説明

ハイブリッド車の補機駆動機構

【課題】どの様な走行状態であっても補機の作動を確保することが出来て、しかも、走行モータ側から伝達される動力と補機駆動用モータ側から伝達される動力を円滑に切り替えることが出来るハイブリッド車の補機駆動機構の提供。
【解決手段】走行駆動系から動力を取り出す駆動力取出機構(7)を備え、駆動力取出機構(7)の出力軸(11)と補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)が接続されており、出力軸(11)には第1のブレーキ装置(16)が、出力軸(12)には第2のブレーキ装置(18)がそれぞれ介装され、制御装置(60)は走行駆動系の回転数を入とし、その回転数が設定回転数(N1)以上であるか否かによって、補機駆動用モータ(13)を停止、駆動を行う機能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機(走行用モータ)が発生する駆動力のみで走行する場合が存在するハイブリッド車(ハイブリッド電気自動車)において、各種補機を駆動するための機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車においても、走行に際しては、パワーステアリングを駆動するポンプ(いわゆる「パワステポンプ」)や、ブレーキ等で用いられる圧縮エアを供給するコンプレッサ(いわゆる「エアコンプレッサ」)や、車両用空調装置で冷媒を圧縮するためのコンプレッサ(いわゆる「クーラコンプレッサ」)等を駆動しなければならず、各種補機の駆動を確保する必要がある。
【0003】
図12は、ハイブリッド車ではない通常の車両のドライブラインを示している。
図12で示す車両においては、補機20は駆動力取出機構7aで駆動しており、駆動力取出機構7aはエンジン1の駆動力を取り出している。
【0004】
図13は、パラレルハイブリッド車の1例を示している。
図13の車両では、エンジン1を停止して走行用モータ5で走る時間が長い(例えば発進時)場合等においては、エンジン1は走行用モータ5の駆動力を補機20に伝達する補機駆動用伝達機構として作用する。すなわち、走行用モータ5の駆動力は、エンジン1、駆動力取出機構7aを介して、補機20に伝達される。
しかし、図13で示す様なタイプのハイブリット車では、走行用モータ5による走行時間が長くなると、補機駆動用伝達機構としてエンジン1を空回ししなければならないので、エンジン1を空回しする際の抵抗損失が大きくなってしまうという問題を有している。
【0005】
その他の従来技術としては、例えば、図14で示すように、補機20を補機駆動用モータ13と、走行用モータ5により駆動するものが提案されている(特許文献1参照)。
図14の従来技術は、構成はシンプルであるが、クラッチ6aの切り替えのタイミングが不正確であると(ずれると)、走行用モータ5と補機駆動用モータ13とが動力干渉してしまう可能性が高く、補機駆動用モータ13や伝達機構を傷める恐れがある。
また、パワーステアリングを駆動するポンプ(パワステポンプ)や圧縮エアを供給するコンプレッサ(エアコンプレッサ)と、空調装置で冷媒を循環するためのクーラコンプレッサでは、運転条件が大きく異なるが、そのことに対する配慮がされていないという問題も有している。
【0006】
図15で示す従来技術(特許文献1参照)は補機駆動システムを2重に構成している。
図15で示す従来技術は、図14の従来技術における動力の干渉が生じないので、信頼性も高い。
しかし、補機駆動システムを2重に構成しているので、構成が複雑化すると共に、導入コストが高騰化してしまうという問題を有している。
また、パワステポンプやエアコンプレッサと、クーラコンプレッサでは運転条件が大きく異なる点についても、何等開示していない。
【0007】
図16で示す従来技術(特許文献2参照)も、図15の従来技術と同様に、補機駆動システムを2重に構成している。
そのため、図16の従来技術においても、補機駆動システムを2重に構成しているので、構成が複雑化すると共に、導入コストが高騰化してしまうという問題を有している。
そして、パワステポンプやエアコンプレッサと、クーラコンプレッサでは運転条件が大きく異なる点についても、解決されていない。
【0008】
図17で示す従来技術(特許文献2参照)も、補機駆動システムを2重に構成している。
そのため、構成が複雑化すると共に、導入コストが高騰化してしまうという問題と、パワステポンプやエアコンプレッサとクーラコンプレッサでは運転条件が大きく異なるという問題についても、解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3611731号公報
