説明

トーチとワークとの間の距離計測装置およびその方法並びに、研削加工装置の過負荷検出装置およびその方法、並びに作業機械の把持制御装置およびその方法

【課題】マイクロ波ドップラセンサの特性を利用して従来よりも安価な構成にて、しかも応答性よく、加工装置あるいは作業機械の内部状態を計測できるようにする。
【解決手段】トーチを規定の高さからワークに向けて移動開始させる。つぎに、トーチを規定の高さからワークに向けて移動させている間、トーチとの相対位置が固定的な固定位置からワーク表面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出し、ドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、トーチとワークとの間の相対速度を逐次演算する。つぎに、演算された相対速度が零とみなされる値になった時点で、トーチがワークに当接したとみなし、当該時点に至るまでの逐次の相対速度の積分値を、トーチとワークとの間の距離として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波ドップラセンサを用いたトーチとワークとの間の距離計測装置およびその方法、並びに研削装置の過負荷検出装置およびその方法、並びに作業機械の把持制御装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波ドップラセンサは、電波法上割り当てられた10.5GHz帯若(Xバンド)若しくは24.2GHz帯(Kバンド)のマイクロ波(広義には、3GHz〜30GHzの周波数範囲(SHF) を中心とし、UHF帯(0.3GHz〜3GHz)およびEHF帯(30GHz〜300GHz, ミリ波)を含む周波数)を送信器から、移動している対象物に向けて送信し、反射してきたマイクロ波を受信器で受信して、対象物の移動速度vに比例してシフトした周波数(ドップラ周波数)を示す信号を検出して出力するセンサのことである。送信波の周波数fと受信波のシフトした周波数(ドップラ周波数)f´を用いて対象物の移動速度vを演算することができる。これは、マイクロ波が、移動する対象物に当ると対象物の移動速度vに比例して受信波の周波数f´がシフトする(v=K(f−f´);Kは定数)という現象(ドップラ効果)を利用したものである。
【0003】
マイクロ波ドップラセンサは、温度などの設置環境の影響を受け難く非常に高温となる苛酷な環境下でも使用できる、また価格が安い、また応答性がよいなどの利点があるものの、従来は、対象物として自動車や野球のボールの速度、あるいは下記特許文献1に示されるように人間の位置を測定するのが一般的であり、産業上広く加工装置や作業機械の内部状態を検出するセンサとして使用する例は、存在しなかった。
【0004】
下記特許文献1には、超音波周波数帯のドップラセンサを用いて、自動車のエアバッグに対する乗員の位置を計測するという発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−30362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、マイクロ波ドップラセンサの特性を利用して従来よりも安価な構成にて、しかも応答性よく、加工装置あるいは作業機械の内部状態を計測できるようにすることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明は、
電極が設けられたトーチとワークとの間の距離を計測する装置において、
トーチとの相対位置が固定的な固定位置に設けられ、ワーク表面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出するドップラ周波数検出手段と、
トーチを規定の高さからワークに向けて移動させるトーチ移動手段と、
トーチ移動手段によってトーチを規定の高さからワークに向けて移動させている間、ドップラ周波数検出手段で検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、トーチとワークとの間の相対速度を逐次演算し、当該相対速度が零とみなされる値に至るまで相対速度を積分演算処理することにより、トーチとワークとの間の距離を演算する距離演算手段と
を備えたことを特徴とする。
【0008】
第2発明は、
電極が設けられたトーチとワークとの間の距離を計測する方法であって、
トーチを規定の高さからワークに向けて移動開始させるステップと、
トーチを規定の高さからワークに向けて移動させている間、トーチとの相対位置が固定的な固定位置からワーク表面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出し、ドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、トーチとワークとの間の相対速度を逐次演算するステップと、
演算された相対速度が零とみなされる値になった時点で、トーチがワークに当接したとみなし、当該時点に至るまでの逐次の相対速度の積分値を、トーチとワークとの間の距離として出力するステップと
を含むトーチとワークとの間の距離計測方法であることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させてワーク表面を研削加工する研削装置の過負荷を検出する研削装置の過負荷検出装置において、
研削工具との相対位置が固定的な固定位置に設けられ、ワークの研削面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出するドップラ周波数検出手段と、
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させている間、ドップラ周波数検出手段で検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置とワーク研削面との相対速度を逐次演算し、当該相対速度が零とみなされる値になった時点で、研削装置が過負荷になったことを示す信号を出力する過負荷検出手段と
を備えたことを特徴とする。
【0010】
第4発明は、
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させてワーク表面を研削加工する研削装置の過負荷を検出する研削装置の過負荷検出方法であって、
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させている間、
研削工具との相対位置が固定的な固定位置から、ワークの研削面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出し、
検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置とワーク研削面との相対速度を逐次演算し、
当該相対速度が零とみなされる値になった時点で、研削装置が過負荷になったことを示す信号を出力すること
を特徴とする。
【0011】
第5発明は、
