説明

ニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造するための改良された方法

ニッケル(II)化合物を、リガンドの存在下に反応還元剤と反応させて、反応混合物を得ることにより、少なくとも1個のニッケル(0)中心原子と少なくとも1個の燐リガンドを含むニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造する方法であって、
a)前記反応において、還元剤:ニッケル(II)化合物のモル比を、酸化還元当量のモル比として計算して、1:1〜1000:1とし、
b)前記反応において、燐リガンド:ニッケル(II)化合物のモル比を、P原子:Ni原子のモル比として計算して最大で30:1とし、
c)得られた反応混合物中のニッケル(0)の含有量を、1.3質量%以下とし、そして
d)少なくとも1種のジニトリル及び少なくとも1種の炭化水素を添加することにより、得られた反応混合物を抽出して、少なくとも2相の不混和相を形成する、
ことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル(II)化合物を、リガンドの存在下に反応還元剤と反応させて反応混合物を得ることにより、少なくとも1個のニッケル(0)中心原子と少なくとも1個の燐含有リガンドを含むニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造する方法であって、
a)上記反応において、還元剤:ニッケル(II)化合物のモル比を、酸化還元当量のモル比として計算して、1:1〜1000:1とし、
b)上記反応において、燐含有リガンド:ニッケル(II)化合物のモル比を、P原子:Ni原子のモル比として計算して、最大で30:1とし、
c)得られた反応混合物中のニッケル(0)含有量を、最大で1.3質量%とし、そして
d)少なくとも1種のジニトリル及び少なくとも1種の炭化水素を添加することにより得られた反応混合物を抽出して、少なくとも2相の不混和相を形成する、
ことを特徴とする方法に関する。
【0002】
本発明は、更に、本発明によって得られ、及びニッケル(0)−燐リガンド錯体を含んだ混合物に関し、及びニッケル(0)−燐リガンド錯体を含んだこれら混合物を、触媒として、アルケンのヒドロシアン化及び異性体化に使用する方法、又は不飽和ニトリルのヒドロシアン化及び異性体化に使用する方法に関する。
【0003】
更に、本発明は、触媒としてのニッケル(0)−燐リガンド錯体の存在下に、分岐した不飽和ニトリルを、直鎖状不飽和ニトリルに異性化する方法であって、ニッケル(0)−燐含有リガンドを、上述した方法によって製造することを特徴とする方法にも関する。
【0004】
最後に、本発明は、触媒としてのニッケル(0)−燐リガンド錯体の存在下に、分岐した不飽和ニトリルを直鎖状不飽和ニトリルに異性化する更なる方法であって、本方法の実施において、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を循環モードで再生させることを特徴とする方法に関する。
【背景技術】
【0005】
アルケンのヒドロシアン化のためには、燐含有リガンドのニッケル錯体が、適切な触媒である。例えば、単座配位子のホスフィット(亜燐酸塩)を有するニッケル錯体が公知であり、このニッケル錯体は、ブタジエンを異性体ペンテンニトリル混合物、例えば、直鎖状3−ペンテンニトリル及び分岐2−メチル−3−ブテンニトリルの混合物にヒドロシアン化するのに触媒作用を及ぼす。これら触媒は、特に、続いて2−メチル−3−ブテンニトリルを3−ペンテンニトリルに異性化するためにも適切であり、そして、3−ペンテンニトリルを、(ポリアミドの製造において、重要な中間生成物である)アジポニトリルにヒドロシアン化するためにも適切である。
【0006】
上述したニッケル錯体の製造のための、種々の方法が公知であり、この中には、還元剤を使用した方法も存在する。
【0007】
特許文献1(US3,846,461)には、微細化された還元剤(この還元剤は、ニッケルよりも電気的に陽性である(electropositive)。)の存在下に、トリ有機ホスフィット化合物とニッケルクロリドを反応させ、これにより、トリ有機ホスフィットリガンドを有する0価のニッケル錯体を製造する方法が記載さている。特許文献1(US3,846,461)では、反応は、助触媒(promoter)の存在下に行われており、この助触媒は、NH3、NH4X、Zn(NH322、及びNH4XとZnX2との混合物(但し、Xがハロゲン化物に相等する)から成る群から選ばれるものである。
【0008】
新しい開発では、アルケン(ニッケル錯体)のヒドロシアン化で、キレートリガンド(多座配位子リガンド)を有するニッケル錯体を使用することが有利であることが示されており、この理由は、これらの使用により、より高い活性とより高い選択性が達成可能になり、さらに耐用年数(寿命)が長くなるからである。上述した従来技術の方法は、キレートリガンドを有するニッケル錯体を製造するためには不適切である。しかしながら、二価のニッケル化合物及びキレートリガンドから出発して、還元により、キレートリガンドを有するニッケル(0)錯体が製造可能な方法も公知である。代表例では、高い温度が使用され、場合によっては、錯体中の、熱的に変化しやすいリガンドが分解する。
【0009】
特許文献2(US2003/0100442A1)には、ニッケル(0)キレート錯体を製造する方法が開示されており、この方法では、キレートリガンドとニトリル溶媒の存在下に、ニッケルクロリドが、ニッケルよりも電気的に陽性の金属、特に亜鉛又は鉄を使用して還元される。高い時空収率(space-time yield)を達成するために、還元剤として活性な金属に対して、(モル的に)過剰のニッケル塩が使用されているが、錯化の後にはニッケル塩は、再度除去しなければならない。この方法は、通常、水性のニッケルクロリドを使用して行なわれ、特に加水分解で変化しやすいリガンドの場合には、これにより、その分解が発生する。特許文献2(US2003/0100442A1)によれば、無水のニッケルクロリドが使用される場合、特に加水分解で変化しやすいリガンドを使用する場合には、ニッケルクロリドが最初に特定の方法で乾燥され、非常に小さな粒子(この粒子は、大きな表面積と、従って高い反応性を有している)が得られる。この方法の不利な点の一つは、特に、スプレー乾燥によって製造されたニッケルクロリドの微細ダストは発癌性であることである。この方法の他の不利な点は、通常、高い温度が使用され、これにより、(特に熱的に変化しやすいリガンドの場合には)錯体のリガンドの分解が発生し得るということである。
【0010】
特許文献3(GB1000477)及び特許文献4(BE621207)は、燐含有リガンドの使用下に、ニッケル(II)化合物を還元することにより、ニッケル(0)錯体を製造する方法に関するものである。
【0011】
特許文献5(US4,385,007)には、ニッケル(0)錯体を製造する方法が記載されており、同文献では、ニッケル(0)錯体は、ジニトリルを製造するための触媒として、助触媒としての有機ホウ酸塩と組み合わせて使用されるものである。この場合、触媒と助触媒は、触媒的に活性な組成物(この組成物は、ペンテンニトリルのヒドロシアン化によるアジポニトリルの製造で既に使用されているものである)から得られている。
【0012】
特許文献6(US3,859,327)には、ニッケル(0)錯体を製造する方法が記載されており、同文献では、ニッケル(0)錯体は、ペンテンニトリルをヒドロシアン化するための触媒として、助触媒としての亜鉛クロリド(塩化亜鉛)と組み合わせて使用されるものである。この場合、ヒドロシアン化から生じるニッケル源が使用されている。
【0013】
特許文献7(WO2005/042157A2)には、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造する方法が記載されており、この方法では、ニッケル(II)−エーテル付加体が、燐リガンド(燐含有リガンド)の存在下に還元されている。有用な還元剤は、ニッケルよりも電気的に陽性の金属、例えば亜鉛又は鉄を含む。ニッケル(II)供給源と還元剤の、酸化還元当量モル比(molar ratio of the redox equivalent)は、1:1〜1:100である。特許文献8(WO2005/042156A1)には、臭化ニッケル又はヨウ化ニッケルから出発する、類似した方法が記載されている。何れの文献にも、得られた反応混合物の、続いての抽出については記載されていない。
【0014】
アジポニトリルは、ブタジエンを複数工程でヒドロシアン化することにより製造される。第1の工程では、反応はC5ニトリルの工程(段階)で最初に停止しなければならない。これは、得られた直鎖状3−ペンテンニトリルを、同様にして得られた分岐した2−メチル−3−ブテンニトリル(これから、更なるヒドロシアン化の過程で、望ましくないメチルグルタロニトリルが形成される)から除去するためである。第2工程では、除去された2−メチル−3−ブテンニトリルが、直鎖状3−ペンテンニトリルに異性化される。結合した(混ぜ合わせた)3−ペンテンニトリル流は、第3工程で、最終的にヒドロシアン化されてアジポニトリルになる。直鎖状3−ペンテンニトリルを製造する方法は、特許文献9(WO2005/073171A1)に記載されている。
【0015】
特許文献10(WO2005/073174A1)には、3−ペンテンニトリルの製造方法が記載されており、この方法では、ブタジエンのヒドロシアン化と2−メチル−3−ブテンニトリルの異性化が、触媒回路(catalyst circuit)を介して、互いに連結されている。37頁及び63〜68には、処理工程j*)が開示されており、この工程で、燐リガンドで安定化されたニッケル(0)触媒の流れが、ジニトリル流と炭化水素流を加えることにより抽出され、2相の不混和相が得られている。37頁及び52〜54には、還元剤(ニッケルよりも電気的に陽性の金属;及び金属アルキル、電流、錯体ヒドリド(錯体水素化物)及び水素)を使用した還元による触媒の再生として、処理工程h*)が開示されている。触媒錯体の製造において、得られる反応混合物(=生成物)の特定のニッケル(0)含有量については言及されていない;54頁31行目に記載されているNi(0)含有量は、錯体(=反応物質)を製造するために使用される、返還触媒溶液のものである。また同様に、連結した工程を、ヒドロシアン化と、ヒドロシアン化とは別に進行する(すなわち連結されていない)異性化に分けることについては記載がない。
【0016】
特許文献11(WO2004/101498A2)には、有機燐リガンドとニッケルで形成された触媒成分を使用して不飽和化合物をヒドロシアン化し、次に蒸留することを教示している。ここで、蒸留される混合物は、有機燐化合物:ニッケルのモル比(P原子:Ni原子として表される)が≦15であり、及び/又はニッケル濃度が≦1.3質量%であり、及び/又は蒸留底部温度が≦180℃である。6〜7頁には、脂肪族炭化水素を添加することによる抽出工程が記載されているが、しかし同文献には、抽出において、ニトリルを添加することについての記載がない。ニッケル(II)の還元剤との反応については記載がない。
【0017】
特許文献12(WO2005/073170A1)には、ニッケル(0)触媒がルイス酸を含まない場合には、(C5ニトリルを得る)第1工程を行った後、ヒドロシアン化が停止することが開示されている。従って、ブタジエンのヒドロシアン化のための触媒として、ルイス酸を含まないニッケル(0)−燐リガンド錯体を使用することが非常に有利である。
【0018】
更に、多くのルイス酸は腐食性であり、この理由により、触媒の合成とヒドロシアン化のための製造設備に、耐腐食剤及び従って高価な材料が必要とされる。ルイス酸を含まない生成物流は、設備(プラント)の構成と所定部分の操作をより安価なものにする。
【0019】
【特許文献1】US3,846,461
【特許文献2】US2003/0100442A1
【特許文献3】GB1000477
【特許文献4】BE621207
【特許文献5】US4,385,007
【特許文献6】US3,859,327
【特許文献7】WO2005/042157A2
【特許文献8】WO2005/042156A1
【特許文献9】WO2005/073171A1
