説明

ナノインプリント用樹脂スタンパ及びこれを使用したナノインプリント装置

【課題】良好なスループットを維持できるように十分な光透過性を有すると共に、被転写体に対する微細パターンの転写精度に優れ、しかも繰り返し転写性にも優れるナノインプリント用樹脂スタンパ及びこれを使用したナノインプリント装置を提供する。
【解決手段】複数の重合性官能基を有する主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有し、前記シルセスキオキサン誘導体とは別の重合性樹脂成分と、光重合開始剤とを含有する樹脂組成物の重合体からなる微細構造体層を、光透過性の支持基材上に備えるナノインプリント用樹脂スタンパ3であって、前記光重合開始剤は、前記シルセスキオキサン誘導体、及び前記重合性樹脂成分の合計の質量に対して、0.3質量%以上、3質量%以下であり、前記微細構造体層は、波長365nmの光を80%以上透過することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被転写体に押し付けてその表面に微細構造体(微細パターン)を形成するためのナノインプリント用樹脂スタンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス等で必要とされる微細パターンを加工する技術として、フォトリソグラフィ技術が多く用いられてきた。しかし、パターンの微細化が進み、要求される加工寸法が露光に用いられる光の波長程度まで小さくなるとフォトリソグラフィ技術での対応が困難となってきた。そのため、これに代わり、荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
この電子線を使用したパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を使用したパターン形成における一括露光方法と異なり、マスクパターンを直接描画する方法をとる。よって、描画するパターンが多いほど露光(描画)時間が増加し、パターン完成までに時間がかかるという欠点があり、半導体集積回路の集積度が高まるにつれて、パターン形成に必要な時間が増大して、スループットが低下することが懸念される。
【0004】
そこで、電子線描画装置の高速化を図るために各種形状のマスクを組み合わせて、それらに一括して電子ビームを照射することで複雑な形状の電子ビームを形成する、一括図形照射法の開発が進められている。しかしながら、パターンの微細化が進む一方で、電子線描画装置の大型化や、マスク位置の高精度制御等、装置コストが高くなるという欠点があった。
【0005】
これに対し、高精度なパターン形成を低コストで行うための技術として、ナノインプリント技術が知られている。このナノインプリント技術は、形成しようとする微細パターンの凹凸に対応する凹凸(表面形状)が形成されたスタンパを、例えば所定の基板上に樹脂層を形成して得られる被転写体に型押しするものであり、微細パターンを樹脂層に転写して形成することができる。
また、光透過性を有するスタンパを使用すると、光硬化性樹脂からなる前記樹脂層に対して、このスタンパを型押しし、このスタンパを介して光を照射することで、この樹脂層を硬化させることができる。
このようなナノインプリント技術は、大容量記録媒体における記録ビットのパターンの形成や、半導体集積回路のパターンの形成への応用が検討されている。
【0006】
従来のナノインプリント技術に用いられてきたスタンパであって光透過性を有するものとしては、石英等のハードスタンパが知られている。
しかしながら、石英等のハードスタンパは、転写の際、被転写基板の反りや突起に追従できず、広範囲で転写不良領域が発生する問題があった。また、転写不良領域を低減させるためには、前記樹脂層を形成する被転写基板の反りと突起との両方を吸収することがスタンパに要求される。そこで、被転写基板の反りと突起の両方に追従するように、柔軟な樹脂で肉厚に形成したスタンパ(ソフトスタンパ)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなソフトスタンパは、柔軟で肉厚な樹脂で被転写基板の反りや突起に追従することで、転写不良を防止することができる。
【0007】
その一方で、ナノインプリント技術に用いられるスタンパにおいては、被転写体に対する離型性が重要となる。従来、石英等のハードスタンパの表面をフッ素系の離型剤により処理したものが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、フッ素系樹脂や、シリコーン系樹脂を使用したスタンパも知られている(例えば、特許文献3参照)。このような離型性を付与したスタンパによれば、被転写体に対する離型性を向上させることによって、被転写体に対する微細パターンの転写精度を向上させることができる。
しかしながら、フッ素系の離型剤により処理した石英等のハードスタンパは、転写不良が生じやすいことは前記したとおりである。また、フッ素系樹脂や、シリコーン系樹脂を使用したスタンパについても、被転写基板の反りや突起に対する追従性は前記したソフトスタンパに比べて不十分であり、転写不良を十分に防止することができない問題がある。
そこで、前記したソフトスタンパの表面に離型処理を施こすことも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−5972号公報
【特許文献2】特開2004−351693号公報
【特許文献3】特開2009−1002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ソフトスタンパは、その厚さが増大することで光透過性が低下するために、このソフトスタンパを介して前記した光硬化性の樹脂層に光(例えば、波長365nmの紫外光)を照射した際に、樹脂層の硬化時間が長くなってスループットが低下する新たな問題が生じる。また、光透過性が低下したソフトスタンパは、吸収した光に起因して熱膨張することで、転写精度が低下する問題がある。
そして、ソフトスタンパの表面に離型剤を塗布すると、その濡れ性等によって塗布厚にむらが生じて却って微細パターンの転写精度が低下する問題がある。また、ソフトスタンパの表面に形成された離型層は、繰り返して転写を行うことで劣化しやすく、いわゆる繰返し転写性も不十分なものとなる。
したがって、ナノインプリント技術に用いられてきた光透過性のスタンパにおいては、良好なスループットを維持できるように十分な光透過性を有すると共に、被転写体に対する微細パターンの転写精度に優れ、しかも繰り返し転写性にも優れるナノインプリント用樹脂スタンパが望まれている。
【0010】
そこで、本発明の課題は、良好なスループットを維持できるように十分な光透過性を有すると共に、被転写体に対する微細パターンの転写精度に優れ、しかも繰り返し転写性にも優れるナノインプリント用樹脂スタンパ及びこれを使用したナノインプリント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する本発明は、複数の重合性官能基を有する主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有し、前記シルセスキオキサン誘導体とは別の重合性樹脂成分と、光重合開始剤とを含有する樹脂組成物の重合体からなる微細構造体層を、光透過性の支持基材上に備えるナノインプリント用樹脂スタンパであって、前記光重合開始剤は、前記シルセスキオキサン誘導体、及び前記重合性樹脂成分の合計の質量に対して、0.3質量%以上、3質量%以下であり、前記微細構造体層は、波長365nmの光を80%以上透過することを特徴とする。
【0012】
また、前記課題を解決する本発明は、複数の重合性官能基を有する主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有し、前記シルセスキオキサン誘導体とは別の重合性樹脂成分と、熱重合開始剤とを含有する樹脂組成物の重合体からなる微細構造体層を、光透過性の支持基材上に備えるナノインプリント用樹脂スタンパであって、前記熱重合開始剤は、前記シルセスキオキサン誘導体、及び前記重合性樹脂成分の合計の質量に対して、0.5質量%以上、15質量%未満であり、前記微細構造体層は、波長365nmの光を80%以上透過することを特徴とする。
【0013】
