説明

パワーステアリング装置

【課題】 舵角検出用センサ異常時においても、圧油供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができるパワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】 スタンバイ/アシスト判定部は、異常検出信号の入力がある場合(ステップ501:YES)には、検出されたヨーレイトRyの絶対値が所定の閾値βyより大きいか否かについて判定する(ステップ502)。そして、ヨーレイトRyの絶対値が所定の閾値βyより大きい場合(|Ry|>βy、ステップ502:YES)には、「アシストON(スタンバイOFF)」と判定し(ステップ503)、ヨーレイトRyの絶対値が所定の閾値βy以下である場合(|Ry|≦βy、ステップ502:NO)には、「スタンバイON(アシストOFF)」と判定する(ステップ504)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダとを備えた油圧式のパワーステアリング装置には、油圧ポンプに還流するフルード(圧油)の分配比率を変化させることによりパワーシリンダに供給する圧油の流量(供給流量)を変更可能な流量制御弁(流量制御装置)を備えたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のパワーステアリング装置は、車速、操舵角及び操舵速度に応じてその供給流量を変更することにより、車両状態に応じた必要十分な供給流量を確保するとともに(アシストモード)、アシスト要求の低い状態においては、その供給流量をアシストモードにおける流量よりも小とする(スタンバイモード)。そして、このような構成を採用することにより、車両状態に応じた最適なアシスト力を操舵系に付与して操舵フィーリングの向上を図るとともに、非アシスト時の圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【特許文献1】特開2001−163233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、こうした流量可変型のパワーステアリング装置は、ステアリングセンサ(操舵角センサ)により検出されるステアリングホイールの舵角(操舵角)と閾値との比較に基づいて上記各モードの切り替えを行う。そして、操舵角センサの異常により操舵角が検出不能となった場合には、アシスト不足による運転者の負担増加をさけるべく、その流量制御モードをアシストモードとしてフェールセーフを図るようになっている。
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、フェールセーフ時には、操舵角がアシスト要求の低いステアリング中立付近にある場合、即ち車両が直進状態にあるような場合であっても、その流量制御モードはアシストモードのままとなる。即ち、車両状態に関わらず、常に多量の圧油供給がなされることになり、その結果、油温の上昇、或いは燃費の低下を招くことになるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、舵角検出用センサ異常時においても、圧油供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることのできるパワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段と、ステアリングホイールの操舵角を検出するための操舵角センサとを備え、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有し、前記検出された操舵角に基づいて、前記アシストモード又はスタンバイモードの切替判定を行うパワーステアリング装置であって、前記操舵角センサの異常を検出する異常検出手段と、ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段、左右の操舵輪の車輪速差を検出する車輪速差検出手段、及び横方向加速度を検出する横方向加速度検出手段のうちの少なくとも一つを備え、前記制御手段は、前記操舵角センサの異常検出時には、前記ヨーレイト、車輪速差、及び横方向加速度のうちの少なくとも一つに基づいて、前記切替判定を行うこと、を要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、操舵角を用いることなく、車両が直進状態にあるか否かを判定することができる。