説明

ハイブリッド車両の動力伝達装置

【課題】運転者に与える違和感を抑制しつつモータ・ジェネレータの接続先を切り替えることが可能なハイブリッド車両の動力伝達装置を提供する。
【解決手段】内燃機関10とMG20とが搭載されたハイブリッド車両1に適用され、前進の変速段として1速〜5速が設けられた変速機30と、MG20と変速機30の入力軸31とが動力伝達可能に接続される入力軸接続状態とMG20と変速機30の出力軸32とが動力伝達可能に接続される出力軸接続状態とに切り替え可能な第2クラッチ50とを備え、車両1の減速時にMG20で回生を行う動力伝達装置において、第2クラッチ50が入力軸接続状態のときに車両1に減速が要求された場合には、変速機30にて5速から4速へのダウンシフトが行われたときに第2クラッチ50が出力軸接続状態に切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ・ジェネレータが搭載されたハイブリッド車両に適用され、クラッチにてモータ・ジェネレータの接続先を変速機の入力軸と出力軸とに切り替え可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動力源として内燃機関とモータ・ジェネレータとが搭載された車両、いわゆるハイブリッド車両が知られている。また、ハイブリッド車両として、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達経路中に変速機が設けられた車両が知られている。このようなハイブリッド車両に適用される動力伝達制御装置として、モータ・ジェネレータの出力軸の接続先を変速機の入力軸と変速機の出力軸とに切り替え可能な切替機構が設けられた装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−260375号公報
【特許文献2】特開2010−241394号公報
【特許文献3】特開2001−315552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド車両では、一般に減速時にモータ・ジェネレータで回生を行っている。また、周知のように変速機が設けられている車両では、減速時に変速機の変速段を変速比が大きい変速段に変更するダウンシフトが行われる。車両に設けられる変速機として、互いに変速比が相違する複数の変速ギア対を有し、入力軸と出力軸との間の動力伝達に使用する変速ギア対を切り替えることにより変速を行う変速機が知られている。周知のようにこのような変速機では変速ギア対の切替時に入力軸と出力軸との間の動力伝達が一時遮断されるため、ダウンシフト時に駆動輪にかかるトルクが小さくなるトルク抜けが生じるおそれがある。特許文献1の装置では、モータ・ジェネレータを変速機の出力軸に接続することで、このようなトルク抜けをモータ・ジェネレータで補償できる。しかしながら、モータ・ジェネレータの出力軸が変速機の入力軸と接続されていた場合には、モータ・ジェネレータの接続先を変更する際にモータ・ジェネレータと駆動輪とが一時切り離される。そのため、この際にトルク抜けが生じ、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、運転者に与える違和感を抑制しつつモータ・ジェネレータの接続先を切り替えることが可能なハイブリッド車両の動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置は、モータ・ジェネレータが搭載されたハイブリッド車両に適用され、入力軸と、前記車両の駆動輪と動力伝達可能に接続された出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比が互いに相違する複数の変速段と、を有し、かつ前記複数の変速段を切り替え可能に構成された変速機と、前記モータ・ジェネレータと前記入力軸とが動力伝達可能に接続される入力軸接続状態と、前記モータ・ジェネレータと前記出力軸とが動力伝達可能に接続される出力軸接続状態と、に切り替え可能なクラッチ手段と、を備え、前記車両の減速時に前記モータ・ジェネレータで回生を行う動力伝達装置において、前記クラッチ手段が前記入力軸接続状態のときに前記車両に減速が要求された場合、前記変速機の変速段が変速比の小さいものから変速比の大きなものへ切り替えられるダウンシフトが行われたときに前記クラッチ手段を前記出力軸接続状態に切り替えるクラッチ制御手段を備えている(請求項1)。
【0007】
本発明の動力伝達装置では、変速機のダウンシフトが行われたときにクラッチ手段の状態を切り替えるので、クラッチ手段の状態を切り替える際に生じるトルク抜けをダウンシフト時に発生するトルク抜けに含ませることができる。そのため、運転者に与える違和感を抑制しつつモータ・ジェネレータの接続先を切り替えることができる。
【0008】
本発明の動力伝達装置の一形態において、前記クラッチ制御手段は、前記変速機において前記複数の変速段のうち最も変速比が小さい最高変速段が選択されており、かつ前記クラッチ手段が前記入力軸接続状態のときに前記車両に減速が要求された場合には、前記最高変速段からの前記ダウンシフトが行われたときに前記クラッチ手段を前記出力軸接続状態に切り替えてもよい(請求項2)。最高変速段からのダウンシフトが行われるときには車速が高く、また走行抵抗も大きい。そのため、運転者がトルク抜けを感じ難い。そのため、このようなときにクラッチ手段の状態を切り替えることにより、運転者に与える違和感をさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
以上に説明したように、本発明の動力伝達装置によれば、クラッチ手段の状態の切替時に生じるトルク抜けをダウンシフト時に発生するトルク抜けに含ませることができるので、運転者に与える違和感を抑制しつつモータ・ジェネレータの接続先を切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る動力伝達装置が組み込まれたハイブリッド車両を模式的に示す図。
