説明

ノルボルネン系重合体、フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】 レターデーションが逆波長分散特性を有するノルボルネン系重合体フィルムを提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)で表される繰り返し単位を含むノルボルネン系重合体を含有するフィルムを用いる。
一般式(I)


(式中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有してもよいアリール基であり、LおよびL'は、それぞれ、二価の連結基または単結合であり、AおよびA'はそれぞれ、芳香族基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系重合体、これを用いたフィルム(特に位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルム等の各種機能フィルム、偏光板保護膜)、偏光板、液晶表示装置、ノルボルネン系重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン系化合物がビニル重合したノルボルネン系付加重合体(以下ノルボルネン系重合体とする)のフィルムは、厚み方向のレターデーション(Rth)が高いという特徴を有することから、ネガティブCプレートに適用可能である(特許文献1)。さらに、これを延伸加工することよって、ノルボルネン系重合体の主鎖が延伸方向に並び、レターデーション(Re)を発現し、ネガティブ2軸位相差板に適用ができる。すなわち、ノルボルネン系重合体のフィルムは、高いRe、Rthを有する位相差フィルムとして有望である。特に、VA方式(ヴァーティカルアラインメント)の液晶表示装置の位相差フィルムとして好ましい値をとりうる。
【0003】
一方、近年の液晶表示装置の位相差フィルムは、ある波長における特定のRe、Rthの値のみならず、可視光領域(400nm〜700nm)の波長においてRe、Rthの値が連続的に異なる特性(波長分散)が要求されている。例えばヴァーティカルアラインメント(VA)方式の液晶表示装置の位相差フィルムは、波長が長くなるほどReの値が大きくなる逆波長分散特性が求められている。例えば、波長450nm、590nm、630nmにおけるReをRe450、Re590、Re630、とすると、Re450<Re590<Re630であることが求められる。
【0004】
一般に、波長分散を変動させるには、吸収波長の長い成分を導入することが有効であるが、これまでのところ特許文献2に、フェニル基を導入した重合体が記載されているにすぎない。
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2004/049011号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2004/007587号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が行った検討では、前述のフェニル基を含有するノルボルネン系重合体フィルムの波長分散性に向上が見られるものの、その程度は小さく、液晶表示装置の色見を向上させるには不十分であることが判明した。したがって、波長分散の程度を大きくできるノルボルネン系重合体フィルムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、芳香族基を二つ有するノルボルネンユニットを含有するノルボルネン系重合体のフィルムのReの波長分散特性が逆分散でかつその程度が大きくなることを見出した。さらに、芳香族基が、極大吸収波長が270〜400nmを有し、該極大吸収波長のモル吸光係数が10〜100000[mol-1dm3cm-1]である芳香族化合物の1水素脱離体である場合、この分散特性が特に大きくなることを見出し、本発明に至った。本発明のノルボルネン系重合体フィルムを組み込むことで、品質の高い偏光板と液晶表示装置が得られることを見出した。
【0008】
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1)下記一般式(I)で表される繰り返し単位を少なくとも1種含むことを特徴するノルボルネン系重合体。
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有してもよいアリール基であり、LおよびL'は、それぞれ、二価の連結基または単結合であり、AおよびA'はそれぞれ、芳香族基である。)
(2)前記LおよびL'が、それぞれ、単結合、カルボニル基またはアセチレン基である(1)に記載のノルボルネン系重合体。
(3)前記Aおよび/またはA’が、270nm〜400nmに極大吸収波長を有し、該極大吸収波長のモル吸光係数が10〜100000[mol-1dm3cm-1]である芳香族化合物の1水素離脱体である(1)または(2)に記載のノルボルネン系重合体。
(4)前記芳香族化合物が、2〜4環式芳香族化合物である(3)に記載のノルボルネン系重合体。
(5)前記L-AおよびL'-A'が、いずれもエキソ連結である(1)〜(4)のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
(6)さらに下記一般式(II)で表される繰り返し単位を少なくとも1種含む(1)〜(5)のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
【化2】

(式中、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、または、−L’’−O−CO−R9(L’’は二価の連結基または単結合であり、R9はアルキル基である)であり、R5、R6、R7およびR8の少なくとも一つは−L’’−O−CO−R9である。)
(7)前記R5、R6、R7およびR8のうち3つがそれぞれ、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である(6)に記載のノルボルネン系重合体。
(8)前記L'' が単結合またはアルキレン基である(6)または(7)に記載のノルボルネン系重合体。
(9)前記R9が炭素数1〜5のアルキル基である(6)〜(8)のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
(10)一般式(I)で表される繰り返し単位および一般式(II)で表される繰り返し単位のみから形成された(6)〜(9)のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
(11)一般式(I)で表される繰り返し単位の重合組成比率が0%より多く80%未満である(1)〜(10)のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
(12)(1)〜(11)のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体を含む、フィルム。
(13)波長450nmにおける面内レターデーションRe450と波長630nmにおける面内レターデーションRe630の差ΔRe=Re630−Re450が、10nm≦ΔRe≦100nmを満足する(12)に記載のフィルム。
(14)波長590nmにおける面内レターデーションRe590が、30nm≦Re590≦200nmを満足する(12)または(13)に記載のフィルム。
(15)偏光膜と、(12)〜(14)のいずれか1項に記載のフィルムを有することを特徴とする偏光板。
(16)(15)に記載の偏光板を有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0010】
[ノルボルネン系重合体]
本発明のノルボルネン系重合体は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする。なお、本発明におけるノルボルネン系重合体とは、ノルボルネン系化合物が重合した単独重合体または共重合体である。下記一般式(I)で表される繰り返し単位は、1種または複数種でもよく、後述するように他の繰り返し単位を含んでもよい。
【0011】
【化3】

【0012】
一般式(I)中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有してもよいアリール基であり、該置換基は特に制限されるものでない。R1およびR2は、それぞれ、好ましくは、水素原子またはアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0013】
