ナノチューブで満たされた通路を有するマイクロ流体素子及びその製造方法
上部壁(6)と、底部壁(3)と、2個の対向する側壁(4、5)とにより区画される少なくとも一個の通路(2)を備えてなるマイクロ流体素子。通路(2)の上部壁(6)と底部壁(3)の間隔(P)は25マイクロメートル以上であり、該素子は、接触表面と有効体積の比が特に高く、全体的な表面サイズが限られるように、第一および第二セットのナノチューブ(9a、9b)が、それぞれ2個の対向する側壁(4、5)により支持されている。さらに、2個の対向する側壁(4、5)の間隔は、約数マイクロメートル、好ましくは3〜5マイクロメートルである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部壁と、底部壁と、2個の対向する側壁とにより区画される少なくとも一個の通路を備えてなり、該通路の該壁の少なくとも一個が、該壁に対して実質的に直角に配置された複数のナノチューブを支持する、マイクロ流体素子に関する。
【0002】
本発明は、そのようなマイクロ流体素子の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
流体マイクロシステムとも呼ばれるマイクロ流体デバイス、例えば「μ−TAS」(マイクロトータルアナリシスシステム)または「Lab−on−a−chip」として良く知られている、マイクロリアクターまたはマイクロラボは、過去10年間、非常に僅かな量の試料に対して化学的または生物学的操作および/または分析を行うために実用化されている。
【0004】
しかし、これらのマイクロ流体デバイスには益々多くの機能を統合することが求められている。例えば、試料の予備処理、濾過、混合、分離、および/または検出のようないくつかの操作を行うことができるマイクロ流体デバイスが求められている。しかし、そのような統合を行うには、システムが、小型化および/または効率に関して、益々性能を高めることが求められる。その上、S/V比とも呼ばれる、試料と接触している系の表面と、該デバイスの中を流れる試料の体積との比が高い程、不均質な化学的あるいは生物学的反応の、または分離の効率は高いことが分かっている。
【0005】
Timothy B. Stachowiak et al.による論文「Chip electrochromatography」(Journal of Chromatography A, 1044 (2004) 97-111頁)は、例えばμ−TASで今日まで使用されている様々な分離方式を開示している。例えば、この論文は、固定相として作用する変性された壁を備えた開放通路を使用するオン−チップエレクトロクロマトグラフィー装置を記載している。開放通路はマイクロメートル寸法を有し、S/V比は顕微鏡装置におけるよりも大きい。しかし、この解決策では、形成される表面が限られている。この論文は、例えばビーズ、例えばシリカ系のビーズ、で満たされた通路を使用することにより、縮小した体積中で接触表面を増加できることも記載している。
【0006】
ナノ構造合成方法、例えばCNTとも呼ばれるカーボンナノチューブまたはカーボンナノ繊維、の分野における最近の展開により、マイクロ流体デバイスの接触表面を増大させる見通しが開けている。例えば、米国特許出願公開第2004/0126890号明細書は、分析すべき物質、例えば生物分子および生物分子複合体、を分離および濃縮するためのデバイスを記載している。このデバイスは、開放毛管、例えばカーボンナノチューブ、を含み、固相抽出操作を行うことができる。
【0007】
2種類の主要なカーボンナノチューブ合成方法がある。
【0008】
第一の製法は、触媒粉末からカーボンナノチューブを製造し、独立したカーボンナノチューブ、すなわち表面に付着していないカーボンナノチューブを形成することができる。例えば、Ya-Qi Cai et al.による論文(「幾つかのフタレートエステルを水試料から固相抽出するための多壁カーボンナノチューブ充填カートリッジおよびそれらの、HPLCによる確認(Multi-walled carbon nanotubes packed cartridge for the solid-phase extraction of several phthalate esters from water samples and their determination by high performance liquid chromatography)」, Analytica Chimica Acta, 494 (2003), 149-156頁)は、従来のカートリッジにカーボンナノチューブを使用し、固相抽出する方法に関する。使用されるカーボンナノチューブは、平均外径が30〜60nmであり、カートリッジの中に挿入する前に、予め製造される。
【0009】
第二の種類の製法は、カーボンナノチューブを、触媒被覆を予め施した表面上で、その場で形成し、次いでナノチューブを該表面に対して実質的に直角に配置することができる。例えば、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書では、通路の表面の一つにより、より詳しくは、通路の底部により支持されているカーボンナノチューブが、分子輸送を制御するメンブランを形成するのに使用される。これらのカーボンナノチューブは、通路の底部に対して実質的に直角に配置され、通路中を循環する流れに対する障害物を形成する。これらのカーボンナノチューブは、金属触媒を使用する制御成長製法により形成される。成長方法は、例えばPECVD(プラズマ化学気相成長)型方法である。通路の底部上にあるカーボンナノチューブの位置は、通路の底部上に予め形成された、ナノチューブがそこから成長する金属触媒の滴の位置によって決定される。使用される触媒は、例えばニッケル、コバルト、または鉄である。しかし、そのような方法により得られるカーボンナノチューブには、長さが最大で数マイクロメートル、より詳しくは、2または3マイクロメートルに限られるという欠点がある。このため、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路では、接触表面と有効体積との間の比を、大量の試料を効率的に処理するだけ十分に高くすることができない。
【発明の目的】
【0010】
本発明の目的は、先行技術の欠点を解決するマイクロ流体素子を提供することにある。より詳しくは、本発明の目的の一つは、上部壁と、底部壁と、2個の対向する側壁とにより区画される少なくとも一個の通路を備えてなり、該通路の該壁の少なくとも一個が、該壁に対して実質的に直角に配置された複数のナノチューブを支えている、接触表面と有効体積の比が特に高く、かつ全体的な表面サイズが限定されたマイクロ流体素子を提供することにある。
【0011】
