説明

パラレルリンク機構および駆動ステージ

【課題】パラレルリンク機構のテーブルの位置精度を向上する。
【解決手段】パラレルリンク機構1は、ベース2と、ベース2に対して6自由度を有し、ベース2と対向して配置されるテーブル3と、一端がベース2に取り付けられ、他端がテーブル3に取り付けられる伸縮可能なロッド4を有する複数の連結部10と、テーブル3の位置の算出に用いる複数のセンサ部14とを備えている。センサ部14は、一端がベース2に取り付けられ、他端がテーブル3に取り付けられるワイヤ12と、ワイヤ12の長さを計測するセンサ13とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレルリンク機構およびこれを備えた駆動ステージに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
6つのロッドがジョイントで接続されたリンク機構において、ジョイントで連結された閉リンクであるものは、6軸パラレルリンク機構と呼ばれている。特許第4519941号公報(特許文献1)には、6軸パラレルリンク機構に関する技術が記載されている。
【0003】
また、特開平10−180674号公報(特許文献2)には、6軸パラレルリンク機構のフィードバック制御に関する技術が記載されている。特許文献2のパラレルリンク機構は、センサにより検出されたエンドエフェクタの位置および姿勢が指令値に一致するようにアクチュエータ(ロッド)をフィードバック制御するものである。これにより、エンドエフェクタの位置および姿勢を精度よく制御することができるとされている(特許文献2の明細書段落[0110])。
【0004】
なお、特開平11−10575号公報(特許文献3)には、3軸パラレルリンク機構のフィードバック制御に関する技術が記載されている。特許文献3のパラレルリンク機構では、一端がエンドプレートの中央部に、他端がベースプレートの中央部に接続されたマストの軸方向移動量および二軸周りの傾動角度の検出値を取り込んだフィードバック制御が行われる。これにより、エンドエフェクタの位置精度を正確に制御することができるとされている(特許文献3の明細書段落[0015])。しかしながら、3軸パラレルリンク機構は、6軸パラレルリンク機構とは構成が異なるものであり、容易に6軸パラレルリンク機構に適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4519941号公報
【特許文献2】特開平10−180674号公報
【特許文献3】特開平11−10575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、直交座標系(X軸、Y軸、Z軸)の3軸と、極座標系(θx、θy、θz)の3軸の計6軸において駆動するステージ(以下、6軸駆動ステージという。)にパラレルリンク機構の適用について検討している。この6軸駆動ステージは、例えば、顕微鏡ステージや、精密加工機などに応用することができる。
【0007】
従来の6軸駆動ステージは、例えば、1軸駆動ステージを組み合わせたものであるため、サイズも大きく、またコストも高くなってしまう。これに対して、駆動機構としてパラレルリンク機構を適用することができれば、6軸駆動ステージをコンパクトで低価格で提供することができる。また、駆動ステージにパラレルリンク機構を適用することで、ステージを例えば1μm以下の高分解能、高精度で駆動できる微動ステージとすることもできる。
【0008】
図1は、本発明者らが検討しているパラレルリンク機構101を模式的に示す側面図である。パラレルリンク機構101は、ベース2と、ベース2に対して6自由度を有し、ベース2と対向して配置されたテーブル3と、テーブル3とベース2とを連結する並列配置された複数の連結部10とを備えている。なお、このパラレルリンク機構101を駆動ステージとして備えた場合、テーブル3がステージに対応するものとなる。
【0009】
テーブル3が6自由度を有するように、連結部10を6本配置している。パラレルリンク機構101では、ベース2およびテーブル3を120°毎に3分割した軸A(1点鎖線)を対称に連結部10が配置されている(図3参照)。
【0010】
連結部10は、一端がベース2に取り付けられ、他端がテーブル3に取り付けられる伸縮可能なロッド4を有している。すなわち、連結部10は、伸縮可能なロッド4と、テーブル3に設けられ、ロッド4の一端が取り付けられる多自由度のジョイント5と、ベース2に設けられ、ロッド4の他端が取り付けられる多自由度のジョイント6とを含んでいる。ここで、ジョイント5は、テーブル3の側面に取り付けられている。また、ジョイント6は、ベース2から起立したブロックを介してベースに取り付けられている。
【0011】
