説明

パルスレーザ光発生装置

【課題】 チタン・サファイア・レーザなどの大型で高平均パワーの固体レーザからの光パルスを用いずに、半導体レーザからの光パルスを利用して、高いピークパワーの光により、狙いとする非線形光学効果を引き起こすことである。
【解決手段】 半導体レーザ(レーザ・ダイオード:LD)15からの波長1550nmの半導体レーザ・パルス光(例えば、1MHzの繰り返し率)を、前段と主の2段階のEDFA20,40により効率的に増幅する。光学フィルタ30は、ノイズである自然放出光成分を除去する。そして、増幅されたパルス光から光デバイス(周期分極反転Mg添加LiNbO:PPMgLN)50の非線形性により発生する第2高調波光パルスを光学フィルタ60で取り出して、フォトニック結晶ファイバ(PCF)70から800nm波長領域でのスーパーコンチニュウム光を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンプルな構成による、高いピークパワーを有する光パルスやスーパーコンチニュウム光パルスの発生に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、スーパーコンチニュウム光パルス(超広帯域光パルス:optical supercontinuum pulse)は、光通信,光電子計測,そして、バイオフォトニクス等の様々な応用で用いられている。光ファイバ技術の最近の進歩により、中心の波長が1550nmで、ギガヘルツ以上の高い繰り返し周波数のモードロック・ファイバ・レーザ又は半導体レーザは、ピーク光パワーが数ワットのスーパーコンチニュウムの光を発生することができる(非特許文献1参照)。フォトニック結晶ファイバ(photonic crystal fiber)の発明により、入力光の1μm以下波長領域での穏やかなピーク光パワーを有するスーパーコンチニュウム光発生が可能となった(非特許文献2参照)。
スーパーコンチニュウム光発生に対して、モードロック・チタン・サファイヤ・レーザが基礎的な研究に用いられている。しかしながら、実用的な応用に対しては、小型で低価格な光パルス源が求められている。
【非特許文献1】T.Morioka et al., "Transform-limited, femtosecond WDM pulse generation by spectral filtering of gigahertz supercontiniuum", Electron. Lett. 30, pp1166-1167 (1994)
【非特許文献2】J. Hermann et al., "Experimental evidence for supercontinuum generation by fission of higher-order solitons in phonic fibers", Phys. Rev. Lett. 88,1739001 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、チタン・サファイア・レーザなどの大型で高平均パワーの固体レーザからの光パルスを用いずに、半導体レーザからの光パルスを利用して、高いピークパワーの光により、狙いとする非線形光学効果を引き起こすことである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の目的を達成するために、本発明は、高い繰り返し率の光パルスを発生する半導体レーザと、該半導体レーザからの光パルスを増幅する光ファイバによる前置光増幅器と、該前置光増幅器からの増幅された光パルスの光スペクトルからもっと狭い帯域で抽出するフィルタと、自己位相変調による光スペクトルの歪が少ない低非線形効果の光ファイバによる主光増幅器とを備えることを特徴とするパルスレーザ光発生装置である。
半導体レーザからの高い繰り返し率の光パルスを用いることにより、光ファイバ例えばエルビウム添加ファイバ(EDFA)による光増幅器を用いて、低い平均光パワーの短いパルス光を高いピークパワーを有するパルス光として効率的に増幅することができる。
【0005】
また、高い繰り返し率の光パルスを発生する半導体レーザと、該半導体レーザからの光パルスを増幅する光ファイバによる前置光増幅器と、該前置光増幅器からの増幅された光パルスの光スペクトルからもっと狭い帯域で抽出するフィルタと、自己位相変調による光スペクトルの歪が少ない低非線形効果の光ファイバによる主光増幅器と、該主光増幅器からの十分に増幅された光パルスを用いて、スーパーコンチニュウム光を発生させる非線形光デバイスとを備えることを特徴とするパルスレーザ光発生装置も本発明である。
【0006】
その上、高い繰り返し率の光パルスを発生する半導体レーザと、該半導体レーザからの光パルスを増幅する光ファイバによる前置光増幅器と、該前置光増幅器からの増幅された光パルスの光スペクトルからもっと狭い帯域で抽出するフィルタと、自己位相変調による光スペクトルの歪が少ない低非線形効果の光ファイバによる主光増幅器と、該主光増幅器からの十分に増幅された光パルスを用いて、第2高調波の光パルスを得る周波数変換光デバイスと、該周波数変換光デバイスからの光パルスを用いてスーパーコンチニュウム光を発生させる非線形光デバイスとを備えることを特徴とするパルスレーザ光発生装置も本発明である。
【発明の効果】
【0007】
上述の構成により、例えば、バイオメディカル等に応用するための小型で低価格な光パルス源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明は、半導体レーザからの光パルスを、光ファイバを用いた光増幅器で増幅することで、例えば、非線形光学効果により、スーパーコンチニュウム光の発生が可能となるようなピークパワーの光を発生させるための構成である。