従って、操舵角センサの異常により操舵角が検出不能となった場合であっても、適切にスタンバイ/アシストモードの切り替えを行うことができ、その結果、フェールセーフ時においても、圧油供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記操舵角に基づく操舵輪の第1の舵角にモータ駆動に基づく前記操舵輪の第2の舵角を上乗せすることにより前記ステアリングホイールと前記操舵輪との間の伝達比を可変させる伝達比可変装置と、前記操舵角と前記第2の舵角の制御目標量に基づいて前記操舵輪の目標舵角を演算する演算手段と、前記伝達比可変装置の異常を検出する第2の異常検出手段を備え、前記制御手段は、前記目標舵角に基づいて前記切替判定を行うとともに、前記伝達比可変装置の異常検出時には、前記ヨーレイト、車輪速差、及び横方向加速度のうちの少なくとも一つに基づいて、前記切替判定を行うこと、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、伝達比可変装置の異常に伴う伝達比可変制御の停止により目標舵角が演算不能となった場合であっても、適切にスタンバイ/アシストモードの切り替えを行うことができ、その結果、フェールセーフ時においても、圧油供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段と、ステアリングホイールの操舵角を検出するための操舵角センサとを備え、前記制御手段は、前記検出された操舵角に基づいて前記流量を変更するパワーステアリング装置であって、前記操舵角センサの異常を検出する異常検出手段と、ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段と、前記ヨーレイト及び車速に基づいて操舵輪の推定舵角を演算する推定舵角演算手段とを備え、前記制御手段は、前記操舵角センサの異常検出時には、前記推定舵角に基づいて前記流量を変更すること、を要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、操舵角センサの異常により操舵角が検出不能となった場合であっても、スタンバイ/アシストモードの切り替えを含む流量可変制御を続行することができる。その結果、フェールセーフ時においても、車両状態に応じた最適なアシスト力を操舵系に付与しつつ、圧油供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段と、操舵輪の実舵角を検出するための実舵角センサとを備え、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有し、前記検出された実舵角に基づいて、前記アシストモード又はスタンバイモードの切替判定を行うパワーステアリング装置であって、前記実舵角センサの異常を検出する異常検出手段と、ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段、左右の操舵輪の車輪速差を検出する車輪速差検出手段、及び横方向加速度を検出する横方向加速度検出手段のうちの少なくとも一つを備え、前記制御手段は、前記実舵角センサの異常検出時には、前記ヨーレイト、車輪速差、及び横方向加速度のうちの少なくとも一つに基づいて、前記切替判定を行うこと、を要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、舵角検出用センサ異常時においても、圧油供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることが可能なパワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を伝達比可変装置を備えたパワーステアリング装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のパワーステアリング装置1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により操舵輪6の舵角、即ちタイヤ角が可変することにより、車両の進行方向が変更される。
【0016】
本実施形態のパワーステアリング装置1は、油圧ポンプ11と、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダ12とを備えた油圧式のパワーステアリング装置であり、油圧ポンプ11から圧送されたフルード(圧油)は、コントロールバルブ13を経由してラック5に設けられたパワーシリンダ12に導入される。そして、パワーシリンダ12に流入するフルードの圧力により、ラック5がその移動方向に押圧されることで、操舵系にアシスト力が付与されるようになっている。
【0017】
尚、コントロールバルブ13は、ステアリングシャフト3が連結されるピニオン軸(図示略)に設けられており、同コントロールバルブ13は、操舵系への操舵トルクの印加に伴うトーションバー(図示略)の捻れに基づいて、パワーシリンダ12に対するフルードの導入方向及びその流量を制御する。そして、操舵系にアシスト力を付与しない非アシスト時には、フルードはパワーシリンダ12に流入することなく、コントロールバルブ13からリザーバタンク(図示略)を介して油圧ポンプ11へと還流されるようになっている。
【0018】
また、本実施形態のパワーステアリング装置1は、パワーシリンダ12に供給するフルード流量を変更可能な流量制御装置としての流量制御弁15と、同流量制御弁15の作動を制御する制御手段としての第1ECU(VFCECU)16とを備えている。
【0019】
図2に示すように、本実施形態では、油圧ポンプ11は、ポンプ本体21から吐出されたフルードをコントロールバルブ13に圧送するためのポンプポート22と、フルードをポンプ本体21に導入するためのリターンポート23とを備えており、流量制御弁15は、同油圧ポンプ11内に組み込まれている。そして、流量制御弁15は、ポンプポート22からリターンポート23に還流するフルードの分配比率を変化させることにより、同ポンプポート22から圧送されるフルード流量、即ちパワーシリンダ12に供給するフルード流量を変更する。
