説明

バイオセンサおよびバイオセンサ装置

【課題】複数の検査項目を正確に検知、検量することが可能であり、さらに検体液や試薬の使用量を削減できる。
【解決手段】圧電基板11上に、表面波伝播領域33とこの表面波伝播領域を挟んで対向して配置され表面波を発生し送受する一対の櫛歯状電極31,32とからなる弾性表面波センサ30と、前記圧電基板上に、第1光導波路41とこの第1光導波路を挟んで設けられる一対の光入出力部42,43と光導波領域上に積層され第1光導波路よりも高屈折率の第2光導波路44と第2光導波路上に設けられる固定化層45とからなる光導波路型センサ40と、を並列して設ける。弾性表面波センサの表面波伝播領域33と光導波路型センサの固定化層45を同一外囲50内に配置するウエル51を形成して、ウエル内に液状検体を供給した場合に、検査すべき複数項目を同時的に検査可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生化学的な液体物質を検知または検量するバイオセンサおよびバイオセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学的検査をする場合、血液などの一検体に対して同時に多数の検査項目を設定することが常態化しており、検査のために多量の検体量が要求される。さらに微量な目的物の検出のために検知感度上、検体量を増やすことが要求される。このような複数項目の検査は検体を同一成分とみなして各センサに振り分けて分析するのであるが、振り分けた検体が同一成分かどうかの同定は検査項目の許容誤差に依存する。
【0003】
遺伝子やグルコースなどの極微量の分子を検量する場合、その基準として検体液の濃度や密度を測定することを必要とし、正確な濃度、密度または粘度を測定した上で、目的物の検量をすることが望ましい。
【0004】
従来、このような生化学的検査のバイオセンサとして光導波路型センサを利用することが提案されている(特許文献1)。また、弾性表面波素子を有機液体の密度測定に利用する提案がなされている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−156432号公報
【特許文献2】特開平10−211705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、複数検査項目を要する検体液は各センサに振り分けられて検知、検量されるが、検体液量を振り分ける分だけ確保しなくてはならないこと、また振り分け前に攪拌などにより検体液を均一化してもある程度の成分ばらつきを考慮する必要があることから、厳密な検知、検量が難しいという難点がある。
【0006】
本発明は検体液の2以上の検査項目を実質的に同一の位置にある検体液から得ることができ、しかも検体液量を最小限にとどめることが可能なバイオセンサおよびバイオセンサ装置を得ることを目的にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられた表面波伝播領域と,この表面波伝播領域を挟んで対向して配置され表面波を発生し送受する一対の櫛歯状電極とからなる弾性表面波センサと、
前記圧電基板上に設けられ光が伝播する第1光導波路と,この第1光導波路に間隔をあけて設けられる光入出力部と,前記第1光導波路上に積層され前記第1光導波路よりも高屈折率の第2光導波路と,前記第2光導波路上に設けられる固定化層とからなり前記弾性表面波センサに隣接して設けられる光導波路型センサと、
前記弾性表面波センサの前記表面波伝播領域と前記光導波路型センサの前記固定化層を同一の外囲内に配置して形成されるウエルとを具備して、
前記ウエル内に液状検体を供給した場合に、検査すべき複数項目を同時的に検査可能にした事を特徴とするバイオセンサを得るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は複数の検査項目を正確に検知、検量することが可能であり、さらに検体液や試薬の使用量を削減でき、微細なウエル寸法にすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。図1は検体液を検査するバイオセンサ装置10を示しており、圧電基板11上にバイオセンサ20がマトリクス状に複数個、マルチセルとして配置されている。
【0010】
(バイオセンサ)
図2に示すように、バイオセンサ20は弾性表面波センサ30と光導波路型センサ40とを隣接して配置して一組とし、各センサ30,40の検体液に接する表面波伝播領域33と抗体固定化層45を共通に囲む外囲50を設けてこれらの領域を底面とする検査液溜りをつくるウエル51を形成している。
【0011】
(弾性表面波センサ)
図2および図3に示すように、表面波センサ30は圧電基板11の表面に、一対の入出力電極31,32を形成している。入出力電極31、32は離れて対峙し、これらの電極間に表面波伝播領域33を挟んで配置されている。入力電極31、出力電極32ともに複数の電極指を形成した櫛歯状電極を入り組ませた一対の電極で構成されており、入力電極に高周波電界を印加することにより圧電基板にすべり表面波を発生させる。すべり表面波は表面波伝播領域を伝播して出力電極にいたり、出力電極を構成する一対の櫛歯状電極を励起して電圧を発生させる。この圧電基板11に36度回転Y板X伝搬LiTaOを用いると、すべり表面波を容易に発生することができる。すべり表面波以外の弾性表面波を発生させてもよく、他の圧電基板を適用することもできる。
【0012】
上記ウエル51内に検体液を導入、充填すると、測定液の力学量が計測できる。
【0013】
入力電極31に高周波電圧を印加して表面波を発生させ、表面波伝搬領域を伝搬し、出力電極32に伝える。この出力電極で得られる信号を帰還回路を経て入力電極に帰還すると、特定の周波数で発振する。この発振信号を検波し、コンピュータ処理する。
【0014】
検体液の無い状態、またさらに種々の濃度、密度、粘度の検体液のデータをあらかじめ参照データとして記憶させておくことにより、測定すべき検体液の力学量を精密に測定することかできる。
【0015】
(光導波路型センサ)
図2および図4により光導波路センサについて説明する。圧電基板11の表面にこの基板より高屈折率の第1光導波路層41が互いに平行に形成されている。この第1光導波路層41上に間隔をあけてグレーティングでなる光入出力部42,43が設けられる。グレーティングは第1光導波路層41と同じかそれよりも高い屈折率の材料例えばフォトレジストで形成される。
