説明

ハイブリッド車用駆動装置

【課題】モータの搭載スペースを容易に確保して省スペースで、かつ、従来のFR車に対しわずかな手間及びコストでハイブリッド化が可能であり、さらには、高いモータ効率や動力伝達効率を確保できるハイブリッド車用駆動装置を提供する。
【解決手段】車両の前部に搭載したエンジン2及びモータ(ジェネレータモータ3)と、前記車両の後部に搭載した変速機4と、前記エンジン2の出力軸21及び前記モータ3の出力軸に結合する副変速機(減速機5)と、該副変速機5の出力軸55を前記変速機4に連結する連結軸6と、を備えるハイブリッド車用駆動装置1であって、前記モータ3を前記副変速機5の後部寄りでかつ前記連結軸6(及びトルクチューブ65)よりも下方に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源としてエンジン及びモータを搭載したハイブリッド車の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてエンジン及びジェネレータモータを搭載し、それぞれの長所を活かして燃費改善・高出力・環境保護を実現するハイブリッド車が実用化されている。この種のハイブリッド車では、エンジン、ジェネレータモータ、及び変速機を車両の前部または後部に集中して搭載すると、車両前後の重量配分がバランスせず操縦安定性が低下する懸念が指摘されている。一方、車両の前部にエンジンを搭載しプロペラシャフトを介して後輪を駆動するFR車の一部には、車両の後部に変速機を搭載する場合がある。これは、スポーツカーなどで車両前後の重量配分を考慮し、高速走行時の操縦安定性を向上することを目的としている。
【0003】
上記の技術を組み合わせ、ハイブリッド車であっても車両前後の重量アンバランスを低減した駆動装置の例が特許文献1に開示されている。特許文献1の車両用ハイブリッド駆動装置は、車両の前部および後部の一方にエンジン、他方に変速機を搭載し、モータをエンジン寄りあるいは変速機寄りのいずれかに配置している。これにより、車両前後の重量配分が問題となるほどアンバランスすることがなく、操縦安定性低下の懸念を払拭できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−290187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、モータはエンジン寄りあるいは変速機寄りのいずれかに配置されるが、実際に搭載スペースを確保することは容易でない。例えば、車両後部に変速機を搭載した従来のFR車にモータを追加する場合、搭載スペースを確保するために多数の周辺部品を大幅に変更する必要が生じて手間やコストが掛かりがちである。さらには、モータの配置や変速機に至る駆動経路が制約されることにより、モータ効率や動力伝達効率が低下するおそれもある。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、モータの搭載スペースを容易に確保して省スペースで、かつ、従来のFR車に対しわずかな手間及びコストでハイブリッド化が可能であり、さらには、高いモータ効率や動力伝達効率を確保できるハイブリッド車用駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイブリッド車用駆動装置は、車両の前部に搭載したエンジン及びモータと、前記車両の後部に搭載した変速機と、前記エンジンの出力軸及び前記モータの出力軸に結合する副変速機と、該副変速機の出力軸を前記変速機に連結する連結軸と、を備えるハイブリッド車用駆動装置であって、前記モータを前記副変速機の後部寄りでかつ前記連結軸よりも下方に配置したことを特徴とする。
【0008】
さらに、前記エンジン及び前記モータを同軸前後に配置し、前記エンジンの前記出力軸を前記副変速機の入力軸にクラッチを介して結合し、前記モータの前記出力軸を前記副変速機の前記入力軸と一体にしてもよい。
【0009】
また、前記エンジンの前記出力軸を前記副変速機の第1入力軸にクラッチを介して結合し、前記モータの前記出力軸を前記副変速機の第2入力軸と一体にしてもよい。
【0010】
さらに、前記副変速機を構成するケースに前記モータの少なくとも一部を組み込んでもよい。
【0011】
さらに、前記連結軸を収容するトルクチューブの下方に前記モータの少なくとも一部を配置してもよい。
【0012】
また、前記モータは発電可能なジェネレータモータであり、該ジェネレータモータの後方に電力変換装置、バッテリ、及び駆動制御装置の少なくとも一つを配置することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハイブリッド車用駆動装置では、モータを副変速機の後部寄りでかつ連結軸よりも下方に配置している。したがって、連結軸あるいは連結軸を収容するトルクチューブの下方のデッドスペースをモータの搭載スペースとして容易に確保でき、省スペースとなる。かつ、従来のFR車に対し最小限の周辺部品の些少な設計変更でハイブリッド化が可能であり、わずかな手間及びコストで対応できる。
【0014】