【特許文献2】特許第3685246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、どの様な走行状態であっても補機の作動を確保することが出来て、しかも、走行モータ側から伝達される動力と補機駆動用モータ側から伝達される動力を円滑に切り替えることが出来るハイブリッド車の補機駆動機構の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のハイブリッド車の補機駆動機構は、エンジン(1)及び走行用モータ(5)を有する走行駆動系から巻き掛け伝動機構によって動力を取り出す駆動力取出機構(7)を備え、駆動力取出機構(7)にはギヤボックス(10)を介して補機(20)(パワステポンプ、エアコンプレッサ、エアコンプレッサ等)が接続されており、ギヤボックス(10)には駆動力取出機構(7)の出力軸(36、38)と補機駆動用モータ(13)(補助モータ)の出力軸(12)が接続されており、駆動力取出機構(7)の出力軸(11)には第1のブレーキ装置(16)(走行モータ5側のクラッチ・ブレーキ機構)が介装されており、補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)には第2のブレーキ装置(18)(補助モータブレーキ)が介装されており、走行駆動系の回転数を計測する回転数計測装置(52)と、制御装置(60)を備えており、制御装置(60)には回転数計測装置(52)の計測結果(走行駆動系の回転数)が入力され、前記制御装置(60)は、走行駆動系から伝達される回転数が設定回転数(N1)(エンジンのアイドリング回転数近傍の低回転)以上であれば、補機駆動用モータ(13)を停止し、第2のブレーキ装置(18)を作動して(ブレーキ装置18を効かせて)、第1のブレーキ装置(16)を解除し(クラッチ・ブレーキ機構16のブレーキを解除してクラッチを接続し)、走行駆動系から伝達される回転数が設定回転数(N1)よりも低ければ、補機駆動用モータ(13)を駆動し、第1のブレーキ装置(16)を作動して(クラッチ・ブレーキ機構16のブレーキを効かせてクラッチを断にして)、第2のブレーキ装置(18)を解除する(ブレーキ装置18をゆるめる)機能を有していることを特徴としている。
【0012】
ここで、前記補機(20)としては、パワーステアリングを駆動するポンプ(21)(いわゆる「パワステポンプ」)と、エンジン潤滑油用ポンプと、圧縮エアを供給するコンプレッサ(22)(いわゆる「エアコンプレッサ」)と、空調装置で冷媒を圧縮するための空調用コンプレッサ(23)(いわゆる「クーラコンプレッサ」)等がある。
【0013】
また、前記ギヤボックス(10)の駆動力取出機構(7)の出力軸(11)と補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)とは同軸に配置されており、内歯が形成され且つ駆動力取出機構(7)の出力軸端部に設けられたリングギヤ(26)と、リングギヤ(26)の内歯と噛み合う外歯を有する複数のプラネタリギヤ(28)と、プラネタリギヤ(28)の外歯と噛み合う外歯を有するサンギヤ(30)と、プラネタリギヤ(28)の回転中心を接続して、プラネタリギヤ(28)がサンギヤ(30)の外歯に沿って回動するのと一体に回動するプラネタリギヤキャリヤ(32)とを有し、サンギヤ(30)は補機駆動用モータ(13)の出力軸端部に設けられており、プラネタリギヤキャリヤ(32)は補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)と同軸の回転軸を有し且つ補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)に対して相対回転可能であり、プラネタリギヤキャリヤ(32)の半径方向外縁部(32a)には外歯が形成されており、プラネタリギヤキャリヤ(32)の外歯と外接する第1の歯車(35)を有し、第1の歯車(35)の回転軸はパワーステアリングを駆動するポンプ(21)(いわゆる「パワステポンプ」)と、圧縮エアを供給するコンプレッサ(22)(いわゆる「エアコンプレッサ」)に接続しているのが好ましい(図2)。
【0014】
