上機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るトロイダル巻線モータにおいては、回転子と、回転子のラジアル方向に設けられた第1の永久磁石と、回転子のアキシャル方向に設けられた第2の永久磁石と、回転子に設けられた第1の永久磁石に対向して配置され、コイルが巻線されてラジアル方向に磁束を形成する第1の固定子と、第1の固定子に取り付け可能に構成され、回転子に設けられた第2の永久磁石に対向して配置され、アキシャル方向に磁束を形成する第2の固定子とを備えたものである。
【0007】
また、上記のように構成されたトロイダル巻線モータを用いたエレベータ用巻上機である。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、ラジアル方向とアキシャル方向に磁石対向面を有する永久磁石型のトロイダル巻線モータにおいて、トルクリップルを小さくできるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータを用いたエレベータ用巻上機を示す縦断面図、図2はこの発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータを用いたエレベータ用巻上機を示す横断面図、図3はこの発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる第2の固定子の電磁鋼板片を示す平面図、図4はこの発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる電磁鋼板片を積層して構成した第2の固定子を示す斜視図、図5はこの発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる第1の固定子の2種類の電磁鋼板片を示す部分平面図、図6はこの発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる電磁鋼板片を積層して構成した第1の固定子を示す部分斜視図、図7は図6の矢印A方向から見た平面図、図8はこの発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる固定子全体の構造を示す部分斜視図である。
【0010】
図において、1は片側の一側面が開口された椀状をなし、他側の閉塞された他側壁面の中央部より横方向に軸2が立設されたエレベータ用巻上機の基体である。3は軸2に軸受4を介して回転自在に取り付けられた回転子で、この回転子3には駆動綱車5が一体的に設けられている。上記基体1の内周面には固定子6が設けられている。この固定子6は、基体1の内周面に取り付けられたラジアル方向に磁束を形成する第1の固定子6aと、この第1の固定子6aに直交するように取り付けられたアキシャル方向に磁束を形成する第2の固定子6bから構成されている。上記第1の固定子6aにはコイル7が巻線されている。上記回転体3の外周面には、第1の固定子6aのラジアル方向に対向した第1の永久磁石8aが設けられている。また、回転体3の反駆動綱車5側端部には、外方向に延長したリング状回転部3aが設けられ、このリング状回転部3aの第2の固定子6bのアキシャル方向に対向した面に第2の永久磁石8bが設けられている。この第2の永久磁石8bは、リング磁石で構成されており、図示しないが、N極及びS極が交互に配置されている。上記第1の固定子6a及び第2の固定子6bと、第1の永久磁石8a及び第2の永久磁石8bとで、電動機を構成している。この電動機を駆動することにより、回転体3及び駆動綱車5が回転する。また、上記基体1の片側の開口縁部にはカバー9取り付けられている。なお、図中、10は回転体3の内側に設けられたブレーキ装置である。
【0011】
第1の固定子6aは、図2に示すように、コイル7が巻線された橋架状の巻線施行部61aと、磁石対向面側である内側に巻線施行部61aの空間幅に対して小さいスロット開き幅G1を形成し、磁石対向面がラジアル方向に向いているラジアル方向歯部62aと、このラジアル方向歯部62aと反対側の反磁石対向面に形成され、基体1の内周面への取付面となる取付部63aとを有している。巻線施行部61aは、固定子6の基体1との嵌め合わせ面より内側に形成している。巻線施行部61aが固定子6の基体1との嵌め合わせ面より内側に配置することにより、固定子6を基体1に嵌め合わせて固定できるので、固定部品点数の削減や製造工程の簡素化が実現できる。第1の固定子6aの磁石対向面が内側に形成されて、その面に対向して第1の永久磁石8aを回転子3の外周面に備えている。これにより、回転子3の内部にブレーキを装着することが可能なため、巻上機の小型化とブレーキメンテナンス性の向上の両立が実現できる。また、第1の固定子6aは、基体1への取付部63aが、図5(a)に示すように幅の狭い溝64を形成した電磁鋼板14のブロックと、図5(b)に示すように幅の広い溝65を形成した電磁鋼板15のブロックを積層することにより、図7に示すように、平面から見て溝が凸状の溝66となるように積層されている。
【0012】
一方、第2の固定子6bは、図4、図8に示すように、第1の固定子6aのコイル7が実装される空間の幅より小さいスロット開き幅G2を磁石対向面側に形成し、磁石対向面側がアキシャル方向に向いているアキシャル方向歯部62bを形成している。このアキシャル方向歯部62bと反対側の反磁石対向面を、第2の固定子6bの第1の固定子6aの凸状の溝66への取付部63bとしている。第2の固定子6bは、図3に示す形状の電磁鋼板片を図4に示すように積層している。図に示すように、第2の固定子6bの取付部63bは、あり溝部を形成している。このあり溝部63bを第1の固定子6aの取付部63aの凸状の溝66に嵌め合わせることにより、図8に示すように、第2の固定子6bを第1の固定子6aに直交方向に取り付けて、固定子6を構成する。