本発明によれば、この目的は、請求項により、より詳しくは、上部壁と底部壁の間隔が25マイクロメートル以上であり、第一および第二セットのナノチューブが、該通路を満たすように、それぞれ対向する側壁により支持されていること、および2個の対向する側壁の間隔が約数マイクロメートルであることにより、達成される。
【0012】
本発明の別の目的は、そのようなマイクロ流体素子を製造するための、容易に実行でき、接触表面と有効体積の比が特に高く、全体的な表面サイズが限定されたマイクロ流体素子を得ることが可能な方法を提供することにある。
【0013】
本発明によれば、この目的は、少なくとも下記の連続的な工程、すなわち
− 厚さが予め決められている基材を選択的にエッチングし、該通路の少なくとも対向する側壁を形成する工程、および
− 該通路の該対向する側壁上に第一および第二セットのナノチューブを成長させる工程
を含んでなる方法により達成される。
【0014】
他の利点および特徴は、以下に添付の図面を参照しながら、非制限的な例としてのみ記載する、本発明の特別な実施態様の説明から、より深く理解される。
【特別な実施態様の説明】
【0015】
図1および2に示す特別な実施態様により、流体マイクロシステムとも呼ばれるマイクロ流体素子1は、少なくとも一個の、流体を流すことのできる通路2を備えてなる。通路2は、閉じた通路である、すなわち該流体を通すための入口および出口を備えてなるが、通路2の底部を形成する底部壁3ならびに2個の対向する側壁4および5によるのみならず、上部壁6によっても区画される通路である。
【0016】
例えば、通路2の底部壁3ならびに2個の対向する側壁4および5は、基材7中に形成されるのに対し、通路2の上部壁6は、例えば保護カバー8により形成される。基材7は、シリコン、ガラス、石英、またはプラスチックから製造されることができ、保護カバー8は、閉じた、完全に漏れの無い通路2が得られるように、基材7に対して密封されるのが好ましい。
【0017】
その上、通路2の深さに対応し、図1でPにより示される、底部壁3と上部壁6の間隔は、25マイクロメートル以上、好ましくは25〜100マイクロメートル、になるように決定または選択される。さらに、通路2の幅に対応し、図2でLにより示される、2個の対向する側壁4と5の間隔は、約数マイクロメートル、好ましくは約3〜約5マイクロメートル、特に3〜4マイクロメートルになるように選択される。
【0018】
通路2の2個の対向する側壁4および5は、それらの表面上に、好ましくは金属触媒により制御される成長方法により得られる、第一および第二セットのナノチューブ9aおよび9bをそれぞれ支持する。特に、各セットのナノチューブ9aおよび9bは、例えば炭素を含むナノチューブ、例えば炭素および金属炭化物から製造されたナノチューブであることができ、ナノチューブを支える側壁の表面全体に配置することができる。これらのナノチューブは、該壁に対して実質的に直角に配置される。したがって、図1および2で、側壁は垂直壁であり、各セットのナノチューブ9aおよび9bは、複数の、実質的に平行で、水平のナノチューブにより形成される。
【0019】
その上、図1および2で、第一セットのナノチューブ9aの遊離末端のほとんどは、第二セットのナノチューブ9bの遊離末端と接触している。ナノチューブ9aおよび9bの長さは、好ましくは3マイクロメートル以下、特に約2〜3マイクロメートルである。したがって、通路2の、約数マイクロメートル、特に3〜4マイクロメートルの幅Lでは、第一セットのナノチューブ9a、すなわち図1および2で側壁4により支持されるナノチューブ、の大部分が、第二セットのナノチューブ9b、すなわち図1および2で対向する側壁5により支持されるナノチューブ、の遊離末端と接触する。これによって、通路の全容積が、非常に多数のナノチューブにより満たされ、したがって、通路の接触表面と通路内側の有効体積の比を特に高くすることができる。
【0020】
上部壁6または底部壁3の少なくとも一方は、それらの表面上に追加のナノチューブセットも支持することができる。例えば、図1では、通路2の底部壁3が、その表面全体上に、追加のナノチューブセット9cを支持し、それらのナノチューブは、該底部壁3に対して実質的に直角に配置されている。図1で、ナノチューブ9cは、互いに実質的に平行であり、垂直である。図3に示される別の実施態様では、上部壁6も追加のナノチューブセット9dを備えてなり、この場合、通路2の壁は、該対応する壁に対して実質的に直角にナノチューブを支えている。したがって、通路2は、その断面全体にわたって、ナノチューブで完全に満たされている。さらに、ナノチューブ9cおよび/または9dの長さは、壁4および5により支えられているナノチューブ9aおよび9bの長さと実質的に等しい。
【0021】
通路により区画される空間がナノチューブで満たされているので、先行技術の、ナノチューブで満たされていないマイクロ流体素子よりも、体積に対する表面の比がはるかに高いマイクロ流体素子が得られる。これによって素子の効率が改良され、例えば反応または分析時間、ばらつき、死空間、必要とされる試料の量等が低減される。さらに、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路と異なり、通路の幾何学的構造、より詳しくは通路のサイズのために、限られた全体的な表面サイズを維持しながら、非常に多数の通路も単一のマイクロ流体素子に集積することができる。例えば、比較のために、断面積が100x100μm2である本発明の素子は、25本の通路を含むことができ、横方向寸法が数百マイクロメートルであるのに対し、同等の、ただし、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路を備えてなる素子は、横方向寸法が3000μmを超えることになろう。最後に、同じ量の試料に対して、マイクロ流体素子中に、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路を埋め込むには、深さが25μm以下の通路より30〜50倍大きな平面表面を使用する必要があろう。
【0022】
その上、マイクロ流体素子の通路2は、どのような種類の幾何学的構造でも有することができる。さらに、通路の入口は、入口通路に接続された流体分割区域に接続することができるのに対し、通路の出口は、出口通路に接続された流体収集区域に接続することができる。
【0023】