また、前記課題を解決する本発明のナノインプリント装置は、前記ナノインプリント用樹脂スタンパと、このナノインプリント用樹脂スタンパを固定する固定ブロックと、被転写体を保持するステージブロックと、前記ナノインプリント用樹脂スタンパと前記被転写体とを接触させた後に離反させるように前記固定ブロック及び前記ステージブロックのうちの少なくとも一方を駆動する駆動機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好なスループットを維持できるように十分な光透過性を有すると共に、被転写体に対する微細パターンの転写精度に優れ、しかも繰り返し転写性にも優れるナノインプリント用樹脂スタンパ及びこれを使用したナノインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るナノインプリント装置の構成説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパの構成説明図である。
【図3】(a)から(c)は、ナノインプリント用樹脂スタンパの製造方法を模式的に示す工程説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパの構成説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパを示す模式図である。
【図6】微細構造体層の形成に使用した樹脂組成物における光重合開始剤の含有率と、微細構造体層の光透過率及び最大寸法変化率との関係を示すグラフであり、横軸が光重合開始剤の含有率[%]を示し、右縦軸が最大寸法変化率[%]を示し、左縦軸が微細構造体層の光透過率[%]を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態のナノインプリント用樹脂スタンパ及びこれを用いたナノインプリント装置について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。ここではナノインプリント装置の全体構成について説明した後に、ナノインプリント用樹脂スタンパについて説明する。
【0017】
(ナノインプリント装置)
図1に示すように、本実施形態に係るナノインプリント装置Ipは、筐体としての真空チャンバC内に、昇降機構11で昇降すると共に被転写体5が取り付けられたステージブロック12と、後記するナノインプリント用樹脂スタンパ3(図2参照)が取り付けられた固定ブロック13とを備えている。なお、昇降機構11は、特許請求の範囲にいう「駆動機構」に相当する。
【0018】
本実施形態での昇降機構11は、真空チャンバC内の底部に支持されており、発生する推力が電空レギュレータ(図示省略)で調整可能となっている。そして、昇降機構11は、発生した推力を、図示しない駆動軸を介してステージブロック12に入力することでステージブロック12を昇降するようになっている。
【0019】
被転写体5は、被転写基板7と、この被転写基板7の表面に層状に配置された樹脂層6とを備えている。
被転写基板7としては、要求される強度と加工精度が実現できれば特に制限はなく、例えば、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、石英、セラミック、プラスチック等が挙げられる。
本実施形態での樹脂層6は、光硬化性樹脂からなるものを想定している。
【0020】
このような被転写体5は、樹脂層6がナノインプリント用樹脂スタンパ3と向き合うように、ステージブロック12の上面に保持されている。つまり、昇降機構11でステージブロック12が上昇することで、後記するように、被転写体5の樹脂層6がナノインプリント用樹脂スタンパ3に押し当てられることとなる。
【0021】
ナノインプリント用樹脂スタンパ3は、ステージブロック12の上方に配置されて、真空チャンバC内の天井部に固定ブロック13を介して交換可能に取り付けられている。このナノインプリント用樹脂スタンパ3の被転写体5に対向する面には、微細パターン3aが形成されている。
なお、この固定ブロック13の内部には、紫外光を照射する光源14が配置されており、この光源14は、ナノインプリント用樹脂スタンパ3を介して紫外光を被転写体5に照射するように構成されている。ちなみに、本実施形態でのナノインプリント用樹脂スタンパ3は、後記するように、光透過性、特に、紫外光透過性を有するものを想定している。
【0022】
(ナノインプリント用樹脂スタンパ)
図2に示すように、本実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパ3は、支持基材1上に微細構造体層2を有している。ここで微細構造とは、ナノメートルからマイクロメートルのサイズで形成された構造のことを指す。具体的には、複数の微小突起が規則的に配置されたドットパターンや、これとは逆に微小凹部が規則的に配置されたパターン、複数の条が規則的に配置されたラメラパターン(ラインアンドスペースパターン)等が挙げられる。これらの微細パターン3aは、微細構造体層2の表面に形成されている。
【0023】
前記支持基材1としては、微細構造体層2を保持する機能を有するものであれば、形状、材料、サイズ、作製方法は特に限定されない。
支持基材1の形状としては、平面形状で円形、正方形、長方形等が挙げられ、中でも長方形が好ましい。
【0024】
支持基材1の材料としては、光透過性材料からなるものが使用される。特に、ガラス、石英等のように強度と加工性を有するものであればよい。このような透明性が高い材料で支持基材1を形成すると、微細構造体層2を後記するように光硬化性樹脂で構成する場合にこの光硬化性樹脂に光が効率的に照射されることとなる。また、このような透明性が高い材料で支持基材1を形成すると、支持基材1と微細構造体層2との間に光硬化性樹脂で形成される緩衝層(図示省略)を設ける場合においても、この緩衝層となる光硬化性樹脂に光が効率的に照射されることとなる。
また、支持基材1の表面には、微細構造体層2や前記した緩衝層(図示省略)との接着力を強化するためにカップリング処理を施すことができる。
【0025】
また、支持基材1は、弾性率の異なる2種以上の層で構成することもできる。このような支持基材1においては、弾性率の高い層と低い層との積層順や、組み合わせ、層数等について特に制限はない。
【0026】
このような2種以上の層を有する支持基材1としては、例えば、前記した材料を2種以上選択して各層を形成したものや、前記した材料からなる層と樹脂からなる層とを組み合せたもの、樹脂からなる層同士を組み合せたもの等が挙げられる。
【0027】
前記した樹脂の具体例としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル(UP)、アルキド樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂(EP)、ポリイミド(PI)、ポリウレタン(PUR)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ABS樹脂、AS樹脂、AAS樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリレート、酢酸セルロース、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド、シクロオレフィンポリマ、ポリ乳酸、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。これらのいずれかを単独で用いても、異なる樹脂を複数混合して用いてもよい。
【0028】
以上のような支持基材1における光透過率は、例えば、波長365nmの光を90%以上透過することが望ましい。
【0029】
前記微細構造体層2は、次に説明する光硬化性又は熱硬化性である樹脂組成物の重合体で構成されており、その表面に、ナノメートルからマイクロメートルのサイズの微細構造を有している。
【0030】
(樹脂組成物)
微細構造体層2を形成する樹脂組成物は、複数の重合性官能基を有するシルセスキオキサン誘導体を主成分として含むと共に、複数の重合性官能基を有するモノマ成分と、光重合開始剤又は熱重合開始剤とを更に含んで構成されている。ちなみに、光重合開始剤を含む樹脂組成物は、光硬化性のものとなり、熱重合開始剤を含む樹脂組成物は、熱硬化性のものとなる。
なお、モノマ成分は、特許請求の範囲にいう「シルセスキオキサン誘導体とは別の重合性樹脂成分」に相当する。
【0031】
<シルセスキオキサン誘導体>
