説明

ハイブリッド建設機械の動力源装置

【課題】高負荷圧での連続運転時の蓄電器の消耗を抑えて、その後の通常作業時のアシスト能力を確保する。
【解決手段】油圧ポンプと発電電動機とがエンジンに接続され、発電電動機の発電機作用によって蓄電器に充電するとともに、この蓄電器の放電力により発電電動機を駆動してエンジンをアシストするとともに、馬力制御によってポンプ流量を制御するハイブリッドショベルにおいて、馬力制御によるポンプ圧とポンプ流量とで求められるポンプ最大入力の設定値を、ポンプ圧の低圧側でエンジン最大出力よりも大きく、高圧側に向かって徐々に小さくなり、最高圧力でエンジン最大出力よりも小さくなるように定めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン動力と蓄電器電力とを併用するハイブリッド建設機械の動力源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
エンジンのみを動力源とする通常ショベルにおいては、ポンプの負荷圧(ポンプ圧)に応じてポンプ流量を制御する馬力制御が行われ、制御開始圧(図3中のAの圧力区間)で最大流量、最高圧(リリーフ圧)で最小流量となる。
【0004】
この馬力制御では、図3に示すように、エンジンが過負荷とならないように、ポンプ最大入力の設定値がエンジンの最大出力以下でほぼ一定となるように定められる。
【0005】
すなわち、
エンジン最大出力>ポンプ最大入力(=ポンプ圧×流量 但し、効率と係数を省略)
となる。
【0006】
なお、ポンプ流量の制御に関して、一般的には、油圧アクチュエータを操作する操作手段の操作量(以下、レバー操作量という場合がある)に応じてポンプ流量を制御する流量制御方式が馬力制御と併用され、両制御によって演算される流量のうち低位側を選択してポンプのレギュレータに指令する構成がとられる。
【0007】
上記流量制御では、レバー中立でスタンバイ流量(動き始めのシステム応答性を考慮して決定される)、レバーフル操作で最大流量となる。
【0008】
これに対し、上記馬力制御では、制御開始圧で最大流量、リリーフ圧で最小流量となる。
【0009】
従って、上記圧力区間Aではレバー操作量に応じた流量制御によるポンプ流量が指令され、この区間Aを超えるポンプ圧範囲では馬力制御によるポンプ流量が指令される。
【0010】
一方、ハイブリッドショベルは、油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用とを行う発電電動機とがエンジンに接続され、発電電動機の発電機作用によって蓄電器が充電されるとともに、この蓄電器の放電力により発電電動機が駆動されて電動機作用を行い、この電動機作用により油圧ポンプの駆動をアシストするように構成される。
【0011】
このハイブリッドショベルにおいて、ポンプ流量特性は、機械性能を維持するために基本的に通常ショベルと同じとされる。
【0012】
但し、上記のようにエンジン動力に発電電動機(蓄電器)のアシスト分がプラスされるため、図4に示すようにエンジンの最大出力は上記アシスト分を考慮して通常ショベルのそれよりも低い値(通常は平均動力。以下、この場合で説明する)に設定される。
【0013】
すなわち、
エンジン最大出力<ポンプ最大入力
であって、
(エンジン最大出力+最大アシスト力)>ポンプ最大入力
とされる。
【0014】
このハイブリッドショベルには、固有の問題点として、第1に、蓄電器充電量が減少すると上記アシスト能力が低下し、限界を超えるとアシスト能力が喪失してエンジンが過負荷となり、エンストのおそれがある。
【0015】
第2に、頻繁な高レベルの充放電が行われると蓄電器の劣化が激しくなる。
【0016】
この問題の対応策として、蓄電器の充電量に応じてポンプ最大入力を制限する技術が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2005−83242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記公知技術では、蓄電器の充電量の減少を見てポンプ最大入力を制限し、放電の進行と急激な充放電を抑えるという、いわば対症療法的な制御を行うため、蓄電器の消耗(放電)が緩やかな通常作業時には有効となる。
【0019】
しかし、寒冷時におけるエンジン始動直後の暖機運転時や岩石の掘り起こし作業時のような高負荷圧(とくにリリーフ圧)での連続運転時、つまり、ポンプが連続してフル稼働し、蓄電器が高レベルで急速に消耗(放電)する状況では、上記制御では間に合わず、蓄電器のアシスト能力が急速に低下し、その後の通常作業時にアシスト能力が不足しまたはアシスト不能となって作業に支障を来たすことになる。
