説明

ハードコートフィルム及びそれを用いたタッチパネル

【課題】黒枠及び/又はアイコンが印刷されたハードコートフィルムをタッチパネルに貼り合わせる場合に、印刷の段差が生じている隅部において、気泡の発生が生じないようにして、視認性を高めることができる光学用透明粘着剤(OCA)層を備えたハードコートフィルム、及びそれを用いたタッチパネルを提供する。
【解決手段】透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有するハードコートフィルムにおいて、ハードコート層が積層されていない側の樹脂フィルム表面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分に、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物が空気溜まりを含むことなく塗布、増粘させることによって得られる粘着剤層を有し、該粘着剤層が前記黒枠及び/又はアイコンの印刷層の表面を被覆してなることを特徴とするハードコートフィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムに関する。さらに詳細には、黒枠及び/又はアイコンが印刷されたハードコートフィルムをタッチパネルに貼り合わせる場合に、印刷の段差が生じている隅部において、気泡の発生が生じないようにして、視認性を高めることができるOCA層を備えたハードコートフィルム、及びそれを用いたタッチパネルを提供することを目標とする。
本明細書中の記載において、OCAとは、光学用透明粘着剤(Optically clear pressure sensitive adhesiveの略称)を意味しており、以下の説明では光学用透明粘着剤またはOCAと記載することがある。
【背景技術】
【0002】
従来から、タッチパネルの表面に、操作を指示したアイコンが印刷されているハードコートフィルムを貼り合わせたタッチパネルが知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
タッチパネルが適用されるディスプレイ(表示装置)としては、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(無機EL、有機EL)などが挙げられ、そのタッチパネルが利用される具体的な電子機器としては、液晶テレビ、携帯端末、携帯電話、電子ペーパ、電子書籍端末、パソコンなどが挙げられる。
【0004】
ところで、特許文献1においては、アイコンが印刷されたハードコートフィルムを感圧粘着剤で接着する場合には、アイコン印刷部分とその周囲との段差を5μm以下にすれば、貼り合わせ時の気泡の発生を防ぐことができるとしている。
【0005】
また、タッチパネルの表面に、操作を指示したアイコンが印刷されているハードコートフィルムを貼り合わせるに当たり、アイコンの印刷段差に伴う気泡の混入を防ぐための工夫が様々に試みられている(例えば、特許文献3〜7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−036143号公報
【特許文献2】特開2004−213187号公報
【特許文献3】特開2009−098324号公報
【特許文献4】特開2010−176111号公報
【特許文献5】特開2010−072471号公報
【特許文献6】特開2010−097070号公報
【特許文献7】特開2010−239324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載のような、タッチパネルの表面に透光部材(ハードコートフィルムに相当する)を接着剤層及び粘着剤層を介して貼り合わせるのは、余分な手間を要することからコスト上昇の原因となり、安価な表示装置には採用できないという問題があった。また、特許文献3に記載の表示装置では、液晶装置の周りを囲むような厚さが5〜10μm程度の遮光層が形成されているが、遮光層の印刷段差の影響が及ばないように、接着剤層及び粘着剤層の領域が配設されている。
【0008】
また、特許文献4には、アクリル樹脂あるいはポリカーボネート樹脂からなる透明な保護板と、印刷部との段差を透明性樹脂で埋めて平坦化し、さらに両面テープあるいは透明性を有する接着剤で、保護板をディスプレイ表面に貼り合わせることが開示されている。特許文献4によると、印刷段差は光硬化性樹脂により、印刷層の厚みの2倍以上の膜厚とするのが好ましいとしているが、光硬化性樹脂による具体的な平坦化の詳細な方法は記載されていない。
【0009】
また、特許文献5には、特定の貯蔵弾性率を有する粘着剤層を介して、タッチパネルの表面に、光遮光層(アイコンの印刷層に相当する)を有する表面保護層(保護フィルムに相当する)を貼り合わせることが開示されている。この粘着剤層を使用すると気泡を生じないとしているが、表面保護層をタッチパネルに貼り合わせた後、表面保護層、もしくは、タッチパネルの反対側から紫外線照射して、粘着剤を硬化させるとしていて、光遮光層の裏側に紫外線が適切に照射されないことが懸念されるという問題があった。
【0010】
また、特許文献6には、特定の貯蔵弾性率を有する透明粘着シートを介して、タッチパネルの表面に、黒色印刷層(アイコンの印刷層に相当する)を有する表面透明板(保護フィルムに相当する)を貼り合わせることが開示されている。
液晶表示パネルとプラスチック板(保護透明板)との接着面において発泡が生じないとしているが、透明粘着シートを介して透明プラスチックからなる保護透明板を液晶パネルに接着しているため、黒色印刷層の段差が生じている隅部において、気泡が残ってしまうことを避けることができないという問題があった。
【0011】
また、特許文献7には、外部枠が形成された意匠パネルを、両面テープを介してタッチパネルに貼り合わせることが開示されている。
両面テープの貼付面が全体として略平面となるため、意匠パネルと両面テープとの間に気泡が生じないとしているが、両面テープを介して意匠パネルをタッチパネルに貼り合わせているため、外枠部の印刷層の段差が生じている隅部において、気泡が残ってしまうことを避けることができないという問題があった。
【0012】
このように、従来技術においては、黒枠及び/又はアイコンが印刷されたハードコートフィルムをタッチパネルに貼り合わせる場合に、印刷の段差が生じている隅部において、気泡の発生が生じないようにして、視認性を高めることができるハードコートフィルムの製造方法は知られておらず、このような改善されたハードコートフィルム、それを用いたタッチパネルを提供できなかった。
【0013】