さて、増幅に用いる光ファイバを用いた増幅器、例えばエルビウム添加ファイバ増幅器(erbium-doped fiber amplifier:EDFA)の反転分布(population inversion)の寿命は、ミリ秒領域である。このため、EDFA内部に蓄積されるエネルギは、1kHz以上の繰り返し率を有する増幅されたパルス光に効率的に転移される。この特性は、反転分布の寿命が10ナノ秒より短い半導体レーザ増幅器とは大変異なっている。このため、EDFAを用いると、光パルスの繰り返し率を適切に選択することにより、短いパルス光を大変高いピークパワーまで増幅することが可能となる。
【0009】
しかしながら、光増幅器内の増幅された自然放出(amplified spontaneous emission:ASE)ノイズを考慮しなければならない。一般的に言って、増幅後ASEノイズ中に埋もれないために、1μW以上の光信号入力パワーが必要である。レーザ・ダイオード(LD)からの1つの光パルスのエネルギは、大体1pJである。このため、高い繰り返し率例えば1MHz程度の繰り返し率で、平均1μWの光パワーを期待することができる。
【0010】
他の重要な制限は、EDFA中で誘起される3次の非線形光学効果である。従来のEDFAを光パルスの増幅に用いると、100Wピークパワー以上の自己位相変調(self-phase-modulation:SPM)に起因する周波数領域における歪を観測することができる。これは、光パルスが光パワー密度10W/cm以上のEDFA内部のファイバを数m又は数十m伝搬するためである。意図しないSPMによる周波数領域の歪を避けるために、大きいコア直径及び短いファイバ長のEDFAが有効である。
これらのASE及びSPMを制御できると、平均光出力パワー数ミリワットで、キロワットのピーク・パワーの光パルスを得ることができる。
【0011】
このように、周波数が低すぎると増幅過程でノイズに埋もれるのが一番の制限要因となり、周波数が高すぎると増幅後のピークパワーを十分に大きくするために高平均パワーの光増幅器が必要になる。このため、現実的には、100kHz〜10MHzの光パルスの繰り返し率を選択するとよい。
これにより、第2高調波変換及び800nm領域のスーパーコンチニュウム光発生に十分であるピークパワーを有するコンパクトな光パルス源を提供することができる。
このため、本発明では、半導体レーザからの高い繰り返し率の光パルスの増幅に、光ファイバによる前置光増幅器および主光増幅器による2段階増幅を行っている。
【0012】
以下では、例えば、半導体レーザ(利得スイッチ駆動InGaAsPレーザ・ダイオード:LD)からの波長1550nmの半導体レーザ・パルス光を、前段と主の2段階のEDFAにより効率的に増幅する。そして、増幅されたパルス光から光デバイスの非線形性により発生する第2高調波光パルスを用いて、フォトニック結晶ファイバ(Photonic Crystal Fiber:PCF)から800nm波長領域でのスーパーコンチニュウム光の発生することが記述されている。
【実施例】
【0013】
実施例の構成は図1に示されている。利得スイッチ動作の多重量子井戸(gain-switching multi-quantum-wells)InGaAsP分布フィードバック・ブラグ構造レーザ・ダイオード(distributed-feedback-Bragg structure laser-diode:DFB−LD)10により、波長1550nmのパルス光を、パルス発生器15からの電気パルスにより、十分に高い、例えば1MHzの繰り返し率で発生させた。このような励起で、10ps程度の光パルスが1μW程度の平均光パワーで発生する。この平均光パワーであれば、前置光増幅器20による増幅過程で光ノイズ(自然放出光ノイズ)に光パルスが埋没して、光スペクトル上で識別できなくなることを防止できる。
このとき、強い電気的パルス励起によって、レーザ・パルスの光スペクトルは2nm程度以上にも広がる(チャーピングと呼ばれる現象であり、不必要に広いバンド幅となる)。
なお、あとの高ピークパワーに増幅するという目的を考えると、1MHzよりも低速のパルス繰返し周波数がよいのであるが、光ノイズへの光パルスの埋没を避ける上で、この1MHz程度という周波数が選択されている。
【0014】
さて、本発明では、半導体レーザで発生した光パルスを十分な高ピークパワーを有するように増幅するために、前に述べたように2段階のEDFAによる光増幅を行う。実施例においては、前置光増幅器20として、商業的に入手可能な、低平均パワーEDFAを使用した。増幅後、光パルスは1nm周波数幅光学フィルタ30によりフィルタした。前置光増幅器20からの出力平均光パワーはサブmWレベルであるが、この中にはノイズである自然放出光成分も含まれている。これを除去し、さらに、上記のチャーピングした光スペクトルからもっと狭い帯域で光パルスの成分を抽出する目的で、1nm帯域幅の光フィルタを通す。
光フィルタ後の平均光パワーは数十μWである。しかし、光パルスの時間幅は6ps程度となって、もともとの1/2程度にまで短くなっている。これは上記のチャーピングの影響を低減した効果である。光パルスの短縮化は高ピークパワーを得る上では有効である。平均光パワーをPavとし、繰返し周波数をf、パルス幅をτとすれば、光パルスのピークパワーPは、P=Pav×1/(f×τ)という関係式で与えられる。
この時点で、平均光パワーは数十マイクロワットであり、光パルスのピークパワーは数ワットであると見積もられている。
【0015】