【0016】
光入出力部42,43間に、これらの方向に延長され端部を傾斜面とし第1光導波路層41よりも高い屈折率を有した第2光導波路層44が積層さ、光入出力部42,43すなわち2つのグレーティング間に位置する第1光導波路層41上に形成される。第2光導波路層44は、例えばITOなどの透明な導電性材料から作られる。
【0017】
第2光導波路層44面上の最上層に抗体固定化層45が積層される。ウエル51を形成する絶縁物の外囲50はこの抗体固定化層45両端を含む位置に配置される。固定化層は抗体固定化層、酵素を標識する抗体固定化層、酵素固定化層、核酸プローブ固定化層などの生化学的物質を固定化する層を意味する。本実施形態の抗体固定化層は測定対象の抗原を特異的に認識する抗体を固定化したものである。なお外囲50上には前記抗体固定化層45にそって第2光導波路層44から絶縁して電極膜46が配置される。
【0018】
検体液に血液を適用した場合、ウエル51内において血液中のタンパク分子を例えばデキストリンの抗体固定化膜45に固定化された抗体と反応させる。同時に、電極膜46と第2光導波路層44間に例えば0.2V程度の電圧を印加すると血液中のタンパク分子は前記第2光導電層上に位置する抗体固定化膜45に向けて集まり、抗体固定化膜45に固定化される抗体と血液中の目的タンパク分子との反応がなされる。反応後、抗体と反応されたタンパク分子に対して色素マーカの付いたインターカレータを作用させて発色させる。
【0019】
レーザ素子47からレーザ光をグレーティングに入射し、第1光導波路層41を伝播させる。第1光導波路層41を伝播するレーザ光は、第1光導波路層41より高屈折率の第2光導波路層44との界面で2つのモード(TM、TEモード)に分割され、第1、第2の光導波路層41,44を伝播する。このとき、前記抗体固定化膜5で抗体とタンパク分子が反応していると、発色により吸光度が変化して抗体固定化膜5直下の第2光導波路層44を伝播する光の強度が変化する。このように光が第1、第2の光導波路層41,44の界面で結合、干渉するため、前記第2光導波路層44を伝播する光の強度変化を増幅でき、抗体と血液中のタンパク分子との反応を光出力部43のグレーティングから得られる光を受光部48で検出することで可能になる。
【0020】
このため、血液をウエル51内にわずかに供給するだけで、血液中のタンパク分子を検出することができる。これにより検体液である血液や試薬の使用量を削減できるから、ウエル寸法を微細化すること可能である。検査目的物に応じて例えば2mm×2mm□〜5mm×5mm□、0.2ml程度以下のウエルを形成することができる。外囲は本実施形態では両センサ幅を超えた幅に設定しているが、センサ幅と同等またはそれ以下にすることもできる。
【0021】
上述のように、本実施形態のバイオセンサは弾性表面波センサと光導波路型センサを同一ウエル内に並列させた複合センサであり、同じウエル内の同一検体液を同時的に測定する。したがって例えば血液の検体液をウエルに充填すると、複数項目を一度にかつ精密に測定することが可能である。しかもウエルは極微量の検体液を収容できれば良いので、圧電基板上に多数の複合センサを形成することができて大量検査測定に適している。
【0022】
図5は他の実施形態を示すもので、上記実施形態と圧電基板60の構成が異なるものである。すなわちガラス、石英、セラミクスなどの絶縁性基板61上に酸化亜鉛の透明圧電膜62を形成して、圧電基板60としている。透明圧電膜62は弾性表面波センサの圧電基板として、さらに光導波路型センサの第1光導波路層として用いるものであり、複合センサとしての構造、製造を容易にすることができる。
【0023】
なお、上記実施形態では検体液として血液を例にしたがその他の生化学的検体液に適用することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態の一部平面略図。
【図2】図1の要部の平面略図。
【図3】図2のA−A線に沿って切断して示す拡大断面略図。
【図4】図2のB−B線に沿って切断して示す拡大断面略図。
【図5】本発明の他の実施形態を説明する断面略図。
【符号の説明】
【0025】
10:バイオセンサ装置
11:圧電基板
20:バイオセンサ
30:弾性表面波センサ
31,32:入出力電極
33:表面波伝播領域
40:光導波路型センサ
41:第1光導波路層
42,43:光入出力部
44:第2光導波路層
45:抗体固定化層
50:外囲
51:ウエル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられた表面波伝播領域と,この表面波伝播領域を挟んで対向して配置され表面波を発生し送受する一対の櫛歯状電極とからなる弾性表面波センサと、
前記圧電基板上に設けられ光が伝播する第1光導波路と,この第1光導波路に間隔をあけて設けられる光入出力部と,前記第1光導波路上に積層され前記第1光導波路よりも高屈折率の第2光導波路と,前記第2光導波路上に設けられる固定化層とからなり前記弾性表面波センサに隣接して設けられる光導波路型センサと、
前記弾性表面波センサの前記表面波伝播領域と前記光導波路型センサの前記固定化層を同一の外囲内に配置して形成されるウエルとを具備して、
前記ウエル内に液状検体を供給した場合に、検査すべき複数項目を同時的に検査可能にしたことを特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】
前記圧電基板が絶縁基板上に圧電膜を形成したものである請求項1記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記圧電膜が透明であり前記第1光導波路を形成する請求項2記載のバイオセンサ。
【請求項4】
請求項1に記載のバイオセンサが圧電基板上に複数個、配置されてなるバイオセンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−85905(P2007−85905A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275319(P2005−275319)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000113322)東芝ホクト電子株式会社 (172)
【Fターム(参考)】