一方向に伸縮可能なロッド4としては、例えば、ボールネジ、リニアガイドおよびモータを有するアクチュエータ4(電動シリンダ)を用いることが考えられる。このアクチュエータ4は、ボールネジを用いてモータの回転を直線運動に変換するものである。アクチュエータ4の制御は、パラレルリンク機構101あるいはパラレルリンク機構101を備えた筐体に設けられた演算処理装置で行うことができる。図1には、演算処理装置7がベース2下面に設けられた場合を示している。
【0012】
また、ジョイント5、6としては、例えば、鋼球を球面で保持し、多自由度で可動できる球面軸受を用いることが考えられる。球面軸受を用いた場合、アクチュエータ4の両端に鋼球が連結され、この鋼球を包み込むようにレース(受け部)が成形されている。
【0013】
このような構成のパラレルリンク機構101では、6本の連結部10によってテーブル3の位置(傾きを含めた姿勢)を定めることができる。各連結部10の長さ(アクチュエータ4の長さ)を伸縮させたとしても、アクチュエータ4の動作を停止させれば、テーブル3の位置を定めることができる。すなわち、パラレルリンク機構101は、6本のアクチュエータ4の長さを軸方向(一方向)に伸縮させる制御を行うことで、テーブル3の姿勢(位置)を自在に動かすことができるものである。これから、複数の連結部10は、パラレルリンク機構101の駆動部として機能するものでもある。
【0014】
しかしながら、本発明者らは、パラレルリンク機構101のテーブル3の位置が定まらないことを見出した。例えば、テーブル3に物体を搭載させて駆動させた場合、テーブル3に外部から加重が加わることになるので、その力が6本の各アクチュエータ4や、アクチュエータ4を連結する上下のジョイント5、6にかかることになる。このため、圧縮加重または引っ張り加重などの外因によってアクチュエータ4に変形(例えば、たわみ)またはジョイント5、6に変形(例えば、つぶれ)を発生させてしまう。したがって、ベース2とテーブル3とを連結する連結部10が変形することによって、テーブル3の位置が定まらないものと考えられる。
【0015】
また、アクチュエータ4のボールネジのバックラッシュにより、テーブル3の位置が定まらないことも考えられる。また、ジョイント5、6として用いる球面軸受には、鋼球とレースとの間にすきまがあるためガタが発生し、テーブル3の位置が定まらないことも考えられる。なお、アクチュエータ4として、バックラッシュを低減した高性能のものを用いたとしても、バックラッシュを完全に排除することはできないものと考えられる。また、球面軸受としてガタを低減した高性能のものを用いたとしても、ガタを完全に排除することはできないものと考えられる。
【0016】
本発明の目的は、パラレルリンク機構のテーブルの位置精度を向上することができる技術を提供することにある。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。本発明の一実施形態におけるパラレルリンク機構は、ベースと、前記ベースに対して6自由度を有し、前記ベースと対向して配置されるテーブルと、一端が前記ベースに取り付けられ、他端が前記テーブルに取り付けられる伸縮可能なロッドを有する複数の連結部と、前記テーブルの位置の算出に用いる複数のセンサ部とを備えている。ここで、前記センサ部は、一端が前記テーブルに取り付けられ、他端が前記ベースに取り付けられるワイヤと、前記ワイヤの長さを計測するセンサとを有している。
【発明の効果】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、次のとおりである。パラレルリンク機構のテーブルの位置精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明者らが検討しているパラレルリンク機構を模式的に示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるパラレルリンク機構を模式的に示す側面図である。
【図3】図2に示すパラレルリンク機構を模式的に示す上面図である。
【図4】図2に示すパラレルリンク機構の制御系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0021】
まず、本発明の実施形態におけるパラレルリンク機構1の構成について図面を参照して説明する。図2に、パラレルリンク機構1の側面を模式的に示し、図3にその上面を模式的に示す。このパラレルリンク機構1を駆動ステージとして備えた場合、テーブル3がステージに対応するものとなる。なお、パラレルリンク機構1の基本構成は、図1を参照して説明したパラレルリンク機構101と共通なので、それらについては同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
