説明

ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末の治療的使用

【課題】糖尿病、低血漿HDLおよび/または高血漿TGおよび/またはアテローム硬化症に罹患している患者の処置法を提供する。
【解決手段】有効量の粗製の(crude)ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を個体に投与することを含んでなる、糖尿病およびアテローム硬化症から選択される疾患を処置するための方法を提供する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高いトリグリセリドおよび低い高−密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル、アテローム硬化症および糖尿病を含む多数の状態の処置における粗製ドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)粉末の使用に関する。
参考文献
以下の参考文献リストは、本発明の背景として直接関係があると考えられる:
1.非特許文献1
2.1980年3月18日に発効された特許文献1
3.1980年4月29日に発効された特許文献2
4.非特許文献2
5.非特許文献3
6.非特許文献4
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ドウナリエラ属(Dunaliella)の2種であるドウナリエラ サリーナ(Dunaliella salina)Teod.およびドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)は、単細胞で2本の鞭毛を持ち(biflagellate)、壁が無い緑藻で、大変大量のβ−カロテンを生産することができる(1)。D.バルダヴィル(bardawil)は、β−カロテン含量が約50%の全トランス−β−カロテンから構成され、そして残りのほとんどが9−シスβ−カロテンおよび幾らかの他のβ−カロテン異性体からなる耐塩性の藻である(2)。最高約5重量%のβ−カロテンを含む藻を得るために、D.バルダヴィル(bardawil)を培養する方法が記載された(3)。後にこの方法を開発して、この割合が8%以上に増加した。藻であるドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)に蓄積するβ−カロテンの天然の異性体混合物は、合成の全トランス−β−カロテンを与えることにより観察されるよりも約10倍高い程度で、ラットおよびニワトリの脂肪組織に蓄積することが示された(4)
【0003】
Betatene(商標)(ヘンケル社(Henkel Corp.)により製造、ドイツ)およびNutrilite(商標)(アムウェイ社(Amway Inc.)、米国)のような種々のカロテノイドが豊富なドウナリエラの市販品を利用することができる。これらの製品はドウナリエラに由来するカロテノイドの油抽出物である。
【0004】
レチノイドは視力、細胞の成長、分化、および生物の一般的な健康状態を維持するために生きている生物にとって必須である。9−シス−レチノイン酸および全トランス−レチノイン酸は、β−カロテン(BC)の開裂により体内で生産される。オーファン受容体RARおよびRXRとしても知られているレチノイド核内受容体は、転写因子を活性化することにより明確な生理学的特性を有する。全トランス−レチノイン酸はRARに結合するがRXRには結合せず、一方、9−シスレチノイン酸はRXRに結合し、これは重要な生物学的プロセスに鍵となる役割を果たす。
【0005】
核内受容体の活性化は細胞の代謝、特に脂質およびグルコースに関して必須である。数種の核内受容体がコレステロールの恒常性に関わってきた。これらの受容体には:それぞれオキシステロールおよび胆汁酸に結合し、そして活性化される肝臓X受容体(LXRa/NR1H3およびLXRb/NR1H2)およびファルネソイドX受容体(FXR/NR1H4)を含む。LXRおよびFXRは、9−シスレチノイン酸および合成アゴニスト(レキシノイド(rexinoid)と命名)により活性化されるRXRと絶対的(obligate)ヘテロ二量体を形成する。最近、RXRのそのリガンドによる活性化がコレステロール代謝の2つの中心的プロセスに影響を及ぼす可能性が見いだされた:I.腸内のコレステロール吸収(RXR/FXRヘテロ二量体の活性化はコレステロール7α−ヒドロキシラーゼ(CYP7A1)発現を抑制し、減少した胆汁酸合成およびコレステロール吸収をもたらした)。II.末梢組織からの逆コレステロール輸送(RXR/LXRヘテロ二量体の活性化は、コレステロール吸収を抑制し、そして末梢組織の逆コレステロール輸送を誘導した)。
【0006】
以下の核内受容体はRXRとヘテロ二量体を形成し、したがって9−シスレチノイン酸投与により潜在的に活性化され得ることが知られている:甲状腺ホルモン(TRa/b);ビタミンD(VDR);脂肪酸/エイコサノイド(PPARα/βγ);オキシステロール(LXRa/b);胆汁酸(FXR);プレグナン/胆汁酸/生体異物(PXR);アドレノスタン/生体異物(CAR)。
【0007】
フィブラート(fibrate)(クロフィブラート(clofibrate)、フェノフィブラート(fenofibrate)、ベザフィブラート(bezafibrate)、シプロフィブラート(ciprofibrate)、ベクロフィブラート(beclofibrate)およびゲムフィブロジル(gemfibrozil)は現在、高トリグリセリド血症(高血漿TG)の患者を処置するために薦められている。高トリグリセリド血症の処置はトリグリセリドが豊富なリポタンパク質の血漿レベルの低下をもたらす。HDLコレステロールレベルは通常、ベースラインレベルが低い時に上げられる。HDLコレステロールの上昇は通常、HDLアポリポタンパク質A−IおよびA−IIレベルの上昇を伴う。さらにフィブラートはアテローム発生性アポC−IIIを含む粒子を減少させ、食後の脂肪血症に影響を与え、そして幾つかのフィブラートは血漿フィブリノーゲンおよびCRPレベルを下げる。
