説明

トンネル拡幅工法及びトンネル拡幅装置

【課題】 拡幅機を簡素な構造にできるとともに、拡幅の施工作業性が良く、工期の短縮及び工費の節減が図れ、しかも大断面の拡幅が可能で、躯体構造の自由度及び安定性が高く、セグメントの軽構造化も図れるようにする。
【解決手段】 拡幅機3をその側面の張り出し・回転用カッタ4・5により地山を掘削して、シールド掘進機1の胴部2から張り出して反転させた後、その前面の掘進用カッタ6により拡幅部の外周をシールド掘進機の掘進と同時にスリット状に掘削し、そこにプレライニングを施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネル工法において、非常駐車帯などの部分的な拡幅箇所を施工するトンネル拡幅工法及びトンネル拡幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1(特開2005−60989号公報)、特許文献2(特開2004−316407号公報)、特許文献3(特開2004−270226号公報)、特許文献4(特開2002−70484号公報)にそれぞれ次のような技術が開示されている。
【0003】
<特許文献1>
シールド掘進機のスキンプレートの側方部に側壁カッタヘッドを配し、側壁カッタヘッドをシールド掘進機の掘進方向とは略直角方向に往復動可能に配置する。側壁カッタヘッドを通常はスキンプレート内に収納し、側壁カッタヘッドが拡幅開始位置に到達したときには、シールド掘削機の掘進を停止して、側壁カッタヘッドをスキンプレートから突出させて側壁部に穴を掘削する。穴の掘削終了後は、シールド掘削機を所定量掘進させて掘進を停止させ、再び同位置において穴の掘削を行う。これを繰り返すことで拡幅溝の掘削を行う。
【0004】
<特許文献2>
メイントンネルのための通常のセグメントを組み立てるメインセグメント組立装置を備えたメインシールドと、断面三日月形状の筒体である拡幅セグメントを組み立てる拡幅部材組立装置を備えた拡幅シールドとを備え、拡幅シールドは、メインシールドの径方向内側に位置する非作動位置と、一部がメインシールドよりも径方向外側に位置する作動位置との間を移動できるように、メインシールドに対して径方向に往復移動可能に設けられている。拡幅シールドの前面には、拡幅カッタが装着され、拡幅シールドをメインシールドの径方向外側に突出させた状態で拡幅カッタにて拡幅部を掘削する。
また、特許文献2には、拡幅カッタを球状の揺動体にてメインシールドに対し揺動可能とした例も開示されている。
【0005】
<特許文献3>
シールド掘削機の外殻に、その開口部をヒンジ結合により開閉するように羽根部を装着し、この羽根部の外表面に排土手段を設け、拡幅を行うときには、周辺土砂を軟化してから羽根部を開いた状態とし、揺動式カッタで拡幅部を掘削しながら、羽根部の外表面の排土手段で掘削土砂を排出する。
【0006】
<特許文献4>
シールド掘削機のシールド本体が、主カッタヘッドを前面に有する固定胴と可動内筒とからなり、可動内筒は、固定胴の側部に平行移動するように配置された拡幅内胴と、この拡幅内胴の外周において揺動可能な揺動外胴とで構成される。シールド本体の前部に装着された主カッタヘッドに切欠き部が形成されており、この切欠き部から、主カッタヘッドより小さい副カッタヘッドが主カッタヘッドによる掘削部外周側に突出できるように揺動アームで揺動するようになっている。そして、この副カッタヘッドで拡幅部を掘削し、拡幅内胴を拡幅方向へ移動させてシールド本体自体も拡幅させる。
【0007】
しかし、これらいずれの場合も、拡幅を行う拡幅機の構造が複雑で、高価になるとともに、拡幅部の施工作業性が悪く、また拡幅部のセグメントが重構造となる。
【特許文献1】特開2005−60989号公報
【特許文献2】特開2004−316407号公報
【特許文献3】特開2004−270226号公報
【特許文献4】特開2002−70484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、拡幅機を簡素な構造にできるとともに、拡幅の施工作業性が良く、工期の短縮及び工費の節減が図れ、しかも大断面の拡幅が可能で、躯体構造の自由度及び安定性が高く、セグメントの軽構造化も図れるトンネル拡幅工法及びトンネル拡幅装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトンネル拡幅工法は、拡幅機をその側面の張り出し・回転用カッタにより地山を掘削して、シールド掘進機の胴部から張り出して反転させた後、その前面の掘進用カッタにより拡幅部の外周をシールド掘進機の掘進と同時にスリット状に掘削し、そこにプレライニングを施工する。
【0010】
拡幅機前面の掘進用カッタにより円弧状にスリット掘削すると、断面円弧状のプレライニングを施工することができる。
【0011】
プレライニング施工後、拡幅機は、張り出し・回転用カッタにより地山を掘削して反転させながらシールド掘進機の胴部内に回収する。
