説明

ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する装置及び方法

【課題】ナノスケール導電性微粒子を長時間にわたって連続的に製造することができる、ナノスケール導電性微粒子の連続製造装置を提供する。
【解決手段】本装置は、導電性の液体を収容した第1の容器10と、第1の容器に導電性の液体を供給する送液路20と、第1の容器内の導電性の液体中に配置された導電性材料からなる陰極30と、導電性の液体中において陰極から所定の距離を隔てて配置された陽極40と、陰極の近傍にグロー放電プラズマを生じさせる電圧を陰極と陽極との間に印加する電源50と、液体を収容した1つ又は複数の第2の容器60と、第1の容器及び1つ又は複数の第2の容器を連通する液体流路70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性微粒子の製造に関し、特に、同一品質のナノスケール導電性微粒子を長時間連続して製造するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が数nm〜数百nmのナノスケールの導電性微粒子は、例えば粒径が約1μmより大きいマイクロスケールの粒子には見られない化学的、光学的、電磁気的機能が出現するため、近年、注目を集めている。ナノスケールの導電性微粒子は、例えば、化学反応触媒の材料、磁気記録媒体の磁性粉末、半導体素子の材料、配線用導電性インクの材料、医薬品・化粧品の材料などへの応用が期待されている。
【0003】
ナノスケールの導電性微粒子は、一般に、分子レベルの原料を成長させて生成するビルドアップ・プロセスである気相法又は液相法を用いて製造される。これら方法のいずれにおいても、導電性微粒子単体の品質向上や生産性向上が課題となっている。気相法は、主に、純物質を気化させてその蒸気を凝集させる方法であり、純度が高く粒径の小さな微粒子が得られやすい。しかしながら、材料の気化、凝集や生成された導電性微粒子の捕集などに大がかりな装置が必要となること、生産効率やエネルギー効率が低いことなどの欠点がある。液相法は、主に、液相における化学反応を利用して微粒子を合成する方法である。液相法は、簡単に多量の微粒子が生成でき、微粒子の生成に基板が不要であるという利点はあるものの、不純物が混入しやすいこと、粒子形状の制御が困難であること、数nm以下の微粒子を生成することが難しいことなどの欠点がある。
【0004】
これらの技術に対して、特許文献1に開示される技術が提案されている。特許文献1における技術では、導電性液体中に配置された対電極を用いて発生させたプラズマを利用して、陰極の材料を原料とする導電性微粒子を生成する。陰極近傍に限定して発生する非熱プラズマである液中グロー放電プラズマにより陰極が局所的に溶解し、溶解した陰極材料が液体中に放出され、表面張力によって球状に凝固することにより、ナノスケールの導電性微粒子が生成される。この方法は、液相と、液体中の陰極近傍における放電によりプラズマ化した気相との共存領域における反応過程を利用する方法であるため、従来の液相法と気相法の長所を併せ持った技術である。特許文献1の技術によれば、安定に制御された状態で短時間に、高品質のナノスケール導電性微粒子を生成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/099618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術には、以下のような課題がある。特許文献1に開示される技術は、単一の容器を用いるバッチ式技術である。したがって、時間の経過とともに導電性液体中の微粒子濃度が増大して凝集が生じ、生成される微粒子の平均粒径が大きくなる。凝集が生じないようにするためには、細い電極、例えば横断面の直径が1mm程度の陰極を用いるか、又は単一の容器を大容量のものにしなければならない。細い陰極を用いると、時間の経過とともに陰極の電流密度が増加し続け、粒径の大きな微粒子が生成し始めるため、最終的に得られる粒子の粒度分布幅が広くなる。また、このような細い陰極を用いると、短時間で電極が消耗して断線するため、微粒子を短時間しか製造できず、収量が少ない。一方、大容量の容器を用いても、容器の容量に応じて電極間の距離を制限無く離すことが可能となるわけではないため、時間が経過すればやはり電極近傍の微粒子濃度が増大して凝集が生じる。また、大容量の容器を用いた場合には、導電性液体の量も多くなるため、取り扱いの点で不都合が生じる。
【0007】
さらに、特許文献1の技術は単一の容器を用いるものであるため、生成された微粒子を回収、分級するのに別の操作が必要となるとともに、異なる性質の導電性微粒子を一度に生成することは困難である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、平均粒径の小さなナノスケール導電性微粒子を長時間にわたって連続的に製造することができる、ナノスケール導電性微粒子の連続製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、導電性液体中におけるグロー放電プラズマを利用してナノスケールの導電性微粒子を生成するにあたり、導電性液体に含まれる導電性微粒子の濃度を導電性微粒子の凝集が生じないに維持するための機構を設けることにより、陰極のサイズを大きくすることができ、液体内で凝集を生じることなく連続的に導電性微粒子の製造が可能となるという知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の第1の態様は、ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する装置を提供する。本装置は、導電性の液体を収容した第1の容器と、第1の容器に導電性の液体を供給する送液路と、第1の容器内の導電性の液体中に配置された導電性材料からなる陰極と、導電性の液体中において陰極から所定の距離を隔てて配置された陽極と、陰極の近傍にグロー放電プラズマを生じさせる電圧を陰極と陽極との間に印加する電源と、液体を収容した1つ又は複数の第2の容器と、第1の容器及び1つ又は複数の第2の容器を連通する液体流路とを備える。陰極と陽極との間に電圧を印加することによって、第1の容器内の導電性の液体中には導電性微粒子が生成される。第1の容器内の導電性微粒子の濃度は、導電性液体が送液路から第1の容器に供給され、流路を通って第1の容器から1つ又は複数の第2の容器に移動することにより、導電性微粒子の凝集が生じない濃度に維持される。
【0011】
