説明

ニ分子層

両親媒性分子のニ分子層を製造する方法であって、水和支持体を供給するステップと、親水体とを供給するステップと、該水和支持体と該親水体とを接触させて両親媒性分子のニ分子層を形成するステップとを含む方法。本発明の方法によって製造されたニ分子層、及びそのニ分子層の使用法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、脂質ニ分子層等のニ分子層、ニ分子層の製造方法、ニ分子層の使用法、及びニ分子層を製造及び/または使用する装置に関する。
人工的な平面脂質ニ分子層は、生体膜の単純化モデルとしての役割を果たし、イオンチャネル及びタンパク質孔の電気特性化に広く使用されている。イオンチャネルは、細胞膜を通過する特定イオンの移動を選択的に制御する多様な膜タンパク質であって、電圧、及び多種多様な生体内作用に欠かせない電気化学的勾配を規定している。ヒトにおいては、イオンチャネルは、心拍及び筋収縮からホルモンの分泌及び神経伝達物質の放出まであらゆることを調節する。イオンチャネル機能不全は、心不整脈、周期性四肢麻痺、てんかん、糖尿病を含む、ますます増えつつある疾患に関わりがあるとされている(Ashcroft, F.M.2000,Academic Press,San Diego;Ashcroft,F.M.2006,Nature 440,440−447;Kass,R.S.2005、Journal of Clinical Investigation 115,1986−1989)。タンパク質孔は、分子が細胞膜を通過するのを可能にする非特異性チャネルである。タンパク質孔は、分子センシング(Bayley,H.et al.,2000,Advanced Materials 12,139−142;Bayley,H.&Cremer,P.S.2001,Nature 413,226−230)及びDNA塩基配列決定法(Kasianowicz,J.J.et al.,1996,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 93,13770−13773; Howorka,S.et al., 2001. Nature Biotecnology 19,636−639;Astier,Y.2006.Journal of the American Chemical Society 128,1705−1710)等の多くの応用に利用可能である。
【0002】
個々のタンパク質の単一チャネル記録(SCR)は、チャネルタンパク質機能を研究する強力な手段である(Sakmann,B.&Neher,E.1995.Plenum Press,New York;London)。単一チャネル記録は、単一タンパク質チャネルを通るイオン電流の変化を測定し、単分子レベルでの電圧依存性、ゲーティング挙動、リガンド結合親和性、イオン選択性を調べることができる。結果として、単一チャネル記録は、イオンチャネル疾病の分子病態の決定に役立たせることができる。単一チャネル記録は、特にチャネル病を標的とする新薬の開発や、望ましくない副作用に備えて他の薬をスクリーニングするための重要な技術でもある(Ashcroft,F.M.2006、Nature 440,440−447;Roden,D.M.2004,New England Journal of Medicine 350,1013−1022)。この分野での進歩は、現在利用可能なものよりはるかに高度なイオンチャネル挙動のスループット分析が必要とされる。
【0003】
単一チャネル記録は通常、パッチクランプ法(Sakmann,B.&Neher,E.1984. Annual Review of Physiology 46,455−472)または人工平面脂質ニ分子層(Mueller,P.et al.,1962.Nature 194,979−980;White,S.H.1986.ed.Miller;C.Plenum Press:New York)のいずれかを使用する。切取パッチ、ティップディップ、オンチップ法を含む他の方法を使用してもよい。
【0004】
細胞全体のパッチクランプは、チャネルを調べるための汎用かつ高感度の手段であるが、細胞膜の不均一な性質によりしばしば時間がかかると共に面倒である。対照的に、人工平面脂質ニ分子層は、システムの構成物質を制御し精製タンパク質を研究するのに利用可能である。平面脂質ニ分子層は、通常、有機溶剤中の脂質の溶液が2つの水性区画を分離する隙間に直接塗布される刷毛塗りにより(Mueller,P.et al.,1962.Nature 194,979−980;White,S.H.1986.ed.Miller,C.Plenum Press:New York)、または2つの空気/水単分子層が開口を通過して引き上げられるラングミュア−ブロジェット技術の変形(Montal,M.&Mueller,P.1972.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 69,3561−3566)のいずれかによって形成される。広く使用されているにもかかわらず、平面脂質ニ分子層は作製するのが難しく、また寿命が短いために多くの場面で使用できない。
【0005】
ニ分子層形成に対する代替乳剤ベースの取り組みも提案されており(Tsofina,L.M.et al.,1966.Nature 212,681−683)、この場合、ニ分子層は、油中の脂質溶液に浸された水面間において作られる。非混和性脂質/油溶液に浸されると、水面は自然に脂質単分子層を自己集合させ(Cevc,G.1993.Phospholipids handbook,ed.Cevc,G.,Marcel Dekker,New York);Seddon,J.M.&Templer,R.H.1995.eds.Lipowsky,R.&Sackmann,E.,Elsevier,Amsterdam,Oxford)、2つの水性要素からの単分子層が接触すると、単分子層はジッパーのように合わさって脂質ニ分子層を形成することができる(Tien,H.T.1974.M.Dekker,New York;Fujiwara,H.et al.,2003.Journal of Chemical Physics 119,6768−6775)。最近の研究によると、マイクロ流体流(Malmstadt,N.et al.,2006.Nano Letters 6,1961−1965;Funakoshi,K.et al.,2006.Analytical Chemistry 78,8169−8174)及び液滴(Funakoshi,K.et al.,2006.Analytical Chemistry 78,8169−8174;Holden,M.A.et al.,2007.Journal of the American Chemical Society p8650−5)は、脂質/油溶液中で接触して単一チャネル記録実験に適したニ分子層を形成可能であることがわかっている。
【0006】
本発明の第1の局面では、両親媒性分子のニ分子層を製造する方法が提供され、該方法は、
(i)疎水性媒体において水和支持体を供給するステップであって、疎水性媒体が両親媒性分子を含むと共に、両親媒性分子の第1単分子層が水和支持体の表面上に存在するステップと、
(ii)疎水性媒体において親水体を供給するステップであって、疎水性媒体が両親媒性分子を含むと共に、両親媒性分子の第2単分子層が親水体の表面上に存在するステップと、
(iii)第1単分子層と第2単分子層とを接触させて両親媒性分子のニ分子層を形成するステップと、
を含む。
【0007】
本発明の第1の方法のステップ(i)が、疎水性媒体において親水体を供給し、疎水性媒体が両親媒性分子を含み、親水体の表面上に両親媒性分子の第1単分子層を形成するのが好ましい。
【0008】
本発明の第1方法のステップ(ii)が、疎水性媒体において水和支持体を供給し、疎水性媒体が両親媒性分子を含み、水和支持体の表面上に両親媒性分子の第2単分子層を形成するのが好ましい。
【0009】
本発明の第2の局面では、両親媒性分子のニ分子層を製造する方法が提供され、該方法は、
(i)両親媒性分子を含む疎水性媒体において水和支持体を供給するステップであって、両親媒性分子の第1単分子層が水和支持体の表面上に存在するステップと、
(ii)両親媒性分子を含む疎水性媒体において親水体を供給するステップであって、両親媒性分子の第2単分子層が親水体の表面上に存在するステップと、
(iii)第1単分子層と第2単分子層とを接触させて両親媒性分子のニ分子層を形成するステップと、
を含む。
【0010】
本発明の第2の方法のステップ(i)が、両親媒性分子を含む疎水性媒体において親水体を供給し、親水体の表面上に両親媒性分子の第1単分子層を形成するのが好ましい。
本発明の第2の方法のステップ(ii)が、両親媒性分子を含む疎水性媒体において水和支持体を供給し、水和支持体の表面上に両親媒性分子の第2単分子層を形成するのが好ましい。
【0011】
本発明の第1及び第2の両局面の方法により、長期間にわたり、環境及び/または物理的なストレスにさらされても安定しているという付加的利点を備えた両親媒性分子のニ分子層が自然に形成されることがわかっている。
【0012】
本発明の方法によって製造される両親媒性分子のニ分子層の寿命は、約1時間、5時間、10時間、24時間、2日、1週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月またはそれ以上であってもよい。
【0013】
本発明の方法が、少なくとも約90%の効率、より好ましくは約95%、98%、99%の効率でニ分子層を形成するのが好ましい。
ニ分子層が、水和支持体上の単分子層と親水体上の単分子層との間の1分以内の接触で形成されるのが好ましい。
【0014】
両親媒性分子のニ分子層は、物理的な衝撃に耐えることができ、例えば、ニ分子層は0.5メーターまたは1メーターを越える高さから一度以上落とされた後でも安定している。このニ分子層の安定性により、本発明の方法により製造されるニ分子層は、既知の従来の方法により製造されたニ分子層より作業しやすい。
【0015】
本発明の方法により製造される両親媒性分子のニ分子層の驚くほど長い寿命と安定性には、ユーザがニ分子層を設置可能であると共に、長期間及び/または多数の実験で使用することができるという利点がある。また従来のニ分子層より手軽に、例えば、物理的環境がそれほど制御可能でも予測可能でもない、管理された実験室環境外で、携帯機器に使用できるという利点がある。
【0016】
水和支持体及び親水体それぞれが両親媒性分子を含む疎水性媒体に配置される際、両親媒性分子の単分子層が、水和支持体及び親水体上で自己集合するのが好ましい。
単分子層における両親媒性分子の配向性は、単分子が接触するとニ分子層が形成されることを意味している。
【0017】
両親媒性分子は、親水グループ及び疎水グループの両方を有している。本発明の方法で形成される単分子層においては、両親媒性分子は、水界面に向かって親水基(または“表”)、水界面から離れるように疎水基(または“裏”)となるように親水体及び水和支持体上で整列している。
【0018】
本発明の方法で使用される両親媒性分子は脂質分子であってもよく、特に、界面活性剤分子を使用してもよい。脂質分子は、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質、ポリケチド、リン脂質、糖脂質、コレステロールを含むグループから選択されてもよい。
【0019】
脂質は、モノオレイン;1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC);1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DPhPC);パルミトイル−オレオイル−ホスファチジルコリン(POPC);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(POPE);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン;1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPE/POPG)混合物;またはそれらの混合物を含むグループのいずれかを含んでいてもよい。
【0020】
単分子層またはニ分子層における両親媒性分子は、同じタイプまたは異なるタイプであってもよい。例えば、製造されるニ分子層が非対称になるように、ニ分子層のそれぞれの単分子層が異なるタイプの両親媒性分子を含んでいてもよい。非対称のニ分子層は、第1の単分子層が第1のタイプの両親媒性分子を含む第1の疎水性媒体における水和支持体上に形成される本発明の第1の局面の方法を使用して製造されてもよい。第2の単分子層は、第2のタイプの両親媒性分子を含む第2の疎水性媒体における親水体上に形成される。第1及び第2両親媒性分子は異なっていてもよい。1つは親水体上、1つは水和支持体上の2つの単分子層は、両親媒性分子を含まない第3の疎水性媒体においてまとめられて非対称の両親媒性分子のニ分子層を形成する。あるいは、非対称のニ分子層は、水和支持体において、親水体において使用されるものと異なるタイプの両親媒性分子を用いることによって本発明の第2の方法によって製造されてもよい。
【0021】
あるいは、それぞれの単分子層が同じタイプのまたは混合タイプの両親媒性分子を含んでいてもよい。