シルセスキオキサン誘導体は、RSiO1.5の組成式で示されるネットワーク状ポリシロキサンの総称である。このシルセスキオキサン誘導体は、構造的には無機シリカ(組成式;SiO)と有機シリコーン(組成式;RSiO)との中間に位置付けられ、特性も両者の中間であることが知られている。
【0032】
このようなシルセスキオキサン誘導体の具体例としては、例えば、下記式(1)から式(5)で示されるものが挙げられる。ちなみに、式(1)ははしご構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(2)はランダム構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(3)はT8構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(4)はT10構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(5)はT12構造のシルセスキオキサン誘導体を示している。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
但し、前記式(1)から式(5)で示される各シルセスキオキサン誘導体において、Rは、相互に同一でも異なっていてもよく、各Rは水素原子又は有機基を表しているが、各シルセスキオキサン誘導体における複数のRのうち、2以上、望ましくは3以上が後記する重合性官能基である。
【0036】
重合性官能基としては、ビニル基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基、及び(メタ)アクリル基から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
【0037】
このようなシルセスキオキサン誘導体は、本発明のナノインプリント用樹脂スタンパ3(図2参照)を使用した後記する転写方法で選ばれる光硬化性樹脂からなる樹脂層6(図1参照)の硬化機構と、シルセスキオキサン誘導体の硬化機構とが異なるものが望ましい。具体的には、転写用の硬化性樹脂材料がラジカル重合性のものである場合には、光カチオン重合性のシルセスキオキサン誘導体が望ましく、逆に転写用の硬化性樹脂材料が光カチオン重合性であれば、光ラジカル重合性のシルセスキオキサン誘導体が望ましい。
シルセスキオキサン誘導体は、上市品を使用することができる。
以上のようなシルセスキオキサン誘導体は、樹脂組成物における主成分をなすものであり、その含有率は、50質量%以上、望ましくは70%以上であればよい。
【0038】
<モノマ成分>
モノマ成分としては、ビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選ばれる重合性官能基を2以上含有するものが挙げられ、骨格等に制限はないが、前記したシルセスキオキサン誘導体が有する重合性官能基と同機構で硬化するモノマ成分が望ましい。また、モノマ成分としては、パーフルオロ骨格を有するもの(フッ素成分)を使用することができる。
【0039】
エポキシ基を有するモノマ成分としては、例えば、ビスフェノールA系エポキシ樹脂モノマ、水添ビスフェノールA系エポキシ樹脂モノマ、ビスフェノールF系エポキシ樹脂モノマ、ノボラック型エポキシ樹脂モノマ、脂肪族環式エポキシ樹脂モノマ、脂肪族直鎖エポキシ樹脂モノマ、ナフタレン型エポキシ樹脂モノマ、ビフェニル型エポキシ樹脂モノマ、2官能アルコールエーテル型エポキシ樹脂モノマ等が挙げられる。
【0040】
オキセタニル基を有するモノマ成分としては、例えば、3−エチル−3−{[3−エチルオキセタン−3−イル]メトキシメチル}オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0041】
ビニルエーテル基を有するモノマ成分としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、イソフタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、グルタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、コハク酸ジ(4−ビニロキシ)ブチルトリメチロールプロパントリビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0042】
以上、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基のいずれかの官能基を有する有機成分を例示したが、本発明はこれに限定されない。分子鎖中にビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等の重合性官能基を有するものであれば基本的に本発明に用いることができる。また、本実施形態でのモノマ成分は、常温で液体のものを想定しているが、固体のものをも使用することもできる。
なお、本実施形態でのモノマ成分は、1種又は2種以上の組み合わせで使用される。
以上のようなモノマ成分の樹脂組成物における含有率は、1質量%以上、50質量%未満とすることができる。
【0043】
<光重合開始剤>
光重合開始剤としては、樹脂組成物に含まれるシルセスキオキサン誘導体や、モノマ成分の重合性官能基に合わせて適宜選択される。この光重合性開始剤の種類としては、紫外光の照射によりラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤、紫外光の照射によりアニオンを発生する光アニオン重合開始剤、及び紫外光の照射によりカチオンを発生する光カチオン重合開始剤等が挙げられる。中でも光カチオン重合開始剤は酸素阻害による硬化不良を防ぐ点において望ましい。
【0044】
光カチオン重合開始剤としては、求電子試薬であり、カチオン発生源を持っているもので、有機成分を光により硬化させるものであれば特に制限はなく、公知の光カチオン重合開始剤を用いることができる。特に、紫外光により硬化を開始させる光カチオン重合開始剤は、室温での凹凸パターン形成が可能となり、より高精度なマスタモールドからのレプリカ形成が可能となるので望ましい。
【0045】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、鉄−アレン錯体化合物、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ピリジニウム塩、アルミニウム錯体/シリルエーテルや、プロトン酸、ルイス酸等が挙げられる。
【0046】
紫外光により硬化を開始する光カチオン重合開始剤の具体的な例としては、例えば、IRGACURE261(チバガイギー社製)、アデカオプトマーS P-150(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP-151(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP-152(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP-170 (ADEKA社製)、アデカオプトマーSP-171(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP-172(ADEKA社製)、アデカオプトマーSP-300(ADEKA社製)、UVE-1014(ゼネラルエレクトロニクス社製)、CD-1012(サートマー社製)、サンエイドSI-60L(三新化学工業社製) 、サンエイドSI-80L(三新化学工業社製)、サンエイドSI-100L(三新化学工業社製)、サンエイドSI-110(三新化学工業社製)、サンエイドSI- 180(三新化学工業社製)、CI-2064 (日本曹達社製)、CI-2639(日本曹達社製)、CI-2624(日本曹達社製)、CI-2481(日本曹達社製)、Uvacure 1590(ダイセルUCB)、Uvacure 1591(ダイセルUCB)、RHODORSILPhotoInItiator2074 (ローヌ・プーラン社製)、UVI-6990(ユニオンカーバイド社製)、BBI-103(ミドリ化学社製)、MPI-103(ミドリ化学社製)、TPS-103(ミドリ化学社製)、MDS-103(ミドリ化学社製)、DTS-103(ミドリ化学社製)、DTS-103(ミドリ化学社製)、NAT-103(ミドリ化学社製)、NDS-103(ミドリ化学社製)、CYRAURE UVI6990(ユニオンカーバイト日本)等が挙げられる。
以上のような光重合開始剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
