説明

パイプ内周面への成膜方法、この成膜方法により製造したパイプ

【課題】パイプ内周面への成膜方法を提供する。
【解決手段】本成膜方法は、真空チャンバ12の内部に成膜対象であるパイプ20を配置し、パイプ20の内部にワイヤ状のターゲット22を配置し、真空チャンバ12内に炭化水素と水素とを含む反応ガスを導入し、ターゲット22に直流負電位を印加して当該パイプ20とターゲット22との間にプラズマ26を発生させてパイプの内周面に炭素膜28を成膜する。この炭素膜28は耐腐食性膜、その他の目的で成膜された膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプの内周面(内表面)に耐腐食性膜、耐酸性膜、耐アルカリ性膜、耐熱性膜、強化膜等の各種の膜を成膜する方法および該成膜方法によりその内周面に成膜したパイプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属パイプは、各種配管等に利用される。金属パイプの例えば腐食を防止するためにその外周面に耐腐食性膜を形成している(特許文献1)。また、パイプの内周面に犠牲腐食層を設けたものもある(特許文献2)。また、パイプの内壁面を円錐状のターゲットを移動させながらイオンビームでスパッタリングして、パイプ内周面に窒化チタン等をコーティングする技術も開発されている。しかしながら、より細径でより長尺のパイプの内周面に耐腐食性膜を一度に確実に形成することを可能にした技術は出願人が調査した範囲では見あたらなかった。例えば、上記の円錐状のターゲットでは小型化に限界があり、小径パイプの内周面に耐腐食性膜を形成することは容易ではない。例えば、長尺化すると、円錐状のターゲットの移動距離も長くなり、パイプ内周面全体に耐腐食性膜を形成することは実質的には実現不可能である。
【0003】
しかしながら、例えば、注射針や耳鼻科用ノズル等の医療用パイプ、工業用パイプ、その他の特殊用途のパイプ等では細径で比較的長尺かつその内周面が腐食環境に晒され易い一方、高信頼性、低価格、工業量産可能な内周面が耐腐食性の高いパイプを製造できる技術の実現が要求されている。
【0004】
もちろん、パイプ内周面には耐腐食性膜だけではなく、耐酸性膜、耐アルカリ性膜、耐熱性膜、強化膜等の各種の目的で成膜される膜もある。いずれの目的で成膜する場合でも、パイプが小径で長尺化するとその内周面に緻密均一に所要の膜厚で成膜することは困難である。
【特許文献1】特開2000−297995号
【特許文献2】特開2002−130970号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、パイプ内周面に緻密、高性能、長寿命の耐腐食性、耐酸性膜、耐アルカリ性膜、耐熱性膜、強化膜等の各種の目的で低価格、工業量産可能に成膜できる画期的な成膜方法を提供するものであり、その成膜方法を用いて内周面に成膜されたパイプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明第1による成膜方法は、真空チャンバの内部に成膜対象であるパイプを配置し、パイプの内部にワイヤ状のターゲットを挿入し、真空チャンバ内にキャリアガスと原料ガスとを導入し、ターゲットに直流負電位を印加してパイプとターゲットとの間にプラズマを発生させてパイプの内周面に成膜することを特徴とするものである。
【0007】
本発明第1による成膜方法では、成膜対象のパイプの内径が小さくかつ長尺であっても、キャリアガスと原料ガスとの雰囲気下で成膜対象パイプの内部に細径のワイヤ状のターゲットを挿入し、このターゲットに直流負電位を印加するだけでターゲットを移動することなくパイプ内周面全体に一度に原料ガスに対応した膜を成膜することができる。
【0008】
本発明第1による成膜方法では成膜対象のパイプが長尺化してもそれに応じてターゲットを長尺化することにより容易にそのパイプ内周面に原料ガスに対応した膜を成膜することができる。
【0009】
以上のように本発明第1では長尺小径のパイプの内周面にワイヤを挿入するだけで一度に緻密、高性能、長寿命の膜を成膜することができるので低価格で工業的量産が可能な成膜方法を提供することができる上に、特に、その膜が上記のように緻密、高性能、長寿命であるから、その用途は幅広く、産業社会に大きく貢献することができる画期的な成膜方法である。
【0010】
本発明第1において、パイプは、筒状体であればよく、名称を問わず、管、チューブを含むものである。パイプは可撓性を有するもの、可撓性を有しないものを含む。パイプは水道管、ガスパイプや排水設備等における工業用パイプ、一般家庭用パイプ、穿刺針や血液用パイプ、点滴用パイプ等の医療用、等、あらゆる用途のパイプを含むことができる。パイプを通過する物体は液体、気体を問わない。パイプは金属製、樹脂製を問わない。パイプはその長さ方向にパイプ径が変化するものを含む。ターゲットであるワイヤはそのパイプの形状に応じてそのワイヤ径を設定することができる。
【0011】
上記キャリアガスは、水素ガスであることが好ましい。
【0012】
上記原料ガスは、炭素系ガスであることが好ましい。
【0013】
炭素系ガスは炭素を含むガスであれば何でもよいが、例えばメタンガス(CH4)、アセチレンガス(C22)、プロパンガス(C38)、エタン(C26)、エチレン(C24)等がある。
【0014】
原料ガスを炭素系ガスとすると、膜は炭素膜で構成される。この炭素膜は、少なくとも炭素を含む膜を意味する。炭素膜は、パイプ内周面に対する高い耐腐食性を提供することができるだけではなく、軽量なためパイプ重量を高めることなく、パイプ強度の大幅な強化にも効果があって好ましい。また、炭素膜は耐腐食性、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性に優れている。また、パイプ強度を強化することができる。例えば、パイプ内に高熱の液体や気体が通過する用途に用いてもパイプの熱変形を生じにくくし、パイプ径が小さくても熱変形によるパイプ詰まりが発生しないので好ましい。
【0015】
本発明第2の成膜方法は、真空チャンバの内部に成膜対象であるパイプを配置し、このパイプの内部に固体炭素からなるワイヤ状のターゲットを配置し、真空チャンバ内にキャリアガスを導入し、ターゲットに直流負電位を印加してターゲットとパイプとの間にプラズマを発生させてそのパイプ内周面に炭素膜を成膜することを特徴とするものである。