水和支持体は、固体または半固体の基質を備えていてもよい。本願で使用される“固体”及び“半固体”という用語は、当業者にとって通常の意味を有すると理解される。特に、“固体”という用語は硬くて変形に強い基質に言及し、“半固体”は、固体と液体との中間の性質を有する基質に言及する。半固体基質は、いくらか柔軟性があるものの、容器に入れられたときにその形を維持するのに十分な硬さがあり、容器の形にすぐに適合しないのが好ましい。半固体基質の例はゲルである。
【0022】
水和支持体が親水性であるのが好ましい。両親媒性分子が存在する疎水性媒体に配置された場合に、両親媒性分子の単分子層が水和支持体の表面上で集合するのが好ましい。
あるいは、水和支持体は親水性でなく、脂質単分子層は脂質分子をその表面に付着させることにより形成されてもよく、例えば、支持体の表面は、変性脂質が表面と反応して付着して単分子層を形成してもよい。
【0023】
水和支持体は多孔質であっても多孔質でなくてもよい。水和支持体が多孔質であるのが好ましい。
水和支持体はヒドロゲルであってもよい。ヒドロゲルが光架橋結合されていてもよい。
【0024】
水和支持体が、アガロース、ポリアクリルアミド、[架橋結合された]ポリエチレングリコール、ニトロセルロース、ポリカーボネート、アノディスク材料、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ナイロン、ナフィオン(Naphion)材料、メソ多孔質シリカ、水及び/またはガラスを含んでいてもよい。
【0025】
水和支持体は、タンパク質または検体分離ゲル、例えば電気泳動ゲルであってもよい。分離ゲルは、例えば、大きさ、分子量またはイオン特性に基づいて分離したタンパク質、DNAまたは他の試料を含んでいてもよい。
【0026】
両親媒性分子の単分子層を担持する水和支持体の表面は、適切であればいかなる構成であってもよい。表面はほぼ平面、あるいは表面がほぼ平面でなくてもよい。表面は湾曲していてもよい。表面はパターン化されていてもよい。
【0027】
水和支持体は部分的にまたはほぼ透明であってもよい。あるいは、水和支持体は大部分不透明であってもよい。
水和支持体はいかなる厚みの基質を含んでいてもよく、好ましくは約1nmから約10cm、より好ましくは約1μmから約1cm、最も好ましいのは約100μm〜約1cmである。
【0028】
親水体は、液体、固体、または半固体あるいはそれらの混合物であってもよい。親水体が、水等の水溶液の液滴を含むのが好ましい。
親水体が水溶液の液滴である場合、その直径が約5nmから10cm以上、好ましくは1μmから1mmであるのが好ましい。ある実施例においては、液滴の直径は約100μmである。
【0029】
親水体は、水和固体または半固体支持体/基質を含んでいてもよい。親水体は、水和アガロース等のヒドロゲルを含んでいてもよい。
親水体の構成が、的確な塩類を含むよう調整されて電流が流れるのが好ましい。例えば、NaCl、KCl、MgCl2及び/またはその他の塩類が含まれていてもよい。
【0030】
親水体はまた、pHを制御するための一般的な緩衝剤、例えば、Bis−Tris、トリス、ヘペス、リン酸ナトリウム及び/またはリン酸カリウムを含んでいてもよい。
塩類はまた、例えば、タンパク質の安定化、結合成分の調整、ニ分子層全体の浸透勾配の調整及び/または蛍光プローブの活性化等、その他の理由により含まれていてもよい。
【0031】
親水体は、浸透圧、蛍光プローブ、ミクロスフェアまたはビーズを安定化するために使用されるさまざまな量の、スクロースまたはPEG等のその他の成分も含んでいてもよい。親水体は、尿素またはグアニジンHCl等の変性剤も含んでいてもよい。
【0032】
1つ以上の親水体が使用される場合、それぞれが同じ構成でもよいし、または異なる構成であってもよい。
疎水性媒体は油であってもよい。油は分岐または非分岐、及び、置換または非置換の炭化水素であってもよい。例えば、炭素水素は5から20の炭素原子、より好ましくは10から17の炭素原子を有していてもよい。適切な油は、ヘキサデカン、デカン、ペンタンまたはスクアレン等のアルカンまたはアルケン、またはフッ素化油、またはシリコーンベースの油、または四塩化炭素を含む。
【0033】
本発明の方法が、油(疎水性媒体)溶液中の脂質(両親媒性分子)を使用するのが好ましい。油溶液中の脂質が、油中に約1mg/mlから約30mg/mlの脂質を含むのが好ましい。油溶液中の脂質が、約5mg/mlの脂質を含むのが好ましい。脂質/油溶液が、n−ヘキサデカン(C16)中に1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPhPC)を含むのが好ましい。
【0034】
ニ分子層を形成するための単分子層の接触に関連して本願で使用される“接触して”または“接触”という用語は、別々の両親媒性分子の単分子層からの両親媒性分子のニ分子層の集合を可能にするための実際の物理的接触、及び/または十分な接近を意味するものと理解される。接触過程が、Gibbsのプラトーボーダー作用の様式であるのが好ましい。
【0035】
両親媒性分子のニ分子層の直径は、約1μm未満から約1cmを超えてもよく、好ましくは約5μmから約5000μm、より好ましくは約30μmから約3000μmである。ニ分子層の直径は、約5μmから約500μm、より好ましくは約30μmから約300μmであってもよい。当業者であればニ分子層が円形である必要がないことがわかる。非円形のニ分子層が形成される場合、ニ分子層が前述した好ましい直径を有する部分を含むのが好ましい。例えば、本発明の非円形ニ分子層は、約1μmから約1cm以上の直径を有する部分を含んでいてもよい。本発明の非円形ニ分子層の寸法の1つが、約1μmから約1cm以上であるのが好ましい。
【0036】
両親媒性分子のニ分子層の領域は調整可能であってもよい。ニ分子層の使用前、使用中、または使用の合間に、ニ分子層の領域が調整可能であるのが好ましい。ニ分子層の領域は、親水体と水和支持体との間の接触領域を増加または減少することにより調整されてもよい。親水体と水和支持体との間の接触領域は、親水体の中心を水和支持体に向かって、または親水体の中心を水和支持体から離れるように移動することにより、あるいは水和支持体を親水体の中心に向かって、または水和支持体を親水体の中心から離れるように移動することにより調整されてもよい。ニ分子層の領域を増加するためには、親水体の中心を水和支持体に向かって移動するのが好ましい。ニ分子層の領域を減少するためには、親水体の中心を水和支持体から離れるように移動するのが好ましい。親水体を保持するのに電極が使用されている場合、ニ分子層の領域は、電極を水和支持体に向かって、または電極を水和支持体から離れるようにそれぞれ移動することによって増減されてもよい。代替実施例においては、親水体の位置は、光線(光学トラップ等)または圧力を使用することにより、付与される電界または磁界を利用して制御されてもよい。ニ分子層の領域は、親水体の容積、大きさ及び/または形を増減することにより調整されてもよい。ニ分子層を壊さずにニ分子層の領域を変更可能であるのが好ましい。
【0037】
5μmと約500μmとの間のどの直径にもニ分子層の領域を移動できてもよく、あるいは約10秒未満、約5秒未満、約3秒未満、約2秒未満、約1秒未満または約0.5秒未満でニ分子層の大きさを100倍まで変更できてもよい。
【0038】
ニ分子層の領域の制御は、驚くほど簡単で速い。ニ分子層の領域の制御は、ニ分子層に結合する膜タンパク質の数/量を制御できるという利点を持つ。驚いたことに、ニ分子層の領域の変更により、膜結合タンパク質が変性したり、あるいはニ分子層から除去されることはない。実際、膜タンパク質がすでにニ分子層に挿入されている場合、ニ分子層の領域が減少すると膜タンパク質は凝縮される。親水体と水和支持体との間の接触がなくなるとニ分子層は分解し、その中に位置する膜貫通タンパク質はもはやニ分子層またはどちらの単分子層にも存在しない。
【0039】
当該方法には、両親媒性分子の単分子層及び/またはニ分子層が形成されることができる安定期が含まれていてもよい。安定期は、システムを均衡にするためであってもよい。安定期は、約0秒から約5秒であってもよく、好ましくは、安定期が約10秒から約1時間である。安定期は約15分であるのが好ましい。いくつかの実施例においては、方法の1要素、例えば第1または第2の単分子層のいずれかが形成後に安定化された場合、他方の単分子層をニ分子層の形成前に安定化する必要はない。
【0040】
安定期は、親水体及び水和支持体がニ分子層を形成せずに融合する危険を減少するという利点がある。
ニ分子層は倒立顕微鏡、またはいくつかの状況においては裸眼によって水和支持体を通して視覚化されてもよい。脂質ニ分子層の視覚化は、形態、位置、大きさ、またはその他のニ分子層の特性を追跡するのに使用されてもよい。ニ分子層の視覚化は、ニ分子層におけるまたはニ分子層中の標識検体/タンパク質/化合物を見たり調べたりすることを可能にする。
【0041】
両親媒性分子のニ分子層は、ニ分子層において、またはニ分子層中で、またはニ分子層を通して起きる処理を研究するために使用されてもよい。ニ分子層は、細胞膜の挙動を研究するための人工/モデルシステムとして使用できる。
【0042】
タンパク質は、両親媒性分子のニ分子層に挿入されてもよい。ニ分子層の環境、例えば、疎水性媒体及び/または親水体及び/または水和支持体におけるタンパク質は、ニ分子層に自然に挿入されてもよい。その代わりに、タンパク質は、圧力を付与することにより及び/またはタンパク質負荷小胞をニ分子層と融合させることにより、ニ分子層に入れられてもよい。小胞は親水体内部に含まれていてもよいし、あるいは親水体に導入されてもよい。タンパク質はGB0614835.7に開示されるプローブ法を使用して膜に導入されてもよい。タンパク質は、ニ分子層が既知の技術により形成された場合と同じ方法でニ分子層に挿入されてもよい。
【0043】
挿入されたタンパク質は、既知の膜結合タンパク質であってもよい。
タンパク質は、ニ分子層に直接または間接に固定される膜結合タンパク質であってもよい。タンパク質は、選択的または非選択的な膜内輸送タンパク質、イオンチャネル、孔形成タンパク質または膜常駐受容体であってもよい。
【0044】
ニ分子層と結合及び/またはニ分子層に挿入される膜結合タンパク質は、例えばグラミシジンのようなペプチド;例えばバクテリオロドプシンまたはK+チャネルのようなαらせん束;及び例えばα溶血素、ロイコシジンまたは大腸菌ポーリンのようなβバーレル;またはそれらの組み合わせを含むグループのいずれかを含む。
【0045】
両親媒性分子のニ分子層は、ニ分子層中の両親媒性分子と、あるいはニ分子層中の膜結合タンパク質と、相互作用できる化合物/検体を検出するのに使用されてもよい。膜結合タンパク質または両親媒性分子との相互作用は、ニ分子層全体の検体/化合物の特異的または非特異的の転位によるものであってもよく、膜結合タンパク質または両親媒性分子によって仲介されてもよい。その代わりに、化合物/検体は膜貫通タンパク質と、あるいは脂質ニ分子層と、相互作用して、物理的、工学的、電気的、または生化学的変化を引き起こしてもよい。このような相互作用には、視覚的変化、特定の静電容量変化、またはニ分子層中の蛍光標識脂質またはタンパク質の活性化が含まれるがそれらに限定されない、多くの異なる方法で検出されてもよい。
【0046】
ニ分子層は膜結合タンパク質を検出するのに使用されてもよい。膜結合タンパク質は、イオンチャネルタンパク質及び/または孔形成タンパク質であるのが好ましい。膜結合タンパク質は、ニ分子層に拡散及び/または結合されて、ニ分子層における検出可能な特性変化を引き起こすのが好ましい。変更される特性は、物理的、光学的、電気的または生化学的であってもよい。
【0047】
本発明の方法により製造される両親媒性分子のニ分子層を利用して、膜結合タンパク質を調査及び/またはスクリーニングする;膜結合タンパク質と相互作用する検体を調査及び/またはスクリーニングする;異なる両親媒性分子から作られるニ分子層と相互作用する化合物を調査及び/またはスクリーニングしてもよい。異なる両親媒性分子のニ分子層をスクリーニングして、異なる両親媒性分子の役割及び/または異なる両親媒性分子のさまざまな検体/化合物との相互作用を研究してもよい。
【0048】
ニ分子層を利用して、ニ分子層に挿入された膜結合タンパク質の電圧依存性を研究してもよい。例えば、DPhPCから構成されるニ分子層は、22℃で約0.3から約0.9μFcm-2、好ましくは22℃で約0.65μFcm-2、の間の特定の静電容量を有していてもよい。特定静電容量特性の変化を研究することにより、異なる条件により引き起こされるニ分子層の特性変化を研究することができる。異なる検体/化合物との膜貫通結合タンパク質の相互作用と同様に、例えば、ニ分子層を横断するイオン電流を研究することにより、イオン透過膜貫通結合タンパク質の特性を研究してもよい。
【0049】
ニ分子層を利用して、ニ分子層に挿入された膜結合タンパク質の能力を研究し、膜全体にわたって分子を移動させてもよい。例えば、タンパク質を通して、または単純にニ分子層を通しての非仲介輸送のいずれかによって膜全体にわたって移動させられる分子の量を、電圧調査、質量分析、ELISA等の酵素的技術を使用することにより、または蛍光または放射能標識基質を使用することにより、決定してもよい。