【図2】制御装置が実行する接続先変更制御ルーチンを示すフローチャート。
【図3】接続先変更制御ルーチンにて第2クラッチの状態が切り替えられたときの車速、変速段、エンジンの回転数及び第2クラッチの状態の時間変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一形態に係る動力伝達装置が組み込まれた車両を模式的に示している。この車両1は、走行用動力源として内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)10及びモータ・ジェネレータ(以下、MGと略称することがある。)20を備えている。すなわち、この車両1はハイブリッド車両として構成されている。エンジン10は、複数の気筒を有する周知の火花点火式内燃機関である。MG20は、ハイブリッド車両に搭載されて電動機及び発電機として機能する周知のものである。
【0012】
車両1には、前進1速〜5速の変速段を有する変速機30が搭載されている。変速機30は、入力軸31と、出力軸32とを備えている。入力軸31と出力軸32との間には1速〜5速に対応する5組の変速ギア対(不図示)が介在している。各変速ギア対には、互いに大きさが異なる変速比が設定されている。変速比は、1速の変速ギア対、2速の変速ギア対、3速の変速ギア対、4速の変速ギア対、5速の変速ギア対の順に小さくなるように設定されている。また、各変速ギア対の変速比は、変速段が大きくなるほど次の変速段との間の変速比の差が小さくなるように設定されている。そのため、4速と5速との間の変速比の差が最も小さくなる。変速機30は、それら5組の変速ギア対のうちのいずれか1つによる回転伝達を選択的に成立させることにより変速段を切り替える。変速機30では、変速ギア対を切り替える場合に一時的に入力軸31と出力軸32との間の動力伝達が遮断されるニュートラル状態になる。
【0013】
この図に示すように入力軸31には、第1クラッチ40を介してエンジン10の出力軸11が接続されている。出力軸32には、不図示のデファレンシャル機構等を介して駆動輪2が動力伝達可能に接続されている。MG20の出力軸21は、第2クラッチ50を介して入力軸31及び出力軸32と接続されている。第2クラッチ50は、MG20の出力軸21と入力軸31とが動力伝達可能に接続される入力軸接続状態、MG20の出力軸21と出力軸32とが動力伝達可能に接続される出力軸接続状態及びMG20の出力軸21が入力軸31及び出力軸32の両方から切り離される解放状態に切り替え可能に構成されている。この第2クラッチ50では、入力軸接続状態及び出力軸接続状態の一方から他方に状態を切り替える場合には一方の状態から一旦解放状態に切り替えられ、その後他方の状態に切り替えられる。第2クラッチ50としては、例えばスリーブの位置を変更することにより接続先を切り替えることが可能な周知のドグクラッチを用いればよい。
【0014】
変速機30、第1クラッチ40及び第2クラッチ50の動作は、制御装置60にて制御される。制御装置60は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御装置60はエンジン10及びMG20の動作も制御する。制御装置60は車両1を適切に走行させるための各種制御プログラムを保持している。制御装置60はこれらのプログラムを実行することにより制御対象に対する制御を行っている。制御装置60には、車両1に係る情報を取得するための種々のセンサが接続されている。制御装置60には、例えば車両1の速度(車速)に対応した信号を出力する車速センサ61等が接続されている。この他にも制御装置60には種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0015】
制御装置60は、車両1の速度に応じて第2クラッチ50の動作を制御する。周知のようにMG20には、出力軸21を回転させることが可能な上限回転数が設定されている。そこで、制御装置60は、出力軸21の回転数がこの上限回転数未満になるように車速が所定の判定速度以上の場合には第2クラッチ50を入力軸接続状態に切り替える。また、制御装置60は、車速及びアクセル開度等に応じて変速機30の変速段を切り替える。この制御は、例えば車速及びアクセル開度にて特定される走行状態と変速機30の変速段との関係を示した変速線図を制御装置60のROMにマップとして記憶させておき、そのマップを参照して行えばよい。この制御では、車速が高くなるに従って変速比の小さい変速段に切り替える。そのため、車両1の減速時には、変速段が変速比の小さいものから大きいものに切り替えられる。
【0016】
この他、制御装置60は、車両1の減速時にMG20を発電機として機能させ、回生発電を行う。また、制御装置60は、この際に第2クラッチ50を出力軸接続状態に切り替える。上述したように車両1の減速時には変速段が切り替えられる。変速段の切替時には変速機30が一時ニュートラル状態になるため、駆動輪2にかかるトルクが小さくなるトルク抜けが生じる。そこで、制御装置60は、第2クラッチ50を出力軸接続状態に切り替え、変速段の切替時に駆動輪2にかかるトルクが変動しないようにMG20の動作を制御する。
【0017】
図2は、このように制御装置60が、車両1の減速時に第2クラッチ50の動作を制御するために実行する接続先変更制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは、車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行される。この制御ルーチンを実行することにより制御装置60が、本発明のクラッチ制御手段として機能する。
【0018】