【0008】
脂質代謝に及ぼすフィブラートの効果の結果として、それらは合併した高脂血症、原発性高トリグリセリド血症、III型異βリポ蛋白血症およびインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)のような特別なリポタンパク質疾患に影響を及ぼすことが示された。
【0009】
フィブラートは優れた安定性プロフィールで良好に耐容されると考えられる。低い毒性がほとんどすべての臓器系で報告された。フェノフィブラート処置は副作用が低頻度であることが明らかとなった。長期の投与によりヒトの肝臓のペルオキシソーム増殖に及ぼす効果は無く、そして発癌の証拠は無いことが明らかとなった。臨床的に関連するフィブラートと他の抗−高脂血症薬との相互作用には、数種の胆汁酸金属イオン封鎖剤と合わせた時の横紋筋融解症および低下した生物学的利用性を含む。クマリンの抗凝固効果の強化は、出血を引き起こすかもしれない。
【0010】
フィブラートはそれらの効果の少なくとも一部をペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPAR−α)により媒介する。フィブラートでの活性化で、PPARsは別の核内受容体である9−シスレチノイン酸受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成する。この二量体はペルオキシソーム増殖因子応答要素(PPREs)と呼ばれる特異的な応答要素に結合し、そして遺伝子発現を調節する。
【0011】
高密度リポタンパク質(HDL)の低血漿レベルおよび高トリグリセリド(TG)血漿レベルは、アテローム硬化症の危険因子である。低レベルの血漿HDLコレステロール、アポリポタンパク質AI(アポA−I)および高レベルのトリグリセリド(TG)は、西洋社会における罹病率および死亡率の主な原因であるアテローム硬化症の危険性の増加と関連している。最近の研究では、フィブラートゲムフィブロジルで処置した患者のHDLコレステロールレベルを上げ、そして血漿TGレベルを下げることにより、22%まで冠状動脈の事故の割合が減ることが示された。
【0012】
アテローム硬化症に有利な効果を及ぼすフィブラートについて幾つかの作用様式が提案された:アポC−IIIレベルを下げ、かつ/またはリポタンパク質リパーゼ活性を上げることによるリポタンパク質の脂肪分解の誘導。FA−輸送タンパク質およびアシル−CoAシンテターゼの誘導による肝脂肪酸(FA)取り込みの誘導。アポBおよびVLDL生産の減少。ペルオキシソーム(齧歯類のみ)またはミトコンドリアβ−酸化経路の誘導、およびFA合成の阻害による肝TG生産の減少。最も重要なことは、フィブラートが肝臓においてアポA−IおよびアポA−IIの生産を増加し、これが恐らく逆コレステロール輸送プロセスに貢献するということである。
【0013】
2型糖尿病は深刻な健康上の問題である。これはインスリンのグルコース低下効果に対する耐性と欠陥のあるインスリン分泌とが組合わさって、血中グルコースレベルが正常範囲を越えて上がる時に起こる。チアゾリジンジオンは2型糖尿病の個体においてインスリンの感度を向上させ、そして血漿グルコースおよび血圧を下げる新しい種類の抗糖尿病薬である(5)。この薬剤は、共通するパートナーであるレチノイドX受容体(RXR)とのヘテロ二量体としてDNAに結合するPPARγに結合し、そして活性化して転写を調節する。RXRアゴニストはインスリン増感剤として機能することが示され、肥満マウスの血清グルコース、トリグリセリドおよびインスリンを顕著に下げる(6)
【0014】
特許文献3は、ドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類に由来するカロテノイド組成物を記載し、ここでβ−カロテン含量は主に9−シスβ−カロテンである。いかなる医学的応用にも言及していない。
【0015】
特許文献4(Katocs)は、治療的量のレチノイド全トランス−レチノイン酸および9−シス−レチノイン酸を投与することにより、冠状動脈疾患を処置および防止するために血漿HDLレベルを上げる方法を開示する。
【0016】
特許文献5は、医学的および核照射の有害効果に対して哺乳動物を保護するために、実質的に粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物の使用を開示する。
【0017】
特許文献6は、RXRアゴニストおよび場合によりペルオキシソーム増殖活性化受容体ガンマアゴニストを投与することにより、インスリン非依存性糖尿病の新たな処置を教示する。
【0018】
特許文献7は、例えば癌、心血管疾患、骨粗鬆症、糖尿病、閉経後障害および炎症状態を処置するために使用する核内受容体活性を調節する化合物を同定する。
【0019】
特許文献8は、血中グルコースレベルを下げるために、脂質代謝を調節するために、そして例えば糖尿病、肥満、心血管疾患および胸部癌の処置に、レチノイドX受容体調節物質として有用な新規レチノイドX同族体を明らかとする。
【0020】
特許文献9および特許文献10(Heyman)は、RXRアゴニストをPPARγアゴニストと一緒に使用してインスリン非依存性糖尿病を処置するための方法および組成物を開示する。
【0021】
特許文献11は、RXRアゴニストとしての選択性を有し、そして血中グルコースを下げ、そして体重を管理するのに効果的な、すなわち糖尿病(NIDDIM)および肥満の処置に効果的な新規レチノイド化合物を提供する。
【0022】
非特許文献5は、スタチンおよびフィブラートでの脂質強化は、糖尿病における心血管疾患の結果を改善するのに効果的であることを教示する。
