説明

ドーム型押圧スイッチ

【課題】 本発明は、ドーム状金属バネの耐食性や耐摩耗性の向上を図ったドーム型押圧スイッチを提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、ステンレス又はリン青銅の薄い金属板からなるドーム状金属バネ120を備えたドーム型押圧スイッチ100において、金属バネ表面にAg層を介してロジウム層が形成されているドーム型押圧スイッチにあり、このロジウム層は耐食性に優れ、硬度も高く(ビッカース硬度Hv=800〜1000)、長期的に渡って安定した特性を呈することから、極めて薄い層の形成でも、耐食性や耐摩耗性の向上を図ったドーム型押圧スイッチが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーム状金属バネの耐食性や耐摩耗性の向上を図ったドーム型押圧スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ドーム状金属バネを備えたドーム型押圧スイッチが、携帯電話などを中心にして、種々の電子機器において広く使用されている。ドーム状金属バネは、それ自体が一方の電極をなし、スイッチ操作時(ON、OFF時)、ドーム自体が変形して(潰れたり、バネ復帰して)、ドーム直下の他方の電極である、固定電極側と接触したり、離脱したりするものである。
【0003】
ドーム状金属バネの素材は、通常ステンレスやリン青銅などの薄い金属板からなり、固定電極側との接触抵抗を低減させるため、AgメッキによりAg層を施してある。
しかしながら、Ag層の場合、酸化や硫化に対する耐食性に難があり、Ag層が変色して、接触抵抗が増加するという問題があった。また、機械的な接触部分(固定電極側との接触部分など)では、繰り返しの押圧接触により、摩耗し易いという問題もあった。
【0004】
このため、耐食性については、従来から、Ag層上にさらにAuやAu合金をメッキして、耐食性を向上させることが行われているが(特許文献1)、AuやAu合金は柔らかく機械的な強度が小さいため、摩耗し易く、耐摩耗性に問題があった。勿論、このようにして摩耗すると、下層のAg層が現れるため、耐食性の低下が避けられない。
【特許文献1】特開2002−334628公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者等は、Ag層上に、耐食性や耐摩耗性を向上させるため、種々の金属メッキを施して、試験したところ、ロジウム(Rh)層を設けると、後述するように、良好な結果が得られることを見い出した。
つまり、ロジウムは耐食性に優れ、硬度も高く(ビッカース硬度Hv=800〜1000)、長期的に渡って安定した特性を呈することから、極めて薄い層(0.005〜0.020μm)の形成でも、ドーム状金属バネにおいて、十分耐食性や耐摩耗性を向上させることができることを見い出したのである。
【0006】
本発明は、このような着想に基づきなされたもので、少なくともドーム状金属バネの他の部材(主に固定接点)との機械的な接触部分に、ロジウム層を形成して、耐食性や耐摩耗性の向上を図ったドーム型押圧スイッチを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明は、ドーム状金属バネを備えたドーム型押圧スイッチにおいて、前記金属バネ表面にロジウム層が形成されていることを特徴とするドーム型押圧スイッチにある。
【0008】
請求項2記載の本発明は、前記ドーム状金属バネがステンレス又はリン青銅の薄い金属板からなり、その表面に施した貴金属層又はその他の金属層上に前記ロジウム層が形成されていることを特徴とする請求項1記載のドーム型押圧スイッチにある。
【0009】
請求項3記載の本発明は、前記ロジウム層が、ドーム状金属バネの少なくとも固定接点側と接触する面側に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のドーム型押圧スイッチにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のドーム型押圧スイッチによると、少なくともドーム状金属バネの他の部材(主に固定接点)との機械的な接触部分に、ロジウム層を形成してあるため、耐食性や耐摩耗性の向上を図ることができる。つまり、繰り返しの押圧操作によっても、ロジウム層が摩耗し難く、酸化や硫化による変色などにも強いため、経時的に安定した抵抗特性のスイッチが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に係るドーム型押圧スイッチの一例を示したものである。