【特許文献10】WO2005/073174A1
【特許文献11】WO2004/101498A2
【特許文献12】WO2005/073170A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上述した不利な点を解消し。そしてニッケル(0)−燐リガンド錯体(これは以降、ニッケル(0)錯体又はNi(0)錯体とも称される。)を製造するための改良された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
特に、ニッケル(0)−燐リガンド錯体(この錯体は、ルイス酸を含まない)を含んだ混合物(例えば、溶液又は懸濁液)を製造するために、本方法を使用することが意図されている。ルイス酸を含まない触媒が、ヒドロシアノ化反応と異性化反応に使用可能であるべきである。
【0022】
従って、上記に明記された、ニッケル(0)錯体、及び混合物を製造するための方法、及びその使用方法が見出された。また、上述した異性化のための方法も見出された。本発明の好ましい実施の形態が、従属請求項から得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に記載される全ての圧力データは、絶対圧である。ニッケル(0)又はNi(0)は、酸化状態がゼロのニッケルを意味し、そしてニッケル(II)又はNi(II)は、酸化状態が+2のニッケルを意味する。
【0024】
ニッケル(II)化合物
ニッケル(II)化合物は、ニッケル(II)ハロゲン化物、及びニッケル(II)−エーテル付加体から選ばれることが好ましく、ニッケル(II)ハロゲン化物及びニッケル(II)ハロゲン化物−エーテル付加体から選ばれることが特に好ましい。有用なニッケルハロゲン化物は、ニッケルクロリド(塩化ニッケル)、ニッケルブロミド(臭化ニッケル)、又はニッケルヨージド(ヨウ化ニッケル)又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0025】
ニッケルブロミドと、ニッケルヨージドは、特にUS2003/0100442A1に記載されたスプレー乾燥を用いることなく使用して良く、このことは、ニッケルクロリドとは対称的なものである。ニッケルブロミド及びニッケルヨージドの場合、乾燥工程は不必要であり、この理由は、これらニッケル供給源は、結晶サイズに無関係に達成されるからである。しかしながら、乾燥を行うことは不利にはならない。
【0026】
本発明に従う方法では、ニッケルブロミドとニッケルヨージドは、無水和物(anhydrate)又は水和物として使用して良い。本発明において、ニッケルブロミド又はヨージドの水和物は、ジ−又はヘキサハイドレート又は水溶液を意味すると理解される。リガンドの実質的な加水分解を防止するために、ニッケルブロミド又はヨージドの無水物を使用することが好ましい。
【0027】
ニッケルクロリドを、乾燥状態で使用することが好ましく、特にUS文献に記載されているように、スプレー乾燥した状態で使用することが好ましい。この代わりに、WO2005/042549A1(及び以降)に記載されているように、共沸蒸留によって乾燥することも可能である。
【0028】
共沸蒸留では、水性ニッケル(II)ハロゲン化物が使用される。水性ニッケル(II)ハロゲン化物は、水を少なくとも2質量%ニッケルクロリド、ニッケルブロミド、及びニッケルヨージドの群から選ばれるニッケルハロゲン化物である。これらの例は、ニッケルクロリドジハイドレート(塩化ニッケル二水和物)、ニッケルクロリドヘキサハイドレートであり、及びニッケルクロリド、ニッケルブロミドトリハイドレートの水溶液、ニッケルブロミド、ニッケルヨージドハイドレートの水溶液又はニッケルヨージドの水溶液である。ニッケルクロリドの場合、ニッケルクロリドヘキサハイドレート又はニッケルクロリドの水溶液を使用することが好ましい。ニッケルブロミド及びニッケルヨージドの場合、水溶液を使用することが好ましい。ニッケルクロリドの水溶液を使用することが特に好ましい。
【0029】
水溶液の場合、ニッケル(II)の水中濃度は特に制限がない。ニッケル(II)ハロゲン化物と水との合計質量中の、ニッケル(II)ハロゲン化物の有利な割合は、少なくとも0.01質量%、好ましくは少なくとも0.1質量%、より好ましくは少なくとも0.25質量%、特に好ましくは少なくとも0.5質量%であり、及び最大で80質量%、好ましくは最大で60質量%、より好ましくは最大で40質量%であることがわかった。実際上の理由により、ニッケルハロゲン化物と水との混合物中のニッケルハロゲン化物の割合は、与えられた温度と圧力条件下で、未溶解の固体が残らないという意味で、均質の溶液が得られる割合を超えないことが有利である。従って、ニッケルクロリドの水溶液の場合、実際上の理由により、室温(20℃)で、ニッケルクロリドと水との合計質量中のニッケルクロリドの割合は、最大で31質量%であることが有利である。他の温度では、対応して他の濃度を選択することができる。(この濃度は、特定の温度におけるニッケルクロリドの、水中での溶解度に起因するものである。)
【0030】
水性ニッケル(II)ハロゲン化物は、共沸蒸留によって乾燥される。好ましい実施の形態では、共沸蒸留は、水を、対応する水性ニッケル(II)ハロゲン化物から除去するための方法であり、この方法では、上記水性ニッケル(II)ハロゲン化物が希釈剤と混合され、
(但し、希釈剤について、
−上記蒸留の(以下に記載する)圧力条件下で、希釈剤が水と共沸混合物を形成しない場合には、希釈剤の沸点は水の沸点よりも高く、そして水の沸点では希釈剤は液体状態で存在するか、又は、
−上記蒸留の(以下に記載した)圧力と温度条件で、希釈剤が水と共沸混合物又はヘテロ共沸混合物を形成する、)
そして、水性ニッケル(II)ハロゲン化物と希釈剤とを含む混合物が蒸留され、水又は、上述したこの混合物の共沸物又はヘテロ共沸混合物が除去され、無水の混合物M(混合物Mは、ニッケル(II)ハロゲン化物と上述した希釈剤を含む)が得られる。
【0031】
蒸留されるべき出発混合物は、水性ニッケル(II)ハロゲン化物に加え、更なる成分、例えば、イオン性または非イオン性、有機又は無機化合物を含んで良く、特に出発混合物と均一に又は単相的に混和可能なもの、又は出発混合物に溶解性のものを含んで良い。
【0032】
水性ニッケル(II)ハロゲン化物と希釈剤(但し、この希釈剤の沸点は、蒸留の圧力条件下で、水の沸点よりも高く、そして水の沸点で液体状態である)とを混合することが好ましい。以下に記載する蒸留のための圧力条件は、本発明を限定するものではない。有利な圧力は、少なくとも10-4MPa、好ましくは少なくとも10-3MPa、特に少なくとも5・10-3MPaであることがわかった。有利な圧力は、最大で1MPa、好ましくは最大で5・10-1MPa、特に最大で1.5・10-1MPaであることがわかった。
【0033】
そして、圧力条件及び蒸留されるべき混合物の組成に依存して、蒸留温度が設定される。この温度では、希釈剤は、液体状態であることが好ましい。本発明において、「希釈剤(diluent)」という用語は、個々の(独立した)希釈剤及び希釈剤の混合物の何れをも意味し、混合物の場合、本発明にかかる上述した物理的特性は、この混合物に適用される。
【0034】
更に希釈剤は、これらの圧力条件と温度条件下に、次の沸点を有することが好ましい;すなわち、希釈剤が水と共沸混合物を形成しない場合には、希釈剤の沸点は、水の沸点よりも、好ましくは少なくとも5℃、特に少なくとも20℃高く、及び好ましくは最大で200℃、特に最大で100℃である。
【0035】
好ましい実施の形態では、水と共沸混合物又はヘテロ共沸混合物を形成する希釈剤が使用される。混合物中の水の量に対する希釈剤の量については、制限はされない。共沸により蒸留除去される量に相当するよりも多くの液体希釈剤を使用し、余分の(余った)希釈剤が底部生成物として残留することが有利であるべきである。
【0036】
水と共沸混合物を形成しない希釈剤が使用される場合、水の量に対する希釈剤の量については、制限はされない。
【0037】
使用される希釈剤は、特に、有機ニトリル、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及び上述した溶媒の混合物から成る群から選ばれることが好ましい。有機ニトリルについては、アセトニトリル、プロピオンニトリル、n−ブチルニトリル、n−バレロニトリル、シアノシクロプロパン、アクリロニトリル、クロトニトリル、アリルシアニド、シス−2−ペンテンニトリル、トランス−2−ペンテンニトリル、シス−3−ペンテンニトリル、トランス−3−ペンテンニトリル、4−ペンテンニトリル、2−メチル−3−ブテンニトリル、Z−2−メチル−2−ブテンニトリル、E−2−メチル−2−ブテンニトリル、エチルスシノニトリル、アジポニトリル、メチルグルタロニトリル又はこれらの混合物が好ましい。芳香族炭化水素については、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−きしれん、p−キシレン又はこれらの混合物が使用されることが好ましいものであって良い。脂肪族炭化水素は、直鎖状又は分岐(branched)脂肪族炭化水素の群から選ばれることが好ましく、シクロヘキサン又はメチルシクロヘキサン等の脂環式化合物又はこれらの混合物の群から選ばれることがより好ましい。シス−3−ペンテンニトリル、トランス−3−ペンテンニトリル、アジポニトリル、メチルグルタロニトリル又はこれらの混合物を溶媒として使用することが特に好ましい。
【0038】
使用する希釈剤が有機ニトリル又は少なくとも1種の有機ニトリルを含む混合物である場合、希釈剤の量を次のように選ぶことが有利であることがわかった、すなわち、完了した混合物(finished mixture)において、ニッケル(II)ハロゲン化物と希釈剤の合計質量中のニッケル(II)ハロゲン化物の割合が、少なくとも0.05質量%、好ましくは少なくとも0.5質量%、より好ましくは少なくとも1質量%であり、そして同様に、最大で50質量%、好ましくは最大で30質量%、より好ましくは最大で20質量%、及び特に最大で10質量%であることが有利であることがわかった。
【0039】
水性ニッケル(II)ハロゲン化物と希釈剤を含む混合物は蒸留され、そしてこの混合物から水が除去され、そしてニッケル(II)と上述した希釈剤を含んだ無水混合物Mが得られる。好ましい実施の形態では、混合物が最初に製造され、そして次に蒸留される。他の好ましい実施の形態では、蒸留の間、沸騰している希釈剤に、水性ニッケルハロゲン化物、より好ましくはニッケルハロゲン化物の水溶液が徐々に加えられる。これにより、技術工学的見地からは、取り扱いが困難な脂肪分の多い固体(greasy solid)の形成を実質的に回避することが可能になる。
【0040】
希釈剤として、ペンテンニトリルを使用する場合、最大で200kPa、好ましくは最大で100kPa、特に最大で50kPa、より好ましくは最大で20kPaの圧力、そして同様に、好ましくは少なくとも1kPa、好ましくは少なくとも5kPa、より好ましくは少なくとも10kPaの圧力で蒸留を行うことが有利であり得る。
【0041】
蒸留は、単一工程(段階)蒸発によって行うことが有利であり得、1個以上、例えば2又は3個の蒸留装置による分別蒸留(fractional distillation)によって行うことが好ましい。蒸留のために有用な装置は、この目的のためには通常のものであり、例えば、Kirk−Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,3rd Ed.,Vol.7,John Wiley&Sons,New Yourk,1979,870〜881頁に記載されており、そして篩トレイカラム、バブル−キャップトレイカラム、構造パッキングを有するカラム、ランダムパッキングを有するカラム、側部取出部を有するカラム又は隔壁カラム等のものである。蒸留は、非連続的(バッチ式)又は連続的に行なうことができる。
【0042】
適切なニッケル(II)−エーテル付加体は、無水付加体(anhydrous adduct)が好ましい。ニッケル(II)−エーテル付加体は、ニッケル(II)ハロゲン化物、好ましくはニッケルクロリド、ニッケルブロニド、及びニッケルヨージドを含むことが好ましい。ニッケルクロリドが特に好ましい。
【0043】