【0020】
そこで本発明は、高負荷圧での連続運転時の蓄電器の消耗を抑えて、その後の通常作業時のアシスト能力を確保することができるハイブリッド建設機械の動力源装置を提供するのである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用を行う発電電動機とがエンジンに接続され、上記発電電動機の発電機作用によって蓄電器が充電されるとともに、この蓄電器の放電力により上記発電電動機が駆動されて電動機作用を行い、この電動機作用により油圧ポンプの駆動をアシストするように構成されたハイブリッド作業機械の動力源装置において、上記油圧ポンプの負荷圧であるポンプ圧を検出するポンプ圧検出手段と、ポンプ圧に応じてポンプ流量を決める馬力制御を行う制御手段を備え、この制御手段は、上記馬力制御によるポンプ圧とポンプ流量とで求められるポンプ最大入力の設定値を、ポンプ圧の低圧側でエンジン最大出力よりも大きく、高圧側に向かって徐々に小さくなり、最高圧力でエンジン最大出力よりも小さくなるように定めたものである。
【0022】
この構成によれば、前記した寒冷時におけるエンジン始動直後の暖機運転時や岩石の掘り起こし作業時のような、ポンプが連続してフル稼働することによって蓄電器が高レベルで急速に放電する高負荷圧での連続運転時に、第2の特性に基づいてほぼエンジン出力のみでポンプ最大入力を負担するため、蓄電器の消耗を抑えてアシスト能力を温存し、その後の通常作業時に十分なアシスト能力を発揮させることができる。
【0023】
すなわち、中、軽負荷での通常作業時には常にハイブリッドシステムが有効に働くため、省エネルギー効果を高めることができるとともに、高負荷圧連続運転時には蓄電器の頻繁な高レベルでの充放電を回避できるため、蓄電器の劣化を抑制することができる。
【0024】
しかも、高負荷圧運転時は、本来、力(圧力)を必要とするが速度(流量)の必要が少ないため上記設定によるデメリットがないとともに、流量を徐々に低下させるため操作上の違和感も生じない。
【0025】
以上の点で、とくに、中、軽負荷作業(低圧域〜中間域のポンプ圧での作業)が通常作業となる小型機において有利となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、高負荷圧での連続運転時の蓄電器の消耗を抑えて、その後の通常作業時のアシスト能力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る動力源装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態によるポンプ圧とポンプ流量の関係を示すグラフである。
【図3】通常ショベルによるポンプ圧とポンプ流量の関係を示すグラフである。
【図4】従来のハイブリッドショベルにおけるポンプ圧とポンプ流量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態を図1,2によって説明する。実施形態はハイブリッドショベルを適用対象としている。
【0029】
図1はシステム全体のブロック構成を示し、エンジン1に、発電機作用と電動機作用とを行う発電電動機2と油圧ポンプ3とが接続される。
【0030】
なお、ハイブリッドショベルにおいて、油圧ポンプ3に対する動力の供給方式として所謂パラレル方式とシリーズ方式とがあるが、本発明は両方式のいずれにも適用することができる。
【0031】
油圧ポンプ3は、制御手段としてのコントローラ4で制御されるレギュレータ5により傾転が変化して吐出量(ポンプ流量)が変化する可変容量ポンプとして構成され、この油圧ポンプ3からの圧油が制御弁6を介して複数の油圧アクチュエータ(たとえばショベルでいうとブーム、アーム、バケット各シリンダや走行用油圧モータ等)に供給される。
【0032】
また、レギュレータ5は、コントローラ4からの電気信号によって直接作動するものを用いてもよいし、コントローラ4からの信号で電磁弁を作動させ、この電磁弁からの油圧によってレギュレータ作動するものを用いてもよい。
【0033】
7は操作手段としてのリモコン弁で、このリモコン弁7の操作量(レバー操作量)に応じたパイロット圧によって制御弁6が作動し、油圧アクチュエータに対する圧油の給排(油圧アクチュエータの動作方向と速度)が制御される。
【0034】
発電電動機2は、インバータ8を介して蓄電器9に接続されている。
【0035】