マイクロ流体素子の通路2、例えば図1および2に示す通路は、基材7における選択的エッチング工程により製造することができる。例えば、図4〜11に示すように、3個の通路2がシリコン基材7に形成される。基材7は、例えば厚さが約450マイクロメートルである。選択的エッチングを行うには、基材7の遊離表面7aをフォトレジスト層10で覆い(図4)、次いで層10を、写真平版印刷により、パターン10aの形態にパターン形成する(図5)。例えば、パターン10aは、層10を、マスク(図には示していない)を通してUV放射線により露光し、次いで層10の露光した区域を除去することにより形成される。次いで、基材7を、例えば深反応性イオンエッチング(DRIE)により、深エッチング工程にかける(図6)。このエッチング工程は、基材のエッチングが、基材7の、パターン10aにより覆われていない区域のレベルでのみ行われるので、選択的と呼ばれる。エッチング深度も、予め決められた深さPを有する通路が得られるように、決定される。例えば、図4〜10に示す特別な実施態様では、基材の厚さより厳密に小さな深さに、好ましくは25〜100マイクロメートルの深さにエッチングを行う。したがって、このエッチング工程により、通路2の側壁4および5ならびに底部壁3を基材7の中に形成することができる(図6)。
【0024】
次いで、図7に示すように、金属触媒を堆積させる工程を行う。パターン10aの遊離表面、各通路2の側壁4および5ならびに底部壁3を、厚さが一様な、例えば10nmの金属触媒の層11で覆う。触媒層11の堆積は、化学的蒸発またはスパッタリングにより、電解析出により、または化学析出により、行うことができる。さらに、触媒の形成に使用される金属材料は、鉄、コバルト、ニッケル、またはこれらの金属の合金から特に選択される。
【0025】
次いで、パターン10a、および触媒層11の、該パターン10aにより支持される部分を除去する。このようにして、各通路2の側壁4および5ならびに底部壁3だけを、それらの表面上で、層11により被覆する(図8)。次いで、層11を例えば温度500℃〜600℃で1時間のアニーリング工程にかけ、層11を断片に分け、カーボンナノチューブを成長させるための種として作用する複数の触媒滴を形成する。これによって、各通路2の側壁4および5ならびに底部壁3は、それらの表面上に、それぞれ11a、11b、および11c(図9)で示される触媒滴を含んでなる。
【0026】
次いで、単一の熱サイクルで、それぞれ滴11a、11b、および11cから成長させることにより、3セットのカーボンナノチューブ9a、9b、および9cを形成する(図10)。それぞれの壁4、5、および3に対して実質的に直角方向におけるナノチューブの成長は、炭素供給源としてアセチレンを使用する化学蒸着(CVD)により達成することができる。したがって、ナノチューブの位置は、フォトレジストパターン10aが除去された後に残る触媒層の位置により、より詳しくは、通路の壁上に形成された触媒滴の位置により、決定される。次いで、図10に示すように、ナノチューブ9aの大部分を、ナノチューブ9bと接触させることができる。さらに、通路2の壁だけがカーボンナノチューブを支持し、基材7の、以前にパターン10aにより覆われていた表面はブランクのまま残る。
【0027】
図11に示すように、通路2がカーボンナノチューブ9a、9b、および9cで満たされた後、例えばガラスまたはシリコンから製造された保護カバー8を、基材7の遊離表面7a上に配置し、例えば分子密封形成するSi−SiまたはSi−ガラス結合により、またはスクリーン印刷による密封により、密封する。これによって、閉じた、完全に漏れの無い通路2を得ることができる。
【0028】
続いて切断工程を行い、一個以上の、カーボンナノチューブで完全に満たされた通路2を備えたマイクロリアクターを形成することができる。
【0029】
例えば、それぞれ約5μmの幅Lおよび30μmの深さPを有する通路2の網目を、基材、例えばシリコンウェーハ、に製造した。図4〜6に示すように、通路は、写真平版印刷および深反応性イオンエッチング(DRIE)により形成する。次いで、基材の表面を熱酸化工程にかけ、厚さ2〜3マイクロメートルの酸化物層を基材の表面上に形成する。次いで、図7に示すように、堆積工程を行い、基材の表面全体、より詳しくは、通路の壁を形成する部分を、厚さ100nmのニッケル層で被覆する。ニッケルの層は、例えば化学的蒸発により堆積される。例示のため、ニッケル層堆積工程の後、通路2の網目を有するウェーハを走査電子顕微鏡により観察した(図12および13)。次いで、セットを、水素雰囲気0.2バール中、550℃の温度で20分間、熱アニーリング工程にかけ、ニッケル層を断片に分け、ニッケル滴を形成する。次いで、カーボンナノチューブの成長を、アセチレン(27sccm)とヘリウム(80sccm)との0.4mbar混合物を使用し、554℃で1分間行う。図14は、成長工程の後にカーボンナノチューブ9で満たされた通路2を示す。
【0030】
第一の別の実施態様では、触媒堆積工程の前に、例えば窒化チタンまたは窒化タンタル製の薄い拡散防止またはバリヤー層を、触媒層11と基材7の間に堆積させる工程を行うことができる。さらに、アニーリング工程により形成される触媒滴の密度を、それによって続いて形成されるカーボンナノチューブの数を、従来の様式で、触媒層11をエッチングすることにより、制御することができる。例えば、触媒滴の密度は、例えば国際特許出願公開第2004/078348号明細書に記載されているエッチングにより、制御することができる。
【0031】
第二の別の実施態様では、図15に示すように、基材7のエッチングを基材の厚さと等しい、特に25マイクロメートルを超える、好ましくは25〜100マイクロメートルの深さに行うことができる。この場合、基材のエッチングは、通路2の2個の対向する側壁4および5だけを形成する。通路2の底部壁3は、後で、好ましくは第一および第二セットのナノチューブを成長させた後で、追加の保護カバー12を、保護カバー8と反対側で基材7に密封することにより、形成される。
【0032】
そのような製造方法は、ナノチューブ通路により区画される空間を完全に充填することにより、表面と体積の比が特に高く、全体的な表面サイズが限られているマイクロ流体素子を、直接、容易に得ることができる。そのような方法は、事実、ビーズまたは粒子による充填工程、グラフト化工程、または化学的モノリス合成工程が関与する方法より、実行が容易である。さらに、そのような方法には、完全なシリコンウェーハのダイを総合的に処理するのに使用される技術と相容れるという利点がある。
【0033】
本発明は、上記の実施態様に限定されるものではない。例えば、ナノチューブを、それらの表面を官能化するように設計された処理にかけることができる。例えば、ナノチューブを白金堆積物で被覆し、酸素により一酸化炭素を二酸化炭素に低温で完全に酸化することを目的とするマイクロ流体素子を得ることができる。酵素、例えばトリプシン、をナノチューブ上にグラフト化し、タンパク質を分析する前に、タンパク質を消化するためのマイクロ流体素子またはマイクロリアクターを得ることもできる。最後に、ナノチューブをクロマトグラフィー用の固定相支持体として使用することができる。その場合、ナノチューブの表面は、露出したままでもよいし、例えば化学分子または帯電した分子をグラフト化することにより、官能化してから、ナノチューブをクロマトグラフィー用の固定相として使用することができる。