ニッケル(II)−エーテル付加体は、酸素含有、硫黄含有、又は酸素−硫黄混合含有エーテルを含むことが好ましい。テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−sec−ブチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル及びトリエチレングリコールジアルキルエーテルから成る群から選ばれることが好ましい。
【0044】
使用されるエチレングリコールジアルキルエーテルは、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン、グリム)及びエチレングリコールジエチルエーテルが好ましい。使用されるジエチレングリコールジアルキルエーテルは、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)が好ましい。使用するトリエチレングリコールジアルキルエーテルは、トリエチレングリコールジエチルエーテル(トリグリム)が好ましい。
【0045】
特に好ましいニッケル(II)−エーテル付加体は、ニッケル(II)クロリド−エチレングリコールジメチルエーテル付加体(NiCl2・dme)、ニッケル(II)クロリド−ジオキサン付加体(NiCl2・ジオキサン)、及びニッケル(II)ブロミド−エチレングリコールジメチルエーテル付加体(NiBr2・dme)である。例えば、DE−A2052412の実施例2に従って製造可能なNiCl2・dmeを使用することが好ましい。この場合、ニッケルクロリドジハイドレートが、1,2−ジメトキシエタンの存在下に、脱水剤としてのトリエチルオルトフォルメートと反応される。この代わりに、反応が、トリメチルオルトフォルメートの補助下に行なわれても良い。付加体NiCl2・ジオキサン及びNiBr2・dmeは、1,2−ジメトキシエタンの代わりにジオキサンを使用し、及びニッケルクロリドハイドレートの代わりにブロミドハイドレートを使用して、同様の反応で製造することができる。
【0046】
本発明の好ましい実施の形態では、ニッケル(II)−エーテル付加体は、ニッケルハロゲン化物の水溶液を、特定のエーテル及び希釈剤と(及び適切であれば攪拌して)混合し、そして次に水と過剰のエーテルを除去することにより製造される。希釈剤は、上述した、錯体の形成に適した溶媒の群から選ばれることが好ましい。水及び適切な場合には過剰のエーテルの除去が、蒸留によって行なわれることが好ましい。ニッケル(II)−エーテル−付加体−合成の詳細が、上述したWO2005/042157A2から得ることができる。
【0047】
ニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造するために、ニッケル(II)−エーテル付加体を、このように得られた溶液又は懸濁液に直接的に使用することができる。この代わりに、付加体を最初に分離し、そして適切であれば乾燥させ、そして再度溶解させるか、又は再懸抱させてニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造することもできる。付加体を、濾過、遠心分離、沈殿又はハイドロサイクロン等の当業者に公知の方法で、懸濁液から分離することができる。このような公知の方法は、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Unit Operation I, Vol.B2,VHC,Weinheim,1988,第10章、10−1〜10−59頁、第11章、11−1〜11−27頁及び12−1〜12−61頁に記載されている。
【0048】
触媒とリガンド
ニッケル(0)−燐リガンド錯体は、少なくとも1個のニッケル(0)中心原子及び少なくとも1個の燐含有リガンドを含んでいる。代表例では、上述したヒドロシアン化又は異性化に使用される触媒混合物は、フリーな(ニッケル錯体と結合していない)燐含有リガンドも含む。
【0049】
ニッケル(0)錯体の燐リガンド(燐含有リガンド)、及びフリーな燐リガンドは、ホスフィン、ホスフィット(亜燐酸塩)、ホスフィニット、及びホスホニットから選ばれることが好ましい。
【0050】
燐リガンドは、式I
P(X11)(X22)(X33) (I)
を有していることが好ましい。
【0051】
本発明において、化合物(I)は、上記式の単一の化合物又は上記式の異なる化合物の混合物を意味するものと理解される。
【0052】
1、X2、X3基は、それぞれ独立して、酸素又は単結合である。X1、X2、及びX3基の全てが単結合である場合、化合物Iは、式P(R123)(但し、このR1、R2及びR3は、本明細書に記載された意味を有している。)のホスフィンである。
【0053】
1、X2、及びX3基の内の2個が単結合であり、そして1個が酸素である場合、化合物Iは、式P(OR1)(R2)(R3)又はP(R1)(OR2)(R3)又はP(R1)(R2)(OR3)(但し、このR1、R2及びR3は、以下に記載された意味を有している。)のホスフィニットである。
【0054】
1、X2、及びX3基の内の1個が単結合であり、そして2個が酸素である場合、化合物Iは、式P(OR1)(OR2)(R3)又はP(R1)(OR2)(OR3)又はP(OR1)(R2)(OR3)(但し、このR1、R2及びR3は、本明細書に記載された意味を有している。)のホスホニットである。
【0055】
好ましい実施の形態では、X1、X2、及びX3基の全ては酸素であり、化合物Iは、式P(OR1)(OR2)(OR3)(但し、R1、R2及びR3は、下記の意味を有している。)のホスフィットであることが好ましい。
【0056】
1、R2、R3は、独立して同一又は異なる有機基である。R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル等の、好ましくは1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、1−ナフチル、2−ナフチル等のアリール基、又は1,1’−ビフェノール、1,1’−ナフトール等の好ましくは1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルである。R1、R2及びR3は、互いに直接的に結合していて良く、すなわち、中心燐原子を介してのみで結合していなくても良い。R1、R2及びR3が、互いに直接的に結合していないことが好ましい。
【0057】
好ましい実施の形態では、R1、R2及びR3基は、フェニル、o−トリル、m−トリル、及びp−トリルから成る群から選ばれる基であることが好ましい。特に好ましい実施の形態では、R1、R2及びR3基の2個以下がフェニル基である。
【0058】
他の好ましい実施の形態では、R1、R2及びR3基の2個以下がo−トリル基である。
【0059】
使用して良い特に好ましい化合物Iは、式Ia
(o−トリル−O−)w(m−トリル−O−)x(p−トリル−O−)y(フェニル−O−)zP (Ia)
(但し、w、x、y、zはそれぞれ自然数で、w+x+y+z=3及びw、z≦2である。)のものである。
【0060】
このような化合物Iaは、例えば、(p−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(m−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(o−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(p−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(p−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)3P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)2(m−トリル−O−)P、又はこれら化合物の混合物である。
【0061】
例えば、(m−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、及び(p−トリル−O−)3Pを含む混合物は、m−クレソール及びp−クレソ−ルを、特に2:1のモル比で含む(粗オイルの蒸留処理で得られるような)混合物を、燐トリクロリド等の燐トリハロゲン化物と反応させることによって得ることができる。
【0062】
同様に好ましい他の実施の形態では、燐リガンドは、DE−A19953058に記載されている、式Ib:
P(O−R1x(O−R2y(O−R3x(O−R4p (Ib)
(但し、
1:C1−C18−アルキル置換基を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのo−位に有しているか、又は、芳香族置換基を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのo−位に有しているか、又は縮合芳香族系(fused aromatic system)を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのo−位に有している芳香族基であり、
2:C1−C18−アルキル置換基を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのm−位に有しているか、又は、芳香族置換基を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのm−位に有しているか、又は縮合芳香族系を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのm−位に有している芳香族基であり、芳香族基は、水素を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのo−位に有している、
3:C1−C18−アルキル置換基を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのp−位に有しているか、又は、芳香族置換基を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのp−位に有している芳香族基であり、芳香族基は、水素を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのo−位に有している、
4:R1、R2及びR3のために定義した置換基以外の置換基を、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのo−、m−、及びp−位に有している芳香族基であり、芳香族基は、燐原子を芳香族系に結合させている酸素原子へのo−位に水素を有している、
x:1又は2、
y、z、p:x+y+z+p=3とうい条件で、それぞれ独立して、0、1又は2である。)
のホスフィットである。
【0063】
式Ibの好ましいホスフィットは、DE−A19953058から得ることができる。R1基は、o−トリル、o−エチルフェニル、o−n−プロピルフェニル、o−イソプロピルフェニル、o−n−ブチルフェニル、o−sec−ブチルフェニル、o−tert−ブチルフェニル、(o−フェニル)フェニル又は1−ナフチル基であることが有利であって良い。
【0064】
好ましいR2基は、m−トリル、m−エチルフェニル、m−n−プロピルフェニル、m−イソプロピルフェニル、m−n−ブチルフェニル、m−sec−ブチルフェニル、m−tert−ブチルフェニル、(m−フェニル)フェニル又は2−ナフチル基である。
【0065】
有利なR3基は、p−トリル、p−エチルフェニル、p−n−プロピルフェニル、p−イソプロピルフェニル、p−n−ブチルフェニル、p−sec−ブチルフェニル、p−tert−ブチルフェニル、又は(p−フェニル)フェニル基である。
【0066】
4基は、フェニルであることが好ましい。pはゼロであることが好ましい。化合物Ib中の指標(インデックス)x、y及びz及びpのために、以下のものが可能である。
【0067】
【表1】

【0068】
式Ibの好ましいホスフィットは、pがゼロで、そしてR1、R2及びR3がそれぞれ独立して、o−イソプロピルフェニル、m−トリル及びp−トリルから選ばれ、そしてR4がフェニルであるものである。
【0069】