インバータ8は、発電電動機2の発電機作用と電動機作用の切換え、発電機、電動機としての電流またはトルクを制御するとともに、発電機出力に応じて蓄電器9の充・放電を制御する。
【0036】
また、検出手段として、前記レバー操作量に応じた流量制御のためにリモコン弁7のパイロット圧(レバー操作量)を検出するパイロット圧センサ10と、馬力制御のためにポンプ圧(負荷圧)を検出するポンプ圧検出手段としてのポンプ圧センサ11とが設けられている。
【0037】
コントローラ4は、この両センサ10,11によって検出されたレバー操作量及びポンプ圧に基づいて流量制御及び馬力制御によるポンプ流量を演算で求め、この求められたポンプ流量が得られるようにレギュレータ5を制御する。
【0038】
ここで、この動力源装置においては、図2に示すように、馬力制御によるポンプ圧とポンプ流量とで求められるポンプ最大入力の設定値が、ポンプ圧の低圧側ではエンジン最大出力よりも大きく、高圧側に向かって徐々に小さくなり、最高圧力(リリーフ圧)でエンジン最大出力よりも小さくなるように定められている。
【0039】
すなわち、
馬力制御による最大流量点であるポンプ圧PP1では、
エンジン最大出力<ポンプ最大入力
となり、馬力制御による最小流量点である最高ポンプ圧PP3(リリーフ圧)で、
エンジン最大出力>ポンプ最大入力
と反転し、上記両点間の中間域でポンプ最大入力の設定値が滑らかに変化する特性がコントローラ4に予め設定・記憶され、この特性に基づいてレギュレータ5を介してポンプ流量が制御される。
【0040】
図2中のPP2は、
エンジン最大出力=ポンプ最大入力
となる、反転の境界点としてのポンプ圧である。
【0041】
ポンプ最大入力の設定値をこのように定めることにより、前記した寒冷時におけるエンジン始動直後の暖機運転時や岩石の掘り起こし作業時のような、ポンプ3が連続してフル稼働することによって蓄電器9が高レベルで急速に放電する高負荷圧(Pp2〜Pp3)での連続運転時には、ほぼエンジン出力のみでポンプ最大入力を負担するため、蓄電器9の消耗を抑えてアシスト能力を温存し、その後の通常作業時に十分なアシスト能力を発揮させることができる。
【0042】
これにより、通常作業時に常にハイブリッドシステムが有効に働くため、省エネルギー効果を高めることができる。
【0043】
また、蓄電器9の急速な放電とその後の充電という高レベルでの充放電を回避できるため、蓄電器9の劣化を抑制することができる。
【0044】
しかも、高負荷圧運転時は、本来、力(圧力)を必要とするが速度(流量)の必要が少ないため、上記設定によるデメリットがないとともに、徐々に流量を低下させるため操作上の違和感も生じない。
【0045】
以上の点で、とくに、通常作業として中、軽負荷作業が圧倒的に多く、重負荷作業が少ない小型機において有利となる。
【0046】
ところで、本発明はショベルに限らず、たとえはショベルを母体として構成される解体機や破砕機等の他のハイブリッド建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 エンジン
2 発電電動機
3 油圧ポンプ
4 制御手段としてのコントローラ
5 レギュレータ
9 蓄電器
11 ポンプ圧センサ(ポンプ圧検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用を行う発電電動機とがエンジンに接続され、上記発電電動機の発電機作用によって蓄電器が充電されるとともに、この蓄電器の放電力により上記発電電動機が駆動されて電動機作用を行い、この電動機作用により油圧ポンプの駆動をアシストするように構成されたハイブリッド作業機械の動力源装置において、上記油圧ポンプの負荷圧であるポンプ圧を検出するポンプ圧検出手段と、ポンプ圧に応じてポンプ流量を決める馬力制御を行う制御手段を備え、この制御手段は、上記馬力制御によるポンプ圧とポンプ流量とで求められるポンプ最大入力の設定値を、ポンプ圧の低圧側でエンジン最大出力よりも大きく、高圧側に向かって徐々に小さくなり、最高圧力でエンジン最大出力よりも小さくなるように定めたことを特徴とするハイブリッド建設機械の動力源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−172520(P2012−172520A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32011(P2011−32011)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】