【0023】
非特許文献6は、ドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)に由来するβ−カロテンが糖尿病患者の食事に補充された。食事の栄養補助は、これらの患者において酸化に対して強化されたLDL感受性を正常化した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国植物特許第4,511号明細書
【特許文献2】米国特許第4,199,895号明細書
【特許文献3】国際公開第93/24454号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5,219,888号明細書
【特許文献5】米国特許第5,948,823号明細書
【特許文献6】国際公開第97/10819号パンフレット
【特許文献7】国際公開第99/50658号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2001119770パンフレット
【特許文献9】米国特許第5,972,881号明細書
【特許文献10】米国特許第6,028,052号明細書
【特許文献11】国際公開第03/027090号パンフレット
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Ben−Amotz,A.and Shaish,A.,ドウナリエラ属(Dunaliella)におけるカロテンの生合成:生理学、生化学およびバイオテクノロジー(Carotene Biosynthesis in Dunaliella:Physiology,Biochemistry and Biotechnology),Ed Avron,M.and Ben−Amotz.,9:206−16,1992
【非特許文献2】Ben−Amotz,A.,Mokady,S.,Edelstein,S.and Avron,M.,ラットおよびニワトリを対象とした合成の全トランスβ−カロテンと比較した天然の異性体混合物の生物学的利用性 (Bioavailability of a natural isomer mixture as compared with synthetic all−trans beta−carotene in rats and chicks),J.Nutrition,119:1013−1019,1989
【非特許文献3】Day,C.,チアゾリジンジオン:新規種類の抗糖尿病薬(Thiazolidinediones;a new class of antidiabetic drugs),Diabetic Med.16:179−192,1999
【非特許文献4】Mukherjee,R.,Davies,P.J.A.et al.,レチノイドX受容体アゴニストによるインスリンに対する糖尿病および肥満マウスの感作(Sensitization of diabetic and obese mice to insulin by retinoid X receptor agonist),Nature,386:407−410,1997
【非特許文献5】Colagiuri S.and Best.J.,2型糖尿病患者における脂質−低下治療(Lipid−lowering therapy in people with type2 diabetes),Current Opinion in Lipidology(2002)13:617−623
【非特許文献6】Levy,Y.et al.,β−カロテンの天然の異性体混合物の栄養補助食は、糖尿病患者に由来するLDLの酸化を阻害する(Dietary supplementation of a natural isomer mixture of Beta−caroten inhibits oxidation of LDL derived from patients with diabets mellitus),Nutrition & Metabolism(2000)44:54−60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
発明の要約
本発明の目的は糖尿病、低血漿HDLおよび/または高血漿TGおよび/またはアテローム硬化症に罹患している患者の処置法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は1つの観点により、有効量の粗製の(crude)ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を個体に投与することを含んでなる、糖尿病およびアテローム硬化症から選択される疾患を処置するための方法を提供する。
【0028】
また本発明は別の観点により、有効量の粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を個体に投与することを含んでなる、個体の血漿中のトリグリセリドを減少させ、および/またはHDLコレステロールレベルを上昇させる方法を提供する。
【0029】
本発明の別の観点に従い、有効量の実質的に粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物を含んでなる、糖尿病、低血漿HDLおよび/または高血漿TGおよび/またはアテローム硬化症の処置に使用するための薬剤を提供する。
【0030】
本発明のさらなる観点に従い、糖尿病、低血漿HDLおよび/または高血漿TGおよび/またはアテローム硬化症の処置に使用するための製薬学的組成物の調製に、有効量の実質的に粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物の使用を提供する。
【0031】