【0012】
本発明のトンネル拡幅装置は、シールド掘進機の胴部から出入することができる拡幅機をシールド掘進機に対して回転可能とするとともに、この拡幅機の側面に張り出し・回転用カッタ、前面に、拡幅部の外周をスリット状に掘削するための掘進用カッタを設けたことを特徴とする。
【0013】
拡幅機の構造としては、D形として、D形の直線部分の側面に張り出し・回転用カッタ、D形の円弧部分の前面に掘進用カッタを設けるのが良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、拡幅機をその側面の張り出し・回転用カッタにより地山を掘削して、シールド掘進機の胴部から張り出し、反転させることで拡幅部の断面に適合させ、シールド掘進機の掘進と同時に拡幅機前面の掘進用カッタにてスリット状に掘削し、そこにプレライニングを施工するので、シールド掘進と同時に拡幅部のための先受け工を施工でき、工期短縮が図れる。
【0015】
拡幅機は、側面に張り出し・回転用カッタ、前面に掘進用カッタを備えていて、シールド掘進機に対して回転可能であればよく、単純な構造であるので、安価となる。
【0016】
拡幅機をシールド掘進機の胴部内に回収するので、一路線に数箇所の非常駐車帯を施工する場合も、工費を低く抑えることができる。
【0017】
拡幅機でスリット状に掘削し、そこにプレライニングを施工することで拡幅部のための先受け工を施工するので、大断面の拡幅が可能で、躯体構造の自由度及び安定性が高く、セグメントの軽構造化も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
図1に示すように、シールド掘進機1は、その本体胴部2内に収納できる拡幅機3を備えている。この拡幅機3は、本体胴部2の側面から張り出すことができるように、シールド掘進機1に対しその半径線に沿って平行移動可能となっているとともに、シールド掘進機1に対して回転可能にもなっている。拡幅機3が平行移動すると、拡幅機3の回転の軸心Oもシールド掘進機1の半径線上を移動する。
【0020】
拡幅機3はD形で、中空断面となっており、そのD形の直線部分3aの内外両側面に内外の張り出し・回転用カッタ4・5を装着しているとともに、D形の円弧部分3bの前面に掘進用カッタ6を装着している。また、円弧部分3bの上下の外側面端部には、回転用補助カッタ7・8が装着されている。
【0021】
このような拡幅機3を具備したシールド掘進機1による拡幅部の施工手順を説明すると、次のとおりである。
【0022】
図1(A)に示すように、拡幅機3の外側の張り出し・回転用カッタ5にて地山を掘削しながら、拡幅機3をシールド掘進機1に対して外側へ平行移動させてその本体胴部2から張り出せる。その後、内外の張り出し・回転用カッタ4・5及び回転用補助カッタ7・8にて掘削しながら、同図(B)に示すように、移動した軸心Oを中心に拡幅機3を反転させて、D形の円弧部分3bをシールド掘進機1の外側へ向ける。
【0023】
次に、シールド掘進機1の掘進に合わせて拡幅機3を同時に掘進させるため、図2に示すように、拡幅機3の前面の掘進用カッタ6で地山をC形のスリット状に掘削しながら、そこにプレライニングを施工する。施工された断面C形のプレライニングが拡幅部の先受け工となる。
【0024】
プレライニングの施工法としては、掘進用カッタ6でC形のスリット状に掘削しながら、図4に示すように拡幅機3の後方にコンクリートを打設して、コンクリートによるプレライニング9とする方法や、C形のスリット状に掘削しながら、図5に示すようにシールド掘進機1の本体胴部2内から拡幅機3の後方にセグメントを送り出して、セグメントによるプレライニング10とする方法がある。
【0025】
プレライニング完了後、図3(A)に示すように、内外の張り出し・回転用カッタ4・5及び回転用補助カッタ7・8にて掘削しながら回転させ、同図(B)に示すように、拡幅機3を元の姿勢に戻してから、同図(C)に示すように、シールド掘進機1に対して内側に平行移動させてその本体胴部2内に回収する。
【0026】
図6はプレライニング完了後、その内側を掘削し、セグメントによる道路トンネル11の拡幅部となる非常駐車帯用の躯体12を構築した例である。
【0027】
張り出し・回転用カッタ4・5及び回転用補助カッタ7・8としては次のような形態がある。
<回転型>
図7に示すように、円形の回転カッタ13を複数配置してその回転により掘削し、これより小さい円形の補助カッタ14を併用して円形の回転カッタ9の切り残し部分を補う。拡幅機3の回転時には、回転用補助カッタ7・8も使用する。
【0028】
<揺動型>
図8に示すように、張り出し・回転用カッタ4・5及び回転用補助カッタ7・8として揺動式カッタ15を用い、これを左右又は上下に揺動させて掘削する。この場合も、拡幅機3の回転時には、回転用補助カッタ7・8も使用する。
【0029】
<ローラ型>
