説明

バイオマス原料から成るボタンおよびその製造方法

【課題】バイオマス原料を用いたボタンであって、耐熱性に優れ、強度が高く、染色性に優れ、かつ、透明〜半透明性および/または光沢性をも呈し得る高品質のボタンを提供すること。
【解決手段】本発明のボタンは、バイオマス原料から成り、160℃以上の熱変形温度を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限りある石油資源を使用しないものであって、バイオマス原料から成り、生分解され得、かつ耐熱性に優れたボタンに関するものである。本発明は、衣服等に装飾用ないし付属品として取り付けられるボタン、鞄や袋物等に取り付けられる包装用ボタン、電気・機械装置等に取り付けられる工業用のスイッチボタンを含むあらゆるボタンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在製品化されているボタンには、貝、木材、竹、骨、角等の天然素材から成るもの、ナイロン、ABS、ポリカーボネート等の石油由来のプラスチックから成るもの、尿素等の熱硬化性樹脂や生分解性樹脂から成るものがある。しかし、石油由来のものについては、炭酸ガスを排出し、有限資源の枯渇を招く問題があり、天然素材のものについても、例えば貝ボタン等製造後の多量の残さ等、廃棄物処理、クリーニング時の割れの問題がある。
【特許文献1】特開第2002−363432号
【0003】
ところで、地球の温暖化・環境問題に対する対応が各産業分野で緊急に迫られている今日、バイオマスを原料とする樹脂や繊維等が開発および製品化されており(特許文献1等)、例えば、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る樹脂が、耐熱性、耐加水分解性に優れ、ある程度の強度も有するものとして、注目を集めている。しかし、このようなステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る樹脂を用いても、ことボタンに関しては、これまで満足のいく製品を得ることは出来なかった。
【0004】
また、従来のボタンの成形方法によれば、例え、210℃の融点を有するポリ乳酸樹脂であっても、実際上は、樹脂が金型内で溶けてしまって成形出来なかったり、成形した製品が金型内壁に密着してしまい取り出せなかったり、また、何とか金型から取り出せたとしても形状が整っていなかったり、耐熱性や強度が劣ったりと、問題が多く、また、透明〜半透明性および/または光沢性を備えた意匠性に優れたボタンは決して得ることができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、バイオマス原料を用いた生分解および再生使用可能なボタンであって耐熱性に優れたもの、特に、耐熱性のみならず、高強度をも有するもの、また、さらには、透明〜半透明性および/または光沢性をも有する高品質のボタンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明のボタンは、バイオマス原料から成り、160℃以上の熱変形温度を有することを特徴とする。
ここで、本明細書中、「熱変形温度」とは、水平な台の上に載せたボタンに上方からアイロン(1400g)を30秒間押し当てた場合に、ボタンが一部なりとも変形する当該アイロンの温度を意味する。
【0007】
本発明のボタンは、あらゆるバイオマス原料から成ってよく、バイオマス原料としては、セルロース、デンプン、キチン等の多糖類を含むものが好ましい。かかる多糖類を含むものとしては、木、草、稲藁等の草本や、穀類、イモ類、サトウキビ、ビート等を例示することができ、前記バイオマス原料として、このようなバイオマス原料から得られる例えば、エステル化デンプン、酢酸セルロース、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリエチレンサクシネート等を例示でき、特にこの中で、ポリ乳酸が好ましく、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸や、L型乳酸およびD型乳酸のいずれかを主として含むポリ乳酸が、より好ましい。なお、本明細書中、「バイオマス原料から成る」とは、ボタンがバイオマス原料を30重量%以上含んでいることを意味する。本発明のバイオマス原料から成るボタンは、ボタンの全重量に対してバイオマス原料が好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、いっそう好ましくは70重量%以上含まれて成る。
本発明のボタンがステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る場合、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る樹脂を含む成形材料を成形することにより好適に作成できる。
【0008】
