説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ダウンシフト時における変速ショックの発生を抑制しつつ平滑コンデンサの小型化を実現するハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ダウンシフト時における同期回転付近のトルクダウン制御において、第1電動機MG1及び第2電動機MG2それぞれの制御によりそのトルクダウン制御を行った場合の電力変化量PDWMG1、PDWMG2を比較し、第1電動機MG1及び第2電動機MG2のうち電力変化量が少ない方を制御することでトルクダウン制御を行うものであることから、必要なトルクダウン量を実現するまでの時間を短縮することができ、所望されるタイミングでトルクダウン制御を行うことができるため、平滑コンデンサ48、50の容量が比較的小さい場合であっても耐久性に影響を与えるおそれが少なく、ダウンシフト時の変速ショックを好適に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、第1電動機、第2電動機、及び自動変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、平滑コンデンサの小型化を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
第1回転要素、入力回転部材であってエンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機とを、備えたハイブリッド車両が知られている。斯かるハイブリッド車両において、モータ走行中にエンジンを始動する際の運転者の違和感を抑制するための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御方法がそれである。この技術によれば、モータ走行中にエンジンを始動する際には、インバータに接続された平滑コンデンサの容量以下となるように前記第1電動機及び第2電動機を制御して前記エンジンを始動させることで、バッテリの充放電を行うことなく走行を継続しながら前記エンジンを始動すると共に、運転者に違和感を与えるのを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−184559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記エンジン、第1電動機、及び第2電動機に加えて、前記差動機構から駆動輪までの動力伝達経路に設けられた自動変速機を備えたハイブリッド車両が実用されている。斯かるハイブリッド車両においては、前記自動変速機のダウンシフト時において、前記第1電動機乃至第2電動機のトルクを一時的に減少させるトルクダウン制御を行う技術が知られているが、平滑コンデンサを小型化することによりその容量が低下すると十分なトルクダウン量を実現することができず、変速ショックが生じるおそれがあった。また、例えば前記第2電動機の消費電力が急減した場合等には前記平滑コンデンサの蓄積エネルギが大きくなって耐久性に影響が生じるため、その平滑コンデンサには十分な容量が求められることから、前記トルクダウン制御における変速ショックの抑制と平滑コンデンサの小型化との両立は困難であった。このため、ダウンシフト時における変速ショックの発生を抑制しつつ平滑コンデンサの小型化を実現するハイブリッド車両の制御装置の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ダウンシフト時における変速ショックの発生を抑制しつつ平滑コンデンサの小型化を実現するハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、第1回転要素、入力回転部材であってエンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記差動機構から駆動輪までの動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両であって、前記自動変速機のダウンシフト時における同期回転付近のトルクダウン制御において、前記第1電動機及び第2電動機それぞれの制御によりそのトルクダウン制御を行った場合の電力変化量を比較し、前記第1電動機及び第2電動機のうち電力変化量が少ない方を制御することで前記トルクダウン制御を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、本第1発明によれば、前記自動変速機のダウンシフト時における同期回転付近のトルクダウン制御において、前記第1電動機及び第2電動機それぞれの制御によりそのトルクダウン制御を行った場合の電力変化量を比較し、前記第1電動機及び第2電動機のうち電力変化量が少ない方を制御することで前記トルクダウン制御を行うものであることから、必要なトルクダウン量を実現するまでの時間を短縮することができ、所望されるタイミングでトルクダウン制御を行うことができるため、平滑コンデンサの容量が比較的小さい場合であっても耐久性に影響を与えるおそれが少なく、ダウンシフト時の変速ショックを好適に抑制することができる。すなわち、ダウンシフト時における変速ショックの発生を抑制しつつ平滑コンデンサの小型化を実現するハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
【0008】
ここで、前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記自動変速機のダウンシフトにより前記第1電動機が放電側となる場合には、電力収支が充電側となるように前記第2電動機を制御するが、前記自動変速機のダウンシフトにより前記第1電動機が充電側となる場合には、電力収支が放電側となるように前記第2電動機を制御するものである。このようにすれば、トルクダウン制御時に充放電収支の制約を受けることが少なくなり、適切な電動機によるトルクダウンを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両用駆動装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の駆動装置に備えられた自動変速部の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図3】図1の駆動装置における差動部及び自動変速部に関して、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。
【図4】図1の駆動装置の作動を制御するために備えられた電気系統の要部を例示する図である。
【図5】図4の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】図4の電子制御装置による自動変速部のダウンシフト時であって、比較的低車速である場合における各種値の変化を説明するタイムチャートである。
