説明

ハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット

【課題】軸受内部を通過する空気流量を減らし、アウトパーティクルの少ないHDDアクチュエータ用ピボット軸受ユニットを提供する。
【解決手段】HDDアクチュエータ用ピボット軸受ユニット10は、軸方向一端部にフランジ部を有する軸部材12と、内輪14a、16aと、外輪14b、16bと、該内輪及び外輪間に配置される複数の転動体14c、16cと、該複数の転動体をそれぞれ保持する保持器14d、16dと、該外輪の軸方向端部に配置される密封部材14e、16eと、をそれぞれ備え、軸部材の周囲に並列に配置される一対の軸受14、16と、軸部材の軸方向他端側に取り付けられ、軸方向内側面が一方の軸受の外輪の軸方向端面と対向するように半径方向に延出するシールドキャップ22と、を有する。シールドキャップの軸方向内側面は、一方の軸受の密封部材との軸方向隙間が、外輪との軸方向隙間よりも狭くなるように段付き形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニットに関し、より詳細には、軸受内部を通過する空気流量を低減し、アウトパーティクルを低減したハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
図3(a)〜(c)は、ハードディスクドライブ(Hard Disc Drive(以下、HDDとも言う))の概略構成を一例として示している。当該HDDは、情報(データ)を記録する磁気ディスク(ハードディスク)2と、当該磁気ディスク2を回転させるスピンドルモータ4と、先端部に磁気ヘッド6が取り付けられたアクチュエータとしてのスイングアーム8と、当該スイングアーム8の基端部に設けられ、スイングアーム8を回転駆動させるボイスコイル9とを備えている。
【0003】
スイングアーム8は、ピボット軸受ユニット10を介してHDDのベースBs上に回動可能に軸支されており、ボイスコイル9によって回転駆動された際、回転状態の磁気ディスク2に対して磁気ヘッド6を平行移動(トレース)させる。これにより、HDDにおいて、磁気ヘッド6を介して磁気ディスク2から情報を読み取ること、あるいは磁気ディスク2へ情報を書き込むこと(記録すること)ができる。
【0004】
ピボット軸受ユニット10には、HDDのベースBsに立設された軸部材12と、スイングアーム8が外装されるスリーブ18と、これらの軸部材12とスリーブ18との間に介在されたピボット軸受14、16が備えられている。
【0005】
また、ピボット軸受14、16には、相対回転可能に対向して配置された一対の軌道輪として、内輪14a、16a及び外輪14b、16bと、当該軌道輪の間に転動自在に組み込まれた複数の転動体としての玉14c、16cと、当該玉14c、16cを1つずつ回転自在に保持する保持器14d、16dが備えられている。そして、軌道輪の間には、軸受内部を密封するための非接触型のシールド部材14e、16eが介在され、これにより、軸受外部からの異物(例えば、塵埃)の侵入が防止されているとともに、軸受内部へ封入したグリース組成物の軸受外部への漏洩が防止されている。
【0006】
そして、かかるピボット軸受14、16は、内輪14a、16aが軸部材12に外嵌されているとともに、外輪14b、16bがスリーブ18に内嵌された状態で、当該スリーブ18に装着されたスイングアーム8を回動自在に軸支している。また、スリーブ18の内周部には、ピボット軸受14、16相互間に介在するように環状の間座20が嵌合されている。これにより、ピボット軸受14、16が所定の予圧を付与された状態で所定位置に位置決め固定され、ガタつくこと無く安定して回動可能な状態となり、スイングアーム8を応答性良くスムーズに回動させることができる。
【0007】
近年、ハードディスク(HDD)の高密度化、高容量化が進み、HDD内部は高い機械的精度と共に、より高い清浄度が求められるようになってきている。HDD内部の磁気ディスク、読取ヘッド等に異物が付着すると性能の低下やプログラムのエラー、最悪の場合HDDの故障を招くため、HDDの内部部品は高い清浄度が求められる。
【0008】
HDD内部に発生する異物のひとつに、アクチュエータを支えるピボット軸受ユニットのグリースに起因するアウトパーティクルがある。軸受が運動することで内部のグリースが攪拌され、グリース内の油分が微量な粒子として軸受外部に放出され、HDD内部を浮遊し、磁気ディスク、読取ヘッドなどに付着する。
【0009】
アウトパーティクルを低減する方法としては、例えば軸受のシールドラビリンスを狭くする方法や、特許文献1に記載されているように軸受のシール部材を、帯電特性を持つ材料で形成することで静電気力を用いてパーティクルを捕捉する方法がある。
【0010】
