説明

ハイブリッド車両の動力制御装置

【課題】共振の発生を抑制することができるハイブリッド車両の動力制御装置を提供する。
【解決手段】動力制御装置ECUは、内燃機関ENGと電動機MGと自動変速機1とを制御し、内燃機関ENGの駆動力に対する共振領域が予め記憶された記憶手段FRを備える。自動変速機1は、第1駆動ギヤ軸4と、第2駆動ギヤ軸5と、第1クラッチC1と、第2クラッチC1とを備える。電動機MGは第1駆動ギヤ軸4に連結される。動力制御装置ECUは、車両停車状態からHEV発進するに際し、目標駆動力を設定し、目標駆動力に対して内燃機関ENGに要求する駆動力を共振領域の範囲外の駆動力に設定し、電動機MGに要求する駆動力は、目標駆動力に対して不足する駆動力を要求する共振抑制処理を実行する共振抑制処理部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機と自動変速機とを備えるハイブリッド車両の動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変速比順位で奇数番目の変速段を確立する各ギヤ列の駆動ギヤを軸支する第1駆動ギヤ軸と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する各ギヤ列の駆動ギヤを軸支する第2駆動ギヤ軸と、内燃機関の駆動力を第1駆動ギヤ軸に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在な第1クラッチと、前記内燃機関の駆動力を前記第2駆動ギヤ軸に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在な第2クラッチと、前記第1駆動ギヤ軸に駆動力を伝達自在な電動機とを備える自動変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−89594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動変速機は、内燃機関から伝達される駆動力が所定範囲内のときに、自動変速機の構成部品の共振周波数と合致して内燃機関から伝達される振動が増幅され、共振が発生することがある。
【0005】
本発明は、共振の発生を抑制することができるハイブリッド車両の動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明は、内燃機関と電動機と自動変速機とを備えるハイブリッド車両の動力制御装置であって、自動変速機は、変速比順位で奇数番目の変速段を確立する各ギヤ列の駆動ギヤを軸支する第1駆動ギヤ軸と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する各ギヤ列の駆動ギヤを軸支する第2駆動ギヤ軸と、内燃機関の駆動力を第1駆動ギヤ軸に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在な第1クラッチと、内燃機関の駆動力を第2駆動ギヤ軸に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在な第2クラッチと、奇数番ギヤ列の駆動ギヤと第1駆動ギヤ軸とを連結した状態と、この連結を断つ状態とに切換自在な少なくとも1つの第1噛合機構と、偶数番ギヤ列の駆動ギヤと第2駆動ギヤとを連結した状態と、この連結を断つ状態とに切換自在な少なくとも1つの第2噛合機構と、サンギヤ、キャリア及びリングギヤの3つの要素を有する遊星歯車機構とを備え、遊星歯車機構の3つの要素を、各要素の相対的な回転速度を直線で表すことができる共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素、第3要素として、第1要素は第1駆動ギヤ軸に固定され、第2要素は第1駆動ギヤ軸に軸支された1つの駆動ギヤに連結され、第3要素は、ロック機構で、変速機ケースに固定された固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在とされ、記電動機は第1駆動ギヤ軸又は前記第2駆動ギヤ軸に駆動力を伝達自在に自動変速機に連結され、内燃機関の駆動力に対する共振領域が予め記憶された記憶手段を備え、車両停車状態において、内燃機関と電動機の両方の駆動力を用いて発進するHEV発進を実行するに際し、目標駆動力を設定し、目標駆動力を得るために内燃機関には記憶手段に記憶された共振領域の範囲外の駆動力を要求し、電動機には、目標駆動力に対して不足する駆動力を要求する共振抑制処理を実行する共振抑制処理部を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、内燃機関に要求する駆動力を共振領域の範囲外に設定するため、内燃機関の駆動力は、共振領域に入る前の駆動力に設定されるか、又は共振領域を超える駆動力に設定される。従って、共振領域に入る前の駆動力に設定された場合には、共振は発生せず、又、共振領域を超える駆動力に設定された場合には、共振領域内での駆動力が長時間維持されることなく、速やかに共振領域を通過させることができ、共振の発生を抑制することができる。
【0008】
[2]本発明において、第1クラッチ及び第2クラッチは乾式摩擦クラッチであり、共振領域は第1クラッチ又は第2クラッチの締結状態における共振周波数に基づいて設定されることが好ましい。湿式摩擦クラッチは摩擦面に潤滑油が供給されるのに対し、乾式摩擦クラッチは摩擦面に潤滑油が供給されないため、乾式摩擦クラッチは湿式摩擦クラッチと比較して共振し易い。このため、第1クラッチ又は第2クラッチの締結状態における共振周波数に基づいて共振領域を設定すれば、適切に乾式摩擦クラッチからなる第1クラッチ又は第2クラッチで発生する共振を抑制させることができる。
【0009】
[3]本発明において、記憶手段には、共振領域として、第1クラッチ又は第2クラッチの締結圧の変化に応じて変化する複数の共振領域が記憶され、共振抑制処理部は、HEV発進時において、複数の共振領域のうちの内燃機関の駆動力の大きい側に位置する共振領域である大側共振領域を選択し、この大側共振領域に対応する締結圧を第1クラッチ又は第2クラッチの締結圧とすると共に、内燃機関の駆動力を、大側共振領域に入る前の所定の閾値まで上昇させた後、複数の共振領域のうちの大側共振領域よりも内燃機関の駆動力の小さい側にずれて位置する共振領域である小側共振領域を選択し、この小側共振領域に対応する締結圧を第1クラッチ又は第2クラッチの締結圧とすると共に、内燃機関の駆動力を、小側共振領域を超える値に設定することが好ましい。