【0020】
詳述すると、流量制御弁15は、ポンプポート22に設けられた可変オリフィス24と、可変オリフィス24の上流側においてポンプポート22と連通された第1圧力室25a及びその下流側においてポンプポート22と連通された第2圧力室25bと、これら両圧力室間の圧力差に応じて軸線方向(図中左右方向)に移動するスプール26とを備えている。
【0021】
本実施形態では、スプール26は、第2圧力室25bに配設されたスプリング27により第1圧力室25a側に付勢されており、同スプール26は、可変オリフィス24の抵抗により第1圧力室25aの圧力が第2圧力室25bの圧力とスプリング27の弾性力との和よりも大となることで、その圧力差に応じた位置に移動する。
【0022】
また、流量制御弁15は、第1圧力室25aとリターンポート23とを連通可能な戻り流路28を有しており、戻り流路28は、スプール26が第2圧力室25b側に移動するほど、その第1圧力室25aへの開口面積、即ち流路断面積が大となるように設定されている。そして、流量制御弁15は、このスプール26の移動に基づいて、その移動位置に応じた流量のフルードをポンプポート22からリターンポート23に還流するようになっている。
【0023】
一方、可変オリフィス24の駆動源であるソレノイド29は、第1ECU(VFCECU)16と接続されており、同第1ECU(VFCECU)16は、該ソレノイド29に印加する電圧を制御することにより、可変オリフィス24の開度(絞り量)を制御する。そして、この可変オリフィス24の開度に対応する位置にスプール26が移動し、ポンプ本体21に還流されるフルードの分配比率が変化することにより、油圧ポンプ11からコントロールバルブ13に圧送されるフルード流量が制御されるようになっている(流量可変制御)。
【0024】
また、図1に示すように、本実施形態のパワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2の舵角(操舵角)に対する操舵輪6の舵角(タイヤ角)の比率、即ち伝達比(ギヤ比)を可変させるギヤ比可変アクチュエータ30と、該ギヤ比可変アクチュエータ30の作動を制御する第2ECU(IFSECU)31とを備えている。そして、本実施形態では、このギヤ比可変アクチュエータ30が伝達比可変装置を構成している。
【0025】
詳述すると、ステアリングシャフト3は、ステアリング2が連結された第1シャフト32とラックアンドピニオン機構4に連結される第2シャフト33とからなり、ギヤ比可変アクチュエータ30は、第1シャフト32及び第2シャフト33を連結する差動機構34と、該差動機構34を駆動するモータ35とを備えている。そして、ギヤ比可変アクチュエータ30は、ステアリング操作に伴う第1シャフト32の回転に、モータ駆動による回転を上乗せして第2シャフト33に伝達することにより、ラックアンドピニオン機構4に入力されるステアリングシャフト3の回転を増速(又は減速)する。
【0026】
つまり、図3及び図4に示すように、ギヤ比可変アクチュエータ30は、ステアリング操作に基づく操舵輪6の舵角(ステア転舵角θts)にモータ駆動に基づく操舵輪の舵角(ACT角θta)を上乗せすることにより、操舵角θsに対する操舵輪6のギヤ比を可変させる。そして、第2ECU(IFSECU)31は、モータ35の作動を制御することによりギヤ比可変アクチュエータ30を制御する。即ち、第2ECU(IFSECU)31は、ACT角θtaを制御することにより、そのギヤ比を可変させる(ギヤ比可変制御)。
【0027】
尚、この場合における「上乗せ」とは、加算する場合のみならず減算する場合をも含むものと定義し、以下同様とする。また、「操舵角θsに対する操舵輪6のギヤ比」をオーバーオールギヤ比(操舵角θs/タイヤ角θt)で表した場合、ステア転舵角θtsと同方向のACT角θtaを上乗せすることによりオーバーオールギヤ比は小さくなる(タイヤ角θt大、図3参照)。そして、逆方向のACT角θtaを上乗せすることによりオーバーオールギヤ比は大きくなる(タイヤ角θt小、図4参照)。また、本実施形態では、ステア転舵角θtsが第1の舵角を構成し、ACT角θtaが第2の舵角を構成する。
【0028】
次に、本実施形態のパワーステアリング装置の電気的構成、及びその制御態様について説明する。
図1に示すように、本実施形態では、上記の流量制御弁15を制御する第1ECU(VFCECU)16、及びギヤ比可変アクチュエータ30を制御する第2ECU(IFSECU)31は、車内ネットワーク(CAN:Controller Area Network)36を介して接続されており、同車内ネットワーク36には、操舵角センサ37、車速センサ38及び後述する回転角センサ39が接続されている。そして、第1ECU(VFCECU)16及び第2ECU(IFSECU)31は、これら各センサにより検出される操舵角θs、車速V(及びACT角θta)、並びに第1ECU(VFCECU)16と第2ECU(IFSECU)31との間の相互通信により入力される制御信号に基づいて、上記の流量可変制御及びギヤ比可変制御を実行する。
【0029】
(ギヤ比可変制御)
先ず、ギヤ比可変制御について説明する。