式Ibの特に好ましいホスフィットは、R1がo−イソプロピルフェニル基、R2がm−トリル基、及びR3がp−トリル基であり、指標は上記表に示したものであり;また、R1がo−トリル基、R2がm−トリル基、及びR3がp−トリル基で、指標は上記表に示したものであり;追加的に、R1が1−ナフチル基、R2がm−トリル基、及びR3がp−トリル基で、指標は上記表に示したものであり;また、R1がo−トリル基、R2が2−ナフチル基、及びR3がp−トリル基で、指標は上記表に示したものであり;そして最後に、R1がo−イソプロピルフェニル基、R2が2−ナフチル基、及びR3がp−トリル基で、指標は上記表に示したものであり;及びこれらホスフィットの混合物である。
【0070】
式Ibのホスフィットは、
i)燐トリハロゲン化物を、R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールと反応させ、ジハロホスホラスモノエステルを得、
ii)上述したジハロホスホラスモノエステルを、R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールと反応させ、モノハロホスホラスジエステルを得、そして
iii)上述したモノハロホスホラスジエステルを、R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールと反応させ、式Ibのホスフィットを得る、
ことにより得ても良い。
【0071】
反応は、3つの分離した工程で行っても良い。同様に、3工程の内の2工程を結合しても良く、すなわち、i)とii)又はii)とiii)を結合しても良い。この代わりに、i)、ii)及びiii)の全ての工程を一緒に結合させても良い。R1OH、R2OH、R3OH、及びR4OH、又はこれらの混合物から成る群から選ばれるアルコールの適切なパラメーターと量を、いくつかの簡単な予備実験で容易に決定しても良い。
【0072】
有用な燐トリハロゲン化物は、原則として全ての燐トリハロゲン化物であり、好ましくは使用されるハロゲン化物が、Cl、Br、特にCl、及びこれらの混合物であるものである。種々の、同一又は異なってハロゲン置換されたホスフィンを、燐トリハロゲン化物として使用することもできる。PCl3が特に好ましい。ホスフィットIbの製造の反応条件と処理(workup)の更なる詳細は、DE−A19953058に記載されている。
【0073】
ホスフィットIbは、リガンドとして、異なるホスフィットIbの混合物の状態で使用しても良い。このような混合物は、例えば、ホスフィットIbの製造で得ても良い。
【0074】
しかしながら、多座の、特に2座の燐リガンドが好ましい。従って、使用されるリガンドは、式II、
【0075】
【化1】

【0076】
(但し、
11、X12、X13、X21、X22、X23が、それぞれ独立して、酸素又は単結合であり、
11、R12が、それぞれ独立して、同一又は異なる、分離した又はブリッジ(橋状結合)した有機基であり、
21、R22が、それぞれ独立して、同一又は異なる、分離した又はブリッジした有機基であり、
Yが、橋状結合基(架橋原子団)である。)
を有していることが好ましい。
【0077】
本発明において、化合物IIは、上述した式の単一化合物又は異なる化合物の混合物である。
【0078】
好ましい実施の形態では、X11、X12、X13、X21、X22、X23は、それぞれ酸素であって良い。このような場合、架橋結合基Yは、ホスフィット基に結合している。
【0079】
好ましい他の実施の形態では、X11とX12は、それぞれ酸素であって良く、及びX13は、単結合であって良く、又はX11とX13は、それぞれ酸素であって良く、及びX12は、単結合であって良く、そして、X11、X12及びX13によって囲まれた燐原子は、ホスホニットの中心原子であって良い。このような場合、X21、X22及びX23は、それぞれ酸素であって良く、又はX21とX22が、それぞれ酸素であって良く、そしてX23が、単結合であって良く、又はX21とX23が、それぞれ酸素であって良く、そしてX22が、単結合であって良く、又はX23が酸素であって良く、そしてX21とX22が、それぞれ単結合であって良く、又はX21が酸素であって良く、そしてX22とX23が、それぞれ単結合であって良く、又はX21、X22及びX23が、それぞれ単結合であって良く、そしてX21、X22及びX23に囲まれた燐原子が、ホスフィット、ホスホニット、ホスフィニット又はホスフィン、好ましくはホスホニットの中心原子であって良い。
【0080】
好ましい他の実施の形態では、X13が、酸素であって良く、そしてX11とX12が、それぞれ単結合であって良く、又はX11が、酸素であって良く、そしてX12とX13が、それぞれ単結合であって良く、そして、X11、X12及びX13によって囲まれた燐原子は、ホスホニットの中心原子であって良い。このような場合、X21、X22及びX23は、それぞれ酸素であって良く、又はX23が酸素であって良く、そしてX21とX22が、それぞれ単結合であって良く、又はX21が酸素であって良く、そしてX22とX23が、それぞれ単結合であって良く、又はX21、X22及びX23が、それぞれ単結合であって良く、そして、X21、X22及びX23に囲まれた燐原子が、ホスフィット、ホスフィニット、又はホスフィン、好ましくはホスフィニットの中心原子であって良い。
【0081】
好ましい他の実施の形態では、X11、X12及びX13は、それぞれ単結合であって良く、そしてX11、X12及びX13によって囲まれた燐原子が、ホスフィンの中心原子であって良い。このような場合、X21、X22及びX23は、それぞれ酸素であって良く、又はX21、X22及びX23は、それぞれ単結合であって良く、そしてX21、X22及びX23によって囲まれた燐原子が、ホスフィット又はホスフィン、好ましくはホスフィンの中心原子であって良い。
【0082】
架橋基Yは、好ましくは、例えば、C1−C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリールによって置換されたアリール基であり、又は無置換のアリール基であり、好ましくは、芳香族系に6〜20個の炭素原子を有するアリール基、特にピロカテコール、ビス(フェノール)又はビスナフトールである。
【0083】
11及びR12基は、それぞれ独立して、同一又は異なる有機基であって良い。有利なR11及びR12基は、アリール基、好ましくは6〜10個の炭素原子を有するアリール基で、このアリール基は、無置換であって良く、又単一置換又は複数置換されていて良く、特にC1−C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリール、又は無置換のアリール基によって置換されて良い。
【0084】
21及びR22基は、それぞれ独立して、同一又は異なる有機基であって良い。有利なR21及びR22基は、アリール基、好ましくは6〜10個の炭素原子を有するアリール基で、このアリール基は、無置換であって良く、又単一置換又は複数置換されていて良く、特にC1−C4−アルキル、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリール、又は無置換のアリール基によって置換されて良い。
【0085】
11及びR12基は、それぞれ分離していて良く、又は架橋結合していて良い。R21及びR22基も、それぞれ分離していて良く、又は架橋結合していて良い。R11、R12、R21及びR22基は、上述のように、それぞれ分離していて良く、2個が架橋結合し、そして2個が分離していて良く、又は4個の全てが上述のように架橋結合していて良い。
【0086】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,723,641に記載された式I、II、III、IV及びVのものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,512,696に記載された、式I、II、III、IV、V、VI及びVIIのものであり、特に実施例1〜31に記載された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,821,378に記載された、式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV及びVXのものであり、特に実施例1〜73に記載された化合物である。
【0087】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,512,695に記載された、式I、II、III、IV、V、及びVIのものであり、特に実施例1〜6に記載された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,981,772に記載された、式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII及びXIVのものであり、特に実施例1〜66で使用された化合物である。
【0088】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US6,127,567に記載された、もので、及び実施例1〜29で使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US6,020,516に記載された、式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、及びXのものであり、特に実施例1〜33で使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,959,135に記載されたもので、及び実施例1〜13で使用された化合物である。
【0089】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,847,191に記載された、式I、II、及びIIIのものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5,523,453に記載されたもので、特に、式1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20及び21で表されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO01/14392に記載されたもので、好ましくは式V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XV、XVI、XVII、XXI、XXII、XXIIIで表された化合物である。
【0090】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO98/27054に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO99/13983に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO99/64155に記載されたものである。
【0091】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10038037に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10046025に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10150285に記載されたものである。
【0092】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10150286に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10207165に記載されたものである。更に、特に好ましい実施の形態では、有用な燐キレートリガンドは、US2003/0100442A1に記載されたものである。
【0093】
更に、特に好ましい実施の形態では、有用な燐キレートリガンドは、ドイツ特許出願DE10350999に記載されたものである。
【0094】
記載された化合物I、Ia、Ib及びII及びその製造方法は、それ自体は公知である。使用する燐リガンドは、化合物I、Ia、Ib及びIIの少なくとも2種の混合物であっても良い。