【0034】
さらに、特定の実施態様では、図16に示すように、側壁4の上に形成された第一セットのナノチューブ9aの遊離末端を、壁5の上に形成された第二セットのナノチューブ9bの遊離末端と接触させることが、常に有用である訳ではない。この場合、通路2は、ナノチューブの遊離末端同士により区画され、通路2の中央に位置する遊離空間13を含んでなる。空間13は、幅L’が2マイクロメートル未満であり、ナノチューブ9aおよびナノチューブ9bの遊離末端同士を分離する平均間隔に対応する。通路2は、遊離空間13を含んでなるが、その素子は、やはり小さな幅L(例えば3〜5マイクロメートル)の通路中で、通路が小さな幅L’を有する限り、特に高い接触表面と有効体積の比を維持している。ナノチューブの成長工程パラメータは、通路の側壁上に形成されるナノチューブの大部分が、該通路の反対側の側壁上に形成されるナノチューブと接触しないように制御することができる。例えば、上記の例では、成長工程の温度を554℃から500℃に下げること、および/または成長工程を、1分間の代わりに30秒間で行うことにより、ナノチューブが無い空間を各通路の中央に残すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のマイクロ流体素子の特別な実施態様を模式的に示す横断面図である。
【図2】図1によるマイクロ流体素子のA−A断面を示す図である。
【図3】図1によるマイクロ流体素子の第一の別の実施態様を模式的に示す横断面図である。
【図4】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図5】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図6】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図7】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図8】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図9】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図10】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図11】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図12】図4〜11に示す製造の様々な工程を、走査電子顕微鏡により得られた画像の形態で示す。
【図13】図4〜11に示す製造の様々な工程を、走査電子顕微鏡により得られた画像の形態で示す。
【図14】図4〜11に示す製造の様々な工程を、走査電子顕微鏡により得られた画像の形態で示す。
【図15】図1によるマイクロ流体素子の第二の別の実施態様を模式的に示す横断面図である。
【図16】本発明のマイクロ流体素子の別の実施態様を示す断面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部壁と、底部壁と、2個の対向する側壁とにより区画される少なくとも一個の通路を備えてなり、該通路の該壁の少なくとも一個が、該壁に対して実質的に直角に配置された複数のナノチューブを支持する、マイクロ流体素子に関する。
【0002】
本発明は、そのようなマイクロ流体素子の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
流体マイクロシステムとも呼ばれるマイクロ流体デバイス、例えば「μ−TAS」(マイクロトータルアナリシスシステム)または「Lab−on−a−chip」として良く知られている、マイクロリアクターまたはマイクロラボは、過去10年間、非常に僅かな量の試料に対して化学的または生物学的操作および/または分析を行うために実用化されている。
【0004】
しかし、これらのマイクロ流体デバイスには益々多くの機能を統合することが求められている。例えば、試料の予備処理、濾過、混合、分離、および/または検出のようないくつかの操作を行うことができるマイクロ流体デバイスが求められている。しかし、そのような統合を行うには、システムが、小型化および/または効率に関して、益々性能を高めることが求められる。その上、S/V比とも呼ばれる、試料と接触している系の表面と、該デバイスの中を流れる試料の体積との比が高い程、不均質な化学的あるいは生物学的反応の、または分離の効率は高いことが分かっている。
【0005】
Timothy B. Stachowiak et al.による論文「Chip electrochromatography」(Journal of Chromatography A, 1044 (2004) 97-111頁)は、例えばμ−TASで今日まで使用されている様々な分離方式を開示している。例えば、この論文は、固定相として作用する変性された壁を備えた開放通路を使用するオン−チップエレクトロクロマトグラフィー装置を記載している。開放通路はマイクロメートル寸法を有し、S/V比は顕微鏡装置におけるよりも大きい。しかし、この解決策では、形成される表面が限られている。この論文は、例えばビーズ、例えばシリカ系のビーズ、で満たされた通路を使用することにより、縮小した体積中で接触表面を増加できることも記載している。
【0006】
ナノ構造合成方法、例えばCNTとも呼ばれるカーボンナノチューブまたはカーボンナノ繊維、の分野における最近の展開により、マイクロ流体デバイスの接触表面を増大させる見通しが開けている。例えば、米国特許出願公開第2004/0126890号明細書は、分析すべき物質、例えば生物分子および生物分子複合体、を分離および濃縮するためのデバイスを記載している。このデバイスは、開放毛管、例えばカーボンナノチューブ、を含み、固相抽出操作を行うことができる。
【0007】
2種類の主要なカーボンナノチューブ合成方法がある。
【0008】
