説明

ハイブリッド自動車

【課題】停車中に押し当てトルクの出力と出力の解除とが頻繁に繰り返されるのを抑制する。
【解決手段】エンジンの回転数Neが値0より大きい場合には(S110)、バッテリの出力制限Woutが閾値Wref以上のときに押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定して押し当て制御を実行し(S140,150)、押し当て制御の実行中に出力制限Woutが閾値Wref未満となったときに押し当て制御を解除して実行を制限し(S160〜180)、実行制限した以降所定時間Trefが経過するまでは出力制限Woutが閾値(Wref+α)以上となったときに押し当てトルクTpに所定トルクTsetを再設定して押し当て制御を再実行するから(S190〜210)、押し当て制御の実行と解除とが頻繁に繰り返されるのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンと、エンジンの出力軸に動力を入出力可能なモータMG1と、車軸に連結された駆動軸にスプライン嵌合により接続されたモータMG2と、入力軸がトルクコンバーターを介してエンジンの出力軸に接続されエンジンから入力された動力を変速を伴って駆動軸に出力する自動変速機と、モータMG1およびモータMG2と電力をやり取りするバッテリとを備え、発進時や加速時にエンジンからの動力をアシストするためにモータMG2から動力を出力するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この自動車では、モータMG2から動力を出力するときにスプラインのガタなどから生じるショックを抑制するため、予めスプラインを一方向に押し当てるための押し当てトルクをモータMG2から出力するが、バッテリの蓄電割合が低下しているときにはその押し当てトルクを出力しないものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−159360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したハイブリッド自動車において、モータMG2から押し当てトルクを出力する機会をできるだけ増やして動力出力時のショックを抑制するためには、押し当てトルクの出力可否を判定するための所定の閾値にできるだけ低い蓄電割合を用いることが求められる。ただし、その場合には、押し当てトルクの出力の解除の判定に用いる蓄電割合を、所定の閾値に対して十分なヒステリシスをもった値とすることができなくなり、バッテリの蓄電割合が所定の閾値近傍で変動したときには、押し当てトルクの出力と解除とが繰り返されてしまう。そして、そのような押し当てトルクの出力と解除とが停車中に繰り返された場合には、車両に振動が生じて運転者に違和感を与えてしまうことがある。
【0005】
本発明の自動車は、停車中に押し当てトルクの出力と解除とが頻繁に繰り返されるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の自動車は、
車軸にギヤ機構を介して動力の伝達が可能な駆動軸に動力を出力する内燃機関と、充放電が可能な二次電池と、該二次電池からの電力により前記駆動軸に動力を出力する電動機と、前記二次電池の状態に基づいて該二次電池の放電に許容される電力である許容放電電力を設定する許容放電電力設定手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
停車中に前記内燃機関の出力軸が回転している場合に前記設定された許容放電電力が所定の閾値以上のときに前記ギヤ機構を含む駆動系のギヤを一方向側に押し当てるための押し当てトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御する押し当て制御を実行し、該押し当て制御の実行中に前記設定された許容放電電力が前記所定の閾値未満となったときに該押し当て制御を解除する押し当て制御手段と、
前記押し当て制御が解除されてから所定時間に亘って前記押し当て制御手段による前記押し当て制御の再実行を制限する再実行制限手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の自動車では、停車中に内燃機関の出力軸が回転している場合に設定された許容放電電力が所定の閾値以上のときにギヤ機構を含む駆動系のギヤを一方向側に押し当てるための押し当てトルクが電動機から出力されるよう電動機を制御する押し当て制御を実行し、押し当て制御の実行中に設定された許容放電電力が所定の閾値未満となったときに押し当て制御を解除し、押し当て制御を解除してから所定時間に亘って押し当て制御の再実行を制限する。これにより、押し当て制御の実行機会を増やすために所定の閾値をできるだけ低いものとしても、押し当て制御の解除後に押し当て制御の再実行をされにくくすることができる。この結果、停車中に押し当てトルクの出力と解除とが頻繁に繰り返されるのを抑制することができる。ここで、再実行制限手段は、所定時間に亘って押し当て制御の実行の判定に用いられる閾値だけを所定の閾値よりも大きな閾値とするものとしてもよいし、あるいは、所定時間に亘って押し当て制御の再実行を禁止するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】バッテリ50における電池温度Tbと入出力制限Win,Woutとの関係の一例を示す説明図である。