一般式(I)中、LおよびL'は、それぞれ、二価の連結基または単結合を表し、同一であっても異なってもよい。二価の連結基としては、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、特に好ましくは炭素数1〜3であり、例えばメチレン基(−CH2−)、エチレン基(−CH2CH2−)、トリメチレン基(−CH2CH2CH2−)、などが挙げられる。)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニレン基(−C64−)、ナフチレン基(−C106−)などが挙げられる。)、オキシアルキレン基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばオキシメチレン基(−OCH2−)、オキシエチレン基(−OCH2CH2−)、などが挙げられる。)、オキシアリーレン基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばオキシフェニレン基(−OC64−)、オキシナフチレン基(−OC106−)などが挙げられる。)、オキシカルボニル基(−OCO−)、イミノカルボニル基(−CONH−)、カルボニル基(−CO−)、アセチレン基(−CC−)、ウレイレン基(−NHCONH−)、硫黄原子や酸素原子などヘテロ原子、アミノ基(−NRa−:Raは置換基を表す)などが挙げられる。これらの連結基を二個以上組み合わせてもよい。さらに、これらの連結基は置換基で置換されてもよい。
LおよびL'は、側鎖はできるだけ短いほうが光弾性が小さくなり、フィルムにとって好ましいことから、単結合または原子数3以下の連結基が好ましく、単結合、カルボニル基、または、アセチレン基がより好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
なお、L−AおよびL'−A'は同じ立体構造であると芳香環どうしのスタッキング効果が高いことから、exo,exoまたはendo,endoであることが好ましく、exo,exoが好ましい。
【0014】
AおよびA'は、それぞれ、芳香族基を表し、例えば、芳香族化合物の1水素離脱体の形態があげられる。1水素離脱体としては、ベンゼン、ペンタレン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、ビフェニレン、インダセン、アセナフチレン、フェナンスレン、アントラセン、フルオラセン、アセフェナンスリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、プライアデン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェニレン、ヘキサフェン、ヘキサセン、ルビセン、コロネン、トリナフチレン、ヘプタフェン、ヘプタセン、ピラセン、オバレン等の単環式もしくは縮合炭化水素化合物;チオフェン、チアンスレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、クサンセン、フェノクサチイン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミヂン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノィン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、シノリン、プテリジン、カルバゾール、ベータカルボリン、フェナンチリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナンスロィン、フェナジン、フェナルサジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン等のヘテロ環化合物、およびこれらの置換基を有するものが挙げられる。
【0015】
さらに、AおよびA'は、好ましくは少なくとも一方が、より好ましくは両方が、270〜400nm極大吸収波長を有し、該極大吸収波長のモル吸光係数が10〜100000[mol-1dm3cm-1]である芳香族化合物の1水素離脱体が好ましい。より好ましくは、300〜400nmに極大吸収波長を有する芳香族化合物の1水素離脱体である。吸収波長が270nm以上の芳香族化合物の1水素離脱体を用いると波長分散特性の効果が高く、吸収波長を400nm以下とすると、フィルムが黄色味を帯びにくい傾向にあるため好ましい。
本明細書における、極大吸収波長とは、270nm〜400nmに極大吸収波長を有し、該極大吸収波長におけるモル吸光係数が10〜100,000[mol-1dm3cm-1]である芳香族化合物をメチレンクロライドで適当な濃度で溶解させ(不溶の場合はヘキサンやヘプタンなどで溶解させる)、その吸収波長を通常のUV測定器で25℃で測定したときの吸収ピークの極大点をいう。モル吸光係数の単位は、[mol-1dm3cm-1]であるが、以下断りがない限り、モル吸光係数の単位はこれに規定される。極大吸収波長は必ずしも最大吸収波長でない。極大点は複数存在することがある。
また、270nm〜400nmに極大吸収波長を有する芳香族化合物の該極大吸収波長におけるモル吸光係数は、好ましくは100〜100,000し、より好ましくは120〜100,000、さらに好ましくは、130〜100,000である。
また、AおよびA'は、芳香族基の中でも、2〜4環式芳香族化合物の1水素離脱体であることが好ましく、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレンの1水素離脱体であることがさらに好ましい。
【0016】
本願発明のノルボルネン系重合体は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の繰り返し単位を含んでいてもよい。他の繰り返し単位を含んでいる場合、一般式(I)で表される繰り返し単位の重合組成比率が0%より多く80%未満であることが好ましく、0%より多く60%未満であることがより好ましく、5%〜40%であることがさらに好ましい。
本発明のノルボルネン系重合体としては、特に、一般式(I)で表される繰り返し単位と、後述する一般式(II)で表される繰り返し単位のみからなることが好ましい。この場合の「のみ」とは、一般式(I)で表される繰り返し単位および一般式(II)で表される繰り返し単位以外の成分を全く含まない場合のほか、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、他の成分を含んでいてもよい。例えば、これらの繰り返し単位を構成するモノマーおよび重合に通常用いられる添加剤等の反応残存物が含まれていてもよい。
80%未満とすることにより、ノルボルネン系重合体の疎水性が高くなりすぎず、溶媒に対する溶解性が向上する傾向にあり、およびフィルムの透湿度が小さくなる傾向がある。一方、5%以上とすることにより、ノルボルネン系重合体が親水性となる傾向にあり、透湿度が高くなる傾向がある。このように一般式(I)で表される繰り返し単位の含量を調整することで、適当な溶解性と透湿度のフィルムを作製することができる。特に、上記範囲とすると、液晶表示装置用のフィルムとして、水溶性の偏光子を貼り付けるため、適度な透水性を有することができ好ましい。
【0017】
このような他の繰り返し単位としては、ノルボルネン系化合物由来の繰り返し単位が好ましく、下記一般式(II)で表される繰り返し単位がより好ましい。
【0018】
【化4】

(式中、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、または、−L’’−O−CO−R9(L’’は二価の連結基または単結合であり、R9はアルキル基である)であり、R5、R6、R7およびR8の少なくとも一つは−L’’−O−CO−R9である。)
【0019】
5、R6、R7およびR8のうち−L’’−O−CO−R9以外のものは、それぞれ、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、水素原子またはアルキル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。特に、R5、R6、R7およびR8のうち3つがそれぞれ、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基であることが好ましい。