【0050】
本発明の方法により製造されるニ分子層を利用して、ニ分子層中のタンパク質またはニ分子層そのものに対するニ分子層の物理的変化の効果を研究してもよい。研究可能な物理的変化には、例えば、膜湾曲、横力、表面張力等が含まれる。
【0051】
スクリーニングにおいて、試験され、研究され及び/または使用される化合物/検体は、化合物/検体を親水体及び/または水和支持体及び/または疎水性媒体に配置することによりシステムに導入されてもよい。親水体に含まれる場合、化合物/検体は、親水体が形成される際に組み込まれてもよいし、あるいは、例えば形成された親水体に注入することにより、後で付加されてもよい。同様に、化合物/検体が水和支持体にある場合、化合物/検体は、支持体が形成される際に組み込まれてもよいし、あるいは後で付加されてもよい。
【0052】
ある実施例において、水和支持体は、分析のためのタンパク質(検体/化合物)を含むタンパク質分解ゲルまたは膜であってもよい。例えば、試料は、大きさに基づいて分離されたタンパク質を含むポリアクリルアミドゲルであってもよい。この実施例において、検体/化合物は、水和支持体を介してニ分子層に導入される。
【0053】
検体/化合物は、精製タンパク質または抽出粗タンパク質であってもよい。
試験される検体/化合物は、試料内にあってもよい。試料は、例えば川または貯水池など等の水域からの環境試料、または試料は生物試料、例えば、血液、尿、血清、唾液、細胞または組織の試料であってもよい。試料は、細胞増殖培地からの液体であってもよい。
【0054】
両親媒性分子の二分子層のまたはニ分子層に挿入された膜結合タンパク質の化学、生化学、電気、光学、物理及び/または環境特性を検出するのに、検出手段を1つ以上使用してもよい。特に、検出手段を1つ以上使用して、化合物/検体により誘発されるニ分子層中または二分子層における変化を検出してもよい。
【0055】
検出手段は、ニ分子層中に挿入されたタンパク質チャネルを通過するイオン電流の変化または水和支持体、親水体または二分子層における分子の電気化学特性を検出するために使用される電極を備えていてもよい。
【0056】
化学または生化学的変化を、酵素測定または免疫測定を利用して検出してもよい。あるいは、一定の条件下で活性化される標識タンパク質、例えば放射能または蛍光標識タンパク質の利用によりニ分子層における変化を監視してもよい。反応の際の光吸収の変化に反応する比色法を利用して、ニ分子層における変化を検出してもよく、特に、ニ分子層の大きさの変化を検出するのにこの方法を使用してもよい。
【0057】
検出手段は、二分子層の、またはニ分子層における変化の特性を、継続的にまたは断続的に検出可能であってもよい。
膜結合タンパク質、検体及びその他の化合物のような検出試薬が、親水体及び/または水和支持体への組み込み、親水体及び/または水和支持体への直接注入、及び/または疎水性媒体への組み込み、または追加、により二分子層に加えられてもよい。
【0058】
膜容量の変化が調査されている実施例において、電極を検出手段として使用してもよい。電極はAg/AgClであってもよく、そのような電極の直径は、約10ミクロンから1mmであってもよい。第1の電極は親水体と電気的に接触していてもよく、第2の電極は水和支持体と電気的に接触していてもよい。二分子層の特定容量等の二分子層の電気特性は、電極を使用して決定されてもよい。
【0059】
極微操作装置が使用されて、親水体及び/または水和支持体に電極を挿入してもよい。
ニ分子層の物理的、化学的または電気的環境を、試薬、検体、化合物及び/またはタンパク質の、二分子層及び/または親水体及び/または水和支持体への、または二分子層及び/または親水体及び/または水和支持体からの導入、除去、または隔離によって制御してもよく、例えば、親水体及び/または水和支持体へ緩衝剤を追加することによって、ニ分子層を囲む環境のpHを制御してもよい。
【0060】
二分子層は、親水体と水和支持体との間の接触を断ち、その後、ニ分子層を再形成するために再接触させることにより、繰り返し再生されてもよい。親水体の中心と水和支持体との間の距離を、ニ分子層が不安定になり自然に分解するポイントまで増加することにより、ニ分子層を分解してもよい。
【0061】
例えば親水体と水和支持体との間の接触を断ってニ分子層を分解することにより、ニ分子層における膜結合タンパク質のニ分子層との結合を断ってもよい。一旦ニ分子層が分解されて膜結合タンパク質が除去されてしまえば、ニ分子層を再生して、膜結合タンパク質、あるいは異なる膜結合タンパク質がニ分子層と結合しないようにしてもよい。
【0062】
ニ分子層の領域を縮小することによってニ分子層と結合された膜結合タンパク質の濃度を増加してもよい。逆に、ニ分子層と結合された膜結合タンパク質の濃度を、ニ分子層の領域を増加することによって縮小してもよい。
【0063】
ニ分子層における膜結合タンパク質の濃度を増加する能力を利用して、膜結合タンパク質を含むニ分子層の領域を縮小し、その結果、膜タンパク質が拡散する領域を制限することにより、膜結合タンパク質の二次元結晶を製造してもよい。
【0064】
ニ分子層における膜結合タンパク質の濃度を増加または縮小する能力を利用して、例えばタンパク質のサブユニット間またはタンパク質複合体の要素間のタンパク質間相互作用を調節してもよい。
【0065】
一旦形成されると、本発明のいずれかの方法によって製造されるニ分子層を、水和支持体の表面全体にわたって位置移動または移動してもよい。このことが、親水体を水和支持体の表面全体にわたって移動させることにより達成されるのが好ましい。脂質ニ分子層を、約1または2mm s-1以上の速度で水和支持体の表面全体にわたって位置移動してもよい。ニ分子層を水和支持体の表面全体にわたって位置移動した場合、ニ分子層内部の膜結合タンパク質がニ分子層との結合を断たないことが好ましい。
【0066】
親水体または水和支持体と接触する部材を移動することにより、水和支持体の表面全体にわたってのニ分子層の位置移動を達成してもよい。その部材は電極であるのが好ましい。水和支持体全体にわたって親水体を移動する、または親水体全体にわたって水和支持体を移動することのいずれかによりニ分子層の位置を移動するために、極微操作装置を使用してその部材を移動するのが好ましい。あるいは、水和支持体及び親水体の両方を移動してもよい。
【0067】
ニ分子層の位置移動を利用して、ニ分子層中のタンパク質に力を加えてもよく、例えば、機械感受性タンパク質チャネルを調査するため、またはニ分子層自身の特性に対するそのような力の影響を調べてもよい。
【0068】
ニ分子層の位置移動を利用して、ニ分子層及び/またはニ分子層中の膜結合タンパク質の特性を変える水和支持体中の検体/化合物の識別のために、水和支持体の表面全体をスキャンしてもよい。
【0069】
水和支持体の表面全体にわたって位置移動するニ分子層の驚くべき特性には、膜結合タンパク質及び/または同じ水和支持体の異なる部位に位置する試薬または基質等の検体/化合物を検出するためにニ分子層を用いて水和支持体全体にわたってのスキャンが可能という利点がある。このことは、それぞれの試料部位間でニ分子層を分解せずに有利に行うことができる。
【0070】
ニ分子層を、異なる化合物の配列またはライブラリを備える水和支持体全体にわたって位置移動してもよい。所定の位置において、異なる化合物を支持体上に見つけてもよい。あるいは、水和支持体が、大きさまたはイオン特性に基づいて分離されたタンパク質またはDNA等の化合物を含む分離ゲルまたは膜を備えていてもよい。
【0071】
1つ以上のニ分子層の位置移動により、1つ以上の特定の膜結合タンパク質を備えるニ分子層を水和支持体中の化合物のライブラリに対して迅速にスクリーニングすることが可能になる。スクリーニングにより、膜結合タンパク質と反応してニ分子層での特性に検出可能な変化を起こすライブラリ中の化合物の検出が可能になる。ライブラリ中の化合物は、タンパク質、DNAまたはその他の小分子であってもよい。検出可能な変化は、例えば、伝導性の変化または蛍光性またはその他のマーカーパターンの変化であってもよい。
【0072】
あるいは、または付加的に、ニ分子層の位置移動が、潜在的な膜結合タンパク質を求めて、水和支持体中の化合物のライブラリをスクリーニングするのを可能にしてもよい。この場合も、ニ分子層における特性の変化、例えば、膜全体にわたる伝導性または容量の変化により、膜結合タンパク質を検出してもよい。ライブラリは、細胞または細胞集団から抽出されるタンパク質を含んでいてもよい。
【0073】
ニ分子層を多孔水和支持体上に形成し、ATP等の排出化合物中の局所的な濃度差を検出するために細胞の表面全体にわたってスキャンしてもよい。細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。ニ分子層を使用して、インビトロ(in vitro)またはインビボ(in vivo)で細胞表面上の、細胞排出物等の検体/化合物を検出してもよい。
【0074】
ニ分子層をピペットチップ等のモバイル機器中のつり下げ水和支持体上に形成し、細胞の表面全体にわたってスキャンしてもよい。あるいは、モバイル機器を使用して、例えば異なる生物試料などの異なる溶剤を精査してもよい。
【0075】
複数の別々の親水体及び1つ以上の水和支持体との間で複数の別々のニ分子層を形成してもよい。親水体を同じ水和支持体上で1つ以上のその他の親水体と接触させて、それぞれの親水体間及び親水体と水和支持体との間で、複数の別々の脂質ニ分子層を形成してもよい。親水体を2次元配列または3次元配列に配置してもよい。
【0076】
同じ水和支持体上の2つ以上の別々の親水体が、それぞれに対し、同じまたは異なる検出手段及び/または異なる試薬、及び/または同じまたは異なる膜結合タンパク質を含んでいてもよい。
【0077】
水滴の配列を水和支持体表面に配置して、例えば親水体の蛍光性または検体/化合物が検出される際に記録された伝導性の変化により、水和支持体中の検体/化合物の位置を検出してもよい。
【0078】
別の局面によると、本発明は親水体及び水和支持体を含み、その間に両親媒性分子のニ分子層を備えたニ分子層製品を提供する。親水体上の両親媒性分子の単分子層と水和支持体上の両親媒性分子の単分子層との相互反応により、ニ分子層を形成するのが好ましい。
【0079】
本発明のどの方法によりニ分子層を形成してもよい。
当業者であれば、本発明の第1または第2局面に関連して議論されたあらゆる好ましい特徴、そして特にニ分子層の製造ではなくニ分子層自身に関連する特徴が、本発明によるニ分子層製品及びニ分子層を使用する発明のあらゆる局面に適用できることがわかるだろう。
【0080】
本発明の別の局面によると、蛍光顕微鏡検査法との関連で本発明によるニ分子層製品の使用法が提供される。
水和支持体の性質により、顕微鏡を用いてニ分子層を見ることが可能であるのが好ましい。したがって、本発明のこの局面では、水和支持体は約2mm未満の厚さの層であるのが好ましい。支持体の厚さが、約1nmから約2mm、好ましくは約100nmから約1mm、さらに好ましくは支持体の厚さが約100nmから約400nmであるのが好ましい。
【0081】
約400nm未満の厚さの薄い水和支持体を使用する場合、かなりの量の水和液または水和支持体等の再水和媒体と接触させておくことで、薄い支持体が乾燥しないようにするのが好ましい。再水和媒体は、材料/構成について薄い水和支持体と同じまたは異なっていてもよく、薄層から水分が失われるのを防止するために存在する。再水和支持体は、アガロースゲル、水またはポリアクリルアミドゲルであってもよい。再水和支持体は、多孔質または固体であってもよい。
【0082】
観察される分子を蛍光色素分子で蛍光標識してもよい。
親水液滴及び/または水和支持体中の蛍光色素分子が、全内部反射蛍光を使用して観察されるのが好ましい。全内部反射蛍光を使用した観察が電気計測と組み合わせて使用されるのが好ましい。
【0083】
ニ分子層のバルク特性として、または個々の分子レベルに至る適切な検出と合わせてのいずれでも、全内部反射蛍光顕微鏡を使用してニ分子層中に存在する実在物から蛍光性を観察してもよい。
【0084】
全内部反射蛍光を使用して蛍光色素分子を観察する利点は、脂質ニ分子層に接近していないその他の蛍光色素分子は発光せず観察されない一方で、脂質ニ分子層の約200nm以内の蛍光色素分子のみが発光して観察されることである。電気計測と組み合わせて全内部反射蛍光計測の利用は、タンパク質間相互作用を調べることができるという利点があり、例えば、標識サブユニットまたはイオンチャネルの電気的反応から蛍光基質の結合までのα溶血素等のチャネルタンパク質の集合体を調べることができる。
【0085】
本発明のさらなる局面によると、両親媒性分子のニ分子層とライブラリ中の1つ以上の化合物との間の相互作用のためのスクリーニング方法であって、
i)親水体及び水和支持体を備え、その間に両親媒性分子のニ分子層を備えたニ分子層製品を提供するステップと、
ii)親水体を、それにより水和支持体の表面全体にわたってニ分子層を位置移動させるステップと、
iii)水和支持体中でのニ分子層と化合物との間の相互作用を検出するステップと、
を含む。
【0086】
ニ分子層製品が、本発明の第1または第2の局面の方法により製造されるのが好ましい。
水和支持体が、試験されるべき化合物のライブラリを含むのが好ましい。