【0095】
燐リガンドは、キレートホスフィット又はキレートホスホニット又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0096】
本発明に従う方法の特に好ましい実施の形態では、ニッケル(0)の燐リガンド及び/又はフリー燐リガンドは、トリトリルホスフィット、二座燐キレートリガンド、及び式Ibのホスフィット、
P(O−R1x(O−R2y(O−R3z(O−R4p (Ib)
(但し、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、o−イソプロピルフェニル、m−トリル、及びp−トリルから選ばれ、R4はフェニルであり;x+y+z+p=3という条件で、xは1又は2、及びy、z、pは、それぞれ独立して0、1又は2である。);及びこれらの混合物、
から選ばれる。
【0097】
本発明に従う方法では、使用されるリガンドは、ヒドロシアン化反応又は異性化反応で、触媒として既に使用されたリガンド溶液からも得られて良い。反応剤として有用な、この「返還触媒溶液(return catalyst solution)」は、ニッケル(0)が消耗(激減)しており、そして以下の組成を有している:
−2〜60質量%、特に10〜40質量%のペンテンニトリル、
−0〜60質量%、特に0〜40質量%のアジポニトリル、
−0〜10質量%、特に0〜5質量%の他のニトリル、
−10〜90質量%、特に50〜90質量%の燐含有リガンド、及び
−0〜2質量%、特に0〜1質量%のニッケル(0)。
【0098】
返還触媒溶液中に存在しているフリーリガンドは、従って、本発明に従う方法によって、ニッケル(0)錯体に少なくとも部分的に変換されて良い。このことは、触媒の再生とも称される。
【0099】
還元剤
本発明に従い使用される還元剤は、ニッケルよりも電気的に陽性の金属、金属アルキル、電流、錯体ヒドリド(錯体水素化物)及び水素から選ばれることが好ましい。
【0100】
使用される還元剤は、ニッケルよりも電気的に陽性の金属であることが好ましい。この金属は、ナトリウム、リチウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、カドミウム、アルミ、ガリウム、インジウム、スズ、鉛、及びトリウムから選ばれることが好ましい。ここで、鉄と亜鉛が特に好ましい。
【0101】
使用される還元剤がアルミ金属である場合、アルミ金属が、触媒量の水銀(II)塩又は金属アルキルで事前に活性化されていることが有利である。事前活性のために、トリエチルアルミニウム又は他の金属アルキルを、アルミ金属の量に対して、好ましくは0.05〜50モル%、より好ましくは0.5〜10モル%の量で使用することが好ましい。
【0102】
還元剤は、微細に粉砕されていることが好ましく、ここで、「微細に粉砕(finely divided)」は、金属が、200μm以下、好ましくは100μm以下の粒子径(粒子サイズ)で使用されることを意味する。最大粒子径は、例えば、上述したサイズのメッシュ幅で、ふるい分けするか、又は他の通常の方法で調節することができる。本発明に従う方法で使用される還元剤が、金属アルキルの場合、これらは、リチウムアルキル、ナトリウムアルキル、マグネシウムアルキル、特にGrignard試薬、亜鉛アルキル又はアルミアルキルであることが好ましい。特に好ましくは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム又はこれらの混合物が好ましく、特にトリエチルアルミニウムが好ましい。
【0103】
還元剤としての電流、すなわちNi(II)の電気化学的還元はが、特に、Corain et al.,Inorg.Chim.Acta 1978,26,37、及びUS5679237A及びWO97/24184に記載されている。電流を施すために、通常の電極を使用して良い。WO01/14392A1に提案されている、非分割の電解セルにおける、Ni(0)−ホスフィット又は−ジホスフィット錯体の電気化学的製造のための方法も同様に可能であり;この場合、ニッケル電極を溶解させることにより、ニッケルが、Ni(II)として最初に溶液に導入され、そして次にリガンドの存在下にNi(0)に還元される。
【0104】
本発明に従う方法で使用される還元剤が、錯体ヒドリド(錯体水素化物)である場合、金属アルミニウムヒドリドを使用することが好ましく、特にリチウムアルミニウムヒドリド等のアルカリ金属アルミニウムヒドリド、又は金属ボロヒドリド(金属ホウ化水素)、好ましくはナトリウムボロヒドリド等のアルカリ金属ボロヒドリドを使用することが好ましい。
【0105】
水素が還元剤として使用される場合、水素を、適切なガス導入装置を使用して、反応混合物中に分散させることが好ましい。
【0106】
上述した還元剤は、物質中に使用して良く、又はヘキサン、ヘプタン又はトルエン等の不活性有機溶媒に溶解、又は分散させて良い。
【0107】
ニッケル(0)−燐リガンド錯体の製造の工程a)
本発明に従い、ニッケル(II)化合物が、燐リガンドの存在下に、還元剤と反応される。これにより、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を含む反応混合物が得られる。本発明に従えば、本方法は、上述した条件a)〜d)を満たす。条件a)は、
a)反応において、還元剤:ニッケル(II)化合物のモル比が、酸化還元当量のモル比として計算して、1:1〜1000:1である。
【0108】
「酸化還元当量のモル比として計算しての還元剤:ニッケル(II)化合物のモル比」を、2つ例を用いて説明する:使用する還元剤が亜鉛金属の場合、Ni(0)に還元される各Ni(II)のために、1つのZn(0)がZn(II)に酸化される。亜鉛金属:ニッケル(II)化合物のモル比が、酸化還元当量のモル比として計算して、例えば1.5:1である場合、1モルのNi(II)化合物につき、1.5モルの亜鉛金属が使用されるべきである。
【0109】
使用する還元剤が金属錯体ヒドリドリチウムアルミニウムヒドリドLi(I)Al(III)(-I)4の場合、Ni(0)に還元される各Ni(II)のために、2個のH(−I)が、H(0)に酸化される。リチウムアルニウムヒドリド:ニッケル(II)化合物のモル比が、酸化還元当量のモル比として計算して、1.5:1の場合、1モルのNi(II)化合物につき3モルのH(−I)が使用されるべきである。3モルH(−I)は、3/4モル(0.75モル)のLiAlH4に対応し;この結果、この例では、1モルのNi(II)につき、0.75モルのLiAlH4が使用されなければならない。
【0110】
還元剤:ニッケル(II)化合物の割合(比)は、酸化還元当量のモル比として計算して、1:1〜5:1であることが好ましい。特に、このモル比は、1:1〜2:1であることが好ましい。特に、本発明に従って、非連続式操作(バッチモード)で行われる場合には、「等モル」の、モル比である1:1が有用である。本方法の連続挙動の場合には、還元剤を過剰に使用することが好ましく、そして、上述したモル比は、1.2:1〜2:1であることが好ましい。
【0111】
a)で記載したモル比が維持される場合には、驚くべきことに、本発明に従う方法の次の抽出(工程d)で、面倒なラグ形成(rag formation)が発生しないことがわかった。ラグは、抽出における、上部相と下部相の間の相分離が不完全な領域を意味すると理解され、この不完全な領域は、通常は、液体/液体混合状態(固体が分散していても良い)である。過剰のラグ形成は望ましくない。この理由は、過剰のラグ形成は、抽出を妨害し、そして所定の環境下では、抽出装置において、ラグによる溢れ(flood)が発生するからで、この結果、その分離作業をもはや遂行することができないからである。還元剤:Ni(II)化合物のモル比が維持された場合、所望の全相分離は、短い時間で又は自発的に起こる。
【0112】
本発明に従う方法を溶媒の存在下に行なうことが好ましい。溶媒は、特に、有機ニトリル、及び芳香族又は脂肪族炭化水素から成る群から選ばれることが好ましい。使用される有機ニトリルは、アセトニトリル、プロピオンニトリル、n−ブチルニトリル、n−バレロニトリル、シアノシクロプロパン、アクチロニトリル、クロトニトリル、アリルシアニド、シス−2−ペンテンニトリル、トランス−2−ペンテンニトリル、シス−3−ペンテンニトリル、トランス−3−ペンテンニトリル、4−ペンテンニトリル、2−メチル−3−ブテンニトリル、Z−2−メチル−2−ブテンニトリル、E−2−メチル−2−ブテンニトリル、エチルスシノニトリル、アジポニトリル、メチルグルタロニトリル、又はこれらの混合物であることが好ましい。有用な芳香族炭化水素は、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、又はこれらの混合物を含むことが好ましい。脂肪族炭化水素が、(好ましくは)直鎖状、又は分岐脂肪族炭化水素から成る群から選ばれて良く、より好ましくは、シクロヘキサン又は、メチルシクロヘキサン等の脂環式化合物、又はこれらの混合物から成る群から選ばれる。シス−3−ペンテンニトリル、トランス−3−ペンテンニトリル、アジポニトリル、メチルグルタロニトリル又はこれらの混合物を溶媒として使用することが特に好ましい。化学的に不活性な溶媒を使用することが好ましい。
【0113】
使用されるニッケル(II)化合物が、共沸蒸留によって得られ、そしてニッケルハロゲン化物と希釈剤を含む無水混合物M(この点については、上記参照)である場合、溶媒は、この希釈剤であって良い。
【0114】
溶媒が使用される場合、その量は、それぞれ仕上がった(完了した)反応混合物に対して、10〜90質量%であることが好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。溶媒中のリガンドの含有量は、1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%がより好ましく、50〜80質量が特に好ましい。
【0115】
反応における温度は、代表例では、30〜140℃であり、好ましくは40〜120℃であり、そしてより好ましくは50〜110℃である。より高い温度で処理することも可能意であるが、低い温度での反応が有利であり、特に熱的に変化しやすい(熱的に不安定な)リガンド、例えばキレートリガンドを(単独で、又は他のリガンドとの混合物中に)使用する場合には、低い温度での反応が有利である。
【0116】
反応のための圧力は、通常では制限がない。実際上の問題のために、例えば、0.1〜5バールの圧力、好ましくは0.5〜1.5バールの圧力が選択される。
【0117】
本発明に従う方法は、不活性ガス、例えばアルゴン又は窒素の存在下に行なわれることが好ましい。反応は、この目的のために適切な全ての反応器で、非連続的(バッチモード)に、又は連続的に行うことができる。適切な反応器は、内部で、攪拌、ポンプ循環、不活性ガスの導入、又は他の通常の手段によって反応混合の動作が維持されている、特に混合が良好な反応器である。
【0118】
任意の還元剤の除去、及びアンモニア又はアミンでの任意の処理
還元剤が等モル量で使用されない場合、すなわち、酸化還元当量として計算して、ニッケル(II)化合物に対して1:1のモル比で使用されない場合(上記参照);反応の後、還元剤の過剰量が、反応混合物内に存在する。この還元剤の過剰量は、所望により、反応混合物から除去することができる。
【0119】
固体除去のために、通常の方法、例えば、濾過、交流濾過、遠心分離、沈殿、分級又はデカンティングを使用することが可能であり、このために、フィルター(例えばベルトフィルター)、遠心分離器、ハイドロサイクロン、又は他の分級装置、又はデカンター等の通常の装置を使用することができる。沈殿により除去する場合、沈殿した過剰の還元剤を反応器内に残すことができ、そして再生に使用することができる。ベルトフィルター、ハイドロサイクロン又は類似した装置によって除去する場合、除去された過剰の還元剤を、部分的又は完全に、この製造工程(プロセス)に直接的に戻すことができる。
【0120】
任意の固体除去における温度と圧力は、典型的な例では制限がない。例えば、上述した温度と圧力範囲で処理(操作)することもできる。熱的に変化しやすいリガンドを使用する場合、又は例えば、WO2004/101498A2に記載されているように、Ni(0)沈殿の危険性がある場合、特に、上述した温度条件を維持することが望ましい。