すなわち本発明の目的は、黒枠及び/又はアイコンが印刷されたハードコートフィルムをタッチパネルに貼り合わせる場合に、印刷の段差が生じている隅部において、気泡の発生が生じないようにして、視認性を高めることができるOCA層を備えたハードコートフィルム、及びそれを用いたタッチパネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明は、透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分に、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されてなることを特徴とするハードコートフィルムを提供する。
【0015】
また、本発明は、透明樹脂フィルムの両方の面にハードコート層を有し、一方の面の該ハードコート層の上には、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記一方の面のうち前記印刷層の形成されていない該ハードコート層の表出している部分に、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されてなることを特徴とするハードコートフィルムを提供する。
【0016】
さらに、前記粘着剤層が前記印刷層の表面を被覆してなることが好ましい。
【0017】
また、前記光硬化性粘着剤組成物が、有機溶剤を含んでいても構わないが、アクリル系ポリマーからなる主剤、アクリル系モノマー、架橋剤、光重合開始剤を含んでなる紫外線硬化型の光硬化性粘着剤組成物やウレタンアクリレートからなる主剤、アクリル系モノマー、架橋剤、光重合開始剤を含んでなる紫外線硬化型の光硬化性樹脂などの無溶剤タイプであることがより好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記のハードコートフィルムが、前記粘着剤層を介して貼り合わせてなるタッチパネルを提供する。
【0019】
また、本発明は、前記のタッチパネルが組み込まれてなる電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0020】
上記の本発明によれば、黒枠及び/又はアイコンが印刷された粘着剤層を有するハードコートフィルムをタッチパネルに貼り合わせる場合に、印刷の段差が生じている隅部において、気泡の発生が生じないようにすることにより、視認性を高めたハードコートフィルム、及びそれを用いたタッチパネルを提供することができる。
【0021】
また、本発明のハードコートフィルムは、飛散防止フィルム、特に静電容量型タッチパネルのITO面に貼合するアイコンシートとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0023】
本発明のハードコートフィルムは、透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分に、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されてなることを特徴とするハードコートフィルムである。また、本発明のハードコートフィルムは、透明樹脂フィルムの両方の面にハードコート層を有し、一方の面の該ハードコート層の上には、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記一方の面のうち前記印刷層の形成されていない該ハードコート層の表出している部分に、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されてなることを特徴とするハードコートフィルムである。さらに好ましくは、前記粘着剤層が、前記黒枠及び/又はアイコンの印刷層の表面を被覆しているハードコートフィルムである。
【0024】
(透明樹脂フィルム)
本発明のハードコートフィルムに使用される透明樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム、ポリエチレンテレナフタレート(PEN)樹脂フィルム、環状ポリオレフィン(COP)系樹脂フィルムからなる、透明性を有し、且つ耐熱性樹脂フィルム群の中から選択された1種であることが好ましい。特に、価格が比較的に安価で透明性が高いことからポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムが好適に使用される。
透明樹脂フィルムの厚さは、10〜250μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。透明樹脂フィルムの厚さが、10μmより薄いと取扱い性に欠けるので好ましくない。また、透明樹脂フィルムの厚さが、250μmより厚いと透明性が低下し、コストも高くなり、またハードコートフィルムの製造工程での加工適性が悪くなるので好ましくない。以上の点から透明樹脂フィルムの厚さは、10〜250μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。また、透明樹脂フィルムとハードコート層との密着性を向上させる目的で、透明樹脂フィルムの表面上に適宜の易接着性の樹脂層を積層することや、火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施しても良い。また、透明樹脂フィルムとハードコート層の間に下地層を設けても良い。
【0025】
(粘着剤層)
本発明に係わるハードコートフィルムは、透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分に粘着剤層が形成されている。また、本発明に係わるハードコートフィルムは、透明樹脂フィルムの両方の面にハードコート層を有し、一方の面の該ハードコート層の上には、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記一方の面のうち前記印刷層の形成されていない該ハードコート層の表出している部分に、粘着剤層が形成されている。さらには黒枠及び/又はアイコンの印刷層の表面にも、粘着剤層が形成されていることが好ましい。その粘着剤層を形成するには、溶剤系アクリルポリマーや溶剤系アクリルシロップ、無溶剤系アクリルシロップ、無溶剤ウレタンアクリレートなどのアクリル系粘着剤組成物が使用可能である。
【0026】
(アクリル系ポリマー)
溶剤系アクリル系ポリマーは原料となるアクリル系モノマーとして、下記一般式[化1]で表わされるアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも1種類を使用することができる。親水性モノマーを共重合していることが好ましい。これはアクリル系ポリマーをイソシアネートやエポキシ樹脂などの架橋剤で硬化させることにより、より高機能なアクリル系粘着層を形成できるためである。