【0010】
クラッチの共振周波数はクラッチの締結圧に応じて変化することが実験により分かった。この現象を利用して、本発明の動力制御装置において、HEV発進時に、第1クラッチ又は第2クラッチの締結圧を大側共振領域に対応する締結圧として、内燃機関の駆動力を大側共振領域に入る前の所定の閾値まで上昇させた後、第1クラッチ又は第2クラッチの締結圧を小側共振領域に対応する締結圧として、内燃機関の駆動力を小側共振領域を超える値に設定すれば、実質的な共振領域の幅が狭くなり、内燃機関の駆動力は共振領域をより速やかに超えることができ、共振の発生をより抑制することができる。
【0011】
[4]本発明において、車両の走行速度が所定速度以上である場合であって、共振抑制処理部が内燃機関の駆動力を共振領域の範囲外とすべく共振領域よりも低く設定したときには、共振領域抑制処理部は、内燃機関の駆動力を抑えた分だけ目標駆動力を減少させる慣性走行処理を実行することが好ましい。車両の走行速度が所定速度以上となった場合には、車両がある程度慣性力で走行できる状態となる。このため、目標駆動力を低く設定しても運転者等は違和感を感じ難く、共振を防止して、電動機の消費電力も抑えることができる。
【0012】
[5]本発明において、第1クラッチ又は第2クラッチのみを締結する単独締結状態と、第1クラッチ又は第2クラッチに加えて第2クラッチ又は第1クラッチも締結する両締結状態とに切換自在であり、記憶手段には、共振領域として、単独締結状態に対応する第1共振領域と、両締結状態に対応する第2共振領域との2つの共振領域が記憶され、共振抑制処理部は、HEV発進時において、第1クラッチ及び第2クラッチを締結状態として両締結状態とすると共に、第2共振領域に入る前の所定の閾値まで内燃機関の駆動力を上昇させた後、第2クラッチ又は第1クラッチを開放状態として単独締結状態とし、内燃機関の駆動力を第1共振領域を超える値に設定することが好ましい。
【0013】
第1クラッチ又は第2クラッチのみを締結状態とする単独締結状態と比べて、第1クラッチ又は第2クラッチに加えて第2クラッチ又は第1クラッチも締結状態とする両締結状態では、第2クラッチ又は第1クラッチが締結される分だけ、内燃機関の駆動力が伝達されるクラッチの部分における実質的な質量が増加し、このクラッチの部分における共振周波数が内燃機関の駆動力の大きい側にずれることが実験により分かった。
【0014】
この現象を利用して、本発明の動力制御装置において、HEV発進時に第1クラッチ及び第2クラッチを締結させる両締結状態とし、内燃機関の駆動力を第2共振領域に入る前の所定の閾値まで上昇させた後、第2クラッチ又は第1クラッチを開放して単独連結状態として、共振領域を、第2共振領域よりも内燃機関の駆動力の小さい側に位置する第1共振領域に移行させ、内燃機関の駆動力を第1共振領域よりも大きい駆動力となるように設定すれば、実質的な共振領域の幅が狭くなり、内燃機関の駆動力は共振領域をより速やかに超えることができ、共振の発生をより抑制することができる。
【0015】
[6]本発明において、自動変速機は、その内部を潤滑する潤滑油の温度を検出する油温度検出手段を備え、この油温度検出手段で検出された潤滑油の温度に基づいて、共振領域を補正することが好ましい。クラッチはその周辺部材の温度やクラッチの締結頻度に伴って発熱し、この発熱状態の変化に応じてクラッチの締結圧も変化する。クラッチの締結圧が変化するとクラッチの共振周波数も変化する。このため、潤滑油の温度を油温度検出手段で検出し、潤滑油の温度に基づいて、クラッチの発熱状態を推定し、共振領域を補正すれば、共振が発生する共振領域を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の動力制御装置を示す説明図。
【図2】第1実施形態の動力制御装置による内燃機関の駆動力の制御例を示す説明図。
【図3】第2実施形態及び第3実施形態の動力制御装置による内燃機関の駆動力の制御例を示す説明図。
【図4】第4実施形態の自動変速機を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態のハイブリッド車両の動力制御装置を説明する。第1実施形態のハイブリッド車両は、図1に示す自動変速機1を備える。自動変速機1は、エンジンからなる内燃機関ENGの駆動力(出力トルク)が伝達される入力軸2と、図外のディファレンシャルギヤを介して駆動輪としての左右の前輪に動力を出力する出力ギヤからなる出力部材3と、変速比の異なる複数のギヤ列G2〜G5とを備える。
【0018】
又、自動変速機1は、変速比順位で奇数番目の各変速段を確立するギヤ列G3,G5の駆動ギヤG3a,G5aを回転自在に軸支する第1駆動ギヤ軸4と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立するギヤ列G2,G4の駆動ギヤG2a,G4aを回転自在に軸支する第2駆動ギヤ軸5と、後進段を確立する際に用いられリバース駆動ギヤGRaとリバース従動ギヤGRbとからなる後進段用ギヤ列GRのリバース従動ギヤGRbを回転自在に軸支するリバース軸6を備える。第1駆動ギヤ軸4は入力軸2と同一軸線上に配置されており、第2駆動ギヤ軸5は第1駆動ギヤ軸4と平行に配置されている。
【0019】
又、自動変速機1は、第1駆動ギヤ軸4に回転自在に軸支されたアイドル駆動ギヤGiaと、アイドル駆動ギヤGiaに噛合する第1アイドル従動ギヤGibと、第1アイドル従動ギヤGibに噛合すると共に、第2駆動ギヤ軸5に固定された第2アイドル従動ギヤGicと、第1アイドル従動ギヤGibに噛合すると共に、リバース軸6に固定された第3アイドル従動ギヤGidとで構成されるアイドルギヤ列Giを備える。
【0020】
自動変速機1は、乾式摩擦クラッチからなる第1クラッチC1及び第2クラッチC2を備える。第1クラッチC1は、入力軸2に伝達された内燃機関ENGの駆動力を第1駆動ギヤ軸4に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第2クラッチC2は、入力軸2に伝達された内燃機関ENGの駆動力を第2駆動ギヤ軸5に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0021】
又、自動変速機1には、入力軸2と同軸上に位置させて、プラネタリギヤ機構PGが配置されている。プラネタリギヤ機構PGは、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSa及びリングギヤRaに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなるシングルピニオン型で構成される。