【0121】
使用する還元剤が金属の場合、これらは、金属化合物に酸化され、金属化合物は、ルイス酸、例えば亜鉛クロリド、鉄(II)クロリド又は亜鉛ブロミドとして作用する。所望する場合、得られた反応混合物は、アンモニア又は1級、2級、又は3級芳香族、アルキル芳香族、脂肪族又は脂環式アミンと反応させることができる。ルイス酸金属化合物は、やや溶けにくい(sparingly soluble)付加体を形成し、この付加体は、次に除去することができる。例えば、ZnCl2及びアンモニアは、やや溶けにくいZnCl2・2NH3を形成する。この実施の形態では、次の抽出工程d)で除去しなければならないルイス酸の量が少ないという有利な点を有している。
【0122】
使用されるアミンは、モノアミン、ジアミン、トリアミン又は官能性がより高いアミン(ポリアミン)である。典型的には、モノアミンは、1〜30個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基を有し;適切なモノアミンは、例えば、1級アミン、例えば、モノアルキルアミン、2級アミン又は3級アミン、例えば、ジアルキルアミンである。適切な1級モノアミンは、例えば、ブチルアミン、シクロヘキセン、2−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、ベンジルアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、及びフルフリルアミンである。有用な2級モノアミンは、例えば、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジ−n−プロピルアミン及びN−メチルベンジルアミンを含む。適切な3級アミンは、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン又はトリブチルアミン等のC1-10−アルキル基を有するトリアルキルアミンである。
【0123】
適切なジアミンは、例えば、式R1−NH−R2−NH−R3(但し、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素又は1〜20個の炭素原子を有する、アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基である。アルキル基は、直鎖状であって良く、又は、特にR2のために、環式であっても良い。適切なジアミンは、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン(1,2−ジアミノプロパン及び1,3−ジアミノプロパン)、N−メチル−エチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン(1,4−ジアミノブタン)、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノ−2,2−ジエチルプロパン、1,3−ビス(メチルアミノ)プロパン、ヘキサメチレンジアミン(1,6−ジアミノヘキサン)、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、3−(プロピルアミノ)プロピルアミン、N,N’−ビス−(3−アミノプロピル)ピペラジン、N,N’−ビス−(3−アミノプロピル)ピペラジン、及びイソホルンジアミン(IPDA)である。適切なトリアミン、テトラアミン及び官能性がより高いアミンは、例えば、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス(2−アミノプロピル)アミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラアミン(TETA)、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)、イソプロピレントリアミン、ジプロピレントリアミン及びN,N’−ビス(3−アミノプロピレンジアミン)である。アミノ基を2個以上有するアミノベンジルアミン及びアミノヒドラジドも同様に適切である。
【0124】
アンモニアと1種以上のアミンの混合物、又は複数のアミンの混合物を使用することも、当然可能である。アンモニア又は脂肪族アミン、特にアルキル基中に1〜10個の炭素原子を有するトリアルキルアミン、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、又はトリブチルアミンが好ましく、及びエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又は1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン等のジアミンも好ましい。
【0125】
使用される場合、アンモニア又はアミンの量は、ニッケル(0)触媒及び/又はリガンドの種類と量を含む因子(ファクター)に依存する。このモル比の上限は、通常、制限がなく、そして例えば、100:1であり;しかし、アンミモニア又はアミンの過剰量は、Ni(0)錯体又はそのリガンドを分解する程に多量であるべきではない。アンモニア又はアミンを使用した処理での温度は、典型的には制限がなく、そして例えば、10〜140℃、好ましくは20〜100℃、及び特に20〜90℃である。圧力も、通常は制限がない。
【0126】
アンモニア又はアミンを反応流出物に、ガス又は液体状態で(圧力下に)加えて良く、又は溶媒中に溶解させても良い。適切な溶媒は、例えば、ニトリル、特にヒドロシアン化に存在するものであり、及び更に脂肪族、脂環式、又は芳香族炭化水素であり、これらは本発明に従う方法で抽出剤として使用されるもので、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン又はn−オクタンである。
【0127】
任意に、アンモニア又はアミンの添加が、通常の装置内、例えばガスの導入用の装置内、又は液体攪拌器内で行われる。沈殿した固体は、反応流出物中に残していても良く、すなわち、工程b)で懸濁液を供給して良く、又は通常の方法、例えば、過剰の還元剤を除去するために上述した方法で除去しても良い。
【0128】
反応中の条件b)及びc)
本発明に従う方法は、条件b)とc)を満足させる必要がある:
b)(リガンドの存在下における、ニッケル(II)化合物と還元剤との)反応中の燐リガンド:ニッケル(II)化合物のモル比が、P原子:N原子のモル比として計酸して、30:1以下である、及び
c)得られた反応混合物中のニッケル(0)の含有量が、1.3質量%以下である。
【0129】
条件b)によれば、燐リガンド:ニッケル(II)化合物のモル比は、30:1以下である。燐リガンドは、燐原子の数で表される。条件b)の「燐リガンド」という用語は、燐リガンドの全て(完全な全て)を意味し、特に単座及び多座、例えば単座及び二座のリガンドを意味するものと理解される。ニッケル(II)化合物は、ニッケル(II)原子の数として表される。「P原子:Ni原子のモル比として計算しての燐リガンド:ニッケル(II)化合物のモル比」という表現は、従って、P:Ni原子割合(原子比)という短縮形で表される。
【0130】
条件b)に関し、上述したモル比(P:Ni)は、25:1以下が好ましく、20:1以下が特に好ましい。同様に、少なくとも5:1であることが好ましい。
【0131】
条件c)に関し、得られた反応混合物中のニッケル(0)含有量は、1.0質量%以下であることが好ましい。同様に、少なくとも0.1質量%であることが好ましい。
【0132】
ニッケル(II)化合物の、燐−含有単座、又は燐−含有多座リガンドに対するモル比は、同様に、より好ましくはそれぞれ、1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:50であり、そして特に1:4〜1:20である。従ってこの比は、条件b)のように、全ての燐リガンドの総計に対してのものではなく、もっぱら単座又はもっぱら多座に対してのものである。
【0133】
ニッケル(0)−燐リガンド錯体の製造の工程d)
本発明に従う方法では、更に、
d)得られた反応混合物が、少なくとも1種のジニトリルと、少なくとも1種の炭化水素を加えることにより抽出され、少なくとも2相の不混和相を形成する。
【0134】
上述のように、抽出の前に、工程d)で抽出されるべき反応混合物から過剰の還元剤が除去可能である。追加的に又はこの代わりに、抽出するべき反応混合物を、抽出の前にアンモニア又はアミンで処理可能であり、そして適切であれば、やや溶けにくいルイス酸付加体を、上述のように除去可能である。
【0135】
適切なジニトリルは、好ましくはC6ジニトリル、特に好ましくはアジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、2−エチルスシノニトリル、2,3−ジメチルスシノニトリル又はこれらの混合物である。アジポニトリルが特に好ましい。
【0136】
炭化水素は、抽出剤である。抽出剤は、代表例では沸点が少なくとも30℃であり、好ましくは少なくとも60℃、特に少なくとも90℃であり、そして代表例では最大で140℃であり、好ましくは最大で135℃、特に最大で130℃(各場合において、圧力は、105Paの絶対圧である)である。
【0137】
適切な炭化水素は、例えば、US3,773,809、カラム3、50〜62行に記載されている。有用な炭化水素は、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、異性体ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、2,2,4−トリメチルペンタン等の異性体オクタン、シス−及びトランス−デカリン又はこれらの混合物から成る群から選ばれることが好ましく、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、異性体ヘプタン、n−オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン等の異性体オクタン、又はこれらの混合物から成る群から選ばれることが特に好ましい。シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン又はn−オクタンを使用することが特に好ましい。
【0138】
n−ヘプタン、又はn−オクタンを使用することが極めて好ましい。炭化水素の場合、望ましくないラグの形成量は、特に低い。
【0139】
使用する炭化水素は、無水(anhydrous)であることが好ましい(無水は、水の含有量が100質量ppm未満、好ましくは50質量ppm未満、特に10質量ppm未満であることを意味する。)。炭化水素は、この技術分野の当業者にとって公知の、適切な方法、例えば吸着又は共沸蒸留で乾燥させることができる。乾燥は、抽出工程d)の前に行うことができる。
【0140】
工程d)で添加されるジニトリル又は炭化水素の量は、相分離が発生するように選ばれるべきである。適切であれば、単純な事前実験によって適切な量を決定して良い。加えられるニトリルの量は、最小にすることが好ましく、そして相分離を得るのに必要とされる量だけジニトリルを加えることが特に好ましい。
【0141】
抽出は、この目的のために適切な全ての装置内で、非連続式(バッチモード)又は連続的に行うことができる。この方法を連続的に行う場合、ジニトリルを加えた後の、反応混合物のジニトリルの含有量は、通常50質量%を超えるべきで、70質量%を超えることが好ましい。ジニトリル、特にC6ジニトリルを製造するための方法は、公知である。このような方法の可能な例は、DE−A−102004004683記載されている。
【0142】
抽出は、通常、ある温度Tで第1相と第2相を形成し、ここで、第1相は、(連続抽出の場合には、供給物である)抽出されるべき反応混合物と比較して、上述したNi(0)錯体とリガンドの濃度が増した(濃化した:エンリッチ)もので、第2相は、抽出されるべき反応混合物(供給物)と比較して、ジニトリルの濃度が増したもの(濃化したもの)である。通常、第1相は、軽い相、すなわち上部相であり、そして第2相は重い相、すなわち下部相である。