第一の製法は、触媒粉末からカーボンナノチューブを製造し、独立したカーボンナノチューブ、すなわち表面に付着していないカーボンナノチューブを形成することができる。例えば、Ya-Qi Cai et al.による論文(「幾つかのフタレートエステルを水試料から固相抽出するための多壁カーボンナノチューブ充填カートリッジおよびそれらの、HPLCによる確認(Multi-walled carbon nanotubes packed cartridge for the solid-phase extraction of several phthalate esters from water samples and their determination by high performance liquid chromatography)」, Analytica Chimica Acta, 494 (2003), 149-156頁)は、従来のカートリッジにカーボンナノチューブを使用し、固相抽出する方法に関する。使用されるカーボンナノチューブは、平均外径が30〜60nmであり、カートリッジの中に挿入する前に、予め製造される。
【0009】
第二の種類の製法は、カーボンナノチューブを、触媒被覆を予め施した表面上で、その場で形成し、次いでナノチューブを該表面に対して実質的に直角に配置することができる。例えば、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書では、通路の表面の一つにより、より詳しくは、通路の底部により支持されているカーボンナノチューブが、分子輸送を制御するメンブランを形成するのに使用される。これらのカーボンナノチューブは、通路の底部に対して実質的に直角に配置され、通路中を循環する流れに対する障害物を形成する。これらのカーボンナノチューブは、金属触媒を使用する制御成長製法により形成される。成長方法は、例えばPECVD(プラズマ化学気相成長)型方法である。通路の底部上にあるカーボンナノチューブの位置は、通路の底部上に予め形成された、ナノチューブがそこから成長する金属触媒の滴の位置によって決定される。使用される触媒は、例えばニッケル、コバルト、または鉄である。しかし、そのような方法により得られるカーボンナノチューブには、長さが最大で数マイクロメートル、より詳しくは、2または3マイクロメートルに限られるという欠点がある。このため、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路では、接触表面と有効体積との間の比を、大量の試料を効率的に処理するだけ十分に高くすることができない。
【発明の目的】
【0010】
本発明の目的は、先行技術の欠点を解決するマイクロ流体素子を提供することにある。より詳しくは、本発明の目的の一つは、上部壁と、底部壁と、2個の対向する側壁とにより区画される少なくとも一個の通路を備えてなり、該通路の該壁の少なくとも一個が、該壁に対して実質的に直角に配置された複数のナノチューブを支えている、接触表面と有効体積の比が特に高く、かつ全体的な表面サイズが限定されたマイクロ流体素子を提供することにある。
【0011】
本発明によれば、この目的は、請求項により、より詳しくは、上部壁と底部壁の間隔が25マイクロメートル以上であり、第一および第二セットのナノチューブが、該通路を満たすように、それぞれ対向する側壁により支持されていること、および2個の対向する側壁の間隔が約数マイクロメートルであることにより、達成される。
【0012】
本発明の別の目的は、そのようなマイクロ流体素子を製造するための、容易に実行でき、接触表面と有効体積の比が特に高く、全体的な表面サイズが限定されたマイクロ流体素子を得ることが可能な方法を提供することにある。
【0013】
本発明によれば、この目的は、少なくとも下記の連続的な工程、すなわち
− 厚さが予め決められている基材を選択的にエッチングし、該通路の少なくとも対向する側壁を形成する工程、および
− 該通路の該対向する側壁上に第一および第二セットのナノチューブを成長させる工程
を含んでなる方法により達成される。
【0014】
他の利点および特徴は、以下に添付の図面を参照しながら、非制限的な例としてのみ記載する、本発明の特別な実施態様の説明から、より深く理解される。
【特別な実施態様の説明】
【0015】
図1および2に示す特別な実施態様により、流体マイクロシステムとも呼ばれるマイクロ流体素子1は、少なくとも一個の、流体を流すことのできる通路2を備えてなる。通路2は、閉じた通路である、すなわち該流体を通すための入口および出口を備えてなるが、通路2の底部を形成する底部壁3ならびに2個の対向する側壁4および5によるのみならず、上部壁6によっても区画される通路である。
【0016】
例えば、通路2の底部壁3ならびに2個の対向する側壁4および5は、基材7中に形成されるのに対し、通路2の上部壁6は、例えば保護カバー8により形成される。基材7は、シリコン、ガラス、石英、またはプラスチックから製造されることができ、保護カバー8は、閉じた、完全に漏れの無い通路2が得られるように、基材7に対して密封されるのが好ましい。
【0017】
その上、通路2の深さに対応し、図1でPにより示される、底部壁3と上部壁6の間隔は、25マイクロメートル以上、好ましくは25〜100マイクロメートル、になるように決定または選択される。さらに、通路2の幅に対応し、図2でLにより示される、2個の対向する側壁4と5の間隔は、約数マイクロメートル、好ましくは約3〜約5マイクロメートル、特に3〜4マイクロメートルになるように選択される。
【0018】
通路2の2個の対向する側壁4および5は、それらの表面上に、好ましくは金属触媒により制御される成長方法により得られる、第一および第二セットのナノチューブ9aおよび9bをそれぞれ支持する。特に、各セットのナノチューブ9aおよび9bは、例えば炭素を含むナノチューブ、例えば炭素および金属炭化物から製造されたナノチューブであることができ、ナノチューブを支える側壁の表面全体に配置することができる。これらのナノチューブは、該壁に対して実質的に直角に配置される。したがって、図1および2で、側壁は垂直壁であり、各セットのナノチューブ9aおよび9bは、複数の、実質的に平行で、水平のナノチューブにより形成される。
【0019】
その上、図1および2で、第一セットのナノチューブ9aの遊離末端のほとんどは、第二セットのナノチューブ9bの遊離末端と接触している。ナノチューブ9aおよび9bの長さは、好ましくは3マイクロメートル以下、特に約2〜3マイクロメートルである。したがって、通路2の、約数マイクロメートル、特に3〜4マイクロメートルの幅Lでは、第一セットのナノチューブ9a、すなわち図1および2で側壁4により支持されるナノチューブ、の大部分が、第二セットのナノチューブ9b、すなわち図1および2で対向する側壁5により支持されるナノチューブ、の遊離末端と接触する。これによって、通路の全容積が、非常に多数のナノチューブにより満たされ、したがって、通路の接触表面と通路内側の有効体積の比を特に高くすることができる。
【0020】
