説明

ハイブリッド自動車

【課題】エンジン始動時のショックをより適切に抑制する。
【解決手段】アイドル制御量の学習値ISCが吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど小さくなる傾向にエンジンをクランキングするためのモータMG1のトルク指令Tm1*を定めるから(S120)、学習値ISCが大きくなって吸入空気量が増量されても、エンジンの回転数Neの吹き上がりを抑制することができる。また、アイドル制御量の学習値ISCが吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど大きくなる傾向にモータMG2のキャンセルトルクTαを定めるから(S160)、学習値ISCが大きくなって吸入空気量が増量されても、エンジンの初爆時のトルク変動を適切にキャンセルすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンと、モータMG1と、エンジンの出力軸とモータMG1の回転軸と車軸に連結された駆動軸との3軸に3つの回転要素が接続されたプラネタリギヤと、駆動軸に動力を出力するモータMG2と、を備え、エンジンを始動する際にはアイドル回転数を目標回転数としてエンジンをクランキングするためのトルクをモータMG1から出力しアイドルスピードコントロールバルブ(ISCV)により吸入空気量を調節して、エンジンの回転数と吸入空気量とが安定すると、燃料噴射制御と点火制御とを開始するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、エンジンを始動する際の初爆のタイミングで、初爆に伴って駆動軸に作用するトルクをキャンセルするためのキャンセルトルクをモータMG2から出力するものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−222064号公報
【特許文献2】特開2008−201350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなハイブリッド自動車においては、通常は、エンジンをアイドル運転する際に、エンジンの回転数をアイドル回転数で維持するためのISCVの制御量を学習し、その学習値を用いて次回以降のアイドル運転が行なわれている。エンジンの始動時においても、その学習値を用いた吸入空気量の補正がなされており、学習値の大小により吸入空気量が増減されるから、エンジン始動時のトルクの大きさも増減することになる。このため、学習値を考慮することなく上述したクランキングトルクやキャンセルトルクを出力すると、トルクに過不足が生じてエンジン始動時にショックが発生することがある。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、エンジン始動時のショックをより適切に抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1のハイブリッド自動車は、
エンジンと、第1のモータと、前記エンジンの出力軸と前記第1のモータの回転軸と車軸側とに接続されたプラネタリギヤと、前記車軸側に動力を出力可能な第2のモータと、前記エンジンがアイドル運転される際のアイドル制御量を学習する学習手段と、前記エンジンを始動する際には該エンジンをクランキングするためのクランキングトルクが前記第1のモータから出力され該クランキング中に前記アイドル制御量の学習値に基づいて補正した吸入空気量をもって該エンジンが始動制御され該エンジンの初爆時に前記車軸側に生じるトルク変動をキャンセルするためのキャンセルトルクが前記第2のモータから出力されるよう前記エンジンと前記第1のモータと前記第2のモータとを制御する始動時制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記始動時制御手段は、前記アイドル制御量の学習値が吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど前記キャンセルトルクが大きくなるよう前記第2のモータを制御する手段である
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の第1のハイブリッド自動車では、エンジンがアイドル運転される際のアイドル制御量を学習し、そのアイドル制御量の学習値が吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど、エンジンの初爆時に車軸側に生じるトルク変動をキャンセルするためのキャンセルトルクが大きくなるよう第2のモータを制御する。これにより、アイドル制御量の学習値の大小によって吸入空気量が増減されても、エンジンの初爆時のトルク変動を適切にキャンセルすることができる。この結果、エンジン始動時のショックをより適切に抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の第1のハイブリッド自動車において、前記始動時制御手段は、前記アイドル制御量の学習値が吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど前記クランキングトルクが小さくなるよう前記第1のモータを制御する手段であるものとすることもできる。
【0010】
本発明の第2のハイブリッド自動車は、
エンジンと、第1のモータと、前記エンジンの出力軸と前記第1のモータの回転軸と車軸側とに接続されたプラネタリギヤと、前記車軸側に動力を出力可能な第2のモータと、前記エンジンがアイドル運転される際のアイドル制御量を学習する学習手段と、前記エンジンを始動する際には該エンジンをクランキングするためのクランキングトルクが前記第1のモータから出力され該クランキング中に前記アイドル制御量の学習値に基づいて補正した吸入空気量をもって該エンジンが始動制御され該エンジンの初爆時に前記車軸側に生じるトルク変動をキャンセルするためのキャンセルトルクが前記第2のモータから出力されるよう前記エンジンと前記第1のモータと前記第2のモータとを制御する始動時制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記始動時制御手段は、前記アイドル制御量の学習値が吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど前記クランキングトルクが小さくなるよう前記第1のモータを制御する手段である
ことを要旨とする。
【0011】
この本発明の第2のハイブリッド自動車では、エンジンがアイドル運転される際のアイドル制御量を学習し、そのアイドル制御量の学習値が吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど、エンジンをクランキングするためのクランキングトルクが小さくなるよう第1のモータを制御する。これにより、アイドル制御量の学習値の大小によって吸入空気量が増減されても、エンジンの回転数が吹き上がるのを抑制することができる。この結果、エンジン始動時のショックをより適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例のハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】始動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】エンジン22を始動する際のモータMG1のトルク指令Tm1*とエンジン22の回転数Neと経過時間tと学習値ISCとの関係の一例を示す説明図である。