【0022】
プラネタリギヤ機構PGのサンギヤSa、キャリアCa、リングギヤRaからなる3つの要素を、共線図(各要素の相対的な回転速度を直線で表すことができる図)におけるギヤ比に対応する間隔での並び順にサンギヤSa側から夫々第1要素、第2要素、第3要素とすると、第1要素はサンギヤSa、第2要素はキャリアCa、第3要素はリングギヤRaとなる。
【0023】
そして、プラネタリギヤ機構PGのギヤ比(リングギヤRaの歯数/サンギヤSaの歯数)をgとして、第1要素たるサンギヤSaと第2要素たるキャリアCaの間の間隔と、第2要素たるキャリアCaと第3要素たるリングギヤRaの間の間隔との比が、g:1となる。
【0024】
第1要素たるサンギヤSaは、第1駆動ギヤ軸4に固定されている。第2要素たるキャリアCaは、3速ギヤ列G3の3速駆動ギヤG3aに連結されている。第3要素たるリングギヤRaは、ロック機構B1により変速機ケース7に解除自在に固定される。
【0025】
ロック機構B1は、シンクロメッシュ機構で構成され、リングギヤRa(第3要素)を変速機ケース7に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。尚、ロック機構B1は、シンクロメッシュ機構に限らず、2ウェイクラッチ、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ等の他のもので構成してもよい。
【0026】
ここで、2ウェイクラッチは、リングギヤRa(第3要素)の正転(前進方向の回転)を許容し逆転(後進方向の回転)を阻止する逆転阻止状態、又は正転を阻止し逆転を許容する正転阻止状態の何れかの状態に切換自在に構成されるものであり、ロック機構B1として2ウェイクラッチを用いる場合には、リングギヤRaが逆転する状態においては逆転阻止状態とすることにより、又、リングギヤRaが正転する状態においては正転阻止状態とすることにより、リングギヤRaが変速機ケース7に固定されることとなる。
【0027】
プラネタリギヤ機構PGの径方向外方には、中空の電動機MG(モータ・ジェネレータ)が配置されている。換言すれば、プラネタリギヤ機構PGは、中空の電動機MGの内方に配置されている。電動機MGは、ステータMGaとロータMGbとを備える。ロータMGbは、第1駆動ギヤ軸4に連結されている。
【0028】
又、電動機MGは、動力制御装置ECU(Electronic Control Unit)の指示信号に基づき、パワードライブユニットPDU(Power Drive Unit)を介して制御され、動力制御装置ECUは、パワードライブユニットPDUを、二次電池BATTの電力を消費して電動機MGを駆動させる駆動状態と、ロータMGbの回転力を抑制させて発電し、発電した電力をパワードライブユニットPDUを介して二次電池BATTに充電する回生状態とに適宜切り換える。
【0029】
第1駆動ギヤ軸4には、リバース軸6に回転自在に軸支される後進段用ギヤ列GRのリバース従動ギヤGRbと噛合するリバース駆動ギヤGRaが固定されている。出力部材3を軸支する出力軸3aには、2速駆動ギヤG2a及び3速駆動ギヤG3aに噛合する第1従動ギヤGo1が固定されている。又、出力軸3aには、4速駆動ギヤG4a及び5速駆動ギヤG5aに噛合する第2従動ギヤGo2が固定されている。
【0030】
このように、2速ギヤ列G2と3速ギヤ列G3の従動ギヤ、及び4速ギヤ列G4と5速ギヤ列G5の従動ギヤとを夫々1つのギヤGo1,Go2で構成することにより、自動変速機の軸長を短くすることができ、FF(前輪駆動)方式の車両への搭載性を向上させることができる。
【0031】
第1駆動ギヤ軸4には、シンクロメッシュ機構で構成され、3速駆動ギヤG3aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した3速側連結状態、5速駆動ギヤG5aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した5速側連結状態、3速駆動ギヤG3a及び5速駆動ギヤG5aと第1駆動ギヤ軸4との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換自在な第1噛合機構SM1が設けられている。
【0032】
第2駆動ギヤ軸5には、シンクロメッシュ機構で構成され、2速駆動ギヤG2aと第2駆動ギヤ軸5とを連結した2速側連結状態、4速駆動ギヤG5aと第2駆動ギヤ軸5とを連結した4速側連結状態、2速駆動ギヤG2a及び4速駆動ギヤG5aと第2駆動ギヤ軸5との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換自在な第2噛合機構SM2が設けられている。
【0033】
リバース軸6には、シンクロメッシュ機構で構成され、リバース駆動ギヤGRaとリバース軸6とを連結した連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換自在な第3噛合機構SM3が設けられている。
【0034】
次に、上記の如く構成される自動変速機1の作動について説明する。尚、本実施形態の自動変速機1では、車両が駐車状態であるときには、第1クラッチC1を係合させることにより、電動機MGを駆動させて内燃機関ENGを始動させることができる。
【0035】
先ず、内燃機関ENGの駆動力を用いて1速段を確立する場合には、ロック機構B1を固定状態としてプラネタリギヤ機構PGのリングギヤRaを変速機ケース7に固定し、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。
【0036】
内燃機関ENGの駆動力は、入力軸2、第1クラッチC1、第1駆動ギヤ軸4を介して、プラネタリギヤ機構PGのサンギヤSaに入力され、入力軸2に入力された内燃機関ENGの回転速度がプラネタリギヤ機構PGのギヤ比(リングギヤRaの歯数/サンギヤSaの歯数)をgとして1/(g+1)に減速されて、キャリアCaを介し3速駆動ギヤG3aに伝達される。
【0037】
3速駆動ギヤG3aに伝達された駆動力は、3速駆動ギヤG3a及び第1従動ギヤGo1で構成される3速ギヤ列G3のギヤ比(3速駆動ギヤG3aの歯数/第1従動ギヤGo1の歯数)をiとして、1/i(g+1)に変速されて第1従動ギヤGo1及び出力軸3aを介し出力部材3から出力され、1速段が確立される。
【0038】