研削装置が過負荷になったことを示す信号が出力された場合に、研削工具のワーク表面に対する角度を変える制御を行なうようにした第3発明の研削装置の過負荷検出装置または第4発明の研削装置の過負荷検出方法であることを特徴とする。
【0012】
第6発明は、
作業機械の作業機の先端に、把持用油圧シリンダによって駆動される把持ユニットが取り付けられ、把持用油圧シリンダに供給される圧油を制御することによって把持ユニットによりワークを把持するようにした作業機械の把持制御装置において、
作業機の固定位置に設けられ、把持用油圧シリンダの移動部材あるいは把持用油圧シリンダの移動部材に連動して移動するリンク機構の節点に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出するドップラ周波数検出手段と、
把持用油圧シリンダに圧油を供給して把持ユニットを作動させている間、ドップラ周波数検出手段で検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置と前記移動部材あるいは前記節点との相対速度を逐次演算し、当該相対速度が零とみなされる値に到達したか否かを判断する判断手段と、
相対速度が零とみなされる値に到達したと判断された時点移行は、把持対象物を破砕しない程度のグリップ力で把持ユニットが把持対象物を把持できるように、把持用油圧シリンダへの圧油の供給流量を調整する圧油制御手段と
を備えたことを特徴とする。
【0013】
第7発明は、
作業機械の作業機の先端に、把持用油圧シリンダによって駆動される把持ユニットが取り付けられ、把持用油圧シリンダに供給される圧油を制御することによって把持ユニットによりワークを把持するようにした作業機械に適用される把持制御方法であって、
把持用油圧シリンダに圧油を供給して把持ユニットを作動させている間、作業機の固定位置から、把持用油圧シリンダの移動部材あるいは把持用油圧シリンダの移動部材に連動して移動するリンク機構の節点に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出し、
ドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置と前記移動部材あるいは前記節点との相対速度を逐次演算し、
当該相対速度が零とみなされる値に到達したか否かを判断し、
相対速度が零とみなされる値に到達したと判断された時点移行は、把持対象物を破砕しない程度のグリップ力で把持ユニットが把持対象物を把持できるように、把持用油圧シリンダへの圧油の供給流量を調整すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、マイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)から出力されるドップラ周波数を用いて対象物との相対速度を演算し、その相対速度が零とみなされる値になった時点をもって、「トーチがワークに当接したこと」(第1発明、第2発明)あるいは「研削装置が過負荷になったこと」(第3発明、第4発明、第5発明)あるいは「把持ユニットによって把持対象物が把持されたこと」(第6発明、第7発明)を判断することができ、「トーチとワーク間の距離の計測」あるいは「研削装置の過負荷の検出」あるいは「把持対象物を破砕しないようにする制御」を高応答で行うことができる、また、装置を安価とすることができるという顕著な作用効果を奏効する。
【0015】
すなわち、第1発明、第2発明では、
(a)マイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)から出力されるドップラ周波数を用いてワーク表面との相対速度を演算し、その相対速度が零とみなされる値になった時点をもって、トーチがワークに当接したものとみなし、その時点に至るまでの逐次の相対速度の積分値を、トーチとワークとの間の距離として出力するようにしている。したがって、距離の計測に当たり、マイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)以外に別途センサユニットを設けることは不要となる。たとえば本発明の代わりにレーザ測距計を用いた構成の場合には、トーチが規定位置にあるときにレーザ測距計からワーク表面までの距離を計測するとともに、トーチがワーク表面に当接したときにレーザ測距計からワーク表面までの距離を計測して、両者の距離の差からトーチとワークとの間の距離を求めなければならない。しかし、この場合、「トーチがワーク表面に当接した」タイミングについては、別途設けたセンサ(たとえば加速度計など、トーチがワークに当接した際の衝撃を検出するセンサ)で検出して、レーザ測距計にそのタイミングの情報を与えなければならない。本発明では、そのような別途センサやレーザ測距計にタイミング情報を知らせる情報伝達手段は不要となり、マイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)自体が安価なことと相まって、装置を安価な構成とすることができるとともに、応答性よく距離の計測を行うことができる。
【0016】
また、第3発明、第4発明、第5発明では、
(b)マイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)から出力されるドップラ周波数を用いて、ワークの研削面との相対速度を演算し、その相対速度が零とみなされる値になった時点をもって、研削装置による研削力が低下したとみなし、その時点で研削装置が過負荷になったことを検出するようにしている。したがって、応答性よく安価な構成にて研削装置の過負荷を検出することができる。たとえば本発明の構成の代わりに、駆動装置(モータあるいはエンジン)のトルクあるいは回転数を検出するセンサを設け、トルクあるいは回転数が規定値以下まで低下したことをもって過負荷であることを検出するように構成した場合には、応答性が悪く制御に時間遅れが生じる。さらにマイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)は、トルクセンサなどと比較して安価であり、装置を安価な構成とすることができる。
【0017】
また、第6発明、第7発明では、
(c)マイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)から出力されるドップラ周波数を用いて、把持用油圧シリンダの移動部材あるいは把持用油圧シリンダの移動部材に連動して移動するリンク機構の節点との相対速度を演算し、その相対速度が零とみなされる値になった時点をもって、把持ユニットによって把持対象物が把持されたと判断するようにしている。したがって、高応答にて把持油圧シリンダへの圧油供給流量を調整して、把持対象物を破砕しない程度のグリップ力で把持対象物を把持することができる。たとえば本発明の構成の代わりに、把持用油圧シリンダの油圧を圧力センサで検出して、圧力センサの検出結果から「把持ユニットによって把持対象物が把持された」と判断して、把持油圧シリンダへの圧油供給流量を調整した場合には、油圧という物理量自体が時間遅れを伴っているため、「把持ユニットによって把持対象物が把持された」との判断が遅れ、制御に遅れが生じ、把持ユニットによって把持対象物を破砕してしまうおそれがある。また把持対象物の負荷によって油圧の圧力変動が生じ、油圧信号から「把持ユニットによって把持対象物が把持された」タイミングを捉えることが難しい。さらにマイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)は、油圧センサと比較して安価であり、装置を安価な構成とすることができる。