このドーム型押圧スイッチ100において、110はスイッチ基板、120はこのスイッチ基板110に設置された、一方の電極をなすドーム状金属バネ、130はスイッチ基板110側に埋設された、他方の電極をなす固定接点、140はドーム状金属バネ120のドーム頂部121を押圧する押圧凸部141と操作用のボタン凸部142を有する押圧ボタン、150は押圧ボタン用のホルダ、160は押圧ボタン140のボタン凸部142が貫通される貫通穴161を有するカバー、170、170はスイッチ基板110側に埋設された、ドーム状金属バネ120側のリード線部である。
【0012】
このドーム型押圧スイッチ100では、使用者(操作者)が、押圧ボタン140のボタン凸部142を押圧すると、押圧凸部141がドーム状金属バネ120のドーム頂部121を押し潰す。これにより、その内側が固定接点130の接点部131に接触するため、電気的な通電(ON)が得られる。
【0013】
逆に、使用者(操作者)が、押圧ボタン140から押圧力を解除すると、ドーム状金属バネ120が、バネ復帰(バネ復元力)により元の状態に戻り、押圧ボタン140を元の位置に復帰させる一方、その内側が固定接点130の接点部131から離れるため、電気的な切断(OFF)が得られる。
【0014】
このような動作を行う、ドーム状金属バネ120は、通常ステンレスやリン青銅の薄い金属板からなる。そして、その表面、少なくとも固定接点130と接触する側には、図2に示すように、予め貴金属層、例えば、AgメッキなどによりAg層210を形成した上で、さらに、このAg層210上にロジウム層220を形成してある。また、リン青銅の場合は、Ag層に替えて、メッキなどによりNi層を形成した上にロジウム層を形成することもできる。Agメッキについては、特に限定されないが、例えば、メッキ浴組成として、シアン化銀5g/l(リットル)、シアン化カリウム20g/l、炭酸カリウム10g/lのものを用い、電流密度0.5A/dm2 、浴温度25℃のもとで行えばよい。
【0015】
ロジウム層220をAg層210上に形成する場合、その方法は、特に限定されないが、例えば、メッキ法やスパッタ法などにより行えばよい。そして、その厚さは0.005〜0.020μm程度でよい。その理由は、以下の試験結果から明らかなように、このように薄い層であっても、十分な耐食性や耐摩耗性の向上効果が得られるからである。また、薄い層でも十分機能するということで、ロジウムの使用量が少なくて済むというメリットも得られる。
【0016】
メッキ法によるロジウム層の形成にあたっては、特に限定されないが、例えば、メッキ浴組成として、ロジウム2g/l(リットル)、硫酸40g/l、光沢剤適量のものを用い、電流密度1.0A/dm2 、浴温度50℃のもとで行えばよい。
【0017】
因みに、図1と同構造のドーム型押圧スイッチとして、本発明のように、ロジウム層を形成したドーム状金属バネを用いたものと、ロジウム層のないもののサンプル(各n=40個)を製造した。ドーム状金属バネの素材はステンレス(SUS301、厚さ=50μm)で、メッキ法によりAg層(厚さ=1.0μm)が予め形成されたものである。ドームの外径(直径)は4mmとした。そして、ロジウム層の厚さについては、3種類(0.005μm、0.010μm、0.020μm)のものを製造した。
【0018】
これらの各サンプルスイッチについて、繰り返し押圧を与える打鍵試験を行い、試験前後のドーム状金属バネと固定接点との接触抵抗(平均値)を測定した。
つまり、試験前にスイッチの押圧ボタンを押圧して、スイッチONの状態で、金属バネと固定接点との接触抵抗を、各サンプルのスイッチについて測定した。次に、繰り返しの打鍵試験では、先端径がシリコーンゴム部材(硬度:Hs60°)からなる打鍵部として用い、各サンプルスイッチの押圧ボタンを、動作速度3回/秒で8N(ニートン)の押圧荷重を300万回作用させて行った。そして、この打鍵試験の終了後、上記と同様、スイッチの押圧ボタンを押圧して、スイッチONの状態で、金属バネと固定接点との接触抵抗を、各サンプルスイッチについて測定した。その結果が表1の如くであった。
【0019】
【表1】

【0020】