5、R6、R7およびR8のうち−L’’−O−CO−R9の置換基数は好ましくは、1または2であり、より好ましくは1である。R9は、炭素数6以下のアルキル基であることが好ましい。R9に含まれる炭素数が少ないほど、フィルムの光弾性が小さくなる傾向があるので好ましい。よって、R9は、炭素数5以下のアルキル基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基がさらに好ましい。
【0020】
L''は、二価の連結基または単結合を表す。二価の連結基としては、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5、特に好ましくは炭素数1〜3であり、例えばメチレン基(−CH2−)、エチレン基(−CH2CH2−)、トリメチレン基(−CH2CH2CH2−)、などが挙げられる。)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニレン基(−C64−)、ナフチレン基(−C106−)などが挙げられる。)、オキシアルキレン基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばオキシメチレン基(−OCH2−)、オキシエチレン基(−OCH2CH2−)、などが挙げられる。)、オキシアリーレン基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばオキシフェニレン基(−OC64−)、オキシナフチレン基(−OC106−)などが挙げられる。)、オキシカルボニル基(−OCO−)、イミノカルボニル基(−CONH−)、カルボニル基(−CO−)、アセチレン基(−CC−)、ウレイレン基(−NHCONH−)、硫黄原子や酸素原子などヘテロ原子、アミノ基(−NRa−:Raは置換基を表す)などが挙げられる。これらの連結基を二個以上組み合わせてもよい。さらに、これらの連結基は置換基で置換されてもよい。
L''は、単結合またはアルキレン基であるのが好ましく、単結合または炭素数3以下のアルキレン基がより好ましく、単結合またはメチレン基がさらに好ましい。
【0021】
本発明のノルボルネン系重合体は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエションクロマトグラムで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜1,000,000であるのが好ましく、50,000〜500,000であるのがより好ましい。また、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は15,000〜1,500,000が好ましく、70,000〜700,000がより好ましい。
ポリスチレン換算の数平均分子量を10,000以上、重量平均分子量を15,000以上であると、破壊強度がより好ましい傾向にあり、ポリスチレン換算の数平均分子量を1,000,000以下、重量平均分子量を1,500,000以下とすると、シートとしての成形加工性が向上する傾向にあり、またキャストフィルム等とするときに溶液粘度が低くなり、扱いやすい傾向にある。分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜5.0が好ましく、1.1〜4.0がより好ましく、1.1〜3.5がさらに好ましい。ノルボルネン系重合体の分子量分布を上記のような範囲にすることにより、ノルボルネン系重合体溶液(ドープ)が均一になりやすく、良好なフィルムが作製しやすくなる。
【0022】
本発明のノルボルネン系重合体は、以下の製造方法で得ることができる。[Pd(CH3CN)4][BF42、ジ−μ−クロロ−ビス−(6−メトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−エンド−5σ,2π)−Pd(以下、「I」と略す)とメチルアルモキサン(MAO)、IとAgBF4、IとAgSbF6、[(η3−アリル)PdCl]2とAgSbF6、[(η3−アリル)PdCl]2とAgBF4、[(η3−クロチル)Pd(シクロオクタジエン)][PF6]、[(η3−アリル)Pd(η5−シクロペンタジエニル)]2とトリシクロヘキシルホスフィンとジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートもしくはトリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、パラジウムビスアセチルアセトナートとトリシクロヘキシルホスフィンとジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、[(η3−アリル)PdCl]2とトリシクロヘキシルホスフィンとトリブチルアリルスズもしくはアリルマグネシウムクロライドとジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、[(η5−シクロペンタジエニル)Ni(メチル)(トリフェニルホスフィン)]とトリスペンタフルオロフェニルボラン、[(η3−クロチル)Ni(シクロオクタジエン)][B((CF32644]、[NiBr(NPMe3)]4とMAO、Ni(オクトエート)2とMAO、Ni(オクトエート)2とB(C653とAlEt3、Ni(オクトエート)2と[ph3C][B(C654]とAli−Bu3、Co(ネオデカノエート)とMAO等の周期律表8族のNi、Pd、Co等のカチオン錯体またはカチオン錯体を形成する触媒を用いて、溶媒中で20〜150℃の範囲で、モノマーを単独もしくは共重合することにより得ることができる。溶媒としては、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールジメチルエーテル、ニトロメタン等の極性溶媒;から選択することができる。また、他の合成方法として、マクロモレキュールス(Macromolecules)、1996年、29巻、2755ページ、マクロモレキュールス(Macromolecules)、2002年、35巻、8969ページ、国際特許公開WO2004/7564号パンフレットに記載の方法も好適に用いられる。
【0023】
一般式(I)および/または(II)で表される繰り返し単位を構成するモノマーは以下のようにして、一般的に合成できる。対応するオレフィンとシクロペンタジエン(ジシクロペンタジエンを熱分解して得られる)のディールスアルダー反応(Path1)またはノルボルナジエンにアリール基を導入する手法(シンセシス1998年1249ページ、テトラヘドロン1989年45巻5263ページなどを参照)(Path2;L=L’=単結合、A=A ’=C65が例示)によって、ノルボルネン系化合物Iを得る。対応するオレフィンとシクロペンタジエン(ジシクロペンタジエンを熱分解して得られる)のディールスアルダー反応によって(Path3)、ノルボルネン系化合物IIを得る。これらを前記の重合方法によって、単独重合体もしくは共重合体を得ることができる。一般式(I)で表される繰り返し単位と一般式(II)で表される繰り返し単位の組成比率(xと100−x)は、適宜混合比率をかえることで調整できる。なお、ノルボルネン系化合物Iと2つ以上の他のノルボルネン系化合物を共重合してもよい。
【0024】
【化5】

【0025】
本発明におけるノルボルネン系重合体の単独重合体の例を以下に示すが、これに限定されない。
【化6】

【0026】
本発明におけるノルボルネン系重合体の共重合体の例を以下に示すが、これに限定されない。なお、「X」、「100−X」は共重合組成比率を表し、Xの範囲としては、0<X<80が好ましく、0<X<60がより好ましく、5<X<40であることがさらに好ましい。
【化7】

【0027】
[ノルボルネン系重合体フィルム]
本発明のノルボルネン系重合体は、フィルムの材料として有用である。特に、該重合体を用いて作製されたフィルムは、液晶表示装置の基板、導光板、偏光フィルム、位相差フィルム、液晶バックライト、液晶パネル、OHP用フィルム、透明導電性フィルム等をはじめとする光学用途のフィルムに適する。また、前記一般式(I)で表されるノルボルネン系重合体は、光ディスク、光ファイバー、レンズ、プリズム等の光学材料、電子部品さらに医療機器、容器等に好適に用いられる。
【0028】
[ノルボルネン系重合体フィルム製造方法]
本発明のフィルムは、前記一般式(I)で表される繰り返し単位を含むノルボルネン系重合体を含有し、該重合体を原料として製膜することで作製することができる。製膜は、熱溶融製膜の方法と溶液製膜の方法があり、いずれも適応可能であるが、本発明においては面状の優れたフィルムを得ることのできる溶液製膜方法を用いることが好ましい。以下に溶液製膜方法について記述する。