【0018】
(d)また、マイクロ波ドップラセンサ(ドップラ周波数検出手段)は、耐温度性、耐候性に優れ、苛酷な環境下で使用される切断加工装置などの加工装置あるいは作業機械の内部状態のセンサに適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、トーチとワークとの間の距離計測装置の全体構成図である。
【図2】図2(a)、(b)はそれぞれ、切断用ロボットの手首部分を拡大して示した図で、切断用トーチが規定の高さに位置している状態と、切断用トーチがワークに当接した状態を示した図である。
【図3】図3は、第1実施例の方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、研削加工装置の過負荷検出装置の全体構成図である。
【図5】図5(a)は、グラインダの移動を開始してからの時間と、演算される相対速度との関係を示した図で、図5(b)は、グラインダの各移動位置毎に、ワークの表面のバリが削り取られる様子を模式的に示した図である。
【図6】図6は、第2実施例の方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】図7は、作業機械の構成図である。
【図8】図8は、作業機械の把持制御装置の構成図である
【図9】図9は、四辺形リンクの節点が移動する様子を示す図である。
【図10】図10(a)は、把持ユニットが把持側への作動を開始してからの時間と、演算される相対速度との関係を示した図で、図10(b)は、コントローラの圧油制御部からオンオフ弁に出力されるオンオフ指令信号を時間に対応させて示した図で、図10(c)は、図10(b)と時間軸を同じくして、コントローラの圧油制御部からEPC弁に出力される電気指令信号を時間に対応させて示した図である。
【図11】図11は、第3実施例の方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明に係るトーチとワークとの間の距離計測装置およびその方法並びに、研削加工装置の過負荷検出装置およびその方法、並びに作業機械の把持制御装置およびその方法の実施の形態について説明する。
【0021】
(第1実施例;トーチとワークとの間の距離計測装置およびその方法)
図1は、トーチとワークとの間の距離計測装置の全体構成図である。
【0022】
本実施例では、プラズマ切断加工装置におけるトーチとワークとの間の距離を計測する装置を想定している。
【0023】
たとえば6軸多関節の切断用ロボット1の手首フランジ部2に、切断用トーチ3が取り付けられている。切断用トーチ3には、電極4が設けられている。切断用トーチ3の先端にはノズル5が設けられている。
【0024】
定盤7上には、所定板厚のワークR、たとえば定尺鋼板が据え付けられている。
【0025】
コントローラ10の駆動制御部11は、ロボットジョブデータにしたがい切断用ロボット1の各軸を駆動制御して、切断用トーチ3の先端位置および姿勢を調整して、ワークR上の切断線に沿って切断用トーチ3の先端を移動させる。
【0026】
電極4と母材であるワークRとの間にはアーク電圧が印加され、アーク電圧に応じたアーク長さのプラズマアークを生成して、ノズル5からプラズマをワークRに向け噴流させつつ切断用トーチ3をワークRの加工線に沿って移動させてワークRを切断加工する。
切断用加工装置では、切断用トーチ3の電極4の磨耗量ΔDの情報を得て、切断用トーチ3の電極4の寿命管理を行ったり、アーク電圧を補正する制御が行われる。
【0027】
すなわち、電極4の磨耗量をΔD、ノズル5の長さをΔN、切断用トーチ3とワークRとの距離をΔL、アーク電圧をVaとすると、電極磨耗量ΔDは、
ΔD=(Va−K1・ΔL−K3・ΔN)/K2
なる式によって求められる。電極磨耗量ΔDを得るには、切断用トーチ3とワークRとの距離ΔLの情報が必要となる。そこで、距離ΔLの情報を得るために、切断開始点から切断加工を開始するに際して、距離ΔLを計測する工程が実施される。
【0028】
距離ΔLを計測するために、切断用トーチ3との相対位置が固定的な固定位置、たとえば切断用ロボット1の手首フランジ部2に、マイクロ波ドップラセンサ20が設けられる。
マイクロ波ドップラセンサ20は、本発明の「ドップラ周波数検出手段」を構成する。
【0029】
マイクロ波ドップラセンサ20は、ワークRの表面に向けてマイクロ波を送信することができる位置、角度に取り付けられている。
【0030】
マイクロ波ドップラセンサ20は、市販のセンサを使用することができる。マイクロ波ドップラセンサ20は、電波法上割り当てられた10.5GHz帯若(Xバンド)若しくは24.2GHz帯(Kバンド)のマイクロ波(広義には、3GHz〜30GHzの周波数範囲(SHF) を中心とし、UHF帯(0.3GHz〜3GHz)およびEHF帯(30GHz〜300GHz, ミリ波)を含む周波数)を送信器から、ワークRの表面に向けて送信し、ワークR表面から反射してきたマイクロ波を受信器で受信して、マイクロ波ドップラセンサ20の固定位置とワークR表面の相対移動速度vに比例してシフトしたドップラ周波数を示す信号を検出して出力する。
【0031】
距離ΔLを計測する工程では、コントローラ10の駆動制御部11は、切断用ロボット1の各軸を駆動制御して、切断用トーチ3を規定の高さからワークRに向けて下方に移動させる。コントローラ10の駆動制御部11は、本発明の「トーチ移動手段」を構成する。
【0032】
コントローラ10の距離演算部12は、切断用トーチ3が規定の高さからワークRに向けて移動している間、マイクロ波ドップラセンサ20から出力される検出信号を取り込み、検出されたドップラ周波数f´と、送信波の周波数fとに基づき、切断用トーチ3とワークRとの間の相対速度vを逐次演算し、当該相対速度vが零とみなされる値vthに至るまで相対速度vを積分演算処理することにより、切断用トーチ3とワークRとの間の距離ΔLを演算する。コントローラ10の距離演算部12は、本発明の「距離演算手段」を構成する。
【0033】
図2(a)、(b)はそれぞれ、切断用ロボット1の手首部2の周囲を拡大して示した図で、切断用トーチ3が規定の高さに位置している状態(図2(a))と、切断用トーチ3がワークRに当接した状態(図2(b))を示している。
【0034】
図2(a)の状態のときのマイクロ波ドップラセンサ20の固定位置からワークR表面までの距離をL0、図2(b)の状態のときのマイクロ波ドップラセンサ20の固定位置からワークR表面までの距離をL1とすると、求める距離ΔLは、
L0−L1
で表される。
【0035】
送信波の周波数fと、受信波のシフトしたドップラ周波数f´と、切断用トーチ3とワークRとの間の相対速度vとの間には、