【図7】図4の電子制御装置による自動変速部のダウンシフト時であって、比較的高車速である場合における各種値の変化を説明するタイムチャートである。
【図8】図4の電子制御装置による自動変速部のダウンシフト時におけるトルクダウン制御の要部について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両用駆動装置10(以下、単に駆動装置10という)の構成を説明する骨子図である。この図1に示すように、本実施例の駆動装置10は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力軸14と、その入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された差動部16と、その差動部16と図示しない駆動輪との間の動力伝達経路に伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20と、その自動変速部20に連結された出力軸22とを、直列に備えている。
【0012】
本実施例の駆動装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、上記入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパを介して直接的に連結された走行用の駆動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン24と図示しない1対の駆動輪との間の動力伝達経路に設けられて、そのエンジン24により発生させられた動力を図示しない差動歯車装置等を介して上記1対の駆動輪へと伝達する。なお、本実施例の駆動装置10において、上記エンジン24と差動部16とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパ等を介する連結はこの直結に含まれる。また、上記駆動装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
【0013】
前記差動部16は、第1電動機MG1と、前記入力軸14に入力されて前記エンジン24の出力を機械的に分配する機械的機構であってそのエンジン24の出力を第1電動機MG1及び伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配装置26と、前記伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機MG2とを、備えている。本実施例の駆動装置10に備えられた第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、好適には、何れも発動機及び発電機として機能する所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機MG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、上記第2電動機MG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(発動機)機能を少なくとも備える。斯かる構成により、前記差動部16は、上記第1電動機MG1及び第2電動機MG2を介して運転状態が制御されることにより、入力回転速度(入力軸14の回転速度)と出力回転速度(伝達部材18の回転速度)の差動状態が制御される電気式差動部として機能する。
【0014】
前記動力分配装置26は、シングルピニオン型の遊星歯車装置を主体として構成されている。この遊星歯車装置は、サンギヤS0、遊星歯車P0、その遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持するキャリアCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素(要素)として備えており、キャリアCA0は前記入力軸14すなわち前記エンジン24に連結され、サンギヤS0は前記第1電動機MG1に連結され、リングギヤR0は前記伝達部材18に連結されている。すなわち、差動機構としての前記動力分配装置26においては、サンギヤS0が第1回転要素に、キャリアCA0が第2回転要素に、リングギヤR0が第3回転要素にそれぞれ対応する。
【0015】
このように構成された動力分配装置26は、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、前記エンジン24の出力が前記第1電動機MG1と伝達部材18とに分配されると共に、分配された前記エンジン24の出力の一部で前記第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり前記第2電動機MG2が回転駆動されるので、前記差動部16(動力分配装置26)は電気的な差動装置として機能させられて例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされ、前記エンジン24の所定回転に拘わらず前記伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、前記差動部16はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、前記動力分配装置26(差動部16)に動力伝達可能に連結された前記第1電動機MG1、第2電動機MG2、及びエンジン24の運転状態が制御されることにより、前記入力軸14の回転速度と差動部16の出力軸として機能する前記伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される無段変速機構として作動させられる。
【0016】
前記自動変速部20は、前記差動部16と図示しない駆動輪との間の動力伝達経路にシングルピニオン型の遊星歯車装置28、30を主体として構成され、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。上記遊星歯車装置28、30は、それぞれサンギヤS1、S2、遊星歯車P1、P2、それら遊星歯車P1、P2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、CA2、遊星歯車P1、P2を介してサンギヤS1、S2と噛み合うリングギヤR1、R2を備えている。
【0017】
また、前記自動変速部20では、上記サンギヤS1がブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、上記キャリアCA1とリングギヤR2とが一体的に連結され、第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっていると共に、一方向クラッチF1を介してそのケース12に対する一方向の回転が許容されつつ逆方向の回転が阻止されるようになっている。また、上記サンギヤS2が第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。また、一体的に連結された上記キャリアCA1及びリングギヤR2が第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。また、上記リングギヤR1とキャリアCA2とが一体的に連結されると共に前記出力軸22に連結されている。