【0029】
(溶液製膜方法)
(ドープの調製)
まず、製膜に用いる前記重合体の溶液(ドープ)を調製する。ドープの調製に用いられる有機溶剤については、溶解、流延、製膜でき、その目的が達成できる限りは、特に限定されない。例えばジクロロメタン、クロロホルムに代表される塩素系溶剤、炭素数が3〜12の鎖状炭化水素(ヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカンなど)、環状炭化水素(シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、エステル(エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートなど)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンなど)、エーテル(ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールなど)から選ばれる溶剤が好ましい。2種類以上の官能基を有する有機溶剤の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。有機溶剤の好ましい沸点は35℃〜200℃以下である。前記溶液の調製に用いる溶剤は、乾燥性、粘度等の溶液物性調節のために2種以上の溶剤を混合して用いることができ、さらに、混合溶媒で溶解する限りは、貧溶媒を添加することも可能である。
【0030】
好ましい貧溶媒は適宜選択することができる。良溶媒として塩素系有機溶剤を使用する場合は、アルコール類を好適に使用することができる。アルコール類としては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。また、アルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。貧溶媒の中でも特に1価のアルコール類は、剥離抵抗低減効果があり、好ましく使用することができる。選択する良溶剤によって特に好ましいアルコール類は変化するが、乾燥負荷を考慮すると、沸点が120℃以下のアルコールが好ましく、炭素数1〜6の1価アルコールがさらに好ましく、炭素数1〜4のアルコールが特に好ましく使用することができる。
【0031】
ドープを調製する上で特に好ましい混合溶剤は、ジクロロメタンを主溶剤とし、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールまたはブタノールから選ばれる1種以上のアルコール類を貧溶媒にする組み合わせである。
【0032】
前記ドープの調製については、室温攪拌溶解による方法、室温で攪拌して重合体を膨潤させた後、−20℃〜−100℃まで冷却し、再度20℃〜100℃に加熱して溶解する冷却溶解法、密閉容器中で主溶剤の沸点以上の温度にして溶解する高温溶解方法、さらには溶剤の臨界点まで高温高圧にして溶解する方法などがある。ドープの粘度は25℃で1〜500Pa・sの範囲であることが好ましく、5〜200Pa・sの範囲であることがさらに好ましい。
【0033】
溶液は流延に先だって金網やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい。製膜直前の粘度は、製膜の際に流延可能な範囲であればよく、5Pa・s〜1000Pa・sの範囲に調製されることが好ましく、15Pa・s〜500Pa・sの範囲がより好ましく、30Pa・s〜200Pa・sの範囲がさらに好ましい。なお、この時の温度はその流延時の温度であれば特に限定されないが、好ましくは−5〜70℃であり、より好ましくは−5〜35℃である。
【0034】
(添加剤)
本発明のフィルムは、前記重合体以外の添加剤を含有していてもよく、かかる添加剤は、フィルムを作製する工程のいずれの段階で添加されてもよい。添加剤は、用途に応じて選択することができ、例えば、劣化防止剤、紫外線防止剤、レターデーション(光学異方性)調節剤、微粒子、剥離促進剤、赤外吸収剤、など)などが挙げられる。これらの添加剤は、固体でもよく油状物でもよい。添加する時期は溶液流延法によるフィルム作製の場合、ドープ調製工程中のいずれかの時期に添加してもよいし、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。溶融法によるフィルム作製の場合、樹脂ペレット作製時に添加していてもよいし、フィルム作製時に混練してもよい。各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、フィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。
【0035】
フィルム劣化防止の観点から、劣化(酸化)防止剤が好ましく用いられる。例えば、2,6−ジ−tert−ブチル,4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、重合体100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0036】
偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、ノルボルネン系重合体に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0037】
フィルム面のすべり性を改良するためには、微粒子(マット剤)が好ましく用いられる。これを用いることで、フィルム表面に凹凸を付与し、すなわちフィルム表面の粗さを増加させることで(マット化)、フィルム同士のブロッキングを減少させることができる。フィルム中、またはフィルムの少なくとも片方の面上に微粒子が存在することにより、偏光板加工時の偏光子とフィルム間の密着性が著しく向上する。本発明に使用するマット剤は、無機微粒子であれば、例えば、平均粒子サイズ0.05μm〜0.5μmの微粒子であり、好ましくは0.08μm〜0.3μm、より好ましくは0.1μm〜0.25μmである。微粒子は、無機化合物としては二酸化ケイ素、シリコーンおよび二酸化チタンが好ましく、高分子化合物としてはフッ素樹脂、ナイロン、ポリプロピレンおよび塩素化ポリエーテルが好ましく、二酸化ケイ素がより好ましく、有機物により表面処理されている二酸化ケイ素がさらに好ましい。
【0038】
フィルムの剥離抵抗を小さくするため、剥離促進剤が好ましく用いられる。好ましい剥離剤としては燐酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸あるいはカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸またはスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。剥離剤の添加量はノルボルネン系重合体に対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。
【0039】
(フィルム製造)
本発明のフィルムを製造する方法および設備は、公知のセルローストリアセテートフィルム製造に供するのと同様の溶液流延製膜方法および溶液流延製膜装置が好ましく用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープを貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。
【0040】
特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平7−032391号、特開平3−193316号、特開平5−086212号、特開昭62−037113号、特開平2−276607号、特開昭55−014201号、特開平2−111511号、および特開平2−208650号の各公報に記載のセルロースアシレート製膜技術を本発明では好ましく採用することができる。
【0041】
(重層流延)
ドープを、金属支持体としての平滑なバンド上またはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のドープを流延してもよい。重層流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%の厚さであり、より好ましくは2〜30%の厚さである。
【0042】