さらに、エンジン及びモータを同軸前後に配置し、エンジンの出力軸を副変速機の入力軸にクラッチを介して結合し、モータの出力軸を副変速機の入力軸と一体にした態様では、モータ駆動走行時にクラッチでエンジンの出力軸を切り離すことができ、加えてモータと副変速機の間は直結されて動力損失が発生しないので、動力伝達効率が高い。
【0015】
また、エンジンの出力軸を副変速機の第1入力軸にクラッチを介して結合し、モータの出力軸を副変速機の第2入力軸と一体にした態様では、副変速機内部におけるモータ側変速比をエンジン側変速比から独立して自由に設定できる。したがって、モータ駆動走行に最適なモータ側変速比を設定でき、高いモータ効率が得られる。
【0016】
さらに、副変速機を構成するケースにモータの少なくとも一部を組み込んだ態様では、モータを支持する部材が副変速機のケースに干渉しないので、モータの大径化が可能となる。
【0017】
また、ジェネレータモータの後方に電力変換装置、バッテリ、及び駆動制御装置の少なくとも一つを配置する態様では、連結軸あるいは連結軸を収容するトルクチューブの下方のデッドスペースをこれらの搭載スペースとして有効活用でき、省スペースとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態のハイブリッド車用駆動装置を搭載した車両全体を示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態のハイブリッド車用駆動装置を概念的に説明する側面図である。
【図3】ジェネレータモータの配置が異なる第2実施形態のハイブリッド車用駆動装置を概念的に説明する側面図である。
【図4】減速機(副変速機)が2つの入力軸を有する第3実施形態のハイブリッド車用駆動装置を概念的に説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための第1実施形態を、図1及び図2を参考にして説明する。図1は、本発明の第1実施形態のハイブリッド車用駆動装置1を搭載した車両9全体を示す側面図である。図示されるように、第1実施形態のハイブリッド車用駆動装置1は、車両9の前部に搭載したエンジン2及びジェネレータモータ3と、車両9の後部に搭載した変速機4と、エンジン2の出力軸21及びジェネレータモータ3の出力軸に結合する減速機5と、減速機5の出力軸55を変速機4に連結する連結軸6と、を備えて駆動後輪91を駆動するように構成されている。変速機4が車両9の前部でなく後部に搭載されることにより、車両9前後の重量配分がバランスして、高い安定性が確保されている。
【0020】
図2は、本発明の第1実施形態のハイブリッド車用駆動装置1を概念的に説明する側面図であり、図中の左側が車両9の前部、図中の右側が車両9の後部に対応している。第1実施形態のハイブリッド車用駆動装置1は、図1の構成に加えて、電力変換装置およびバッテリなどで構成されたハイブリッドユニット7を備え、ジェネレータモータ3と電力のやりとりを行うようになっている。なお、後述の第2および第3実施形態で、第1実施形態と同等の機能・作用を有する部分については同一の符号を付している。
【0021】
エンジン2の出力軸21は減速機5の入力軸51にクラッチ25を介して結合しており、ジェネレータモータ3の出力軸は減速機5の入力軸51と一体になっている。減速機5は、副変速機に相当し、入力軸51に固設された駆動ギヤ52と出力軸55に固設された従動ギヤ56とは、所定の減速比で噛合して動力を伝達するように構成されている。減速機5の出力軸55の後端部には連結フランジ57が設けられ、連結軸6の前端部にも連結フランジ61が設けられて、連結フランジ57、61同士で連結されている。連結軸6は、変速機4の入力軸と一体に形成されている。また、連結軸6を収容して保護するようにトルクチューブ65が配設され、トルクチューブ65により駆動装置1の剛性が高められている。変速機4の出力軸41は、図略のデファレンシャル装置を介して駆動後輪91に動力を伝達するようになっている。
【0022】
ジェネレータモータ3は、図2に示されるように減速機5の後部寄りからトルクチューブ65の下方にわたって配置されている。また、ジェネレータモータ3の一部は、減速機5のケース59に組み込まれている。さらに、ジェネレータモータ3の後方のトルクチューブ65の下方にハイブリッドユニット7が配置されている。
【0023】
上述した第1実施形態のハイブリッド車用駆動装置1では、トルクチューブ65の下方のデッドスペースをジェネレータモータ3及びハイブリッドユニット7の搭載スペースとして容易に確保して有効活用でき、省スペースとなる。かつ、従来のFR車に対し最小限の周辺部品の些少な設計変更でハイブリッド化が可能であり、わずかな手間及びコストで対応できる。また、クラッチ25でエンジン2の出力軸21を切り離すことができ、加えてジェネレータモータ3と減速機5の間は直結されて動力損失が発生しないので、動力伝達効率が高い。
【0024】
次に、ジェネレータモータ3の配置が異なる第2実施形態を、図3を参考にして第1実施形態と異なる点を主に説明する。図3は、本発明の第2実施形態のハイブリッド車用駆動装置10を概念的に説明する側面図である。第2実施形態では、ジェネレータモータ3は、減速機5の後部寄りの下方でトルクチューブ65よりも前方に配置されるとともに、その過半が減速機5のケース59に組み込まれている。