パラレルリンク機構1は、基本構成の他に、テーブル3の位置を算出に用いる複数のセンサ部14を備えている。パラレルリンク機構1は、6軸パラレルリンク機構であり、テーブル3の位置を算出するために、センサ部14を6つ配置している。
【0023】
本実施形態では、ベース2およびテーブル3を120°毎に3分割した軸B(2点鎖線)を対称にセンサ部14が配置されている(図3参照)。また、6本の連結部10のそれぞれに隣接して6つのセンサ部14が配置されている。このため、連結部10の伸縮量を、その連結部10に対応するセンサ部14で計測することとなる。言い換えると、センサ部14は、ベース2とテーブル3との間の距離を所定の6箇所で計測するものでもある。パラレルリンク機構1では、このセンサ部14の計測値を参照してテーブル3の位置を算出することができる。なお、センサ部14の配置位置は、これに限るものではなく、テーブル3の位置を算出するための計測値を正確に得られる配置であれば良い。
【0024】
6つのセンサ部14はそれぞれ、一端がベース2に取り付けられ、他端がテーブル3に取り付けられるワイヤ12と、ワイヤ12の長さを計測するセンサ13とを有している。ワイヤ12の一端が、ベース2に固定されたセンサ13を介してテーブル2に取り付けられている。ワイヤ12の他端が、ワイヤ固定部11で固定されてテーブル3の側面に取り付けられている。このワイヤ12は、たるまない最低限のテンションがかけられて取り付けられている。
【0025】
パラレルリンク機構1では、この6本のワイヤ12の長さを計測し、これを参照してテーブル3の位置を算出することができる。前述したように、連結部10の長さを制御することによって、テーブル3の位置を設定することができる。このテーブル3の位置は設定値となる。これに対して、センサ部14の計測値から算出することによって実際のテーブル3の位置を把握することができる。このテーブル3の位置は実測値となる。
【0026】
本実施形態では、ワイヤ12の一端がベース2に取り付けられ、他端がテーブル3に取り付けられている。ワイヤ12は柔軟性を有するものであるので、取り付けられたそれぞれの端部自体が多自由度を有する軸受として機能しているものと考えられる。このため、ジョイント5、6として用いる球面軸受のようなガタがない。
【0027】
したがって、ワイヤ12の長さを計測することで、テーブル3の位置を正確に算出することができる。また、連結部10によって、ベース2に対してテーブル3の移動範囲が定まっているため、その範囲内では、ワイヤ12に対する引っ張り加重も小さく、ワイヤ12が伸びてしまう心配もない。
【0028】
本実施形態におけるパラレルリンク機構1は、ベース2とテーブル3とを連結する連結部10が外因により変形した場合であっても、ベース2とテーブル3とに連結されたワイヤ12を有するセンサ部14によって、実際のテーブル3の位置を把握することができる。また、実際のテーブル3の位置を把握することができれば、パラレルリンク機構1のテーブル3の位置を補正することができるので、テーブル3の位置精度を向上することができる。
【0029】
また、本実施形態では、ワイヤ12およびセンサ13として、ベース2に固定して取り付けられたワイヤ式のリニアエンコーダを用いている。このワイヤ式のリニアエンコーダは、ワイヤがドラムに巻かれており、ワイヤを引き出した時のドラムの回転量をロータリーエンコーダで検出し、ワイヤの引き出し量を計測するものである。
【0030】
リニアエンコーダ(センサ13)側をワイヤ12の一端として、リニアエンコーダから延出したワイヤ12の他端をテーブル3に取り付けている。ワイヤ式のリニアエンコーダは、ワイヤ12を引っ張りながら巻き取る機構を有し、ワイヤ12の長さを計測するセンサ13を備えている。この巻き取る機構によって、ワイヤ12には、たるまない最低限度のテンションがかかるようになっている。なお、巻き取る機構は、ワイヤ12を巻き取ることの他に引き出すこともできる。
【0031】
ワイヤ式のリニアエンコーダを用いることで、直接ワイヤ12の長さ、すなわち、テーブル3に固定したワイヤ固定部11からベース2に固定されたワイヤ式のリニアスケール(センサ13)までの距離を正確に計測することができる。このように、ワイヤ12の長さを正確に計測することは、パラレルリンク機構1のテーブル3の位置精度を向上する上で重要な要因である。
【0032】
次に、パラレルリンク機構1の制御動作について図面を参照して説明する。図4にパラレルリンク機構1の制御動作の流れを示す。パラレルリンク機構1は、センサ部14を備えることで、ロッド4(アクチュエータ4)の長さから定まるテーブル3の位置に対して、センサ部14の計測値から算出したテーブル3の位置を比較するフィードバック制御を行うことができる。
【0033】
まず、6軸のパラメータを入力としてテーブル3の位置指令(S1)を受けた演算処理装置7は、各アクチュエータ4の伸縮量(移動量)を算出する(S2)。6軸のパラメータからテーブル3の位置が定まるので、この位置となるように、アクチュエータ4の長さ(伸縮量)を算出する。