【0016】
本発明第2の成膜方法では、ターゲットが固体炭素で構成されているので、真空チャンバに導入する反応ガスはキャリアガス例えば水素ガスのみでよく炭素系ガスを導入する必要がなくなるので、成膜対象となるパイプ内周面への炭素膜を高精度に成膜制御することが可能となる。
【0017】
パイプ内周面に成膜された炭素膜は、酸やアルカリ等に対する耐腐食性が高い。また、耐熱性にも優れており、さらには耐摩耗性にも優れているので、その用途は極めて広い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、パイプ内周面に緻密、高性能、長寿命の膜を低価格、工業量産可能に成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るパイプ内周面への耐腐食性膜の成膜方法を説明する。図1はこの成膜方法の実施に用いるプラズマ処理装置の構成を模式的に示す図である。上記プラズマ処理装置10は、導電性または絶縁性の真空チャンバ12を備える。真空チャンバ12にはガス導入口14とガス排出口16とが設けられている。キャリアガスは水素ガス、原料ガスは炭素系ガスの一つであるメタンガスである。真空チャンバの内圧は10Paから10000Paの範囲である。
【0020】
真空チャンバ12の内部には成膜対象のパイプ20が配置される。このパイプ20は金属製である。パイプ20の内部に、ワイヤ状のターゲット22が挿入される。このターゲット22はパイプ20の内周面に沿って細長に延びた構造になっている。ターゲット22は電圧可変型の直流電源24の負極に接続されて直流負電位が印加され、パイプ20は直流電源24の正極に接続されて直流正電位が印加されている。
【0021】
以上の構成を備えたプラズマ処理装置10において、真空チャンバ12の内圧を上記圧力範囲で減圧しかつガス導入口14から図示略のガス供給ボンベからキャリアガスとしての水素ガスと原料ガスとしてのメタンガスとが導入され、直流電源24がパイプ20とターゲット22との間に印加される。これにより、パイプ20内部にプラズマ26が発生し、メタンガスがプラズマ分解され、パイプ20内周面に炭素膜28が化学蒸着(直流プラズマCVD)により薄膜に成膜される。直流電源24の電圧は300ないし1000Vである。この炭素膜は耐腐食性膜を構成することができる。炭素膜は、耐酸性膜、耐アルカリ性膜、耐熱性膜、等を構成することができる。原料ガスはアセチレン等の他の炭素系ガスでもよい。炭素膜はグラファイト、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール等がある。
【0022】
本発明の成膜方法においては、他の実施の形態として、真空チャンバ12には水素ガスのみを導入し、ワイヤ状のターゲット22を固体炭素により構成することにより、真空チャンバ12の内部に水素ガスのみを導入しかつターゲット22に直流負電位を印加してもパイプ20内周面に炭素からなる耐腐食性膜を成膜することができる。この製造方法では、メタンガス等の炭素系ガスを真空チャンバ12に導入する必要が無いから、ターゲット22の表面に対する炭素膜の成膜制御が容易となる。
【0023】
ターゲット22は例えば鉄などの金属を主成分とする導電性のワイヤの表面に、カーボンナノファイバー等の炭素繊維を被膜形成して構成することができる。固体炭素は、例えば、100%の二酸化炭素を固体炭素と水に変換する二酸化炭素固定化システムから得ることができるものであり、環境負荷が小さくて好ましい。
【0024】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、種々な変更ないしは変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る成膜方法の実施に用いるプラズマ処理装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
10 プラズマ処理装置
12 真空チャンバ
14 ガス導入口
16 ガス排出口
20 成膜対象のパイプ
22 ワイヤ状のターゲット
24 直流電源
26 プラズマ
28 炭素膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプの内周面に成膜する成膜方法において、
真空チャンバの内部に成膜対象であるパイプを配置し、
パイプの内部にワイヤ状のターゲットを挿入し、
真空チャンバ内にキャリアガスと成膜用の原料ガスとを導入し、
ターゲットに直流負電位を印加してパイプとターゲットとの間にプラズマを発生させてパイプの内周面に成膜する、ことを特徴とするパイプ内周面への成膜方法。
【請求項2】
上記キャリアガスが水素ガスである、ことを特徴とする請求項1に記載のパイプ内周面への耐腐食性膜の成膜方法。
【請求項3】
上記原料ガスが、炭素系ガスである、ことを特徴とする請求項1または2に記載のパイプ内周面への成膜方法。
【請求項4】
パイプの内周面に成膜する成膜方法において、
真空チャンバの内部に成膜対象であるパイプを配置し、
パイプの内部に固体炭素からなるワイヤ状のターゲットを挿入し、
真空チャンバ内に水素ガスを導入し、
ターゲットに直流負電位を印加してパイプとターゲットとの間にプラズマを発生させてパイプ内周面に炭素膜を成膜する、ことを特徴とするパイプ内周面への成膜方法。
【請求項5】
内周面に請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成膜方法により成膜されている、ことを特徴とするパイプ。
【請求項6】
上記成膜が炭素からなる耐腐食性膜である、ことを特徴とする請求項5に記載のパイプ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39731(P2007−39731A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224358(P2005−224358)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(504224371)ダイヤライトジャパン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】