或いは、前記ギヤボックス(10)の駆動力取出機構(7)の出力軸(11)と補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)とは同軸に配置されており、駆動力取出機構(7)の出力軸(11)と補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)の各々には第1、第2のピニオンギヤ(70、71)が設けられ、(駆動力取出機構(7)の出力軸(11)に設けられた第1のピニオンギヤ70と補機駆動用モータ(13)の出力軸(12)に設けられた第2のピニオンギヤ(71)により構成される)一対の第1、第2のピニオンギヤ(70、71)と外接する一対の第3のピニオンギヤ(72)を設け、一対の第3のピニオンギヤ(72)は同一の棒状部材(74)(ピニオンギヤ(72)用の回転軸)を回転中心としており、外歯を形成しており且つ棒状部材(74)と一体に回転するリングギヤ(76)を有し、リングギヤ(76)の外歯と外接する第1の歯車(35A)を有し、第1の歯車(35)の回転軸(36)はパワーステアリング(21)を駆動するポンプ(いわゆる「パワステポンプ」)と、圧縮エアを供給するコンプレッサ(22)(いわゆる「エアコンプレッサ」)に接続しているのが好ましい(図11)。
【0015】
そして、前記第1の歯車(35A)と外接する第2の歯車(37A)を有し、第2の歯車(37A)の回転軸(38)は空調装置で冷媒を圧縮するための空調用コンプレッサ(23)(いわゆる「クーラコンプレッサ」)に接続されており、第2の歯車(37A)の回転軸(38)にはクラッチ(40)(電磁クラッチ)が介装されているのが好ましい。
【0016】
この場合、前記制御装置(60)には空調装置が作動しているか否かの信号(空調装置のON/OFF信号)が入力され、前記制御装置(60)は、空調装置が作動していない(空調装置のOFF信号が制御装置に入力されている)場合には前記クラッチ(40)を切断し、空調装置が作動している(空調装置のON信号が制御装置に入力されている)場合には前記クラッチ(40)を接続する機能を有しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上述する構成を具備する本発明によれば、補機駆動用モータ(13)を具備しているので、例えば各種施設内や商業地域等で内燃機関ではなく走行モータ(5)のみによりハイブリッド車を走行される際においても、パワステポンプ(21)、エアコンプレッサ(22)、クーラコンプレッサ(23)の作動が可能である。
【0018】
また、本発明によれば、第1のブレーキ装置(クラッチ・ブレーキ機構16)及び第2のブレーキ装置(18)を作動或いは解除することにより、シンプルな構成にて、走行駆動系(内燃機関或いは走行用モータ側)から伝達される動力と、補機駆動用モータ(13)から伝達される動力とを、容易且つ滑らかに切り替えることが出来る。
しかも、走行駆動系から伝達される動力と、補機駆動用モータ(13)から伝達される動力とが干渉せず、動力伝達系に無理が生じて破損してしまうことが防止される。
【0019】
ここで本発明において、走行駆動系(内燃機関或いは走行用モータ側)から駆動力を伝達するべき場合には補機駆動用モータ(13)を停止して第2のブレーキ装置(18)を作動するので、補機駆動用モータ(13)が作動している状態で第2のブレーキ装置(18)が作動して、補機駆動用モータ(13)が破損してしまうことがない。
一方、補機駆動用モータ(13)から駆動力を伝達するべき場合には、第1のブレーキ装置(16)が作動する。ここで、例えば、第1のブレーキ装置(16)をクラッチ・ブレーキ機構で構成し、第1のブレーキ装置(16)が作動する際に、クラッチ・ブレーキ機構のブレーキを効かせて、クラッチを断にすれば、走行駆動系(内燃機関或いは走行用モータ側)が破損してしまうことはない。
【0020】
すなわち、本発明によれば、補機動力を走行駆動系(内燃機関或いは走行用モータ側)から伝達することも可能であり、補機駆動用モータ(13)から伝達することも可能である。そして、第1のブレーキ装置(16)及び第2のブレーキ装置(18)が作動しても、駆動力を伝達する部材が破損することは防止される。
【0021】
ここで、補機駆動用モータ(13)は、動力伝達系の回転に換算した場合に、例えば、エンジンのアイドリング回転数近傍の低回転(N1)に相当する回転数よりも若干高い回転数程度が確保されれば良いので、補機駆動用モータ(13)が消費する電力を低電力に抑制することが出来る。
【0022】
これにより、本発明によれば、構造及び制御をシンプルにすることにより、機構の信頼性を向上することが出来ると共に、導入コストを低減することが出来る。
【0023】
さらに本発明において、空調装置が作動しているか否かの信号(空調装置のON/OFF信号)を制御装置(60)に入力する様に構成すれば、走行状態とは無関係に作動状態或いは非作動状態となる空調装置用の補機(23)(空調装置で冷媒を圧縮するクーラコンプレッサ)を駆動するのに必要な動力が、走行駆動系或いは空調専用の補機駆動用モータ(13)から、確実に伝達される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態のブロック図である。