このように、第1実施形態の自動変速機1では、プラネタリギヤ機構PG及び3速ギヤ列で1速段を確立できるため、1速段専用の噛合機構が必要なく、又、プラネタリギヤ機構PGは中空の電動機MG内に配置されるため、自動変速機の軸長の更なる短縮化を図ることができる。
【0039】
尚、1速段において、車両が減速状態にあり、且つ二次電池BATTの充電率SOC(State Of Charge)が所定値未満であるときには、動力制御装置ECUは、電動機MGでブレーキをかけることにより発電を行う減速回生運転を行う。又、二次電池BATTの充電率SOCが所定値以上であるときには、電動機MGを駆動させて、内燃機関ENGの駆動力を補助するHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行、又は電動機MGの駆動力のみで走行するEV(Electric Vehicle)走行を行うことができる。
【0040】
又、EV走行中であって車両速度が一定速度以上の場合には、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、内燃機関ENGを始動させることができる。又、1速段で走行中に2速段にアップシフトされることを動力制御装置ECUが車両速度やアクセルペダルの開度等の車両情報から予測した場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2駆動ギヤ軸5とを連結させる2速側連結状態又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
【0041】
内燃機関ENGの駆動力を用いて2速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2駆動ギヤ軸5とを連結させた2速側連結状態とし、第1クラッチC1を開放状態とすると共に、第2クラッチC2を締結して伝達状態とする。これにより、内燃機関ENGの駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギヤ列Gi、第2駆動ギヤ軸5、2速ギヤ列G2及び出力軸3aを介して、出力部材3から出力される。
【0042】
尚、2速段において、動力制御装置ECUがアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した3速側連結状態又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
【0043】
逆に、動力制御装置ECUがダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を、第3駆動ギヤG3a及び第5駆動ギヤG5aと第1駆動ギヤ軸4との連結を断つニュートラル状態とする。
【0044】
これにより、アップシフト又はダウンシフトを、第1クラッチC1を伝達状態とし、第2クラッチC2を開放状態とするだけで行うことができ、変速段の切り換えを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
【0045】
又、2速段においても、車両が減速状態にあり、且つ二次電池BATTの充電率SOCが所定値未満であるときには、動力制御装置ECUは、減速回生運転を行う。2速段において減速回生運転を行う場合には、第1噛合機構SM1が3速側連結状態であるか、ニュートラル状態であるかで異なる。
【0046】
第1噛合機構SM1が3速側連結状態である場合には、第2駆動ギヤG2aで回転される第1従動ギヤGo1によって回転する第3駆動ギヤG3aが第1駆動ギヤ軸4を介して電動機MGのロータMGbを回転させるため、このロータMGbの回転を抑制しブレーキをかけることにより発電して回生を行う。
【0047】
第1噛合機構SM1がニュートラル状態である場合には、ロック機構B1を固定状態とすることによりリングギヤRaの回転速度を「0」とし、第1従動ギヤGo1に噛合する3速駆動ギヤG3aと共に回転するキャリアCaの回転速度を、サンギヤSaに連結させた電動機MGにより発電させることによりブレーキをかけて、回生を行う。
【0048】
又、2速段においてHEV走行する場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1駆動ギヤ軸4とを連結させた3速側連結状態として、プラネタリギヤ機構PGを各要素が相対回転不能なロック状態とし、電動機MGの駆動力を3速ギヤ列G3を介して出力部材3に伝達することにより行うことができる。
【0049】
内燃機関ENGの駆動力を用いて3速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1駆動ギヤ軸4とを連結させた3速側連結状態として、第2クラッチC2を開放状態とすると共に、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。これにより、内燃機関ENGの駆動力は、入力軸2、第1クラッチC1、第1駆動ギヤ軸4、第1噛合機構SM1、3速ギヤ列G3を介して、出力部材3に伝達され、1/iの回転速度で出力される。
【0050】
3速段においては、第1噛合機構SM1が3速駆動ギヤG3aと第1駆動ギヤ軸4とを連結させた3速側連結状態となっているため、プラネタリギヤ機構PGのサンギヤSaとキャリアCaとが同一回転となる。
【0051】
従って、プラネタリギヤ機構PGの各要素が相対回転不能なロック状態となり、電動機MGでサンギヤSaにブレーキをかければ減速回生となり、電動機MGでサンギヤSaに駆動力を伝達させれば、HEV走行を行うことができる。又、第1クラッチC1を開放して、電動機MGの駆動力のみで走行するEV走行も可能である。
【0052】
3速段において、動力制御装置ECUは、車両速度やアクセルペダルの開度等の車両情報に基づきダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2駆動ギヤ軸5とを連結する2速側連結状態、又はこの状態に近づけるプリシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2駆動ギヤ軸5とを連結する4速側連結状態、又はこの状態に近づけるプリシフト状態とする。これにより、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とし、第1クラッチC1を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切換えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0053】