本発明の一実施形態においては、第1の容器及び1つ又は複数の第2の容器の各々は、流路を介して直列に接続されており、第1の容器をオーバーフローした導電性の液体は、1つ又は複数の第2の容器のうちの一つに移動する。さらにその容器をオーバーフローした液体は、1つ又は複数の第2の容器のうちの次の一つに移動する。本発明の別の実施形態においては、1つ又は複数の第2の容器は並列に接続されており、第1の容器は、そのうちの一つの容器と直列に接続されている。したがって、第1の容器からオーバーフローした液体は、並列に接続された1つ又は複数の第2の容器に移動する。このように、第1の容器から、次の容器に順次、導電性の液体が移動することにより、各々の容器内の液体の量は、概ね一定に維持され、その結果、各々の容器内の導電性微粒子の濃度は凝集が生じない濃度に維持される。
【0012】
一実施形態においては、各容器を接続する流路はパイプであり、その両方の端部は、それぞれ別の容器の液体中に位置している。パイプには、パイプの両方の端部の液体中における垂直方向の位置を調整するための機構が設けられている。この機構を用いて端部の位置を調整することによって、液体中における導電性微粒子の濃度及び粒径を制御することができる。
【0013】
一実施形態においては、少なくとも導電性液体中に配置される陰極の部分には、縁部が存在しないことが好ましい。例えば多角形の横断面を有する柱状の電極の場合には、横断面の多角形の頂点に相当する縁部が、電極の長軸方向に沿って電極の側面に存在することになる。また、円柱状の電極の場合には、その側面には縁部が存在しないが、両端部が丸められていない限り両端部には縁部が存在することになる。本発明の一実施形態においては、円柱状の陰極が用いられ、少なくとも導電性液体中に配置される陰極の部分において、陰極の先端部を覆う絶縁性のカバーが取り付けられていることが好ましい。
【0014】
一実施形態においては、陽極は2つ以上であり、その場合には、陰極とそれぞれの陽極との間の距離は等しい。
【0015】
一実施形態においては、本装置は、陰極と陽極との間に配置された隔壁をさらに備える。この隔壁によって、陰極から生成された導電性微粒子が第1の容器内部で拡散しにくくすることができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する方法を提供する。本方法は、第1の容器内の導電性の液体中に配置された陽極と導電性材料からなる陰極とに所定の電圧を印加し、陰極の近傍にグロー放電プラズマを生成させて、ナノスケールの導電性微粒子を生成し、第1の容器内に導電性の液体を供給し、第1の容器から1つ又は複数の第2の容器に流路を介して導電性液体を移動させることを含む。これらのステップにより、第1の容器内の導電性の液体中における導電性微粒子の濃度が、導電性微粒子の凝集が生じない濃度に維持される。
【0017】
本発明によれば、導電性液体を収容した複数の容器を多段階に接続し、生成された導電性微粒子を含む導電性液体を前段の容器から後段の容器に順次オーバーフローさせることにより、各々の容器内の導電性液体に含まれる導電性微粒子の濃度を凝集が生じない濃度に維持することができる。そのため、本発明によれば、導電性微粒子が凝集することなく、長時間にわたって連続的に導電性微粒子を製造することができる。また、サイズの大きな陰極を用いることができるため、時間が経過しても陰極の電流密度を概ね一定に維持することができ、導電性微粒子の収量も多い。したがって、粒径の小さい微粒子を長時間にわたって製造することが可能となり、粒径分布幅の狭い微粒子が大量に得られる。
【0018】
さらに、本発明によれば、導電性の液体中に配置された陰極に縁部が存在しないようにすることによって、陰極表面近傍における電流集中現象を陰極全体にわたって一様に生じさせることができるため、均一かつ小さな粒径の導電性微粒子を連続的に製造することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、複数の容器を連続的に接続しているため、それぞれの容器毎に異なる粒径の導電性微粒子を収集することができ、別途の操作を必要とすることなく導電性微粒子の分級が可能となる。また、複数の容器に収容される液体をそれぞれ異なるものとすれば、異なる性質の導電性微粒子を一度に生成することができる。
【0020】
さらに、従来の液相法又は気相法では、ランニングコストが上昇するため装置の停止は好ましくなかった。これに対して、本発明によれば、主容器の稼働を停止させることで装置の停止を簡単に行うことができ、導電性液体の温度が大きく低下しない限り、すなわちプラズマの発生が可能である限り、容易に再稼働することができる。したがって、装置を停止し、容器及び陽極を洗浄し、陰極を別の材料のものに交換することによって、容易に別の導電性微粒子を連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する装置の一実施形態の概略図である。
【図2】図1の装置の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る、縁部が存在しない電極の一例の縦断面図である。
【図4】実施例において用いられた電極である。
【図5】本発明の一実施形態に係る装置によって製造された銀微粒子のSEM画像である。
【図6】本発明の一実施形態に係る装置によって製造された銀微粒子のSEM画像である。
【図7】本発明の一実施形態に係る装置によって製造された銀微粒子のSEM画像である。
【図8】本発明の一実施形態に係る装置によって製造された銀微粒子のSEM画像である。
【図9】本発明の一実施形態に係る装置によって製造された銅微粒子のSEM画像である。
【図10】本発明の一実施形態に係る装置によって製造された銅微粒子のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
本発明は、ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する装置を提供するものである。ナノスケールの導電性微粒子とは、粒径がマイクロメートル・オーダーを下回るナノメートル・オーダーの導電性微粒子、すなわち、粒径が数nm〜数百nm程度の導電性微粒子をいう。
【0023】
(ナノスケールの導電性微粒子の生成原理)
最初に、ナノスケールの導電性微粒子が生成される原理を説明する。この原理は、特許文献1に詳細に記載されている。ナノスケールの導電性微粒子は、陽極と、生成しようとする導電性材料からなる陰極とを導電性液体中に配置し、陰極と陽極との間に電圧を印加して陰極近傍にグロー放電プラズマを発生させることにより形成することができる。具体的には、陰極と陽極とからなる対電極に電圧を印加し、陰極の周りの導電性液体の温度を沸点以上に上昇させて気化させ、陰極の近傍に生じた気相にグロー放電プラズマを発生させる。このプラズマによって陰極が局所的に融解し、融解した材料が導電性液体中で再凝固することによって、導電性微粒子が生成される。
【0024】
対電極に電圧を印加することにより、陰極表面での電力損失によって電極温度が上昇し、陰極周りの導電性液体が沸点以上に上昇すると、陰極の周りに水蒸気を含むシース(さや)状の気相が発生する。さらに電圧を印加することにより、発生した気相で持続的な電離が生じ、陰極周辺の気相でグロー放電プラズマが発生する。プラズマが発生すると、陰極と導電性液体との界面におけるシース状プラズマ内で電流集中現象が起こる。これにより、陰極を構成する導電性材料の表面の温度が、局所的にその材料の融点を超え、材料が局所的に融解する。融解して液滴状態で陰極表面から遊離した材料は、導電性液体中に入り、表面張力によって概ね球状に成型された後、急冷されて、ナノスケールの導電性微粒子となる。