【0018】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0019】
図2は、前記自動変速部20の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。この図2に示すように、前記自動変速部20においては、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.20」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。なお、第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウン変速時には、前記一方向クラッチF1により前記キャリアCA1及びリングギヤR2の前記ケース12に対する相対回転が阻止されるため、前記第2ブレーキB2は係合させられなくともよい。また、前記第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.72」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.00」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。また、前記第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.67」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及びブレーキB2の係合により変速比γRが例えば「3.20」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0020】
以上のように構成された本実施例の駆動装置10において、無段変速機として機能する前記差動部16と、その差動部16に連結される前記自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、前記差動部16の変速比を一定となるように制御することにより、その差動部16と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
【0021】
具体的には、前記差動部16が無段変速機として機能し、且つその差動部16に直列の前記自動変速部20が有段変速機として機能することにより、その自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対してその自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち前記伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。従って、前記駆動装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、前記駆動装置10において無段変速機が構成される。この駆動装置10の総合変速比γTは、前記差動部16の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される前記駆動装置10全体としてのトータル変速比γTである。
【0022】
例えば、無段変速機としての前記差動部16の作動により、図2の係合作動表に示される前記自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対して、前記伝達部材18の回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、前記駆動装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。また、前記差動部16の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチC及びブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する前記駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。従って、前記駆動装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。例えば、前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように前記自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する前記駆動装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、前記自動変速部20の第3速ギヤ段において前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
【0023】
図3は、前記差動部16と自動変速部20とから構成される駆動装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であって、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち前記入力軸14に連結された前記エンジン24の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度N18を示している。
【0024】
また、前記差動部16を構成する動力分配装置26の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第1回転要素に対応するサンギヤS0、第2回転要素に対応するキャリアCA0、第3回転要素に対応するリングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は前記動力配分装置26を構成する遊星歯車装置のギヤ比に応じて定められている。また、前記自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、Y4がサンギヤS1の相対回転速度を、Y5が相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の相対回転速度を、Y6が相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の相対回転速度を、Y7がサンギヤS2の相対回転速度をそれぞれ表し、それら縦線Y4〜Y7の間隔は前記遊星歯車装置28、30のギヤ比に応じてそれぞれ定められている。
【0025】