また、特許文献2に記載のハードディスクドライブ用ピボットアッセンブリでは、図6に示すように、ボールベアリング120に設けられたグリース等から発生したガスや塵埃が外部に放出されないようにするため、シャフト110に固定されるハブキャップ140が開示されている。このハブキャップ140は、内周部141と、内周部141よりも厚さの薄い外周部142とからなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−138991号公報
【特許文献2】特開2004−92666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、通常HDDの稼動時には内部に強い空気流動が発生し、アクチュエータ付近においても、ピボット軸受ユニットを通り抜ける形で空気の流れが発生するものと考えられている。空気が軸受内部を通り抜けることでパーティクルが外部に放出され、軸受内部のシールドのみでこれを捕捉することは困難となる。
【0013】
また、ピボットユニット上部にはシールド板と同じ目的で図3(c)のようなシールドキャップ22が装着されている。通常、シールドキャップは板材からプレス加工によって製造されるため、既存のキャップ22は図4(a)、(b)のいずれかのような形状となる。また、軸受のアキシャル振れ精度の問題から、軸受外輪端面との間にはある程度隙間が必要となるため、既存形状のシールドキャップではシールド部材とキャップとの間に大きく隙間(例えば、隙間Aは0.25mm程度)ができてしまう。直接ピボット軸受ユニットに外部からの空気が出入りするのはこの隙間部分になるため、空気流量を減らし、アウトパーティクルを少なくするには限界があった。
【0014】
さらに、図5に示すように、軸部材12の軸方向一端部に設けられたフランジ部12aは、軸受内輪端面と突き当たる一方、軸受16の回転を阻害しないように軸方向内側面に段差を設けて、軸受外輪端面との間に十分な隙間を形成している。このため、フランジ部12aと外輪16bとの間、及びフランジ部12aとシールド部材16eとの間に大きく隙間(例えば、隙間Bは0.25mm程度)ができてしまい、これら隙間部分も空気の流出入口となり、軸受がHDD内部にパーティクルを放出する要因となっている。
【0015】
一方、図6に記載のピボットアッセンブリでは、シール125とハブキャップ140の内周部141との間の隙間を小さく設定したものが記載されているが、該隙間よりも径方向外側では、ハブキャップ140の外周部142と外輪122の端面との間の隙間に亘って、比較的大きな隙間が形成されており、十分な距離のラビリンスが形成されていない。
【0016】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受内部を通過する空気流量を減らし、アウトパーティクルの少ないハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 軸方向一端部にフランジ部を有する軸部材と、
内輪と、外輪と、該内輪及び外輪間に配置される複数の転動体と、該複数の転動体をそれぞれ保持する保持器と、該外輪の軸方向端部に配置される密封部材と、をそれぞれ備え、前記軸部材の周囲に並列に配置される一対の軸受と、
前記軸部材の軸方向他端側に取り付けられ、軸方向内側面が前記一方の軸受の外輪の軸方向端面と対向するように半径方向に延出するシールドキャップと、
を有するハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニットであって、
前記シールドキャップの軸方向内側面は、前記一方の軸受の密封部材との軸方向隙間が、前記外輪との軸方向隙間よりも狭くなるように段付き形状に形成されていることを特徴とするハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(2) 前記密封部材は、該外輪の軸方向端部に形成された環状溝に取り付けられ、前記内輪に向かって延びるリング部を有するシールド部材であり、
前記シールドキャップの軸方向内側面は、前記一方の軸受のシールド部材のリング部と対向する第1キャップ面と、該第1キャップ面よりも半径方向外側、且つ、軸方向外側で、前記外輪の軸方向端面と対向する第2キャップ面と、該第1及び第2キャップ面を繋ぐキャップ段差面と、によって前記の段付き形状に形成され、
前記シールドキャップの軸方向内側面は、前記第1キャップ面と前記一方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、前記第2キャップ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなり、且つ、前記キャップ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間が、前記第2キャップ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなるように形成されていることを特徴とする(1)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(3) 