v=K(f−f´) (ただしKは定数)
という関係が成立する。よって、検出されたドップラ周波数f´と、送信波の周波数fとに基づき、切断用トーチ3とワークRとの間の相対速度vを逐次演算することができる。
【0036】
図2(c)は、切断用トーチ3が規定の高さからワークRに向けて移動を開始してからの時間tと、演算される相対速度vとの関係を示している。
【0037】
距離演算部12では、切断用トーチ3が移動を開始してから、逐次演算される相対速度vと、しきい値vthとを比較して、相対速度vがしきい値vth以下になったか否かが判断される。しきい値vthは、相対速度vが零よりも僅かに大きい値で、相対速度vが零になったとみなされる値に設定される。なお、しきい値vthは、相対速度0に設定してもよい。
【0038】
切断用トーチ3がワークRに当接する時点では、相対速度vが零に向けて急激に低下する。この時点で、相対速度vがしきい値vth以下になったと判断される。相対速度vがしきい値vth以下になったと判断されると、その時点で、切断用トーチ3がワークRに当接したものとみなし、その時点までの相対速度vの積分値を演算する。そして、この演算された積分値を、距離ΔLに工学単位変換して出力する。演算された積分値、つまり距離ΔLは、図2(c)中に斜線で示す面積に対応する。
【0039】
図3は、第1実施例の方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【0040】
同図3に示すように、距離ΔLを計測する工程が開始されると、切断用トーチ3が規定の高さからワークWに向けて移動開始される(ステップ101)。
【0041】
つぎに、切断用トーチ3が規定の高さからワークRに向けて移動させている間、切断用トーチ3との相対位置が固定的な固定位置からワークR表面に向けてマイクロ波が送信され、ワークRの表面で反射したマイクロ波のドップラ周波数f´が検出される。そして、ドップラ周波数f´と、送信波の周波数fとに基づき、切断用トーチ3とワークRとの間の相対速度vが逐次演算される。また、相対速度vの積分値が逐次演算される(ステップ102)。そして、切断用トーチ3が規定の高さからワークRに向けて移動させている間、逐次演算される相対速度vと、しきい値vthとが比較され、相対速度vがしきい値vth以下になったか否かが判断される(ステップ103)。
【0042】
相対速度vがしきい値vth以下になったと判断されると(ステップ103の判断YES)、切断用トーチ3がワークRに当接したとみなし、当該時点に至るまでの逐次の相対速度vの積分値を、切断用トーチ3とワークRとの間の距離ΔLとして出力する(ステップ104)。
【0043】
なお、本実施例では、ドップラ周波数f´を検出し出力するセンサユニットを「マイクロ波ドップラセンサ」と称しているが、このセンサ構成例は一例であり、ドップラ周波数f´検出しドップラ周波数f´に基づき相対速度vを演算して出力するセンサモジュールを構成し、このセンサモジュールを切断用ロボット1の固定位置に設けるようにしてもよい。このようにセンサモジュールを構成した場合には、コントローラ10の距離演算部12からは、相対速度vを演算処理する機能が省かれることになる。
【0044】
以上のように本実施例によれば、マイクロ波ドップラセンサ20から出力されるドップラ周波数f´を用いてワークR表面との相対速度vを演算し、その相対速度vが零とみなされる値になった時点をもって、切断用トーチ3がワークRに当接したものとみなし、その時点に至るまでの逐次の相対速度vの積分値を、切断用トーチ3とワークRとの間の距離ΔLとして出力するようにしている。したがって、距離の計測に当たり、マイクロ波ドップラセンサ20以外に別途センサユニットを設けることは不要となる。
【0045】
たとえば本実施例のマイクロ波ドップラセンサ20の代わりにレーザ測距計を用いた構成の場合には、切断用トーチ3が規定位置にあるときにレーザ測距計からワークR表面までの距離L0を計測するとともに、切断用トーチ3がワークR表面に当接したときにレーザ測距計からワークR表面までの距離L1を計測して、両者の距離の差L0−L1から切断用トーチ3とワークRとの間の距離ΔLを求めなければならない。
【0046】
しかし、この場合、「切断用トーチ3がワークR表面に当接した」タイミングについては、別途設けたセンサ、たとえば加速度計など、切断用トーチ3がワークRに当接した際の衝撃を検出するセンサで検出して、レーザ測距計にそのタイミングの情報を与えなければならない。
【0047】
これに対して本実施例では、そのような別途センサやレーザ測距計にタイミング情報を知らせる情報伝達手段は不要となり、マイクロ波ドップラセンサ20自体が安価なことと相まって、装置を安価な構成とすることができるとともに、応答性よく距離ΔLの計測を行うことができる。
【0048】
以上、実施例では、切断加工装置を例にとり説明したが、本発明としては、電極が設けられたトーチを用いてワークの加工を行う加工装置であれば任意の種類の加工装置に適用可能である。たとえば溶接加工装置にも適用することができる。
【0049】
また、本実施例では、ロボットを用いた加工装置を想定したが、NC加工機にも当然適用することができる。
【0050】
なお、切断用トーチ3がワークRに当接した際の衝撃を緩和するために、切断用トーチ3に、衝撃緩和用の機構、たとえばバネによりショックを緩和する機構を設けてもよい。
【0051】
(第2実施例;研削加工装置の過負荷検出装置およびその方法)
図4は、研削加工装置の過負荷検出装置の全体構成図である。
【0052】
本実施例では、研削工具としてのグラインダによって、切断加工後のワークの表面に形成されたバリを切削、研磨する研削加工装置を想定している。
【0053】
たとえば6軸多関節の研削用ロボット1の手首フランジ部2に、研削工具としてのグラインダ30が取り付けられている。
【0054】
定盤7上には、所定板厚のワークR、たとえば定尺鋼板が据え付けられている。ワークRの表面には、切断加工によって形成されたバリが固着されている。
【0055】
グラインダ30は、たとえば円形状の砥石を用いることができる。グラインダ30は、駆動装置31によって駆動される。駆動装置31は、たとえば電動モータが用いられる。駆動装置31によってグラインダ30が回転され、グラインダ30の砥石によってワークRの表面のバリが研削、研磨される。
【0056】
コントローラ10の駆動制御部11は、ロボットジョブデータにしたがい研削用ロボット1の各軸を駆動制御して、グラインダ30の先端位置および姿勢角を調整して、グラインダ30を、切削角度θcにてワークRの表面に対して傾斜させてワークRの表面に押し当て、ワークRの表面上を進行方向γに沿って移動させる。
【0057】
たとえばプラズマ切断加工によって形成されたバリは、強固かつ複雑な形状でワークRの切断面に固着している。このためバリ剥離中に研削装置が過負荷になることがあり、バリ剥離作業の効率が低下する。したがって、バリ剥離作業の効率が低下を防止するために、過負荷を応答性よく検出して、最適な制御に切り替える必要がある。
【0058】
研削装置の研削力は、ワークRの表面を削り取る速度に対応する。