【図2】第1実施形態におけるギヤボックスを示すブロック図である。
【図3】クラッチ・ブレーキ機構の作動を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態における制御装置のブロック図である。
【図5】第1実施形態における制御を示すフローチャートである。
【図6】第1実施形態におけるモータの作動を示す特性図である。
【図7】走行用モータで駆動したときのサンギヤ、プラネタリギヤキャリヤ、リングギヤのそれぞれの回転数を示す図である。
【図8】図7において各ギヤのトルクの状態を示す図である。
【図9】補機駆動用モータで駆動したときのサンギヤ、プラネタリギヤキャリヤ、リングギヤのそれぞれの回転数を示す図である。
【図10】図9において各ギヤのトルクの状態を示図である。
【図11】第2実施形態におけるギヤボックスを示すブロック図である。
【図12】従来技術を示すブロック図である。
【図13】図12とは別の従来技術を示すブロック図である。
【図14】図12、図13とは別の従来技術を示すブロック図である。
【図15】図12〜図14とは別の従来技術を示すブロック図である。
【図16】図12〜図15とは別の従来技術を示すブロック図である。
【図17】図12〜図15とは別の従来技術を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に、図1〜図10を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。
図1において、内燃機関であるエンジン1にクラッチ3が接続されている。クラッチ3に走行用モータ5が接続されている。
ここで、走行用モータ5は、電気モータとしての作用と、発電機としての作用を併せ持っている。すなわち、走行用モータ5は、エンジン1により走行する場合には発電機として作用し、走行用モータ5による走行時には電気モータとして作用する。
【0026】
走行用モータ5には、駆動用変速機6及び推進軸を介して、後車軸Raが接続されている。
走行用モータ5と駆動用変速機6の間に、例えば巻き掛け伝導機構によって動力を取り出す駆動力取出機構7が設けられている。ここで、駆動力取出機構7は巻き掛け伝動機構に限定されるものではなく、歯車機構その他の伝達機構が適用可能である。
駆動力取出機構7は、全体を符号100で示す補機駆動機構の入力装置として作動する。駆動力取出機構7は、出力軸11を介してギヤボックス10に接続している。
ギヤボックス10には、出力軸36、38を介して、複数の補機20が接続されている。なお、図1では、図示の簡略化のため、出力軸36、38は単一の軸として図示されており、複数の補機20も単一のブロックで表現されている。
ギヤボックス10には、出力軸12を介して、補機駆動用モータ13が接続されている。
【0027】
図2は、補機駆動機構100におけるギヤボックス10を、詳細に示す。
図2において、駆動力取出機構7の出力軸11には、走行用モータ5側のクラッチ・ブレーキ機構16(第1のブレーキ装置)が取り付けられている。出力軸11のクラッチ・ブレーキ機構16の後方(駆動力取出機構7から離隔した側:図2では右側)にリングギヤ26が取り付けられている。
【0028】
リングギヤ26の内歯には、複数のプラネタリギヤ28が内接している。プラネタリギヤ28には、サンギヤ30が外接している。
複数のプラネタリギヤ28は、プラネタリキャリヤ32により、回動自在に支持されている。このプラネタリキャリヤ32は、サンギヤ30と同心で、サンギヤ30の後方(駆動力取出機構7から離隔した側:図2では右側)に設けられている。
【0029】
サンギヤ30の回転軸は出力軸12に固定され、出力軸12は補機駆動用モータ13に接続している。出力軸12には、前記プラネタリキャリヤ32が、ベアリング29により回転自在に取りつけられている。
ここで、出力軸12と出力軸11とは同心に配置されている。そして、出力軸12と出力軸11とは相対回転可能に構成されている。
【0030】
出力軸12において、プラネタリキャリヤ32と補機駆動用モータ13の間の領域には、ブレーキ装置18(第2のブレーキ装置)が取り付けられている。ブレーキ装置18は、補機駆動用モータ13側のブレーキである。
プラネタリキャリヤ32の半径方向(図2では上下方向)外側縁部32aに形成された歯車には、第1の歯車35が外接している。そして、第1の歯車35の回転軸36は、パワステポンプ21とエアコンプレッサ22に、いわゆる「タンデム状態」にて連結している。