内燃機関ENGの駆動力を用いて4速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2駆動ギヤ軸5とを連結させた4速側連結状態とし、第1クラッチC1を開放状態とすると共に、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。
【0054】
4速段で走行中は、動力制御装置ECUが車両情報からダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した3速側連結状態、又はこの状態に近づけるプリシフト状態とする。
【0055】
逆に、動力制御装置ECUが車両情報からアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した5速側連結状態、又は、この状態に近づけるプリシフト状態とする。これにより、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とし、第2クラッチC2を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0056】
4速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、動力伝達装置ECUがダウンシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した3速側連結状態とし、電動機MGでブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。
【0057】
動力制御装置ECUがアップシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した5速側連結状態とし、電動機MGによりブレーキをかければ減速回生、電動機MGから駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。
【0058】
内燃機関ENGの駆動力を用いて5速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1駆動ギヤ軸4とを連結した5速側連結状態とし、第2クラッチC2を開放状態とすると共に、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。5速段においては、第1クラッチC1が伝達状態とされることにより内燃機関ENGと電動機MGとが直結された状態となるため、電動機MGから駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機MGでブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
【0059】
尚、5速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチC1を開放状態とすればよい。又、5速段でのEV走行中に、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、内燃機関ENGの始動を行うこともできる。
【0060】
動力制御装置ECUは、5速段で走行中に車両情報から4速段へのダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2駆動ギヤ軸5とを連結させた4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。これにより、4速段へのダウンシフトを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
【0061】
内燃機関ENGの駆動力を用いて後進段を確立する場合には、ロック機構B1を固定状態とし、第3噛合機構SM3をリバース駆動ギヤGRaとリバース軸6とを連結した連結状態として、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。これにより、入力軸2の回転速度が、[アイドル駆動ギヤGiaの歯数/第3アイドル従動ギヤGidの歯数]×[リバース駆動ギヤGRaの歯数/リバース従動ギヤGRbの歯数]×[1/i(g+1)]の回転速度のマイナス回転(後進方向の回転)に変速されて、出力部材3から出力され、後進段が確立される。
【0062】
又、後進段において、逆転しているロータMGbに、正転側の駆動力を発生させてブレーキをかければ減速回生、逆転側の駆動力を発生させればHEV走行を行うことができる。又、両クラッチC1,C2を開放状態とし、ロック機構B1を固定状態として、電動機MGを逆転させることにより、EV走行による後進段を確立することもできる。
【0063】
次に、第1実施形態の動力制御装置ECUの車両発進時の作動を説明する。動力制御装置ECUは、内燃機関ENGと電動機MGの駆動力を用いて車両を発進させるHEV(Hybrid Electric Vehicle)発進を実行する場合には、アクセルペダルの開度等の車両情報に基づき、目標駆動力を設定する。そして、内燃機関ENGと電動機MGとの駆動力(出力トルク)の和が目標駆動力に達するように、内燃機関ENGと電動機MGの駆動力(出力トルク)を夫々設定する。
【0064】
動力制御装置ECUは、フラッシュロム又はEEPROMから成る記憶手段FRを内蔵し、第1クラッチC1が最大締結圧で締結された状態における、第1クラッチC1で共振が発生する内燃機関ENGの駆動力(出力トルク)の共振領域Xが予め記憶されている。この共振領域Xは予め実験により求められたものである。
【0065】
第1クラッチC1のクラッチドラムC1a(クラッチの径方向外方に配置された部材で内燃機関ENG側に連結された部材)は、所定の外力が加わったときに振動し易い領域として固有振動数(共振周波数)を有しており、内燃機関ENGの駆動力が所定領域内のときに、このクラッチドラムC1aで共振が発生することが実験により分かっている。
【0066】
又、動力制御装置ECUは、共振抑制処理部8を備える。共振抑制処理部8は、車両停車状態からHEV発進するに際し、目標駆動力に対して内燃機関ENGに要求する駆動力を記憶手段FRに記憶された共振領域Xの範囲外に設定し、電動機MGに対して、目標駆動力に対し不足する駆動力を要求する共振抑制処理を実行する。
【0067】