【0027】
【化1】

【0028】
(式中、Rは水素又はメチル基、Rは炭素数1〜14のアルキル基を示す。)
前記一般式CH=CR−COORで表わされるアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらを単独で又は二種以上を併用して使用することができる。このうち2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
アルキル(メタ)アクリレートは、粘着力の観点から、アルキル基Rの炭素数が1〜14とされる。アルキル基の炭素数が15以上であると、粘着力が低下する可能性があるので好ましくない。このアルキル基Rは、炭素数が1〜12であることが好ましく、炭素数が4〜12であることが好ましく、炭素数が4〜8であることがより好ましい。
また、アルキル基Rの炭素数が1〜14のアルキル(メタ)アクリレートのうち、アルキル基Rの炭素数が1〜3または13〜14のアルキル(メタ)アクリレートをモノマーの一部分として用いても良いが、アルキル基Rの炭素数が4〜12のアルキル(メタ)アクリレートを必須として(例えば50〜100モル%)用いることが好ましい。なお、これらのアルキル基Rは、直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。
アルキル(メタ)アクリレートを重合させるには、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の方法により行うことができるが、除熱の容易な溶液重合が好適に用いられる。溶液重合反応において使用される有機溶媒としては、具体的には、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられるが、上記重合反応を阻害しなければ、特に限定されない。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。溶媒の使用量は、適宜に決定すればよい。
一般的に、溶液重合反応においては、重合温度が高くなるに従い、生成されるポリマーの分子量は低下する。重合反応を溶媒の還流温度で行わせるに当たり、重合反応に適した沸点温度を有する溶媒を使用することにより、重合反応熱を除去しながらポリマーを得ることができる。
【0029】
(アクリル系シロップ)
また、溶剤系アクリル系ポリマーとしては、上記の構造式[化1]で示すようなアクリル系モノマーを添加しそのまま塗工、製膜後にUVなどを照射して硬化させるアクリルシロップでも構わない。モノマーを添加しておくことにより、例えば、高温・高湿度での耐久性試験での白濁防止効果を持たせることが可能となり、アクリル系ポリマーだけでは発現されない機能を付与することが可能となる。同様のアクリルシロップでも重合反応に有機溶媒を使用しない、または重合反応後に使用した有機溶媒の除去作業を行い、無溶剤アクリルシロップにしてから塗工してもかまわない。
生産性および加工適性を考慮すると、溶剤系の粘着剤組成物よりもUV硬化型の粘着剤組成物が好適である。溶剤系の粘着剤組成物の場合、溶媒を揮発させるための設備および溶媒を揮発させるための処理時間が必要であり、かつ塗工した粘着剤層の厚みに対して乾燥後の粘着剤層の厚みが、溶剤の蒸発による減量分だけ薄くなり厚み方向への収縮が大きい(溶剤カットバック)。そのため表示部分は、黒枠の印刷部分より厚み収縮の絶対値が大きく、本発明の目的としている粘着層を塗工した後の表示部分と印刷部分との厚み差を少なくすることが、粘着テープを貼合する場合よりは改善されるものの、溶剤カットバック分だけの厚み差が発生し易くなる。溶剤カットバックによる厚み差を出来る限り少なくするためには、粘着剤組成物中の溶剤含有量を少なくし、さらには溶剤成分を無くすことが好ましい。そのため、本発明では、粘着剤組成物の主剤に無溶剤アクリルシロップや無溶剤ウレタンアクリレートなどの無溶剤タイプを使用するのが好ましい。
【0030】
(ウレタンアクリレート)
ウレタンアクリレートは、例えば1分子中に2個以上のNCO基を有する化合物1モルに対して2モル以上のヒドロキシル基含有アクリル系モノマーを反応させて得られる、1分子中に1個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物が挙げられる。ここで、ヒドロキシル基含有アクリル系モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
また、1分子中2個以上のNCO基を有する化合物としては、ジイソシナネート等のポリイソシアネート化合物とジオール等のポリオール化合物とを反応させて得られる分子量が500〜50000程度のオリゴマーが好ましい。
ポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートや、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0031】
ポリオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のグリコール;グリセリン、ペンタエリトリトール等の3価以上のポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等のポリエーテル型ジオール;上記ジオールと、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸とを反応して得られるポリエステル型のジオール等、が挙げられる。
さらに本発明の粘着剤組成物では、ウレタンアクリレートの少なくとも1種類に(メタ)アクリレートの少なくとも1種類が含有されていても構わない。本発明の効果を損なわない限度において、さらに他のモノマーを添加することもできる。(メタ)アクリレートとして、例えば、一般式CH=CR−COOR(式中、Rは水素又はメチル基、Rは炭素数1〜14のアルキル基を示す。)で表わされるアルキル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマーが上げられる。前記一般式CH=CR−COORで表わされるアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらを単独で又は二種以上を併用して使用することができる。このうち2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。なお、これらのアルキル基Rは、直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。他にアルコキシシリル基を含有する非アクリル系モノマーとしては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