【0025】
第2実施形態のハイブリッド車用駆動装置10では、ジェネレータモータ3は減速機5のケース59に支持されて別途支持部材が不要であり、かつ配置はトルクチューブ65に制約されない。したがって、ジェネレータモータ3の大径化が可能とる。
【0026】
次に、減速機5が2つの入力軸511、53を有する第3実施形態を、図4を参考にして第1及び第2実施形態と異なる点を主に説明する。図4は、本発明の第3実施形態のハイブリッド車用駆動装置11を概念的に説明する側面図である。第3実施形態では、減速機5は第1入力軸511及び第2入力軸53を有している。エンジン2の出力軸21は第1入力軸511にクラッチ25を介して結合しており、ジェネレータモータ3の出力軸は減速機5の第2入力軸53と一体になっている。減速機5において、第1入力軸511に固設された第1駆動ギヤ521と出力軸55に固設された従動ギヤ56とは、所定のエンジン側減速比で噛合して動力を伝達するように構成されている。さらに、第2入力軸53に固設された第2駆動ギヤ54は第1入力軸511の第1駆動ギヤ521に噛合している。これにより、ジェネレータモータ3は、第2入力軸53の第2駆動ギヤ54から、第1駆動ギヤ521を経由して従動ギヤ56及び出力軸55を駆動できるようになっている。
【0027】
第3実施形態のハイブリッド車用駆動装置11では、エンジン側減速比から独立して、第2駆動ギヤ54の歯数を自由に設定してモータ側減速比を定めることができる。したがって、モータ駆動走行に最適なモータ側減速比を設定でき、高いモータ効率が得られる。また、図示されるように、第1入力軸511の下側に第2入力軸53を配置することにより、ジェネレータモータ3がエンジン2よりも下方に配置されるため、駆動装置11の重心を低下させることができ車両の安定性が向上する。さらに、ジェネレータモータ3がトルクチューブ65から遠ざかって大径化が可能になる効果も生じる。
【0028】
なお、第3実施形態において、ジェネレータモータ3は、第2駆動ギヤ54から第1駆動ギヤ521を経由して従動ギヤ56を駆動するものとしたが、これに限定されない。すなわち、ジェネレータモータ3が第2駆動ギヤ54から直接従動ギヤ56を駆動するように、第1及び第2入力軸511、53を配置してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1、10、11:ハイブリッド車用駆動装置
2:エンジン 21:出力軸 25クラッチ
3:ジェネレータモータ
4:変速機
5:減速機(副変速機) 51:入力軸 52:駆動ギヤ
511:第1入力軸 521:第1駆動ギヤ
53:第2入力軸 54:第2駆動ギヤ
55:出力軸 56:従動ギヤ
6:連結軸 65:トルクチューブ
7:ハイブリッドユニット
9:車両 91:駆動後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に搭載したエンジン及びモータと、前記車両の後部に搭載した変速機と、前記エンジンの出力軸及び前記モータの出力軸に結合する副変速機と、該副変速機の出力軸を前記変速機に連結する連結軸と、を備えるハイブリッド車用駆動装置であって、
前記モータを前記副変速機の後部寄りでかつ前記連結軸よりも下方に配置したことを特徴とするハイブリッド車用駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、前記エンジン及び前記モータを同軸前後に配置し、前記エンジンの前記出力軸を前記副変速機の入力軸にクラッチを介して結合し、前記モータの前記出力軸を前記副変速機の前記入力軸と一体にしたハイブリッド車用駆動装置。
【請求項3】
請求項1において、前記エンジンの前記出力軸を前記副変速機の第1入力軸にクラッチを介して結合し、前記モータの前記出力軸を前記副変速機の第2入力軸と一体にしたハイブリッド車用駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記副変速機を構成するケースに前記モータの少なくとも一部を組み込んだハイブリッド車用駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、前記連結軸を収容するトルクチューブの下方に前記モータの少なくとも一部を配置したハイブリッド車用駆動装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、前記モータは発電可能なジェネレータモータであり、該ジェネレータモータの後方に電力変換装置、バッテリ、及び駆動制御装置の少なくとも一つを配置したハイブリッド車用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1330(P2013−1330A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136624(P2011−136624)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】