【0143】
相分離の後、上部相は、代表例では、50〜99質量%、好ましくは60〜97質量%、特に80〜95質量%の(抽出に使用するための)炭化水素を含んでいる。この結果、上部相は、通常、炭化水素相であり、そして下部相は、ジニトリル相である。
【0144】
抽出の間、ニッケル(0)−燐リガンド錯体は、分配平衡に従って2相間に分配される。本方法が連続形態の場合に、ニッケル(0)−燐リガンド錯体の損失を低減させるために、反応混合物の供給点よりも、下部相(ジニトリル相)の出口箇所に近い箇所に設けられた供給点に、炭化水素を加えることができる。ニトリルの供給点は、反応混合物の供給点よりも、上部相(炭化水素相)の出口点に近いことが好ましい。
【0145】
ここで、「より近い」は、2箇所の間の理論段(theoretical plate)の数という意味で理解される。反応混合物の供給点と炭化水素の供給点の間には、通常、0〜10段、好ましくは1〜7段の理論抽出(分離)段(theroretrical extraction (separating) stage)が存在し(触媒のための再抽出領域)、反応混合物の供給点とジニトリルの供給点との間には、通常、1〜10段、好ましくは1〜5段の理論抽出(分離)段が存在する。上述した段(stage)の好ましい段数は、経済的な配慮から発生し;原則として、段数がより多くなることも可能であり、そして適切であれば、より良好な除去を達成するためにはより多くなることが望ましい。
【0146】
反応混合物中に存在する(抽出されるべき)ルイス酸は、その大部分が下部相中に残っていることが好ましく、及び全てが下部相中に残っていることがより好ましい。ここで、「全て」は、上部相中のルイス酸の残留濃度が、好ましくは、1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、特に500質量ppm未満であることを意味する。
【0147】
抽出の下部相は、適切な方法で処理し、その中に存在するジニトリルを再度供給物として抽出に使用することができる。このような処理は、例えば、DE−A102004004683に工程c)の流れ7のために記載されているように、蒸留によって行うことができる。
【0148】
抽出のために、例えば、向流抽出カラムを使用することが可能であり、向流抽出カラムは、再抽出領域を有していて良い。しかしながら、このような装置は、同様の作用を有する、この技術分野の当業者にとって公知の通常の装置の組合せ、例えば、複数の向流抽出カラム、ミキサーセトラバッテリー、又はミキサセトラーバッテリーとカラムの組合せも適切である。2個以上の向流抽出カラムを直列に連結することも可能である。分散要素として、特にシートメタルパッキングを備えた向流抽出カラムを使用することが特に好ましい。更なる特に好ましい実施の形態では、抽出は、向流で、仕切りがされた攪拌抽出カラム内で行われる。
【0149】
分散の方向に関しては、連続相として炭化水素を使用することが好ましく、そして抽出するべき反応混合物を分散相として使用することが好ましい。これにより、通常では相分離時間が短縮され、そしてラグ形成が低減される。しかしながら、分散を逆方向にすることも可能であり、すなわち、抽出されるべき反応混合物を連続相として、そして炭化水素を分散相として使用することも可能である。事前に固体を除去すること(上記参照)、抽出又は相分離における高温度、又は適切な炭化水素を使用することにより、ラグ形成が低減、又は完全に抑制される場合には、後者が特に適合する。代表例では、抽出装置の分離特性のためにより好ましい分散方向が選択される。
【0150】
抽出では、供給された炭化水素の質量の、抽出されべき反応混合物の質量の割合(比)として計算して、通常0.1〜10、より好ましくは0.4〜3.5、特に0.75〜2.5の相割合が使用される。
【0151】
抽出の間の圧力は、代表例では、10kPa〜1Mpa、好ましくは50kPa〜0.5MPa、特に75kPa〜0.25MPaである。
【0152】
抽出は、−15〜120℃の温度、特に20〜100℃、及びより好ましくは30〜80℃で適切に行われる。抽出の温度が高いとラグ形成が少なくなることがわかった。
【0153】
相分離は、装置構造に依存して、空間的又は時間的に、抽出の最後の部分と考えることができる。相分離のために、一般的に、圧力、濃度、及び温度範囲を広い範囲で選択することができ、そして事前のいくつかの簡単な試験によって、反応混合物の特定の組成のための最適なパラメータを決定することができる。
【0154】
相分離における温度Tは、代表例では少なくとも0℃であり、好ましくは少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも20℃である。代表例では、この温度は、最大で120℃であり、好ましくは最大で100℃、より好ましくは最大で95℃である。例えば、相分離は、0〜100℃、好ましくは30〜80℃で行われる。
【0155】
相分離における圧力は、通常、少なくとも1kPa、好ましくは少なくとも10kPa、より好ましくは少なくとも20kPaである。通常、この圧力は、最大で2MPa、好ましくは最大で1MPa、より好ましくは最大で0.5MPaである。
【0156】
相分離時間、すなわち、抽出されるべき反応混合物を炭化水素(抽出剤)で混合した後、均一な上部相と均一な下部相が形成されるまでの時間帯は、広い範囲で変動可能である。相分離時間は、通常、0.1〜60分、好ましくは1〜30分、及び特に2〜10分である。本発明に従う方法を工業規模で行う場合、相分離時間は、典型的には15分以下、特に10分以下であることが、技術的、経済的に有利である。
【0157】
相分離時間は、特に、n−ヘプタン又はn−オクタン等の長鎖脂肪族アルカンを炭化水素として使用する場合には、有利な方法で低減されることがわかった。
【0158】
相分離は、このような相分離の技術分野の当業者にとって公知の1つ以上の装置内で行うことができる。有利な一実施の形態では、相分離は、抽出装置、例えば1つ以上のミキサーセトラの組合せ内で行うことができ、又は沈静領域(calming zone)を有する抽出カラムを備えることにより行うことができる。
【0159】
相分離は、2相の液相(一相は、燐リガンド及び/又はフリー燐リガンドとのニッケル(0)錯体の、この相の合計質量に対する割合が、他方の相のものよりも高いものである。)を形成する。他相は、ルイス酸の濃度が高くなっている。ニッケル(0)錯体又はリガンドの濃度が高くなっている相(濃化している相)は、典型的には、軽い相(炭化水素相)であり;ルイス酸の濃度が高くなっている相は、通常、重い相(ジニトリル相)である。
【0160】
通常、相分離の完了において、上部相は、下部相から分離される。連続的な構成の場合、この分離は、(設けられた出口点を使用して、各相を取り出すことにより)単純な方法で行われる。この方法では、反応混合物に対してニッケル(0)−燐リガンド錯体の濃度が高くなった層を除去することが好ましい。
【0161】
ニッケル(0)錯体を含む混合物及びその使用
本発明に従う方法によって得られ、そしてニッケル(0)−燐リガンド錯体を含む混合物は、同様に、本発明の一部を形成する。更に、この混合物は、例えば、フリー燐リガンドを含む。
【0162】
ニッケル(0)−燐リガンド錯体は、抽出と相分離の後に除去される相の状態で直接的に使用して良く、すなわち、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を、炭化水素に溶解又は分散させて良い。この相は、上記意味ではある種の混合物である。
【0163】
この代わりに、ニッケル(0)錯体を、その状態で(そのまま)使用することができ、このために、得られた溶液又は分散液から、ニッケル(0)錯体が分離される。この分離(除去)は、溶媒体又は分散液(炭化水素)を、通常の方法、例えば蒸留又は他の分離方法で除去することにより行われる。ニッケル(0)錯体が固体として存在する場合には、上述した固体除去のための方法によって、固体を除去することも可能である。
【0164】
抽出のために使用された炭化水素の除去(例えば、蒸留による除去)の過程で、(炭化水素よりも沸点が高い)希釈剤を加えることが好ましい。この希釈剤は、蒸留の底部に残っている触媒を溶液中に保つもので、そしてペンテンニトリル異性体、及びジニトリルから成る群の中から選ばれることが好ましい。使用する希釈剤は、ペンテンニトリルの異性体、特に4−ペンテンニトリル、トランス−3−ペンテンニトリル、シス−3−ペンテンニトリル、シス−2−ペンテンニトリル及びトランス−2−ペンテンニトリルであることがより好ましい。
【0165】
ニッケル(0)錯体を含む本発明の混合物は、アルケンのヒドロシアン化及び異性化、又は不飽和ニトリルのヒドロシアン化及び異性化に使用されることが好ましい。この使用方法は、同様に、本発明の一部である。
【0166】
この混合物は、上述した、ブタジエンをペンテンニトリルにヒドロシアン化するのに使用されることが好ましい。従って、好ましい使用では、アルケンは、1,3−ブタジエンであり、そしてこれは、ペンテンニトリルにヒドロシアン化される。ヒドロシアン化は、例えば、WO2005/073171A1に記載された方法によって行うことができ;又はWO2005/073174A1に開示された方法によって行うことができ、この方法では、通常の触媒サーキットによって、ヒドロシアン化が異性化と結合されている。
【0167】
この混合物は、上述した2−メチル−3−ペンテンニトリルの、3−ペンテンニトリルへの異性化に使用することが好ましい。この結果、好ましい使用では、不飽和ニトリルは、2−メチル−3−ベテンニトリルであることが好ましく、そして、これは、直鎖状3−ペンテンニトリルに異性化されることが好ましい。
【0168】
分岐ニトリルを異性化する方法
本発明は、ニッケル(0)−燐リガンド錯体が触媒として存在した状態で、分岐した不飽和ニトリルを直鎖状不飽和ニトリルに異性化(異性化方法)するための、2種の関連する方法も提供する。
【0169】
第1の異性化工程では、ニッケル(0)−燐リガンド錯体が、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造するための、本方法に従う方法によって製造される。
【0170】
従って本発明は、触媒としてニッケル(0)−燐リガンド錯体が存在した状態で、分岐した不飽和ニトリルを直鎖状不飽和ニトリルに異性化するための(第1の)方法を提供するもので、この方法は、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を上述した方法(請求項1〜10に記載された方法)で製造すること含む。
【0171】
この第1の異性化方法の主要(本質的)な部分の一つは、上述した抽出工程d)である。
【0172】
第2の異性化方法では、ニッケル(0)−燐リガンド錯体は、異性化工程の過程で、循環モードで再生される。この再生については上述した。
【0173】
従って本発明は、触媒としてニッケル(0)−燐リガンド錯体が存在した状態で、分岐した不飽和ニトリルを、直鎖状不飽和ニトリルに異性化するための(第2の)方法を提供するもので、この方法は、この方法を行う過程で、循環モードで、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を再生することを含む(すなわち、異性化のための方法)。
【0174】
この(第2の)異性方法は、工程d)として上述した抽出工程を有することが好ましい。
【0175】
従って、両方の異性化方法は、抽出工程d)を含むことが好ましい。両方の異性化方法において、工程d)は次のように構成することが好ましい、すなわち、ニッケル(0)触媒の製造又は再生で、ルイス酸が除去されるだけではなく、異性化の過程で不適切な活性の原因となる、望ましくない所定の化合物も除去されるように構成することが好ましい。これら望ましくない化合物は、以降「厄介(面倒)な化合物」と称される。
【0176】
両異性化方法において、抽出工程d)を連続的に行う場合には、抽出のために使用される炭化水素の一部を、現に供給物中に(すなわち、反応混合物中に)加えることが有利であることがわかった。このことは、以降、事前混合と称される。
【0177】
事前混合は、供給物の粘度を低下させ、これにより、抽出が容易になる。事前混合に計量導入される炭化水素の割合は、事前混合と抽出で使用される炭化水素の合計量に対して、例えば、3〜40質量%、特に5〜20質量%である。