この表1から、ロジウム層を形成したドーム状金属バネを用いた、本発明に係るスイッチの場合、すべて打鍵試験の前後において、接触抵抗の変化が殆どないことが分る。つまり、0.005〜0.020μmの極めて薄い層のロジウム層であっても、十分な耐摩耗性が得られることが分る。これに対して、ロジウム層のないものにあっては、打鍵試験の前後において、ドーム状金属バネと固定接点との接触抵抗の変化(0.01Ω→1.02Ω)が大きく、耐摩耗性が不十分であることが分る。
【0021】
次に、上記と同様にして、図1と同構造のドーム型押圧スイッチとして、本発明のように、ロジウム層を形成したドーム状金属バネを用いたものと、ロジウム層のないもののサンプル(各n=40個)を製造した。ドーム状金属バネの素材はステンレス(SUS301、厚さ=50μm)で、ドーム状金属バネの素材はステンレス(SUS301、厚さ=50μm)で、メッキ法によりAg層(厚さ=1.0μm)が予め形成されたものである。ドームの外径(直径)は4mmとした。そして、ロジウム層の厚さについては、3種類(0.005μm、0.010μm、0.020μm)のものを製造した。
【0022】
これらの各サンプルスイッチについて、硫化水素を用いた硫化試験(濃度:4ppm、温度:40℃、湿度:80%)を行い、試験前後のドーム状金属バネと固定接点との接触抵抗(平均値)を測定した。
つまり、試験前にスイッチの押圧ボタンを押圧して、スイッチONの状態で、金属バネと固定接点との接触抵抗を、各サンプルのスイッチについて測定した。次に、硫化試験では、上記硫化条件の容器内に各サンプルスイッチを入れ、96時間放置して行った。そして、この硫化試験の終了後、上記と同様、スイッチの押圧ボタンを押圧して、スイッチONの状態で、金属バネと固定接点との接触抵抗を、各サンプルスイッチについて測定した。その結果が表2の如くであった。
【0023】
【表2】

【0024】
この表2から、ロジウム層を形成したドーム状金属バネを用いた、本発明に係るスイッチの場合、すべて硫化試験の前後において、接触抵抗の変化が殆どないことが分る。つまり、0.005〜0.020μmの極めて薄い層のロジウム層であっても、十分な耐食性が得られることが分る。これに対して、ロジウム層のないものにあっては、硫化試験の前後において、ドーム状金属バネと固定接点との接触抵抗の変化(0.01Ω→0.82Ω)が大きく、耐食性が不十分であることが分る。
【0025】
なお、上記説明では、ドーム型押圧スイッチの構造が図1に示したものであったが、本発明は、必ずしもこのような構造のみのものに限定されるものではない。ドーム状金属バネを備えた押圧スイッチに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るドーム型押圧スイッチの一例を示した縦断面図である。
【図2】図1の押圧スイッチにおけるドーム状金属バネの拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0027】
100・・・ドーム型押圧スイッチ、110・・・スイッチ基板、120・・・ドーム状金属バネ、130・・・固定接点、140・・・押圧ボタン、150・・・ホルダ、160・・・カバー、210・・・Ag層、220・・・ロジウム層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーム状金属バネを備えたドーム型押圧スイッチにおいて、前記金属バネ表面にロジウム層が形成されていることを特徴とするドーム型押圧スイッチ。
【請求項2】
前記ドーム状金属バネがステンレス又はリン青銅の薄い金属板からなり、その表面に施した貴金属層又はその他の金属層上に前記ロジウム層が形成されていることを特徴とする請求項1記載のドーム型押圧スイッチ。
【請求項3】
前記ロジウム層が、ドーム状金属バネの少なくとも固定接点側と接触する面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のドーム型押圧スイッチ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−351255(P2006−351255A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173104(P2005−173104)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】