説明

ドラッグリンク

【課題】ドラッグリンクの本体部とエンドとの取り付け角度、および全長についての自由度を有し、それらを最適なものとするとともに、部品の共通化を可能とするドラッグリンクを提供する。
【解決手段】ピットマンアーム(P)と連結可能に構成されたエンド(3)と、当該エンド(3)に接続している接続部分(2)と、本体部(1)とを有し、前記本体部(1)の前記接続部分側の端部には雄ネジ(1a)が形成されており、前記接続部分(2)は、前記エンド(3)と回動可能に接続している回転構造部分(2a)と、本体部(1)と接続する中空構造部(2b)とを有しており、当該中空構造部(2a)には本体部(1)に形成された前記雄ネジ(1a)と螺合する雌ネジ(2c)が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング・ギヤにより変換された操舵力をフロントホイールに伝達するステアリング・リンク機構におけるドラッグリンクに関する。
【背景技術】
【0002】
リジッド・アクスル方式におけるステアリング機構では、例えば図7で示す様に、ピットマンアームPとステアリングアーム(ナックルアーム)Sをドラッグリンク10Dで接続し、フロントホイールに操舵力を伝達している。
ここで、ピットマンアームPは、ステアリング・ギヤから車両の左右方向に延びるセクタシャフトを中心に回動(R1)する。また、ステアリングアームSは、キングピンを中心軸として回動(R2)する。
ドラグリンク10Dは、その両端のそれぞれでピットマンアームPおよびステアリングアームSと接続される。そして、ピットマンアームPおよびステアリングアームSは、異なる方向(R1、R2)に回動する。そのため、図7に示すように、本体1Dの両端にそれぞれエンド3D、4Dを設け、アームP、Sに設けられたボールスタットB1、B2とボールジョイントにより、回動可能に接続され且つ傾角の変位可能に接続されている。
【0003】
ここで、ドラッグリンクの本体1Dと、エンド3D、4Dとは、溶接によって固着されており、ドラッグリンクの本体1Dに対するエンドの角度(軸線に対する回転方向の角度)は一定に固定されている。
そして、ドラッグリンクのエンド3D、4Dは、ピットマンアームPの回転軸およびステアリングアームSの回転軸とそれぞれ平行に設けられているボールスタッドB1、B2と係合される。そのため、両エンド3D、4Dは、それぞれのアームの回転軸と平行(A、B)となるようにリンク本体1Dに固着することとなる。
【0004】
しかし、キングピンは、キャスタ角およびキングピン傾角を有しており、正確には、前記両軸(A、B)の交角は90°とはならない。したがって、ドラッグリンク本体1Dとエンド3D、4Dとは、ステアリング機構のジオメトリに対応した適切な角度で接続される必要がある。
また、車軸は懸架機構を介して相対移動をするので、ステアリング・ギヤに対してキングピンは相対変位する。そのため、上下方向の変位に伴う傾角の変化だけではなく、ローリング時には、回転方向の変位も生じる。
【0005】
すなわち、ドラッグリンクのエンドは、操舵のための変位だけでなく、車軸の相対変位をも含め、接続するピットマンアームおよびステアリングアームに対して、相対的に回動し且つ傾角変化を起こす。そのため、係る回動及び傾角変化に対応するべく、適正な角度を選択して、リンク本体と接続されている必要がある。
【0006】
また、ドラッグリンクは、車種によってその長さや、両端エンドの角度、あるいは曲げ形状の違いが要求され、例えば、並幅と広幅の車に対し、トレッドの相違から、長さが同一でエンドの角度が相違するものを用意する必要がある。
そのため、用意するべきドラックリンクの種類が多種類に亘ってしまい、従来から、部品点数の低減による管理コストの低減が望まれている。
しかし、係る要請に応えることが出来るドラックリンクは、現時点では提案されていない。
【0007】
その他の従来技術として、両端にボールジョイントを有するリンク部材のポールジョイント間の距離を調整する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、かかる従来技術では、ドラッグリンクの長さが一定であり、エンドにおける角度が固定されていることに起因する上述の問題を解決することは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−270549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、ドラッグリンクの本体部とエンドとの取り付け角度、および全長についての自由度を有し、それらを最適なものとし、かつ、部品の共通化を可能とするドラッグリンクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のドラッグリンク(10)は、ピットマンアーム(P)と連結可能に構成されたエンド(3:ピットマンアーム側のエンド)と、当該エンド(3)に接続している接続部分(2:エンド接続部分)と、本体部(1:チューブ)とを有し、前記本体部(1)の前記接続部分側の端部には雄ネジ(1a)が形成されており、前記接続部分(2)は、前記エンド(3:ピットマンアーム側のエンド)と回動可能に接続している回転構造部分(2a:エンド部回転構造)と、本体部(1)と接続する中空構造部(2b:ねじ構造)とを有しており、当該中空構造部(2a)には本体部(1)に形成された前記雄ネジ(1a)と螺合する雌ネジ(2c)が形成されていることを特徴としている。