【0025】
(ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する装置1の構造)
<主容器、副容器、流路>
図1は、本発明に係る、ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する装置1の一実施形態を示す概略図である。図1の右側の図は正面図であり、左側の図は側面図である。図2は、図1に示される装置1の斜視図である。本発明に係る装置1によって、特に球状化処理などの後処理をすることなく、平均粒径の小さい導電性微粒子を連続的に製造することができる。装置1は、主容器10と、流体の流路70によって主容器10と接続された1つ又は複数の副容器60とを備える。図1においては、2つの副容器60a、60bが示されており、この場合には、副容器60bが最終の容器となる。このため、最終の容器からは粒径分布幅の狭い、粒径の小さな微粒子を回収することができる。主容器10には導電性液体CLが収容される。1つ又は複数の副容器60には、生成される導電性微粒子の性質に応じて導電性液体CL又は他の液体が収容される。主容器10には、導電性液体CLがポンプ(図示せず)によって送液路20を介して外部の導電性液体供給源(図示せず)から供給される。送液路20の下端、すなわち導電性液体の流出口21の垂直方向の位置は、主容器10の底面の近くが好ましい。流出口21が導電性液体の液面近くから主容器10に供給されると、主容器10内の導電性液体が撹拌され、その結果、主容器10内の生成された導電性微粒子が適切に分級されなくなる場合がある。
【0026】
<容器の材質、容量>
主容器10及び1つ又は複数の副容器60の材質は、収容する液体に対して安定であれば特に限定されず、例えば、ガラス、プラスチックなどとすることができる。主容器10及び1つ又は複数の副容器60の大きさは特に限定されず、本発明を実現するのに必要な量の液体を収容することができるとともに、取り扱いが困難にならないものであればよい。また、それぞれの容器の大きさは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0027】
<容器間の接続>
本発明の一実施形態においては、主容器10及び1つ又は複数の副容器60の各々は、容器の各々を連通する流路70によって直列に接続されることが好ましい。すなわち、図1及び図2に示されるように、主容器10と、1つ又は複数の副容器60のうちの第1の副容器60aとは流路70によって接続される。また、第1の副容器60aと、1つ又は複数の副容器60のうちの第2の副容器60bともまた、流路70によって接続され、以下同様に、1つ又は複数の容器60はそれぞれ、流路70によって直列に接続される。本発明の別の実施形態においては、主容器10と1つ又は複数の副容器60のうちの一の容器とを流路70によって接続し、その一の容器と1つ又は複数の副容器60のうちの他の容器とを流路70によって並列に接続することもできる。本発明のさらに別の実施形態においては、主容器10及び1つ又は複数の副容器60は、一部を直列に接続し、一部を並列に接続することもできる。このように、主容器10及び1つ又は複数の副容器60を多段階に直列及び/又は並列に接続し、前段の容器からオーバーフローした液体が後段の容器に送られる。そのため、各々の容器内の導電性微粒子の濃度を凝集が生じない濃度に維持することができるとともに、多段階の接続を利用して導電性微粒子を粒径に応じて分級することができる。
【0028】
図1及び図2に示されるように、流路70は、一実施形態においては、中空のパイプとすることができる。流路70は、液体の出入口となる両方の端部がそれぞれ別の容器内の液体中に配置されている。従って、前段の容器例えば主容器10の導電性液体CLが一定の量を超えたとき、すなわち主容器10内の導電性液体の液面が流路70の流入口71の高さを超えたときに、超えた分の導電性液体CLは、流路70を通って後段の容器例えば副容器60aに移動する。前段の容器と後段の容器とを接続する流路70の数は、1つであっても、複数であってもよい。例えば、主容器1と副容器60aとを、5本の流路70で接続することもできる。
【0029】
流路70における導電性液体の流入口71の垂直方向の位置、すなわち、容器の底面から流入口71までの距離は、各々の容器内に維持される導電性液体に含まれる導電性微粒子の濃度をどの程度の濃度に保つかという条件に応じて、変えることができる。例えば、流入口71の位置を低くすると、主容器10の導電性液体CLの量が少なくなるため、他の条件が同一の場合には、導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度は高くなる。逆に、流入口71の位置を高くすると、導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度は低くなる。なお、導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度が高すぎると、導電性微粒子が凝集するため、流入口71の位置の下限は、導電性微粒子の凝集が生じない濃度に導電性微粒子の濃度が維持される位置でなければならない。
【0030】
また、流入口71の垂直方向の位置を変えることによって、下段の容器60に流出する導電性微粒子の大きさを制御することができる。すなわち、主容器10において生成された導電性微粒子は、種々の大きさの微粒子を含んでおり、粒径の大きいものは主容器10の下方に沈み、粒径の小さいものは上方に浮くことになる。したがって、流入口71の垂直方向の位置を下げるにつれて、粒径の大きい導電性微粒子が下段の容器60に流出し、結果として下段の容器60に収容される導電性微粒子の粒度分布幅は広くなる。逆に、流入口71の垂直方向の位置を上げるにつれて、粒径の小さい導電性微粒子が優先的に下段の容器60に流出し、結果として下段の容器60に収容される導電性微粒子の粒度分布幅は狭くなる。流路70における導電性液体の流出口72の垂直方向の位置、すなわち、容器の底面から流出口72までの距離は、任意に設定することができる。
【0031】
流路70の導電性液体の流入口71の水平方向の位置、すなわち、上から容器をみたときの流入口71の位置は特に問わない。図1及び図2に示される本発明の実施形態においては、流路70は容器端部の中央に位置しているが、これは、主容器10及び複数の容器60を接続することを考慮しているためである。すなわち、例えば、主容器10の次の容器60aを考えると、容器60a内において前段の容器10からの液体が流入する位置72と後段の容器60bに液体が流出する位置71とは、容器60a内における液体の濃度を均一に維持するために、離れていることが好ましい。このような状態にすることを考慮して、本実施形態においては、流路70は、容器の端部中央に設置されている。
