説明

ハンドル錠の破錠防止装置

【課題】 錠前としての安全性を高ると共に、作動が確実で、しかもコストダウンを図ることができる破錠防止装置を提供する。
【解決手段】 ハンドル錠1において、モータ22の回転出力軸に、横断面円形の棒状体である案内部材23を同軸に装着し、この案内部材にらせん状の疎巻コイルばね24を案内部材23の長さ方向に移動可能に巻装すると共に、案内部材の外周面の長さ方向における中央部に、ばねのピッチ間隙を遊動できる単一の突起25を突設し、上記疎巻コイルばねの両端を外方に延出させた作動装置を設け、一方、上記案内部材とほぼ平行で、ハンドル筒部に係脱可能に設けられたロックピース26に上記作動装置のばねの延出部分を係合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動販売機のポップアップ式のハンドル錠の破錠防止装置(以下単に破錠防止装置という)に係り、特に、例えば暴力的な破錠等の不正解錠を完全に防止でき、錠前としての安全性を高ると共に、作動が確実で、しかもコストダウンを図ることができる破錠防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動販売機のハンドル錠の構造は、例えば後記特許文献1、2及び4に記載されていてそれ自体周知である。
【特許文献1】特開平09−151630号公報
【特許文献2】特開2002−070389
【特許文献3】特許第3963981号の特許公報
【特許文献4】特開平07−076961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ハンドル錠は、特許文献1に記載されているように、暴力的な手法によりシリンダ錠を抜かれると容易に破錠されてしまい、この場合、シリンダ錠を抜いた穴から工具等を差し入れ、或いは直接手指で操作することにより内部機構を操作すればハンドルをポップアップできるという不都合がある。
【0004】
これを防止するため、上記特許文献2に記載された扉の錠装置は、ハンドル錠の錠止機構に加え、所謂電気錠を併設し、この電気錠を解錠しないとハンドルがポップアップできないように構成されている。
【0005】
電気錠は、例えばテンキー等の暗証番号入力装置を破壊しても電気錠を解錠することができないので、これをハンドル錠に併設した場合、例えシリンダ錠をハンドルから抜いてもハンドルをポップアップさせることができず、したがってハンドル錠の錠前としての安全性が格段に向上する。
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に記載された電気錠は、電磁アクチュエータとしてソレノイドを採用しているので、ソレノイド自体が比較的高価であることから破錠防止装置のコストダウンを図ることが困難である。
【0007】
また、プランジャをコイルばねにより常時施錠方向に付勢している関係で、解錠方向にソレノイドを駆動するとき大電流を必要とするばかりでなく、ソレノイドへの通電を断つと施錠してしまうので、解錠時長時間通電しなければならず、制御回路が複雑である、等未だ改良の余地がある。
【0008】
本願発明は、出願人が開発した新規な作動装置を電磁アクチュエータとして採用することにより、破錠防止装置の構造を簡単にすると共に作動の確実性を向上させ、更に、コストダウンを図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、一端が開口したカップ状で、シリンダ錠を開口端部に固定した筒部及び筒部の開口端縁に一体に形成された把手部よりなるハンドルと、ハンドルを突出入可能に収容する錠ケースと、ハンドルを突出位置に向け付勢させるために錠ケース内に設けた押しばねと、ハンドルを錠ケース内に没入した状態でこれを固定することができると共に、シリンダ錠を合鍵によって解錠した後、内筒を所定の方向に回動させることによりハンドルを解放するように構成されたラッチ部とを有するハンドル錠において、モータの回転出力軸に、横断面円形の棒状体である案内部材を同軸に装着し、この案内部材にらせん状の疎巻コイルばねを案内部材の長さ方向に移動可能に巻装すると共に、案内部材の外周面の長さ方向における中央部に、ばねのピッチ間隙を遊動できる単一の突起を突設し、上記疎巻コイルばねの両端を案内部材の半径方向における外方に延出させた作動装置を、上記錠ケースの外側に、かつ案内部材が錠ケースの中心軸に垂直になるような位置関係で配設し、一方、上記案内部材とほぼ平行なロックピースを案内部材の長さ方向に移動可能に案