図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の駆動装置10は、前記動力分配装置26(差動部16)において、その動力分配装置26の第2回転要素(キャリアCA0)が前記入力軸14すなわちエンジン24に連結され、第1回転要素(サンギヤS0)が前記第1電動機MG1に連結され、第3回転要素(リングギヤR0)が前記伝達部材18及び第2電動機MG2に連結されて、前記入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により前記サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0026】
例えば、前記差動部16においては、前記動力分配装置26の第1回転要素乃至第3回転要素が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される前記リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される前記キャリアCA0の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される前記サンギヤS0の回転速度すなわち前記第1電動機MG1の回転速度が上昇或いは下降させられる。
【0027】
また、前記差動部16の変速比γ0が「1」に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって前記サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、そのエンジン回転速度NEと同じ回転で前記リングギヤR0の回転速度すなわち前記伝達部材18が回転させられる。或いは、前記差動部16の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように前記第1電動機MG1の回転速度を制御することによって前記サンギヤS0の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
【0028】
また、前記自動変速部20において、第4回転要素である前記サンギヤS1は前記第1ブレーキB1を介して前記ケース12に選択的に連結され、第5回転要素である相互に連結された前記キャリアCA1及びリングギヤR2は前記第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に前記第2ブレーキB2(一方向クラッチF1)を介して前記ケース12に選択的に連結され、第6回転要素である相互に連結された前記リングギヤR1及びキャリアCA2は前記出力軸22に連結され、第7回転要素である前記サンギヤS2は前記第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されている。
【0029】
前記自動変速部20では、図3に示すように、前記第1クラッチC1と第2ブレーキB2(一方向クラッチF1)とが係合させられることにより、第7回転要素の回転速度を示す縦線Y7と横線XGとの交点と第5回転要素の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速(1st)における前記出力軸22の回転速度が示される。同様に、前記第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速(2nd)における前記出力軸22の回転速度が示され、前記第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速(3rd)における前記出力軸22の回転速度が示され、前記第2クラッチC2と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L4と前記出力軸22と連結された第6回転要素の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速(4th)における前記出力軸22の回転速度が示される。
【0030】
図4は、前記駆動装置10の作動を制御するために備えられた電気系統の要部を例示する図である。この図4に示すように、前記駆動装置10は、ハイブリッド駆動制御用電子制御装置32、エンジン制御用電子制御装置34、及び電動機制御用電子制御装置36を備えている。これらの電子制御装置32、34、36は、何れもCPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等から成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記エンジン24、第1電動機MG1、及び第2電動機MG2に関するハイブリッド駆動制御や、前記自動変速部20の変速制御等の各種制御を実行する。ここで、本実施例においては、上記電子制御装置34が主に前記エンジン24の駆動(出力トルク)制御を、上記電子制御装置36が主に前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の駆動(出力トルク)制御を、上記電子制御装置32が上記電子制御装置34、36を介しての前記駆動装置10全体の駆動制御及び前記自動変速部20の変速制御等を行う態様について説明するが、これら電子制御装置32、34、36は、必ずしも個別の制御装置として備えられたものでなくともよく、一体の制御装置として備えられたものであってもよい。また、上記電子制御装置32、34、36それぞれが更に個別の制御装置に分けて備えられたものであってもよい。
【0031】
図4に示すように、上記電子制御装置32には、前記駆動装置10の各部に設けられた各種センサやスイッチ等から各種信号が供給されるようになっている。すなわち、車速センサから車速Vを表す信号、アクセル開度センサから運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、MG1回転速度センサから前記第1電動機MG1の回転速度NMG1を表す信号、MG2回転速度センサから前記第2電動機MG2の回転速度NMG2を表す信号、出力軸回転速度センサから前記出力軸22の回転速度NOUTに対応する信号、ギヤ段センサから前記自動変速部20において成立させられているギヤ段(変速段)を表す信号、インバータ電圧センサから後述する第1インバータ38及び第2インバータ40の電圧ViMG1、ViMG2を表す信号、バッテリ電圧センサから後述するバッテリ42の電圧Vbaを表す信号、バッテリ電流センサからそのバッテリ42からの電流Ibaを表す信号等がそれぞれ供給されるようになっている。
【0032】