【図4】モータMG2のキャンセルトルクTαと経過時間tと学習値ISCとの関係の一例を示す説明図である。
【図5】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例のハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、モータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、インバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという)70と、を備える。なお、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU50,HVECU70は、図示しないが、それぞれ、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、格納したデータを保持する不揮発性のフラッシュメモリと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートなどとを備える。
【0015】
エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号、例えば、エンジン22の冷却水の温度を検出する図示しない水温センサからの冷却水温や吸気管に取り付けられた図示しないエアフローメータからの吸入空気量などが入力ポートを介して入力されており、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、図示しない燃料噴射弁への駆動信号や図示しないスロットルバルブのポジションを調節するスロットルモータへの駆動信号,図示しないイグニッションコイルへの制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。また、エンジンECU24は、エンジン22をアイドル運転する際に、その回転数Neをアイドル回転数Nidl(例えば1000rpmや1200rpmなど)で維持するのに必要なアイドル制御量としてのスロットルバルブのポジションを学習して(以下、学習値ISCとする)、図示しないフラッシュメモリに記憶する。フラッシュメモリに記憶された学習値ISCは、次回のアイドル運転に用いられ、学習値ISCが大きいほど吸入空気量を増量させる方向に大きくなるようスロットルバルブのポジションを調節する吸入空気量制御が行なわれる。
【0016】
モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチングするためのスイッチング制御信号が出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算する。
【0017】
バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧やバッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力ポートを介して入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度とに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりする。
【0018】
HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。HVECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0019】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードとは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動力36に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0020】
実施例のハイブリッド自動車20は、モータ運転モードで運転している最中に、運転者によりアクセルペダル83が大きく踏み込まれて(例えば、アクセル開度ACCが全開)バッテリ50からの電力だけでは要求動力を賄うことができないときや、バッテリ50の蓄電割合SOCがエンジン運転モードに切り替えるために予め定められた閾値以下になったとき、その他、車両の状態がエンジン運転モードに切り替えるために予め定められた状態に至ったときに、エンジン22の始動が要求されたとして、エンジン22を始動してエンジン運転モードに移行する。また、実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン運転モードで運転している最中に、バッテリ50の蓄電割合SOCが閾値以上で要求動力をバッテリ50からの放電で賄うことができるときや、運転者により図示しないモータ走行スイッチが押されたとき、その他、車両の状態がモータ運転モードに切り替えるために予め定められた状態に至ったときに、エンジン22の運転を停止してモータ運転モードに移行する。
【0021】
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に運転停止しているエンジン22を始動する際の動作について説明する。図2は、HVECU70により実行される始動時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン22の始動が要求されたときに実行される。
【0022】
この始動時制御ルーチンが実行されると、HVECU70のCPUは、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,エンジン22の回転数Ne,エンジン22のアイドル制御量としての学習値ISC,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクシャフト26に取り付けられたクランクポジションセンサからの信号に基づいて演算されたものをエンジンECU24から通信により入力し、学習値ISCは、エンジンECU24により学習されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されるモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。さらに、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、温度センサにより検出されたバッテリ50の電池温度とバッテリ50の蓄電割合SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0023】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定する(ステップS110)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて図示しない要求トルク設定用マップとしてROMに記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。