前記第1キャップ面と前記一方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、0.1mm以下に設定され、前記第2キャップ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間が0.2mm以下に設定されていることを特徴とする(2)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(4) 前記キャップ段差面は、断面直線状の傾斜面であることを特徴とする(2)または(3)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(5) 前記シールドキャップのキャップ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間が0.1mm以下に設定されていることを特徴とする(4)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(6) 前記フランジ部の軸方向内側面は、前記他方の軸受の密封部材との軸方向隙間が、前記外輪との軸方向隙間よりも狭くなるように段付き形状に形成されていることを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(7) 前記密封部材は、該外輪の軸方向端部に形成された環状溝に取り付けられ、前記内輪に向かって延びるリング部を有するシールド部材であり、
前記フランジ部の軸方向内側面は、前記他方の軸受のシールド部材のリング部と対向する第1フランジ面と、該第1フランジ面よりも半径方向外側、且つ、軸方向外側で、前記外輪の軸方向端面と対向する第2フランジ面と、該第1及び第2フランジ面を繋ぐフランジ段差面と、によって前記の段付き形状に形成され、
前記フランジ部の軸方向内側面は、前記第1フランジ面と前記他方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、前記第2フランジ面と前記外輪との軸方向最短隙間よりも狭くなり、且つ、前記フランジ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間は、前記第2フランジ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなるように形成されていることを特徴とする(6)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(8) 前記第1フランジ面と前記他方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、0.1mm以下に設定され、前記第2フランジ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間が0.2mm以下に設定されていることを特徴とする(7)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(9) 前記フランジ段差面は、断面直線状の傾斜面であることを特徴とする(7)または(8)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(10) 前記フランジ部のフランジ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間が0.1mm以下に設定されていることを特徴とする(9)に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
(11) 前記一対の軸受の前記外輪に外嵌するハウジングを、さらに備えることを特徴とする(1)から(10)のいずれかに記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【発明の効果】
【0018】
本発明のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニットによれば、シールドキャップの軸方向内側面は、一方の軸受の密封部材との軸方向隙間が、外輪との軸方向隙間よりも狭くなるように段付き形状に形成されているので、シールドキャップと軸受の間に生まれる隙間を狭くし、また、距離の長いラビリンスを形成することで、軸受内部を通過する空気流量を減らし、アウトパーティクルを減らすことができる。
【0019】