【0034】
続いて、演算処理装置7は、算出された伸縮量を出力し、各アクチュエータ4を駆動する(S3)。アクチュエータ4の伸縮によって、テーブル3の姿勢が変化することになるが、この変化をワイヤ12の長さをセンサ13(リニアエンコーダ)で計測する。この計測値からテーブル3の位置を演算処理装置7によって取得する(S4)。
【0035】
ここで、位置指令したテーブル3の位置と、実際のテーブル3の位置とを比較する(S5)。具体的には、位置指令した6軸の各パラメータと、実際のテーブル3の位置から算出した6軸の各パラメータとを比較する。指令した位置と、実際の位置とがずれていた場合には、指令した位置となるように、その差分だけテーブル3の位置を補正する。このようにして、アクチュエータ4の長さから定まるテーブル3の位置に対して、センサ部14の計測値から算出したテーブル3の位置を比較するフィードバック制御を行う。
【0036】
一般に、閉リンクの運動学は、反復処理(フィードバック制御)によって、解析できることが知られている。本実施形態では、センサ部14を設け、ベース2とテーブル3と間の距離を6箇所計測することで、ベース2に対するテーブル3の正確な位置を演算により導くことができる。すなわち、センサ部14を備えたパラレルリンク機構1では、テーブル3の位置精度を向上することができる。
【0037】
なお、特許文献2の技術は、フィードバック制御用のセンサとして、アクチュエータと軸受のユニットの中に距離センサと角度センサを埋め込むものである。このため、センサの外部での誤差要因(例えば軸受の変形やガタ)については補正することができるものではない。これに対して、パラレルリンク機構1では、ロッド4やジョイント5、6の変形の影響を受けない別の構成であるセンサ部14の計測値からテーブル3の座標を取得し、テーブル3の姿勢を補正することができるものである。したがって、本発明は、特許文献2の技術より、テーブル3の位置精度を向上することができるものである。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0039】
例えば、前記実施形態では、パラレルリンク機構1のテーブル3の駆動部として、複数の連結部10を構成するアクチュエータ(例えば、電動シリンダ)を適用した場合について説明したが、どのような駆動部であっても良い。駆動部とは別構成の複数のセンサ部14を適用することで、パラレルリンク機構1のテーブル3の位置精度を向上することができるからである。
【符号の説明】
【0040】
1、101 パラレルリンク機構(駆動ステージ)
2 ベース
3 テーブル(ステージ)
4 ロッド(アクチュエータ)
5、6 ジョイント
7 演算処理装置
10 連結部
11 ワイヤ固定部
12 ワイヤ
13 センサ(リニアエンコーダ)
14 センサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースに対して6自由度を有し、前記ベースと対向して配置されるテーブルと、
一端が前記ベースに取り付けられ、他端が前記テーブルに取り付けられる伸縮可能なロッドを有する複数の連結部と、
前記テーブルの位置の算出に用いる複数のセンサ部と
を備えたパラレルリンク機構であって、
前記センサ部は、一端が前記ベースに取り付けられ、他端が前記テーブルに取り付けられるワイヤと、前記ワイヤの長さを計測するセンサとを有していることを特徴とするパラレルリンク機構。
【請求項2】
請求項1記載のパラレルリンク機構において、
前記ロッドの長さから定まる前記テーブルの位置に対して、前記センサ部の計測値から算出した前記テーブルの位置を比較するフィードバック制御を行うことを特徴とするパラレルリンク機構。
【請求項3】
請求項1または2記載のパラレルリンク機構において、
前記センサ部は、前記ベースに取り付けられたリニアエンコーダであり、
前記ワイヤは、前記リニアエンコーダから延出し、一端が前記テーブルに取り付けられていることを特徴とするパラレルリンク機構。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のパラレルリンク機構を備えることを特徴とする駆動ステージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76188(P2012−76188A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224519(P2010−224519)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(509006820)有限会社レプトリノ (10)
【Fターム(参考)】