また、前記電子制御装置32からは、前記電子制御装置34、36へそれぞれ前記エンジン24の駆動制御、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の駆動制御、及び前記自動変速部20の変速制御を行うための指令信号が出力されるようになっている。すなわち、前記電子制御装置34に対して、エンジントルク指令として、例えば前記エンジン24の吸気管に備えられた電子スロットル弁の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、燃料噴射装置による吸気管等への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、或いは点火装置によるエンジン24の点火時期を指令する点火信号等が出力される。また、前記自動変速部20に供給される油圧を制御するための図示しない油圧制御回路に備えられた電磁制御弁に対して、それら電磁制御弁の出力圧を制御するための油圧指令信号が出力される。また、前記電子制御装置36に対して、MG1トルク指令及びMG2トルク指令として、後述する第1インバータ38及び第2インバータ40を介してバッテリ42から前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に対して供給される電気エネルギ等を制御するための指令信号が出力される。
【0033】
また、図4に示すように、前記駆動装置10には、前記第1電動機MG1用の第1インバータ38、前記第2電動機MG2用の第2インバータ40、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2への電気エネルギの供給及びそれらによって発生させられた電気エネルギの蓄積を行う蓄電装置であるバッテリ42、及び前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2に電力供給するための電源制御回路44が備えられている。この電源制御回路44は、第1インバータ38及び第2インバータ40のそれぞれに接続されており、バッテリ42、電圧変換器46、バッテリ側の平滑コンデンサ48、インバータ側の平滑コンデンサ50、及び放電抵抗52を備えている。
【0034】
上記バッテリ42は、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2のそれぞれと相互に電力授受可能とされたものであり、リチウムイオン組電池又はニッケル水素組電池等で例示される充放電可能な2次電池である。このバッテリ42は、例えば、コンデンサ又はキャパシタ等であってもよい。
【0035】
前記電圧変換器46は、リアクトル54と、2つのスイッチング素子56、58とを、備えており、駆動時には上記バッテリ42側の電圧を昇圧して前記インバータ38、40側に供給する一方、回生時にはそれらインバータ38、40側の電圧を降圧して前記バッテリ42側に供給する昇降圧回路である。この電圧変換器46の正極母線及び負極母線は、それぞれ前記2つのインバータ38、40の正極母線及び負極母線に接続されている。
【0036】
上記リアクトル54は、その一方端が前記バッテリ42側の正極母線に接続され、他方端が互いに直列に接続された上記2つのスイッチング素子56、58の間の接続点に接続されており、磁気エネルギを蓄積できる装置である。このリアクトル54は、磁性体であるコアにコイルを巻回し、そのコイルに高周波信号を流すことでインダクタンスとして利用するもので、上記スイッチング素子56、58とともに昇降圧回路を構成することができる。
【0037】
前記2つのスイッチング素子56、58は、互いに直列に接続されて、前記インバータ38、40の正極母線と負極母線との間に配置される大電力スイッチングトランジスタである。これら2つのスイッチング素子56、58の間の接続点は、上記のように前記リアクトル54の他方端に接続されている。これらスイッチング素子56、58は、例えばゲート絶縁型バイポーラトランジスタである。図4においては、前記スイッチング素子56、58をnチャネル型として示しているが、電圧の関係でそれらスイッチング素子56、58をpチャネル型とすることもできる。また、前記2つのスイッチング素子56、58には、それぞれ並列にダイオードが接続されている。
【0038】
前記2つのスイッチング素子56、58のうち、一方のスイッチング素子56は、コレクタ端子が前記インバータ38、40の正極母線に接続され、エミッタ端子が他方のスイッチング素子58のコレクタ端子に接続され、ゲート端子が制御端子として前記電子制御装置36等からの制御信号線に接続される。他方のスイッチング素子58は、上記のようにコレクタ端子が一方のスイッチング素子56のエミッタ端子に接続され、エミッタ端子が前記バッテリ42及びインバータ38、40に共通の負極母線に接続され、ゲート端子が制御端子として前記電子制御装置36等からの制御信号線に接続される。
【0039】
前記バッテリ側の平滑コンデンサ48は、前記バッテリ42と電圧変換器46との間にそのバッテリ42と並列に設けられており、前記電圧変換器46の低電圧側すなわち前記バッテリ42側の電圧変動を抑制する機能を備えている。また、前記インバータ側の平滑コンデンサ50は、前記インバータ38、40と電圧変換器46との間に、それらインバータ38、40と並列に設けられており、前記電圧変換器46の高電圧側すなわち前記インバータ38、40側の電圧変動(脈動)を抑制する機能を備えている。換言すれば、前記インバータ側の平滑コンデンサ50は、前記バッテリ42からインバータ38、40への入力電圧すなわち前記電圧変換器46からインバータ38、40への入力電圧を平滑化するためにそれらインバータ38、40のバッテリ42側に接続されたコンデンサである。また、前記放電抵抗52は、前記電源制御回路44の作動が停止させられて、前記インバータ側の平滑コンデンサ50に蓄積された電気エネルギを放電させるときに用いられる抵抗素子である。
【0040】
図4のように構成された電源制御回路44において、例えば前記電圧変換器46が昇圧動作をする場合には、前記スイッチング素子56はオフとされ、前記スイッチング素子58はオンとオフとを交互に繰り返すスイッチング状態とされる。斯かるスイッチング状態では毎秒数十万回程度のサイクルでオンとオフとが繰り返される。このような状態において、前記スイッチング素子58がオンである間は前記リアクトル54の前記他方端は負極母線と接続状態となってそのリアクトル54に電流が流れて、それによるエネルギが前記リアクトル54に蓄積される。そして、前記スイッチング素子58がオンからオフに切り換わった瞬間に前記リアクトル54からその蓄積されたエネルギが放出されてそのリアクトル54の前記他方端の電圧が上昇する。そうなると、前記リアクトル54の他方端は前記スイッチング素子56と並列のダイオードを介してインバータ側の平滑コンデンサ50に接続されているので、上記他方端の電圧がその平滑コンデンサ50の端子電圧Vcon(以下、「平滑コンデンサ電圧Vcon」という)よりも高くなれば、前記平滑コンデンサ50が充電され平滑コンデンサ電圧Vconが上昇する。このようにして前記スイッチング素子58のオンとオフとが交互に繰り返されることで、平滑コンデンサ電圧Vconすなわち2次側の電圧が上昇する。そして、図示しない制御回路により、その2次側の電圧が予め定められた2次側基準電圧以上になった場合には前記スイッチング素子58がオフに切り替えられ、逆に、その2次側の電圧が上記2次側基準電圧を下回れば前記スイッチング素子58が前記スイッチング状態とされる。