また、第1の歯車35には第2の歯車37が外接して噛み合っている。そして、第2の歯車37の回転軸38は、クーラコンプレッサ23に連結している。
ここで、図示はされていないが、第2の歯車37を、プラネタリキャリヤ32の半径方向外側縁部32aに形成された前記歯車に、直接に噛み合わせることも可能である。
【0031】
ここで、出力軸11に取り付けられているクラッチ・ブレーキ機構16について、図3を参照して説明する。
図3(a)で示す様に、クラッチ・ブレーキ機構16は、クラッチ80、ブレーキアクチュエータ82、スプリング84を有している。
クラッチ80は2枚の面板85、87を備えており、図示の実施形態ではリングギヤ26側の面板が符号85を付して表現されている。そして、面板85は出力軸11のリングギヤ26側(図3では右側)に連結されており、面板87は出力軸11のリングギヤ26から離隔する側(駆動力取出機構7側:図3では左側)に連結されている。
ブレーキアクチュエータ82は、先端にストッパ部材を有するロッド83を伸縮する機能を有している。
スプリング84は、リングギヤ26側の面板85を対向する面板87に押圧している。
【0032】
図3(a)の状態では、クラッチ・ブレーキ機構16は、「解除」(クラッチを接続してリングギヤ26側の面板85を解放)となっている。
係る状態では、ブレーキアクチュエータ82はロッド83を収縮して、ロッド83先端のストッパ部材は面板85に接触していない。そして、面板85はスプリング84の弾性反撥力により、面板87に押圧されている。
その結果、矢印Gで示すように、出力軸11の回転がリングギヤ26に伝達されている。
【0033】
一方、図3(b)の状態では、クラッチ・ブレーキ機構16は、「制動」(クラッチを解放してリングギヤ26側の面板85を制動)となっている。
すなわち、図3(b)において、ブレーキアクチュエータ82はロッド83を伸長して、ロッド83先端のストッパ部材を面板85に接触させて、面板85をリングギヤ26側(図3の右側)に押圧する。
これにより、面板85はスプリング84の弾性反撥力に抗してリングギヤ26側に移動して、面板85と面板87は離隔する。そのため、出力軸11の回転は、面板85と面板87との間で遮断される。
そして、ロッド83先端のストッパ部材を面板85に接触することによる摩擦抵抗で、面板85の回転は制動される。そのため、リングギヤ26は停止する(固定される)。
【0034】
図4には、第1実施形態に係る補機駆動機構100の制御機構が示されている。
図4において、イグニッションスイッチ検出手段51、走行用モータ回転数検出手段52、エアコンON/OFF信号検出手段53が、それぞれの入力手段56、57、58を介して制御装置60に接続されている。
【0035】
制御装置60は、前記各入力手段56、57、58からの信号に基いて、出力手段61、62、63、64を介して、走行モータ側クラッチ・ブレーキ機構作動手段66、補機駆動用モータブレーキ作動手段67、電磁クラッチ作動手段68、補機駆動用モータ駆動手段69に接続されている。
これにより、補機駆動用モータ13に対して「駆動」と「停止」の制御信号を伝達し、クラッチ・ブレーキ機構16に対して「制動」(クラッチを解放してリングギヤ26側の面板85を制動する動作)と「解除」(クラッチを接続してリングギヤ26側の面板85を解放する動作)の制御信号を伝達し、ブレーキ装置18に対して「制動」と「解除」の制御信号を伝達し、電磁クラッチ40の「接」と「断」の制御信号を伝達する。
【0036】
次に、図5を参照して、第1実施形態の制御について説明する。
図5において、イグニッションスイッチ検出手段51によって、イグニッションスイッチがONかOFFかを判断する(ステップS1)。
OFFであれば(ステップS1がOFF)、ハイブリット車は停止しているので、補機駆動用モータ13を停止し(ステップS2)、制御を終了する(ステップS3)。
【0037】
ステップS1において、イグニッションスイッチがONであれば(ステップS1がON)、ステップS4に進み、走行用モータ回転数検出手段52によって走行用モータ5の回転数を読み込む。
ついで、エアコンON/OFF信号検出手段53からによって、エアコンON/OFF信号を読み込む(ステップS5)。図示はされていないが、ステップS5のエアコンON/OFF信号の読み込み工程は、後述するステップS11の直前で実行することも可能である。
【0038】
次に、走行用モータ5の回転数が、エンジン1(図1参照)のアイドリング回転数よりも若干高い所定回転数(例えば、エンジン1のアイドリング回転数よりも50rpm高い回転数)回転数N1よりも低いか否かを判断する(ステップS6)。