(流延)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、または逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。流延に用いられるドープの温度は、−10〜55℃が好ましく、25〜50℃がさらに好ましい。その場合、工程のすべてが同一でもよく、工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であることが好ましい。
【0043】
(乾燥)
フィルムの製造における金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には金属支持体(例えば、ドラムまたはバンド)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラムまたはバンドの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をバンドやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラムまたはバンドを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度はドープに用いられている溶剤の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶剤の内の最も沸点の低い溶剤の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。尚、流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0044】
(剥離)
生乾きのフィルムを金属支持体から剥離するとき、剥離抵抗(剥離荷重)が大きいと、製膜方向にフィルムが不規則に伸ばされて光学的な異方性むらを生じる。特に剥離荷重が大きいときは、製膜方向に段状に伸ばされたところと伸ばされていないところが交互に生じて、レターデーションに分布を生じる。液晶表示装置に装填すると線状あるいは帯状にむらが見えるようになる。このような問題を発生させないためには、フィルムの剥離荷重をフィルム剥離幅1cmあたり0.25N以下にすることが好ましい。剥離荷重はより好ましくは0.2N/cm以下、さらに好ましくは0.15N以下、特に好ましくは0.10N以下である。剥離荷重0.2N/cm以下のときはむらが現れやすい液晶表示装置においても剥離起因のむらは全く認められず、特に好ましい。剥離荷重を小さくする方法としては、前述のように剥離剤を添加する方法と、使用する溶剤組成の選択による方法がある。剥離時の好ましい残留揮発分濃度は5〜60質量%である。10〜50質量%がさらに好ましく、20〜40質量%が特に好ましい。高揮発分で剥離すると乾燥速度が稼げて、生産性が向上して好ましい。一方、高揮発分ではフィルムの強度や弾性が小さく、剥離力に負けて切断したり伸びたりしてしまう。また剥離後の自己保持力が乏しく、変形、しわ、クニックを生じやすくなる。またレターデーションに分布を生じる原因になる。
【0045】
(延伸)
前記溶液製膜法にて作製したフィルムを、さらに延伸処理する場合は、剥離のすぐ後の未だフィルム中に溶剤が十分に残留している状態で行うのが好ましい。延伸の目的は、(1)しわや変形のない平面性に優れたフィルムを得るためおよび、(2)フィルムの面内レターデーションを大きくするために行う。(1)の目的で延伸を行うときは、比較的高い温度で延伸を行い、延伸倍率も1%からせいぜい10%までの低倍率の延伸を行う。2〜5%の延伸が特に好ましい。(1)と(2)の両方の目的、あるいは(2)だけの目的で延伸する場合は、比較的低い温度で、延伸倍率も5〜150%で延伸する。
【0046】
フィルムの延伸は、縦または横だけの一軸延伸でもよく、また、同時または逐次2軸延伸でもよい。VA液晶セルやOCB(Optically Compensatory Bend)液晶セル用位相差フィルムの複屈折は、幅方向の屈折率が長さ方向の屈折率よりも大きくなることが好ましい。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。
【0047】
本発明のでき上がり(乾燥後)のフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常20〜500μmの範囲であり、30〜150μmの範囲が好ましく、特に液晶表示装置用には40〜110μmであることが好ましい。
【0048】
[フィルムの特性]
本発明のフィルムは、波長450nmにおける面内レターデーションRe450と波長630nmにおける面内レターデーションRe630の差ΔRe=Re630−Re450が、10nm≦ΔRe≦100nmを満足することが好ましく、10nm≦ΔRe≦80nmであることがより好ましく、10nm≦ΔRe≦60nmであることが最も好ましい。
本発明のフィルムの好ましい光学特性は、フィルムの用途により異なる。以下に、フィルムの厚みを80μmとして換算した、面内レターデーション(Re)および厚さ方向レターデーション(Rth)の、各用途における好ましい範囲を示す。
【0049】
偏光板保護膜として使用する場合:Reは、0nm≦Re≦5nmが好ましく、0nm≦Re≦3nmがさらに好ましい。Rthは、0nm≦Rth≦50nmが好ましく、0nm≦Rth≦35nmがさらに好ましく、0nm≦Rth≦10nmが特に好ましい。
【0050】
位相差フィルムとして使用する場合:位相差フィルムの種類によってReやRthの範囲は異なり、多様なニーズがあるが、0nm≦Re≦100nm、0nm≦Rth≦400nmであることが好ましい。TNモードなら0nm≦Re≦20nm、40nm≦Rth≦80nm、VAモードなら20nm≦Re≦80nm、80nm≦Rth≦400nmがより好ましく、特にVAモードで好ましい範囲は、30nm≦Re≦75nm、120nm≦Rth≦250nmであり、一枚の位相差膜で補償する場合は、50nm≦Re≦75nm、180nm≦Rth≦250nm、2枚の位相差膜で補償する場合は、30nm≦Re≦50nm、80nm≦Rth≦140nmである。これらはVAモードの補償膜として黒表示時のカラーシフト、コントラストの視野角依存性の点で好ましい態様である。
【0051】
本発明のフィルムは、共重合比率、添加剤の種類および添加量、延伸倍率、剥離時の残留揮発分などの工程条件を適宜調節することで所望の光学特性を実現することができる。
【0052】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
【0053】
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0054】
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(1)および式(2)よりRthを算出することもできる。
【数1】

注記:
上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
式(1)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。
Rth=((nx+ny)/2 − nz) x d --- 式(2)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0055】
また、本発明のフィルムを偏光板の保護膜として用いる場合は、光弾性の値が0.5×10-13〜9.0×10-13[cm2/dyn]であり、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)が180〜435[g/cm224h]であるのが好ましい。光弾性の値は、0.5×10-13〜7.0×10-13[cm2/dyn]であるのがより好ましく、0.5×10-13〜5.0×10-13[cm2/dyn]であるのがさらに好ましい。また、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)は、180〜400[g/cm224h]であるのがより好ましく、180〜350[g/cm224h]であるのがさらに好ましい。本発明のフィルムが上記特性を有すると、偏光板の保護膜として用いた場合に、湿度の影響による性能の低下を軽減することができる。
【0056】
[偏光板]