樹脂組成物における光重合開始剤の含有率は、前記したシルセスキオキサン誘導体及びモノマ成分の樹脂組成物における合計質量に対する質量%、つまりその合計質量を100とした場合に、0.3質量%以上(0.3質量部以上)、3質量%以下(3質量部以下)、望ましくは1質量%以上(1質量部以上)、3質量%以下(3質量部以下)に設定される。
このような範囲内に、光重合開始剤の含有率を設定することで、十分な光透過性(波長
波長365nmの紫外光では透過率80%以上)を有すると共に、図1に示す被転写体5(樹脂層6)に対する微細パターンの転写精度に優れ、しかも繰り返し転写性にも優れる微細構造体層2(図2参照)を形成することができる。
【0048】
<熱重合開始剤>
熱重合開始剤としては、樹脂組成物に含まれるシルセスキオキサン誘導体や、モノマ成分の重合性官能基に合わせて適宜選択される。熱重合開始剤の種類としては、加熱によりラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤、加熱によりカチオンを発生する熱カチオン重合開始剤が挙げられる。中でも熱カチオン重合開始剤は酸素阻害による硬化不良を防ぐ点において望ましい。熱カチオン重合開始剤としては求電子試薬であり、カチオン発生源を持っているもので、有機成分を熱により硬化させるものであれば特に制限はなく公知の熱カチオン重合開始剤を用いることができる。
【0049】
熱により硬化を開始する熱カチオン重合開始剤の具体的な例としては、例えば、サンエイドSI-60L(三新化学工業社製) 、サンエイドSI-80L(三新化学工業社製)、サンエイドSI-100L(三新化学工業社製)、サンエイドSI-110(三新化学工業社製)、サンエイドSI- 180(三新化学工業社製)、アデカオプトマーCP-66(ADEKA社製)、アデカオプトマーCP-77(ADEKA社製)等が挙げられる。
以上のような熱重合開始剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、前記した光重合開始剤と熱重合開始剤とは、組み合わせて使用することもできる。
【0050】
樹脂組成物における熱重合開始剤の含有率は、前記したシルセスキオキサン誘導体及びモノマ成分の樹脂組成物における合計質量に対する質量%、つまりその合計質量を100とした場合に、0.5質量%以上(0.5質量部以上)、15質量%未満(15質量部未満)、望ましくは1質量%以上(1質量部以上)、10質量%以下(10質量部以下)、より望ましくは1質量%以上(1質量部以上)、5質量%以下(5質量部以下)に設定される。
このような範囲内に、熱重合開始剤の含有率を設定することで、十分な光透過性を有すると共に、図1に示す被転写体5(樹脂層6)に対する微細パターンの転写精度に優れ、しかも繰り返し転写性にも優れる微細構造体層2(図2参照)を形成することができる。
【0051】
以上のような樹脂組成物は、光重合開始剤及び熱重合開始剤を除く成分の全てが重合性官能基を有する樹脂であることが望ましい。
しかしながら、製造工程により意図せず混入する反応性官能基を有しない溶剤成分は樹脂組成物に含まれていても本発明の効果を阻害するものではない。また、樹脂組成物には、本発明の課題を阻害しない範囲で、支持基材1(図2参照)と微細構造体層2(図2参照)との密着力を強化するための界面活性剤が含まれていてもよい。また、必要に応じて重合禁止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0052】
以上のような、ナノインプリント用樹脂スタンパ3においては、支持基材1及び微細構造体層2は、光透過性(365nmの波長の紫外光透過性)となるように形成することが望ましい。このようなナノインプリント用樹脂スタンパ3によれば、後記する被転写体の硬化性樹脂材料6(図3参照)に光硬化性樹脂を使用することができる。つまり、このナノインプリント用樹脂スタンパ3は、光ナノプリント用のレプリカモールドとして使用可能となる。
【0053】
<ナノインプリント用樹脂スタンパの製造方法>
次に、本実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパ3(図2参照)の製造方法について説明する。ここで参照する図3(a)から(c)は、ナノインプリント用樹脂スタンパの製造方法を模式的に示す工程説明図である。
【0054】
先ずこの製造方法では、図3(a)に示すように、微細パターン4aが形成されたマスタモールド4が準備される。その一方で、支持基材1上に、微細構造体層2(図2参照)を形成するための、前記した樹脂組成物2aが塗布される。
【0055】
次に、図3(b)に示すように、塗布した樹脂組成物2aに、マスタモールド4が押し付けられる。そして、マスタモールド4を押し付けた状態で、樹脂組成物2aを硬化させることによってマスタモールド4の微細パターン4a(図3(a)参照)が樹脂組成物2aに転写される。
ちなみに、この樹脂組成物2aの硬化は、樹脂組成物2aが前記した光重合開始剤を含むものであれば光照射により行われればよいし、熱重合開始剤を含むものであれば加熱により行われればよい。
【0056】
そして、図3(c)に示すように、硬化した樹脂組成物2a(図3(b)参照)からマスタモールド4が剥離されることによって、支持基材1上に微細構造体層2が形成された、本実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパ3が得られる。ちなみに、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の微細構造体層2に形成された微細パターン3aは、マスタモールド4の微細パターン4aの凹凸形状が反転して形成されたものである。
【0057】
<ナノインプリント装置を使用した微細パターンの転写方法>
次に、ナノインプリント装置Ip(図1参照)の動作を説明しつつ、このナノインプリント装置Ipを使用した微細パターン3a(図1参照)の転写方法について説明する。
この転写方法では、図1に示すように、前記した工程(図3(a)から(c)参照)で製造されたナノインプリント用樹脂スタンパ3(図2参照)が、固定ブロック13に取り付けられる。この際、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の微細パターン3aは、ステージブロック12に対向するように取り付けられる。
また、ステージブロック12には、ナノインプリント用樹脂スタンパ3と対向する位置に、被転写体5が取り付けられる。この際、被転写体5は、樹脂層6がナノインプリント用樹脂スタンパ3の微細パターン3aに対向するように取り付けられる。
【0058】
次に、この転写方法では、図1に示す昇降装置11でステージブロック12を上昇させることによって、被転写体5の樹脂層6が、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の微細パターン3aに押し付けられる。その結果、図示しないが、樹脂層6には、微細パターン3aの形状が転写される。
その後、樹脂層6にナノインプリント用樹脂スタンパ3が押し当てられた状態で、光源14からは紫外光が樹脂層6に照射される。そのことによって、微細パターン3aが転写された樹脂層6は硬化する。
そして、昇降装置11でステージブロック12を下降させることによって、被転写体5からナノインプリント用樹脂スタンパ3を剥離する。
【0059】
次に、参照する図4は、ナノインプリント用樹脂スタンパを被転写体に押し当てた後に再び剥離した際の様子を示す模式図である。
図4に示すように、硬化した樹脂層6からナノインプリント用樹脂スタンパ3を剥離することで、この転写方法は終了する。つまり、被転写体5の硬化した樹脂層6には、微細パターン5aが形成される。
ちなみに、被転写体5に転写された微細パターン5aは、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の微細構造体層2に形成された微細パターン3aの凹凸形状が反転して形成されたものである。つまり、微細パターン5aは、マスタモールド4の微細パターン4a(図3(a)参照)の凹凸形状に対応する形状となっている。
【0060】