【0059】
そこで、その速度を計測するために、グラインダ30との相対位置が固定的な固定位置、たとえば研削用ロボット1の手首フランジ部2に、第1実施例と同様のマイクロ波ドップラセンサ20が設けられる。
【0060】
マイクロ波ドップラセンサ20は、ワークRの研削面、つまりグラインダ30によって研削された面に向けてマイクロ波を送信することができる位置、角度に取り付けられている。このためグラインダ30がワークRの表面に沿って移動している間、グラインダ30によってワークRの表面が削り取られる速度を計測することができる。
【0061】
コントローラ10の過負荷検出部13は、駆動装置31によってグラインダ30を駆動しつつグラインダ30をワークRの表面に沿って進行方向γに移動させている間、マイクロ波ドップラセンサ20から出力される検出信号を取り込み、検出されたドップラ周波数f´と、送信波の周波数fとに基づき、固定位置に対するワークRの研削面の相対速度vを逐次演算し、当該相対速度vが零とみなされる値vthになった時点で、研削装置が過負荷になったことを示す信号を出力する。なお、マイクロ波ドップラセンサ20の出力から相対速度vを演算する処理は、前述の第1実施例と同様であるので、説明は省略する。
【0062】
コントローラ10の過負荷検出部13は、本発明の「過負荷検出手段」を構成する。この過負荷になったことを示す信号は、駆動制御部11に入力される。
【0063】
図5(a)は、グラインダ30の各移動位置毎に、ワークRの表面のバリが削り取られる様子を模式的に示している。図5(b)は、グラインダ30が移動を開始してからの時間tと、演算される相対速度vとの関係を示している。
【0064】
過負荷検出部13では、グラインダ30が移動を開始してから、逐次演算される相対速度vと、しきい値vthとを比較して、相対速度vがしきい値vth以下になったか否かが判断される。しきい値vthは、相対速度vが零よりも僅かに大きい値で、相対速度vが零になったとみなされる値に設定される。なお、しきい値vthは、相対速度0に設定してもよい。
【0065】
グラインダ30によってワークRの表面が削り取られる速度が急激に低下すると、相対速度vが零に向けて急激に低下する。この時点で、相対速度vがしきい値vth以下になったと判断される。相対速度vがしきい値vth以下になったと判断されると、その時点で、研削装置が過負荷になったことを示す信号が出力される。
【0066】
コントローラ10の駆動制御部11に、研削装置が過負荷になったことを示す信号が入力されると、グラインダ30の切削角度θcを変えるべく研削用ロボット1の各軸が駆動制御される。すなわち、グラインダ30の先端位置および姿勢角を調整して、グラインダ30の切削角度θcを変えて、さらにワークRの表面上を進行方向γに沿って移動させる。
【0067】
図6は、第2実施例の方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【0068】
同図6に示すように、駆動装置31によってグラインダ30を駆動しつつグラインダ30をワークRの表面に沿って移動させている間、グラインダ30との相対位置が固定的な固定位置から、ワークRの研削面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数f´を検出する。そして、検出されたドップラ周波数f´と、送信波の周波数fとに基づき、固定位置とワークRの研削面との相対速度vを逐次演算する(ステップ201)。
【0069】
つぎに、演算された相対速度vがしきい値vth以下に低下したか否かが判断される(ステップ202)。この結果、相対速度vがしきい値vth以下になったと判断されると(ステップ202の判断YES)、研削装置が過負荷になったことを示す信号を出力する(ステップ203)。
【0070】
研削装置が過負荷になったことを示す信号が出力されると、グラインダ30の切削角度θcを変える制御が行われる(ステップ204)。
【0071】
なお、本実施例では、研削装置が過負荷になったことを示す信号が出力された場合に、グラインダ30の切削角度θcを変える制御を行なうようにしているが、駆動装置30の回転を減速させてトルクを上昇させるようにしてもよい。図5(c)は、電動モータとして構成される駆動装置30の回転数とトルクとの関係を示している。研削装置が過負荷になったことを示す信号が出力された場合に、駆動装置31を減速させてトルクを上昇させる制御を行なうことで、研削力を高めることができる。
【0072】
なお、第1実施例と同様に、相対速度vを演算して出力するセンサモジュールを研削用ロボット1の固定位置に設けるようにしてもよい。このようにセンサモジュールを構成した場合には、コントローラ10の過負荷検出部13からは、相対速度vを演算処理する機能が省かれることになる。
【0073】
以上のように本実施例によれば、マイクロ波ドップラセンサ20から出力されるドップラ周波数fを用いて、ワークRの研削面との相対速度vを演算し、その相対速度vが零とみなされる値になった時点をもって、研削装置による研削力が低下したとみなし、その時点で研削装置が過負荷になったことを検出するようにしている。したがって、応答性よく安価な構成にて研削装置の過負荷を検出することができる。
【0074】
たとえば本実施例の構成の代わりに、駆動装置31(モータあるいはエンジン)のトルクあるいは回転数を検出するセンサを設け、トルクあるいは回転数が規定値以下まで低下したことをもって過負荷であることを検出するように構成した場合には、応答性が悪く制御に時間遅れが生じる。さらにマイクロ波ドップラセンサ20は、トルクセンサなどと比較して安価であり、装置を安価な構成とすることができる。
【0075】
(第3実施例;作業機械の把持制御装置およびその方法)
図7は、作業機械の構成図である。
【0076】
作業機械40の運転室41の前方に作業機42が設けられている。作業機42の先端には、把持ユニット45が取り付けられている。作業機42は、車体(上部旋回体)40Aに対して上下動自在に取り付けられたブーム43と、ブーム43に対して上下動自在に取り付けられたアーム44と、アーム44に取り付けられた把持ユニット45とからなる。把持ユニット45は、その把持面45aでワークWを把持する。
【0077】
図8は、作業機械の把持制御装置の構成図である。
【0078】
把持ユニット45は、後述する四辺形リンク機構54を介して把持用油圧シリンダ46によって駆動される。把持用油圧シリンダ46に供給される圧油を制御することによって把持ユニット45によりワークWが把持される。
【0079】
油圧ポンプ55の吐出圧油は、油路47を介してPPC弁(油圧比例制御弁)48に供給される。PPC弁48は、操作レバー49の操作位置、操作量に応じたパイロット油圧信号を受圧して、弁位置が変化する。PPC弁48の開口面積は、運転室41に設けられた操作レバー49の操作量に応じて変化する。PPC弁48は、開口面積に応じた流量の圧油をオンオフ弁50に供給する。オンオフ弁50は、コントローラ10から加えられるオン指令信号に応じて弁位置がオン位置に変化し、同コントローラ10から加えられるオフ指令信号に応じて弁位置がオフ位置に変化する。オンオフ弁50がオン位置に位置されると、PPC弁48から出力された圧油がオンオフ弁50を通過してシャトル弁51に供給される。オンオフ弁50がオフ位置に位置されると、PPC弁48から出力された圧油がオンオフ弁50で阻止されシャトル弁51への圧油の供給が遮断される。