【図3】実施例のHVECU70により実行される押し当てトルク設定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪63a,63bにデファレンシャルギヤ62を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42をスイッチング制御することによりモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、乗員室の空調装置におけるエアコンプレッサなどの補機90と、インバータ41,42やバッテリ50が接続された電力ライン54に取り付けられて補機90を駆動する駆動回路92と、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信により各種制御信号やデータをやりとりして車両全体をコントロールするハイブリッドECU(以下、HVECUという)70と、を備える。なお、エンジンECU24は、図示しないクランク角センサからの信号に基づいてエンジン22の回転数Neを演算する。
【0012】
バッテリECU52は、電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてバッテリ50に蓄えられている蓄電量の全容量(蓄電容量)に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと温度センサ51により検出された電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりする。図2に電池温度Tbと入出力制限Win,Woutとの関係の一例を示す。
【0013】
HVECU70は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートおよび通信ポートとを備える。HVECU70には、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、HVECU70からは、駆動回路92への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0014】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、走行中には、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力が駆動軸32に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸32に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0015】
また、ハイブリッド自動車20は、停車中には、バッテリ50の蓄電割合SOCが所定割合未満となるなどの負荷運転要求が成立するときにエンジン22を負荷運転する停車時負荷運転モードやエンジン22の冷却水の温度が所定温度未満となるなどの自立運転要求が成立するときにエンジン22を自立運転する停車時自立運転モードなどがある。また、これらの停車時負荷運転モードや停車時自立運転モードでは、エンジン22の始動や停止に伴うポンピングロスやエンジン22のトルク脈動などによりプラネタリギヤ30やデファレンシャルギヤ62などの各ギヤ(以下、駆動系のギヤという)に歯打ち音が生じるのを抑制するため、駆動系のギヤを一方向側に押し当ててガタ詰めするためのトルクとしての押し当てトルクTpをモータMG2から出力する押し当て制御が行なわれる。なお、押し当てトルクTpは初期値は値0で後述する押し当てトルク設定処理において所定値Tsetが設定されるものであり、所定値Tsetが設定されているときを押し当て制御の実行と称し、値0が設定されているときを押し当て制御の解除と称する。
【0016】
停車時負荷運転モードにおけるエンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、エンジン22の目標回転数にバッテリ50を充電するために予め設定された充電用回転数を設定すると共に目標トルクに充電用トルクを設定してエンジン22を運転制御し、エンジン22の回転数を目標回転数にするための回転数フィードバック制御によりモータMG1のトルク指令を設定すると共に設定したトルク指令でモータMG1を駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクを打ち消すためのキャンセルトルクと押し当てトルクTpとの和に基づいてモータMG2のトルク指令を設定してモータMG1,MG2を駆動制御する。
【0017】
停車時自立運転モードにおけるエンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、エンジン22の目標回転数に所定のアイドル回転数を設定すると共に目標トルクに値0を設定してエンジン22を運転制御し、モータMG1のトルク指令に値0を設定すると共に押し当てトルクTpに基づいてモータMG2のトルク指令を設定してモータMG1,MG2を駆動制御する。