また、密封部材は、外輪の軸方向端部に形成された環状溝に取り付けられ、内輪に向かって延びるリング部を有するシールド部材であり、シールドキャップの軸方向内側面は、シールド部材のリング部と対向する第1キャップ面と、第1キャップ面よりも半径方向外側、且つ、軸方向外側で、外輪の軸方向端面と対向する第2キャップ面と、第1及び第2キャップ面を繋ぐキャップ段差面と、によって段付き形状に形成される。そして、シールドキャップの軸方向内側面は、第1キャップ面と一方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、第2キャップ面と外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなり、且つ、キャップ段差面と、外輪の軸方向端面と環状溝との境界位置との最短隙間が、第2キャップ面と外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなるように形成されている。これにより、シールドキャップと軸受の間に生まれる隙間を狭くした位置が増加し、結果として、さらに距離の長いラビリンスを形成することで、軸受内部を通過する空気流量を減らし、アウトパーティクルを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るHDDアクチュエータ用ピボット軸受ユニットを示す断面図である。
【図2】(a)は、図1のII部拡大図であり、(b)は、図1のII´部拡大図である。
【図3】(a)は、HDDの全体構成を概略示す断面図、(b)は、HDDの全体構成を示す平面図、(c)は、ピボット軸受ユニットを示す判断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、従来のHDDアクチュエータ用ピボット軸受ユニットのシールドキャップ部分の拡大図である。
【図5】従来のHDDアクチュエータ用ピボット軸受ユニットのフランジ部分の拡大図である。
【図6】従来の他のハードディスクドライブ用ピボットアッセンブリを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニットの一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態のピボット軸受ユニットが適用されるHDDの概略構成は、図3(a)〜(c)で示した構成のものと同様であるため、ここでは、ピボット軸受ユニットについてのみ説明する。
【0022】
図1〜図2(b)に示すように、ピボット軸受ユニット10は、軸方向一端部にフランジ部12aを有する軸部材12と、軸部材12と同心に配置されるハウジングとしてのスリーブ(図3参照。)18と、軸部材12とスリーブ18との間で、並列に配置される一対の軸受14,16と、を有する。
【0023】
一対の軸受14,16は、内輪14a、16aと、外輪14b、16bと、該内輪14a、16a及び外輪14b、16b間に配置される複数の玉(転動体)14c、16cと、該複数の玉14c、16cをそれぞれ保持する保持器14d、16dと、該外輪14b、16bの軸方向両端部に配置される密封部材としての非接触型のシールド部材14e、16eと、をそれぞれ備える。また、転がり軸受14、16の外輪14b、16b間には、環状の間座20が介在している。
【0024】
図2(a)及び(b)に示すように、シールド部材14e,16eは、該外輪14b、16bの軸方向両端部に形成された環状溝14b1,16b1に取り付けられる取付け部14e1,16e1と、この取付け部14e1,16e1よりも軸方向外側、且つ径方向内側で、軸部材12の中心軸xに対して略垂直方向に延びるリング部14e2,16e2と、環状溝14b1,16b1の軸方向外向き側面14b2,16b2に当接する取付け部14e1,16e1の底部14e3,16e3とリング部14e2,16e2との間を繋ぐ傾斜部14e4,16e4と、を備える。なお、取付け部14e1,16e1は、本実施形態の形状の他、加締めによるカール形状や、スナップリングによって固定される形状であってもよい。また、リング部14e2,16e2は、本実施形態では、軸部材12の中心軸xに対して略垂直方向に延びる平板形状に形成されているが、内輪14a、16aに向かって延びる形状であれば湾曲していてもよい。
【0025】
軸部材12の軸方向他端側には、軸方向内側面22aが一方の軸受14の外輪14bの軸方向端面と対向するように半径方向に延出するシールドキャップ22が取り付けられている。
【0026】
このシールドキャップ22の軸方向内側面22aは、一方の軸受14のシールド部材14eのリング部14e2と対向し、軸部材12の中心軸xに対して略垂直方向に延びる第1キャップ面22a1と、第1キャップ面22a1よりも半径方向外側、且つ、軸方向外側で、外輪14bの軸方向端面と対向し、略垂直方向に延びる第2キャップ面22a2と、第1及び第2キャップ面22a1,22a2を繋ぐ、断面直線状の傾斜面であるキャップ段差面22a3と、によって段付き形状に形成される。なお、第1及び第2キャップ面22a1,22a2は、本実施形態では、軸部材12の中心軸xに対して略垂直方向に延びる平板形状に形成されているが、径方向外側に向かって延びる形状であれば湾曲していてもよい。
【0027】
また、シールドキャップ22は、軸方向外側面22bも段付き形状に形成されており、具体的には、軸方向内側面22aのキャップ段差面22a3が軸方向外側面22bのキャップ段差面22b1より径方向外側に位置しており、径方向において両者のキャップ段付面22a3,22b1の間の部分が肉厚に形成されている。なお、軸方向外側面22bのキャップ段差面22b1以外の面も、軸部材12の中心軸xに対して略垂直方向に沿った平面状に形成されている。