【0080】
油圧ポンプ46の吐出圧油は、油路52を介してEPC弁(電磁比例制御弁)53に供給される。EPC弁53は、コントローラ10から加えられる電気指令信号に応じて弁位置が変化する。EPC弁53は、電気指令信号に応じた流量の圧油をシャトル弁51に供給する。
【0081】
シャトル弁51は、オンオフ弁50またはEPC弁53から供給された圧油を入力し、いずれか大きい方の油圧を選択出力して把持用油圧シリンダ46に供給する。
【0082】
把持用油圧シリンダ46は、開放側油室46Aと把持側油室46Bを備えている。
【0083】
把持用油圧シリンダ46の開放側油室46Aに圧油が供給されると、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cが伸長し、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cに四辺形リンク機構54を介して接続されている把持ユニット45が開放側、つまりワークWを離す方向に作動する。
【0084】
把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに圧油が供給されると、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cが縮退し、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cに四辺形リンク機構54を介して接続されている把持ユニット45が把持側、つまりワークWを把持する方向に作動する。
【0085】
ここで、ワークWの負荷をWg、把持ユニット45のグリップ力をFgとすると、
Fg<Wg
の場合には、ワークWの把持は不可能となる。また、
Fg=Wg
の場合に、ワークWの把持が可能となる。また、
Fg>Wg
の場合には、ワークWを破砕する可能性がある。
【0086】
Fg=Wgになるタイミング、つまり把持ユニット45の把持面45aがワークWを把持するタイミングは、把持用油圧シリンダ46の移動部材であるロッド46Cの移動速度vが零になるタイミングに一致する。
【0087】
また、Fg=Wgになるタイミング、つまり把持ユニット45の把持面45aがワークWを把持するタイミングは、把持用油圧シリンダ46の移動部材であるロッド46Cに連動して移動する四辺形リンク機構54の節点54a(図9)が移動速度vが零になるタイミングに一致する。
【0088】
図9は、四辺形リンク54の節天54aが移動する様子を示す。
【0089】
把持用油圧シリンダ46のロッド46Cが縮退すると、それに伴い把持用油圧シリンダ46のロッド46Cに接続されている四辺形リンク機構54の節点54aが移動する。把持ユニット45がワークWを把持する時点では、四辺形リンク機構54の節点54aの移動速vが零になる。
【0090】
そこで、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cまたは四辺形リンク機構54aの移動速度vを計測するために、作業機42の固定位置、たとえばアーム44の固定位置に、第1実施例、第2実施例と同様のマイクロ波ドップラセンサ20が設けられる。
【0091】
図8に示すように、マイクロ波ドップラセンサ20は、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cに向けてマイクロ波を送信することができる位置、角度に取り付けられている。なお、マイクロ波は、所定角度範囲の指向性を持つため、ロッド46Cに対向する位置からずれた位置に設けることができる。これにより把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに圧油を供給してロッド46Cが縮退している間、ロッド46Cの移動速度vを把持ユニット45の把持面45aの移動速度vとして計測することができる。
【0092】
また、図9に示すように、マイクロ波ドップラセンサ20を、四辺形リンク54の節点54aに向けてマイクロ波を送信することができる位置、角度に取り付けてもよい。把持ユニット45の把持部は、四辺形リンクであるため、前段のアーム44との位置(姿勢)の関係で把持する位置が変動するが、マイクロ波ドップラセンサ20は、適当な指向角を持つため、その変動を吸収できる。ただし指向角は適切に調整して外乱の影響を受けにくくすることが必要である。これにより把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに圧油を供給してロッド46Cが縮退している間、四辺形リンク機構54の節点54aの移動速度vを、把持ユニット45の把持面45aの移動速度vとして計測することができる。
【0093】
コントローラ10の判断部14は、把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに圧油が供給されてロッド46Cが縮退し把持ユニット45が把持側に作動している間、マイクロ波ドップラセンサ20から出力される検出信号を取り込み、検出されたドップラ周波数f´と、送信波の周波数fとに基づき、固定位置とロッド46Cあるいは節点54aとの相対速度vを逐次演算し、当該相対速度vが零とみなされる値vthに到達したか否かを判断する。なお、マイクロ波ドップラセンサ20の出力から相対速度vを演算する処理は、前述の第1実施例、第2実施例と同様であるので、説明は省略する。
【0094】
コントローラ10の判断部14は、本発明の「判断手段」を構成する。このコントローラ10の判断部14の判断結果を示す信号は、圧油制御部15に入力される。コントローラ10の圧油制御部15は、本発明の「圧油制御手段」を構成する。
【0095】
図10(a)は、把持ユニット45が把持側への作動を開始してからの時間tと、演算される相対速度vとの関係を示している。また、図10(b)は、コントローラ10の圧油制御部15からオンオフ弁50に出力されるオンオフ指令信号を時間tに対応させて示している。また、図10(c)は、図10(b)と時間軸を同じくして、コントローラ10の圧油制御部15からEPC弁53に出力される電気指令信号を時間tに対応させて示している。EPC弁53に対して加えられる電気指令信号は、ワークWを破砕しない程度のグリップ力で把持ユニット45がワークWを把持できる流量が供給されるように調整されている。
【0096】
判断部14では、把持ユニット45が把持側への作動を開始してから、逐次演算される相対速度vと、しきい値vthとを比較して、相対速度vがしきい値vth以下になったか否かが判断される。しきい値vthは、相対速度vが零よりも僅かに大きい値で、相対速度vが零になったとみなされる値に設定される。なお、しきい値vthは、相対速度0に設定してもよい。
【0097】