【0018】
また、エンジン22が停止している状態で負荷運転要求や自立運転要求が成立してエンジン22を始動するときには、モータMG1のトルク指令に予め定められた始動用トルクを設定すると共に設定した始動用トルクでモータMG1を駆動したときに駆動軸32に作用するトルクを打ち消すためのキャンセルトルクと押し当てトルクTpとの和に基づいてモータMG2のトルク指令を設定してモータMG1,MG2を駆動制御する始動制御が行なわれる。一方、停車時負荷運転モードや停車時自立運転モードでのエンジン22の運転中に負荷運転要求や自立運転要求が不成立となってエンジン22を停止するときには、モータMG1のトルク指令に予め定められた停止用トルクを設定すると共に設定した停止用トルクでモータMG1を駆動したときのキャンセルトルクと押し当てトルクTpとの和に基づいてモータMG2のトルク指令を設定してモータMG1,MG2を駆動制御する停止制御が行なわれる。
【0019】
次に、停車中の駆動制御で用いられる押し当てトルクTpの設定について説明する。図3は、HVECU70により実行される押し当てトルク設定処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、停車中に所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0020】
押し当てトルク設定処理が実行されると、HVECU70のCPUは、まず、エンジン22の回転数Neやバッテリ50の出力制限Woutなど処理に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランク角センサからの信号に基づいて演算されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、バッテリ50の出力制限Woutは、バッテリ50の蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。こうしてデータを入力すると、エンジン22の回転数Neが値0よりも大きいか否かを判定する(ステップS110)。ここで、エンジン22の始動制御中や停止制御中,運転中(負荷運転中や自立運転中)には回転数Neが値0よりも大きいと判定し、エンジン22が停止しているときには回転数Neが値0よりも大きくないと判定する。エンジン22の回転数Neが値0よりも大きいときには、エンジン22の始動や停止に伴うポンピングロスやエンジン22のトルク脈動などにより駆動系の各ギヤに歯打ち音が生じる可能性があるため、ステップS110の判定は、歯打ち音を抑制するために押し当て制御を実行する必要があるか否かを判断するものとなる。
【0021】
ステップS110でエンジン22の回転数Neが値0より大きいと判定したときには、押し当て制御が解除中であるか否かを判定する(ステップS120)。押し当て制御が解除中のときには、押し当て制御の実行に対する制限としての実行制限がなされていないか否かを判定する(ステップS130)。ここで、実行制限の詳細については後述するが、押し当て制御が解除された後の押し当て制御の再実行に対する制限であるため、まずは実行制限がなされていない場合を説明する。実行制限がなされていないときには、バッテリ50の出力制限Woutが閾値Wref以上であるか否かを判定し(ステップS140)、出力制限Woutが閾値Wref以上であるときには、押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定して(ステップS150)、本処理を終了する。一方、出力制限Woutが閾値Wref以上でないときには、そのまま本処理を終了する。なお、押し当てトルクTpの初期値は値0であるため、本処理をそのまま終了した場合には押し当てトルクTpは値0のままとなる。ここで、閾値Wrefは、モータMG2から押し当てトルクTpを出力してもエンジン22の始動制御や停止制御,運転(負荷運転や自立運転)を適切に行なうことができる出力制限Woutの範囲のうちできるだけ低い値として、例えば、モータMG1からの始動用トルクの出力に必要な電力とモータMG2からの押し当てトルクTpの出力に必要な電力との和よりも若干高い値などに設定されるものとした。このような値を閾値Wrefに設定したのは、モータMG2から押し当てトルクTpを出力する機会をできるだけ増やして歯打ち音の発生の抑制を図ることを目的としている。一方で、押し当てトルクTpの解除の判定に閾値Wrefに対して十分なヒステリシスをもった閾値を用いると、エンジン22の始動制御や停止制御などを適切に行なうことができないおそれが生じるため、後述するように押し当てトルクTpの解除の判定にも閾値Wrefが用いられる。なお、本処理において押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定する際には、所定トルクTsetに向けてレート処理を用いて設定するものなどとしてもよい。
【0022】