内すると共に、その錠ケースに対向する側の一端に形成した係合爪を、錠ケースを貫通して、ハンドルの筒部外周面に形成された錠止凹部に係合可能に臨ませ、他方、上記作動装置のばねの延出部分をロックピースに係合させ、モータを正、逆転させることにより、作動装置のばねを介してロックピースをハンドルの錠止凹部に係脱させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成されたこの発明による破錠防止装置は、電気錠の電磁アクチュエータとして例えば玩具用の直流モータを採用することができるので、作動装置の構造が簡単であることとも相俟て、破錠防止装置としてのコストダウンを図ることができる。
【0011】
また、モータの正転、逆転を電気錠の施錠、解錠に対応させると共に、施錠、解錠状態を維持するために通電を必要としないので、作動の確実性を期待することができる。
【0012】
更にまた、同じ理由により、モータの制御回路を簡単にでき、その分コストダウンを図ることができると共に、破錠防止装置としての信頼性を向上させることができる、等種々の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
電気錠の電磁アクチュエータとして、正、逆転できるモータの回転出力軸に、横断面円形の棒状体である案内部材を同軸に装着し、この案内部材にらせん状の疎巻コイルばねを案内部材の長さ方向に移動可能に巻装すると共に、案内部材の外周面の長さ方向における中央部に、ばねのピッチ間隙を遊動できる単一の突起を突設し、上記疎巻コイルばねの両端を案内部材の半径方向における外方に延出させてロックピースに係合させた作動装置を採用したので、電気錠のコストダウン及び電気錠の錠前としての安全性の向上を図ることができるばかりでなく、破錠防止装置としての信頼性を向上させることができた。
【実施例1】
【0014】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1乃至図3において符号1はハンドルを示し、このハンドル1は、一端(図2で下端)が開口したカップ状の筒部2と、この筒部の開口端部に一体に形成された把手部3(図1及び図3参照)とを有してなる。
【0015】
但し、図1乃至図3においては、(図3において鎖線で示すシリンダ錠4を除いて)筒部2の開口端部に固定されるシリンダ錠は、図面を明瞭にするため図示を省略してある。
【0016】
また、上記ハンドルの筒部2は、図2乃至図4に示すように、付番しないスリット(図4参照の下端部参照)付のカップ錠の錠ケース5に、軸線方向(図3で左右方向)に移動可能に、換言すれば、図3に実線で示す没入位置から図3に鎖線で示す突出位置の間を移動可能に収容されている。
【0017】
一方、上記錠ケース5は、取付ビス6、6(図2及び図3参照)により、その開口端外周部に形成された付番しない段部を取付枠の開口段部に呼び付けられるようにして、取付枠7に固定されている。
【0018】
また、ハンドル1を図3に実線で示す没入位置から鎖線で示す突出位置に向け付勢するため、錠ケース5の底部内面とハンドルの筒部2の底部外面との間に、断面が略凹字形のばね収納空間8が形成されている。
【0019】
そして、上記ばね収納空間8内には、全体の形状が台形の圧縮コイルばねとしての図示しない押しばねが弾装されていて、ハンドル1を図3に鎖線で示す位置に突出する方向に付勢している。
【0020】
このハンドル錠のハンドル1は、図3に示すシリンダ錠の施錠状態では、上記押しばねの弾力にも拘らず図3に示すような没入位置、すなわち、筒部2が完全に錠ケース5内に収容され、かつ、把手部3の外表面が取付枠7のそれと同一表面になる位置にある。
【0021】
上記シリンダ錠の施錠時ハンドル1を図2及び3に示す没入位置に保持し、シリンダ錠を解錠した後内筒を所定の方向に回動したときハンドル1を解放し、持って押しばねの弾力によりハンドル1を図3に鎖線で示す位置に迄突出させるため、ハンドル筒部の底部に図4に示すようなラッチ部9が設けられている。
【0022】
図示の実施例におけるラッチ部9は、図4に示すように、相互に回り止めを施された状態で軸線方向(図4で紙面の厚さ方向)に相対移動可能に嵌合するハンドル筒部2及び錠ケース5の内端部(図3参照)を共通に貫通する断面L字形のデッドボルト11により、シリンダ錠の施錠時ハンドル筒部2を錠ケース5に錠止する。
【0023】