上部壁6または底部壁3の少なくとも一方は、それらの表面上に追加のナノチューブセットも支持することができる。例えば、図1では、通路2の底部壁3が、その表面全体上に、追加のナノチューブセット9cを支持し、それらのナノチューブは、該底部壁3に対して実質的に直角に配置されている。図1で、ナノチューブ9cは、互いに実質的に平行であり、垂直である。図3に示される別の実施態様では、上部壁6も追加のナノチューブセット9dを備えてなり、この場合、通路2の壁は、該対応する壁に対して実質的に直角にナノチューブを支えている。したがって、通路2は、その断面全体にわたって、ナノチューブで完全に満たされている。さらに、ナノチューブ9cおよび/または9dの長さは、壁4および5により支えられているナノチューブ9aおよび9bの長さと実質的に等しい。
【0021】
通路により区画される空間がナノチューブで満たされているので、先行技術の、ナノチューブで満たされていないマイクロ流体素子よりも、体積に対する表面の比がはるかに高いマイクロ流体素子が得られる。これによって素子の効率が改良され、例えば反応または分析時間、ばらつき、死空間、必要とされる試料の量等が低減される。さらに、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路と異なり、通路の幾何学的構造、より詳しくは通路のサイズのために、限られた全体的な表面サイズを維持しながら、非常に多数の通路も単一のマイクロ流体素子に集積することができる。例えば、比較のために、断面積が100x100μm2である本発明の素子は、25本の通路を含むことができ、横方向寸法が数百マイクロメートルであるのに対し、同等の、ただし、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路を備えてなる素子は、横方向寸法が3000μmを超えることになろう。最後に、同じ量の試料に対して、マイクロ流体素子中に、米国特許出願公開第2004/0173506号明細書に記載されている通路を埋め込むには、深さが25μm以下の通路より30〜50倍大きな平面表面を使用する必要があろう。
【0022】
その上、マイクロ流体素子の通路2は、どのような種類の幾何学的構造でも有することができる。さらに、通路の入口は、入口通路に接続された流体分割区域に接続することができるのに対し、通路の出口は、出口通路に接続された流体収集区域に接続することができる。
【0023】
マイクロ流体素子の通路2、例えば図1および2に示す通路は、基材7における選択的エッチング工程により製造することができる。例えば、図4〜11に示すように、3個の通路2がシリコン基材7に形成される。基材7は、例えば厚さが約450マイクロメートルである。選択的エッチングを行うには、基材7の遊離表面7aをフォトレジスト層10で覆い(図4)、次いで層10を、写真平版印刷により、パターン10aの形態にパターン形成する(図5)。例えば、パターン10aは、層10を、マスク(図には示していない)を通してUV放射線により露光し、次いで層10の露光した区域を除去することにより形成される。次いで、基材7を、例えば深反応性イオンエッチング(DRIE)により、深エッチング工程にかける(図6)。このエッチング工程は、基材のエッチングが、基材7の、パターン10aにより覆われていない区域のレベルでのみ行われるので、選択的と呼ばれる。エッチング深度も、予め決められた深さPを有する通路が得られるように、決定される。例えば、図4〜10に示す特別な実施態様では、基材の厚さより厳密に小さな深さに、好ましくは25〜100マイクロメートルの深さにエッチングを行う。したがって、このエッチング工程により、通路2の側壁4および5ならびに底部壁3を基材7の中に形成することができる(図6)。
【0024】
次いで、図7に示すように、金属触媒を堆積させる工程を行う。パターン10aの遊離表面、各通路2の側壁4および5ならびに底部壁3を、厚さが一様な、例えば10nmの金属触媒の層11で覆う。触媒層11の堆積は、化学的蒸発またはスパッタリングにより、電解析出により、または化学析出により、行うことができる。さらに、触媒の形成に使用される金属材料は、鉄、コバルト、ニッケル、またはこれらの金属の合金から特に選択される。
【0025】
次いで、パターン10a、および触媒層11の、該パターン10aにより支持される部分を除去する。このようにして、各通路2の側壁4および5ならびに底部壁3だけを、それらの表面上で、層11により被覆する(図8)。次いで、層11を例えば温度500℃〜600℃で1時間のアニーリング工程にかけ、層11を断片に分け、カーボンナノチューブを成長させるための種として作用する複数の触媒滴を形成する。これによって、各通路2の側壁4および5ならびに底部壁3は、それらの表面上に、それぞれ11a、11b、および11c(図9)で示される触媒滴を含んでなる。
【0026】
次いで、単一の熱サイクルで、それぞれ滴11a、11b、および11cから成長させることにより、3セットのカーボンナノチューブ9a、9b、および9cを形成する(図10)。それぞれの壁4、5、および3に対して実質的に直角方向におけるナノチューブの成長は、炭素供給源としてアセチレンを使用する化学蒸着(CVD)により達成することができる。したがって、ナノチューブの位置は、フォトレジストパターン10aが除去された後に残る触媒層の位置により、より詳しくは、通路の壁上に形成された触媒滴の位置により、決定される。次いで、図10に示すように、ナノチューブ9aの大部分を、ナノチューブ9bと接触させることができる。さらに、通路2の壁だけがカーボンナノチューブを支持し、基材7の、以前にパターン10aにより覆われていた表面はブランクのまま残る。
【0027】
図11に示すように、通路2がカーボンナノチューブ9a、9b、および9cで満たされた後、例えばガラスまたはシリコンから製造された保護カバー8を、基材7の遊離表面7a上に配置し、例えば分子密封形成するSi−SiまたはSi−ガラス結合により、またはスクリーン印刷による密封により、密封する。これによって、閉じた、完全に漏れの無い通路2を得ることができる。
【0028】
続いて切断工程を行い、一個以上の、カーボンナノチューブで完全に満たされた通路2を備えたマイクロリアクターを形成することができる。
【0029】
例えば、それぞれ約5μmの幅Lおよび30μmの深さPを有する通路2の網目を、基材、例えばシリコンウェーハ、に製造した。図4〜6に示すように、通路は、写真平版印刷および深反応性イオンエッチング(DRIE)により形成する。次いで、基材の表面を熱酸化工程にかけ、厚さ2〜3マイクロメートルの酸化物層を基材の表面上に形成する。次いで、図7に示すように、堆積工程を行い、基材の表面全体、より詳しくは、通路の壁を形成する部分を、厚さ100nmのニッケル層で被覆する。ニッケルの層は、例えば化学的蒸発により堆積される。例示のため、ニッケル層堆積工程の後、通路2の網目を有するウェーハを走査電子顕微鏡により観察した(図12および13)。次いで、セットを、水素雰囲気0.2バール中、550℃の温度で20分間、熱アニーリング工程にかけ、ニッケル層を断片に分け、ニッケル滴を形成する。次いで、カーボンナノチューブの成長を、アセチレン(27sccm)とヘリウム(80sccm)との0.4mbar混合物を使用し、554℃で1分間行う。図14は、成長工程の後にカーボンナノチューブ9で満たされた通路2を示す。