【0032】
本発明の一実施形態においては、流路70は、複数の中空パイプ70a、70b、70cと、複数の中空パイプ70a〜70cを連結する、例えばシリコンゴム製のジョイントなどの連結部材75とで構成することができる。容器内における液体の流入口71又は流出口72の高さは、連結部材75内部において中空パイプの端部同士を離したり近づけたりすることによって調整可能である。中空パイプ70a〜70cの材質は、内部を通る導電性液体に対して安定であれば特に限定されず、例えば、ガラス、プラスチックなどとすることができる。
【0033】
主容器10及び1つ又は複数の副容器60の各々の物理的な位置関係は特に限定されず、流路70を介して容器内の液体が前段の容器から後段の容器に滞りなく流れることができる配置であればよい。
【0034】
なお、本明細書においては主容器が1つのみの場合について説明されているが、当然のことながら、複数の主容器を用いて導電性微粒子を製造することも可能である。この場合には、本明細書に記載されている主容器と副容器との接続の考え方を拡張し、本発明の導電性微粒子を連続的に製造する装置を、複数の主容器と各々の主容器に接続された1つ又は複数の副容器とを用いるシステムとして考えることができる。このようなシステムによれば、より大量の導電性微粒子を連続的に製造することができる。
【0035】
<導電性液体>
導電性液体CLの溶媒は、電解質物質を溶かすことができる液体であればよく、例えば、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチル等の有機溶媒、水、イオン性液体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、導電性液体CLは、電解質を溶質として含む電解水溶液でもよく、導電性を有する溶融塩でもよい。電解質は、中性、アルカリ性、酸性のいずれでもよく、アルカリ性の電解質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩が挙げられる。
【0036】
導電性液体CLの温度は、液体が全面的に気体化するような沸点以下であればよいが、常温程度であってもよい。導電性液体CLが電解水溶液の場合は、導電性液体の温度は、大気圧下で70〜90℃程度であるのが好ましく、加圧環境下では100℃を超えていてもよい。
【0037】
1つ又は複数の副容器60に収容される液体は、主容器10に収容される導電性液体CLと異なるものとすることもできる。例えば、主容器10に導電性液体CLを収容し、2段目の副容器60aに還元性液体を収容することによって、主容器10で生成された導電性微粒子を2段目の副容器60aで還元することができる。また、前述のように、2段目以降の複数の副容器60を並列に接続する場合も考えられる。この場合には、それぞれの副容器60に異なる液体を収容して、それぞれ性質の異なる導電性微粒子を生成することもできる。
【0038】
<電極>
主容器10に収容された導電性液体中には、導電性材料からなる陰極30と、陰極30から所定の距離を隔てて陽極40とが配置される。陰極30に用いる導電性材料は、生成されるナノスケールの導電性微粒子の原料となるものであり、生成したい導電性微粒子の性質に合わせて素材や組成を適宜選択することができる。陰極30として、各種の金属及び半導体などの単一元素材を用いることができ、合金化した複合元素材を用いることもできる。
【0039】
陰極30の形状は、特に限定されるものではないが、平均電界の一様性の観点から対称性を有する形状であることが好ましく、円柱状、円筒状、球状、円錐状であることが好ましく、円柱状であることがより好ましい。陰極30が円柱状の場合における先端部の形状は、用いられる材料に応じて変えることが好ましい。例えば、陰極30として用いられる材料が低融点材料の場合は、先端部の形状は平坦な方が好ましく、高融点材料の場合は、先端部の形状は鋭角的な形状が好ましい。特に、陰極30の材料が、亜鉛、アルミニウムの場合には、先端部は鋭角に形成されるより平坦に形成される方が断線しにくいため好ましい。高融点材料の場合においても、先端部の形状を平坦なものとすることもできるが、陰極30の側面にもプラズマを生成させるには、より高い電圧を印加することが必要となる。
【0040】
さらに、より粒径の均一な導電性微粒子が連続的に生成されるようにするためには、少なくとも陰極30の導電性液体CL中に存在する部分において、陰極30に縁部が存在しないこと(言い換えると、電極30の導電性液体CLに接触する部分が、形状的に一様性を有すること)が好ましい。例えば横断面形状が多角形の陰極30には、その長軸方向に沿って延びる縁部が存在することになる。縁部が存在しない電極30を得るための一実施形態が、断面図として表現された図3に示される。図3に示される実施形態においては、導電性液体CL中において電極30に縁部が存在しないように、陰極30の形状を円柱状にするとともに、その先端部31が導電性液体CLに接触しないように先端部31を覆うカバー35が取り付けられる。カバー35は、例えばガラス、テフロン(登録商標)などの絶縁性物質を用いて形成された、一端が閉じた中空キャップ状のカバーである。陰極30の先端部31を覆うようにカバー35を陰極30に取り付けることによって、少なくとも陰極30の導電性液体CLと接触する部分(図3における「L」の部分)には、例えば図3における先端部31又は横断面形状が多角形の陰極30において長軸方向に沿って延びる縁部のような縁部が存在しなくなる。
【0041】
陰極30の導電性液体CLと接触する部分に、例えば図3における先端部31のような縁部が存在する場合には、他の部分と比べてその縁部に特に頻繁に電流集中現象が生じる。電極の一部分に電流集中が生じると、その部分からの導電性微粒子の生成が多くなり、生成される導電性微粒子の粒径は次第に大きくなる。一方、電極に縁部が存在しない場合、例えば図3に示されるように導電性液体CLと接触する電極30の部分Lが面のみで構成される場合には、電流集中現象が電極30の表面全体にわたって一様に生じ、電流集中が特に頻繁になる場所がないため、表面全体から粒径の揃った導電性微粒子が生成されることになる。以上が、電極30に縁部が存在しないことにより粒径が均一の導電性微粒子が得られる理由と考えられる。
【0042】
陰極30のサイズ(大きさ又は太さ)は、導電性液体CLの量、生成される導電性微粒子の収量、生成持続時間、電流密度の変動などの条件を考慮して、適宜選択される。一般に、陰極30のサイズが大きい方が、導電性微粒子の生成量は多く、生成持続時間が長く、電流密度の変動が小さいため平均粒径は小さくなる。しかしながら、例えば、従来技術のようなバッチ式の生成装置の場合には、陰極30のサイズを大きくすると、導電性液体中における導電性微粒子の濃度が短時間で上昇し、凝集が生じる。これに対して、本発明に係る連続製造装置1では、主容器10をオーバーフローした導電性微粒子を含む導電性液体CLが流路70を通って後段の副容器60に移動することによって、主容器10内の導電性微粒子の濃度を凝集が生じない濃度に維持することができるため、陰極30は大きなものを用いることができる。したがって、本装置1を用いると、平均粒径の小さな導電性微粒子を長時間にわたって製造することが可能となる。