相対速度vがしきい値vthよりも大きいと判断されている場合には、オンオフ弁50にオン指令信号が出力されるとともに、EPC弁53に対する電気指令信号はオフとされる(図10(a)、(b)、(c)参照)。これにより操作レバー49の操作量に応じた流量の圧油がPPC弁48からオンオフ弁50、シャトル弁51を介して把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに供給され、把持ユニット45が、操作レバー49の操作量に応じた速度でワークWを把持する方向に移動する。
【0098】
把持ユニット45の把持面45aがワークWを把持する時点、つまりFg=Wgとなる時点では、相対速度vが零に向けて急激に低下する。この時点で、相対速度vがしきい値vth以下になったと判断される。相対速度vがしきい値vth以下になったと判断された場合には、オンオフ弁50にオフ指令信号が出力されるとともに、EPC弁53に対して電気指令信号が出力される(図10(a)、(b)、(c)参照)。これにより操作レバー49の操作量に応じた流量の圧油が把持用油圧シリンダ46へ供給されることが遮断され、EPC弁53から、ワークWを破砕しない程度のグリップ力で把持ユニット45がワークWを把持できる流量に調整された圧油が、シャトル弁51を介して把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに供給される。よって把持ユニット45は、ワークWを破砕しない程度の力で把持することができる。
【0099】
なお、上述した実施例では、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cが縮退側に動くことで把持ユニット45が把持側に作動する構造を例示しているが、把持用油圧シリンダ46のロッドが伸長側に動くことで把持ユニット45が把持側に作動する構造にも本発明を当然適用することができる。
【0100】
また、上述した実施例では、移動部材としてロッド46Cを想定し、把持用油圧シリンダ46のボディ46Dが固定され、ロッド46Cの移動に連動して把持ユニット45が把持側に作動する構造を例示しているが、移動部材がボディ46Dとなる構造、つまりロッド46Cが固定され、把持用油圧シリンダ46のボディ46Dの移動に連動して把持ユニット45が把持側に作動する構造にも本発明を当然適用することができる。
【0101】
図11は、第3実施例の方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【0102】
同図11に示すように、把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに圧油が供給されてロッド46Cが縮退し把持ユニット45が把持側に作動している間、マイクロ波ドップラセンサ20から出力される検出信号を取り込み、検出されたドップラ周波数f´と、送信波の周波数fとに基づき、固定位置とロッド46Cあるいは節点54aとの相対速度vを逐次演算する(ステップ301)。
【0103】
つぎに、演算された相対速度vが零とみなされる値vthに到達したか否かが判断される(ステップ302)。
【0104】
演算された相対速度vがしきい値vthよりも大きいと判断されている場合には(ステップ302の判断NO)、オンオフ弁50にオン指令信号が出力されるとともに、EPC弁53に対する電気指令信号はオフとされる(図10(a)、(b)、(c)参照)。これにより操作レバー49の操作量に応じた流量の圧油がPPC弁48からオンオフ弁50、シャトル弁51を介して把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに供給され、把持ユニット45が、操作レバー49の操作量に応じた速度でワークWを把持する方向に移動する(ステップ303)。
【0105】
これに対して、演算された相対速度vがしきい値vth以下になったと判断された場合には(ステップ302の判断YES)、オンオフ弁50にオフ指令信号が出力されるとともに、EPC弁53に対して電気指令信号が出力される(図10(a)、(b)、(c)参照)。これにより操作レバー49の操作量に応じた流量の把持用油圧シリンダ46への供給が遮断され、EPC弁53から、ワークWを破砕しない程度のグリップ力で把持ユニット45がワークWを把持できる流量に調整された圧油が、シャトル弁51を介して把持用油圧シリンダ46の把持側油室46Bに供給される。よって把持ユニット45は、ワークWを破砕しない程度の力で把持することができる。
【0106】
なお、第1実施例、第2実施例と同様に、相対速度vを演算して出力するセンサモジュールを作業機42の固定位置に設けるようにしてもよい。このようにセンサモジュールを構成した場合には、コントローラ10の判断部14からは、相対速度vを演算処理する機能が省かれることになる。
【0107】
また、本実施例では、相対速度vがしきい値vthに到達するまでは、操作レバー49の操作量に応じた流量の圧油を把持用油圧シリンダ46に供給するようにしているが、この手動制御を自動制御に変える実施も可能である。また、本実施例の制御を任意に選択できるようにしてもよい。たとえば、モード選択スイッチを設け、本実施例の制御を選択するモードと本実施例の制御を選択しないモードを選択操作可能とし、本実施例の制御を選択するモードが選択操作された場合には、相対速度vがしきい値vthに到達すると前述のごとく、把持ユニット45がワークWを破砕しない程度の流量を自動的に把持用油圧シリンダ46に供給することにし、本実施例の制御を選択しないモードが選択操作された場合には、相対速度vがしきい値vthに到達してもなお、操作レバー49の操作量に応じた流量が把持用油圧シリンダ46に供給されることを許容するようにする。
【0108】
以上のように本実施例によれば、マイクロ波ドップラセンサ20から出力されるドップラ周波数f´を用いて、把持用油圧シリンダ46のロッド46Cあるいは把持用油圧シリンダ46のロッド46Cに連動して移動するリンク機構54の節点54aとの相対速度vを演算し、その相対速度vが零とみなされる値vthになった時点をもって、把持ユニット45によってワークWが把持されたと判断するようにしている。したがって、高応答にて把持油圧シリンダ46への圧油供給流量を調整して、ワークWを破砕しない程度のグリップ力でワークWを把持することができる。
【0109】
たとえば本実施例の構成の代わりに、把持用油圧シリンダ46の油圧を圧力センサで検出して、圧力センサの検出結果から「把持ユニッ45トによってワークWが把持された」と判断して、把持油圧シリンダ46への圧油供給流量を調整した場合には、油圧という物理量自体が時間遅れを伴っているため、「把持ユニット45によってワークWが把持された」との判断が遅れ、制御に遅れが生じ、Fg>Wgとなり、把持ユニット45によってワークWを破砕してしまうおそれがある。またワークWの負荷によって油圧の圧力変動が生じ、油圧信号から「把持ユニット45によってワークWが把持された」タイミングを捉えることが難しい。さらにマイクロ波ドップラセンサ20は、油圧センサと比較して安価であり、装置を安価な構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、マイクロ波ドップラセンサ20を使用しており、耐温度性、耐候性に優れ、苛酷な環境下で使用される切断加工装置などの加工装置あるいは作業機械の内部状態のセンサに適している。