また、非アクリル系モノマー等、種々の化合物を用いることができる。添加モノマーは、(メタ)アクリル基やビニル基等の光重合性基を1分子に1つ有する、単官能性モノマーが好ましい。
【0032】
本発明で使用する粘着剤組成物は、塗布加工時に粘度を下げる希釈剤の役割として、アクリル系モノマーの少なくとも1種類を含有することが通常であるが、アクリル系モノマー成分を入れ過ぎると、UV照射量を増やす必要があるため、アクリル系モノマーの添加量を樹脂成分の50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下にすることが好ましい。
また、溶剤系アクリルポリマー、溶剤系アクリルシロップは、樹脂中に有機溶媒が残留するため、残留した有機溶媒が、黒枠の印刷層が形成されたハードコートフィルムの印刷層に対して汚損を起こすことがある。そのため、印刷層の塗料用材料にはUV硬化剤や架橋剤を使用して事前に耐溶媒性を上げておくことが必要となる。
また、ウレタンアクリレート系UV硬化樹脂やアクリルシロップは、光重合開始剤を添加した後は、室内光や太陽光に含まれる紫外光がアクリルシロップに作用すると重合反応が進行する恐れがあり、管理が難しくなるため、光重合開始剤は、後工程である塗布工程のなるべく直前に添加することが好ましい。これは、アクリルシロップが有機溶媒に溶解している樹脂溶液でも同様の扱いで、注意すべきは光重合開始剤が何らかの外的要因で塗布・製膜前に反応を開始してしまうことを防ぐことである。
【0033】
(ハードコート層)
本発明のハードコートフィルムにおいて、透明樹脂フィルムに形成されるハードコート層は、タッチパネルの表面材に使用できる程度のハードコート性があればよく、通常鉛筆硬度試験での測定値が2H以上であれば実用上問題ない。ハードコート層に使用される樹脂には、特に制限はなく、シリコーン系、メラミン系等の熱硬化型ハードコート樹脂や、シリコーン系、アクリル系等の紫外線硬化型ハードコート樹脂等が使用できる。また、本発明のハードコートフィルムには、透明樹脂フィルムの片面または両面にハードコート層が形成される。透明樹脂フィルムの片面のみにハードコート層を形成した場合には、熱膨張による反りや撓みなどが生じ易くなるため、性能よりも価格が優先されて安価なハードコートフィルムが必要とされる場合を除いて、透明樹脂フィルムの両面にハードコート層を形成するのが好ましい。
また、ハードコート層の厚さは、1〜10μmが好ましく、2〜8μmがより好ましい。ハードコート層の厚さが1μmより薄いと、ハードコート性が得られず耐擦傷性が低下し、紫外線硬化型ハードコート樹脂を用いる場合には硬化不良を生じ易くなる。
また、ハードコート層の厚さが10μmより厚いと、ハードコート層にクラックが発生し易くなり、ハードコートフィルム自体がカールし易くなるので好ましくない
また、ハードコート層には帯電防止剤、紫外線吸収剤などの各種の機能を付与するための添加剤を必要に応じて添加してもよい。透明樹脂基材の表面にハードコート層を形成する方法は、リバースコート法、ダイコート法、グラビアコート法等の従来公知の方法が使用できる。
また、ハードコート層の上に、印刷層及び粘着剤層が積層される場合には、ハードコート層と印刷層及び粘着剤層との密着性を向上させる目的で、ハードコート層の表面上に適宜の易接着性の下地層を積層することや、火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施しても良い。
【0034】
(黒枠及び/又はアイコンの印刷層)
本発明は、透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分に、タッチパネル等に貼り合わせるための粘着剤層が形成されているハードコートフィルムに関するものである。また、本発明は、透明樹脂フィルムの両方の面にハードコート層を有し、一方の面の該ハードコート層の上には、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記一方の面のうち前記印刷層の形成されていない該ハードコート層の表出している部分に、タッチパネル等に貼り合わせるための粘着剤層が形成されているハードコートフィルムに関するものである。
本発明に係わるハードコートフィルムにおいて、印刷層により形成される黒枠は、タッチパネルの背後に設けられている表示パネル(液晶パネルのバックライトなど)から照射される照明光が表示パネルの周囲から漏出するのを抑制するため、表示パネルの周囲部を遮光するために設けられているものである。また、印刷層により形成されるアイコンは、タッチパネルの画面上に表示されるアイコン(特定の機能、操作、項目等を入力または選択するための図柄、文字、記号等の表示)のうち、頻繁に使用されるものを固定で表示するために設けられているものである。
印刷層による黒枠及び/又はアイコンの形成は、遮光性の黒色顔料を含有する樹脂組成物からなる塗料をスクリーン印刷、凹版印刷などにより塗布・乾燥することで、遮光性の被膜を形成することにより行なう。黒色顔料としては、カーボンブラック、黒鉛、アニリンブラック、シアニンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、酸化クロム、酸化マンガンからなる群より選択される一種又は二種以上を複合して用いることができる。これらの黒色顔料のうち、特に、カーボンブラックが好適に使用される。黒色顔料(光吸収材)の好ましい粒子径の分布範囲は0.01〜0.5μmの範囲であり、より好ましくは0.05〜0.3μmの範囲である。なお、遮光層の色調を、無彩色もしくは好ましい色調に調整するために、必要に応じて複数種の他の色材を使用しても良い。また、印刷層により黒枠を形成するには、例えば、黒色顔料としてカーボンブラックを分散させたアクリル樹脂系の塗料を用い、印刷層の膜厚を10〜50μmとすることにより黒枠を形成することができる。この印刷層は、黒色に限定される必要性はなく、光沢のある樹脂や白色、各種の有彩色など様々な色を選択することが可能である。
【0035】
ところで、本発明のハードコートフィルムは、透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分に、さらには、枠及び/又はアイコンの印刷層の表面にも、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されている。また、本発明のハードコートフィルムは、透明樹脂フィルムの両方の面にハードコート層を有し、一方の面の該ハードコート層の上には、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記一方の面のうち前記印刷層の形成されていない該ハードコート層の表出している部分に、さらには、枠及び/又はアイコンの印刷層の表面にも、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されている。