前記ステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る樹脂は、ポリ−L−乳酸ユニットとポリ−D−乳酸ユニットが1対となった結晶を主成分として含むものであり、例えば、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合後、キャスト成形ないしは溶融成形を行うことで作成され、ステレオコンプレックスを形成していないポリ乳酸と比較して耐熱性に優れ、硬度が高い特徴を持つ。本発明では、あらゆるステレオコンプレックス型ポリ乳酸を使用できるが、(i)L−乳酸単位を、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは97〜100モル%含有し、かつ、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合単位を、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜3モル%含有するポリ−L−乳酸と、(ii) D−乳酸単位を、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは97〜100モル%含有し、かつ、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合単位を、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜3モル%含有するポリ−D−乳酸と、から成るステレオコンプレックス型ポリ乳酸を好適に使用できる。かかるステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る樹脂としては、前記(i)のポリ−L−乳酸と前記(ii)のポリ−D−乳酸を、重量比(ポリ−L−乳酸/ポリ−D−乳酸)30/70〜70/30の範囲で使用したものが好ましく、40/60〜60/40の範囲で使用したものがより好ましく、重量比45/55〜55/45の範囲で使用したものがいっそう好ましく、また、ステレオコンプレックス結晶化度が90〜100%のものが好ましく、95〜100%のものが好ましく、98〜100%のものがいっそう好ましく、融点が150〜240℃ものが好ましく、170〜240℃のものがより好ましく、190〜240℃のものがいっそう好ましく、また、重量平均分子量が7万〜20万のものが好ましく、8万〜20万のものがより好ましく、10万〜17万のものがいっそう好ましい。例えば、かかるステレオコンプレックス型ポリ乳酸としては、特開2007−191551号に開示されるような耐加水分解性や耐溶剤性等を備えたものや、特開2006−265486号に開示されるような高結晶性で高融点のものを好適に使用できる。
【0009】
なお、前記(i)のポリ−L−乳酸および前記(ii)のポリ−D−乳酸としては、いずれも結晶性を有するものを使用することが好ましく、いずれについても、融点が好ましくは150〜175℃のもの、より好ましくは160〜175℃のもの、いっそう好ましくは165〜175℃のものを使用でき、また、いずれも、重量平均分子量が好ましくは5万〜35万、より好ましくは8万〜30万、いっそう好ましくは10万〜25万のものを使用できる。また、前記共重合成分は、例えば、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位であってよい。
【0010】
ステレオコンプレックス結晶化度が90%以上のステレオコンプレックス型ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を十分混合することにより作成できる。混合状態が不十分では、ステレオコンプレックス結晶化度を90%以上にすることができない。このようなポリ乳酸の製造方法としては、溶媒にポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を溶解させてよく混合した後に溶媒を除去する方法あるいは溶媒中から析出させる方法、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を溶融してよく混練する方法がある。溶融混練する場合には、よく混ぜ合わせるために、混練時に大きなシェアを加える方法、リン酸エステル金属塩を添加する方法、ケイ酸カルシウムのような三斜晶系化合物を添加する方法を用いることができる。
【0011】
なお、前記ステレオコンプレックス型ポリ乳酸の作成においては、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、重合時に使用された重合触媒を溶媒で洗浄除去しておくか、適宜、リン系化合物、イミノ基を有する化合物等の触媒失活剤を用いて触媒を不活性化しておくことが好ましく、また、カオリナイト、モンモリロナイト、合成雲母、硫化カルシウム、窒化ホウ素、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩等の無機系核剤や、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、蓚酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジべンゾエート、カリウムジべンゾエート、リチウムジべンゾエート、ナトリウム−β−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレート等の有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸案トリウム等の有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)等のカルボン酸アミド、べンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスホネート等のリン化合物金属塩および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム等の有機系核剤等の結晶核剤や、シリカ、雲母、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、ワラスナイト、ケイ酸カルシウム繊維、炭素繊維、マグネシウムオキシサルフェート繊維、チタン酸カリウム繊維、酸化チタン、亜硫酸カルシウム、ホワイトカーボン、クレイ、モンモリロナイト、硫酸カリウム等のフィラーを適宜使用してよい。
【0012】
本発明のボタンは、前記ステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る結晶性材料を含む成形材料を、射出成形、押出成形および圧縮成形から成る群から選択される成形方法により成形でき、特に、前記成形材料を、好ましくは10〜150℃、より好ましくは10〜70℃、いっそう好ましくは20〜40℃の金型温度で成形することにより、特に射出成形を用いる場合には、好ましくは180〜250℃、より好ましくは190〜240℃、いっそう好ましくは200〜230℃の射出成形温度で、好ましくは15〜70秒/サイクル、より好ましくは20〜60秒/サイクル、いっそう好ましくは20〜30秒/サイクルの時間条件下で射出成形することにより、金型内で成形材料が熔解してしまう等の問題を伴うことなく、確実に、熱変形温度が160℃以上で、JIS−S−4025の準用による強度が150N以上のボタンを得ることができる。また、前記成形方法により成形後、必要に応じて乾燥条件下に好ましくは80〜130℃、より好ましくは90〜120℃、いっそう好ましくは100〜110℃で、好ましくは15分〜8時間、より好ましくは30分〜2時間、いっそう好ましくは30分〜1時間半、焼成処理を行うことで、ボタンの強度がいっそう向上するだけでなく、透明〜半透明のボタンや光沢性のあるボタンを得ることができる。なお、本発明のボタンは、JIS−S−4025の準用による強度が少なくとも150Nであれば、クリーニング時の衝撃やアイロンによる押圧に耐え得、実用的に問題ないが、より高い耐久性を保証するためには、JIS−S−4025の準用により、230N以上の強度を有することが好ましく、前記強度が230N以上1000以下の本発明のボタンは、優れた耐久性を備え、当該強度が230N以上500N以下の本発明のボタンは、実用上十分な耐久性を備える。
【0013】
前記本発明の方法によれば、例えば、前記成形材料全体に対して前記ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を70〜100重量%の割合で使用して、優れた耐熱性と強度を有するボタンを得ることができるが、前記成形材料中に、L型乳酸またはD型乳酸の含有量が90%以上のポリ乳酸(以下、「ホモ型ポリ乳酸」と称する。)から成る樹脂を含めても、耐熱性および高硬度を備え、かつ、透明〜半透明性および/または光沢性を有する本発明のボタンを得ることができる。かかるホモ型ポリ乳酸としては、主としてL−乳酸ないしD−乳酸から成るポリ乳酸樹脂として市販されているあらゆるものを使用できるが、L−乳酸またはD−乳酸の含有量が、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%、いっそう好ましくは97〜100%のもの、結晶融点が、好ましくは140〜180℃、より好ましくは150〜180℃、いっそう好ましくは160〜180℃のもの、重量平均分子量が、好ましくは8万〜30万、より好ましくは8万〜25万、いっそう好ましくは8万〜20万のものを好適に使用できる。
【0014】
なお、かかるホモ型ポリ乳酸は、公知の重合方法を用いて、ラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法等により、適宜、2価または4価のスズ化合物、金属すず、亜鉛化合物、アルミニウム化合物等の触媒等を用いて作成できる。
【0015】
一般に、ホモ型ポリ乳酸はステレオコンプレックス型ポリ乳酸に比して剛性が劣るが、前記本発明の方法によれば、驚くべきことに前記ホモ型ポリ乳酸を含有させることで、得られるボタンに撓性が得られ、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸との相乗効果により、むしろボタンの強度が向上し、かかるボタンは、貝ボタンやポリエステルボタンのように割れることがない。かかるホモ型ポリ乳酸は、前記成形材料全体に対して30重量%以下、好ましくは3〜30重量%の割合で使用してよく、特に、前記成形材料全体に対して前記ホモ型ポリ乳酸を5〜20重量%の割合で使用して、高強度のボタンを得ることができる。ホモ型ポリ乳酸は比較的安価であるので、コスト削減に資するメリットもある。
【0016】