【0030】
第一の別の実施態様では、触媒堆積工程の前に、例えば窒化チタンまたは窒化タンタル製の薄い拡散防止またはバリヤー層を、触媒層11と基材7の間に堆積させる工程を行うことができる。さらに、アニーリング工程により形成される触媒滴の密度を、それによって続いて形成されるカーボンナノチューブの数を、従来の様式で、触媒層11をエッチングすることにより、制御することができる。例えば、触媒滴の密度は、例えば国際特許出願公開第2004/078348号明細書に記載されているエッチングにより、制御することができる。
【0031】
第二の別の実施態様では、図15に示すように、基材7のエッチングを基材の厚さと等しい、特に25マイクロメートルを超える、好ましくは25〜100マイクロメートルの深さに行うことができる。この場合、基材のエッチングは、通路2の2個の対向する側壁4および5だけを形成する。通路2の底部壁3は、後で、好ましくは第一および第二セットのナノチューブを成長させた後で、追加の保護カバー12を、保護カバー8と反対側で基材7に密封することにより、形成される。
【0032】
そのような製造方法は、ナノチューブ通路により区画される空間を完全に充填することにより、表面と体積の比が特に高く、全体的な表面サイズが限られているマイクロ流体素子を、直接、容易に得ることができる。そのような方法は、事実、ビーズまたは粒子による充填工程、グラフト化工程、または化学的モノリス合成工程が関与する方法より、実行が容易である。さらに、そのような方法には、完全なシリコンウェーハのダイを総合的に処理するのに使用される技術と相容れるという利点がある。
【0033】
本発明は、上記の実施態様に限定されるものではない。例えば、ナノチューブを、それらの表面を官能化するように設計された処理にかけることができる。例えば、ナノチューブを白金堆積物で被覆し、酸素により一酸化炭素を二酸化炭素に低温で完全に酸化することを目的とするマイクロ流体素子を得ることができる。酵素、例えばトリプシン、をナノチューブ上にグラフト化し、タンパク質を分析する前に、タンパク質を消化するためのマイクロ流体素子またはマイクロリアクターを得ることもできる。最後に、ナノチューブをクロマトグラフィー用の固定相支持体として使用することができる。その場合、ナノチューブの表面は、露出したままでもよいし、例えば化学分子または帯電した分子をグラフト化することにより、官能化してから、ナノチューブをクロマトグラフィー用の固定相として使用することができる。
【0034】
さらに、特定の実施態様では、図16に示すように、側壁4の上に形成された第一セットのナノチューブ9aの遊離末端を、壁5の上に形成された第二セットのナノチューブ9bの遊離末端と接触させることが、常に有用である訳ではない。この場合、通路2は、ナノチューブの遊離末端同士により区画され、通路2の中央に位置する遊離空間13を含んでなる。空間13は、幅L’が2マイクロメートル未満であり、ナノチューブ9aおよびナノチューブ9bの遊離末端同士を分離する平均間隔に対応する。通路2は、遊離空間13を含んでなるが、その素子は、やはり小さな幅L(例えば3〜5マイクロメートル)の通路中で、通路が小さな幅L’を有する限り、特に高い接触表面と有効体積の比を維持している。ナノチューブの成長工程パラメータは、通路の側壁上に形成されるナノチューブの大部分が、該通路の反対側の側壁上に形成されるナノチューブと接触しないように制御することができる。例えば、上記の例では、成長工程の温度を554℃から500℃に下げること、および/または成長工程を、1分間の代わりに30秒間で行うことにより、ナノチューブが無い空間を各通路の中央に残すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のマイクロ流体素子の特別な実施態様を模式的に示す横断面図である。
【図2】図1によるマイクロ流体素子のA−A断面を示す図である。
【図3】図1によるマイクロ流体素子の第一の別の実施態様を模式的に示す横断面図である。
【図4】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図5】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図6】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図7】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図8】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図9】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図10】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図11】図1によるマイクロ流体素子の製造の様々な工程を模式的に示す横断面図である。
【図12】図4〜11に示す製造の様々な工程を、走査電子顕微鏡により得られた画像の形態で示す。
【図13】図4〜11に示す製造の様々な工程を、走査電子顕微鏡により得られた画像の形態で示す。
【図14】図4〜11に示す製造の様々な工程を、走査電子顕微鏡により得られた画像の形態で示す。
【図15】図1によるマイクロ流体素子の第二の別の実施態様を模式的に示す横断面図である。
【図16】本発明のマイクロ流体素子の別の実施態様を示す断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部壁(6)と、底部壁(3)と、2個の対向する側壁(4、5)とにより区画される少なくとも一個の通路(2)を備えてなり、前記通路の前記壁の少なくとも一個が、前記壁に対して実質的に直角に配置された複数のナノチューブを支持する、マイクロ流体素子であって、
前記上部壁(6)と前記底部壁(3)の間隔(P)が25マイクロメートル以上であり、第一および第二セットのナノチューブ(9a、9b)が、前記通路(2)を満たすように、それぞれ対向する側壁(4、5)により支持され、前記2個の対向する側壁(4、5)の間隔(L)が約数マイクロメートルである、マイクロ流体素子。
【請求項2】