そのため、本発明のハードコートフィルムを、被着体に貼り合わせる作業工程において、粘着剤層の表面に作業環境中のダストなどが付着して汚損するのを防止するため、被着体に貼り合わせる直前まで、粘着剤層の上に基材の表面に剥離処理された剥離フィルム(保護フィルムとも呼ばれる)を積層して保管するのが好ましい。また、本発明のハードコートフィルムの粘着剤層の上に剥離フィルムを積層する場合、コストアップの要因となるが、本発明のハードコートフィルムは、粘着剤層の上に剥離フィルムを貼り合わせた状態で製品出荷されるのが好ましい。剥離フィルムは、本発明のハードコートフィルムを製造した後の品質検査を行う際に、ゴミなどの付着や、汚損の有無を確認検査できるように、透明樹脂フィルムに剥離処理剤を塗布して剥離処理されてなるものが好ましい。透明樹脂フィルムとしては、価格が比較的に安価で透明性が高いことからポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムが好適に使用される。透明樹脂フィルムの厚みは、10〜250μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。また、剥離処理の方法は特に限定されず、既に広く用いられているシリコーン系剥離剤、付加反応型シリコーン系剥離剤などを用いても良い。
【0036】
(架橋剤)
本発明のハードコートフィルムに使用される光硬化性樹脂組成物には、任意成分としてアクリル系ポリマーを架橋するために架橋剤を添加しても良い。架橋剤に含まれる官能基の基数は、必要な粘着剤組成物の物性によって選択し、また、必要に応じて、架橋剤の添加量を調整することが可能である。
2官能性の架橋剤としては、架橋反応する官能基を1分子中に2つ有する化合物であれば、特に限定されない。このような2官能性の架橋剤としては、例えば、2官能性エポキシ化合物、2官能性イソシアネート等が挙げられる。
2官能性エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族の2官能性エポキシ化合物や、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、レゾルシンジグリシジルエーテル等の芳香族の2官能性エポキシ化合物が挙げられる。2官能性エポキシ化合物のエポキシ基は、アクリル系ポリマーのカルボキシル基と架橋反応することができる。
2官能性イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂肪族の2官能性イソシアネートや、トリレンジイソシアネートやジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族の2官能性イソシアネートが挙げられる。2官能性イソシアネートのNCO基は、アクリル系ポリマーのカルボキシル基やヒドロキシル基と架橋反応することができる。
2官能性の架橋剤の含有量は、アクリル系ポリマーの架橋点に対して0.1当量以下となる範囲で、例えば、アクリル系ポリマー100重量部に対して0.5〜3.0重量部が好ましく、1.0〜3.0重量部がより好ましい。
官能基数は2官能に限定されることは無く、必要な粘着性物性(粘着力、硬さなど)を調整するために3官能性以上の架橋剤を使用することが可能である。
【0037】
(添加剤)
本発明のハードコートフィルムに使用されている粘着剤層において、粘着剤の被着体に対する粘着力を、被着体の状態に合わせて調整すること、被着体がガラス板である場合での密着力を向上させること、粘着剤層の耐久性を向上させること、などの観点から粘着付与剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、老化防止剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤を、必要に応じて添加することも可能である。
粘着付与剤としては、例えば、ロジンおよびその誘導体、ポリテルペン、テルペンフェノール樹脂、クマロン−インデン樹脂、石油系樹脂、スチレン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。軟化剤としては、例えば、液状ポリエーテル、グリコールエステル、液状ポリテルペン、液状ポリアクリレート、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0038】
(光重合開始剤)
本発明のハードコートフィルムに使用される光硬化性樹脂組成物に含まれている、光重合開始剤(重合触媒)は、特に限定されないが、例えば、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等が挙げられる。
アセトフェノン系光重合開始剤としては、アセトフェノン、p−(tert−ブチル)1’,1’,1’−トリクロロアセトフェノン、クロロアセトフェノン、2’,2’−ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2’−フェニルアセトフェノン、2−アミノアセトフェノン、ジアルキルアミノアセトフェノン等が挙げられる。
ベンゾイン系光重合開始剤としては、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1−ヒドロキシルシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシル2−メチル−1−フェニル−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシル2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシルベンゾフェノン、ヒドロキシルプロピルベンゾフェノン、アクリルベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
チオキサントン系光重合開始剤としては、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ジメチルチオキサントン等が挙げられる。
その他の光重合開始剤としては、α−アシルオキシムエステル、ベンジル−(o−エトキシカルボニル)−α−モノオキシム、アシルホスフィンオキサイド、グリオキシエステル、3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