【0087】
ある実施例において、ニ分子層が水和支持体全体にわたって位置移動される前またはされる際に、膜結合タンパク質をニ分子層に挿入してもよい。
ニ分子層の位置移動は、親水体を移動するように配置された極微操作装置と親水体との直接または間接接触により行われてもよい。親水体は、移動される電極に接触し、水和支持体全体にわたってニ分子層を位置移動してもよい。
【0088】
生産性の高いスクリーニングが行われることができるようにスクリーニング方法を自動化してもよい。
当業者であれば、ニ分子層の製造方法、ニ分子層そのもの及びニ分子層の位置移動に関する本発明のいずれの局面の好ましい特徴も、本発明のこの局面に適用できることが理解される。
【0089】
本発明のさらなる局面によると、本発明のニ分子層製品が水和支持体または親水体中及び/または親水体上に存在する1つ以上の膜結合タンパク質を識別するための使用法が提供される。
【0090】
本発明のさらなる局面によると、本発明の二分子層製品が二分子層の中に位置する膜結合タンパク質と相互作用し得る基質を識別するための使用法が提供される。
本発明の別の局面によると、水溶液中に存在する1つ以上の検体を検出するための方法が提供され、該方法が、
(a)壁付き容器に、油中に脂質が入った溶液を供給するステップであって、容器の壁の少なくとも一部が多孔水和支持体を備えるステップと、
(b)油中に脂質が入った溶液に親水体を供給するステップと、
(c)多孔水和支持体の表面上に脂質分子の第1単分子層及び親水体の表面上に脂質分子の第2単分子層を形成するステップと、
(d)多孔水和支持体を親水体と接触させて、親水体上の脂質単分子層と多孔水和支持体上の脂質単分子層との間に脂質ニ分子層を形成するステップと、
(e)多孔水和支持体を水溶液と接触させて、水溶液に存在する検体を脂質ニ分子層に利用可能にするステップと、
(f)検出手段を使用して、脂質ニ分子層への検体の挿入及び/または脂質膜全体にわたる検体の位置移動及び/または検体のニ分子層との相互作用を検出するステップと、
を含む方法。
【0091】
脂質/油溶液を保持するための壁付き容器を備えた脂質ニ分子層と共に使用される装置であって、容器の壁の少なくとも一部が使用中に水和されるように配置される多孔支持体を備える。
【0092】
装置は検出手段を備えていてもよい。検出手段は電極または光検出器であるのが好ましい。
装置が携帯可能であるのが好ましい。装置は手持ち式であるのが好ましい。
【0093】
壁付き容器はピペットチップであってもよい。
本発明のいくつかの局面のみに関連して議論された本発明の選択的及び/または好ましい特徴の全てが、本発明のあらゆる局面に適用可能であることが理解される。
【0094】
本発明の好ましい実施例/局面を、添付の図面に関してのみ例として以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】水和支持体ニ分子層上の水滴(親水体)を示しており、本願では液滴載置水和支持ニ分子層(DHB)として参照される。図1Aは、液滴載置水和支持ニ分子層の概略図である。疎水性油中に脂質を入れた溶液中に水(水)滴及び水和支持体(ヒドロゲル)それぞれを浸すと、水(水)滴及び水和支持体(ヒドロゲル)の水性表面上に脂質単分子層が自然に形成される。2つの要素の単分子層が接触すると脂質ニ分子層が形成される。図1Bは、倒立顕微鏡で下から視覚化された液滴ニ分子層(DHB)を示し、その画像は、電極なしでヒドロゲル表面上に支持された液滴を示す。液滴の中心の単一連続ニ分子層領域は、インターフェイスでの屈折率の変化が大きいために容易に観察できる。図1Cは、液滴と水和支持体との間の脂質ニ分子層が、液滴及び水和支持体の両方に挿入される電極を介して電気的にアクセス可能であることを表している。電気容量トレースは脂質ニ分子層の形成を示している。ニ分子層の容量は、三角潜在波形を脂質ニ分子層に適用し方形波最大振幅電流応答を計測することにより決定される。
【図2】液滴載置水和支持ニ分子層を使用したヒドロゲル中のタンパク質のスキャニングを示す。図2A及び2Bは、放射能標識タンパク質バンドを視覚化するために、乾燥ゲル(視認可能な予め着色されたマーカーレーンMを含む)の画像にオートラジオグラフを重ねることにより作成された、液滴載置水和支持ニ分子層スキャニング後のポリアクリルアミドゲルの複合画像を示す。マーカーレーン(M)バンドは約210、111、71kDaの分子量に相当する。図2Aは、カリウムチャネルKcvを含むSDS−PAGEゲルである。図2Bは、孔形成タンパク質アルファ溶血素(αHL)αHL−WT(WT)及び七量体のタンパク質孔を形成するαHLM113F−D8(113F)を含むSDS−PAGEゲルである。DPhPC/C16(脂質/油)溶液中に浸された後、ゲル(水和支持体)との接触でニ分子層を形成した水滴200nLでゲルがスキャンされた。ゲル表面上の液滴ニ分子層の位置に応じてパッチクランプ増幅電気記録によりニ分子層におけるタンパク質挿入及び結合が監視された。図2Cは、Kcv(+20mV、500mM KCl、10mM Hepes、pH7.0)、αHL−WT及びαHL−M113F−D8(+10mV、1M KCl、10mM NaiPO4、pH7.0)を含むゲルの部位からの典型的な電気記録を示す。αHLチャネルは、10μM β−シクロデキストリン(βCD)を含む液滴でスキャンされて、2つの突然変異体を識別する。図2Dは、分離されたタンパク質バンドの周囲の局所的な部位でのみチャネルタンパク質挿入が観察されたことを示す。このことは、ニ分子層の位置に応じたチャネルタンパク質挿入の割合を示す、αHL−WTバンド(図2Bにおけるゲル上に印を付けられた点線)全体にわたる12mm線形スキャンにより示されている。
【図3】液滴載置水和支持ニ分子層を使用したゲル中の細胞抽出物のスキャニング結果を示す。図3Aは、液滴載置水和支持ニ分子層スキャニング後のクマシー染色ポリアクリルアミドゲルを示し、SDS−PAGE精製大腸菌細胞抽出物を示す。大腸菌細胞株は、別々に変容して、漏出性発現を通してαHL−WT(レーン1)及びαHL−M113F−D8(レーン2)を製造する。DPhPC/C16(脂質/油)溶液中に浸された後、ゲルを、10μMのβ−シクロデキストリンを含む水滴200nLでスキャニングした。ゲル表面上の液滴ニ分子層の位置に応じて、パッチクランプ増幅電気記録を介してニ分子層におけるタンパク質挿入及び結合を監視した。図3Bは、ゲル上に円で囲まれた部位のスキャンからの典型的な電気記録を示す。大量のαHL−WT(上部)及びαHL−M113F−D8(中間)チャネルが示された部位から挿入された。少量の正体不明のポーリン状のチャネル(底部)がゲルの下方の部位で見つかった。
【図4】液滴載置水和支持ニ分子層を使用したシクロデキストリンのスキャニングを示す。図4Aは、吸収によりポリアクリルアミドにドープされた分子をスキャニングするために使用された実験的方法の概略図を示す。γ−シクロデキストリン(γCD)及びヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン(hβCD)を約10mm離してゲルの底部に導入した。脂質/油溶液に浸して安定化した後、ゲルをαHL−WTチャネルを含む液滴でスキャニングした。液滴ニ分子層中のαHL−WTチャネルに結合しているシクロデキストリンを、ゲル表面上の液滴ニ分子層の位置に応じて、パッチクランプ増幅電気記録を介して監視した。図4Bは、αHL−WTに対するγCD(上部、68%ブロック)及びhβCD(底部、95%ブロック)の結合特性が、電気記録(−50mV、1M KCl、10mM NaiPO4、pH7.0)においてはっきりと区別できることを示す。図4Cは、2つのドープ位置間のスキャンにおける距離に応じて描画された2つのシクロデキストリンの結合頻度を示す。線は、測定された結合頻度に合致するガウス分布を示す。
【図5】脂質/油溶液に浸されつつ、ピペットチップから射出された液滴(親水体)の図を示す。液滴はヒドロゲル(水和支持体)と接触して脂質ニ分子層を形成する。
【図6】倒立顕微鏡を使用して下から視覚化された図5の方法を使用して製造された液滴載置水和支持ニ分子層を示す。
【図7】水性システムをスキャンまたは探査するために使用可能なピペットの先端に固定された水和支持体上に形成された脂質ニ分子層の図である。
【図8】液滴中にまたは液滴との電気接触において挿入される電極を使用して水和支持体に向かってまたは水和支持体から離れるように水滴の中心を移動させることにより、脂質ニ分子層がどのように領域内で増加及び減少可能かを示す図である。
【図9】試薬を積んだ第2の水滴が、ニ分子層を破らずに、いかにして水滴と一緒に破裂できるかを示す。
【図10】(A)マイクロピペットまたは(B)多孔毛細血管を供えたマイクロピペットからの注入により、試薬をいかにして水滴中に導入可能かを示す図である。
【図11】単一水和支持体上の複数の液滴載置水和支持ニ分子層を示す。図11Aは、独立した/別個の液滴を示す。図11Bは、液滴間及び下部の水和支持体と共に多数の脂質ニ分子層を形成する結合された液滴を示す。
【図12】液滴載置水和支持ニ分子層上の全反射蛍光顕微鏡を示す。
【図13A】本発明のニ分子層を製造するのに使用される代替携帯装置を示す。
【図13B】倒立顕微鏡を使用して下から視覚化した図13Aの装置を使用して製造されたニ分子層を示す。
【図14A】ニ分子層の配列を製造するための装置を示す。
【図14B】図14Aの装置を使用して製造されたニ分子層を示す。
【図15A】水相がかん流可能なニ分子層を製造するための装置を示す。
【図15B】図15Aの装置を使用して作り出された電気トレースを示しており、上部トレースにはα溶血素チャネルがニ分子層に挿入されているのが示され、底部トレースにはシクロデキストリンが結合されているのが示されている。
【図15C】図15Aの装置により製造されたニ分子層を示す。
【図16】バルク水容積がマイクロ流体チャネルである、図15Aの装置の代替装置を示す。
【図17】本発明の方法により製造された大きなニ分子層を示す。
【図18】本発明の方法により製造されたさらに大きなニ分子層を示す。
【図19】本発明のニ分子層を使用している膜結合タンパク質の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0096】
特定の例において参照される“液滴載置水和支持ニ分子層”は、先に説明した“両親媒性分子のニ分子層”と同じである。
方法
1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(Avanti Polar Lipids)、ヘキサデカン(Sigma−Aldrich)、β−シクロデキストリン(Sigma−Aldrich)、γ−シクロデキストリン(Sigma−Aldrich)、ヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン(Cyclolab)が、さらなる精製を行わずに使用された。
タンパク質のインビトロ(in vitro)転写/翻訳
αHL−WT、αHL−M113F−D8(Gu,L.Q.et al.,2001.Journal of General Physiology 118,481−493)(RL2バックグラウンド(Cheley,S.et al.,1999.Protein Science 8,1257−1267)及びαHL−WTに関連するゲルシフトを引き起こすC末端D8伸長部)及びKcvを、前述したように(Walker,B.et al.,1992.Journal of Biological Chemistry 267,10902−10909)結合インビトロ(in vitro)転写/翻訳(IVTT)キット(Promega Corporation)を使用して、pT7.SC1ベクター(Cheley,S.et al.,1997.Protein Engineering 10,1433−1443)においてクローンが作られた遺伝子から作製した。オートラジオグラフィによる視覚化のために、35Sメチオニンをタンパク質に組み込んだ。
【0097】
αHLタンパク質の50μLのインビトロ(in vitro)転写/翻訳反応を、前述したようにオリゴマー化し(Walker,B.et al.,1992.Journal of Biological Chemistry 267,10902−10909)、その後ペレット状にして再懸濁した(20μL,10mM MOPS緩衝剤,pH7.4,150mM NaCl,1mg mL-1 BSA)。電気泳動の前に、20μLの再懸濁されたオリゴマー標本を、5μLの5x SDS含有Laemmliバッファ(終末濃度:10%(v:v)グリセロール、5% 2−メルカプトエタノール、2.3% SDS、0.0625M Tris、pH7.5)と混合した。
【0098】
100μLのインビトロ(in vitro)転写/翻訳反応をKcvについて実行し、ついでその生成物を電気泳動により10%のTris−HClゲル中で分離した。ゲルを室温で真空下において紙上で乾燥し、その後オートラジオグラフィにより撮像した。Kcv四量体に対応するバンドをゲルから切り取って再水和した(300μl、10mM Hepes、pH7.4)。再水和されたゲルを押し砕いて、0.2μmの酢酸セルロース精密ろ過チューブ(Rainin)に移し、25000gで30分遠心分離して可溶化タンパク質を回収した。