本発明の偏光板は、本発明のフィルムと偏光子とを少なくとも有する。通常、偏光板は、偏光子およびその両側に配置された二枚の保護膜を有する。両方または一方の保護膜として、本発明のフィルムを用いることができる。他方の保護膜は、通常のセルロースアセテートフィルム等を用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、フィルムは後述の如き表面処理を行い、しかる後にフィルム処理面と偏光子を接着剤を用いて貼り合わせる。使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス、ゼラチン等が挙げられる。偏光板は偏光子およびその両面を保護する保護膜で構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。本発明のフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の透過軸とフィルムの遅相軸を一致させるように貼り合せることが好ましい。
【0057】
(フィルムの表面処理)
本発明では、偏光子と保護膜との接着性を改良するため、フィルムの表面を表面処理することが好ましい。表面処理については、接着性を改善できる限りいかなる方法を利用してもよいが、好ましい表面処理としては、例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理および火炎処理が挙げられる。ここでいうグロー放電処理とは、低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことである。本発明では大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。その他、グロー放電処理の詳細については、米国特許第3462335号、米国特許第3761299号、米国特許第4072769号および英国特許第891469号明細書に記載されている。放電雰囲気ガス組成を放電開始後にポリエステル支持体自身が放電処理を受けることにより容器内に発生する気体種のみにした特表昭59−556430号公報に記載された方法も用いられる。また真空グロー放電処理する際に、フィルムの表面温度を80℃〜180℃にして放電処理を行う特公昭60−16614号公報に記載された方法も適用できる。
【0058】
表面処理の程度については、表面処理の種類によって好ましい範囲も異なるが、表面処理の結果、表面処理を施された保護膜の表面の純水との接触角が、50°未満となるのが好ましい。前記接触角は、25°以上45°未満であるのがより好ましい。保護膜表面の純水との接触角が上記範囲にあると、保護膜と偏光膜との接着強度が良好となる。
【0059】
(接着剤)
ポリビニルアルコールからなる偏光子と、表面処理された本発明のフィルムとを貼合する際には、水溶性ポリマーを含有する接着剤を用いることが好ましい。前記接着剤に好ましく使用される水溶性ポリマーとしては、N−ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、ビニルアルコール、メチルビニルエーテル、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルイミダゾールなどエチレン性不飽和モノマーを構成要素として有する単独重合体もしくは重合体、またポリオキシエチレン、ボリオキシプロピレン、ポリ−2−メチルオキサゾリン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースゼラチン、などが挙げられる。本発明では、この中でもPVAおよびゼラチンが好ましい。接着剤層厚みは、乾燥後に0.01〜5μmが好ましく、0.05〜3μmがより好ましい。
【0060】
(反射防止層)
偏光板の、液晶セルと反対側に配置される保護膜には反射防止層などの機能性膜を設けることが好ましい。特に、本発明では保護膜上に少なくとも光散乱層と低屈折率層がこの順で積層した反射防止層または保護膜上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層が好適に用いられる。
【0061】
(光散乱層)
光散乱層は、表面散乱および/または内部散乱による光拡散性と、フィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。従って、ハードコート性を付与するためのバインダー、光拡散性を付与するためのマット粒子、および必要に応じて高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機フィラーを含んで形成される。光散乱層の膜厚は、ハードコート性を付与する観点並びにカールの発生および脆性の悪化抑制の観点から、1〜10μmが好ましく、1.2〜6μmがより好ましい。
【0062】
(反射防止層の他の層)
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0063】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止層を設けた保護膜に物理強度を付与するために、支持体の表面に設ける。特に、支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
【0064】
(帯電防止層)
帯電防止層を設ける場合には体積抵抗率が10-8(Ωcm-3)以下の導電性を付与することが好ましい。吸湿性物質や水溶性無機塩、ある種の界面活性剤、カチオンポリマー、アニオンポリマー、コロイダルシリカ等の使用により10-8(Ωcm-3)の体積抵抗率の付与は可能であるが、温湿度依存性が大きく、低湿では十分な導電性を確保できない問題がある。そのため、導電性層素材としては金属酸化物が好ましい。
【0065】
[液晶表示装置]
本発明のフィルム、該フィルムからなる位相差フィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。このうち、OCBモードまたはVAモードに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0067】
本発明で用いるノルボルネン重合体の原料のうち、5−ノルボルネン−2−イルアセテート(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−イルアセテート)(NBOAc)は、アルドリッチ社から購入できる。その他のノルボルネン系化合物は、以下の合成例のように製造した。
【0068】
(合成例1:exo,exo−ジフェニルノルボルネンの合成)
ノルボルナジエン(東京化成社製)53.9g、ブロモベンゼン(和光純薬社製)205.3g、ナトリウムテトラフェニルボレート(アルドリッチ社製)160.4g、アニソール(和光純薬社製)400mL、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(アルドリッチ社製)3.7gをフラスコ内に仕込み、5時間100℃で攪拌した。得られた混合物をろ過し、ろ液を酢酸エチル/水で分液抽出した。これをエバポレーションし、酢酸エチル、ブロモベンゼン、アニソール等の揮発分を除いた。残存物をカラムクロマトグラフィーに付し(エルーエント:ヘキサン)、これを濃縮し、ヘキサン中に溶解した溶液を−30℃で再結晶したところ、exo,exo−ジフェニルノルボルネン(DiPhNB)113gを得た。
【0069】
(合成例2:exo,exo−(フェニル)(ピレニル)ノルボルネンの合成)
合成例1において、ブロモベンゼンのかわりにブロモピレン(和光純薬社製)を等モル量仕込み、同様の合成法でexo,exo−(フェニル)(ピレニル)ノルボルネン(PhPyrNB)を得た。
【0070】
(合成例3:exo,exo−(フェニル)(1−ナフチル)ノルボルネンの合成)
合成例1において、ブロモベンゼンのかわりに1−ブロモナフタレン(アルドリッチ社製)を等モル量仕込み、同様の合成法でexo,exo−(フェニル)(1−ナフチル)ノルボルネン(PhNaphNB)を得た。
【0071】
(合成例4:exo,exo−ジベンゾイルノルボルネンの合成)
ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート20g、ノルボルナジエン(東京化成社製)10g、ジメチルホルムアミド(和光純薬社製)50mL、酢酸パラジウム(アルドリッチ社製)3gを仕込み、一酸化炭素(住友精化製)をバブリングした。これにソディウムテトラフェニルボレート(アルドリッチ社製)20gをジメチルホルムアミド100mLに溶かした溶液を滴下した。滴下終了後室温で2時間反応させた。窒素をバブリングし、残存一酸化炭素を除去した。残存物を酢酸エチル/水で分液抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、これをろ過した。エバポレーションで濃縮し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーに付した。これを再結晶したところ、白色結晶のexo,exo−ジベンゾイルノルボルネン(Di(Bzy)NB)を得た。