【0039】
これらの光重合開始剤は、1種類のみを用いても良く、また、2種類以上を併用しても良い。光重合開始剤の含有量は、重合性化合物の全量を100質量%とする重量百分率において、0.005〜5質量%であることが好ましく、0.01〜2質量%であることが特に好ましい。光重合開始剤の含有量が0.005質量%以上であれば、重合性化合物を短時間に重合でき、5質量%以下であれば、光重合開始剤の残渣が硬化物中に残存しにくい。
透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなるハードコートフィルムにおいて、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物を前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の全体に、また、さらに該光硬化性樹脂組成物を前記印刷層の表面にも塗布した後、光硬化性樹脂組成物の塗膜を光硬化させて粘着剤層を形成する。また、透明樹脂フィルムの両方の面にハードコート層を有し、一方の面の該ハードコート層の上には、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなるハードコートフィルムにおいて、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物を前記一方の面のうち前記印刷層の形成されていない該ハードコート層の表出している部分の全体に、また、さらに該光硬化性樹脂組成物を前記印刷層の表面にも塗布した後、光硬化性樹脂組成物の塗膜を光硬化させて粘着剤層を形成する。光硬化前の光硬化性樹脂組成物は、空気溜まりや気泡を含むことなく塗布することが容易であり、塗布後に光照射で硬化、増粘させることにより、印刷層の形成されていない部分に粘着剤層を有するハードコートフィルムを製造することができる。また、粘着剤層が、さらに印刷層の表面を被覆してなる場合には、印刷層の形成されていない部分と印刷層の部分とで異なる厚みの粘着剤層を有するハードコートフィルムを製造することができる。
このように光硬化で形成した粘着剤層は、粘着剤層の粘着面(透明樹脂フィルムの他方の面及び印刷層に接する側とは反対側の面)の物理的な凹凸形状、及び光学的な歪みが小さいため、粘着剤層を形成する前と比べて、ハードコートフィルムの他方の面における物理的な凹凸形状、及び光学的な歪みを低減することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0041】
〈印刷層を有するハードコートフィルムの作製〉
厚みが188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムを透明樹脂フィルムに用いて、ハードコート層が両面に形成されているハードコートフィルム(東洋包材株式会社製、品名DH/A−6188)の片面に、シルク印刷機を用いて、黒色の顔料系のインキ(セイコーアドバンス社製、HACシリーズ、コンク710ブラック)を、乾燥後の厚みがそれぞれ15μmと41μmとなるように印刷・乾燥して、黒枠の印刷層が形成されたハードコートフィルムA(印刷層の厚みが15μm)及びハードコートフィルムB(印刷層の厚みが41μm)を作製した。
得られたハードコートフィルムA、Bは、黒枠の印刷層の厚みが、それぞれ15μm、41μmであり、黒枠の印刷層による段差高さ(以下、印刷段差の高さという)を有している。
【0042】
(粘着剤層の貯蔵弾性率の測定方法)
複数枚のハードコートフィルムを重ねて貼合し所定の厚みの積層体とした後、オートクレーブ処理(60℃×0.5MPa×30分間)を実施して気泡を抜き、厚み約1mm×幅20mm×長さ20mmの寸法に裁断して動的粘弾性試験用のサンプルを作製した。このサンプルをせん断型レオメーター(AntonPaar社製,装置名粘弾性測定装置、型式:MCR301)にて線形領域内の、周波数1Hzの条件で動的粘弾性試験を行なった。貯蔵弾性率の測定は、−40℃〜+150℃の温度範囲で、昇温速度3℃/minの条件により、室温23℃における値を読み取り、貯蔵弾性率を得た。
【0043】
(透明樹脂フィルムへの粘着力の測定方法)
被着体への粘着力の測定方法は、次のとおりである。
作製したハードコートフィルムの粘着剤層を覆っているセパレーター(剥離フィルム)を剥離し、ロールにより2kg荷重をかけてガラス板に貼合し23℃、50%RH環境下に1時間放置後、剥離速度300mm/minで剥離させ、その180°剥離強度を測定した。
【0044】
(実施例1)
縦横の寸法が約115mm×約60mm(黒枠内の表示領域の寸法が約90mm×約53mm)の、黒枠の印刷層を有するハードコートフィルムA(15μmの印刷段差を有する)を用いて、印刷層による黒枠の形成されていない部分、及び印刷層による黒枠の上部に、ウレタンアクリレートを主成分とするウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂組成物(株式会社サンノプコ社製、SN−5X、6618型)を、印刷層を有するハードコートフィルムAの透明樹脂フィルム表面からの厚みが硬化後に35μmとなるように塗布して粘着剤層を積層した。さらに、窒素パージ雰囲気下でUV照射を行い、ウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂組成物を硬化させて、光学用透明粘着剤層を形成し、実施例1のハードコートフィルムを得た。得られた実施例1のハードコートフィルムに使用した粘着層の貯蔵弾性率を測定すると、貯蔵弾性率G‘が5.6×10Paであり、損失弾性率G“が4.1×10Paであり、ガラス板への粘着力を測定すると、4.6N/25mmであった。
また、実施例1のハードコートフィルムについて、光学用透明粘着剤層の表面において、黒枠の印刷されていない部分及び黒枠部の、ハードコートフィルムの基材表面からの厚みを測定すると、それぞれ35.2μmと35.5μmであり、その差は0.3μmであった。従って、実施例1のハードコートフィルムにおいては、光学用透明粘着剤層を積層する前の印刷層を有するハードコートフィルムAにおける印刷段差の距離である15μmよりも、印刷段差の距離を著しく低減することができた。
【0045】
(実施例2)