本発明による有効成分は、実質的に粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物、典型的には乾燥したドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類である。ドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類は好ましくはドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)である。
【0032】
本明細書において用語「処置する」または「処置」とは、疾患の治癒ならびに疾患を病理学的症状において改善をもたらすことの両方を含むと理解されるべきである。この用語はまた、疾患の防止も含むことができる。この用語はまた、疾患の防止も含むことができる。これらの用語はまたアテローム硬化症の発生または進行の両方を抑制する能力、および炎症の減少にも関係し、これにより疾患の合併を抑制し、そして防止する。
【0033】
「有効量」は所望する治療効果、すなわち示されている疾患の処置を達成するための有効成分の十分な量または用量と理解するべきである。有効量は疾患の重篤度、投与計画、例えば調製物を期間中1回または数回与えるのかどうか、個体の身体的条件等を含む種々の因子に依存する。当業者は各例の有効量を最少の実験により難無く決定できるはずである。
【0034】
用語「アテローム硬化症」は、石灰化プラーク、非石灰化プラーク、繊維石灰化(fibrocalcified)プラークおよびその他を含むすべての種類の疾患を含む。用語「糖尿病」にはすべての種類の糖尿病、特に2型糖尿病を含む。
【0035】
好適な態様では、粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を核内受容体の1以上のアクチベーターと一緒に投与する。核内受容体のアクチベーターは、フィブラートおよびチアゾリジンジオンのような好ましくはペルオキシソーム増殖因子−活性化受容体αまたはγ(PPARαおよびPPARγ)アゴニストである。フィブラートの非限定的例は、クロフィブラート、フェノフィブラート、ベザフィブラート、シプロフィブラート、ベクロフィブラートおよびゲムフィブロジルである。チアゾリジンジオンの非限定的例は、アバンディア、トログリタゾン、BRL49653、ピオグリタゾン、シグリタゾン、WAY−120,744、エングリタゾン、AD5075、ダルグリタゾンおよびロシグリタゾンである。
【0036】
粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末は好ましくは例えばカプセル化形態で経口的に投与される。
【0037】
本発明を理解するために、そして実際にどのように本発明が行われるかを知るために、単に非限定的な実施例により、添付する図面を参照にしてこれから好適な態様を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ヒトアポAI−トランスジェニックマウスにおける血漿HDLコレステロールレベルに及ぼすフィブラートおよび粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末の組み合わせ処置の効果を具体的に説明する。
【図2】オスのアポE−欠損マウスにおいて、大動脈洞でアテローム性損傷のサイズ(面積)によりアテローム発生に及ぼす粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末の効果を示す。
【図3】オスのアポE−欠損マウスにおいて、大動脈洞でアテローム性損傷のサイズ(面積)によりアテローム発生に及ぼす粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末の効果を示す。
【図4】オスのLDL受容体−欠損マウスにおいて、大動脈洞でアテローム性損傷のサイズ(面積)によりアテローム発生に及ぼす粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末の効果を示す。
【図5】アポE−欠損マウスにおけるコレステロール吸収の測定を具体的に説明する。
【図6】粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を含むか、または含まないフィブラートの二重処置を受けた患者のHDL−コレステロールレベルを示す。
【図7】糖尿病を誘導したオスのLDLR−/−マウスの血漿グルコースレベルを示す。
【図8】糖尿病を誘導したオスのLDLR−/−マウスの血漿インスリンレベルを示す。
【図9】糖尿病を誘導したオスのLDLR−/−マウスの血漿コレステロールレベルを示す。
【図10】糖尿病を誘導したオスのLDLR−/−マウスの血漿トリグリセリドレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の態様の詳細な説明
方法および材料
以下に記載するすべてのヒトの実験には、以下のように調製したドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を含むカプセルを使用した。
【0040】
ドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)(今後、“Db”と呼ぶ)は、50,000mの大きな胴体の開放塩水槽で成長させ、そして培養して、約1:1の比率の全トランスおよび9−シスBC(4,9)で8重量%のβ−カロテン(今後”BC”と呼ぶ)を含んでなる藻を得た。この藻を遠心機に移してペーストに濃縮することにより回収した。ペーストを洗浄して塩を除去し、そして滅菌し、そして次いで噴霧乾燥して、約8%BCおよび5%未満の水分を含んでなるDb粉末を得た。この粉末は、各々が藻のすべての天然成分を一緒に含む20mgのBCを含有する250mgの藻のカプセルに包装した。カプセルのBCは元の1:1比の異性体を保持する。カプセルを最高3年の寿命を有する真空密閉ブリスターに包装する。動物実験については、Db粉末を食事に混合して飼料中に8%のドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を与えた。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