【符号の説明】
【0111】
10 コントローラ、11 駆動制御部、12 距離演算部、13 負荷検出部、14 判断部、15 圧油制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極が設けられたトーチとワークとの間の距離を計測する装置において、
トーチとの相対位置が固定的な固定位置に設けられ、ワーク表面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出するドップラ周波数検出手段と、
トーチを規定の高さからワークに向けて移動させるトーチ移動手段と、
トーチ移動手段によってトーチを規定の高さからワークに向けて移動させている間、ドップラ周波数検出手段で検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、トーチとワークとの間の相対速度を逐次演算し、当該相対速度が零とみなされる値に至るまで相対速度を積分演算処理することにより、トーチとワークとの間の距離を演算する距離演算手段と
を備えたことを特徴とするトーチとワークとの間の距離計測装置。
【請求項2】
電極が設けられたトーチとワークとの間の距離を計測する方法であって、
トーチを規定の高さからワークに向けて移動開始させるステップと、
トーチを規定の高さからワークに向けて移動させている間、トーチとの相対位置が固定的な固定位置からワーク表面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出し、ドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、トーチとワークとの間の相対速度を逐次演算するステップと、
演算された相対速度が零とみなされる値になった時点で、トーチがワークに当接したとみなし、当該時点に至るまでの逐次の相対速度の積分値を、トーチとワークとの間の距離として出力するステップと
を含むトーチとワークとの間の距離計測方法。
【請求項3】
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させてワーク表面を研削加工する研削装置の過負荷を検出する研削装置の過負荷検出装置において、
研削工具との相対位置が固定的な固定位置に設けられ、ワークの研削面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出するドップラ周波数検出手段と、
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させている間、ドップラ周波数検出手段で検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置とワーク研削面との相対速度を逐次演算し、当該相対速度が零とみなされる値になった時点で、研削装置が過負荷になったことを示す信号を出力する過負荷検出手段と
を備えたことを特徴とする研削装置の過負荷検出装置。
【請求項4】
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させてワーク表面を研削加工する研削装置の過負荷を検出する研削装置の過負荷検出方法であって、
駆動装置によって研削工具を駆動しつつ研削工具をワーク表面に沿って移動させている間、
研削工具との相対位置が固定的な固定位置から、ワークの研削面に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出し、
検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置とワーク研削面との相対速度を逐次演算し、
当該相対速度が零とみなされる値になった時点で、研削装置が過負荷になったことを示す信号を出力すること
を特徴とする研削装置の過負荷検出方法。
【請求項5】
研削装置が過負荷になったことを示す信号が出力された場合に、研削工具のワーク表面に対する角度を変える制御を行なうようにした請求項3記載の研削装置の過負荷検出装置または請求項4記載の研削装置の過負荷検出方法。
【請求項6】
作業機械の作業機の先端に、把持用油圧シリンダによって駆動される把持ユニットが取り付けられ、把持用油圧シリンダに供給される圧油を制御することによって把持ユニットによりワークを把持するようにした作業機械の把持制御装置において、
作業機の固定位置に設けられ、把持用油圧シリンダの移動部材あるいは把持用油圧シリンダの移動部材に連動して移動するリンク機構の節点に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出するドップラ周波数検出手段と、
把持用油圧シリンダに圧油を供給して把持ユニットを作動させている間、ドップラ周波数検出手段で検出されたドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置と前記移動部材あるいは前記節点との相対速度を逐次演算し、当該相対速度が零とみなされる値に到達したか否かを判断する判断手段と、
相対速度が零とみなされる値に到達したと判断された時点移行は、把持対象物を破砕しない程度のグリップ力で把持ユニットが把持対象物を把持できるように、把持用油圧シリンダへの圧油の供給流量を調整する圧油制御手段と
を備えたことを特徴とする作業機械の把持制御装置。
【請求項7】
作業機械の作業機の先端に、把持用油圧シリンダによって駆動される把持ユニットが取り付けられ、把持用油圧シリンダに供給される圧油を制御することによって把持ユニットによりワークを把持するようにした作業機械に適用される把持制御方法であって、
把持用油圧シリンダに圧油を供給して把持ユニットを作動させている間、作業機の固定位置から、把持用油圧シリンダの移動部材あるいは把持用油圧シリンダの移動部材に連動して移動するリンク機構の節点に向けてマイクロ波を送信して反射したマイクロ波のドップラ周波数を検出し、
ドップラ周波数と、送信波の周波数とに基づき、固定位置と前記移動部材あるいは前記節点との相対速度を逐次演算し、
当該相対速度が零とみなされる値に到達したか否かを判断し、
相対速度が零とみなされる値に到達したと判断された時点移行は、把持対象物を破砕しない程度のグリップ力で把持ユニットが把持対象物を把持できるように、把持用油圧シリンダへの圧油の供給流量を調整すること
を特徴とする作業機械の把持制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−141231(P2011−141231A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2886(P2010−2886)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(510009500)株式会社テクエイト (3)
【Fターム(参考)】