インビトロ(in vitro)転写/翻訳タンパク質の電気泳動
5μLアリコートのゲル精製されたKcv四量体を8.5%トリス酢酸ポリアクリルアミドゲルに積み、TBEバッファ(8.9mM Tris,pH8.3、8.9mM ホウ酸、200μM EDTA、0.1% SDS)中で電気泳動を行って(200V、20分)タンパク質バンドを分離した。その後SDSなしのTBEバッファをゲルタンクに補充し、電気泳動を継続して(50V、2時間)ゲル中のSDSを除去した。
【0099】
5μLアリコートのインビトロ(in vitro)転写/翻訳α溶血素オリゴマーを7%トリス酢酸ポリアクリルアミドゲル(XT Ctriterion;Bio−Rad Laboratories Inc.)に積み、XT Tricineバッファ(Bio−Rad Laboratories Inc.)中で電気泳動を行って(200V、1時間)タンパク質バンドを分離した。その後SDSなしのLaemmliバッファをゲルタンクに補充し、電気泳動が継続して(100V、2時間)SDSを除去した。
【0100】
全てのゲルを予め着色されたマーカーレーン(SeeBlue Plus2,Invitrogen)を使って試験した。液滴載置水和支持ニ分子層ゲルスキャニングに続いて、オートラジオグラフィによりゲルを撮像した。
大腸菌粗抽出物及び電気泳動
コンピテント大腸菌JM109(DE3)細胞(Promega Corporation)をαHL−WTまたはαHL−M113F−D8のいずれかをコード化するpT7プラスミドとの熱ショックにより形質転換した。単一コロニー形質転換細胞を取り出し、50μg mL−1アンピシリンを含む2mLのLB培地で16時間培養した。その後、細胞を2500gで20分間遠心分離し再懸濁した(200μL、25mM MOPS、pH7.4、150mM NaCl、0.5%(w:v)SDS、500ng DNase 1)。氷上での30分間のインキュベーションに続いて、200μLサンプルを50μLの5x SDS含有Laemmliバッファと混合した(終末濃度:10%(v:v)グリセロール、5% 2-メルカプトエタノール、2.3% SDS、0.0625M Tris、pH7.5)。この溶液45μLをその後10% Bis−Trisポリアクリルアミドゲル(XT Ctriterion;Bio−Rad Laboratories Inc.)に積み、XT MOPSバッファ(Bio−Rad Laboratories Inc.)中で電気泳動(200V、30分)を行った。その後SDSなしのバッファ(50mM MOPS、50mM Bis−Tris、pH7.0)をゲルタンクに補充し、電気泳動が継続して(100V、2時間)SDSを除去した。
【0101】
液滴載置水和支持ニ分子層ゲルスキャニングに続いて、クマシーブリリアントブルー(Sigma−Aldrich)でゲルを染色した。
液滴載置水和支持ニ分子層ゲルスキャニング
電気泳動後、Kcvゲルを500mM KClを含む10mM Hepesバッファ(pH7.0)に少なくとも30分間浸した。αHL及び大腸菌ゲルを1M KClを含む10mM Na2PO4(pH7.0)バッファに浸した。透析後、ゲルは10mM DPhPC/C16溶液中に10分間放置され、その後、約200nL液滴のゲル中のバッファと同じバッファでスキャンされた。液滴をdxdydz極微操作装置(NMN−21;Narishige)に取り付けられた挿入Ag/AgCl電極と共にヒドロゲルの表面のあちこちに移動させた。
電気測定及びニ分子層撮像
直径100μmのAg/AgClワイヤー電極を使用して、液滴及びゲルに電気的にアクセスした。電流をパッチクランプ増幅器(Axopatch 200B;Axon Instruments)で記録し、1kHz(MiniDigi−1A;Axon Instruments)でデジタル化した。電気トレースを獲得後にフィルタにかけ(100Hzローパスガウシアンフィルタ)、pClamp9.0ソフトウェア(Axon Instruments)を使用して分析した。ゲルスキャニング装置及び増幅ヘッドステージを、液滴載置水和支持ニ分子層の撮像及び位置追跡のためのカメラ(DS−1QM;Nikon)を装備する倒立顕微鏡(TE−2000;Nikon Instruments UK)に取り付けられたファラデー箱に入れた。
結果
液滴載置水和支持ニ分子層の製造
ヘキサデカン(C16)中の10mM 1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPhPC)を全ての実験において脂質/油溶液として使用した。この溶液に浸された水容積は、DPhPC単分子層を自然に自己収集し、2つの要素の単分子層が接触すると、自然に脂質ニ分子層を形成する(Tsofina,L.M.et al.,1966.Nature 212,681−683;Malmstadt,N.et al.,2006.Nano Letters 6,1961−1965;Funakoshi,K.et al.,2006.Analytical Chemistry 78,8169−8174;Holden,M.A.et al.,2007.Jounal of the American Chemical Society −近刊)。水滴をヒドロゲル等の多孔水和支持体に接触させることにより、液滴載置水和支持ニ分子層を形成する(図1A)。溶解を防ぐために単分子層を接触させる前に少なくとも15分の安定期を必要とした。この期間の後、ほぼ100%の効率性で水滴と水和支持体との接触の数秒から数分以内にニ分子層の形成を観察した。液滴載置水和支持ニ分子層を、倒立顕微鏡(図1B)で視覚化し、この技術を利用して、試験中に脂質ニ分子層の位置を追跡した。
【0102】
極微操作装置を使用して液滴(図1A)に直径100μmのAg/AgCl電極を挿入することにより、脂質ニ分子層に電気的にアクセスした。水和支持体中の対応するAg/AgCl接地電極で、脂質ニ分子層全体の電気測定を実施した。脂質ニ分子層は、100GΩを超えてシールを保持する一方で、通常は約300mVまでの電圧に耐えることができた。電気ノイズレベルは、通常は1kHz記録バンド幅で約±0.5pAだった。これは、この装置の限界を反映し、液滴載置水和支持ニ分子層中の固有のノイズを反映していない。
【0103】
静電容量測定(図1C)と併せてのニ分子層部位(図1B)の同期光学的測定により、本システム中のDPhPCニ分子層に22℃で0.65μFcm-2の特定容量がもたらされた。これは他の報告された値(0.4〜0.8μFcm-2)(Montal,M.&Mueller,P.1972.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 69,3561−3566;Fujiwara,H.et al.2003.Journal of Chemical Physics 119,6768−6775;Funakoshi,K.et al.,2006.Analytical Chemistry 78,8169−8174)によく合致し、脂質ニ分子層が厚さにおいて自らの平面ニ分子層の片割れに類似することを示している。
液滴載置水和支持ニ分子層を用いたゲルスキャニング
単一チャネル記録測定を行う一方でゲル全体におけるニ分子層の位置をスキャンすることによって、脂質ニ分子層に挿入された単離膜チャネルの位置を決定できる。ヒドロゲル中の電気泳動により分離されたタンパク質バンドに適用した場合、スキャニングは、特定のバンドがチャネル形成タンパク質を含んでいたかどうかの判断を可能にする。この技術を有効にするために、ウイルス性カリウムチャネルKcv(Plugge,B.et al.,2000.Science 287,1641−1644;Gazzarrini,S.et al.,2003.Febs Letters 552,12−16)を含むポリアクリルアミドゲル、及びブドウ球菌孔形成毒素α溶血素(αHL)(Song,L.Z.et al.,1996.Science 274,1859−1866)の2つの突然変異体がスキャンされた。
【0104】
SDS−PAGEを使用して、ポリアクリルアミドゲル(図2A及び図2B)中のインビトロ(in vitro)転写/翻訳(IVTT)発現されたKcV、野生型α溶血素(αHL−WT)及びM113F α溶血素の突然変異体(αHL−M113F−D8)(Gu,L.Q.et al.,2001.Jounal of General Physiology 118,481−493)を分離した。SDS−PAGEは電気泳動クリーニングの後にゲルから遊離SDSを除去した(さもないと脂質ニ分子層が不安定になる)。このステップは自然の洗剤を使わない状況下でゲルを操作する際には省略できる。電気泳動後、KClを含む適切なバッファでゲルを透析して電気記録に必要な電解質を導入する。透析後、ゲルを30分間DPhPC/C16脂質/油溶液中に浸し、その後、200nL液滴(直径約200μmのニ分子層を製造する)でスキャンした。挿入されたAg/AgCl電極を移動させることにより液滴をヒドロゲルの表面のあちこちに移動し、脂質ニ分子層の位置を倒立顕微鏡で視覚的に追跡した。
【0105】
液滴載置水和支持ニ分子層が、チャネルタンパク質を含むゲルの部位の上に位置した場合、チャネルの自然な挿入から発生するイオン流の階段状変化が検出できた。図2CはKcv、αHL−WT、αHLM113F−D8を含むゲルの各部位をスキャンしたときに獲得された電気トレースの典型例を示す。Kcvの挙動は、チャネルが一時的に開閉する際の電流の階段状のバーストによって特徴付けられる。(図2C上部)。αHL−WT孔は開いたままであり、その結果、挿入事象毎に電流は階段状に増加する(図2C中間)。
【0106】
2つのα溶血素の突然変異体を区別する能力を証明するために、αHLゲルをβ−シクロデキストリン(βCD)を含む液滴でスキャンした。β−シクロデキストリンは、αHLのβバレル内にとどまる非共有阻害薬として働き、電気記録中の電流の逆階段状変化として観察される(Gu,L.Q.et al.,1999.Nature 398,686−690;Gu,L.Q.&Bayley,H.2000.Biophysical Journal 79,1967−1975)。αHL−WTは、β−シクロデキストリンと強く結合せず(Gu,L.Q.et al.,1999.Nature 398,686−690;Gu,L.Q.&Bayley,H.2000.Biophysical Journal 79,1967−1975)、その一方、αHLM113F−D8突然変異体は、約10秒の電圧依存平均滞留時間でβ−シクロデキストリンと強く結合する(Gu,L.Q.et al.,2001.Journal of General Physilogy 118,481−493)。β−シクロデキストリンなしでは、2つのαHL変異体の電気特性は大体同一である。β−シクロデキストリンを使うと、αHL−M113F−D8チャネルは、伝導性の階段状増加に重なるβ−シクロデキストリン結合事象により、容易に区別可能である(図2C下部)。
【0107】
ゲルスキャニングの間、タンパク質は拡散するようには見えず、挿入事象のみが、ゲル中の集中的なバンド周囲の非常に局所的な部位で観察されることがわかった。このことは、図2Dに定量的に示されており、直径約200μmの脂質ニ分子層の液滴を使用した、野生型αHLバンド全体にわたる線形スキャンでのタンパク質挿入速度を示している。
【0108】
SDS−PAGEまで拡張されたゲルスキャニング実験により細胞抽出物が精製された。図3は、漏出性発現を通してαHL−WT(レーン1)及びαHL−M113F−D8(レーン2)を製造するために変容した大腸菌からの粗抽出物を含むSDS−PAGEゲル(図3A)をスキャンした結果を示す。先の図2のゲルの例と同様に、これらのタンパク質は、続くクマシー染色により示されるように期待された部位のゲルから電気的に特徴付けられる(図3B)。チャネル挿入速度は、大腸菌における発現から製造されたタンパク質の濃度がかなり高かったのを反映して、インビトロ(in vitro)転写/翻訳ゲルから観察されたものより速かった。驚いたことに、αHLチャネルに加えて、数多くの他のチャネルたんぱく質を、再びゲルの特定領域に局所化された顕著に異なる挙動(例えば図3B下部)と共に検出した。チャネルは通常3の倍数を挿入し、大体の電圧依存ゲーティング挙動を示す。
【0109】
ゲルスキャニング中に脂質/油溶液に延長して浸しても、ゲルマトリクスからのタンパク質の多大な喪失が引き起こされないことがわかった。同様に、透析ステップの間に電解質バッファに延長して浸しても、ゲル中のタンパク質を著しく枯渇させない。この結果、個々のゲルは、多くの、少なくとも6つの連続したゲルスキャニング実験において再利用でき、ゲルバッファの状態を必要に応じて変化させることができる。さらに、スキャニング手続きは、その後のゲルの染色または撮像、またはさらなる分析のためにゲルから特定なタンパク質を回復する能力に影響しない。
液滴載置水和支持ニ分子層の検体検出
ゲルスキャニング実験を本質的に逆にして、水和支持ニ分子層上の液滴中のタンパク質チャネルをヒドロゲル中の異なる検体をスキャンするための分子センサとして使用することができる。
【0110】