【0041】
以上のように、本実施例の電源制御回路44において、前記電圧変換器46は昇圧動作をするが、この電圧変換器46の昇圧動作は、2次側の負荷変動が急激であるとその負荷変動に追従できないことがある。例えば、前記第2電動機MG2における消費電力が急減した場合等において、前記インバータ38、40の消費電力が大幅に急減すれば、前記スイッチング素子58がスイッチング状態からオフに切り替えられるのが遅れることにより一時的に上記2次側の電圧が上昇することがある。
【0042】
図5は、前記電子制御装置32、34、36等に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。好適には、この図5に示す変速制御手段60、第1電力変化量算出手段62、第2電力変化量算出手段64、電力変化量比較手段66、及び充放電判定手段68は、前記電子制御装置32に機能的に備えられるものであり、第1電動機制御手段70及び第2電動機制御手段74は、前記電子制御装置36に機能的に備えられるものであるが、これらの制御機能は、前記電子制御装置32、34、36の何れに備えられたものであってもよく、更にはそれら前記電子制御装置32、34、36とは別の制御装置に備えられたものであってもよい。
【0043】
図5に示す変速制御手段60は、電気的無段変速部としての前記差動部16及び機械式有段変速機としての前記自動変速部20による変速を制御する。すなわち、予め定められた関係から車両の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量ACC等に応じて、後述する第1電動機制御手段70及び第2電動機制御手段72を介して前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2の作動を制御することにより電気的無段変速部としての前記差動部16の変速比を無段階に変化させる無段変速制御を行う。また、予め定められた関係(変速マップ)から車両の走行状態例えば車速V及びアクセル操作量ACC等に応じて前記自動変速部20において成立させられるべき変速段を判定し、判定された変速段が成立させられるように図示しない油圧制御回路を介して前記自動変速部20におけるクラッチC及びブレーキBの係合乃至解放を制御する。
【0044】
第1電動機制御手段70は、基本的には、前記第1インバータ38を介して前記第1電動機MG1の作動を制御する。すなわち、前記電子制御装置32から供給されるMG1トルク指令に基づいて、前記バッテリ42から前記第1電動機MG1へ供給される電気エネルギを制御することにより、その第1電動機MG1の駆動(出力トルク)を制御する。また、第2電動機制御手段72は、基本的には、前記第2インバータ40を介して前記第2電動機MG2の作動を制御する。すなわち、前記電子制御装置32から供給されるMG2トルク指令に基づいて、前記バッテリ42から前記第2電動機MG2へ供給される電気エネルギを制御することにより、その第2電動機MG2の駆動(出力トルク)を制御する。
【0045】
前記電子制御装置32は、前記変速制御手段60による前記自動変速部20の変速動作中(特に、高速側変速段から低速側変速段へのダウンシフト中)に、その自動変速部20に入力される入力トルクすなわち前記伝達部材18のトルクを変速開始前に対して一時的に低下させるトルクダウン制御を行う。このトルクダウン制御は、変速ショック軽減等の目的で行われるものであり、例えば、アクセル開度ACCや変速前後の変速段等に応じて上記トルクダウン制御を行うか否かを判定するものであってもよい。また、好適には、前記変速制御手段60による前記自動変速部20の変速に係るイナーシャ相開始時(同期回転付近)を前記第2電動機MG2の回転速度NMG2等に基づいて検出し、そのイナーシャ相開始時から前記伝達部材18のトルクを低下させるトルクダウン制御を行う。このトルクダウン制御におけるトルクの低下量(トルクダウン量)は、予め定められた一定値(定数)であってもよいし、予め定められた関係から前記第2電動機MG2の回転速度NMG2、その第2電動機MG2のトルク、及び変速前後の変速段等に基づいて算出されるものであってもよい。
【0046】
第1電力変化量算出手段62は、前記自動変速部20のダウンシフト時におけるイナーシャ相開始時のトルクダウン制御を前記第1電動機MG1の駆動を制御することにより行う場合、すなわちその第1電動機MG1により上記トルクダウン制御を行う場合における電力変化量(パワー変化量)を算出する。すなわち、前記第1電動機MG1の駆動変化(出力トルクの変化)により上記トルクダウン量をまかなう場合における、前記電源制御回路44等における電力変化量PDWMG1を算出する。
【0047】
第2電力変化量算出手段64は、前記自動変速部20のダウンシフト時におけるイナーシャ相開始時のトルクダウン制御を前記第2電動機MG2の駆動を制御することにより行う場合、すなわちその第2電動機MG2により前記トルクダウン制御を行う場合における電力変化量(パワー変化量)を算出する。すなわち、前記第2電動機MG2の駆動変化(出力トルクの変化)により前記トルクダウン量をまかなう場合における、前記電源制御回路44等における電力変化量PDWMG2を算出する。
【0048】
電力変化量比較手段66は、前記自動変速部20のダウンシフト時におけるイナーシャ相開始時のトルクダウン制御において、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2それぞれの制御により前記トルクダウン制御を行った場合の電力変化量を比較する。すなわち、前記第1電力変化量算出手段62により算出される電力変化量PDWMG1と、上記第2電力変化量算出手段64により算出される電力変化量PDWMG2とを比較し、何れか電力変化量が少ない方を判定する。
【0049】
充放電判定手段68は、前記自動変速部20のダウンシフトにより前記第1電動機MG1が放電側となるか或いは充電側となるかを判定する。すなわち、前記自動変速部20のダウンシフト時における同期回転時において、前記第1電動機MG1の回転速度NMG1が予め定められた閾値(例えば、0[rpm])以上であると判定される場合には、その第1電動機MG1が放電側となることを判定する一方、前記第1電動機MG1の回転速度NMG1が上記閾値未満であると判定される場合には、その第1電動機MG1が充電側となることを判定する。
【0050】