第1実験の目的は、フィブラートと粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末が豊富な食事とを組み合わせた処置が、血漿アポAIおよびHDLコレステロールレベルに及ぼす効果を実験することであった。
【0042】
6カ月齢のオス同腹子であり、素姓がC57BL/6マウスのトランスジェニックヒトアポAIマウスを使用した(Rubin EM,Ishida BY,Clift SM.Krauss RM.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.Jan 15;88(2):434−8、トランスジェニックマウスにおけるヒトアポリポタンパク質A−Iの発現は、マウスアポリポタンパク質A−Iの血漿レベルを下げ、そして2つの新規高密度リポタンパク質サイズのサブクラスの出現をもたらす(Expression of human apolipoprotein A−I in transgenic mice results in reduced plasma levels of murine apolipoprotein A−I and the appearance of two new high density lipoprotein size subclasses))。マウスは肝アポA−I発現を駆動するために必要なヒトアポA−I遺伝子プロモーターの肝臓特異的エンハンサーを含む。マウス(n=24)を4群に分け(各群n=6)、そして毎日、標準的な食事(Koffolk,イスラエルダイエット(Israel Diet)、no.19510)を自由に与えた。第1群(対照)はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を投与した。第2群(フィブラート)はシプロフィブラート(リパノール(Lipanor)、CTZ、イスラエル)をPBS中、30mg/Kg体重で投与した。第3群(ドウナリエラ属(Dunaliella))は、PBSおよび粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を補充した。第4群はシプロフィブラートおよび粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を補充し、これには1Kgの食事あたり〜4gの9−シス−β−カロテンが提供された。マウスは処置から4週間後に屠殺した。
【0043】
結果(図1)は、血漿HDLコレステロールレベルがフィブラートおよび粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末の両方で処置したマウスで最高レベルに達したこたを示した(p<0.05すべての対式多重比較法、「対照」群対「シプロフィブラートに粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を加えた群」)。対照群で最低レベルの408±42mg/dlが、そしてシプロフィブラートおよび粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を組み合わせて処置した群で最高レベルの535±71mg/dlが検出された。統計的に有意ではないが同様の傾向がアポAI血漿レベルで観察された。
【0044】
(実施例2)
ドウナリエラ属(Dunaliella)のアテローム発生に及ぼす効果について試験するために、オスのアポ−E欠損マウス(n=10)に、8%の粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を補充した上記のような標準的な餌を6週間与えた。対照群(n=10)は餌のみを受けた。大動脈洞で損傷サイズにより決定されるアテローム硬化症は、対照群のマウスよりも粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末で処置したマウスの群で34%低かった(図2)。
【0045】
(実施例3)
ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末がアテローム発生に及ぼす効果について試験するために、オスのアポ−E欠損マウス(n=13)に、8%のドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を補充した標準的な餌を8週間与えた。第2群(n=12)はβ−カロテンを含まない酸化したドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末で処置する一方、対照群(n=12)は餌のみを受けた。大動脈洞で損傷サイズにより決定されるアテローム硬化症は、対照群のマウスよりもドウナリエラ属(Dunaliella)の処置群で33%低かった、p=0.027(図3)。対照的に、酸化したドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末はアテローム発生に影響しなかった。
【0046】
(実施例4)