【0011】
ここで、前記回転構造部分(2a)は、ドラッグリンクの入力(ドラッグリンクに負荷される軸方向の圧縮、引張力:車種ごとに相違:例えば1t強)に耐えられる程度の強度を有する構造であれば、特に限定はしない。
そして、ボールベアリング構造ではなくて、潤滑による構造であることが好ましい。
【0012】
本発明において、前記接続部分(2A)に設けられた前記回転構造部分(2a:エンド部回転構造)には、前記エンド(3)と接続部分(2A)との相対的な回動量を制限するストッパ構造(6:回り止め)が設けられているのが好ましい。
【0013】
そして、前記ストッパ構造(回り止め)は、エンド部のシャフト(3a)に構成された突起(6)と、前記接続部分(2A)に形成された開口(2d)とにより構成され、前記突起(6)は前記開口(2d)から接続部分の外部(接続部分の半径方向外方)に突出しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上述する構成を具備する本発明のドラッグリンク10によれば、前記接続部分(2)の回転構造部分(2a)がピットマンアーム側のエンド(3)と回動自在に接続されているので、回転構造部分(2a)とピットマンアーム側のエンド(3)とを相対的に回動することにより、ドラッグリンク(10)をピットマンアーム(P)に取り付ける角度を自在に調整することが出来る。
そのため、車種によりドラッグリンクをピットマンアームに取り付ける角度が異なったとしても、本発明のドラッグリンクで対応することが出来る。換言すれば、多くの種類のドラッグリンクを用意する必要がない。
【0015】
また、ドラッグリンクの特性上、長さが異なるものを複数種類用意する必要がある場合に、前記接続部分(2)において、本体部1に形成された雄ネジ(1a)と、中空構造部長さ調節機構(ネジ構造)に形成された雌ネジ(2b)とが噛み合っている長さを調節して、ドラッグリンク全体の長さを適宜調節することが出来る。
そのため、多くの長さが異なるドラッグリンクを用意する必要がない。
この様に、本発明によれば、ドラッグリンクを共通化することが出来るので、部品点数を減少して、部品管理に要する労力やコストを軽減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す上面図である。
【図2】図1のエンド接続部を示す斜視図である。
【図3】同じく図1のエンド接続部を示す側面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す上面図である。
【図5】図4のエンド接続部を示す斜視図である。
【図6】同じく図4のエンド接続部を示す側面図である。
【図7】従来のドラッグリンクの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に本発明の第1実施形態を図1〜図3を参照して説明する。
図1において、全体を符号10で示すドラッグリンクは、本体部を形成するチューブ1の一端に、後述するエンド接続部分2を介して、ピットマンアーム側のエンド3が接続されている。
ドラッグリンク10の他端には、従来技術に係る溶接構造によって、ステアリングアーム(ナックルアーム)側のエンド4が接続されている。
【0018】
前記ピットマンアーム側のエンド3は、ボールジョイントの雌側が形成され、ピットマンアームP(図2参照)に立設されたボールスタッドB1に回転自在に嵌め合わされている。
ドラッグリンク10の他端のステアリングアーム側のエンド4は、同様にボールジョイントの雌側が形成され、図示しないステアリングアームに立設されたボールスタッドB2に回転自在に嵌め合わされている。
そして、チューブ1は、図示しない車両の他の部材との干渉を避けるため(例えば、タイヤを内側に切った場合に干渉するのを避ける)、適切な曲げ形状に形成されている。
【0019】
次に図3を参照して、前記エンド接続部分2について説明する。
図3において、エンド接続部分2は中空構造であって、そのエンド3側(図3では上側)にはエンド部回転構造2aが形成されている。
エンド部回転構造2aには、ピットマンアームP側のエンド3の一端3aが挿入されており、エンド3の軸方向(図3では上下方向)については固定されているが、エンド3の長手方向中心線(図3では上下方向に延在する中心線)回りに回転自在である様に係止されている。
エンド部回転構造2aは、エンド3の一端3a(エンド3の挿入部)を回転自在に支持している。そして、エンド部回転構造2aにおけるエンド3軸方向の強度は、ドラッグリンク10に負荷される荷重に充分耐えるように構成されている。
【0020】
中空のエンド接続部分2において、エンド3の一端3aよりもチューブ1側(図3の下側)の領域には、雌ネジ2bが形成されている。