以上のような、本実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパ3は、主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、モノマ成分とを含有する樹脂組成物であって、光重合開始剤をシルセスキオキサン誘導体、及びモノマ成分の合計の質量に対して、0.3質量%以上、3質量%以下で含有するか、又は熱重合開始剤をシルセスキオキサン誘導体、及びモノマ成分の合計の質量に対して、0.5質量%以上、15質量%未満で含有する。そのため、このナノインプリント用樹脂スタンパ3によれば、波長365nmの光を80%以上透過する、十分な光透過性を有する微細構造体層2を支持基板1上に備えたものとなる。
【0061】
したがって、本実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパ3によれば、このナノインプリント用樹脂スタンパ3を介して被転写体5(図1参照)に光源14(図1参照)からの紫外光を照射する際に、紫外光の吸収量を低減することができる。
その結果、被転写体5の樹脂層6には、紫外光が効率よく照射されるので、樹脂層6の硬化時間を短縮することができる。その結果、転写体を得る際に良好なスループットを維持することができる。
【0062】
また、本実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパ3によれば、微細構造体層2における紫外光の吸収量を低減することができるので、微細構造体層2の熱膨張が抑制される。その結果、ナノインプリント用樹脂スタンパ3は、被転写体5に対する微細パターン3a(図1参照)の転写精度に優れる。
【0063】
また、本実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパ3によれば、シルセスキオキサン誘導体を主成分とする樹脂組成物の重合体で微細構造体層2が形成されるので、従来のスタンパと異なって、被転写基板7(図1参照)の反りや突起に対する追従性に優れ、しかも離型剤をその表面に施さなくても、被転写体5(図1参照)に対する離型性に優れる。
その結果、従来のスタンパと異なって、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の表面に、離型剤の塗布ムラが形成されることがないことと、被転写基板7に対する良好な追従性を有することとも相俟って、ナノインプリント用樹脂スタンパ3は、更に微細パターン3a(図1参照)の転写精度に優れる。
【0064】
また、従来のスタンパと異なって、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の表面に、離型剤を施さなくてもよいので、繰り返し転写による離型層の劣化もない。その結果、ナノインプリント用樹脂スタンパ3によれば、いわゆる繰り返し転写性に優れる。
また、このように離型剤を必要とせずに、繰り返し転写性を向上させることができるナノインプリント用樹脂スタンパ3は、ナノインプリント装置Ip(図1参照)による転写体の製造時において、そのランニングコストを低減することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、図2に示すように、支持基材1上に微細構造体層2を有するナノインプリント用樹脂スタンパ3について説明としたが、支持基材1の微細構造体層2とは反対側の面に、更に他の基板を配置することができる。次に参照する図5は、本発明の他の実施形態に係るナノインプリント用樹脂スタンパを示す模式図である。
【0066】
図5に示すように、このナノインプリント用樹脂スタンパ10は、微細構造体層2を設けた可撓性を有する光透過性の支持基材1の反対側の面に、光透過性の弾性体プレート8と、光透過性の硬質基板9とをこの順番に設けたものである。
なお、図5中、符号10aは、微細構造体層2の微細パターンである。
【0067】
弾性体プレート8としては、光透過性のゴム部材で形成されている。このゴム部材の具体例としては、例えば、透明性シリコーンゴム等の合成ゴムが挙げられる。弾性体プレート8の厚さは、3mm〜15mmの範囲が好ましい。
【0068】
光透過性の硬質基板9としては、例えば、透明性を有するガラス板、石英板、プラスチック板等が挙げられる。プラスチック板としては、例えば、アクリル樹脂板、硬質塩化ビニル板等が挙げられる。この硬質基板9の厚さは、10mm〜30mmの範囲が好ましい。
【0069】
支持基材1、弾性体プレート8、及び硬質基板9は、相互に接着剤を使用して接合することができる。この接着剤としては、光透過性の接着剤を使用することができ、例えば、アクリルゴム系光学接着剤、UV硬化型ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0070】
これらの弾性体プレート8と硬質基板9は、別途用意した治具(リング等)や締結具(ボルト等)を使用して相互に機械的に接合することができる。また、硬質基板9に吸引孔を形成すると共に、この吸引孔を介して弾性体プレート8を吸引ポンプで吸着することもできる。なお、この吸着と前記した機械的な接合とは、併用することもできる。
【0071】
以上のような図5に示すナノインプリント用樹脂スタンパ10によれば、これを被転写体5(図1参照)に押し付けて微細パターン10aを転写する際に、弾性体プレート8の発揮する弾性によって、微細構造体層2が被転写体5(図1参照)の樹脂層6(図1参照)を均等な力で押圧するので、微細パターン10aを精度よく樹脂層6に転写することができる。また、微細構造体層2が樹脂層6(図1参照)を均等な力で押圧するので、微細構造体層2と樹脂層6との間に空気が巻き込まれるのを、より確実に防止することができる。
【0072】
ちなみに、前記したように、弾性プレート8の厚さを3mm以上とすることによって、支持基材1及び微細構造体層2を必要十分に変形させることができるので、微細パターンの転写精度は、より一層高められる。また、弾性プレート8の厚さを15mm以下とすることによって、このナノインプリント用樹脂スタンパ10を使用した転写時に、弾性プレートの面方向の変形を抑え、支持基材1が横方向にずれることを、より確実に防止することができる。このことによっても、微細パターン10aの転写精度は、より一層高められる。
【0073】
また、このナノインプリント用樹脂スタンパ10によれば、硬質基板9の発揮する剛性によって、ナノインプリント用樹脂スタンパ10の機械的強度を、より向上させることができる。
ちなみに、前記したように、硬質基板9は厚さを10mm以上とすることによって、ナノインプリント用樹脂スタンパ10に、十分な機械的強度を付与することができる。また、硬質基板9の厚さを30mm以下とすることによって、硬質基板9の光透過性を良好に維持することができる。
【0074】
また、前記実施形態では、微細構造体層2(図2参照)は、支持基材1(図2参照)の上面の面積に一致する大きさで形成することを想定しているが、本発明は、微細構造体層2を支持基材1(図2参照)の上面の面積よりも小さい面積で形成することもできる。また、この際、微細構造体層2の平面形状は、支持基材1の上面の形状と異なるように形成することができ、円形、楕円形、多角形等の様々な形状とすることができる。また、微細構造体層2は、支持基材1の上面の中央部に形成してもよいし、支持基材1の上面の中央部から変位した位置に形成してもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、ナノインプリント装置Ip(図1参照)において、ステージブロック12を昇降装置11で駆動することによって、ナノインプリント用樹脂スタンパ3と被転写体5とを接触させるように構成しているが、本発明は固定ブロック13を所定の駆動機構により駆動することによって、ナノインプリント用樹脂スタンパ3と被転写体5とを接触させるように構成することもできる。
【実施例】
【0076】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。以下の説明において使用する「部」及び「%」は特に示さない限りすべて質量基準である。
(実施例1)
本実施例では、図3(a)から(c)に示す工程でナノインプリント用樹脂スタンパ3を作製した。
【0077】
<樹脂組成物の調製>
はじめに、下記表1に示すように、複数個のオキセタニル基を有するシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製)90質量部と、光重合性モノマ(モノマ成分)としての、パーフルオロ骨格を有するジエポキシである1,4−ビス(2,3−エポキシプロピル)パーフルオロブタン(ダイキン工業製)10質量部と、光カチオン重合開始剤としての、アデカオプトマーSP−172(ADEKA社製)を、シルセスキオキサン誘導体及びモノマ成分との合計量100質量部に対して0.3質量%(0.3質量部)で調合し、微細構造体層2(図3(c)参照)を形成するための光硬化性の樹脂組成物2a(図3(a)参照)を得た。