ドウナリエラ属(Dunaliella)がアテローム発生に及ぼす効果について試験するために、オスのLDL受容体欠損マウス(n=10)に、8%のドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を補充した標準的な餌を3週間与え、続いて西洋食を7週間与えた。第2群は酸化したドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末で処置し(n=10)、そして対照群(n=10)は餌、続いて西洋食のみを受けた。大動脈洞で損傷サイズにより決定されるアテローム硬化症は、ドウナリエラ属(Dunaliella)で処置した群で対照群よりも65%低かった、p=0.004(図4)。対照的に、酸化したドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末はアテローム発生に影響しなかった。
【0047】
(実施例5)
コレステロール吸収は、14C−コレステロール(これは様々に吸収される)に対するH−シトステノール(これは吸収されない)の便排出の比率を測定する糞便二重アイソトープ法(fecal dual isotope method)により測定した。アポ−E欠損マウスを2群に分け、ドウナリエラ属(Dunaliella)で処置したマウス群は、餌の中に8%の粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末を3週間投与して(n=6)、そして対照群(n=6)は餌のみを受けた。粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末のアポ−E欠損マウスへの投与は(RXRアゴニストについて前に記載したものに類似して)、コレステロール吸収の阻害をもたらした(図5)。
【0048】
(実施例6)
ヒトの実験の目的は、低HDL(<35mg/dl)および高TGレベル(>250mg/dl)の患者においてフィブラートと粗製ドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)の粉末との組み合わせの効果を実験することであった。
【0049】
第1段階で患者(n=20)はフィブラート(シプロフィブラートまたはベザフィブラート)を少なくとも3カ月間受けた。実験の第2段階で患者は本発明による粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末のピル4個(朝食に2個、そして夕食に2個)を受けて、1日に全80mgのβ−カロテンの摂取を提供した。血漿脂質プロフィールは、実験の各段階後に検出した。
【0050】
結果(図6)は、血漿HDLレベルがフィブラート単独に比べてフィブラートと粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末処置の組み合わせ処置後に有意(p=0.002、ペアードt−検定)に高かったことを示す(それぞれ29.3±6.8mg/dl対36.5±9.9mg/dl;24.5%の上昇)。
【0051】
有意ではないが同様な傾向(p=0.35)が血漿アポAIレベルで観察され、フィブラートおよびβ−カロテンと一緒のフィブラートでそれぞれ120.9±15.2対128.4±28.2であった。これらの知見は組み合わせ処置がアポAI合成および逆コレステロール輸送プロセスの両方に影響を及ぼすことを示唆している。
【0052】
(実施例7)
ドウナリエラ属(Dunaliella)の糖尿病に及ぼす効果を試験するために、オスのLDLR−/−マウス(n=30)に糖尿病を誘導するために西洋食(脂肪から42%のカロリー)を与えた。西洋食の摂取から4週間後、マウスを6群に分け(各群n=5)、そしてロシグリタゾン(rosiglitazone)(食事の0.02重量/重量%)、粗製ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末(食事の8重量/重量%)または9−シスレチノイン酸(24ナノモル/マウスx日)により強化された西洋食を与えた。処置は4週間続けた。
【0053】
8%のドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末は、〜1.5ナノモルの9−シスレチノイン酸/マウスx日を提供した。この算出された量はβ−カロテンのビタミンAへの転換に基づく(27分子が1分子のビタミンAを提供し、そしてビタミンAに対するレチノイン酸の比率に基づき、これは300分子のレチノール、レチナールおよびレチノイン酸に対して約1分子のレチノイン酸である)。
【0054】
以下の群を含んだ:
1.対照、西洋食のみ(対照)
2.9−シスレチノイン酸(RA)
3.ロシグリタゾン(Rosi)
4.ドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末8%(Dun)
結果
ドウナリエラ属(Dunaliella)の処置は、ロシグリタゾンおよび対照群に比べて血漿グルコースおよびインスリンレベルの両方を下げた(図7および8)。さらにドウナリエラ属(Dunaliella)の処置は、ロシグリタゾン群に比べて血漿コレステロールおよびTGレベルの両方を有意に下げた(図9および10)。他方、9−シスレチノイン酸は血漿インスリンおよびグルコースレベルに影響を与えず、そしてドウナリエラ属(Dunaliella)群のそれらのレベルは有意に低かった。結果はドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末が、LDLR−/−マウスモデルにおいて9−シスレチノイン酸またはロシグリタゾンよりも効果的に血漿インスリンおよびグルコースレベルを下げることができることを証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の実質的に粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物を含んでなる、個体の血漿中のHDLコレステロールレベルの上昇に使用するための薬剤。
【請求項2】
核内受容体の1以上のアクチベーターを更に含んでなる、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