走行用モータ5の回転数が所定回転数N1よりも低ければ(ステップS6がYES)、補機駆動用モータ13を、パワステポンプ21とエアコンプレッサ22の駆動に必要な回転数で駆動する(ステップS9)。
そして、走行用モータ側のブレーキであるクラッチ・ブレーキ機構16を制動し、補機駆動用モータ側のブレーキであるブレーキ装置18を解除する(ステップS10)。これにより、パワステポンプ21とエアコンプレッサ22には、補機駆動用モータ13の回転のみが伝達し、走行用モータ5(図1参照)側からの回転は伝達されなくなる。
ステップS10の後、ステップS11に進む。
【0039】
一方、ステップS6において、走行用モータ5の回転数が所定回転数N1以上であれば(ステップS6がNO)、補機駆動用モータ13を停止する(ステップS7)。
そして、走行用モータ5側のクラッチ・ブレーキ機構16を解除し、補機駆動用モータ13側のブレーキ装置18を制動する(ステップS8)。これにより、パワステポンプ21とエアコンプレッサ22には、走行用モータ5(図1参照)側からの回転のみが伝達し、補機駆動用モータ13の回転は伝達されなくなる。
ステップS7、S8、S9、S10により、パワステポンプ21とエアコンプレッサ22は、駆動力の伝達が保証されるので、必要な場合に確実に作動する。
ステップS7の後、ステップS11に進む。
【0040】
ステップS11では、エアコンON/OFF信号によって、クーラコンプレッサ23が作動(ON)か非作動(OFF)かを判断する。クーラコンプレッサ23がONであれば(ステップS11がYES)、電磁クラッチ40を接続して(ステップS12)、走行用モータ5(図1参照)側からの回転或いは補機駆動用モータ13からの回転の何れかをクーラコンプレッサ23に伝達する。そして、ステップS1に戻る。
クーラコンプレッサ23がOFFならば(ステップS11がNO)、電磁クラッチ40を切断して(ステップS13)、走行用モータ5或いは補機駆動用モータ13からの回転をクーラコンプレッサ23に伝達しない。そして、ステップS1に戻る。
【0041】
図6は、図5で示す制御における走行用モータ5の回転(図6の細い点線)と、補機駆動用モータ13の回転(図6の実線及び太い点線)とを示している。ここで、補機駆動用モータ13の回転については、パワステポンプ21やエアコンプレッサ22の回転駆動に関する特性が図6の太い実線で示されており、クーラコンプレッサ23の回転駆動に関する特性が図6の太い点線で示されている。
同一の補機駆動用モータ13の回転を2種類の特性(図6の実線及び太い点線)で示したのは、パワステポンプ21やエアコンプレッサ22の作動パターンと、クーラコンプレッサ23の作動パターンとが相違しているため、表現上の便宜を図るためである。
図6の縦軸には回転数、横軸には車両が始動後の経過時間を示す。
【0042】
図6において、車両始動直後は、走行用モータ5の回転数は所定回転数N1よりも低く、その間は、実線で示すように、パワステポンプ21、エアコンプレッサ22は、補機駆動用モータ13により駆動される。従って、図6における実線で示す特性(補機駆動用モータ13のパワステポンプ21やエアコンプレッサ22の回転に関する特性)は、走行用モータ5の回転数は所定回転数N1よりも低い領域において、所定回転数N1よりも僅かに高い回転数で立ち上がっている。
ここで、図6で示す例では、車両始動直後で走行用モータ5の回転数は所定回転数N1以下の状態では、空調機は作動しておらず、クーラコンプレッサ23は回転していない。そのため、図6の例では、太い点線で示す特性(補機駆動用モータ13のクーラコンプレッサ23の回転に関する特性)は、車両始動直後から走行用モータ5の回転数が所定回転数N1よりも低い領域において、立ち上がっていない。
【0043】
走行用モータ5の回転数が所定回転数N1よりも高くなると、パワステポンプ21やエアコンプレッサ22、クーラコンプレッサ23は走行モータ5側からの回転で駆動し、補機駆動用モータ13は停止する。そのため、走行用モータ5の回転数が所定回転数N1よりも高い領域では、実線で示す特性(補機駆動用モータ13のパワステポンプ21やエアコンプレッサ22の回転に関する特性)及び太い点線で示す特性(補機駆動用モータ13のクーラコンプレッサ23の回転に関する特性)は、回転数がゼロとなる。
走行用モータ5の回転数が低下して、所定回転数N1よりも低くなると、パワステポンプ21、エアコンプレッサ22、クーラコンプレッサ23は補機駆動用モータ13で駆動される。そのため、図6において、走行用モータ5の回転数が低下して所定回転数N1よりも低くなると、実線及び粗い点線で示す特性が立ち上がる。