この共振抑制処理を、図2を参照して、車両が停止している状態から、アクセルペダルが徐々に踏み込まれ目標駆動力が一定量で増加している車両の発進状態を例に説明する。動力制御装置ECUの共振抑制処理部8は、二次電池BATTの充電率SOC等の車両情報を考慮し、内燃機関ENGの駆動力が共振領域Xに入る前の所定の閾値Tq1に達したところで、内燃機関ENGの駆動力を閾値Tq1に保ちつつ、目標駆動力に対して不足する駆動力を電動機MGで補うべく電動機MGの駆動力を増加させて、目標駆動力が得られるように制御する。
【0068】
そして、目標駆動力が所定の目標値TqAに達したとき、内燃機関ENGの駆動力を一気に上昇させ素早く共振領域Xを抜けるように制御すると共に、内燃機関ENGの駆動力を増加させた分だけ電動機MGの駆動力を減らして、内燃機関ENGと電動機MGの駆動力の合計が目標駆動力となるように制御する。
【0069】
これにより、目標駆動力の増加に伴い徐々に内燃機関ENGの駆動力を上げる場合と比較して、内燃機関ENGの駆動力が素早く共振領域Xを抜けることができ、共振の発生を抑制させることができる。
【0070】
又、共振抑制処理部8は、車両の走行速度が所定速度以上となった場合には、内燃機関ENGの駆動力が閾値Tq1に達したところで、内燃機関ENGの駆動力を閾値Tq1に保ちつつ、内燃機関ENGの駆動力を抑えた分だけ、目標駆動力から減少させた値を慣性走行用の目標駆動力となるように電動機MGの駆動力を制御する慣性走行処理を実行する。
【0071】
車両の走行速度が所定速度以上となった場合には、目標駆動力に達しなくとも、車両のイナーシャ(慣性力)である程度走行することができ、運転者等の体感的にも殆ど影響がでない。このため、単純に内燃機関ENGの駆動力のみを押える慣性走行処理を実行する。
【0072】
尚、この慣性走行処理では、本来の目標駆動力が所定の目標値TqAに達したときには、内燃機関ENGの駆動力を一気に上昇させて素早く共振領域Xを通り抜けるように制御し、電動機MGの駆動力は一旦減少させた後、徐々に元に戻すように制御する。これにより、内燃機関ENGの駆動力と電動機MGの駆動力の和が徐々に本来の目標駆動力に近づいていくこととなり、運転者等に急激な加速するような感じを与えることを防止している。
【0073】
又、共振抑制処理部8で共振抑制処理を実行させる場合には、第1クラッチC1のみならず第2クラッチC2も締結させて伝達状態としてもよい。第2クラッチC2も締結させると、内燃機関ENGの駆動力は第2駆動ギヤ軸5にも伝達される状態となり、第1クラッチC1のクラッチドラムC1aの質量が実質的に増加した状態となって、クラッチドラムC1aでの共振周波数に変化が生じる。
【0074】
これを図3を参照しつつ、第2実施形態の動力制御装置ECUとして説明する。第2実施形態の動力制御装置ECUは、共振抑制処理部8による共振抑制処理が異なる点を除き、第1実施形態と同一に構成される。
【0075】
ここで、第1クラッチC1に加えて第2クラッチC2も締結して伝達状態とした両締結状態の場合には、第1クラッチC1の実質的な質量が増加する。これにより、第1クラッチC1のみを伝達状態とした単独締結状態の場合の共振領域を第1共振領域Xとすると、両クラッチC1,C2を伝達状態とした場合の第2共振領域Yは、第1共振領域Xよりも図3における上方(内燃機関ENGの駆動力の大きい側)にずれることが実験により分かっている。
【0076】
そこで、第2実施形態では、第1共振領域Xと第2共振領域Yとが予め実験により求め、これらを記憶手段FRに記憶させている。そして、第2実施形態の共振抑制処理部8は、車両がHEV発進する際において、動力制御装置ECUが1速段から2速段へのシフトアップを予測していない場合には、第1クラッチC1及び第2クラッチC2を伝達状態として両締結状態とし、共振領域として、第2共振領域Yを選択する。
【0077】
そして、共振抑制処理部8は、内燃機関ENGの駆動力が第2共振領域Yに入る前の所定の閾値Tq2に達したところで、内燃機関ENGを閾値Tq2に保ちつつ、目標駆動力に対して不足する駆動力を電動機MGで補うべく電動機MGの駆動力を増加させて、目標駆動力が得られるように制御する。
【0078】
そして、目標駆動力が所定の目標値TqAに達したときに、共振抑制処理部8は、第2クラッチC2を開放状態として単独連結状態とし、共振領域として第1共振領域Xを選択すると共に、内燃機関ENGの駆動力を、第1共振領域X内に位置するTqAから一気に上昇させ迅速に第1共振領域Xを通過するように制御し、内燃機関ENGの駆動力を増加させた分だけ電動機MGの駆動力を減少させて、内燃機関ENGと電動機MGの駆動力の和が目標駆動力となるように制御する。
【0079】
このように第2実施形態の共振抑制処理部8の共振抑制処理を行うことにより、第1実施形態の共振抑制処理と比較して、内燃機関ENGの駆動力は、共振領域をより早く通過することができ、共振の発生をより抑制することができる。
【0080】
又、クラッチの共振周波数はクラッチの締結圧に応じて変化することも実験により分かった。この現象を利用して、第1クラッチC1の締結圧を変更させることにより、第2実施形態で説明した単独連結状態と両締結状態とを切り換える共振抑制処理と類似した処理を行うことで、共振の発生を抑制することが可能である。これを図3を流用して第3実施形態として以下に詳説する。
【0081】
まず、実験等で締結圧と共振周波数の関係を予め求める。例えば、所定の高締結圧のときに、内燃機関ENGの駆動力の大きい側に位置する大側共振領域Yとなり、高締結圧よりも低い締結圧である所定の低締結圧のときに、大側共振領域Yよりも内燃機関ENGの駆動力の小さい側に位置する小側共振領域Xとなることが分かっているとする。そして、求められた、高締結圧と大側共振領域Y、低締結圧と小側共振領域Xを関連付けて記憶手段FRに予め記憶させる。
【0082】
そして、第3実施形態の共振抑制処理部8では、車両がHEV発進する際において、第1クラッチC1を伝達状態としてその締結圧を高締結圧に制御すると共に、共振領域として、大側共振領域Yを選択する。
【0083】
そして、共振抑制処理部8は、内燃機関ENGの駆動力が大側共振領域Yに入る前の所定の閾値Tq2に達したところで、内燃機関ENGを閾値Tq2に保ちつつ、目標駆動力に対して不足する駆動力を電動機MGで補うべく電動機MGの駆動力を増加させて、目標駆動力が得られるように制御する。
【0084】