なお、本発明の方法は、ボタンの成形に限らず、装飾品や包装品等の部材、例えばベルトやリュックサック等のバックルや、携帯ストラップやアクセサリの止具等をバイオマス原料から成る成形材料から作成する場合にも使用でき、金型内での成形材料の溶解等の問題を伴わずに、耐熱性や高強度を有するもの、また、透明〜半透明および/または光沢性のものを得ることができる。
【0017】
なお、前記成形材料に、さらに、酸化チタン白、酸化鉄赤、酸化鉄黄、酸化鉄茶、ウルトラマリン青、フタロシアニン青、カーボン黒等の分散染料や、雲母、酸化アルミニウム、シリカ、硝子、塩基性炭酸鉛、パールエッセンス、オキシ塩化ビスマス、竹粉末等の添加物を含め、これを成形することで、得られるボタンの色彩や光沢度等の品質を調節できる。例えば、雲母は、前記成形材料全体に対して、好ましくは0.03〜2重量%の割合で、より好ましくは0.05〜1.5重量%の割合で、いっそう好ましくは0.1〜1.0重量%の割合で使用でき、酸化チタンは、前記成形材料全体に対して、好ましくは0.03〜2.0重量%の割合で、より好ましくは0.05〜1.5重量%の割合で、いっそう好ましくは0.1〜1.0重量%の割合で使用でき、本発明の方法によれば、かかる少量の雲母や酸化チタンを使用して、透明〜半透明性および/または光沢性の、例えばパール調、象牙調、絹調、貝調等のボタンを得ることができる。特に、分散染料は、成形材料を成形後、塗布、噴霧、後染め染色処理等により、成形後のボタンに適用してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のボタンは、バイオマス原料から成り、環境へ悪影響を及ぼさず、従来の生分解性樹脂を使用したボタンと比較して、耐熱性に優れ、高温下に溶融、変形せず、衣料用のボタン、ナップザック等の袋物用ボタン、医療ユニフォーム等の医療器具用ボタン、包装用、電気・機械機器用等に適する。本発明の方法によれば、バイオマス原料から、耐熱性に優れ、強度が高く、強い衝撃にも十分に耐えることができ、透明〜半透明性および/または光沢性を示し、かつ染色性に富み、所望に応じて鮮明・不鮮明に染色できる高品質のボタンを得ることができ、所望により、生分解性を付与することも可能である。本発明の方法によれば、また、成形材料の一部にホモ型ポリ乳酸を使用しても、耐熱性および高強度を備えた透明〜半透明性および/または光沢性の高品質のボタンを作成できる。
【実施例】
【0019】
[製造例1〜3]
下記製造例1〜3により、成形材料としてのステレオコンプレックス型ポリ乳酸を作製した。
[製造例1:L型乳酸ポリマーの製造]
光学純度99.5%のL−ラクチド100重量部を重合容器に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2重量部、触媒としてオクチル酸スズ0.05重量部を加え、190℃で2時間反応させて、重量平均分子量18万のポリマーを得た。このポリマーから余剰のラクチドを除去し、ジエチルホスホノ酢酸エチル0.055重量部を加えてよく混合した。得られたポリマーの重量平均分子量は16.5万であった。
オクチル酸スズやステアリルアルコールの配合量を変更して、同様の方法で、重量平均分子量15万〜20万の同種の乳酸ポリマーを得た。
【0020】
[製造例2:D型乳酸ポリマーの製造]
光学純度99.2%のD−ラクチド100重量部を重合容器に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.2重量部、触媒としてオクチル三スズ0.05重量部を加え、190℃で3時間反応させて、重量平均分子量18万のポリマーを得た。このポリマーから余剰のラクチドを除去し、ジエチルホスホノ酢酸エチル0.055重量部を加えてよく混合した。得られたポリマーの重量平均分子量は16.5万であった。
オクチル酸スズ、ステアリルアルコールの配合量を変更して、同様の方法で、重量平均分子量15万〜20万の同種の乳酸ポリマーを得た。
【0021】
[製造例3:ステレオコンプレックス型ポリ乳酸の製造]
製造例1で得たL型乳酸ポリマーを50重量部と、製造例2で得たD型乳酸ポリマーを50重量部、V型ブレンダー(V−100型、株式会社徳寿工作所)で混合後(室温で回転数25rpmで30分間)、110℃で5時間減圧乾燥した。この混合ポリマー100重量部当たり0.1重量部のリン酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)ナトリウム塩を加えて225℃で混合後、冷却固化してポリマーを得た。このポリマーの重量平均分子量は12万であった。
【0022】
混合ポリマーの混合時の温度条件を、225〜265℃の範囲で変更して、また、例えば、リン酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)ナトリウム塩等の添加物の配合量を変更して、同様の方法で、重量平均分子量8万〜20万の同種のステレオコンプレックス型ポリ乳酸を得た。
なお、ポリマーの重量平均分子量は、GPC(カラム温度40℃、クロロホルム)によりポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0023】
[実施例]
以下の実施例により、本発明のボタンを作成した。各実施例の成形材料の組成は、実施例の記載の最後の表1に示す。
[実施例1]