また、上記デッドボルト11の短辺部(図4で右端部)をデッドボルトの頭部としたとき、デッドボルト11の頭部に対向する側に斜面を備えた角柱状のばね受け12が配設されており、このばね受け12の斜面部はハンドル筒部を貫通して錠ケース5の内周面に母線に沿って形成された長いガイド溝14(図4参照)に摺動可能に係合している。
【0024】
更にまた、ばね受けの内端部に形成されたばね受け孔14に一端を保持され、このばね受け孔の底面とデッドボルト11の頭部との間に弾装された圧縮コイルばねとしての図示しないデッドばねの弾力により、デッドボルト11は図4で左方に付勢されている。
【0025】
このデッドボルト11及びばね受け12の組は、図4では図示を省略してあるが、ハンドル筒部2の中心軸線に関して対称的に一対設けられている。
【0026】
上記した構造によれば、デッドボルト11は図4に示す位置より更に外方に位置する筈であるが、図示の実施例におけるラッチ部においては、ハンドル筒部2の内筒底部に回動可能に保持された係止カム15(図3及び図4参照)により図4に示す位置にあって、ハンドル筒部2を錠ケース5に係止している。
【0027】
上記係止カム15は、図5及び図6に示すように、ハンドル筒部2の軸線方向における外端(図6で右端)に円形のフランジを、内端に扇形のフランジ及び扇形の切欠16を夫々形成した部材である。
【0028】
上記係止カム15の切欠16には、図3に示すように、解錠カム17が係合しているので、係止カム15はこの解錠カム17を介してシリンダ錠の内筒に一体的に連結されている。
【0029】
ちなみに、上記解錠カム17は、図7及び図8に示すように、中央に小判形の連結孔18を開口させた厚板円盤の裏面側に、円盤に対する投影形状が扇形の一対の係合突起19、19を一体に突設したもので、上記連結孔18にシリンダ錠の内筒の断面小判形の図示しないテールピースを嵌合させることによりシリンダ錠に一体的に連結されている。
【0030】
また、解錠カム17は、上記係合突起19を係止カム15の対応する切欠16に係合させることにより係止カムに連結されていることは上記した通りである。
【0031】
そして、自動販売機の扉を開けて内側に商品を充填したり、コイン箱から金銭を回収するためハンドル錠をポップアップするときには、先ずシリンダ錠に合鍵を挿入してシリンダ錠を解錠し、更に合鍵を所定の方向に回動させることにより、解錠カム17及びこれに連結された係止カム15が図4において時計方向に回動する。
【0032】
すると、デッドボルト11が図示しない上記デッドばねの弾力に抗してデッドボルト11の頭部をばね受け12に近接する方向に移動させる結果、デッドボルトの頭部とは反対側の脚部が錠ケース5の付番しない係止孔から抜去され、ハンドル1が自由になり、また、前記図示しない押しばねの弾力によりハンドルの把手部3が図3で鎖線で示す位置にまで突出する(ポップアップする)。
【0033】
なお、ポップアップしたハンドルを錠ケース5或いは取付枠7に収容する(押込む)には、シリンダ錠に合鍵を差込んでこれを解錠方向に回動させ、図4で係止カム15を時計方向に回動させてデッドボルト11の脚部をハンドル筒部2内に引っ込めた状態でハンドルを錠ケース或いは取付枠内に押込むようにする。
【0034】
また、ハンドル錠のラッチ部は、上記した構成のものに限定されることなく、例えば前記特許文献1、2及び4に示すもの、或いはその他のものを採用することができる。
【0035】
一方、ハンドル1の下方における取付枠7内には、図3に示すように、作動装置21が配設されている。
【0036】
この作動装置21は、正、逆回転できるモータ22の回転出力軸に横断面円形の棒状体である案内部材23を同軸に装着し、この案内部材23にらせん状の疎巻コイルばね24を案内部材23長さ方向に移動可能に巻装してある。
【0037】
また、案内部材23の外周面の長さ方向における中央部に、コイルばね24のピッチ間隙を遊動できる単一の突起25を突設している。
【0038】
更にまた、コイルばね24の両端を案内部材23の半径方向における外方に延出させ、この延出部分をロックピース26に係合させている。
【0039】
なお、上記作動装置の構成及び作用については、前記特許文献3に記載されているから、更に詳細な説明は省略する。
【0040】
ちなみに、図示の実施例におけるロックピース26は、図9及び図10に示すように、全体の形状が凸字形の厚板材で、上記案内部材23とほぼ平行な位置関係で、案内部材23の長さ方向に移動可能に案内されると共に、その錠ケース5に対向する側の一端に形成した係合爪27を、錠ケース5を貫通して、ハンドルの筒部2の外周面に形成された図示しない錠止凹部に係合可能に臨ませている。