主の光増幅器40として低非線形効果EDFAを使用した。この光増幅器40は、高濃度でエルビウム・イオンをドープした短尺の光ファイバ(fluoride active fiber)で構成されている(このファイバについては、例えば、"Y.Kubota et al., Novel Er and Ce codoped fluoride fiber amplifier for low-noise and high-efficient operation with 980-nm pumping", IEEE Photon. Tech. Lett. 15, pp525-527(2003)"を参照)。活性ファイバの長さは0.7mで、この増幅器は、単一の980nmLD励起で、10mW最大平均パワー光出力を提供する。短い長さのファイバのため、意図しないSPMは従来のEDFAと比較すると大幅に改善される。そして、有意のSPMがないピークパワーは、この段階で1kWと評価される。
主光増幅器からの光出力も平均パワーでは10mW程度しか必要でないので、小型で安価な光増幅器(20−30万円)を用いることができる(このような目的では通常は、1W程度の高平均パワー型が用いられるが光増幅器のコストが1桁上昇する)。簡単に試算すると、パルス幅τが6ps、繰返しfが1MHz、平均光パワーPavが6mWとすれば、ピーク光パワーPは1kWに達する。このピークパワーであれば、非線形波長変換などを高効率で容易に行うことが可能となる。
【0016】
第2段階の増幅後、周期分極反転Mg添加LiNbO(PPMgLN)光導波路50を用いて、光パルスは第2高調波(second-harmonic:SH)の波長(780nm)に変換される。このSH光パルスは780nmの光学フィルタ60で取り出されている。本実施例では、光結合のロスが大きく、このため変換効率は最大数%に制限された。この結果、10WのピークパワーのSH光パルスが生成された。ここで、周波数を変換したのは、大型のチタン・サファイア固体レーザのパルスと同様の波長を得るためである。約5psの時間幅を有する第2高調波光パルスは、50m長及び800nmの波長周囲でゼロ分散である、穴の開いているフォトニック結晶ファイバ(Photonic Crystal Fiber:PCF)70に入射する。この実施例の構成では、平均光パワーは10mW(10dBm)以下であり、1Wクラスの高平均パワーの光デバイスは必要ない。
【0017】
図2は、入力SHパルスの光スペクトルを示している。ピークから20dB低下した強度レベルで、約30nmの広がりを観測した。この場合、平均光パワーは15μWである。図3は、SHパルスのピークパワーが12Wのときのスーパーコンチニュウム光の光スペクトルを示している。このときのスペクトルの広がりは、100nm以上に拡張する。
【0018】
通常、このようなスーパーコンチニュウム光はチタン・サファイア固体レーザを利用して得られる。上記の低平均光のスーパーコンチニュウム光は、生体組織への損傷が問題にならず、バイオメディカルの応用に大変有用である。
なお、大型のチタン・サファイア固体レーザのパルスと同様の波長を得る必要がない場合は、第2高調波による周波数変換を行わずに、直接PCFによりスーパーコンティニュウム光を発生させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例のパルスレーザ光発生装置の構成を示す図である。
【図2】図1のパルスレーザ光発生装置の第2高調波のスペクトルを示す図である。
【図3】スーパーコンチニュウム光の対数のスペクトルが示されている図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い繰り返し率の光パルスを発生する半導体レーザと、
該半導体レーザからの光パルスを増幅する光ファイバによる前置光増幅器と、
該前置光増幅器からの増幅された光パルスの光スペクトルからもっと狭い帯域で抽出するフィルタと、
自己位相変調による光スペクトルの歪が少ない低非線形効果の光ファイバによる主光増幅器と
を備えることを特徴とするパルスレーザ光発生装置。
【請求項2】
高い繰り返し率の光パルスを発生する半導体レーザと、
該半導体レーザからの光パルスを増幅する光ファイバによる前置光増幅器と、
該前置光増幅器からの増幅された光パルスの光スペクトルからもっと狭い帯域で抽出するフィルタと、
自己位相変調による光スペクトルの歪が少ない低非線形効果の光ファイバによる主光増幅器と、
該主光増幅器からの十分に増幅された光パルスを用いて、スーパーコンチニュウム光を発生させる非線形光デバイスと
を備えることを特徴とするパルスレーザ光発生装置。
【請求項3】
高い繰り返し率の光パルスを発生する半導体レーザと、
該半導体レーザからの光パルスを増幅する光ファイバによる前置光増幅器と、
該前置光増幅器からの増幅された光パルスの光スペクトルからもっと狭い帯域で抽出するフィルタと、
自己位相変調による光スペクトルの歪が少ない低非線形効果の光ファイバによる主光増幅器と、
該主光増幅器からの十分に増幅された光パルスを用いて、第2高調波の光パルスを得る周波数変換光デバイスと、
該周波数変換光デバイスからの光パルスを用いてスーパーコンチニュウム光を発生させる非線形光デバイスと
を備えることを特徴とするパルスレーザ光発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−147663(P2007−147663A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199277(P2004−199277)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【特許番号】特許第3669634号(P3669634)
【特許公報発行日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【Fターム(参考)】