製造例3で得たステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂のうち、重量平均分子量が8万〜17万で、ステレオコンプレックス型結晶化度が90〜100%のものを使用して、本発明のボタンを作成した。なお、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸の結晶化度は、次の方法で測定した。
【0024】
[ステレオコンプレックス結晶化度の測定法]
TAインスツルメンツ製TA−2920示差走査熱量測定計を用いて、試料100mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで160℃近辺に融解ピークがあるものをホモ結晶、190℃以上に融解ピークがあるものをステレオ結晶として、次式によりステレオ結晶化度S(%)を算出した。
S(%)=[(ΔHMs/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)]
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHms;ステレオコンプレックス結晶の融解エンタルピー、ΔHmh;ホモ結晶の融解エンタルピー)
【0025】
[ボタンの製造]
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸(ペレット状)とブレンドオイル(ブリアン−M−51、アリスケミカル(株);樹脂ペレット重量に対して0.1重量%)をタンブラーに投入し、10分〜15分混合した。得られた混合原料を射出成形機[TS40P5ASE―EO457148−日精樹脂工業(株)]のホッパーに投入し、ホッパー温度205℃、ヒーター温度220℃、ノズル温度220℃の射出成形条件下、金型温度30〜50℃で、1サイクル当たり20〜50秒の条件下で射出成形して成形体を得、この成形体を100〜110℃で乾燥機[PO−120、(株)松井製作所]で30分〜1時間焼成処理して、実施例1のボタンを得た。
【0026】
[実施例2]
実施例1で用いたものと同じステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂と、雲母(粒径;1〜60?m)[Iriodin111、メルク(株)]を用い、タンブラーに雲母を、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸およびブレンドオイルと共に投入した以外は、実施例1と同じ方法で、実施例2のボタンを作成した。
【0027】
[実施例3]
実施例1で用いたものと同じステレオコンプレックス型ポリ乳酸と実施例2で使用したものと同じ雲母と酸化チタン[BR−DAZ−07Z640、大日精化工業(株)]とを用い、タンブラーに雲母と酸化チタンを、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸およびブレンドオイルと共に投入した以外は、実施例1と同じ方法で、実施例3のボタンを作成した。
【0028】
[実施例4]
実施例1のステレオコンプレックス型ポリ乳酸と実施例3で使用したものと同じ酸化チタンを用い、タンブラーに酸化チタンを、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸およびブレンドオイルと共に投入した以外は、実施例1と同じ方法で実施例4のボタンを作成した。
[実施例5]
焼成処理を行わないこと以外は実施例2と同じ方法で、実施例5のボタンを作成した。
[実施例6]
焼成処理を行わないこと以外は実施例3と同じ方法で、実施例6のボタンを作成した。
【0029】
[実施例7〜10]
実施例1で使用したものと同じステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂と、ホモ型ポリ乳酸樹脂(重量平均分子量8万〜12万で結晶融点150〜180℃のもの)を使用して、タンブラーにホモ型ポリ乳酸樹脂をステレオコンプレックス型ポリ乳酸およびブレンドオイルと共に投入した以外は、実施例1と同じ方法で、実施例7〜10のボタンを作成した。
なお、実施例1〜10のいずれのボタンも、金型から難なく取り出すことができ、形状の整った製品として得ることができた。
【0030】
【表1】

【0031】
[比較例]
実施例1で使用したものと同じステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂を成形材料全体に対し100重量%使用して、従来法により、ボタンの作成を試みた。
ステレオコンプレックス型ポリ乳酸(ペレット状)およびブレンドオイル(ブリアン−M−51、アリスケミカル(株);樹脂ペレット重量に対して0.1重量%)をタンブラーに投入し、10分〜15分混合後、得られた混合原料を射出成形機[TS40P5ASE−EO457148、日精樹脂工業(株)]のホッパー(215℃)に投入し、ヒーター温度220℃、ノズル温度220℃および金型温度160℃で、1サイクル当たり20〜50秒の条件下で射出成形して、ボタンの作成を試みたが、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂が一部、金型内で溶けてしまい、形状の整った製品として金型から取り出すことができなかった。
【0032】
[外観評価]