【0078】
【表1】

【0079】
<ナノインプリント用樹脂スタンパの作製>
次に、支持基材1(図3(a)参照)として、表面にKBM403(信越シリコーン社製)によりシランカップリング処理した20mm×20mm、厚さ0.7mmのガラス板を準備した。
ちなみに、シランカップリング処理したこのガラス板における波長365nmの紫外光の透過率は97%であった。
【0080】
この支持基材1のカップリング処理表面に、微細構造体層2となる樹脂組成物2aを塗布した(図3(a)参照)。次に、OPTOOL DSX(ダイキン工業社製)によってその表面を離型処理したシリコン(Si)製のマスタモールド4を準備した(図3(a)参照)。このマスタモールド4に形成された微細パターン4a(図3(a)参照)は、円柱状の微小突起(直径180nm、高さ200nm)がヘキサゴナルにピッチ180nmで並ぶドットパターンであった。
【0081】
次に、図3(b)に示すように、マスタモールド4を樹脂組成物2aに押し付けた状態で、365nmの波長の紫外光を600秒間照射して、樹脂組成物2aを硬化させた。そして、硬化した樹脂組成物2a(図3(b)参照)からマスタモールド4を剥離し、図3(c)に示すように、支持基材1上に微細構造体層2を形成した本発明のナノインプリント用樹脂スタンパ3(ソフトスタンパ)を作製した。このナノインプリント用樹脂スタンパ3は、支持基材1と微細構造体層2との2層構成(表1中、スタンパ構成として記す)となっている。
ちなみに、この微細構造体層2の微細パターン3a(図2参照)は、マスタモールド4のドットパターンとは凹凸が逆の(反転した)、微細な円柱状の凹部形状(直径180nm、深さ200nm)が並ぶパターンであった。
【0082】
次に、図1に示すナノインプリント装置Ipに、作製したナノインプリント用樹脂スタンパ3を取り付けると共に、被転写体5を取り付けた。
被転写体5としては、ガラス板からなる被転写基板7上に、アクリレート系モノマを主成分とする光ラジカル重合性の樹脂組成物からなる樹脂層6(図1参照)を形成したものを使用した。
【0083】
そして、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の微細パターン3aに、被転写体5の樹脂層6を押し付けつつ、光源14(図1参照)から紫外光を被転写体5に照射して、樹脂層6を硬化させた。
その後、硬化した樹脂層6からナノインプリント用樹脂スタンパ3を剥離することによって、硬化した樹脂層6の表面に微細パターン5a(図4参照)が形成された被転写体5を得た。
【0084】
この微細パターン5aは、マスタモールド4の微細パターン4aに対して、転写精度よく対応しており、円柱状の微小突起(直径180nm、高さ200nm)がヘキサゴナルにピッチ180nmで並ぶドットパターンが樹脂層6に確認された。
【0085】
次に、作製したナノインプリント用樹脂スタンパ3における、微細構造体層2の弾性率[GPa]、光透過率[%]、及び後記する被転写体5に形成した微細パターン5aにおける最大寸法変化率[%]を測定した。その結果を表1に示す。
【0086】
なお、弾性率は、微細構造体層2の30℃におけるものを常法により測定した。
光透過性は、ナノインプリント用樹脂スタンパ3の作製に使用した、前記樹脂組成物2aの硬化物膜を30μmの膜厚で形成し、この硬化物膜について、波長365nmの紫外光の透過率を測定した。
なお、この光透過率[%]は、80%以上のものを良好であると判定して、表1の光透過率の可否の欄に「○」と記した。また、80%未満のものを不良であると判定して、表1の光透過率の可否の欄に「×」と記した。
【0087】
最大寸法変化率[%]としては、ナノインプリント用樹脂スタンパ3を使用して前記した複数の被転写体5に対して繰り返して転写を行った際に、転写1回目と、転写5回目とにおける微細パターン5aの最大寸法変化率[%]を求めた。具体的には、転写1回目の微細パターン5aにおける微小突起の高さと、転写5回目の微小突起の高さとを原子間力顕微鏡(ビーコ社製)により測定すると共に、その変化率[%]を算出した。
そして、この変化率[%]は、被転写体5における5点について求めると共に、これらの変化率[%]のうちの最大の値のものを最大寸法変化率[%]とした。
なお、この最大寸法変化率[%]は、10%以下のものを良好であると判定して、表1の5回転写性の可否の欄に「○」と記した。また、10%を超えるものを不良であると判定して、表1の5回転写性の可否の欄に「×」と記した。
【0088】
(実施例2から実施例6)
本実施例では、表1に示す光重合開始剤を、表1に示す割合で含有する樹脂組成物を使用した以外は、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有するナノインプリント用樹脂スタンパ3を作製した。
【0089】
なお、表1中、光重合開始剤(SP152)は、光カチオン重合開始剤としての、アデカオプトマーSP−152(ADEKA社製)であり、光重合開始剤(SP300)は、光カチオン重合開始剤としての、アデカオプトマーSP−300(ADEKA社製)であり、熱重合開始剤(サンエイドSI60)は、熱カチオン重合開始剤としての、サンエイドSI60(三新化学社製)である。これらの重合開始剤の表記は、以下に示す表2から表4において同じである。
【0090】
そして、このナノインプリント用樹脂スタンパ3を使用した以外は、実施例1と同様に、微細パターン5a(図4参照)が形成された被転写体5を得た。
その結果、この微細パターン5aは、マスタモールド4の微細パターン4aに対して転写精度よく対応していることが確認された。
【0091】
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパ3における、微細構造体層2の弾性率[GPa]、光透過率[%]、及び被転写体5に形成した微細パターン5aにおける最大寸法変化率[%]を、実施例1と同様に測定すると共に、実施例1と同様に、光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表1に示す。
【0092】
(実施例7)
本実施例では、実施例3と同様の樹脂組成物を調製した。
ナノインプリント用樹脂スタンパの作製は、次の手順で行った(図示省略)。
マスタモールド4としては、微細パターン4aがラインアンドスペースパターン(ピッチ90nm、襞高さ50nm)である以外は、離型処理を施した実施例1と同様のものを使用した。
【0093】
次に、このマスタモールド4の微細パターン4aが形成された面に、樹脂組成物をスピンコート法によって塗布した後、これに365nmの波長の紫外光を600秒間照射して硬化させた。
【0094】
次に、この硬化した樹脂組成物層の表面に光硬化性のエポキシ系樹脂をスピンコート法にて塗布した後、これに光透過性を有する高弾性の支持基材を押し付けた状態で、エポキシ系樹脂を硬化させた。なお、支持基材のエポキシ系樹脂と接する面には、KBM403(信越シリコーン社製)によりカップリング処理を施した。
【0095】
そして、マスタモールド4を剥離することで、実施例3の樹脂組成物が硬化した微細構造体層、硬化したエポキシ系樹脂からなる支持層、及び高弾性の支持基材(20mm×20mm、厚さ0.7mm)がこの順番に積層された3層構成(表1中、スタンパ構成として記す)のナノインプリント用樹脂スタンパを作製した。
そして、このナノインプリント用樹脂スタンパを使用した以外は、実施例1と同様に、微細パターン5a(図4参照)が形成された被転写体5を得た。
【0096】
その結果、この微細パターン5aは、マスタモールド4の微細パターン4aに対して転写精度よく対応していることが確認された。
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパにおける、微細構造体層の弾性率[GPa]、光透過率[%]、及び被転写体5に形成した微細パターン5aにおける最大寸法変化率[%]を、実施例1と同様に測定すると共に、実施例1と同様に、光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表1に示す。
【0097】
(実施例8)
本実施例では、実施例3と同様の樹脂組成物(表1参照)を調製した。