【0178】
異性化工程によって改良された抽出工程は、上述した装置、例えば抽出カラム内で行うことができる。攪拌カラムを使用することが好ましい。分散方向に関し、炭化水素を連続相として使用することが好ましく、そして抽出されるべき反応混合物を分散相として使用することが好ましい。しかしながら、分散方向を逆にすることも可能であり、すなわち、抽出されるべき反応混合物を連続相として、そして炭化水素を分散相として使用することも可能であるが、好ましいものではない。
【0179】
二つの異性化工程での抽出工程(d)で抽出されるべき反応混合物は、(上述した)返還触媒溶液と新しく製造された又は再生された触媒の溶液を含む混合物であっても良い。返還触媒溶液:新しい又は再生された触媒の溶液の混合割合(混合比)は、溶液の質量として計算して、例えば、99:1〜0.5:1、好ましくは95:1〜1:1である。
【0180】
異性化方法の抽出工程で、抽出されるべき混合物(この混合物は供給物である)のペンテンニトリルの含有量は、最小にすることが好ましい。例えば、この含有量は、(供給物の)抽出されるべき混合物の、5質量%以下である。
【0181】
2つの異性化方法の抽出工程では、反応混合物の供給点と、炭化水素の供給点との間(触媒のための再抽出領域)に、通常、1〜10段、好ましくは2〜7段の理論抽出(分離)段が存在し;反応混合物の供給点とニトリルの供給点の間に、通常、1〜10段、好ましくは2〜5段の理論抽出(分離)段が存在する。上述したように、上述した好ましい段数が、経済的に有利であるが、より多い段数が存在していても良い。
【0182】
上述した抽出条件下では、ルイス酸のような面倒な化合物が、下部相(ジニトリル相)に蓄積し、そして、この方法で一緒に除去することができ、すなわち面倒な(厄介な)化合物を除去するための追加的な工程が必要とされない。
【0183】
上述した両方の異性化方法は、特に、2−メチル−3−ペンテンニトリルを直鎖状3−ペンテンニトリルに異性化するために適切である。従って、両方の異性化方法において、特に、2−メチル−3−ペンテンニトリルが、直鎖状3−ペンテンニトリルに異性化される。面倒な化合物はルイス酸と一緒に除去されることが好ましい。
【0184】
本発明の有利な点
ニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造するための、本発明に従う方法は、簡単な方法で、錯体を含む混合物を製造することを可能にし、そして上記混合物は、ルイス酸を含まない。ルイス酸を含まない触媒は、ヒドロシアン化反応及び異性化反応に使用することが特に有利である。
【0185】
抽出工程d)では、ニッケル(0)の一部が回収され、そして循環モードの場合では、ヒドロシアン化及び/又は異性化に再循環される。この再循環の結果、触媒の分解によって触媒が損失し(この損失は、ヒドロシアン化又は異性化の反応温度が比較的高い場合には、発生する範囲が増加する)、収支(バランス)され得る。このことにより、ヒドロシアン化又は異性化を、比較的高い温度で行うことが可能になる。これにより、反応割合が増加し、そして時空収率が増加し、これにより、相当に小さな反応器の使用が可能になる。
【0186】
分岐(分枝)したニトリルを異性化するための、本方法に従う方法は、抽出の構成が適切な場合には、追加的なコストや不都合を発生させることなく、ルイス酸と一緒に面倒な化合物を除去することもできる。
【0187】
実施例
1)ニッケル(II)供給源:無水ニッケルクロリドの共沸蒸留による製造
攪拌器と水分分離器を備えた2000mlの丸底フラスコ中で、60gの水中の30gのニッケルクロリドヘキサハイドレード(NiCl2・6H2O)を、424mlの3−ペンテンニトリルと混合した。この二相性の混合物を還流(reflux)下に、加熱して沸騰させ、この過程で水を分離除去した。これにより、3−ペンテンニトリル中の無水ニッケルクロリドの、無水の、微細に分割された(微粒状の)懸濁が(ニッケルクロリド含有量が3.85NiCl2質量%で)得られた。
2)ニッケル(0)−燐リガンド錯体の製造
攪拌器と還流凝縮器を備え、そしてアルゴンガスで連続的にパージされた500mlの丸底フラスコに、最初に、A)の下に得られた101gのニッケルクロリド懸濁液を挿入した(30mmolのNiCl2に相当)し、そして198g(540mmol)のトリトリルホスフィットをそこに加え、これによりP:Niモル比は、18:1に等しいものであった。次に、この混合物を攪拌しながら80℃に加熱し、表に示した量の亜鉛粉を加え、そして反応混合物を80℃で3.5時間、攪拌した。
【0188】
25℃に冷却した後、反応混合物の試料について、活性な錯体ニッケル(0)の含有量を、サイクリック・ボルタンメトリーによって以下のように測定した:サイクリック・ボルタンメトリー分析装置を使用し、静止溶液(standing solution)内で、電気化学的酸化のための、参照電極に対する電流−電圧曲線を測定し、濃度に比例するピーク電流を測定し、そしてNi(0)濃度が既知の溶液で校正(キャリブレーション)して、試料のNi(0)含有量を測定した。表に示したNi(0)値は、全反応混合物(Rm)に対するNi(0)質量%(含有量)を示しており、この値は、この方法で測定されたものである。
3)反応混合物の抽出
抽出のために、分離漏斗(separating funnel)に、15gの反応混合物を30℃で最初に挿入し、15gのアジポニトリル及30gのn−ヘプタンを加え、そしてこの混合物を60秒間、強くシェイク(振ること)した。次に、相分離時間を測定した。ここで、相分離時間は、シェイクの終了時(t=0)から、均一な上部相(ヘプタン相)と均一な下部相(ニトリル相)が形成されるまでの時間帯(タイムスパン)としてのものである。相分離時間を表に示す。
【0189】
相を相互に分離し、亜鉛クロリドについて、相中の含有量を、元素分析によって測定した。亜鉛クロリドは、定量的(quantitatively)に、下部相(ジニトリル相)中に存在していた。
【0190】
表(Cは比較のもの、Rmは反応混合物を表す)
【0191】
【表2】

【0192】
比較例1C〜3Cは、以下のことを示している。すなわち、亜鉛のニッケルクロリドに対する比(割合)が<1:1である(すなわち亜鉛が不足している)本発明のものではない場合では、相分離時間は、等モル比(実施例4)又は亜鉛過剰(実施例5)の場合よりも、大幅に長くなっていることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル(II)化合物を、リガンドの存在下に反応還元剤と反応させて、反応混合物を得ることにより、少なくとも1個のニッケル(0)中心原子と少なくとも1個の燐リガンドを含むニッケル(0)−燐リガンド錯体を製造する方法であって、
a)前記反応において、還元剤:ニッケル(II)化合物のモル比を、酸化還元当量のモル比として計算して、1:1〜1000:1とし、
b)前記反応において、燐リガンド:ニッケル(II)化合物のモル比を、P原子:Ni原子のモル比として計算して最大で30:1とし、
c)得られた反応混合物中のニッケル(0)の含有量を、1.3質量%以下とし、そして
d)少なくとも1種のジニトリル及び少なくとも1種の炭化水素を添加することにより得られた反応混合物を抽出して、少なくとも2相の不混和相を形成する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
還元剤:ニッケル(II)化合物のモル比を、酸化還元当量のモル比として計算して、1:1〜5:1とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ニッケル(II)化合物が、ニッケル(II)ハロゲン化物、及びニッケル(II)−エーテル付加体から選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
燐リガンドが、ホスフィン、ホスフィット、ホスフィニット、及びホスホニットから選ばれることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
ヒドロシアン化反応又は異性化反応で、既に触媒溶液として使用されたリガンド溶液から、前記燐リガンドが得られることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
還元剤が、ニッケルよりも電気的に陽性の金属、金属アルキル、電流、錯体水素化物、及び水素から選ばれることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
還元剤が、金属亜鉛及び鉄金属から選ばれることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
有機ニトリル及び芳香族又は脂肪族炭化水素から選ばれる溶媒中で行われることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
反応混合物に対してニッケル(0)−燐リガンド錯体が濃化した相を除去することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程d)での炭化水素が、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、異性体ヘプタン、n−オクタン、イソ−オクタン、異性体オクタン及びシス−及びトランス−デカリンから選ばれることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
ニッケル(0)−燐リガンド錯体を含み、且つ請求項1〜10の何れか1項に記載の方法によって得られる混合物。
【請求項12】
アルケンのヒドロシアン化及び異性化、又は不飽和ニトリルのヒドロシアン化及び異性化において、請求項11に記載のニッケル(0)−燐リガンド錯体を含んだ混合物を触媒として使用する方法。
【請求項13】
アルケンが、1,3−ブタジエンであり、そしてペンテンニトリルにヒドロシアン化されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
不飽和ニトリルが、2−メチル−3−ブテンニトリルであり、そして直鎖状3−ペンテンニトリルに異性化されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
触媒としてのニッケル(0)−燐リガンド錯体の存在下に、分岐した不飽和ニトリルを直鎖状不飽和ニトリルに異性化する方法であって、
ニッケル(0)−燐リガンド錯体を、請求項1〜10の何れか1項に記載の方法によって製造することを特徴とする方法。
【請求項16】
触媒としてのニッケル(0)−燐リガンド錯体の存在下に、分岐した不飽和二トリルを直鎖状不飽和ニトリルに異性化する方法であって、
当該方法の実施の過程で、ニッケル(0)−燐リガンド錯体を、循環モードで再生することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に工程d)として記載された抽出工程を有することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
抽出工程d)を連続的に行う場合に、抽出のために使用される炭化水素の一部を、供給物(反応混合物)に、実際に導入することを特徴とする請求項15又は16〜17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
2−メチル−3−ブテンニトリルが、直鎖状3−ペンテンニトリルに異性化されることを特徴とする請求項15又は16〜18の何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−527522(P2009−527522A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555747(P2008−555747)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051374
【国際公開番号】WO2007/096274
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】