実施例1〜5、7〜9のボタンの外観を、透明性と光沢性に関して評価した。透明度の評価は下記の基準に従った。結果を表2に示す。
[透明度の評価基準]
色付の模様が付された紙面の上にボタンを載せて、ボタンを通して模様が透けて見えるかどうかを目視で確認した。
1.模様が透けて見え、ボタンは透明である。
2.模様の色彩が確認できるが、濁りがあり、ボタンは半透明である。
3.色彩がかろうじて認められる程度で濁りが強いが、透け感もあり、ボタンは半透明である。
4.色彩すら認められず、透け感は全くなく、ボタンは不透明である。
【0033】
【表2】

【0034】
[試験例]
[160℃/30秒アイロン圧着試験]
水平な台の上に載せた実施例1〜9のボタンに、上から160℃のアイロン(1400g)を30秒間押し当てて、ボタンの状態を目視で確認することにより、ボタンの変形および変色の有無を評価した。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
[強度試験]
実施例1〜8のボタンとポリエステル樹脂から成る市販のボタン(従来例)の、ボタン穴の間の部分における強度を、1cm/分の引張速度を、JIS−S−4025を準用して測定した。いずれのボタンも直径が10mmで、厚さが3mmのものであり、中央に2個の穴を有する。
ボタンの穴に針金を通して引掛け、当該針金の両端を揃えて固定手段に固定した状態で、ボタンを当該固定手段から遠ざかる方向に1cm/分で引張って、ボタンが破壊した時の引き強度を記録した。結果を下記の基準に従い表4に示す。
【0037】
[強度の評価基準]
◎ 300N以上500N以下
○ 150N以上300N未満
△ 100N以上150N未満
× 100N未満
【0038】
【表4】

【0039】
[染色性試験]
実施例1、4、5、7〜9のボタンを、染料(P−1イエロー、P−3レッド、P−6ネイビーブルー、P−9ブラック、アイリス製)を、各々ボタン重量に対して0.5〜10重量%の割合で用いて染色した。染色されたボタンはいずれも、染色堅ろう度試験(JIS−L−0860およびJIS−L−0861)により、優れた評価(評価値5)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
160℃以上の熱変形温度を有する、バイオマス原料から成るボタン。
【請求項2】
ポリ乳酸から成る樹脂を含む成形材料を成形して成り、JIS−S−4025の準用により230N以上の強度を有することを特徴とする請求項1に記載のバイオマス原料から成るボタン。
【請求項3】
前記成形材料が、当該成形材料に対して70〜100重量%の、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る樹脂と、0〜30重量%の、L型乳酸またはD型乳酸の含有量が90%以上のポリ乳酸から成る樹脂とを含むことを特徴とする請求項2に記載のバイオマス原料から成るボタン。
【請求項4】
前記成形材料が、酸化チタン白、酸化鉄赤、酸化鉄黄、酸化鉄茶、ウルトラマリン青、フタロシアニン青、カーボン黒、タートラジンイエロー、酸化亜鉛、雲母、酸化アルミニウム、シリカ、硝子、塩基性炭酸鉛、パールエッセンス、オキシ塩化ビスマス、竹粉末、ココナッツ粉末から成る群から選択される添加物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオマス原料から成るボタン。
【請求項5】
透明〜半透明のものであること、および/または光沢性を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオマス原料から成るボタン。
【請求項6】
バイオマス原料を含む成形材料を、射出成形、押出成形および圧縮成形からなる群から選択される成形方法により、10〜150℃の金型温度で成形することから成る、160℃以上の熱変形温度を有するボタンの製造方法。
【請求項7】
前記成形材料を前記成形方法により成形した後、80〜130℃で15分〜8時間焼成処理を行うことから成る、請求項6に記載のボタンの製造方法。
【請求項8】
前記成形材料が、ポリ乳酸から成る樹脂を含むものであることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のボタンの製造方法。
【請求項9】
前記成形材料が、当該成形材料に対して70〜100重量%の、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸から成る樹脂と、0〜30重量%の、L型乳酸またはD型乳酸の含有量が90%以上のポリ乳酸から成る樹脂とを含むことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のボタンの製造方法。

【公開番号】特開2009−142589(P2009−142589A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325525(P2007−325525)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(593068878)永井合成樹脂工業株式会社 (1)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】