ナノインプリント用樹脂スタンパの作製は、次の手順で行った(図示省略)。
まず、離型処理を施した実施例7と同様のマスタモールド4を準備した。
次に、このマスタモールド4の微細パターン4aが形成された面に、樹脂組成物をスピンコート法によって塗布した後、これに365nmの波長の紫外光を600秒間照射して硬化させた。
【0098】
次に、この硬化した樹脂組成物層の表面に光硬化性の不飽和ポリエステルをスピンコート法にて塗布した後、これに紫外光を照射して硬化させることで第1支持層を形成した。
【0099】
次に、この第1支持層の表面に光硬化性のエポキシ系樹脂をスピンコート法にて塗布した後、これに光透過性を有する高弾性の支持基材を押し付けた状態で、エポキシ系樹脂を硬化させて第1支持層と支持基材との間に第2支持層を形成した。なお、支持基材のエポキシ系樹脂と接する面には、KBM403(信越シリコーン社製)によりカップリング処理を施した。
【0100】
そして、マスタモールド4を剥離することで、実施例3の樹脂組成物が硬化した微細構造体層、硬化した不飽和ポリエステルからなる第1支持層、硬化したエポキシ系樹脂からなる第2支持層、及び高弾性の支持基材(20mm×20mm、厚さ0.7mm)がこの順番に積層された4層構成(表2中、スタンパ構成として記す)のナノインプリント用樹脂スタンパを作製した。
なお、このナノインプリント用樹脂スタンパにおける第1支持層は、微細構造体層よりも低弾性となっている。第2支持層は、第1支持層よりも低弾性となっており、ガラスで形成された支持基材は、第2支持層よりも高弾性となっている。
【0101】
【表2】

【0102】
そして、このナノインプリント用樹脂スタンパを使用した以外は、実施例1と同様に、微細パターン5a(図4参照)が形成された被転写体5を得た。
その結果、この微細パターン5aは、マスタモールド4の微細パターン4aに対して転写精度よく対応していることが確認された。
【0103】
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパにおける、微細構造体層の弾性率[GPa]、光透過率[%]、及び被転写体5に形成した微細パターン5aにおける最大寸法変化率[%]を、実施例1と同様に測定すると共に、実施例1と同様に、光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表2に示す。
【0104】
(実施例9)
本実施例では、実施例3と同様の樹脂組成物(表1参照)を調製すると共に、この樹脂組成物を使用して、図5に示すナノインプリント用樹脂スタンパ10を作製した。
まず、支持基材1として、シランカップリング処理した実施例1と同様のガラス板を準備した。
この支持基材1のカップリング処理表面に、樹脂組成物を塗布した。
【0105】
次に、離型処理を施した実施例7と同様のマスタモールド4(図3(a)参照)を準備すると共に、このマスタモールド4の微細パターン4a(図3(a)参照)が形成された面に、樹脂組成物を押し付けるように支持基材1を配置した。その後、支持基材1を介して365nmの波長の紫外光を600秒間、樹脂組成物に照射してこの樹脂組成物を硬化させた。次いで、樹脂組成物からマスタモールド4を剥離することで、図5に示す微細パターン10a(図5参照)を有する微細構造体層2を支持基材1上に形成した。
そして、図5に示すように、支持基材1の微細構造体層2が形成される面と反対側の面に、光透過性の弾性体プレート8と、光透過性の硬質基板9とをこの順番で接着剤を介して積層してナノインプリント用樹脂スタンパ10を作製した。
【0106】
なお、弾性プレート8としては、シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング社製、シルガード(登録商標)、厚さ10mm)を使用し、硬質基板9としては、石英基板(厚さ0.7mm)を使用した。
【0107】
そして、このナノインプリント用樹脂スタンパ10(図5参照)を使用した以外は、実施例1と同様に、微細パターン5a(図4参照)が形成された被転写体5を得た。
その結果、この微細パターン5aは、マスタモールド4の微細パターン4aに対して転写精度よく対応していることが確認された。
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパにおける、微細構造体層の弾性率[GPa]、光透過率[%]、及び被転写体5に形成した微細パターン5aにおける最大寸法変化率[%]を、実施例1と同様に測定すると共に、実施例1と同様に、光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表2に示す。
【0108】
(実施例10から実施例15)
本実施例では、表2に示す光重合開始剤を、表2に示す割合で含有する樹脂組成物を使用した以外は、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有するナノインプリント用樹脂スタンパ3(図2参照)を作製した。
そして、このナノインプリント用樹脂スタンパ3を使用した以外は、実施例1と同様に、微細パターン5a(図4参照)が形成された被転写体5を得た。
その結果、この微細パターン5aは、マスタモールド4の微細パターン4aに対して転写精度よく対応していることが確認された。
【0109】
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパ3における、微細構造体層2の弾性率[GPa]、光透過率[%]、及び被転写体5に形成した微細パターン5aにおける最大寸法変化率[%]を、実施例1と同様に測定すると共に、実施例1と同様に、光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表2に示す。
【0110】
(比較例1,2,4,6,12)
比較例1、比較例2、比較例4、比較例6、及び比較例12では、表3及び表4に示す光重合開始剤を、表3及び表4に示す割合で含有する樹脂組成物を使用した以外は、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有するナノインプリント用樹脂スタンパ3を作製した。
【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
そして、このナノインプリント用樹脂スタンパ3を使用した以外は、実施例1と同様に、微細パターン5a(図4参照)が形成された被転写体5を得た。
【0114】
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパ3における、微細構造体層2の弾性率[GPa]、光透過率[%]、及び被転写体5に形成した微細パターン5aにおける最大寸法変化率[%]を、実施例1と同様に測定すると共に、実施例1と同様に、光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表3及び表4に示す。
【0115】
(比較例3,5,7)
比較例3、比較例5、及び比較例7では、表3及び表4に示す光重合開始剤を、表3及び表4に示す割合で含有する樹脂組成物を使用した。
この樹脂組成物を使用して、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有するナノインプリント用樹脂スタンパ3を作製しようと試みたが、実施例1と同じ条件での紫外光照射では、樹脂組成物が十分に硬化しない微細構造体層2となった。
【0116】
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパ3における、微細構造体層2の弾性率[GPa]、及び光透過率[%]、並びに光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表3及び表4に示す。
なお、本比較例では、樹脂組成物が十分に硬化しない微細構造体層2となったために、最大寸法変化率[%]の測定は行わなかった。また、5回転写性の可否を判定は、「×」と記した。
【0117】
(比較例8)
比較例8では、比較例3と同様の樹脂組成物(表3及び表4参照)を調製すると共に、この樹脂組成物を使用した以外は、実施例7と同様の3層構成のナノインプリント用樹脂スタンパ(図示省略)を作製した。
この樹脂組成物を使用して、実施例7と同様の方法でナノインプリント用樹脂スタンパを作製しようと試みたが、実施例7と同じ条件での紫外光照射では、樹脂組成物が十分に硬化しない微細構造体層となった。