【0043】
陽極40の材料は、例えばプラチナが挙げられるが、これに限定されるものではなく、導電性液体CL中で安定なものであればよい。陽極40の形状は特に限定されないが、表面積をできるだけ大きくすることが好ましい。陽極40の表面積は、陰極30の表面積に対して約25〜約1000倍であることが好ましい。陽極40の表面積を大きくすることによって、陰極30の周囲で一様な電界を発生させることができ、また、陰極30の近傍に電圧低下、電力損失及び温度上昇を集中させることができる。陽極40の表面積を大きくするためには、例えば、陽極40の大きさ自体を大きくしたり、陽極40を、陰極30を取り囲むメッシュ電極としたりすればよい。
【0044】
陰極30の数は、図1及び図2においては1つのみが示されているが、これに限定されるものではない。陰極30が2つ以上の場合には、それらの陰極30に対応する陽極40が対電極を形成するように設けられればよい。また、図1及び図2においては、2つの陽極40が示されているが、陽極40の数はこれに限定されるものではない。面積の大きな陽極40を用いることができれば、陽極40の数は1つでもよい。また、陽極40の数は、必要に応じて3つ以上とすることもできる。陽極40の数が2つ以上の場合における陽極40の配置は、陰極30と陽極40の各々との距離が等しくなるような配置が好ましい。容量の大きな主容器10を用いる場合には、その容量に応じて陰極30と陽極40からなる対電極を複数組用いることもできる。
【0045】
陰極30と陽極40は、互いに接触することなく導電性液体CL中に配置される。陰極30と陽極40との間には導電性液体CLのみが存在するのが好ましい。陰極30の周囲を均等に囲むように、同心円的に陽極40を配置することが好ましい。
【0046】
陰極30と陽極40との間の距離は、電圧の印加により陰極30の表面近傍で安定なグロー放電プラズマは発生するが、陰極30と陽極40とが高電流密度の放電路で直接つながってアーク放電が生じることがないように、適宜調整される。陰極30と陽極40との間の適切な距離は、導電性液体の濃度との関連で決まる。導電性液体は、中性以外の場合には取り扱いの観点から濃度が低い方が好ましい。しかしながら、低濃度の導電性液体を用いた場合には、陰極30と陽極40との距離が遠すぎると電極間に電流が流れなくなるため、より高い電圧を印加することが必要となり、経済性及び環境負荷の観点から好ましくない。逆に、陰極30と陽極40との距離が近すぎると、アーク放電が生じやすくなるため、導電性微粒子の生成条件の制御が難しくなる。したがって、陰極30と陽極40との距離は、例えば、約20〜約1000mmが好ましく、約50mmがより好ましい。主容器10の容量が大きい場合には、所定の距離だけ離れた陰極30と陽極40の複数の組を用いることが好ましく、このような構成は、例えば、陰極30と陽極40とを所定の距離を隔てて交互に配置することで実現できる。
【0047】
<印加電圧>
印加する電圧は、陰極30の近傍でグロー放電プラズマを発生させることができる下限の電圧より高く、陰極30が赤熱する電圧より低いことが好ましい。陰極30が赤熱すると、材料が溶融し、導電性微粒子が連続的に生成されない。陰極30が赤熱する電圧は、例えば、銅では約200V、銀では約180V、タングステンでは約300Vである。印加する電圧は、陰極30が赤熱する電圧より低い電圧が好ましい。この程度の電圧を印加することによって、陰極30の近傍が完全プラズマに近いが完全プラズマには達していない状態となるため、プラズマのムラが少なくなり、導電性微粒子が連続的に生成される。電圧が低すぎると、陰極30の近傍でグロー放電プラズマが発生せず導電性微粒子が得られず、プラズマが発生したとしても導電性微粒子の収量が極めて少ない。また、電圧が高すぎると、陽極及び陰極間にアーク放電が生じるため、所望の導電性微粒子が得られない。印加する電圧は、導電性液体が電解水溶液である場合は、好ましくは約65V〜約200V、より好ましくは約80V〜約140Vである。
【0048】
<隔壁>
本発明の一実施形態においては、陰極30と陽極40との間に、隔壁80を設けることができる。隔壁80は、導電性液体CL中における電子の移動を阻害しない材料で構成されればよく、例えば、ジルコニア(酸化ジルコニウム)の多孔質膜、テフロン(登録商標)メッシュなどの材料で構成されることが好ましい。隔壁80を設けることによって、陰極30から生成された導電性微粒子が主容器10内部で拡散しにくくすることができる。また、導電性液体CLとして電解水溶液を用いた場合には、水の電気分解によって陰極30の近傍から水素が発生するが、隔壁80の上に水素を回収するための覆い90を設けることにより、発生した水素を効率的に回収することができる。隔壁80の形状は、特に限定されないが、陰極30の周りのできるだけ多くの面積を覆うことができる形状が好ましい。
【0049】
(ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する方法)
ここで、装置1を用いてナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する方法の一実施形態を説明する。まず、導電性液体CLを主容器10に収容する。主容器10に収容した導電性液体CLと同一の組成の導電性液体を、1つ又は複数の副容器60にも収容する。図1に示されるように、ここでは、2つの副容器60a、60bが直列に接続されている。別の実施形態においては、1つ又は複数の副容器60には、主容器10とは別の液体を収容することもできる。また、1つ又は複数の副容器60は並列に接続することもできる。主容器10における導電性の液体中に配置された陰極30と陽極40とからなる対電極に、電源50によって電圧を印加する。
【0050】
対電極に電圧が印加されると、陰極30の表面における電力損失によって陰極30の温度が上昇し、それに伴って、陰極30の周りの導電性液体の温度も上昇する。導電性液体の温度が沸点を超えると、陰極30の近傍に水蒸気を含むシース状の気相が形成され、気相の中でグロー放電プラズマが発生する。グロー放電プラズマが確立された後、さらに電圧を上昇させ、陰極30の近傍にグロー放電プラズマを持続的に形成させる。
【0051】
グロー放電プラズマの持続的形成後、陰極30と導電性液体CLとの界面におけるシース状のプラズマ内の電流集中現象により、陰極30表面の局所温度がその材料の融点を超え、材料が局所的に融解する。融解して液滴状態で陰極30表面から遊離した材料は、導電性液体CL中に入り、表面張力によって球状に成型された後、急冷されて、ナノスケールの導電性微粒子が生成される。本装置1においては、特許文献1に開示された方法より大きなサイズの陰極30を用いることができるため、陰極30が短時間で消耗することなく、同一品質のナノスケールの導電性微粒子を長時間にわたって連続して製造することができる。