前記第一セットのナノチューブの遊離末端と前記第二セットのナノチューブの遊離末端を分離する平均間隔が2マイクロメートル未満である、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記第一セットのナノチューブ(9a)の遊離末端の大部分が、前記第二セットのナノチューブ(9b)の遊離末端と接触する、請求項1または2に記載の素子。
【請求項4】
前記2個の対向する側壁(4、5)の前記間隔(L)が約3〜約5マイクロメートルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の素子。
【請求項5】
前記ナノチューブ(9a、9b、9c、9d)の長さが3マイクロメートル以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の素子。
【請求項6】
前記通路(2)の前記上部壁と底部壁(4、5)の前記間隔(P)が25〜100マイクロメートルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の素子。
【請求項7】
少なくとも一つの追加のセットのナノチューブ(9c、9d)が、前記上部壁および底部壁(6、3)の一方により支持される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の素子。
【請求項8】
前記ナノチューブが、炭素を含むナノチューブである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロ流体素子の製造方法であって、少なくとも下記の連続的な工程、すなわち
− 厚さが予め決められている基材(7)を選択的にエッチングし、前記通路(2)の少なくとも前記対向する側壁(4、5)を形成する工程、および
− 前記通路(2)の前記対向する側壁(4、5)上に前記第一および第二セットのナノチューブ(9a、9b)を成長させる工程
を含んでなる、方法。
【請求項10】
前記基材(7)のエッチングが、前記基材(7)の厚さと等しい深さに行われ、前記通路(2)の前記上部壁(6)および前記底部壁(3)が、前記基材(7)上にそれぞれ密封された第一および第二保護カバー(8、12)により形成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基材(7)のエッチングが、前記基材(7)の厚さより厳密に小さな深さに行われ、前記基材(7)中に、前記通路(2)の前記底部壁(3)を形成し、続いて前記通路(2)の前記上部壁(6)が、前記基材(7)上に密封された保護カバー(8)により形成される、請求項9に記載の方法。
【請求項1】
上部壁(6)と、底部壁(3)と、2個の対向する側壁(4、5)とにより区画される少なくとも一個の通路(2)を備えてなり、前記通路の前記壁の少なくとも一個が、前記壁に対して実質的に直角に配置された複数のナノチューブを支持する、マイクロ流体素子であって、
前記上部壁(6)と前記底部壁(3)の間隔(P)が25マイクロメートル以上であり、第一および第二セットのナノチューブ(9a、9b)が、前記通路(2)を満たすように、それぞれ対向する側壁(4、5)により支持され、前記2個の対向する側壁(4、5)の間隔(L)が約数マイクロメートルである、マイクロ流体素子。
【請求項2】
前記第一セットのナノチューブの遊離末端と前記第二セットのナノチューブの遊離末端を分離する平均間隔が2マイクロメートル未満である、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記第一セットのナノチューブ(9a)の遊離末端の大部分が、前記第二セットのナノチューブ(9b)の遊離末端と接触する、請求項1または2に記載の素子。
【請求項4】
前記2個の対向する側壁(4、5)の前記間隔(L)が約3〜約5マイクロメートルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の素子。
【請求項5】
前記ナノチューブ(9a、9b、9c、9d)の長さが3マイクロメートル以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の素子。
【請求項6】
前記通路(2)の前記上部壁と底部壁(4、5)の前記間隔(P)が25〜100マイクロメートルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の素子。
【請求項7】
少なくとも一つの追加のセットのナノチューブ(9c、9d)が、前記上部壁および底部壁(6、3)の一方により支持される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の素子。
【請求項8】
前記ナノチューブが、炭素を含むナノチューブである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロ流体素子の製造方法であって、少なくとも下記の連続的な工程、すなわち
− 厚さが予め決められている基材(7)を選択的にエッチングし、前記通路(2)の少なくとも前記対向する側壁(4、5)を形成する工程、および
− 前記通路(2)の前記対向する側壁(4、5)上に前記第一および第二セットのナノチューブ(9a、9b)を成長させる工程
を含んでなる、方法。
【請求項10】
前記基材(7)のエッチングが、前記基材(7)の厚さと等しい深さに行われ、前記通路(2)の前記上部壁(6)および前記底部壁(3)が、前記基材(7)上にそれぞれ密封された第一および第二保護カバー(8、12)により形成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基材(7)のエッチングが、前記基材(7)の厚さより厳密に小さな深さに行われ、前記基材(7)中に、前記通路(2)の前記底部壁(3)を形成し、続いて前記通路(2)の前記上部壁(6)が、前記基材(7)上に密封された保護カバー(8)により形成される、請求項9に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2008−540109(P2008−540109A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511592(P2008−511592)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004416
【国際公開番号】WO2006/122697
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004416
【国際公開番号】WO2006/122697
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】
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