2%ポリアクリルアミドゲルを、約10mm離れた2つの部位(図4A)で約10μMのγ−シクロデキストリン(γCD)及びヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン(hβCD)のタンパク質をブロットした溶液から吸収によりドープした。DPhPCC16溶液中に30分浸した後、ゲルを、αHL−WTを含む200nLの液滴を含む2つのシクロデキストリン部位間でスキャンした。実験条件下で、αHL−WTに結合するγCDは68%の電流ブロックを生じ、αHL−WTに結合するhβCDは95%の電流ブロックを生じる。これらの異なる結合振幅によりαHL−WTと両方の検体とは確実に識別可能になる(図4B)。
【0111】
本実験では、液滴は、スキャンの間ずっと脂質ニ分子層中にαHL−WTを保持し、表面から脂質ニ分子層を除去せずにヒドロゲルのいたるところで翻訳された。脂質ニ分子層の位置を倒立顕微鏡上にその位置を撮像することにより記録し、シクロデキストリン結合事象を電気的に観察した。事象の合計を脂質ニ分子層におけるαHL−WTチャネルの数で割ることにより、シクロデキストリン結合頻度を決定した。図4Cは、2つのシクロデキストリン検体の拡散制限局所結合を示し、2つの部位間のスキャンにおいてγCD及びhβCD結合頻度をプロットしている。
ピペットを使用したニ分子層製造
図5を参照すると、ヒドロゲル11は、基質13上に重ねられて水和支持体を形成し、水和支持体を脂質/油溶液7に浸すことで、脂質単分子層をヒドロゲルの上面上に形成する。水滴9は、ピペットチップ3を脂質/油溶液7に浸している間にピペットチップ3からある程度放出される。脂質単分子層は、水滴の表面上に形成される。水滴の大きさは、ピペットに圧力が加えられたときにどのくらい量の水溶液がピペットチップから押し出されるかによって制御される。水滴とヒドロゲルとの間の接触領域の大きさは、形成されたニ分子層の長さを決定する。接触領域は、水滴の大きさと、ピペットチップのヒドロゲルに対する近接度とを制御することにより制御可能である。
【0112】
水滴9は、ヒドロゲル11と接触して脂質ニ分子層1を形成する。ヒドロゲル11と接触する第2電極(図示せず)と併せて水滴9と接触する第1電極5を使用して脂質ニ分子層1全体の電気活動を測定する。電極はAg/AgClである。
【0113】
ピペットをx/y平面で移動することにより、ヒドロゲルの表面全体にわたってニ分子層を位置移動可能である。
図6は、倒立顕微鏡を使用して、水滴と支持体とが接触した際に、水滴809と透明な水和支持体(図示せず)との間に脂質ニ分子層801が形成されるのを視覚化したものである。
スキャニング‘ピペット’における液滴
図7は、移動可能なスキャニングピペットチップに載せられた水和支持体上に液滴載置水和支持ニ分子層を形成できることを示している。より具体的には、水和支持体111がピペットチップ103の開口部に固定され、ピペットチップは脂質/油溶液107で満たされている。水滴109は脂質/油溶液に浸されて水和支持体111と接触して脂質ニ分子層101を形成する。ピペットチップ103を水性システム113に浸すことにより、脂質ニ分子層101を使って水性システム113をスキャンまたは精査することができる。脂質ニ分子層101全体にわたる電気活動を測定するために一組の電極105が設けられている。一方の電極105は水滴109と接触しており、他方の電極105は水性システム113に接触している。
【0114】
水和支持体が多孔性である限り、ニ分子層は孔を通過できる水性システム中の分子を感知可能である。支持体の孔の大きさを制御することで、どんな物質が実際に二分子層に到達するかフィルタにかけることができる。
ニ分子層の製造のための代替装置
図13Aは本発明のニ分子層を製造するための代替携帯装置を示す。装置801はPMMAから作られており、第1スクリュー811と、第2スクリュー812と、チャンバ816と、孔820とを備える。
【0115】
使用の際、チャンバ816は油で満たされ、液滴またはアガロースボール822が第2スクリュー812の端部上に設置される。第1スクリュー811を調整することでチャンバ816中の油の容積を調整することができる。第2スクリュー812を調整することで液滴またはアガロースボール822の高さを調整することができる。
【0116】
ニ分子層830を形成するために、油が入り、水滴またはアガロースボール822を含んだ装置801を溶液825中に設置する。溶液は水であってもよい。その後、第1スクリューを上昇させてチャンバ816内の容積を増加させてチャンバ内へ溶液825を引き込む。溶液825が水滴またはアガロースボール822に接触すると、ニ分子層830が自然に形成される。第2スクリュー812の高さを調整することにより、ニ分子層830の大きさを調整できる。第2スクリュー812を電極に接続し、溶液825中に別の電極を設置することにより、ニ分子層830への電気的アクセスが可能である。さらに、装置801を溶液825から除去すると、装置は十分な溶液825を保持してニ分子層830を維持する。このことは、ニ分子層をある溶液から取り除いて別の溶液に戻すことを可能にしている。
【0117】
図13Bは図13Aの装置を使用して形成されたニ分子層830を示す。ニ分子層830の縁829がはっきり確認できる。
ニ分子層の配列を製造する装置
図14Aは、ニ分子層の配列を製造するために利用可能な装置を示す。装置は、基部842と蓋841とを備える。基部840は、低チャネルにおいてアガロースで満たされ、その後、脂質/油溶液で満たされて平衡化するまで放置され、その結果、単分子層をアガロース基質上に形成する。蓋841は、バルク水溶液に浸され、蓋を作るために使用されたプラスチックとの親水性相互作用を通じて、小さな水滴が蓋上に残る。その後、平衡化するまでの間、水滴が油中に留まるように蓋を基部内に降下し、その後さらに降下して水滴を下部のアガロースと接触させる。これにより、水滴がアガロースに接触する場所で自然にニ分子層が形成される。蓋を通して各水滴に接続された電極を使用することによって、またアガロース中の共通の電極を使って、配列中の各ニ分子層は電気測定のために個別にアクセス可能である。図14Bからわかるように、装置の性質により、個々のニ分子層844を顕微鏡で下から撮像できる。図14Bでは、アガロース壁845、プラスチック支持体846、浮遊する水滴847も見ることができる。
水相の環流が可能な装置
図15Aは、本発明の液滴載置水和支持ニ分子層を製造するための基本装置を、いかにして油相の容積を制御(この場合は、調整スクリューを使用する)して、装置に引き込まれるバルク液体相を操作するように拡張することができるかを示している。
【0118】
本実施例では、PMMA装置870が、ガラス873上に載置された下部のアガロース層872に取り付けられている。内部空洞875、チャネル、またはチャネルのネットワークは、脂質/油溶液で満たされている。油で満たされた内部空洞875は、一方で周囲に開き、もう一方で油の容積を制御するための機構、この場合はスクリューに接続している。スクリューが回転または逆回転すると、油が空洞に押し込まれるまたは空洞から引き出される。容積を調整する手段はスクリューである必要はなく、油の容積を制御するあらゆる手段に拡張できる。例えば、標本に押し込まれたピンまたは針のような固体であってもよく、例えばステッピングモータまたは注射器ドライバにより作動されることができる。あるいは、空洞中の容積を、上流の注射器により、またはマイクロ流体ポンプにより制御してもよい。あるいは、空洞そのもの、または空洞の一部が、圧縮されたときに油の容積を調整する変形可能な材料からできている、または膜部を備えていてもよい。油が空洞875に引き込まれると、バルク水またはバルク水容積878(装置の外側に追加されたもの)もまた空洞に引き込まれる。水/水容積が下部のアガロースに接触すると、ニ分子層が自然に形成される。
【0119】
バルク水または水容積878中の電極879、及びアガロース中の別の電極872を使って、ニ分子層は、電気測定のためにアクセス可能である。図15Bは、ニ分子層に挿入されているα溶血素(上部)、及び結合シクロデキストリンの例を示す図15Aの装置を使用して生成された電気トレースを示す。
【0120】
顕微鏡を使用してニ分子層を撮像することもできる。ニ分子層880及びニ分子層縁部882を示す図15Cを参照されたい。
装置中のバルク水容積は図16に示すように微小流体チャネル885であってもよい。
【0121】
本実施例の装置は、図15A及び16に示すように、バルク水容積が外部環境に対して開かれている点で有利であり、これは、閉じられた水滴システムにおいては難しい、システムに要素を追加しやすいことを意味すると共に、水容積の中身を十分に交換及び変化させるために容積を環流することができることを意味する。
ニ分子層領域についての制御及び静電容量測定
本願の主題である液滴載置水和支持ニ分子層は非常に大きくて、1cmより大きくてもよく、または非常に小さくて、1ミクロンより小さくてもよい。水和支持体に対する水滴の高さを調節することにより、ニ分子層の領域を非常に迅速に調整することができる。図8に示すように、水滴109の中心を水和支持体111に向かってまたは水和支持体111から遠ざかるように移動させることによって、脂質ニ分子層201の大きさ/領域215、315、415を増加したりまたは減少したりすることができる。本例では、水滴中の電極205を水和支持体111に向かってまたは水和支持体111から遠ざかるように移動させることにより、水滴を移動する。
【0122】
ニ分子層全体の静電容量を監視することにより、ニ分子層の領域を監視できる。本発明の方法によって形成されたニ分子層は、静電容量に対する領域へのニ分子層の線形応答を示す。この関係は、ニ分子層が再形成されたかどうか及びニ分子層がどの領域変更を経たかに関わらない。
大きなニ分子層の製造
本願に記載したような装置、及び本発明の方法を使用することによって、1mm、1cmまたはそれ以上の大きなニ分子層を形成できる。例えば、本願に記載の油撤収技術を使用することにより、バルク水は、装置の空洞の中のますます下のチャンネルへに引き入れられ、大きなニ分子層を製造できる。
【0123】
図17は、10xの対物レンズを使用した顕微鏡上で撮られた画像の合成画像(ニ分子層は大きすぎてその全体を観察することができない)を示す。この場合、ニ分子層900は、ほぼ横1mm、縦2mmである。ニ分子層縁部902は、小さな油内包物903及びバルク水入口905として見えている。
【0124】
図18は、図17のニ分子層がさらにチャネルに引き込まれたときの、わずかに大きなニ分子層を示す。このニ分子層は、大体横1mm、縦5mmの大きさである。横1mm、縦1cmの大きさのニ分子層もまた製造され、大きさが数十cmのもっと大きなニ分子層も製造された。これらのより大きなニ分子層は、DiPhytanoylPCニ分子層のための〜100,000pFarad以上の静電容量を有していてもよい。これは、直径数百マイクロメートルで、DiphytanoylPCニ分子層のための数百pFaradの静電容量を有する、既知の方法を使用して製造された人工二分子層との比較である。
液滴載置水和支持ニ分子層の破裂、注入、環流
液滴載置水和支持ニ分子層の水滴部分は、ニ分子層を破くことなく破裂可能である。このことは図9に示されており、カーゴ輸送水滴の既存の水滴中での破裂は、ニ分子層を破裂させない。より具体的には、試薬のカーゴを輸送する第2の水滴517が、ニ分子層501を破ることなく既存の水滴509と共に破裂/溶融するのが示されている。
【0125】
図10は、マイクロピペット619または多孔毛細血管621を備えたマイクロピペットからの注入によって、試薬を水滴609に導入できることを示している。これにより、既存の水滴中に化合物を導入する簡単な方法が提供される。
大きな接続または非接続ネットワークにおける液滴載置水和支持ニ分子層
多数の液滴載置水和支持ニ分子層が、水和支持体上の個々の非結合の水滴間または水和支持体上の多結合の水滴間に形成されてもよい。
【0126】
図11を参照すると、多数の液滴載置水和支持ニ分子層709が単一の水和支持体111上に分散されている。図11Aは、水和支持体111上の複数の独立した/別個の水滴709を示しており、その全てが支持体と共にニ分子層を形成している。図11Bは、水和支持体111上の配列に結合された複数の水滴709を示しており、水滴709間及び水和支持体111と共に多数のニ分子層を形成している。
【0127】
このような大きな配列は、蛍光試験に適している。これらの配列は、より大きな統計的研究に利用することもできる。例えば、約10sナノリットルから10sピコリットルのとても小さい水滴の配列を、それぞれが所定のタンパク質/試薬の分子をたった1つ含むように確率を調整して製造することができる。その結果、例えば単分子レベルでの酵素の代謝回転を観察する実験を行うことができる。
【0128】
単離されたタンパク質バンドを含むヒドロゲルを蛍光スキャンするのに、大きな配列を使用してもよい。例えばポリマーを含むCaに敏感な蛍光色素分子を含む水滴の配列が、電気泳動的に焦点を合わせたバンドにおいて、カルシウム及び単離されたアルファ溶血素チャネルを含むゲルの上方に配置される場合、タンパク質バンドの上方に位置する水滴は、カルシウムが水滴に入るにつれてαHLを挿入して蛍光を発する。
蛍光発光のための液滴載置水和支持ニ分子層
薄い水和支持体上に置かれた液滴載置水和支持ニ分子層は、全内部反射蛍光(TIRF)顕微鏡を使用して蛍光的に考察することができる。
【0129】