【0072】
(合成例5:exo,exo−(フェニル)(フェニルエチニル)ノルボルネンの合成)
ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート20g、ノルボルナジエン10g、ジメチルホルムアミド50mL、酢酸パラジウム3gを仕込んだ。これにフェニルアセチレン5.6gをジメチルホルムアミド10mLに溶かした溶液を滴下した。滴下終了後室温で2時間反応させた。これをフッカカリウム飽和水溶液でクエンチ(quench)し、酢酸エチル/水で分液抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、これをろ過した。エバポレーションで濃縮し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーに付した。これを再結晶したところ、白色結晶のexo,exo−(フェニル)(フェニルエチニル)ノルボルネン(Ph(PhEthynyl)NB)を得た。
【0073】
(合成例6:5−アセトキシメチル−2−ノルボルネンの合成)
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)1094g、酢酸アリル(和光純薬社製)1772gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で9時間攪拌した(回転速度=300rpm)。反応混合物をろ過し、揮発成分をエバポレーションした。残存物を精密蒸留(還流比=10/1、圧力=10mmHg、トップ温度=89℃)に付して、無色透明な5−アセトキシメチル−2−ノルボルネン(NBCH2OAc)1550gを得た。
【0074】
(合成例7:5−ブチルオキシメチル−2−ノルボルネンの合成)
合成例6において酢酸アリルを酪酸アリル(アルドリッチ社製)に変えて、合成例6と同様の操作で、5−ブチルオキシメチル−2−ノルボルネン(NBCH2OCOC37)を得た。
【0075】
(合成例8)
精製トルエン1000mLと合成例1で合成した0.5molのexo,exo−DiPhNBを反応容器に仕込んだ。次いでトルエン10mLに溶解したアリルパラジウムクロライドダイマー(東京化成社製)0.0125mmolとトリシクロヘキシルフォスフィン(ストレム社製)0.025mmol、塩化メチレン5mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)0.05mmol、さらにトルエン10mLに溶解したアリルトリブチルスズ(アルドリッチ社製)0.030mmolを反応容器に投入した。加熱を開始し60℃で1時間攪拌した。なお、この間反応溶液の粘度の上昇とともに、トルエンを適宜追加した。1−ヘキセン(和光純薬社製)0.01molを滴下し、さらに1時間反応させた。得られた反応溶液を、過剰のメタノール中に投入し、重合物P−1を沈殿させた。沈殿を採取し、メタノールで洗浄した。得られた重合体を110℃で6時間真空乾燥した。
【0076】
得られた重合体をテトラヒドロフランに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフによる分子量を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(合成例9〜11)
合成例8で仕込みのexo,exo−DiPhNBを、合成例2で合成したexo,exo−PhPyrNB、合成例4で合成したexo,exo−Di(Bzy)NB、合成例5で合成したexo,exo−Ph(PhEthynyl)NBとする以外は、合成例8と同様に合成し、P−2〜4を得た。結果は、表1に示した。
【0078】
(合成例12)
精製トルエン100mLとNBCH2OAc0.5molを反応容器に仕込んだ。次いでトルエン10mLに溶解したアリルパラジウムクロライドダイマー(東京化成社製)0.05mmolとトリシクロヘキシルフォスフィン(ストレム社製)0.1mmol、塩化メチレン5mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)0.2mmol、さらにトルエン10mLに溶解したアリルトリブチルスズ(アルドリッチ社製)0.15mmolを反応容器に投入した。加熱を開始し90℃に到達した時、トルエン20質量部に溶解したexo,exo−DiPhNB0.05molを10分かけて滴下した。この混合物を90〜100℃で6時間反応させた。なお、この間反応溶液の粘度の上昇とともに、トルエンを適宜追加した。1−ヘキセン(和光純薬社製)0.01molを滴下し、さらに1時間反応させた。得られた反応溶液を、過剰のメタノール中に投入し、重合物P−5を沈殿させた。沈殿を採取し、メタノールで洗浄した。得られた重合体を110℃で6時間真空乾燥した。
【0079】
得られた重合体をテトラヒドロフランに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフによる分子量を測定した。結果を表1に示した。
【0080】
重クロロホルムに溶解させ、1HNMRを測定した場合、3.2〜4.8ppmに現われるピーク(アセトキシ基に結合したメチレン水素)の積分値をA、7〜8ppmに現われるピーク(フェニル基の水素)の積分値をBとすると、表1の式中のxに関し、A:B=2(100−x):10xの関係式が成り立つ。これにしたがって、表1の式中のxの値を求めた。結果は、表1に示した。
【0081】
(合成例13)
合成例12でexo,exo−DiPhNBの量を増加させ、共重合比率の異なるP−6を合成した。分子量とxの値を同様に求めた。結果は、表1に示した。
【0082】
(合成例14)
合成例12でNBCH2OAcをNBCH2OCOC37として、P−7を合成した。分子量とXの値を同様に求めた。結果は、表1に示した。
【0083】
(合成例15)
合成例13で仕込みのNBCH2OAcをNBOAcとする以外は、合成例13と同様に合成し、P−8を得た。分子量を同様に求めた。重クロロホルムに溶解させ、1HNMRを測定した場合、4.3〜5.3ppmに現われるピーク(アセトキシ基に結合した炭素に結合した水素)の積分値をC、7〜8ppmに現われるピーク(フェニル基の水素)の積分値をDとすると、C:D=(100−x):10x の関係式が成り立つ。これに従い、xの値を求めた。結果を表1に示した。
【0084】
(合成例16〜19)
合成例13で仕込みのexo,exo−DiPhNBをexo,exo−PhPyrNB、exo,exo−PhNaphNB、exo,exo−Di(Bzy)NB、exo,exo−Ph(PhEthynyl)NBとする以外は、合成例13と同様に合成し、P−9〜12を得た。分子量とxの値を上記と同様に、アセトキシ基に結合したメチレン水素の積分値と、フェニル基の水素の積分値の比により求めた。結果は、表1に示した。
【0085】
(合成例20)
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)674.0g、スチレン(和光純薬社製)508.0gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で8時間攪拌した(回転速度=300rpm)。反応混合物をフラッシュ蒸留し、残存シクロペンタジエン、スチレン、重合物を除去し、租PhNBを得た。これを精密蒸留に付して、無色透明なendorich-PhNBを得た。得られた無色透明な液体をガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度98.5%、endo/exo比率78/22であった。
【0086】
(合成例21)
合成例6において酢酸アリルをヘキサン酸アリル(和光純薬社製)に変えて、合成例6と同様の操作で、5−ヘキシルオキシメチル−2−ノルボルネン(NBCH2OCOC511)を得た。
【0087】
(合成例22)
合成例16においてNBCH2OAcをNBCH2OCOC511とする以外は、合成例16と同様に合成し、P−13を得た。分子量とxの値を上記と同様に、ヘキシルオキシ基に結合したメチレン水素の積分値と、芳香族領域の水素の積分値の比により求めた。結果は、表1に示した。
【0088】
(合成例23)