縦横の寸法が約115mm×約60mm(黒枠内の表示領域の寸法が約90mm×約53mm)の、黒枠の印刷層を有するハードコートフィルムB(41μmの印刷段差を有する)を用いて、ウレタンアクリレートを主成分とするウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂組成物(ケースエム株式会社製、T−480型)を、印刷層による黒枠の形成されていない部分、及び印刷層による黒枠の上部に、印刷層を有するハードコートフィルムBの透明樹脂フィルム表面からの厚みが硬化後に70μmとなるように塗布して粘着剤層を形成した以外は、実施例1と同様にして光学用透明粘着剤層を形成し、実施例2のハードコートフィルムを得た。
得られた実施例2のハードコートフィルムについて貯蔵弾性率を測定すると、貯蔵弾性率G‘が4.3×10Paであり、損失弾性率G“が2.5×10Paであり、ガラス板への粘着力は30.2N/25mmであった。
また、光学用透明粘着剤層の表面において、黒枠の印刷されていない部分及び黒枠部の、ハードコートフィルムの透明樹脂フィルム表面からの厚みを測定すると、それぞれ67.5μmと73.5μmであり、その差は6.0μmであった。従って、実施例2のハードコートフィルムにおいては、光学用透明粘着剤層を積層する前の印刷層を有するハードコートフィルムBにおける印刷段差の距離である41μmよりも、印刷段差の距離を著しく低減することができた。
【0046】
(実施例3)
縦横の寸法が約180mm×約115mm(黒枠内の表示領域の寸法が約150mm×約85mm)の、黒枠の印刷層を有するハードコートフィルムA(15μmの印刷段差を有する)を用い、印刷層による黒枠の形成されていない部分、及び印刷層による黒枠の上部に、ウレタンアクリレートを主成分とするウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂組成物(株式会社サンノプコ社製、SN−5X、6618型)を、印刷層を有するハードコートフィルムAの透明樹脂フィルム表面からの厚みが硬化後に50μmとなるように塗布して粘着剤層を積層した。さらに、窒素パージ雰囲気下でUV照射を行い、ウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂組成物を硬化させて、光学用透明粘着剤層を形成し、実施例1のハードコートフィルムを得た。得られた実施例1のハードコートフィルムに使用した粘着層の貯蔵弾性率を測定すると、貯蔵弾性率G‘が5.6×10Paであり、損失弾性率G“が4.1×10Paであり、ガラス板への粘着力を測定すると、4.6N/25mmであった。
また、得られた実施例3のハードコートフィルムは、光学用透明粘着剤層の表面において、黒枠の印刷されていない部分及び黒枠部の、ハードコートフィルムの基材表面からの厚みを測定すると、それぞれ50.0μmと53.5μmであり、その差は3.5μmであった。従って、実施例3のハードコートフィルムにおいては、光学用透明粘着剤層を積層する前の印刷層を有するハードコートフィルムAにおける印刷段差の距離である15μmよりも、印刷段差の距離を著しく低減することができた。
【0047】
(実施例4)
縦横の寸法が約250mm×約190mm(黒枠内の表示領域の寸法が約240mm×約160mm)の、黒枠の印刷層を有するハードコートフィルムA(15μmの印刷段差を有する)を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4のハードコートフィルムを得た。
また、得られた実施例4のハードコートフィルムは、光学用透明粘着剤層の表面において、黒枠の印刷されていない部分及び黒枠部の、ハードコートフィルムの基材表面からの厚みを測定すると、それぞれ45.5μmと54.5μmであり、その差は9.0μmであった。従って、実施例3のハードコートフィルムにおいては、光学用透明粘着剤層を積層する前の印刷層を有するハードコートフィルムAにおける印刷段差の距離である15μmよりも、印刷段差の距離を著しく低減することができた。
【0048】
(比較例1)
縦横の寸法が約115mm×約60mmであり、厚みが50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムの片面に、シリコーンによる剥離処理を行った後、ウレタンアクリレートを主成分とするウレタンアクリレート系のUV硬化型樹脂組成物を、硬化後の厚みが35μmとなるように塗布して粘着剤層を積層した。さらに、窒素パージ雰囲気下でUV照射を行うことにより硬化させて光学用透明粘着剤層を形成した。その後、その光学用透明粘着剤層の上に、シリコーンによる剥離処理を行って剥離剤層が形成された、厚みが38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムの剥離処理面を重ねて貼合することにより、比較例1の光学用透明粘着剤層の転写フィルム(両面粘着テープ)を得た。
比較例1の光学用透明粘着剤層の転写フィルムの弾性率を測定すると、貯蔵弾性率G‘が5.6×10Paであり、損失弾性率G“が4.1×10Paであり、ガラス板への粘着力は4.6N/25mmであった。これは、実施例1と同じ粘着力であった。
得られた比較例1の光学用透明粘着剤層の転写フィルム(両面粘着テープ)を用いて、厚みが35μmの光学用透明粘着剤層を、黒枠の印刷層を有するハードコートフィルムA(15μmの印刷段差を有する)の印刷層が形成された面に貼合して積層し、比較例1のハードコートフィルムを得た。
得られた比較例1のハードコートフィルムは、光学用透明粘着剤層の表面において、黒枠の印刷されていない部分及び黒枠部の、ハードコートフィルムの基材表面からの厚みを測定すると、それぞれ35.2μmと50.5μmであり、その差は15.3μmであった。従って、比較例1のハードコートフィルムにおいては光学用透明粘着剤層を積層する前の印刷層を有するハードコートフィルムAにおける印刷段差である15μmとほぼ同じ印刷段差の距離であり、印刷段差の距離を低減することができなかった。
【0049】
(比較例2)
硬化後の厚みが65μmとなるようにした以外は比較例1と同様にして、比較例2の光学用透明粘着剤層の転写フィルム(両面粘着テープ)を得た。
比較例2の光学用透明粘着剤層の転写フィルムの弾性率を測定すると、貯蔵弾性率G‘が4.3×10Paであり、損失弾性率G“が2.5×10Paであり、ガラス板への粘着力は30.2N/25mmであった。これは、実施例2と同じ粘着力であった。
得られた比較例2の光学用透明粘着剤層の転写フィルム(両面粘着テープ)を用いて、厚みが41μmの光学用透明粘着剤層を、黒枠の印刷層を有するハードコートフィルムB(41μmの印刷段差を有する)の印刷層が形成された面に貼合して積層し、比較例2のハードコートフィルムを得た。