液滴載置水和支持ニ分子層上の全内部反射蛍光顕微鏡を示す図12では、アガロースの薄膜からなる支持基板は、ガラスのカバースリップ上に形成されている。この薄い基板は、水性アガロースでポリメチルメタクリレート(PMMA)マイクロチャネル装置を満たすことによって再水和される。装置の穴は油中の脂質溶液で満たされている。水滴は、油の下のヒドロゲルの上部に置かれる。脂質ニ分子層は、2つの水相間のインターフェイスで形成される。エバネッセント場が、水滴中の脂質ニ分子層及び蛍光標識された生体分子を照らす液滴載置水和支持ニ分子層に伝播する。
【0130】
TIRF技術は、他の分析技術との組み合わせで、例えば電気データの獲得と組み合わせて、使用されてもよい。データの組み合わせにより、タンパク質機能についての改良された情報が提供される可能性がある。
二分子層形成の効率性
親水体が水滴で、超純水で作られた平面1%アガロースゲルが水和支持体であった実験は、20の水滴全てが、水滴とアガロースゲルとの間の接触1分以内で、ニ分子層を形成したことを示した。ニ分子層は、2週間経っても完全な状態であることが観察された。
膜タンパク質の凝縮及び結晶化
図19は、本発明のニ分子層をどのように使用したら膜タンパク質を凝縮させることができるかを示す。これは、さらなる研究のための膜タンパク質の2次元結晶または半順序格子を製造する手段となりうる。膜タンパク質を液滴載置水和支持ニ分子層に挿入し、表面から水平に水滴を引っ張ることによってニ分子層の大きさを小さくすることにより、膜タンパク質を、ニ分子層から除去することなく、ニ分子層の縁に沿って内側に向かって引き入れることが可能である。この結果、ニ分子層の中心に向かって挿入された膜タンパク質の凝縮が起きる。
【0131】
図19は水滴載置ヒドロゲルニ分子層に埋め込まれたα溶血素孔の凝縮を示す。1%(w:v)の薄いアガロースゲルを、カバースリップ上に配置して脱水し、その後、緩衝剤及び750mMのCaCl2を含む1.5%(w:v)アガロースを用いて再水和した。カルシウム指示染料Fluo−4(25μM)、α溶血素7量体、1.5MのKCl、緩衝剤を含む水滴を使用して、この薄いアガロースゲル上に水滴載置ヒドロゲルニ分子層を生成した。
【0132】
ニ分子層の蛍光性(非キレートFluo−4により提供されたもの)を、TIRF照明を通して円盤として撮像した。α溶血素孔をニ分子層に挿入する際に、水滴中へのカルシウム流出が起こりうる。この例では、ゲル(下地)及び水滴に挿入された電極からの外部付与負電位の付与により流出が増進された。この結果、孔(斑点として撮像されている)の周辺から発せられる蛍光発光が強くなった。これは、水滴に入る際のカルシウムの即時のキレート化に際し、孔の近くのFluo−4の蛍光発光の強度が大いに増加したことによるものである。
【0133】
図19は、上述した方法を用いてニ分子層に拡散する拡散α溶血素孔(蛍光斑点としてのもの)940を示す。ニ分子層はその後、徐々に小さくなり(941)、その結果、侵入してくるニ分子層の縁によって内側へと引き入れられるにつれ、孔が凝縮される(942)。ニ分子層領域が再び拡大されると(943)、ニ分子層の縁が小さくなったところに孔が凝縮されているのがわかった。このプロセスを繰り返すことにより、孔の凝縮はさらに続き(944)、ニ分子層領域の中心に向かって孔はさらに凝縮されていく(945)。
考察
液滴載置水和支持ニ分子層は、従来の平面脂質ニ分子層とは大きく異なるものの、作製するのもそれを用いて作業するのもよりたやすく、主要な分類の膜タンパク質両方の単一チャネル記録試験に同様にも適している。液滴載置水和支持ニ分子層は、平面ニ分子層よりも安定しており、典型的な平面ニ分子層の寿命が数時間である(Miller,C.1986.Plenum Press:New York)のに対し、液滴載置水和支持ニ分子層は、多くの場合、形成後数週間たっても機能する。このことは、以前は可能でなかった長期にわたる試験のための道を開くものである。
【0134】
液滴載置水和支持ニ分子層はまた、その他の数多くの優れた性質を持つ:(i)脂質ニ分子層が水和支持体の表面全体にわたって移動できる。このことは、ヒドロゲルスキャニング試験において利用されている;(ii)液滴載置水和支持ニ分子層は、代替技術を用いて可能なものよりはるかに大きな大きさ範囲(<1μm〜>1mm)に渡って安定したニ分子層への確実なアクセスを提供する;(iii)脂質ニ分子層の領域は、実験中に調整可能である。例えば、このことを利用して、単一チャネル記録試験において挿入されたタンパク質の数を制御してもよい。脂質ニ分子層は、最初に拡大されてタンパク質挿入の確率を増やすと、その後、単一タンパク質が挿入されてさらなる挿入の機会を最小限にするやいなや急速に縮小される。脂質ニ分子層の領域を縮小することを利用して、脂質ニ分子層に挿入される膜貫通タンパク質を凝縮してもよい。これにより、膜タンパク質を結晶化し、タンパク質間の相互反応を観察する確率を改善するための代替手段が提供されてもよい。(iv)脂質ニ分子層は、水滴とヒドロゲル溶液とを混合することなく何度も除去及び再生されることができる。このことを利用して、単一チャネル記録試験をリセットしてもよい。なぜなら、脂質ニ分子層の除去により、挿入された膜貫通タンパク質が除去されるように見えるためである。内容物の混合が起きないという事実も、二次汚染が問題となる実験にとって重要である。
【0135】
液滴載置水和支持ニ分子層ゲルスキャニングの感受性により、過剰発現の必要なく細胞抽出物からの低レベルの内因性タンパク質の直接研究が可能である。それに対し、伝統的なパッチクランプ法または平面脂質ニ分子層を用いた過剰発現を伴わずにタンパク質を検査することは難しい。細胞全体のパッチクランプにより低レベルの内因性タンパク質を検査することはできるが、細胞膜の異種の性質により、システムの他の成分を相殺する必要がしばしばある(Hamill,O.P.et al.,1981.Pflugers Archiv−European Jounal of Physiology 391,85−100;Ashley,R.H.1995.IRL)。人工脂質ニ分子層を用いてこの問題を回避することができるが、これらのニ分子層を成功裡に再構成するための十分な量のタンパク質を抽出及び凝縮することは難しい(Miller,C.1986.Plenum Press;New York;Ashley,R.H.1995.IRL)。
【0136】
新しいタンパク質の発見及び特性評価のために、液滴載置水和支持ニ分子層ゲルスキャニングを、複雑な混合の細胞成分を分離するための2Dゲル電気泳動に頼る既存のプロテオミクス法に組み込んでもよい(Palzkill,T.2002 Protenomics, Kluwer Academic Publishers, Boston,London;Simpson,R.J.2003.Proteins and proteomics:a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor, NY)。液滴載置水和支持ニ分子層ゲルスキャニングは、2Dゲル中のチャネルタンパク質を識別するための手段を提供する。液滴載置水和支持ニ分子層ゲルスキャニングがゲルマトリクス内のタンパク質に影響を与えるようにみえないという所見は、様々な条件下で個々のゲルの液滴載置水和支持ニ分子層スキャニングを繰り返し行い、その後、従来のプロテオミクス法(例えば、質量分析法)を用いた分析を行うことが可能であることを意味する。
【0137】
本発明は、イオンチャネルのハイスループット研究のための新しいプラットホームを提供する。具体的には、ナノリットル量しか必要としないことにより、液滴載置水和支持ニ分子層を拡大するとともに自動化するための、多くの確立した乳液ベースの技術の適用を可能にする(Joanicot,M.& Ajdari,A.2005.Science 309,887−888;Ashn.K.et al.,2006.Applied Physics Letters 88;Link,D.R.et al.,2006.Angewandte Chemie−International Edition 45,2556−2560;Hung.L.H.et al.,2006.Lab on a Chip 6,174−178)。例えば、脂質/油及び水の流れを組み合わせることにより(Thorsen,T.et al.,2001.Physical Review Letters 86,4163−4166)、制御された大きさの何千もの水滴を作ることができる。多くの液滴載置水和支持ニ分子層は、油中にナノリットル水滴を作って分類することが可能な既存のマイクロ流体技術を用いて自動で操作されてもよい(Ahn,K.et al.,2006.Applied Physics Letters 88;Link,D.R.et al.,2006.Angewandte Chemie−International Edition 45,2556−2560)。
【0138】
液滴載置水和支持ニ分子層を撮像する能力はまた、蛍光技術の組み込みを可能にする。単一チャネル記録試験は、多くのイオンチャネルに豊富な機能詳細を提供したが、タンパク質構造中でこのことを動的変化にリンクすることは難しい。標識タンパク質の単分子蛍光発光は、付加的な構造的及び動的情報を提供する可能な方法の1つである。さらに、液滴載置水和支持ニ分子層は、光学的及び電気的測定を同時に行うことを可能にし、個々の技術、例えば、イオンチャネルの折りたたみ及び挿入の力学、だけでは解明されることができなかったチャネル機能の新しい局面を明らかにする可能性がある(Borisenko,V.et al.,2003.Biophysical Journal 84,612−622;Ide,T.&Yanagida,T.1999.Biochemical and Biophysical Research Communications 265,595−599;Ide,T.et al.,2002.Single Molecules 3,33−42;Macdonald,A.G.&Wraight,P.C.1995.Progress in Biophysics & Molecular Biology 63,1−29;Suzuki,H.et al.,2007.Biosensors & Bioelectronics 22,1111−1115;Suzuki,H.et al.,2006.Langmuir 22,1937−1942)。
【0139】
総合的にいえば、強化された安定性、脂質ニ分子層を操作する能力、電気的アクセス、撮像の組み合わせは、本発明の液滴載置水和支持ニ分子層が膜タンパク質機能の多くの局面を調べるための多目的プラットホームを提供することを証明している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性分子のニ分子層を製造する方法であって、
(i)疎水性媒体において水和支持体を供給するステップであって、前記疎水性媒体が両親媒性分子を含むと共に、両親媒性分子の第1単分子層が前記水和支持体の表面上に存在するステップと、
(ii)疎水性媒体において親水体を供給するステップであって、前記疎水性媒体が両親媒性分子を含むと共に、両親媒性分子の第2単分子層が前記親水体の表面上に存在するステップと、
(iii)第1単分子層と第2単分子層とを接触させて両親媒性分子のニ分子層を形成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
両親媒性分子のニ分子層を製造する方法であって、
(i)両親媒性分子を含む疎水性媒体において水和支持体を供給するステップであって、両親媒性分子の第1単分子層が前記水和支持体の表面上に存在するステップと、
(ii)両親媒性分子を含む疎水性媒体において親水体を供給するステップであって、両親媒性分子の第2単分子層が前記親水体の表面上に存在するステップと、
(iii)第1単分子層と第2単分子層とを接触させて両親媒性分子のニ分子層を形成するステップと、
を含む方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の方法により製造された両親媒性分子のニ分子層。
【請求項4】
親水体及び水和支持体間の両親媒性分子のニ分子層。
【請求項5】
前記親水体の表面上の両親媒性分子の単分子層と前記水和支持体の表面上の両親媒性分子の単分子層との間に形成された請求項4に記載のニ分子層。
【請求項6】
前記ニ分子層の寿命が1時間を越えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項7】
前記ニ分子層の寿命が1週間を越えることを特徴とする請求項6に記載の方法またはニ分子層。
【請求項8】
前記両親媒性分子が脂質分子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項9】
前記脂質分子が、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質、ポリケチド、リン脂質、糖脂質、コレステロールを含むグループから選択されることを特徴とする請求項8に記載の方法またはニ分子層。
【請求項10】