【0052】
ナノスケールの導電性微粒子の生成前又は生成後に、ポンプ(図示せず)を稼働させ、導電性液体の供給源(図示せず)から送液路20を介して主容器10に導電性液体CLの供給を開始する。導電性液体CLの供給流量は、一定であることが好ましく、流路70を介して主容器10から副容器60aに送られる導電性液体CLの流量と概ね等しいことが好ましい。このように導電性液体CLの主容器10への供給流量と主容器10からの流出流量とをバランスさせることにより、主容器10における導電性液体CLの量を概ね一定に維持することができる。その結果、導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度を、凝集が発生しない濃度に維持することができる。例えば、特許文献1のような単一の容器を用いたバッチ式技術の場合には、本発明者らの実験では、約300ccの導電性液体中に約10mgの導電性微粒子(ステンレス(SUS316))が存在したときに微粒子が凝集した。したがって、例えばステンレス(SUS316)微粒子の場合には、導電性液体CL中における微粒子濃度は、少なくともこれより低い濃度に維持される必要がある。
【0053】
また、導電性液体CLの供給流量は、小さいことが好ましい。粒径の異なる導電性微粒子が生成される場合には、本装置及び方法においては、上述のように粒径の大きい微粒子が主容器10の下部に沈降し、粒径の小さい微粒子が主容器10内部で上昇して副容器60に移動することになる。したがって、導電性液体CLの供給流量が大きいと、主容器10及び副容器60内の液体が撹拌され、その結果、粒径の異なる導電性微粒子が混ざり合うため、適切な分級ができなくなるおそれがある。
【0054】
上述したように、流路70の流入口71の垂直方向の位置を変えることによって、主容器10における導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度を変えることができる。例えば、流入口71の位置を低くすると、主容器10内の導電性液体CLの量が少なくなるため、他の条件が同一の場合には、導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度は高くなる。逆に、流入口71の位置を高くすると、導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度は低くなる。
【0055】
また、導電性液体CLの主容器10への供給流量及び主容器10からの流出流量を増加させることによっても、導電性液体CL中の導電性微粒子の濃度を調整することができる。流量を増加させることによって、主容器10から流出する導電性液体CLに含まれる導電性微粒子の濃度が低下する。また、流量を増加させることによって、生成された導電性微粒子のうち粒径の大きい粒子は、導電性液体中で沈降する前に流出する。したがって、回収される導電性微粒子に粒径の大きい粒子が混合し、粒径分布の幅が広がることになる。
【0056】
主容器10から流出した導電性微粒子を含む導電性液体CLは、流路70を通って副容器60aに流入する。副容器60aには、流路70を介してさらに容器60bが接続されており、副容器60aから流出した導電性微粒子を含む導電性液体CLは、容器60bに流入する。図1においては、2つの副容器60a及びbのみが直列に接続されているが、副容器60bの後段にさらに1つ又は複数の副容器60を直列及び/又は並列に接続することもできる。このように、複数の容器を直列及び/又は並列に接続し、前段の容器から後段の容器に導電性微粒子を含む導電性液体を順次移動させることによって、各々の容器における導電性液体中の導電性微粒子の濃度を凝集しない濃度に維持することができる。その結果、主容器10内に配置される陰極30としてよりサイズの大きいものを用いた場合でも、長時間にわたって連続的に導電性微粒子を製造することができる。
【0057】
主容器10においては、時間の経過に伴って、生成された導電性微粒子のうち粒径の大きなものは導電性液体中において下方に沈降する。沈降しにくい粒径の小さな導電性微粒子は、主容器10から流出する導電性液体CLと共に副容器60aに移動する。副容器60aにおいても同様に、時間の経過に伴って、粒径の小さな導電性微粒子は上方に残り、粒径の大きな導電性微粒子は下方に沈降する。上方の粒径の小さな導電性微粒子は、副容器60aから流出する導電性液体CLとともに副容器60bに移動する。このように、本装置1によれば、各々の容器毎にそれぞれ異なる粒径分布の導電性微粒子を収集することができる。最終的に、副容器60bには、導電性微粒子のうちの粒径の小さい、均一な導電性微粒子が存在することになる。
【0058】
導電性微粒子を連続的に生成し、陰極30が消耗した場合には、電圧の印加を停止し、導電性液体CLの温度が大幅に低下しないうちに消耗した陰極30を新たな陰極30に交換し、再び電圧を印加すれば、導電性微粒子の製造を続けることができる。
【0059】
生成された導電性微粒子のうち主容器10、副容器60に残る導電性微粒子をこれらの容器の液体から回収する方法は特に限定されない。例えば、容器の底面に垂直な軸を中心として液体を回流させ、導電性微粒子を容器の底部に沈殿させることにより、沈殿した導電性微粒子を回収することができる。あるいは、各々の容器内の液体を遠心分離器で処理することによって、液体から導電性微粒子を回収することもできる。さらに、導電性微粒子を濾過により回収することもでき、溶媒抽出法を用いて導電性微粒子を有機相中に濃縮することによって回収することもできる。
【0060】
生成される導電性微粒子の形状、サイズ(直径)、粒径分布、組成、結晶性などの物性は、グロー放電の条件によって制御することができる。グロー放電の条件として、印加する電圧や電流の大きさ、これらの変動、放電時間、導電性液体の種類、導電性液体の濃度、導電性液体の温度、電極を構成する元素組成、電極の形状、電極の初期表面粗さ、電極の温度、電極材料中の不純物又は添加元素の種類や濃度が挙げられる。例えば、印加する電圧を上げると、導電性微粒子の粒径を小さくすることができる。
【0061】
導電性微粒子の形状を制御するには、電流集中の成長率を高めればよい。電流集中の成長率を高めるには、陰極から熱が逃げることを防止したり、印加する電圧を上げたりすればよい。陰極から熱が逃げることを防止するには、陰極の形状や物性などを適宜選択したり、陰極と陰極リードとの接続方法を適宜選択したりすればよい。印加する電圧を上げることで、電子の温度(エネルギー)を高めることができ、電流集中の成長率を高めることができる。
【実施例】
【0062】
(実施例1;銀微粒子/カバーあり)