この制御ルーチンにおいて制御装置60は、まずステップS11で車両1の走行状態を取得する。車両1の走行状態としては、車速等が取得される。次のステップS12において制御装置60は、第2クラッチ50が入力軸接続状態か否か判定する。第2クラッチ50が出力軸接続状態又は解放状態の場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、第2クラッチ50が入力軸接続状態の場合にはステップS13に進み、制御装置60は現在選択されている変速段が最高変速段の5速か否か判定する。変速段が5速ではないと判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。
【0019】
一方、変速段が5速であると判定した場合にはステップS14に進み、制御装置60は車両1が減速中か否か判定する。なお、減速中か否かは例えば車速の時間変化に基づいて判定すればよい。車両1が減速中ではないと判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、車両1が減速中と判定した場合にはステップS15に進み、制御装置60は変速段を5速から4速に切り替えるダウンシフトを行うべき所定のダウンシフト条件が成立したか否か判定する。ダウンシフト条件は、例えば上述した変速線図において車両1の走行状態が4速が設定されている領域に移行した場合に成立したと判定される。ダウンシフト条件が不成立と判定した場合には今回の制御ルーチンを終了する。一方、ダウンシフト条件が成立したと判定した場合にはステップS16に進み、制御装置60は5速から4速へのダウンシフトが行われているときに第2クラッチ50を出力軸接続状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0020】
図3は、接続先変更制御ルーチンにて第2クラッチ50の状態が切り替えられたときの車速、変速段、エンジン10の回転数及び第2クラッチ50の状態の時間変化を示している。この図では時刻tにおいて5速から4速へのダウンシフトが行われている。この図に示したように第2クラッチ50はこのときに入力軸接続状態から出力軸接続状態に切り替えられている。
【0021】
上述したように第2クラッチ50を入力軸接続状態から出力軸接続状態に切り替える場合には、一時MG20の出力軸21が変速機30の入力軸31及び出力軸32の両方から切り離される。そのため、この際にも駆動輪2にかかるトルクが小さくなるトルク抜けが生じる。本発明の動力伝達装置によれば、5速から4速へのダウンシフトを行うときに第2クラッチ50の状態を切り替える。そのため、第2クラッチ50の状態の切替時に発生するトルク抜けをダウンシフト時に発生するトルク抜けに含ませることができる。5速から4速へのダウンシフト時は、車速が高く、また走行抵抗も大きい。そのため、運転者がトルク抜けを感じ難い。また、変速機30では5速と4速との間の変速比の差が最も小さい。そのため、5速から4速へのダウンシフト時に生じる減速度の変動が小さい。従って、本発明によれば、運転者に与える違和感を抑制しつつMG20の出力軸21の接続先を切り替えることができる。
【0022】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、第2クラッチの状態を切り替えるタイミングは、最高変速段である5速から4速へのダウンシフト時に限定されない。4速から3速へのダウンシフト時でもよいし、3速から2速へのダウンシフト時でもよい。このような時期に第2クラッチの状態を切り替えても、状態の切替時に発生するトルク抜けをダウンシフト時のトルク抜けに含ませることができる。そのため、運転者に与える違和感を抑制しつつモータ・ジェネレータの接続先を切り替えることができる。
【0023】
本発明の動力伝達装置に設けられる変速機は、最高変速段が5速の変速機に限定されない。本発明の変速機は、最高変速段が4速以下又は最高変速段が6速以上の変速機であってもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 車両
2 駆動輪
20 モータ・ジェネレータ
30 変速機
31 入力軸
32 出力軸
50 第2クラッチ(クラッチ手段)
60 制御装置(クラッチ制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ・ジェネレータが搭載されたハイブリッド車両に適用され、
入力軸と、前記車両の駆動輪と動力伝達可能に接続された出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間の変速比が互いに相違する複数の変速段と、を有し、かつ前記複数の変速段を切り替え可能に構成された変速機と、
前記モータ・ジェネレータと前記入力軸とが動力伝達可能に接続される入力軸接続状態と、前記モータ・ジェネレータと前記出力軸とが動力伝達可能に接続される出力軸接続状態と、に切り替え可能なクラッチ手段と、を備え、
前記車両の減速時に前記モータ・ジェネレータで回生を行う動力伝達装置において、
前記クラッチ手段が前記入力軸接続状態のときに前記車両に減速が要求された場合、前記変速機の変速段が変速比の小さいものから変速比の大きなものへ切り替えられるダウンシフトが行われたときに前記クラッチ手段を前記出力軸接続状態に切り替えるクラッチ制御手段を備えている動力伝達装置。
【請求項2】
前記クラッチ制御手段は、前記変速機において前記複数の変速段のうち最も変速比が小さい最高変速段が選択されており、かつ前記クラッチ手段が前記入力軸接続状態のときに前記車両に減速が要求された場合には、前記最高変速段からの前記ダウンシフトが行われたときに前記クラッチ手段を前記出力軸接続状態に切り替える請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−99992(P2013−99992A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244295(P2011−244295)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】