そして、目標駆動力が所定の目標値TqAに達したときに、共振抑制処理部8は、第1クラッチC1の締結圧を低締結圧に変更して、共振領域として小側共振領域Xを選択すると共に、内燃機関ENGの駆動力を、第1共振領域X内に位置するTqAから一気に上昇させ迅速に小側共振領域Xを通過するように制御し、内燃機関ENGの駆動力を増加させた分だけ電動機MGの駆動力を減少させて、内燃機関ENGと電動機MGの駆動力の和が目標駆動力となるように制御する。
【0085】
これによれば、第2実施形態の共振抑制処理部8の共振抑制処理と同様に、内燃機関ENGの駆動力は、共振領域をより早く通過することができ、共振の発生をより抑制することができる。
【0086】
ところで、第1から第3の実施形態の両クラッチC1,C2は、油圧でピストンが作動することにより締結される油圧作動型クラッチで構成される。ピストンを作動させる油圧を制御する油圧回路9には、油の温度を検出する油温度検出手段9aが設けられている。油圧回路9から自動変速機1に供給される油は、自動変速機1の内部を潤滑する潤滑油としても用いられる。従って、実施形態の油温度検出手段9aが、本発明の油温度検出手段に相当する。
【0087】
ここで、油の温度が変化すると油の粘度が変化し、クラッチC1,C2の締結圧に変化が生じる。クラッチC1,C2の締結圧が変化するとクラッチC1,C2の共振周波数も変化する。
【0088】
このため、動力制御装置ECUは、油温度検出手段9aで検出された油の温度に基づいて共振領域の補正を行う。この補正は、油の温度に基づく第1クラッチC1の最大締結圧の変化に伴う共振領域の変化を実験により予め求め、これを記憶手段FRに例えば油の温度と共振領域の補正量とを表で示したテーブルデータとして記憶させる。そして、検出された油の温度に基づいてテーブルデータから補正量を求め、共振領域の補正を行うことができる。
【0089】
尚、第1から第3の実施形態において、両クラッチC1,C2を電動アクチュエータで作動するように構成した場合においても、油温度検出手段9aにより、共振領域の補正を行うことが可能である。クラッチC1,C2はその周辺部材の温度やクラッチC1,C2の締結頻度に伴って発熱し、この発熱状態の変化に応じてクラッチC1,C2の締結圧も変化する。クラッチC1,C2の締結圧が変化するとクラッチC1,C2の共振周波数も変化する。このため、潤滑油の温度を油温度検出手段9aで検出し、潤滑油の温度に基づいて、クラッチC1,C2の発熱状態を推定し、共振領域を補正すれば、共振が発生する共振領域を適切に設定することができる。
【0090】
又、第2実施形態においても第1実施形態の慣性走行処理を実行することができる。
【0091】
又、第1から第3の実施形態においては、変速比順位で奇数段を確立するギヤ列G3,G5の駆動ギヤG3a,G5aを軸支する第1駆動ギヤ軸4を入力軸2と同一軸線上に配置し、変速比順位で偶数段を確立するギヤ列G2,G4の駆動ギヤG2a,G4aを軸支する第2駆動ギヤ軸5を第1駆動ギヤ軸4と平行に配置しているが、これに限らず、第2駆動ギヤ軸を入力軸2と同一軸線上に配置し、第1駆動ギヤ軸を第2駆動ギヤ軸と平行に配置してもよい。
【0092】
この場合、第1クラッチC1と第2クラッチC2とを入れ替えて配置し、第1クラッチC1を伝達状態とすると、内燃機関ENGの駆動力がアイドルギヤ列Giを介して第1駆動ギヤ軸4に伝達されるように構成すればよい。このとき、電動機MGのロータMGbを第2駆動ギヤ軸4に連結させて、電動機MGの駆動力を第2駆動ギヤ軸5に伝達させるように構成してもよく、又、電動機MGをその内側に配置されたプラネタリギヤ機構PGと共に第1駆動ギヤ軸4と同軸上に配置し、ロータMGbを第1駆動ギヤ軸4に連結させてもよい。
【0093】
又、図4に示す第4実施形態のように自動変速機1を構成したものにおいても、本発明を適用することができる。第4実施形態の自動変速機1は、第1実施形態の自動変速機1と比較して、ロック機構B1、後進段用ギヤ列GR及びアイドルギヤ列Giの構成が異なる以外は同一に構成される。
【0094】
第4実施形態のロック機構B1は2ウェイクラッチで構成されている。又、後進段用ギヤ列GRは1つのリバースギヤで構成され、このリバースギヤは、リバース軸6に回転自在に軸支されると共に、第1従動ギヤGo1と噛合している。第4実施形態の自動変速機1においては、第3アイドル従動ギヤGidは設けられていない。
【0095】
アイドルギヤ列Giの第1アイドル従動ギヤGibはリバース軸6に固定されている。そして、第2クラッチC2を伝達状態とすることにより、内燃機関ENGの駆動力がアイドルギヤ列Giを介して第2駆動ギヤ軸5に伝達される。
【0096】
この場合において、内燃機関ENGの駆動力を用いて後進段を確立する場合には、第3噛合機構SM3をリバースギヤGRとリバース軸6とを連結した連結状態として、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。これにより、入力軸2の回転速度が、[アイドル駆動ギヤGiaの歯数/第1アイドル従動ギヤGibの歯数]×[リバースギヤGRの歯数/第1従動ギヤGo1の歯数]の回転速度のマイナス回転(後進方向の回転)に変速されて、出力部材3から出力され、後進段が確立される。
【0097】
又、上記実施形態においては、5速段まで変速可能な自動変速機1を示したが、これに限らず、例えば、6速段以上まで変速可能な自動変速機にも、本発明を適用することができる。この場合、変速段に対応させてギヤ列の駆動ギヤ及び噛合機構を駆動ギヤ軸4,5に追加し、追加された駆動ギヤに噛合する従動ギヤを出力軸3aに追加すればよい。
【符号の説明】
【0098】
1…自動変速機、2…入力軸、3…出力部材(出力ギヤ)、3a…出力軸、4…第1駆動ギヤ軸、5…第2駆動ギヤ軸、6…リバース軸、7…変速機ケース、8…共振抑制処理部、9…油圧回路、9a…油温度検出手段、C1…第1クラッチ、C2…第2クラッチ、B1…ロック機構、SM1…第1噛合機構、SM2…第2噛合機構、G2…2速ギヤ列、G2a…2速駆動ギヤ、G3…3速ギヤ列、G3a…3速駆動ギヤ、G4…4速ギヤ列、G4a…4速駆動ギヤ、G5…5速ギヤ列、G5a…5速駆動ギヤ、Go1…第1従動ギヤ(2速・3速の従動ギヤ)、Go2…第2従動ギヤ(4速・5速の従動ギヤ)、Gi…アイドルギヤ列、Gia…アイドル駆動ギヤ、Gib…第1アイドル従動ギヤ、Gic…第2アイドル従動ギヤ、Gid…第3アイドル従動ギヤ、GR…後進段用ギヤ列、GRa…第1リバース駆動ギヤ、GRb…第1リバース従動ギヤ、GRc…第2リバース従動ギヤ、GRd…第2リバース駆動ギヤ、GR…後進段用ギヤ列、GRa…リバース駆動ギヤ、GRb…リバース従動ギヤ、ECU…動力制御装置、ENG…内燃機関(エンジン)、MG…電動機(モータ・ジェネレータ)、PG…プラネタリギヤ機構、X…第1実施形態の共振領域(第2実施形態の第1共振領域)、Y…第2共振領域、FR…記憶手段(フラッシュロム又はEEPROM)、BATT…二次電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機と自動変速機とを備えるハイブリッド車両の動力制御装置であって、