主容器と1つの副容器と(すなわち、図1に示される主容器10及び副容器60a)からなる、導電性微粒子を連続的に製造する装置を用いた。陰極として銀(Ag)を用いた。図4に示されるように、陰極の上部には、陰極を電源に接続するための端子と、主容器上部に設けられた架台に陰極を設置するためのホルダーとを取り付けた。また、陰極の下部には、陰極の先端部を覆うカバーを取り付けた。したがって、このホルダー及びカバーによって覆われていない部分Lのみが、主容器内の液体と接触することになる。陰極は、形状が円柱形であり、直径が4mm、主容器内の液体と接触する部分Lの長さが48mmであった。一方、陽極として、図1に示されるような陽極40と類似する形状の1組の陽極ホルダーに白金線を巻き付けたものを用いた。1つの陽極に巻き付けた白金線は、長さが1000mm、直径が0.5mmであった。
【0063】
主容器及び副容器はガラス製のものを用いた。主容器内には炭酸カリウム(K2CO3)水溶液(0.5M)を収容した。主容器には、主容器の水溶液をオーバーフローさせて副容器に送るためのガラス製オーバーフロー・パイプ(図1における流路70に相当する)を設置した。オーバーフロー・パイプの直径は20mmであった。水溶液の液面の高さ(すなわち、オーバーフロー・パイプの上端と主容器の底面との距離)は70mmとし、主容器内に収容された水溶液の体積は40リットルであった。また、主容器には、主容器に水溶液を供給するための送液パイプ(図1における送液路20に相当する)を設置した。送液パイプから主容器に供給される水溶液の流量は、1リットル/hであった。炭酸カリウム水溶液が収容された主容器内に、上述の陰極及び陽極を配置した。陰極と陽極との間の距離は50mmとした。なお、主容器には、水溶液の温度を計測するための熱電対も設置した。
【0064】
陰極−陽極間に95Vの電圧を印加して銀微粒子の連続製造を行った。通電開始から約30分後には、水溶液の温度は約88℃になり、その後、その温度が維持された。銀微粒子の製造は、少なくとも約8時間連続して行うことが可能であった。主容器においては、製造された銀微粒子がオーバーフロー・パイプを通して副容器に送られることによって、銀微粒子濃度は、銀微粒子が凝集しない濃度に保たれ、その結果、凝集することなく連続的に製造することが可能であった。また、陰極の破断も生じなかった。
【0065】
図5(a)及び(b)は、製造された銀微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM;日本電子株式会社製 JSM−7001F サーマル電界放出形走査電子顕微鏡;加速電圧15kVで測定)によって観察した写真であり、いずれも副容器内の水溶液中の(すなわち、主容器の水溶液中において上方に浮上した)銀微粒子である。図5(a)は通電開始から約1時間後に得られた銀微粒子であり、図5(b)は通電開始から約6時間後に得られた銀微粒子である。図5(a)及び(b)の銀微粒子の粒径は、図中のスケールからいずれも約70〜80nmであった。図5から、粒径が小さくかつ概ね均一の銀微粒子が長時間連続的に製造されたことがわかる。なお、図6(a)及び(b)は、それぞれ主容器内における導電性液体中の別の場所から採取された銀微粒子の写真であり、これらの写真から、主容器内のいずれの場所においても、概ね均一の粒径の銀微粒子が得られることが理解される。
【0066】
(実施例2;銀微粒子/カバーなし)
図7(a)及び(b)並びに図8(a)及び(b)は、実施例1と同じ構成及び条件の装置において、先端部を覆うカバーが取り付けられていない銀陰極を用いて製造された銀微粒子をSEMによって観察した写真である。図7(a)は、通電開始から1時間後に得られた副容器内の水溶液中の(すなわち、主容器の水溶液中において上方に浮上した)銀微粒子であり、図7(b)はそのときの水溶液の下方に沈降した銀微粒子である。図8(a)は、通電開始から4時間後に得られた副容器内の水溶液中の(すなわち、主容器の水溶液中において上方に浮上した)銀微粒子であり、図8(b)はそのときの水溶液の下方に沈降した銀微粒子である。本実施例においては、陰極−陽極間の電圧は140Vであった。実施例1と同様に、実施例2の場合も、長時間連続的に銀微粒子を製造することが可能であった。ただし、図7及び図8から、図5に示される実施例1の場合とは異なり、製造された銀微粒子は、粒径が不均一であることがわかる。例えば、図7(b)の時点において、主容器内の水溶液の下方に沈降した銀微粒子のうち最大の微粒子の粒径は約5μmであった。なお、図7(b)の写真には、粒径5μmの微粒子は写っていないが、SEMによる測定によって、図7(b)の試料と同じ試料に含まれていた微粒子のうち最大の微粒子の粒径が約5μmであることは確認されている。
【0067】
(実施例3;銅微粒子/カバーなし)
実施例1と同じ構成及び条件の装置において、先端部を覆うカバーが取り付けられていない銅陰極を用いて、銅微粒子を製造した。銅陰極の形状は円柱形であり、直径は4mm、主容器内の液体中における長さは70mmであった。主容器内に収容した導電性液体は、L(+)-アスコルビン酸(0.1M)と、リン酸水素二カリウム(0.05M)及びリン酸二水素カリウム(0.05M)からなるリン酸緩衝液(0.1M)とを、1:6の比率で混合したものを用いた。陰極−陽極間には、190Vの電圧を印加した。
【0068】
通電開始から約30分後には、水溶液の温度は約90℃になり、その後その温度が維持された。銅微粒子の製造は、少なくとも約8時間連続して行うことが可能であった。主容器においては、製造された銅微粒子がオーバーフロー・パイプを通して副容器に送られることによって、銅微粒子濃度は、銅微粒子が凝集しない濃度に保たれ、その結果、凝集することなく連続的に製造することが可能であった。また、陰極の破断も生じなかった。
【0069】
図9(a)〜(c)並びに図10(a)及び(b)は、採取された銅微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した写真である。図9(a)及び(b)は、通電開始から1時間後に得られた副容器内の水溶液中の(すなわち、主容器の水溶液中において上方に浮上した)銅微粒子であり、図9(c)はそのときの水溶液の下方に沈降した銅微粒子である。図9(a)のSEMの倍率は5000倍、図9(b)及び(c)のSEMの倍率は20000倍である。図9から、製造された銅微粒子は、実施例1の結果と比較すると粒径の均一性は劣るものの、ナノスケールの銅微粒子であることがわかる。図10(a)は、通電開始から8時間後に得られた副容器内の水溶液中の(すなわち、主容器の水溶液中において上方に浮上した)銅微粒子であり、図10(b)はそのときの水溶液の下方に沈降した銅微粒子である。図10(a)及び(b)から、主容器に残る銅微粒子(図10(b))と、副容器に移動する銅微粒子(図10(a))とは、粒径に従って分級されており、図10(b)の微粒子の径がより大きいことが分かる。
【0070】
(実施例4;ステンレス微粒子/カバーなし)