なお、図6において、クーラコンプレッサの回転数とパワステ、エアコンプレッサの回転数が異なるのは、第1の歯車35と第2の歯車37との歯数の違いによるものである。両者の回転数は、ケース・バイ・ケースで異なる。
【0044】
図7は、走行用モータ5で駆動したときの駆動用ギヤであるサンギヤ30、プラネタリギヤキャリヤ32、リングギヤ26のそれぞれの回転数を示している。
図7において、走行用モータ5で補機20を駆動するときは、補機駆動用モータ13が駆動するサンギヤ30の回転数はゼロ(A)である。走行用モータ5が所定回転数N1以上では走行用モータ5で補機20を駆動し、そのときはリングギヤ26の回転数は(B)となる。また、補機20を駆動するプラネタリギヤキャリヤ32の回転数は(C)となる。
図8は、図7におけるトルクの状態を示す。図8において、補機駆動用モータ側のブレーキ装置18は負のトルク(A1)を発生し、走行用モータ5側のリングギヤ26は負のトルク(B1)で制動され、補機20を駆動するプラネタリギヤキャリヤ32は正のトルク(C1)を発生する。
【0045】
図9において、補機駆動用モータ13で駆動する場合、駆動用ギヤであるサンギヤ30は回転せず(A0)、リングギヤ26は回転停止となり(B0)、プラネタリギヤキャリヤ32の回転数は(C0)となる。
図10は、図9における各ギヤのトルクの状態を示している。図10において、補機駆動用モータ13側のブレーキ装置18は負の駆動トルク(A2)を発生し、走行用モータ5側のリングギヤ26は負のトルク(B2)で制動し、補機20を駆動するプラネタリギヤキャリヤ32は正のトルク(C2)を発生する。
【0046】
上述した構成を具備する第1実施形態によれば、例えば車速がほぼゼロで、エンジン1が停止していても、ステリングの据え切りが可能であり、車両、エンジンが停止していてもエアコンを作動させることができる。
【0047】
図11は、本発明の第2実施形態を示している。
第2実施形態では、図2の第1実施形態におけるギヤボックス10として、車両の駆動軸に使用される遊星歯車機構を利用して、サイズの小型化を図っている。
この形式の遊星歯車機構は乗用車から大型貨物自動車の駆動軸に使用されているので、各部の装置部材を転用することにより、コスト低減や、保全の効果が大きい。
【0048】
以下、図11において、図2で示すのとは異なる部分を中心に説明する。なお、図11において、図2と同様な部材は、同様な名称と符号を付している。
図11において、駆動力取出機構7は、全体を符号100Aで示す第2実施形態に係る補機駆動機構の入力装置として作動する。
駆動力取出機構7の出力軸11に、走行モータ5側のクラッチ・ブレーキ機構16Aが取り付けられている。ここで、クラッチ・ブレーキ機構16Aの構成や作動については、図3で示すクラッチ・ブレーキ機構16と同様である。
出力軸11において、クラッチ・ブレーキ機構16Aの後部(駆動力取出機構7から離隔した側:図11では右側)には、傘歯車である第1のピニオンギヤ70が取り付けられている。
【0049】
補機駆動用モータ13の出力軸12には、第1のピニオンギヤ70と同径、同歯数の傘歯車である第2のピニオンギヤ71が、第1のピニオンギヤ70に相対して取り付けられている。ここで、出力軸12は、出力軸11と同軸線上に配置されている。
第1のピニオンギヤ70と第2のピニオンギヤ71との間に、小傘歯車である複数の第3のピニオンギヤ72が噛み合っている。
複数の第3のピニオンギヤ72を貫通して、第3のピニオンギヤ72の回転中心となる回転軸74が設けられており、第3のピニオンギヤ72は回転軸74に回転自在に取り付けられている。
【0050】
回転軸74の半径方向外方にリングギヤ76が取り付けられている。ここで、歯車列の構成を明確にするため、図11では、回転軸74とリングギヤ76とは、出力軸11、12の軸線方向にオフセットした構成で表現されている。
リングギヤ76の回転中心(リングギヤ76の半径方向内方に位置している)は、ベアリング29Aにより、出力軸12に対して回転自在に取りつけられている。
出力軸12において、ベアリング29Aと補機駆動用モータ13との間に、補機駆動用モータ13側のブレーキであるブレーキ装置18Aが取り付けられている。
【0051】
リングギヤ76の外歯には、第1の歯車35Aが外接して噛み合っている。そして、第1の歯車35Aの回転軸36が、パワステポンプ21とエアコンプレッサ22に、いわゆる「タンデム状態」に連結している。
第1の歯車35Aには、第2の歯車37Aが外接して噛み合っている。そして、第2の歯車37Aの回転軸38が、クーラコンプレッサ23に連結している。
図11に示した第2の実施形態におけるその他の構成及び作用効果は、図1〜図10の第1実施形態と同様である。