核内受容体のアクチベーターがペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αまたはγ(PPARαまたはPPARγ)アゴニストである、請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
PPARαまたはPPARγアゴニストがフィブラートおよびチアゾリジンジオンから選択される、請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
フィブラートがクロフィブラート、フェノフィブラート、ベザフィブラート、シプロフィブラート、ベクロフィブラートおよびゲムフィブロジルから選択される、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
チアゾリジンジオンがアバンディア、トログリタゾン、BRL49653、ピオグリタゾン、シグリタゾン、WAY−120,744、エングリタゾン、AD5075、ダルグリタゾンおよびロシグリタゾンから選択される、請求項4に記載の薬剤。
【請求項7】
上記の粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末が経口的に投与される、請求項1に記載の薬剤。
【請求項8】
上記藻類がドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)である請求項1に記載の薬剤。
【請求項9】
上記粉末がカプセル化されている、請求項1に記載の薬剤。
【請求項10】
低血漿HDLおよび/または高血漿TGおよび/またはアテローム硬化症の処置に使用するための製薬学的組成物の調製における、有効量の実質的に粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物の使用。
【請求項11】
個体の血漿中のトリグリセリドの減少、および/またはHDLコレステロールレベルの上昇に使用するための製薬学的組成物の調製における、有効量の実質的に粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物の使用。
【請求項12】
製薬学的組成物が核内受容体の1以上のアクチベーターを更に含んでなる、請求項10または11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
核内受容体のアクチベーターが、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αまたはγ(PPARαまたはPPARγ)アゴニストである、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
PPARαまたはPPARγアゴニストがフィブラートおよびチアゾリジンジオンから選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
フィブラートがクロフィブラート、フェノフィブラート、ベザフィブラート、シプロフィブラート、ベクロフィブラートおよびゲムフィブロジルから選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
チアゾリジンジオンがアバンディア、トログリタゾン、BRL49653、ピオグリタゾン、シグリタゾン、WAY−120,744、エングリタゾン、AD5075、ダルグリタゾンおよびロシグリタゾンから選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
上記の粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の粉末が経口的に投与される、請求項10または11のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
上記藻類がドウナリエラ バルダヴィル(Dunaliella bardawil)である、請求項10または11のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
上記粉末がカプセル化されている、請求項10または11のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
有効量の実質的に粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類調製物を、核内受容体の1以上のアクチベーターと共に含んでなる、アテローム硬化症の処置に使用するための薬剤。
【請求項21】
アテローム硬化症に罹患した患者の大動脈洞におけるアテローム硬化症のプラークまたは損傷のサイズの低減に使用するための製薬学的組成物の調製における、核受容体の1以上のアクチベーターと有効量の粗製のドウナリエラ属(Dunaliella)の藻類の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−256392(P2009−256392A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187809(P2009−187809)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【分割の表示】特願2004−212054(P2004−212054)の分割
【原出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(504277012)テル・ハシヨメル・メデイカル・リサーチ・インフラストラクチヤー・アンド・サービシズ・リミテツド (4)
【出願人】(399127603)株式会社日健総本社 (19)
【Fターム(参考)】