実施例1と同じ構成の装置において、先端部を覆うカバーが取り付けられていないステンレス(SUS316鋼)陰極を用いて、ステンレス微粒子を製造した。ステンレス陰極の形状は円柱形であり、直径は4mm、主容器内の液体中における長さは70mmであった。主容器内に収容した導電性液体は、リン酸水素二カリウム(0.05M)及びリン酸二水素カリウム(0.05M)からなるリン酸緩衝液(0.1M)を用いた。陰極−陽極間には、140Vの電圧を印加した。
【0071】
通電開始から約30分後には、水溶液の温度は約90℃になり、その後その温度が維持された。ステンレス微粒子の製造は、少なくとも約8時間連続して行うことが可能であった。主容器においては、製造されたステンレス微粒子がオーバーフロー・パイプを通して副容器に送られることによって、ステンレス微粒子濃度は、ステンレス微粒子が凝集しない濃度に保たれ、その結果、凝集することなく連続的に製造することが可能であった。また、陰極の破断も生じなかった。通電開始から4時間後に得られたステンレス微粒子の量は、約900mgであった。
【符号の説明】
【0072】
1 ナノスケール導電性微粒子の連続製造装置
10 主容器
20 送液路
30 陰極
40 陽極
50 電源
60、60a、60b 副容器
70、70a、70b、70c 流路
71 流入口
72 流出口
75 連結部材
80 隔壁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する装置であって、
導電性の液体を収容した第1の容器と、
前記第1の容器に供給される導電性の液体が通る送液路と、
前記第1の容器内の導電性の液体中に配置された陽極及び導電性材料からなる陰極と、
前記陰極の近傍にグロー放電プラズマを生じさせる電圧を前記陰極と前記陽極との間に印加する電源と、
液体を収容した第2の容器と、
前記第1の容器と前記第2の容器とを連通する液体流路と、
を備え、
導電性液体が、前記送液路により前記第1の容器に供給され、前記液体流路を通って前記第1の容器から前記第2の容器に移動することにより、少なくとも前記第1の容器における導電性の液体中の導電性微粒子の濃度が前記第1の容器内において導電性微粒子の凝集が生じない濃度に維持されるようになったことを特徴とする装置。
【請求項2】
液体を収容した1つ又は複数の第3の容器をさらに備え、前記第2の容器と前記1つ又は複数の第3の容器の各々とは、流体流路を介して直列に接続されたことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
液体を収容した1つ又は複数の第3の容器をさらに備え、前記第2の容器と前記1つ又は複数の第3の容器のうちの一の容器とは、流体流路を介して直列に接続され、前記一の容器と、前記1つ又は複数の第3の容器のうちの他の容器とは、流体流路を介して互いに並列に接続されたことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記流路は、両方の端部がそれぞれ別の容器内の液体中に位置するパイプであり、前記パイプは、前記パイプの前記端部と前記端部の各々が配置された容器の底面との距離を調整する機構を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記陰極は、前記導電性の液体中に配置される前記陰極の部分には縁部が存在しないように構成されたことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記陰極は円柱状であり、前記導電性の液体中に配置される前記陰極の部分において、前記陰極の先端部を覆う絶縁性のカバーが取り付けられたことを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記陽極は2つ以上であり、前記陰極と前記2つ以上の陽極の各々との間の距離が概ね等しいことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記陰極と前記陽極との間に配置された隔壁をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
ナノスケールの導電性微粒子を連続的に製造する方法であって、
第1の容器内の導電性の液体中に配置された陽極及び導電性材料からなる陰極に、電圧を印加するステップと、
前記陰極の近傍にグロー放電プラズマを生じさせて導電性微粒子を生成するステップと、
前記第1の容器内に導電性の液体を供給するステップと、
前記第1の容器から第2の容器に導電性の液体を移動させるステップと、
を含み、前記第1の容器に供給される導電性の液体の流量を制御することによって、少なくとも前記第1の容器内の導電性の液体中における導電性微粒子の濃度を前記第1の容器内において導電性微粒子の凝集が生じない濃度に維持することを特徴とする方法。
【請求項10】
液体を収容した1つ又は複数の第3の容器をさらに備え、前記第2の容器と前記1つ又は複数の第3容器の各々とは流体流路を介して直列に接続されており、前記流体流路を介して各々の容器内の液体を順次移動させることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
液体を収容した1つ又は複数の第3の容器をさらに備え、前記第2の容器と前記1つ又は複数の第3の容器のうちの一の容器とは、流体流路を介して直列に接続され、前記一の容器と、前記1つ又は複数の第3の容器のうちの他の容器とは、流体流路を介して互いに並列に接続されており、前記流体流路を介して各々の容器内の液体を順次移動させることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記陰極は、前記導電性の液体中に配置される前記陰極の部分には縁部が存在しないように構成されたことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記陰極は円柱状であり、前記導電性の液体中に配置される前記陰極の部分において、前記陰極の先端部を覆う絶縁カバーが取り付けられたことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記陽極は2つ以上であり、前記陰極と前記2つ以上の陽極の各々との間の距離が概ね等しいことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記陰極と前記陽極との間に配置された隔壁をさらに備えることを特徴とする、請求項9に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−52209(P2012−52209A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197635(P2010−197635)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(509101181)合同会社札幌NBT (2)
【Fターム(参考)】