こうして押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定すると、押し当て制御が実行されることになるから、次回に本処理が実行されたときにステップS120で押し当て制御は解除中ではないと判定し、バッテリ50の出力制限Woutが閾値Wref未満であるか否かを判定する(ステップS160)。そして、出力制限Woutが閾値Wref未満でないときには、そのまま本処理を終了し、押し当てトルクTpには所定トルクTsetが保持される。一方、出力制限Woutが閾値Wref未満であるときには、押し当て制御を解除するために押し当てトルクTpに値0を設定し(ステップS170)、HVECU70の図示しないタイマTを値0にリセットしてからスタートさせて押し当て制御の実行を制限して(ステップS180)、本処理を終了する。なお、本処理において押し当てトルクTpに値0を設定する際にもレート処理を用いて設定するものとしてもよい。
【0023】
こうして押し当て制御の解除後に押し当て制御の実行を制限すると、次回に本処理が実行されたときにはステップS130で実行制限がなされていると判定し、タイマTの経過時間が所定時間Tref未満であるか否かを判定する(ステップS190)。ここで、所定時間Trefは、例えば、数秒程度の値として定められているものとした。タイマTが所定時間Tref未満のときには、バッテリ50の出力制限Woutが閾値Wrefにマージンαを加えた閾値(Wref+α)以上であるか否かを判定し(ステップS200)、出力制限Woutが閾値(Wref+α)以上のときに押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定して(ステップS210)、本処理を終了する。一方、出力制限Woutが閾値(Wref+α)以上ではないときには、そのまま本処理を終了し、押し当てトルクTpは値0のままとされる。
【0024】
ここで、バッテリ50の蓄電割合SOCは、エンジン22の運転状態やモータMG1,MG2の駆動状態の変化に基づくバッテリ50の充放電状態の変化やエアコンプレッサなどの補機90の負荷の変化,バッテリ50の電池温度Tbの変化などによりわずかに変動する場合がある。そのような場合に、出力制限Woutが閾値Wref近傍に設定されていれば、出力制限Woutが閾値Wref近傍で変動して閾値Wrefを上回ったり下回ったりすることがある。マージンαとしては、そのような出力制限Woutの変動分を超える程度の値として、予め実験などにより定められているものとした。そして、実施例では、押し当て制御の実行制限がなされてから所定時間Trefが経過するまでの間は出力制限Woutが閾値(Wref+α)以上にならない限り押し当て制御は再実行されないから、出力制限Woutが閾値Wref近傍で変動することにより押し当て制御が解除された直後に押し当て制御が再実行されるのを抑制することができる。なお、実行制限しているときに出力制限Woutが閾値(Wref+α)以上になって押し当て制御を再実行した場合であっても、解除判定には閾値Wrefがそのまま用いられステップS160で出力制限Woutが閾値Wref未満となったときに押し当て制御が解除される。このため、マージンαは、押し当て制御を解除した以降の押し当て制御の再実行と再実行後の解除に対するヒステリシスとしても機能することがわかる。これらのことから、押し当て制御の再実行の判定に閾値Wrefに代えて閾値(Wref+α)を用いることで、押し当て制御の実行と解除とが頻繁に繰り返されるのを抑制することができる。したがって、押し当てトルクTpを出力する機会をできるだけ増やすために閾値Wrefにできるだけ低い値を設定するものとしても、押し当てトルクTpの出力のハンチングを抑制することができ、ハイブリッド自動車20に振動などが生じるのを防止することができる。
【0025】
一方、ステップS190でタイマTの経過時間が所定時間Tref以上と判定すると、押し当て制御の実行制限を解除する(ステップS220)。実行制限が解除されると、押し当て制御の実行の判定には再び閾値Wrefが用いられ、ステップS140でバッテリ50の出力制限Woutが閾値Wref以上と判定したときに続くステップS150で押し当てトルクTpに所定トルクTsetが設定されて押し当て制御が再実行されることになる。この場合には、既に所定時間Trefが経過しており、短時間の間に押し当て制御の実行と解除とが頻繁に繰り返されるものとはならないから、ハイブリッド自動車20に振動が生じるおそれは少ない。
【0026】
また、ステップS110でエンジン22の回転数Neが値0を超えないと判定したときには、エンジン22は停止しており押し当て制御を実行する必要はないと判断することができる。このため、押し当て制御を実行中であるか否かを判定して(ステップS230)、押し当て制御を実行中であれば、押し当てトルクTpに値0を設定して(ステップS240)、押し当て制御の実行制限をすることなく本処理を終了する。ここで、エンジン22の停止により押し当て制御が解除された場合には、エンジン22が再始動されない限り押し当て制御が再実行されないから、押し当て制御の解除と再実行とが短時間の間に繰り返されるおそれは少ないと考えることができる。このため、実行制限をすることなく本処理を終了するのである。