【0041】
そして、上記コイルばね21の延出部分を、ロックピース26の中央部に長さ方向(図9で上下方向)に沿って形成された案内長孔28に遊動可能に係合させている。
【0042】
ロックピース26を上記のように構成することにより、作動装置のモータ22の正、逆何れの方向の回動に対しても、コイルばね24の延出部分が案内長孔28中を移動する間はロックピース26は動かず、モータ22の回転数が定格に致り延出部分が案内長孔28の一端に致る前後にモータへの通電を断つようにすると、モータ22の回転子の慣性をコイルばねの延出部分の弾性変形という形態で吸収すると共に、上記延出部分の弾性変形が元に戻るときの弾力を利用してロックピースを駆動することができるので、ロックピース26の作動を確実にすることができるばかりでなく、電磁アクチュエータとしてのモータの停止時のショックを減少させることができる。
【0043】
なお、上記作動装置による電気錠の解錠は、前記シリンダ錠の合鍵によるポップアップに先立って行うこと、及び、電気錠の施錠は前記シリンダ錠の合鍵によるハンドルの押込みの後に行うことは勿論である。
【0044】
また、上記電気錠のモータに対する通電及び回転方向の設定の制御は、通常の電気錠におけると同様に、例えばテンキーによる暗証番号の設定とか、或いはICカードを自動販売機の所定の箇所にかざすとかの種々の方法で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の一実施例によるハンドル錠の要部正面図で、シリンダ錠を抜いた状態で示す。
【図2】その一部断面平面図、シリンダ錠を抜いた状態で示す。
【図3】その一部断面側面図、シリンダ錠を抜いた状態で示す。
【図4】ラッチ部の断面図。
【図5】係止カムの正面図。
【図6】係止カムの側面図。
【図7】解錠カムの平面図。
【図8】係止カムの背面図。
【図9】ロックピースの平面図。
【図10】ロックピースの側面図。
【符号の説明】
【0046】
1 ハンドル
2 筒部
3 把手部
4 シリンダ錠
5 錠ケース
6 取付ビス
7 取付枠
8 ばね収納空間
9 ラッチ部
11 デッドボルト
12 ばね受け
13 ガイド溝
14 ばね受け孔
15 係止カム
16 切欠
17 解錠カム
18 連結孔
19 係合突起
21 作動装置
22 モータ
23 案内部材
24 コイルばね
25 突起
26 ロックピース
27 係合爪
28 案内長孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口したカップ状で、シリンダ錠を開口端部に固定した筒部及び筒部の開口端縁に一体に形成された把手部よりなるハンドルと、ハンドルを突出入可能に収容する錠ケースと、ハンドルを突出位置に向け付勢させるために錠ケース内に設けた押しばねと、ハンドルを錠ケース内に没入した状態でこれを固定することができると共に、シリンダ錠を合鍵によって解錠した後、内筒を所定の方向に回動させることによりハンドルを解放するように構成されたラッチ部とを有するハンドル錠において、正、逆転できるモータの回転出力軸に、横断面円形の棒状体である案内部材を同軸に装着し、この案内部材にらせん状の疎巻コイルばねを案内部材の長さ方向に移動可能に巻装すると共に、案内部材の外周面の長さ方向における中央部に、ばねのピッチ間隙を遊動できる単一の突起を突設し、上記疎巻コイルばねの両端を案内部材の半径方向における外方に延出させた作動装置を、上記錠ケースの外側に、かつ案内部材が錠ケースの中心軸に垂直になるような位置関係で配設し、一方、上記案内部材とほぼ平行なロックピースを案内部材の長さ方向に移動可能に案内すると共に、その錠ケースに対向する側の一端に形成した係合爪を、錠ケースを貫通して、ハンドルの筒部外周面に形成された錠止凹部に係合可能に臨ませ、他方、上記作動装置のばねの延出部分をロックピースに係合させ、モータを正、逆転させることにより、作動装置のばねを介してロックピースをハンドルの錠止凹部に係脱させるようにしたことを特徴とするハンドル錠の破錠防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−106547(P2010−106547A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279526(P2008−279526)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)
【Fターム(参考)】