【0028】
そして、シールドキャップ22の軸方向内側面22aは、一方の軸受14のシールド部材14eとの軸方向隙間a1が、外輪14bとの軸方向隙間a2よりも狭くなるように形成されている。即ち、シールドキャップ22の軸方向内側面22aは、第1キャップ面22a1と一方の軸受14のシールド部材14eのリング部14e2との軸方向最短隙間a1が、第2キャップ面22a2と外輪14bの軸方向端面との軸方向最短隙間a2よりも狭くなるように形成されている。
【0029】
また、第1キャップ面22a1とキャップ段差面22a3との境界位置22a4は、シールド部材14eのリング部14e2の径方向外端部14e5よりも径方向外側に位置し、キャップ段差面22a3と第2キャップ面22a2との境界位置22a5は、外輪14bの軸方向端面と環状溝14b1との境界位置14b3よりも径方向外側に位置する。
【0030】
そして、シールドキャップ22のキャップ段差面22a3と、外輪14bの軸方向端面と環状溝14b1との境界位置14b3との最短隙間a3が、第2キャップ面22a2と外輪14bの軸方向端面との軸方向最短隙間a2よりも狭くなるように形成されている。
【0031】
従って、シールド部材14eと内輪14aとの径方向隙間、及びシールド部材14eのリング部14e2とシールドキャップ22の第1キャップ面22a1との間の軸方向最短隙間a1、キャップ段差面22a3と、外輪14bの軸方向端面と環状溝14b1との境界位置14b3との最短隙間a3によって、距離の長いラビリンスが形成される。これにより、軸受内部を通り抜ける空気の量を減らし、パーティクルの放出が少ないピボット軸受ユニット10が与えられる。
特に、シールド部材14eのリング部14e2とシールドキャップ22の第1キャップ面22a1との間に形成される狭い隙間領域よりも径方向外側に、さらに、キャップ段差面22a3と外輪14bの境界位置14b3との間に形成される狭い隙間領域が設けられるので、シールドキャップ22と軸受14との間の軸方向隙間での空気流動を抑え込むことができる。
【0032】
なお、本実施形態では、第1キャップ面22a1と軸受14のシールド部材14eのリング部14e2との軸方向最短隙間a1は、0.01mm以上0.1mm以下に設定され、第2キャップ面22a2と外輪14bの軸方向端面との軸方向最短隙間a2は、0.04mm以上0.2mm以下に設定され、外輪14bの軸方向端面と環状溝14b1との境界位置14b3と、シールドキャップ22のキャップ段差面22a3との最短隙間a3は、0.01mm以上0.1mm以下に設定されている。
【0033】
また、軸部材12のフランジ部12aの軸方向内側面12bは、他方の軸受16のシールド部材16eのリング部16e2と対向し、軸部材12の中心軸xに対して略垂直方向に延びる第1フランジ面12b1と、第1フランジ面12b1よりも半径方向外側、且つ、軸方向外側で、外輪16bの軸方向端面と対向し、略垂直方向に延びる第2フランジ面12b2と、第1及び第2フランジ面12b1,12b2を繋ぐ、断面直線状の傾斜面であるフランジ段差面12b3と、によって、径方向外側で薄肉となるように段付き形状に形成されている。
【0034】
そして、フランジ部12aの軸方向内側面12bは、他方の軸受16のシールド部材16eとの軸方向隙間b1が、外輪16bとの軸方向隙間b2よりも狭くなるように形成されている。即ち、フランジ部12aの軸方向内側面12bは、第1フランジ面12b1と他方の軸受16のシールド部材16eのリング部16e2との軸方向最短隙間b1が、第2フランジ面12b2と外輪16bの軸方向端面との軸方向最短隙間b2よりも狭くなるように形成されている。
【0035】
また、第1フランジ面12b1とフランジ段差面12b3との境界位置12b4は、シールド部材16eのリング部16e2の径方向外端部16e5よりも径方向外側に位置し、フランジ段差面12b3と第2フランジ面12b2との境界位置12b5は、外輪16bの軸方向端面と環状溝16b1との境界位置16b3よりも径方向外側に位置する。
【0036】
そして、フランジ部12aのフランジ段差面12b3と、外輪16bの軸方向端面と環状溝16b1との境界位置16b3との最短隙間b3は、第2フランジ面12b2と外輪16bの軸方向端面との軸方向最短隙間b2よりも狭くなるように形成されている。
【0037】
従って、シールド部材16eと内輪16aとの径方向隙間、シールド部材16eとフランジ部12aの軸方向内側面12bとの間の軸方向最短隙間b1、及び、フランジ段差面12b3と、外輪16bの軸方向端面と環状溝16b1との境界位置16b3との最短隙間b3によって、距離の長いラビリンスが形成される。これにより、軸方向一端側においても、軸受内部を通り抜ける空気の量を減らし、パーティクルの放出が少ないピボット軸受ユニット10が与えられる。