【0013】
また、コイル7は、第2の固定子6bを第1の固定子6aに取り付ける前に、第1の固定子6aの巻線施行部61aに巻線される。そして、その後に第2の固定子6bを取り付ける。もし、第2の固定子6bを取り付けた後にコイル7を巻線すると、第2の固定子6bが邪魔となって作業がしにくいが、この実施の形態1のように、第2の固定子6bを分割し、第2の固定子6bを取り付けない状態でコイル7の巻線ができるので、作業性が向上できる。
【0014】
なお、上記実施の形態1では、第1の固定子6aの磁石対向面を内側に配置したインナーロータの構成としたが、外側に配置してその面に対向して永久磁石を回転体に備えたアウターロータでも構成が可能である。しかしながら、この場合は、ブレーキ装置を内部に実装することはできない。また、永久磁石8bは、リング磁石で構成したが、これに限らず、N極、S極の各々個別に構成したものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータを用いたエレベータ用巻上機を示す縦断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータを用いたエレベータ用巻上機を示す横断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる第2の固定子の電磁鋼板片を示す平面図である。
【図4】この発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる電磁鋼板片を積層して構成した第2の固定子を示す斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる第1の固定子の2種類の電磁鋼板片を示す部分平面図である。
【図6】この発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる電磁鋼板片を積層して構成した第1の固定子を示す部分斜視図である。
【図7】図6の矢印A方向から見た平面図である。
【図8】この発明の実施の形態1におけるトロイダル巻線モータに用いられる固定子全体の構造を示す部分斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
1 基体
2 軸
3 回転子
3a リング状回転部
4 軸受
5 駆動綱車
6 固定子
6a 第1の固定子
61a 巻線施行部
62a ラジアル方向歯部
63a 取付部
64 狭い溝
65 広い溝
66 凸状の溝
6b 第2の固定子
62a アキシャル方向歯部
63a 取付部(あり溝)
7 コイル
8a 第1の永久磁石
8b 第2の永久磁石
9 カバー
10 ブレーキ装置
14、15 電磁鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、
前記回転子のラジアル方向に設けられた第1の永久磁石と、
前記回転子のアキシャル方向に設けられた第2の永久磁石と、
前記回転子に設けられた前記第1の永久磁石に対向して配置され、コイルが巻線されてラジアル方向に磁束を形成する第1の固定子と、
前記第1の固定子に取り付け可能に構成され、前記回転子に設けられた前記第2の永久磁石に対向して配置され、アキシャル方向に磁束を形成する第2の固定子と、
を備えたことを特徴とするトロイダル巻線モータ。
【請求項2】
第1の固定子は、コイルが巻線された巻線施行部と、磁石対向面がラジアル方向に向いているラジアル方向歯部を有することを特徴とする請求項1記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項3】
第1の固定子の磁石対向面が内側に形成されて、その面に対向して第1の永久磁石が回転子のラジアル方向に設けられたことを特徴とする請求項1記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項4】
回転子と、
前記回転子のラジアル方向に設けられた第1の永久磁石と、
前記回転子のアキシャル方向に設けられた第2の永久磁石と、
前記回転子に設けられた前記第1の永久磁石に対向する磁石対向面が内側に形成配置され、コイルが巻線された巻線施行部を有し、ラジアル方向に磁束を形成する第1の固定子と、
前記第1の固定子に取り付け可能に構成され、前記回転子に設けられた前記第2の永久磁石に対向して配置され、アキシャル方向に磁束を形成する第2の固定子と、
前記第1の固定子に前記第2の固定子が組み合わされた固定子を内側に嵌め合わされ、前記巻線施行部を前記固定子との嵌め合わせ面より内側に配置した基体と、
を備えたことを特徴とするトロイダル巻線モータ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のトロイダル巻線モータを用いたことを特徴とするエレベータ用巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−178189(P2008−178189A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7892(P2007−7892)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】