得られた比較例2のハードコートフィルムは、光学用透明粘着剤層の表面において、黒枠の印刷されていない部分及び黒枠部の、ハードコートフィルムの基材表面からの厚みを測定すると、それぞれ67.0μmと107.2μmであり、その差は40.2μmであった。従って、比較例2のハードコートフィルムにおいては光学用透明粘着剤層を積層する前の印刷層を有するハードコートフィルムBにおける印刷段差である41μmとほぼ同じ印刷段差の距離であり、印刷段差の距離を低減することができなかった。
【0050】
表1に、実施例1から4及び比較例1、2について、粘着剤層の厚み、印刷段差の距離などについての測定結果を示した。
【0051】
【表1】

【0052】
(貼合後の気泡確認試験)
貼合装置(株式会社クライムプロダクツ製、製品名:小型枚葉貼合機、型式:SE320)を使用して、作製した実施例1から4及び比較例1、2のハードコートフィルムを、ITOフィルム(中井工業株式会社製、製品名:メタフォース125R2×A、表面抵抗値250Ω/m)を粘着テープで貼合したガラス板のITO面に貼合する作業を行なった。
実施例1から実施例4のハードコートフィルムについては、透明樹脂フィルムと印刷層の黒枠との印刷段差が有る部分に気泡の発生を生じることなく貼合することができた。しかし、比較例1及び比較例2のハードコートフィルムについては、透明樹脂フィルムと印刷層の黒枠との印刷段差が有る部分の印刷段差を埋めることができず、気泡が発生していた。また、比較例1及び比較例2のハードコートフィルムについては、その後のオートクレーブ処理(40℃×0.5mMPa×15分間)により、発生した気泡を全体的に減少させることができたが、目視で確認できる程度の大きさの気泡は残っていた。これは、比較例1のハードコートフィルムについては、粘着剤厚み/印刷段差の距離=35μm/15μm=2.3であり、印刷段差の距離に比べて粘着剤厚みが大きくて凹凸の吸収が容易であることと、粘着剤層の粘着力が低く、且つ粘着剤が固いためである。また、比較例2のハードコートフィルムについては、粘着力は高いものの、粘着剤厚み/印刷段差の距離=65μm/41μm=1.6であり、印刷段差の距離に比べて粘着剤厚みが大きくて凹凸の吸収が困難であることが原因と思われる。
【0053】
本発明に関連した特許出願である、特願2010−026814号は、本発明の発明者らに拠るものであるが、該出願明細書に示した実施例8の結果から判断すると、本発明のハードコートフィルムで使用している粘着剤層の貯蔵弾性率を適用した場合、印刷段差を埋める粘着層の厚みは、印刷段差距離の10倍以上の厚みが必要であると考えられる(例えば、該出願明細書の実施例8では、20μmの印刷段差を200μmの厚みの粘着剤層で埋めている)。しかし、本発明のハードコートフィルムでは、透明樹脂フィルムに、可撓性を有しており柔軟に変形可能な、厚みが125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムを用いていることから、印刷の段差を埋める粘着層の厚みは、印刷段差距離の10倍未満であっても、印刷段差の距離を埋めても気泡の発生を伴わないで貼合できたと考えられる。
【0054】
従来の粘着剤層を有するハードコートフィルムでは、印刷段差を有する被着体に貼合する場合、粘着力を強化した柔軟な粘着剤層を用いることで、強引にハードコートフィルムを構成する粘着剤層および基材フィルムを変形させて貼合させるため、基材フィルムの歪みだけではなく、印刷段差の周辺部には粘着剤層の密度が高い箇所が発生するが、印刷段差の周辺部から離れた箇所では粘着剤層の密度が低くなるという問題があった。
その結果、生じた粘着剤層の密度の差によって、透過光線が屈折してしまい画像表示体からの映像が歪んで見えることがある。例えば、従来の粘着剤層を有するハードコートフィルムをディスプレイの表面に貼合した場合、画像が表示されていない状態では、反射光が歪んでしまい、ガラスを用いた場合のような平滑性を出せないため意匠性も低下するという問題があった。
【0055】
本発明に係わるハードコートフィルムは、黒枠及び/又はアイコンの印刷層からなる段差の形成されていない部分(ディスプレイの画像が表示される部分)と、黒枠及び/又はアイコンの印刷されている部分(ディスプレイの画像が非表示の部分)とで、異なる厚みの粘着剤層を有しており、かつ粘着剤層の表面は、印刷段差の距離よりも厚みの差が無い状態となるため、ハードコート層の表面は物理的な凹凸形状、及び光学的な歪みが低減されている。
また、本発明に係わるハードコートフィルムは、粘着剤層の柔軟さに関係なく印刷段差を埋めることができるため、粘着力を強化した柔軟な粘着剤層だけではなく、硬い再剥離用の粘着剤層や、粘着剤層が転写しないような非常に硬い微粘着力の粘着剤層を使用することが可能である。
【0056】
また、本発明のハードコートフィルムを被着体に貼り合わせるときには、手作業による貼り合わせを行わないで、例えば、前記の貼合装置を用いることにより、作業性の向上が図れるのでより好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分に、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されてなることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
透明樹脂フィルムの両方の面にハードコート層を有し、一方の面の該ハードコート層の上には、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記一方の面のうち前記印刷層の形成されていない該ハードコート層の表出している部分に、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤層が形成されてなることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項3】
さらに、前記粘着剤層が前記印刷層の表面を被覆してなることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記光硬化性粘着剤組成物が、アクリル系ポリマーからなる主剤、アクリル系モノマー、架橋剤、光重合開始剤を含んでなる紫外線硬化型の光硬化性粘着剤組成物であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のハードコートフィルムが、前記粘着剤層を介して貼り合わせてなるタッチパネル。
【請求項6】
請求項5に記載のタッチパネルが組み込まれてなる電子機器。

【公開番号】特開2012−232459(P2012−232459A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101853(P2011−101853)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】