前記脂質分子が、モノオレイン;1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC);1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DPhPC);パルミトイル−オレオイル−ホスファチジルコリン(POPC);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(POPE);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン;1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPE/POPG)混合物;またはそれらの混合物を含むグループから選択されることを特徴とする請求項8に記載の方法またはニ分子層。
【請求項11】
1つ以上の単分子層及び/またはニ分子層における両親媒性分子が、同じタイプまたは異なるタイプであることを特徴とする請求項1〜3及び5〜10のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項12】
前記水和支持体が、固体または半固体の基質を備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項13】
前記水和支持体が親水性であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項14】
前記水和支持体が多孔性または非多孔性であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項15】
前記水和支持体が、ヒドロゲル、アガロース、ポリアクリルアミド、[架橋結合された]ポリエチレングリコール、ニトロセルロース、ポリカーボネート、アノディスク材料、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ナイロン、ナフィオン(Naphion)材料、メソ多孔質シリカ、水、ガラスを含むグループから選択されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項16】
前記水和支持体がタンパク質または検体分離ゲルであることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項17】
前記親水体が、液体、固体、または半固体あるいはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項18】
前記親水体が、水溶液の液滴を含むことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項19】
前記液滴の直径が約5nmから10cmであることを特徴とする請求項18に記載の方法またはニ分子層。
【請求項20】
前記親水体が、水和固体または半固体支持体/基質を含むことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項21】
前記疎水性媒体が油であることを特徴とする請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項22】
前記油が炭化水素であることを特徴とする請求項21に記載の方法またはニ分子層。
【請求項23】
前記油が、アルカン、アルケン、フッ素化油、シリコーンベースの油、四塩化炭素を含むグループから選択されることを特徴とする請求項21に記載の方法またはニ分子層。
【請求項24】
前記ニ分子層の直径が、約1μmから約1cmより大きいことを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項25】
前記両親媒性分子のニ分子層の領域が、形成された後に調整可能であることを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項26】
前記水和支持体、親水体、疎水性媒体のうちの少なくとも1つが、前記ニ分子層に挿入可能な膜結合タンパク質を含むことを特徴とする請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項27】
前記ニ分子層に1つ以上の膜結合タンパク質を含む請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項28】
前記膜結合タンパク質の1つ以上が、選択的または非選択的な膜内輸送タンパク質、イオンチャネル、孔形成タンパク質、膜常駐受容体を含むグループから選択されることを特徴とする請求項26または27に記載の方法またはニ分子層。
【請求項29】
前記1つ以上のタンパク質が、前記ニ分子層が形成された後に前記ニ分子層に挿入されることを特徴とする請求項26〜28のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項30】
前記ニ分子層の領域が、前記親水体及び前記水和支持体の相対位置を変化させることにより変化させることが可能なことを特徴とする請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項31】
前記ニ分子層が、前記水和支持体と前記親水体との間の接触を除去することにより分解可能であることを特徴とする請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法またはニ分子層。
【請求項32】
前記ニ分子層が、前記水和支持体上の脂質単分子層と親水体上の脂質単分子層との間の接触を回復することにより再形成可能であることを特徴とする請求項31に記載の方法またはニ分子層。
【請求項33】
前記ニ分子層中の両親媒性分子とのまたは前記ニ分子層中の膜結合タンパク質との相互作用可能な1つ以上の化合物/検体を検出するための、請求項3〜32のいずれか1項に記載のニ分子層の使用法。
【請求項34】
1つ以上の膜結合タンパク質を検出するための、請求項3〜32のいずれか1項に記載のニ分子層の使用法。
【請求項35】
前記膜結合タンパク質が、イオンチャネルタンパク質及び/または孔形成タンパク質であることを特徴とする請求項33または34に記載の使用法。
【請求項36】
前記化合物/検体及び/または膜結合タンパク質が、前記分子層に拡散及び/または結合されて前記ニ分子層での検出可能な特性変化を引き起こすことを特徴とする請求項33または34または35に記載の使用法。
【請求項37】
検出可能な変化が、化学、生化学、電気、光学、物理及び/または環境特性変化を含むグループから選択される変化であることを特徴とする請求項36に記載の使用法。
【請求項38】
前記変化が、1つ以上の以下の手段:電圧依存性を調査するための電極;免疫測定;酵素測定;蛍光または放射能標識;外見上の明らかな変化;分光分析、により検出されることを特徴とする請求項37に記載の使用法。
【請求項39】
前記化合物/検体及び/または膜結合タンパク質が、前記親水体及び/または前記水和支持体及び/または前記疎水性媒体中に配置されることにより、前記ニ分子層に導入されることを特徴とする請求項33〜38のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項40】
前記水和支持体が多孔性であって、前記化合物/検体及び/または膜結合タンパク質が、前記化合物/検体及び/または膜結合タンパク質が前記ニ分子層にアクセスするために多孔支持体を通過できるように、前記ニ分子層を前記化合物/検体及び/または膜結合タンパク質を含む試料にさらすことにより、前記ニ分子層に導入されることを特徴とする請求項33〜38のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項41】
前記化合物/検体及び/または膜結合タンパク質が、環境試料または生物試料から獲得される、または環境試料または生物試料に含まれることを特徴とする請求項36〜40のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項42】
請求項3〜32のいずれか1項に記載のニ分子層中の膜結合タンパク質の濃度を増加させる方法であって、
(i)水和支持体と親水体との間にニ分子層を供給するステップと、
(ii)前記ニ分子層中に膜結合タンパク質を導入するステップと、
(iii)前記ニ分子層の領域を縮小して、前記ニ分子層中のタンパク質を凝縮させるステップと、
を含む方法。
【請求項43】
ニ分子層を維持しながら前記ニ分子層を第1の位置から第2の位置に移動させる方法であって、請求項1〜32のいずれか1項に記載のニ分子層を提供するステップと、その後で前記ニ分子層を維持しながら前記ニ分子層を第1の位置から第2の位置に移動させるステップとを含む方法。
【請求項44】
前記ニ分子層を移動させる際、前記親水体及び前記水和支持体の間の接触を維持することにより前記ニ分子層を維持することを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記ニ分子層が、水和支持体について親水体を移動させることにより、または親水体について水和支持体を移動させることにより、またはその組み合わせにより、前記二分子層が移動されることを特徴とする請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記ニ分子層中の1つ以上の膜結合タンパク質が、位置移動されたときに前記ニ分子層中に留まることを特徴とする請求項43〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記第1の位置で前記ニ分子層が第1の試験試料に接触し、前記第2の位置で前記ニ分子層が第2の試験試料に接触することを特徴とする請求項43〜46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記ニ分子層が、前記親水体を水和支持体全体にわたって移動させることにより前記二分子層が移動され、前記水和支持体が、2つ以上の試験される検体/化合物を備えることを特徴とする請求項43〜47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記水和支持体が、タンパク質またはDNA分離ゲルであることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
請求項3〜32のいずれか1項に記載の2つ以上のニ分子層の配列であって、前記2つ以上のニ分子層が、2つ以上の親水体と1つ以上の水和支持体との間で、または1つ以上の親水体と2つ以上の水和支持体との間で形成されることを特徴とする配列。
【請求項51】
蛍光顕微鏡検査法と併用される請求項3及び32のいずれか1項に記載のニ分子層の使用法。
【請求項52】
両親媒性分子のニ分子層とライブラリ中の1つ以上の化合物との間の相互作用のためのスクリーニング方法であって、
i)請求項3〜32のいずれか1項に記載のニ分子層を供給するステップであって、前記水和支持体が試験される化合物のライブラリを備えたステップと、
ii)前記親水体、その結果前記ニ分子層を前記水和支持体の表面全体にわたって位置変化させるステップと、
iii)前記ニ分子層と前記水和支持体中の化合物との相互作用を検出するステップと、
を含む方法。
【請求項53】
水溶液中に存在する1つ以上の検体を検出する方法であって、
(i)油溶液中の脂質を壁付き容器に供給するステップであって、前記容器の壁の少なくとも一部が多孔水和支持体を備えたステップと、
(ii)親水体を前記油溶液中の脂質に供給するステップと、
(iii)前記多孔水和支持体上に脂質分子の第1の単分子層を、及び前記親水体上に脂質分子の第2の単分子層を形成するステップと、
(iv)前記親水体の脂質単分子層と前記多孔水和支持体上の脂質単分子層との間で脂質ニ分子層が形成されるように、前記多孔水和支持体を前記親水体に接触させるステップと、
(v)前記水溶液中に存在する検体を前記脂質ニ分子層が利用できるように、前記多孔水和支持体を前記水溶液に接触させるステップと、
(vi)検出手段を使用して、前記脂質ニ分子層への検体の挿入、及び/または前記脂質膜全体にわたる前記検体の位置移動、及び/または検体の前記ニ分子層との相互作用を検出するステップと、
を含む方法。
【請求項54】
請求項53に記載の方法で使用される装置であって、脂質/油溶液を保持するための壁付き容器を備え、前記容器の少なくとも一部が、使用時に水和されるように配置された多孔支持体を備えることを特徴とする装置。
【請求項55】
前記壁付き容器が、ピペットチップであることを特徴とする請求項54に記載の方法で使用される装置。
【請求項56】
本願において貼付の図面を参照することにより大体において説明される、ニ分子層を製造する方法またはニ分子層またはニ分子層の使用法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2010−536551(P2010−536551A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521469(P2010−521469)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002805
【国際公開番号】WO2009/024775
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(507316457)アイシス イノベーション リミテッド (4)
【Fターム(参考)】