前記自動変速機は、
変速比順位で奇数番目の変速段を確立する各ギヤ列の駆動ギヤを軸支する第1駆動ギヤ軸と、
変速比順位で偶数番目の変速段を確立する各ギヤ列の駆動ギヤを軸支する第2駆動ギヤ軸と、
内燃機関の駆動力を前記第1駆動ギヤ軸に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在な第1クラッチと、
前記内燃機関の駆動力を前記第2駆動ギヤ軸に伝達させる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在な第2クラッチと、
前記奇数番ギヤ列の駆動ギヤと前記第1駆動ギヤ軸とを連結した状態と、この連結を断つ状態とに切換自在な少なくとも1つの第1噛合機構と、
前記偶数番ギヤ列の駆動ギヤと前記第2駆動ギヤとを連結した状態と、この連結を断つ状態とに切換自在な少なくとも1つの第2噛合機構と、
サンギヤ、キャリア及びリングギヤの3つの要素を有する遊星歯車機構とを備え、
前記遊星歯車機構の3つの要素を、各要素の相対的な回転速度を直線で表すことができる共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素、第3要素として、
前記第1要素は前記第1駆動ギヤ軸に固定され、
前記第2要素は前記第1駆動ギヤ軸に軸支された1つの駆動ギヤに連結され、
前記第3要素は、ロック機構で、変速機ケースに固定された固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在とされ、
前記電動機は前記第1駆動ギヤ軸又は前記第2駆動ギヤ軸に駆動力を伝達自在に前記自動変速機に連結され、
前記内燃機関の駆動力に対する共振領域が予め記憶された記憶手段を備え、
車両停車状態において、内燃機関と電動機の両方の駆動力を用いて発進するHEV発進を実行するに際し、目標駆動力を設定し、該目標駆動力を得るために内燃機関には前記記憶手段に記憶された共振領域の範囲外の駆動力を要求し、前記電動機には、該目標駆動力に対して不足する駆動力を要求する共振抑制処理を実行する共振抑制処理部を備えることを特徴とするハイブリッド車両の動力制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド車両の動力制御装置において、
前記第1クラッチ及び第2クラッチは乾式摩擦クラッチであり、
前記共振領域は前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの締結状態における共振周波数に基づいて設定されることを特徴とするハイブリッド車両の動力制御装置。
【請求項3】
請求項2記載のハイブリッド車両の動力制御装置において、
前記記憶手段には、前記共振領域として、前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの締結圧の変化に応じて変化する複数の共振領域が記憶され、
前記共振抑制処理部は、
前記HEV発進時において、前記複数の共振領域のうちの前記内燃機関の駆動力の大きい側に位置する共振領域である大側共振領域を選択し、該大側共振領域に対応する締結圧を前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの締結圧とすると共に、前記内燃機関の駆動力を、該大側共振領域に入る前の所定の閾値まで上昇させた後、
前記複数の共振領域のうちの前記大側共振領域よりも前記内燃機関の駆動力の小さい側にずれて位置する共振領域である小側共振領域を選択し、該小側共振領域に対応する締結圧を前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの締結圧とすると共に、前記内燃機関の駆動力を、該小側共振領域を超える値に設定することを特徴とするハイブリッド車両の動力制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のハイブリッド車両の動力制御装置において、
前記車両の走行速度が所定速度以上である場合であって、前記共振抑制処理部が前記内燃機関の駆動力を前記共振領域の範囲外とすべく前記共振領域よりも低く設定したときには、前記共振抑制処理部は、前記内燃機関の駆動力を抑えた分だけ前記目標駆動力を減少させる慣性走行処理を実行することを特徴とするハイブリッド車両の動力制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のハイブリッド車両の動力制御装置において、
前記第1クラッチ又は前記第2クラッチのみを締結状態とする単独締結状態と、前記第1クラッチ又は前記第2クラッチに加えて前記第2クラッチ又は前記第1クラッチも締結状態とする両締結状態とに切換自在であり、
前記記憶手段には、前記共振領域として、該単独締結状態に対応する第1共振領域と、該両締結状態に対応する第2共振領域との2つ共振領域が記憶され、
前記共振抑制処理部は、前記HEV発進時において、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチを締結状態として前記両締結状態にすると共に、前記第2共振領域に入る前の所定値まで内燃機関の駆動力を上昇させた後、前記第2クラッチ又は前記第1クラッチを開放状態として前記単独締結状態とし、前記内燃機関の駆動力を前記第1共振領域を超える値に設定することを特徴とするハイブリッド車両の動力制御装置。
【請求項6】
請求項2記載のハイブリッド車両の動力制御装置において、
前記自動変速機は、その内部を潤滑する潤滑油の温度を検出する油温度検出手段を備え、該油温度検出手段で検出された潤滑油の温度に基づいて、前記共振領域を補正することを特徴とするハイブリッド車両の動力制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−213179(P2011−213179A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81303(P2010−81303)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】