前記電子制御装置32は、前記自動変速部20のダウンシフト時におけるイナーシャ相開始時のトルクダウン制御において、前記電力変化量比較手段66による比較結果に基づき、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2のうち電力変化量が少ない方を制御することで前記トルクダウン制御を行う。すなわち、前記第1電力変化量算出手段62により算出される電力変化量PDWMG1よりも前記第2電力変化量算出手段64により算出される電力変化量PDWMG2の方が大きいと判定される場合には、前記第1電動機制御手段70により前記第1電動機MG1の作動を制御することで前記トルクダウン制御を行う。すなわち、その第1電動機MG1の駆動変化(出力トルクの変化)により前記トルクダウン量をまかなう。また、前記第1電力変化量算出手段62により算出される電力変化量PDWMG1よりも前記第2電力変化量算出手段64により算出される電力変化量PDWMG2の方が小さいと判定される場合には、前記第2電動機制御手段72により前記第2電動機MG2の作動を制御することで前記トルクダウン制御を行う。すなわち、その第2電動機MG2の駆動変化により前記トルクダウン量をまかなう。
【0051】
また、前記電子制御装置32は、好適には、前記自動変速部20のダウンシフト時におけるイナーシャ相開始時のトルクダウン制御において、車速Vが予め定められた規定車速未満の低車速である場合には、前記第2電動機制御手段72により前記第2電動機MG2の作動を制御することで前記トルクダウン制御を行う。すなわち、その第2電動機MG2の駆動変化により前記トルクダウン量をまかなう。また、車速Vが上記規定車速以上の高車速であり且つ前記第1電動機MG1の回転速度NMG1が0付近(速度0との差が既定値未満)である場合には、前記第1電動機制御手段70により前記第1電動機MG1の作動を制御することで前記トルクダウン制御を行う。すなわち、その第1電動機MG1の駆動変化(出力トルクの変化)により前記トルクダウン量をまかなう。
【0052】
また、前記電子制御装置32は、好適には、車速Vが上記規定車速未満の低車速であって前記第2電動機MG2の作動を制御することで前記トルクダウン制御を行う場合には、トルクダウン開始までの間に電力収支が放電側となるように前記第2電動機制御手段72によりその第2電動機MG2を制御する。また、前記第1電動機MG1の作動を制御することで前記トルクダウン制御を行う場合には、前記充放電判定手段68による判定結果に基づいて前記第2電動機MG2の作動を制御する。すなわち、前記自動変速部20のダウンシフトにより前記第1電動機MG1が放電側となる(回転速度NMG1が閾値以上となる)ことが判定される場合には、トルクダウン開始までの間に電力収支が充電側となるように前記第2電動機MG2を制御する。また、前記自動変速部20のダウンシフトにより前記第1電動機MG1が充電側となる(回転速度NMG1が閾値未満となる)ことが判定される場合には、トルクダウン開始までの間に電力収支が放電側となるように前記第2電動機MG2を制御する。
【0053】
図6は、前記電子制御装置32による前記自動変速部20の第2速から第1速へのダウンシフト時であって、車速Vが比較的低車速(車速Vが規定車速未満)である場合における各種値の変化を説明するタイムチャートであり、従来の制御に対応する値を実線で、本実施例の制御に対応する値を破線でそれぞれ示している。また、電力収支に係る放電制限値及び充電制限値を一点鎖線で示している。この図6に示すように、車速Vが比較的低い低車速走行時には、前記第2電動機MG2の回転速度NMG2が比較的低い一方、アクセルペダルがゆっくりと踏み込まれること等により前記エンジン24の回転速度NEは比較的高い速度となっているため、前記第1電動機MG1の回転速度NMG1が第2電動機MG2の回転速度NMG2に比べて高い速度となっている。従って、変速同期回転付近に前記トルクダウン制御を実行する場合、前記第2電動機MG2のトルクを変化させることでトルクダウン量をまかなう方が電力変化量を小さく抑えることができるため、斯かる場合には前記第2電動機MG2の駆動制御により前記トルクダウン制御を実行する。ここで、図6に実線で示す従来の制御においては、細い破線で囲繞して示すように、前記第2電動機MG2のトルクダウンによって電力収支が充電制限値すなわち充電側の限界(例えば、−30[kW]程度)に達しており、不足分を前記第1電動機MG1のトルクダウンにより補っている。斯かる従来の制御においては、電力変化量が増加してしまうことに加え、所望のトルクダウンを実現するのに時間を要する。一方、図6に破線で示す本実施例の制御においては、細い破線で囲繞して示すように、ダウンシフトにより前記第1電動機MG1が充電側となることを見越して前記第2電動機MG2を放電側に制御しているため、その第2電動機MG2のみでトルクダウン量をまかなうことができ、速やかなトルクダウンを実現すると共に電力変化を所望の範囲に収めることが可能となる。なお、イナーシャ相中であれば前記自動変速部20が疑似ニュートラル状態とされているため、前記第2電動機MG2のトルクを変化させても変速ショックへの影響はほとんど無視できる。
【0054】
図7は、前記電子制御装置32による前記自動変速部20の第2速から第1速へのダウンシフト時であって、車速Vが比較的高車速(車速Vが規定車速以上)である場合における各種値の変化を説明するタイムチャートであり、従来の制御に対応する値を実線で、本実施例の制御に対応する値を破線でそれぞれ示している。また、電力収支に係る放電制限値及び充電制限値を一点鎖線で示している。この図7に示すように、車速Vが比較的高い高車速走行時には、前記第2電動機MG2の回転速度NMG2が比較的高く、前記第1電動機MG1の回転速度NMG1が第2電動機MG2の回転速度NMG2に比べて低い速度となっている。従って、変速同期回転付近に前記トルクダウン制御を実行する場合、前記第1電動機MG1のトルクを変化させることでトルクダウン量をまかなう方が電力変化量を小さく抑えることができるため、斯かる場合には前記第1電動機MG1の駆動制御により前記トルクダウン制御を実行する。ここで、図7に実線で示す従来の制御においては、細い破線で囲繞して示すように、前記第1電動機MG1のトルクダウンによって電力収支が放電制限値すなわち放電側の限界(例えば、+30[kW]程度)に達しており、不足分を前記第2電動機MG2のトルクダウンにより補っている。斯かる従来の制御においては、電力変化量が増加してしまうことに加え、所望のトルクダウンを実現するのに時間を要する。一方、図7に破線で示す本実施例の制御においては、細い破線で囲繞して示すように、ダウンシフトにより前記第1電動機MG1が放電側となることを見越して前記第2電動機MG2を充電側に制御しているため、前記第1電動機MG1のみでトルクダウン量をまかなうことができ、速やかなトルクダウンを実現すると共に電力変化を所望の範囲に収めることが可能となる。
【0055】