【0052】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0053】
1・・・・エンジン
3・・・・クラッチ
5・・・・走行用モータ&発電機
7・・・・駆動力取出機構
10・・・・ギヤボックス
11・・・・駆動力取出機構の出力軸
12・・・・補機駆動用モータの出力軸
13・・・・補機駆動用モータ
16、16A・・・・クラッチ・ブレーキ機構(第1のブレーキ装置)
18、18A・・・・ブレーキ装置(第2のブレーキ装置)
20・・・・補機
26・・・・リングギヤ
28・・・・プラネタリギヤ
30・・・・サンギヤ
32・・・・プラネタリギヤキャリヤ
35、35A・・・・第1の歯車
36・・・・第1の歯車の回転軸
37、37A・・・・第2の歯車
38・・・第2の歯車の回転軸
40・・・・(電磁)クラッチ
52・・・・回転数計測装置
60・・・・制御装置
70・・・・第1のピニオンギヤ
72・・・・第2のピニオンギヤ
74・・・・棒状部材
76・・・・リングギヤ
100、100A・・・補機駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び走行用モータを有する走行駆動系から巻き掛け伝動機構によって動力を取り出す駆動力取出機構を備え、駆動力取出機構にはギヤボックスを介して補機が接続されており、ギヤボックスには駆動力取出機構の出力軸と補機駆動用モータの出力軸が接続されており、駆動力取出機構の出力軸には第1のブレーキ装置が介装されており、補機駆動用モータの出力軸には第2のブレーキ装置が介装されており、走行駆動系の回転数を計測する回転数計測装置と、制御装置を備えており、制御装置には回転数計測装置の計測結果が入力され、
前記制御装置は、走行駆動系から伝達される回転数が設定回転数以上であれば、補機駆動用モータを停止し、第2のブレーキ装置を作動して、第1のブレーキ装置を解除し、走行駆動系から伝達される回転数が設定回転数よりも低ければ、補機駆動用モータを駆動し、第1のブレーキ装置を作動して、第2のブレーキ装置を解除する機能を有していることを特徴とするハイブリッド車の補機駆動機構。
【請求項2】
前記ギヤボックスの駆動力取出機構の出力軸と補機駆動用モータの出力軸とは同軸に配置されており、内歯が形成され且つ駆動力取出機構の出力軸端部に設けられたリングギヤと、リングギヤの内歯と噛み合う外歯を有する複数のプラネタリギヤと、プラネタリギヤの外歯と噛み合う外歯を有するサンギヤと、プラネタリギヤの回転中心を接続するプラネタリギヤキャリヤとを有し、サンギヤは補機駆動用モータの出力軸端部に設けられており、プラネタリギヤキャリヤは補機駆動用モータの出力軸と同軸の回転軸を有し且つ補機駆動用モータの出力軸に対して相対回転可能であり、プラネタリギヤキャリヤの半径方向外縁部には外歯が形成されており、プラネタリギヤキャリヤの外歯と外接する第1の歯車を有し、第1の歯車の回転軸はパワーステアリングを駆動するポンプと、圧縮エアを供給するコンプレッサに接続している請求項1のハイブリッド車の補機駆動機構。
【請求項3】
前記ギヤボックスの駆動力取出機構の出力軸と補機駆動用モータの出力軸とは同軸に配置されており、駆動力取出機構の出力軸と補機駆動用モータの出力軸の各々には第1、第2のピニオンギヤが設けられ、一対の第1、第2のピニオンギヤと外接する一対の第3のピニオンギヤを設け、一対の第3のピニオンギヤは同一の棒状部材を回転中心としており、外歯を形成しており且つ棒状部材と一体に回転するリングギヤを有し、リングギヤの外歯と外接する第1の歯車を有し、第1の歯車の回転軸はパワーステアリングを駆動するポンプと、圧縮エアを供給するコンプレッサに接続している請求項1のハイブリッド車の補機駆動機構。
【請求項4】
前記第1の歯車と外接する第2の歯車を有し、第2の歯車の回転軸は空調装置で冷媒を圧縮するための空調用コンプレッサに接続されており、第2の歯車の回転軸にはクラッチが介装されている請求項2、3の何れかのハイブリッド車の補機駆動機構。
【請求項5】
前記制御装置には空調装置が作動しているか否かの信号が入力され、前記制御装置は、空調装置が作動していない場合には前記クラッチを切断し、空調装置が作動している場合には前記クラッチを接続する機能を有している請求項4のハイブリッド車の補機駆動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−126449(P2011−126449A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287718(P2009−287718)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】