特に、シールド部材16eのリング部16e2とフランジ部12aの第1フランジ面12b1との間に形成される狭い隙間領域よりも径方向外側に、さらに、フランジ段差面12b3と外輪16bの境界位置16b3との間に形成される狭い隙間領域が設けられるので、フランジ部12aと軸受16との間の軸方向隙間での空気流動を抑え込むことができる。
【0038】
なお、本実施形態では、第1フランジ面12b1と軸受16のシールド部材16eのリング部16e2との軸方向最短隙間a1は、0.01mm以上0.1mm以下に設定され、第2フランジ面12b2と外輪16bの軸方向端面との軸方向最短隙間a2は、0.04mm以上0.2mm以下に設定され、外輪16bの軸方向端面と環状溝16b1との境界位置16b3と、フランジ部12aのフランジ段差面12b3との最短隙間b3は、0.01mm以上0.1mm以下に設定されている。
【0039】
ここで、本実施形態のシールドキャップ22を備えたピボット軸受ユニットと、従来の図4(a)に示した従来のシールドキャップ22を備えたピボット軸受ユニットを用いて、パーティクルの放出量について試験を行った。この試験では、ピボット軸受ユニットのフランジ部12aは、比較のため、いずれも従来の図5に示す段付き形状のものとしている。なお、使用される軸受の大きさは、外径8mm、内径5mm、幅2.5mm、シールドキャップ20の軸方向内側面20aと密封部材14eとの間の軸方向最短隙間a1を本実施形態では0.09mm、従来では0.27mmとする。
【0040】
この結果、従来のシールドキャップ22を用いた場合には、パーティクル量が0.448μm/minであったのに対し、本実施形態のシールドキャップ20を用いた場合には、パーティクル量は0.049μm/minであり、本実施形態のシールドキャップ22を用いることでパーティクルの放出量が抑えられることが確認できた。
【0041】
次に、本実施形態のシールドキャップ22とフランジ部12aを備えたピボット軸受ユニットと、本実施形態のシールドキャップ22と図5に示した従来のフランジ部12aとを用いて、パーティクルの放出量について試験を行った。この結果、本実施形態のフランジ部12aを用いた場合には、パーティクル量は0.007μm/minとなり、本実施形態のフランジ部12aを用いることでパーティクルの放出量がさらに抑えられることが確認できた。
【0042】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0043】
例えば、軸受14、16は、図示構成には特に限定されず、HDDの使用目的や使用条件などに応じて任意の構成とすることが可能である。また、軸部材12は、軸心部が延出方向に沿って貫通した中空構造としているが、中実構造とすることも可能である。
【0044】
また、本実施形態のシールドキャップ22は、径方向において肉厚の異なる寸法を有する部材によって構成されており、加工精度の高い切削加工によって形成されている。しかしながら、シールドキャップ22は、本発明の軸方向最短隙間a1,a2,a3の関係を満たすように平板状の部材をプレス加工によって折り曲げることで構成されてもよく、その場合、低コストで製造することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 ピボット軸受ユニット
14、16 軸受
14a、16a 内輪
14b、16b 外輪
14c、16c 玉(転動体)
14d、16d 保持器
14e、16e 非接触型シールド部材(密封部材)
18 スリーブ(ハウジング)
22 シールドキャップ
22a 軸方向内側面
22a1 第1キャップ面
22a2 第2キャップ面
22a3 キャップ段差面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端部にフランジ部を有する軸部材と、
内輪と、外輪と、該内輪及び外輪間に配置される複数の転動体と、該複数の転動体をそれぞれ保持する保持器と、該外輪の軸方向端部に配置される密封部材と、をそれぞれ備え、前記軸部材の周囲に並列に配置される一対の軸受と、
前記軸部材の軸方向他端側に取り付けられ、軸方向内側面が前記一方の軸受の外輪の軸方向端面と対向するように半径方向に延出するシールドキャップと、
を有するハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニットであって、
前記シールドキャップの軸方向内側面は、前記一方の軸受の密封部材との軸方向隙間が、前記外輪との軸方向隙間よりも狭くなるように段付き形状に形成されていることを特徴とするハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項2】
前記密封部材は、該外輪の軸方向端部に形成された環状溝に取り付けられ、前記内輪に向かって延びるリング部を有するシールド部材であり、