合成例16においてPhPyrNBをendorich-PhNBとする以外は、合成例16と同様に合成し、A−1を得た。分子量とxの値を上記と同様に、アセトキシ基に結合したメチレン水素の積分値と、芳香族領域の水素の積分値の比により求めた。結果は、表1に示した。
【0089】
【表1】

【0090】
上記のノルボルネン重合体には、ベンゼン、ナフタレン、ピレンの1水素離脱体が長波成分として用いられている。これらベンゼン、ナフタレン、ピレンのメチレンクロライド溶液10mg/Lを調整し、島津製作所社製のUV測定機UV-2550で測定した。ベンゼンは300nm以上の波長では極大吸収は検出されなかった。一方、ナフタレンとピレンは300nm〜400nmに極大吸収波長が検出された。ピレンは複数の極大吸収波長が検出された。主な極大吸収波長とモル吸光係数を下の表に示す。
【表2】

【0091】
[実施例1:重合体フィルムの作製とフィルム特性の測定]
(製膜)
上記で得られた重合体P−1の50gを塩化メチレン200gに溶解し、これを加圧ろ過した。得られたドープをA3大の疎水性ガラス板上でアプリケーターを用いて、流延製膜した。これを25℃密閉系で5分間乾燥し、続いて40℃の送風乾燥機中で10分間乾燥した。ガラス板からフィルムを剥ぎ取り、ステンレス製の枠に挟み、これを100℃の乾燥機中で30分間、133℃の乾燥機中で30分間乾燥を行い、透明なフィルムF−1を得た。同様にP−2〜13とA−1を製膜し、透明なフィルムF−2〜13とFA−1を得た。
【0092】
(延伸)
F−5〜13とFA−1を縦5cm横5cmに裁断した。これを井元製作所製の自動二軸延伸機を用いて、温度230℃〜250℃において延伸を行い、延伸フィルムF−5'〜13’とFA−1'を得た。延伸温度と延伸倍率は表2のとおりである。
【0093】
(物性測定)
延伸フィルムの波長450nm〜750nmにおけるReを前述のように測定した。フィルムの厚みは、デジタルマイクロメーターで任意の部分を3点測定し、その平均値をとった。波長450nm、590nm、650nmにおける厚み80μmの換算Reを、Re450、Re590、Re630、とした。Reの波長分散特性をあらわす指標として、ΔRe=Re630−Re450を算出した。
【0094】
以上で作製したフィルムのRe590とΔRe=Re630−Re450の評価結果を表2にまとめた。
【0095】
【表3】

【0096】
表2の結果からわかるように、本発明のフィルムのReは逆波長分散特性を有する。その程度はナフタレン、ピレンのような長波成分を導入した重合体フィルムの方がその発現性は高い。一方、特許文献1に見られる比較例のフィルムA−1およびA−1'は順波長分散でその波長分散の程度は小さい。
【0097】
[実施例2:偏光板の作製と評価]
上記作製したフィルムF−6'とセルロースアシレートフィルム(富士写真フィルム社製、フジTAC)を60℃の水酸化ナトリウム1.5N水溶液中で2分間浸漬した。この後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通し、鹸化処理したF−6'とフジTACを得た。
【0098】
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与えて、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ社製、9X75RS)を、長手方向に延伸し、偏光膜を得た。
【0099】
このようにして得た偏光膜と、鹸化処理したF−6'を、ポリビニルアルコール(PVA)(クラレ社製、PVA−117H)3質量%水溶液を接着剤として、フィルムの長手方向が45゜となるように、「鹸化処理したF−6'/偏光膜/鹸化処理したフジTAC」の層構成で貼り合わせて偏光板Pol−1を作製した。
【0100】
[実施例3:液晶表示装置の作製と評価]
VA型液晶セルを使用した26インチおよび40インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に液晶層を挟んで設置されている2対の偏光板のうち、観察者側の片面の偏光板を剥がし、粘着剤を用い、代わりに上記偏光板Pol−1を貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置の色ムラを観察した。本発明の偏光板Pol−1を組み込んだ液晶表示装置は色ムラが無く、非常に優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位を少なくとも1種含むことを特徴するノルボルネン系重合体。
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有してもよいアリール基であり、LおよびL'は、それぞれ、二価の連結基または単結合であり、AおよびA'はそれぞれ、芳香族基である。)
【請求項2】
前記LおよびL'が、それぞれ、単結合、カルボニル基またはアセチレン基である請求項1に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項3】
前記Aおよび/またはA’が、270nm〜400nmに極大吸収波長を有し、該極大吸収波長のモル吸光係数が10〜100000[mol-1dm3cm-1]である芳香族化合物の1水素離脱体である請求項1または2に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項4】
前記芳香族化合物が、2〜4環式芳香族化合物である請求項3に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項5】
前記L-AおよびL'-A'が、いずれもエキソ連結である請求項1〜4のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項6】
さらに下記一般式(II)で表される繰り返し単位を少なくとも1種含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
【化2】

(式中、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、または、−L’’−O−CO−R9(L’’は二価の連結基または単結合であり、R9はアルキル基である)であり、R5、R6、R7およびR8の少なくとも一つは−L’’−O−CO−R9である。)
【請求項7】
前記R5、R6、R7およびR8のうち3つがそれぞれ、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基である請求項6に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項8】
前記L'' が単結合またはアルキレン基である請求項6または7に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項9】
前記R9が炭素数1〜5のアルキル基である請求項6〜8のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項10】
一般式(I)で表される繰り返し単位および一般式(II)で表される繰り返し単位のみから形成された請求項6〜9のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項11】
一般式(I)で表される繰り返し単位の重合組成比率が0%より多く80%未満である請求項1〜10のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体を含む、フィルム。
【請求項13】
波長450nmにおける面内レターデーションRe450と波長630nmにおける面内レターデーションRe630の差ΔRe=Re630−Re450が、10nm≦ΔRe≦100nmを満足する請求項12に記載のフィルム。
【請求項14】
波長590nmにおける面内レターデーションRe590が、30nm≦Re590≦200nmを満足する請求項12または13に記載のフィルム。
【請求項15】
偏光膜と、請求項12〜14のいずれか1項に記載のフィルムを有することを特徴とする偏光板。
【請求項16】
請求項15に記載の偏光板を有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2008−31319(P2008−31319A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207151(P2006−207151)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】