図8は、前記電子制御装置32による前記自動変速部20のダウンシフト時におけるトルクダウン制御の要部について説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0056】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記自動変速部20のダウン変速中であるか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、同期回転付近のトルクダウン制御において、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2それぞれの制御によりそのトルクダウン制御を行う場合の電力変化量PDWMG1、PDWMG2が算出される。次に、S3において、S2にて算出された、前記第1電動機MG1によりトルクダウン制御を行う場合の電力変化量PDWMG1が、前記第2電動機MG2によりトルクダウン制御を行う場合の電力変化量PDWMG2よりも大きいか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S8以下の処理が実行されるが、S3の判断が肯定される場合には、S4以下の処理が実行される。
【0057】
S4においては、前記自動変速部20の変速におけるイナーシャ相中であるか否かが判断される。このS4の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S4の判断が肯定される場合には、S5において、電力収支が放電側となるように前記第2電動機MG2の駆動が制御される。次に、S6において、前記自動変速部20の変速における同期回転付近のトルクダウン制御が開始されるか否かが判断される。このS6の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S6の判断が肯定される場合には、S7において、前記第2電動機MG2の出力トルクを制御することにより前記自動変速部20の変速における同期回転付近のトルクダウン制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
【0058】
S8においては、前記自動変速部20の変速におけるイナーシャ相中であるか否かが判断される。このS8の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S8の判断が肯定される場合には、S9において、前記自動変速部20の変速における同期時の前記第1電動機MG1の回転速度NMG1が0[rpm]より大きいか否かが判断される。このS9の判断が肯定される場合には、S10において、電力収支が充電側となるように前記第2電動機MG2の駆動が制御された後、S11以下の処理が実行されるが、S9の判断が否定される場合には、S13において、電力収支が放電側となるように前記第2電動機MG2の駆動が制御された後、S11において、前記自動変速部20の変速における同期回転付近のトルクダウン制御が開始されるか否かが判断される。このS11の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S11の判断が肯定される場合には、S12において、前記第1電動機MG1の出力トルクを制御することにより前記自動変速部20の変速における同期回転付近のトルクダウン制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
【0059】
以上の制御において、S1が前記変速制御手段60の動作に、S2が前記第1電力変化量算出手段62及び第2電力変化量算出手段64の動作に、S3が前記電力変化量比較手段66の動作に、S9が前記充放電判定手段68の動作に、S12が前記第1電動機制御手段70の動作に、S5、S7、S10、及びS13が前記第2電動機制御手段72の動作に、それぞれ対応する。
【0060】
このように、本実施例によれば、前記自動変速部20のダウンシフト時における同期回転付近のトルクダウン制御において、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2それぞれの制御によりそのトルクダウン制御を行った場合の電力変化量PDWMG1、PDWMG2を比較し、前記第1電動機MG1及び第2電動機MG2のうち電力変化量が少ない方を制御することで前記トルクダウン制御を行うものであることから、必要なトルクダウン量を実現するまでの時間を短縮することができ、所望されるタイミングでトルクダウン制御を行うことができるため、前記平滑コンデンサ48、50の容量が比較的小さい場合であっても耐久性に影響を与えるおそれが少なく、ダウンシフト時の変速ショックを好適に抑制することができる。すなわち、ダウンシフト時における変速ショックの発生を抑制しつつ平滑コンデンサの小型化を実現するハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
【0061】
また、前記自動変速部20のダウンシフトにより前記第1電動機MG1が放電側となる場合には、電力収支が充電側となるように前記第2電動機MG2を制御するが、前記自動変速部20のダウンシフトにより前記第1電動機MG1が充電側となる場合には、電力収支が放電側となるように前記第2電動機MG2を制御するものであるため、トルクダウン制御時に充放電収支の制約を受けることが少なくなり、適切な電動機によるトルクダウンを実現することが可能となる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0063】
20:自動変速部(自動変速機)、24:エンジン、26:動力分配装置(差動機構)、CA0:キャリア(第2回転要素)、MG1:第1電動機、MG2:第2電動機、R0:リングギヤ(第3回転要素)、S0:サンギヤ(第1回転要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転要素、入力回転部材であってエンジンに連結された第2回転要素、及び出力回転部材である第3回転要素を備えた差動機構と、前記第1回転要素に連結された第1電動機と、前記第3回転要素から駆動輪までの動力伝達経路に動力伝達可能に接続された第2電動機と、前記差動機構から駆動輪までの動力伝達経路に設けられた自動変速機とを、備えたハイブリッド車両であって、
前記自動変速機のダウンシフト時における同期回転付近のトルクダウン制御において、前記第1電動機及び第2電動機それぞれの制御により該トルクダウン制御を行った場合の電力変化量を比較し、前記第1電動機及び第2電動機のうち電力変化量が少ない方を制御することで前記トルクダウン制御を行うものであることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機のダウンシフトにより前記第1電動機が放電側となる場合には、電力収支が充電側となるように前記第2電動機を制御するが、前記自動変速機のダウンシフトにより前記第1電動機が充電側となる場合には、電力収支が放電側となるように前記第2電動機を制御するものである請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−224289(P2012−224289A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95516(P2011−95516)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】