前記シールドキャップの軸方向内側面は、前記一方の軸受のシールド部材のリング部と対向する第1キャップ面と、該第1キャップ面よりも半径方向外側、且つ、軸方向外側で、前記外輪の軸方向端面と対向する第2キャップ面と、該第1及び第2キャップ面を繋ぐキャップ段差面と、によって前記の段付き形状に形成され、
前記シールドキャップの軸方向内側面は、前記第1キャップ面と前記一方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、前記第2キャップ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなり、且つ、前記キャップ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間が、前記第2キャップ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項3】
前記第1キャップ面と前記一方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、0.1mm以下に設定され、前記第2キャップ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間が0.2mm以下に設定されていることを特徴とする請求項2に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項4】
前記キャップ段差面は、断面直線状の傾斜面であることを特徴とする請求項2または3に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項5】
前記シールドキャップのキャップ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間が0.1mm以下に設定されていることを特徴とする請求項4に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項6】
前記フランジ部の軸方向内側面は、前記他方の軸受の密封部材との軸方向隙間が、前記外輪との軸方向隙間よりも狭くなるように段付き形状に形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項7】
前記密封部材は、該外輪の軸方向端部に形成された環状溝に取り付けられ、前記内輪に向かって延びるリング部を有するシールド部材であり、
前記フランジ部の軸方向内側面は、前記他方の軸受のシールド部材のリング部と対向する第1フランジ面と、該第1フランジ面よりも半径方向外側、且つ、軸方向外側で、前記外輪の軸方向端面と対向する第2フランジ面と、該第1及び第2フランジ面を繋ぐフランジ段差面と、によって前記の段付き形状に形成され、
前記フランジ部の軸方向内側面は、前記第1フランジ面と前記他方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、前記第2フランジ面と前記外輪との軸方向最短隙間よりも狭くなり、且つ、前記フランジ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間は、前記第2フランジ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間よりも狭くなるように形成されていることを特徴とする請求項6に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項8】
前記第1フランジ面と前記他方の軸受のシールド部材のリング部との軸方向最短隙間が、0.1mm以下に設定され、前記第2フランジ面と前記外輪の軸方向端面との軸方向最短隙間が0.2mm以下に設定されていることを特徴とする請求項7に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項9】
前記フランジ段差面は、断面直線状の傾斜面であることを特徴とする請求項7または8に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項10】
前記フランジ部のフランジ段差面と、前記外輪の軸方向端面と前記環状溝との境界位置との最短隙間が0.1mm以下に設定されていることを特徴とする請求項9に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。
【請求項11】
前記一対の軸受の前記外輪に外嵌するハウジングを、さらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のハードディスクアクチュエータ用ピボット軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−48005(P2013−48005A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−156780(P2012−156780)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】