【0024】
続いて、エンジン22の回転数Neと経過時間tと学習値ISCとに基づいてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する(ステップS120)。エンジン22を始動する際のモータMG1のトルク指令Tm1*とエンジン22の回転数Neと経過時間tと学習値ISCとの関係の一例を図3に示す。図示するように、エンジン22の始動指示がなされた時間t1の直後からレート処理を用いて比較的大きなトルクを迅速にトルク指令Tm1*に設定してエンジン22の回転数Neを迅速に増加させる。エンジン22の回転数Neが共振回転数帯を通過した時間t2以降にエンジン22を安定して回転数Nref以上でクランキングするためのトルク(以下、2段目のクランキングトルクとする)をトルク指令Tm1*に設定する。なお、回転数Nrefは、例えば1000rpmや1200rpmなどに設定されている。そして、エンジン22の回転数Neが回転数Nrefに至った時間t3からレート処理を用いて迅速にトルク指令Tm1*を値0とし、エンジン22の完爆が判定された時間t4から発電用のトルクをトルク指令Tm1*に設定する。ここで、時間t2から設定される2段目のクランキングトルクは、学習値ISCに応じてその値が変更されるよう定められており、具体的には、学習値ISCが吸入空気量を増量する方向に大きくなるほど小さくなるよう定められている。このクランキングトルクは、エンジン22の回転を持ち上げる方向に作用し、学習値ISCが大きくなって吸入空気量が増量されるほどエンジン22の回転数Neが上昇しやすくなるから、学習値ISCに拘わらず一定のトルクを2段目のクランキングトルクに設定すると、エンジン22の初爆時に回転数Neの上昇が助長されて回転数Neが吹き上がることがある。そこで、学習値ISCが吸入空気量を増量する方向に大きくなるほど小さくなる傾向に2段目のクランキングトルクを定めることで、エンジン22の回転数Neの吹き上がりを抑制するのである。
【0025】
こうしてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定すると、エンジン22の回転数Neが回転数Nref以上となったか否かを判定する(ステップS130)。エンジン22の始動指示がなされた直後などエンジン22の回転数Neが回転数Nref未満であるときには、キャンセルトルクTαに値0を設定する(ステップS140)。ここで、キャンセルトルクTαは、エンジン22の初爆時に駆動軸36に生じるトルク変動をキャンセルするために、モータMG2から出力するトルクを補正するトルクとして設定されるものである。このため、エンジン22の初爆時以外には、値0に設定される。
【0026】
次に、バッテリ50の入出力制限Win,Woutと設定したモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを次式(1)および式(2)により計算すると共に(ステップS170)、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*とプラネタリギヤ30のギヤ比ρ(サンギヤの歯数をリングギヤの歯数で割った値)を用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを式(3)により計算し(ステップS180)、計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値にキャンセルトルクTαを加えたものをモータMG2のトルク指令Tm2*として設定する(ステップS190)。なお、上述の式(3)は、プラネタリギヤ30の回転要素に対する力学的な関係式であり、図示は省略するが、プラネタリギヤ30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図から導くことができる。
【0027】
Tmin=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 (1)
Tmax=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (2)
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (3)
【0028】
続いて、設定したモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する(ステップS200)。トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。そして、エンジン22が完爆したか否かを判定し(ステップS210)、完爆していないときにはステップS100に戻り、完爆しているときには始動時制御ルーチンを終了する。ここで、エンジン22の回転数Neが回転数Nrefより小さいときには、エンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御の開始が指示されていないから、ステップS100の処理に戻ることになる。
【0029】
エンジン22の回転数Neが回転数Nref以上になると(ステップS130)、エンジンECU24に吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御の開始を指示する(ステップS150)。吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御の開始指示を受信したエンジンECU24は、エンジン始動時の吸入空気量を学習値ISCに基づいて補正した吸入空気量が吸入されるようスロットルバルブのポジションを調節する吸入空気量制御と、吸入空気量に対して噴射すべき燃料噴射量に各種補正を施した燃料噴射量が適切なタイミングで燃焼室内に噴射されるよう燃料噴射弁を駆動する燃料噴射制御と、燃焼室内に噴射された燃料が適切なタイミングで点火プラグにより点火されるようイグニッションコイルを制御する点火制御とを開始して、エンジン22を始動制御する。
【0030】
次に、エンジンECU24に吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御の開始を指示してからの経過時間tと学習値ISCとに基づいてモータMG2のキャンセルトルクTαを設定する(ステップS160)。モータMG2のキャンセルトルクTαと経過時間tと学習値ISCとの関係の一例を図4に示す。実施例では、吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御が開始されてからエンジン22から初爆トルクが出力されるまでの遅れ時間や初爆トルクの出力完了までの時間などを予め実験などにより求め、遅れ時間が経過した時間t5から初爆が完了する時間t6まで、エンジン22の初爆時のトルク変動をキャンセルするのに必要なトルクをキャンセルトルクTαに設定する。なお、キャンセルトルクTαは、エンジン22の図示しない吸気温センサにより検出される吸気温や図示しない負圧検出センサにより検出される吸気圧,図示しない冷却水温センサにより検出される冷却水温などの値に応じて補正して設定するものなどとしてもよい。ここで、キャンセルトルクTαは、学習値ISCに応じてその値が変更されるよう定められており、具体的には、学習値ISCが吸入空気量を増量する方向に大きくなるほどキャンセルトルクとして大きくなるよう即ち負側に大きくなるよう定められている。学習値ISCが大きくなるほど吸入空気量が増量されて、エンジン22のトルクが大きくなりやすくなるから、学習値ISCに拘わらず一定のトルクをキャンセルトルクTαに設定すると、エンジン22の初爆時のトルク変動を適切にキャンセルできないことがある。そこで、学習値ISCが吸入空気量を増量する方向に大きくなるほど大きくなる傾向にキャンセルトルクTαを定めることで、エンジン22の初爆時のトルク変動を適切にキャンセルするのである。