【0118】
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパにおける、微細構造体層の弾性率[GPa]、及び光透過率[%]、並びに光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表4に示す。
なお、本比較例では、樹脂組成物が十分に硬化しない微細構造体層2となったために、最大寸法変化率[%]の測定は行わなかった。また、5回転写性の可否を判定は、転写を行うことができなかったので「×」と記した。
【0119】
(比較例9)
比較例8では、比較例3と同様の樹脂組成物(表3及び表4参照)を調製すると共に、この樹脂組成物を使用した以外は、実施例8と同様の4層構成のナノインプリント用樹脂スタンパ(図示省略)を作製した。
【0120】
この樹脂組成物を使用して、実施例8と同様の方法でナノインプリント用樹脂スタンパを作製しようと試みたが、実施例8と同じ条件での紫外光照射では、樹脂組成物が十分に硬化しない微細構造体層となった。
【0121】
また、作製したナノインプリント用樹脂スタンパにおける、微細構造体層の弾性率[GPa]、及び光透過率[%]、並びに光透過率の可否、及び5回転写性の可否を判定した。これらの結果を表4に示す。
なお、本比較例では、樹脂組成物が十分に硬化しない微細構造体層2となったために、最大寸法変化率[%]の測定は行わなかった。また、5回転写性の可否を判定は、転写を行うことができなかったので「×」と記した。
【0122】
(実施例及び比較例におけるナノインプリント用樹脂スタンパの評価結果)
表1及び表2に示すように、本発明の実施例に係るナノインプリント用樹脂スタンパは、主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、モノマ成分とを含有する樹脂組成物であって、光重合開始剤をシルセスキオキサン誘導体、及びモノマ成分の合計の質量に対して、0.3質量%以上、3質量%以下で含有するか、又は熱重合開始剤をシルセスキオキサン誘導体、及びモノマ成分の合計の質量に対して、0.5質量%以上、15質量%未満で含有する樹脂組成物の重合体で微細構造体層が形成されるので、微細構造体層における波長365nmの紫外光透過率が80%以上となる。
【0123】
そのため、ナノインプリント用樹脂スタンパは、微細パターンを転写した被転写体における樹脂層(光硬化性樹脂)を効果的に硬化することができる。したがって、このナノインプリント用樹脂スタンパによれば、微細パターンを転写した被転写体の良好なスループットを維持することができる。
【0124】
また、本発明の実施例に係るナノインプリント用樹脂スタンパは、主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、モノマ成分とを含有する樹脂組成物であって、光重合開始剤をシルセスキオキサン誘導体、及びモノマ成分の合計の質量に対して、0.3質量%以上、3質量%以下で含有するか、又は熱重合開始剤をシルセスキオキサン誘導体、及びモノマ成分の合計の質量に対して、0.5質量%以上、15質量%未満で含有する樹脂組成物の重合体で微細構造体層が形成されるので、転写精度及び繰り返し転写性に優れる。
【0125】
これに対して、表3及び表4に示すように、比較例のナノインプリント用樹脂スタンパは、光重合開始剤の含有率、及び熱重合開始剤の含有率が本発明の範囲を外れることで、微細構造体層における波長365nmの紫外光透過率が不十分になるか、又は繰り返し転写性が劣る。
【0126】
次に参照する図6は、微細構造体層の形成に使用した樹脂組成物における光重合開始剤の含有率と、微細構造体層の光透過率及び最大寸法変化率との関係を示すグラフであり、横軸が光重合開始剤の含有率[%]を示し、右縦軸が最大寸法変化率[%]を示し、左縦軸が微細構造体層の光透過率[%]を示すグラフである。更に詳しくは、図6は、シルセスキオキサン誘導体90質量部、及びモノマ成分10質量部の合計の100質量部に対して、光重合開始剤(SP172)の含有量を変えた樹脂組成物を使用した際に、得られた微細構造体層の光透過率(紫外線透過率)及び最大寸法変化率を示したグラフである。なお、図6には、対応する実施例の番号、及び比較例の番号を併記している。
この図6からも明らかなように、光重合開始剤の含有率を0.3質量%以上、3質量%以下とすることによって、微細構造体層の光透過率、及び最大寸法変化率(繰り返し転写率)が優れたものとなる。
【符号の説明】
【0127】
1 支持基材
2 微細構造体層
2a 樹脂組成物
3 ナノインプリント用樹脂スタンパ
4 マスタモールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の重合性官能基を有する主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有し、前記シルセスキオキサン誘導体とは別の重合性樹脂成分と、光重合開始剤とを含有する樹脂組成物の重合体からなる微細構造体層を、光透過性の支持基材上に備えるナノインプリント用樹脂スタンパであって、
前記光重合開始剤は、前記シルセスキオキサン誘導体、及び前記重合性樹脂成分の合計の質量に対して、0.3質量%以上、3質量%以下であり、
前記微細構造体層は、波長365nmの光を80%以上透過することを特徴とするナノインプリント用樹脂スタンパ。
【請求項2】
請求項1に記載のナノインプリント用樹脂スタンパにおいて、
前記光重合開始剤は、光カチオン重合開始剤であることを特徴とするナノインプリント用樹脂スタンパ。
【請求項3】
複数の重合性官能基を有する主成分としてのシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有し、前記シルセスキオキサン誘導体とは別の重合性樹脂成分と、熱重合開始剤とを含有する樹脂組成物の重合体からなる微細構造体層を、光透過性の支持基材上に備えるナノインプリント用樹脂スタンパであって、
前記熱重合開始剤は、前記シルセスキオキサン誘導体、及び前記重合性樹脂成分の合計の質量に対して、0.5質量%以上、15質量%未満であり、
前記微細構造体層は、波長365nmの光を80%以上透過することを特徴とするナノインプリント用樹脂スタンパ。
【請求項4】
請求項3に記載のナノインプリント用樹脂スタンパにおいて、
前記熱重合開始剤は、熱カチオン重合開始剤であることを特徴とするナノインプリント用樹脂スタンパ。
【請求項5】
請求項1又は請求項3に記載のナノインプリント用樹脂スタンパにおいて、
前記重合性官能基は、ビニル基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基、及び(メタ)アクリル基から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするナノインプリント用樹脂スタンパ。
【請求項6】
請求項1又は請求項3に記載のナノインプリント用樹脂スタンパにおいて、
前記支持基材の前記微細構造体層が形成される面と反対側の面に、光透過性の弾性体プレートと、光透過性の硬質基板とをこの順番で更に備えると共に、
前記支持基材が、可撓性の硬質材料で形成されていることを特徴とするナノインプリント用樹脂スタンパ。
【請求項7】
請求項1又は請求項3に記載のナノインプリント用樹脂スタンパと、
前記ナノインプリント用樹脂スタンパを固定する固定ブロックと、
被転写体を保持するステージブロックと、
前記ナノインプリント用樹脂スタンパと前記被転写体とを接触させた後に離反させるように前記固定ブロック及び前記ステージブロックのうちの少なくとも一方を駆動する駆動機構と、
を備えることを特徴とするナノインプリント装置。
【請求項8】
請求項7に記載のナノインプリント装置において、
前記ナノインプリント用樹脂スタンパは、前記支持基材の前記微細構造体層が形成される面と反対側の面に、光透過性の弾性体プレートと、光透過性の硬質基板とをこの順番で更に備えると共に、
前記支持基材が、可撓性の硬質材料で形成されていることを特徴とするナノインプリント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−30423(P2012−30423A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170379(P2010−170379)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】