【0027】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、停車中にエンジン22を始動するときや停止するとき,運転しているときには、バッテリ50の出力制限Woutが閾値Wref以上のときに押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定してモータMG2から出力する押し当て制御を実行し、押し当て制御の実行中に出力制限Woutが閾値Wref未満となったときに押し当てトルクTpを値0に設定し押し当て制御を解除して押し当て制御の実行を制限し、実行制限してから所定時間Trefが経過するまでは出力制限Woutが閾値Wrefにマージンαを加えた閾値(Wref+α)以上となったときに押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定して押し当て制御を再実行するから、出力制限Woutが閾値Wref近傍で変動したとしても、押し当て制御の実行と解除とが頻繁に繰り返されるのを抑制することができる。
【0028】
実施例のハイブリッド自動車20では、所定時間Trefが経過するまで押し当て制御の実行を判定するための閾値を閾値Wrefよりも大きな閾値(Wref+α)とすることで押し当て制御の再実行を制限するものとしたが、所定時間Trefが経過するまで押し当て制御の再実行を禁止することにより押し当て制御の再実行を制限するものとしてもよい。その場合、図3の押し当てトルク設定処理において、ステップS200,S210の処理を省略するものとすればよい。
【0029】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50の放電に許容される許容放電電力としての出力制限Woutを演算するバッテリECU52が「許容放電電力設定手段」に相当し、プラネタリギヤ30やデファレンシャルギヤ62などの駆動系のギヤが「ギヤ機構」に相当し、エンジン22を始動するときや停止するとき,運転しているときにはバッテリ50の出力制限Woutが閾値Wref以上のときに押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定し押し当て制御の実行中に出力制限Woutが閾値Wref未満のときに押し当てトルクTpに値0を設定し押し当て制御の実行制限がなされているときに出力制限Woutが閾値(Wref+α)以上のときに押し当てトルクTpに所定トルクTsetを設定する図3の押し当てトルク設定処理のステップS100〜S170,S200,S210の処理を実行したり押し当てトルクTpとキャンセルトルクとに基づくトルク指令や押し当てトルクTpに基づくトルク指令を設定したりするHVECU70と設定されたトルク指令に基づいてインバータ42をスイッチング制御することによりモータMG2を駆動制御するモータECU40とが「押し当て制御手段」に相当し、バッテリ50の出力制限Woutが閾値Wref未満となって押し当てトルクTpに値0が設定された後にタイマTをスタートさせてタイマTが所定時間Tref未満のときには押し当てトルクTpの設定の判定に用いる閾値を閾値Wrefよりも大きな閾値(Wref+α)とすることにより押し当て制御の実行を制限しタイマTが所定時間Tref以上になると押し当て制御の実行制限を解除する図3の押し当てトルク設定処理のステップS180,S190,S220の処理を実行するHVECU70が「再実行制限手段」に相当する。
【0030】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0031】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッドECU(HVECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 駆動回路、92 補機、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸にギヤ機構を介して動力の伝達が可能な駆動軸に動力を出力する内燃機関と、充放電が可能な二次電池と、該二次電池からの電力により前記駆動軸に動力を出力する電動機と、前記二次電池の状態に基づいて該二次電池の放電に許容される電力である許容放電電力を設定する許容放電電力設定手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
停車中に前記内燃機関の出力軸が回転している場合に前記設定された許容放電電力が所定の閾値以上のときに前記ギヤ機構を含む駆動系のギヤを一方向側に押し当てるための押し当てトルクが前記電動機から出力されるよう該電動機を制御する押し当て制御を実行し、該押し当て制御の実行中に前記設定された許容放電電力が前記所定の閾値未満となったときに該押し当て制御を解除する押し当て制御手段と、
前記押し当て制御が解除されてから所定時間に亘って前記押し当て制御手段による前記押し当て制御の再実行を制限する再実行制限手段と、
を備えるハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136047(P2012−136047A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287721(P2010−287721)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】