【0031】
こうしてキャンセルトルクTαを設定すると、モータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを計算すると共に(ステップS170)、モータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを計算し(ステップS180)、計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値にキャンセルトルクTαを加えたものをモータMG2のトルク指令Tm2*として設定し(ステップS190)、設定したモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信し(ステップS200)、エンジン22が完爆したか否かを判定する(ステップS210)。完爆していないときにはステップS100に戻り処理を繰り返し、完爆しているときには始動時制御ルーチンを終了する。
【0032】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、アイドル制御量の学習値ISCが吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど小さくなる傾向に2段目のクランキングトルクを定めるから、学習値ISCが大きくなって吸入空気量が増量されても、エンジン22の回転数Neの吹き上がりを抑制することができる。また、アイドル制御量の学習値ISCが吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど大きくなる傾向にキャンセルトルクTαを定めるから、学習値ISCが大きくなって吸入空気量が増量されても、エンジン22の初爆時のトルク変動を適切にキャンセルすることができる。この結果、エンジン始動時のショックをより適切に抑制することができる。
【0033】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG1から出力する2段目のクランキングトルクとモータMG2から出力するキャンセルトルクTαとを共に学習値ISCに基づいて変更するものとしたが、これに限られず、2段目のクランキングトルクだけを変更するものとしてもよいし、キャンセルトルクTαだけを変更するものとしてもよい。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図5の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力を駆動軸36が接続された車軸(駆動輪38a,38bが接続された車軸)とは異なる車軸(図5における車輪39a,39bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0035】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、モータMG1が「第1のモータ」に相当し、プラネタリギヤ30が「プラネタリギヤ」に相当し、モータMG2が「第2のモータ」に相当し、図2の始動時制御ルーチンを実行するHVECU70とトルク指令Tm1*,Tm2*に基づいてモータMG1とモータMG2とを制御するモータECU40と学習値ISCに基づいて補正した吸入空気量をもってエンジン22を始動制御するエンジンECU24とが「始動時制御手段」に相当する。
【0036】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0037】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
20,120 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、39a,39b 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、第1のモータと、前記エンジンの出力軸と前記第1のモータの回転軸と車軸側とに接続されたプラネタリギヤと、前記車軸側に動力を出力可能な第2のモータと、前記エンジンがアイドル運転される際のアイドル制御量を学習する学習手段と、前記エンジンを始動する際には該エンジンをクランキングするためのクランキングトルクが前記第1のモータから出力され該クランキング中に前記アイドル制御量の学習値に基づいて補正した吸入空気量をもって該エンジンが始動制御され該エンジンの初爆時に前記車軸側に生じるトルク変動をキャンセルするためのキャンセルトルクが前記第2のモータから出力されるよう前記エンジンと前記第1のモータと前記第2のモータとを制御する始動時制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記始動時制御手段は、前記アイドル制御量の学習値が吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど前記キャンセルトルクが大きくなるよう前記第2のモータを制御する手段である
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】
エンジンと、第1のモータと、前記エンジンの出力軸と前記第1のモータの回転軸と車軸側とに接続されたプラネタリギヤと、前記車軸側に動力を出力可能な第2のモータと、前記エンジンがアイドル運転される際のアイドル制御量を学習する学習手段と、前記エンジンを始動する際には該エンジンをクランキングするためのクランキングトルクが前記第1のモータから出力され該クランキング中に前記アイドル制御量の学習値に基づいて補正した吸入空気量をもって該エンジンが始動制御され該エンジンの初爆時に前記車軸側に生じるトルク変動をキャンセルするためのキャンセルトルクが前記第2のモータから出力されるよう前記エンジンと前記第1のモータと前記第2のモータとを制御する始動時制御手段と、を備えるハイブリッド自動車において、
前記始動時制御手段は、前記アイドル制御量の学習値が吸入空気量を増量させる方向に大きくなるほど前記クランキングトルクが小さくなるよう前記第1のモータを制御する手段である
ことを特徴とするハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67298(P2013−67298A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208146(P2011−208146)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】