この雌ネジ2bには、チューブ1の端部(図3では上端部)に形成された雄ネジ1aが螺合しており、ロックナット5、5(図1参照)で固着されている。
【0021】
図1〜図3の第1実施形態によれば、ピットマンアーム側のエンド3はチューブ1に対して回動自在に構成されているので、当該エンド3が回動することにより、ドラッグリンク10をピットマンアームPに取り付ける角度を調整することが出来る。
そのため、車種によりドラッグリンクをピットマンアームに取り付ける角度が異なったとしても、第1実施形態に係るドラッグリンク10により、当該角度の相違を吸収することにより対応出来る。そのため、第1実施形態に係るドラッグリンク10については、多種類を用意する必要がない。
【0022】
また、ドラッグリンクの特性上、長さが異なるものを用意する必要がある場合が存在する。これに対して、第1実施形態によれば、ピットマンアームP側のエンド3にネジ構造を設けているので、ネジ構造の雄ネジ1aと雌ネジ2bとが噛み合っている長さを調節することにより、エンド3を含めたドラッグリンク10全体の長さを調節することができる。
エンド3のネジ構造における雄ネジ1aと雌ネジ2bの噛み合い長さを調整することにより、エンド3のピットマンアームPへの組み付け角度が調整可能であり、ねじ込み時の角度誤差を吸収することができる。そのため、第1実施形態に係るドラッグリングを組み付ける作業が容易となる。
そして、第1実施形態によれば、ドラッグリンクを共通化出来るので、部品点数を減少して、部品管理に要する労力やコストを軽減することが出来る。
【0023】
次に、図4〜図6を参照し、本発明の第2実施形態を説明する。
図1〜図3の第1実施形態に係るドラッグリンク10は、ピットマンアーム側のエンド3は回動自在に構成されている。ここで、このピットマンアーム側のエンド3は360°回転する必要はなく、±20°程度回動すれば良い。
図4〜図6の第2実施形態では、その様な観点から、ピットマンアーム側のエンド3Aに回り止め用のストッパ6を設け、当該エンド3Aを±20°程度回動する様に構成している。
【0024】
図4〜図6に示す第2実施形態において、エンド接続部分2Aに設けられたエンド部回転構造2aには、回り止め機構が設けられている。この回り止め機構により、エンド3Aの挿入部3aがエンド接続部分2Aに対して回動する回動量が、制限される。
この回り止め機構は、エンド部3Aの挿入部3aに形成された突起6と、エンド接続部分2Aに形成された開口2dにより構成されている。そして、突起6は、前記開口2dから接続部分2Aの外部に向かって(図6では左側に)突出している。
エンド部3Aとチューブ1とが相対的に、例えば±20°程度回動すると、突起6が開口2dの縁部と当接して、それ以上の相対的な回動を制限している。
【0025】
図4〜図6の第2実施形態によれば、ピットマンアーム側のエンド3Aはチューブ1に対して回動角度が制限されている。ただし、ドラッグリンク10AをピットマンアームPに取り付けるには、充分調整可能な角度が確保されており、かつ必要以上の回動が規制されているので、ドラッグリンク10Aの組み付けが、より容易になる。
図4〜図6の第2実施形態における上記以外の構成及び作用効果は、図1〜図3の第1実施形態と同様である。
【0026】
なお、図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0027】
1、1A、1D・・・チューブ(本体部)
2、2A・・・エンド接続部分
3、3A、3D・・・ピットマンアーム側エンド
4、4D・・・ステアリングアーム側エンド
6・・・ストッパ
10、10A、10D・・・ドラグリンク
B1・・・ピットマンアーム側ボールスタッド
B2・・・ステアリングアーム側ボールスタッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピットマンアームと連結可能に構成されたエンドと、当該エンドに接続している接続部分と、本体部とを有し、前記本体部の前記接続部分側の端部には雄ネジが形成されており、前記接続部分は、前記エンドと回動可能に接続している回転構造部分と、本体部と接続する中空構造部とを有しており、当該中空構造部には本体部に形成された前記雄ネジと螺合する雌ネジが形成されていることを特徴とするドラッグリンク。
【請求項2】
前記接続部分に設けられた前記回転構造部分には、前記エンドと接続部分との相対的な回動量を制限するストッパ構造が設けられている請求項1のドラッグリンク。
【請求項3】
前記ストッパ構造は、エンド部のシャフトに構成された突起と、前記接続部分に形成された開口とにより構成され、前記突起は前記開口から接続部分の外部に突出している請求項2のドラッグリンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−117547(P2011−117547A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276232(P2009−276232)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】