図9に示すように、張り出し・回転用カッタ4・5及び回転用補助カッタ7・8としてローラカッタ群によるローラ式カッタ16を用い、ローラカッタ群を同時に回転させて掘削する。この場合も、拡幅機3の回転時には、回転用補助カッタ7・8も使用する。
【0030】
<回転用補助カッタ省略型>
図10に示すように、拡幅機3の角部外面を円弧面として、直線部分3aの外面の張り出し・回転用カッタ(揺動式)5を円弧部分3bの上下の外側面端部まで延ばす。ただし、張り出し時には、張り出し・回転用カッタ5による切り残し箇所を掘削するため、補助的なカッタや貫入型のビットを用いる。
【0031】
また、掘進用カッタ6としては、図11に示すように、拡幅機3のD形の円弧部分の前面にローラカッタ群6aを配置し、本体胴部2内に設けたカッタ用モータ17で回転させる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明によるトンネル拡幅工法の施工手順を示す簡略断面図で、(A)は拡幅機をシールド掘進機の本体胴部から張り出す状態、(B)は張り出し後に反転させる状態を示す。
【図2】シールド掘進機と同時に拡幅機を掘進させて拡幅用の先受け工となるプレライニングを施工する状態を示す簡略断面図である。
【図3】プレライニング完了後、拡幅機をシールド掘進機の本体胴部内に回収する手順を示す簡略断面図で、(A)は掘削しながら拡幅機を回転させる状態、(B)は拡幅機を元の姿勢に戻す状態、(C)は拡幅機をシールド掘進機の本体胴部内へ移動させる状態を示す。
【図4】コンクリートによるプレライニングを施工例を示す簡略平面図である。
【図5】セグメントによるプレライニングを施工例を示す簡略平面図である。
【図6】拡幅部となる非常駐車帯用の躯体を構築した例を示す簡略断面図である。
【図7】張り出し・回転用カッタ及び回転用補助カッタを円形の回転カッタで構成した例を示し、(A)は簡略断面図、(B)は簡略側面図である。
【図8】張り出し・回転用カッタ及び回転用補助カッタを揺動式カッタで構成した例を示し、(A)は簡略断面図、(B)は簡略側面図である。
【図9】張り出し・回転用カッタ及び回転用補助カッタをローラ式カッタで構成した例を示し、(A)は簡略断面図、(B)は簡略側面図である。
【図10】張り出し・回転用カッタを延ばして回転用補助カッタを省略した例を示し、(A)は簡略断面図、(B)は簡略側面図である。
【図11】掘進用カッタをローラカッタ群で構成した例を示す簡略断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 シールド掘進機
2 本体胴部
3 拡幅機
3a 直線部分
3b 円弧部分
4・5 張り出し・回転用カッタ
6 掘進用カッタ
6a ローラカッタ群
7・8 回転用補助カッタ
9 コンクリートによるプレライニング
10 セグメントによるプレライニング
11 道路トンネル
12 非常駐車帯用の躯体
13 回転カッタ
14 補助カッタ
15 揺動式カッタ
16 ローラ式カッタ
17 カッタ用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡幅機をその側面の張り出し・回転用カッタにより地山を掘削して、シールド掘進機の胴部から張り出して反転させた後、その前面の掘進用カッタにより拡幅部の外周をシールド掘進機の掘進と同時にスリット掘削し、そこにプレライニングを施工することを特徴とするトンネル拡幅工法。
【請求項2】
拡幅機前面の掘進用カッタにより円弧状にスリット掘削し、断面円弧状のプレライニングを施工することを特徴とする請求項1に記載のトンネル拡幅工法。
【請求項3】
張り出し・回転用カッタにより地山を掘削して拡幅機を反転させながらシールド掘進機の胴部内に回収することを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル拡幅工法。
【請求項4】
シールド掘進機の胴部から出入することができる拡幅機をシールド掘進機に対して回転可能とするとともに、この拡幅機の側面に張り出し・回転用カッタ、前面に、拡幅部の外周をスリット状に掘削するための掘進用カッタを設けたことを特徴とするトンネル拡幅装置。
【請求項5】
拡幅機をD形として、D形の直線部分の側面に張り出し・回転用カッタ、D形の円弧部分の前面に掘進用カッタを設けたことを特徴とする請求項4に記載のトンネル拡幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−46293(P2007−46293A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230745(P2005−230745)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(592093833)青山機工株式会社 (5)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】