図5は、本実施形態のパワーステアリング装置の制御ブロック図である。同図に示すように、第2ECU(IFSECU)31は、モータ制御信号を出力するマイコン41と、モータ制御信号に基づいてギヤ比可変アクチュエータ30のモータ35に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えている。
【0030】
尚、本実施形態のモータ35はブラシレスモータであり、駆動回路42は、入力されるモータ制御信号に基づいて、同モータ35に対し三相(U,V,W)の駆動電力を供給する。また、以下に示す各制御ブロックは、マイコン41(及び後述するマイコン51)が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。
【0031】
そして、第2ECU(IFSECU)31は、モータ35に供給する駆動電力を制御することによりギヤ比可変アクチュエータ30の作動を制御、即ちギヤ比可変制御を実行する。
【0032】
マイコン41は、車速に応じてギヤ比を可変させるための制御目標成分であるギヤ比可変ACT指令角θgr*を演算するギヤ比可変制御演算部44と、操舵速度に応じて車両の応答性を向上させるための制御目標成分である微分ステアACT指令角θls*を演算する微分ステア制御演算部(LeadSteer制御演算部)45を備えている。
【0033】
本実施形態では、ギヤ比可変制御演算部44には、車速V及び操舵角θsが入力され、微分ステア制御演算部45には、車速V及び操舵速度ωsが入力される。尚、操舵速度ωsは、操舵角θsを時間で微分することにより算出される(以下同様)。そして、ギヤ比可変制御演算部44は、その操舵角θs及び車速Vに基づいてギヤ比可変ACT指令角θgr*を演算し(ギヤ比可変制御演算)、微分ステア制御演算部45は、その車速V及び操舵速度ωsに基づいて微分ステアACT指令角θls*を演算する(微分ステア制御演算)。
【0034】
ギヤ比可変制御演算部44により演算されたギヤ比可変ACT指令角θgr*、及び微分ステア制御演算部45により演算された微分ステアACT指令角θls*は、加算器46に入力される。そして、この加算器46においてギヤ比可変ACT指令角θgr*と微分ステアACT指令角θls*とが重畳されることによりACT角θtaの制御目標量であるACT指令角θta*が算出される(ACT指令角演算)。
【0035】
加算器46において算出されたACT指令角θta*は、電圧指令値演算部47に入力される。本実施形態では、ギヤ比可変アクチュエータ30のモータ35には回転角センサ39が設けられており(図1参照)、この回転角センサ39により検出されるモータ回転角に基づいてACT角θtaが検出されるようになっている。そして、電圧指令値演算部47は、このACT角θta及びACT指令角θta*に基づくフィードバック制御により電圧指令値の演算を行う(電圧指令値演算)。
【0036】
電圧指令値演算部47により算出された電圧指令値は、PWM制御演算部48に入力され、PWM制御演算部48は、その入力された電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成(演算)し駆動回路42に出力する(PWM制御演算)。そして、そのモータ制御信号に基づいて駆動回路42から供給される駆動電力によりモータ35が制御されるようになっている。
【0037】
即ち、図6のフローチャートに示すように、マイコン41は、状態量として上記各センサからセンサ値を取り込むと(ステップ101)、先ずギヤ比可変制御演算を行い(ステップ102)、続いて微分ステア制御演算を行う(ステップ103)。そして、マイコン41は、上記ステップ102のギヤ比可変制御演算及び上記ステップ103の微分ステア制御演算を実行することにより算出されたギヤ比可変ACT指令角θgr*、及び微分ステアACT指令角θls*を重畳することにより、制御目標であるACT指令角θta*を演算する(ステップ104)。
【0038】
次に、マイコン41は、このステップ104において算出されたACT指令角θta*に基づいて電圧指令値を演算する(ステップ105)。そして、その電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成し、そのモータ制御信号を駆動回路42へと出力する(ステップ106)。
【0039】
(流量可変制御)
次に、本実施形態のパワーステアリング装置における流量可変制御について説明する。
図5に示すように、第1ECU(VFCECU)16は、流量制御弁15(可変オリフィス24)のソレノイド29に印加する電圧を決定するマイコン51と、該マイコン51の出力する電圧制御信号に基づいてソレノイド29に駆動電圧を印加する駆動回路52とを備えている。そして、第1ECU(VFCECU)16は、ソレノイド29に印加する電圧を制御することにより流量制御弁15の作動を制御、即ち流量可変制御を実行する。
【0040】
図7に示すように、本実施形態のパワーステアリング装置1では、パワーシリンダ12に供給するフルード流量(供給流量Q)について、要求されるアシスト力を付与するために、車速に応じた十分な供給流量Qを確保する「アシストモード」と、このアシストモードにおける供給流量(アシスト流量Qa)よりも、供給流量Q(スタンバイ流量Qs)を小とする「スタンバイモード」との2つの流量制御モードが設定されている。
【0041】
そして、アシスト要求の高い状態では、流量制御モードを「アシストモード」として、要求されるアシスト力を発生するための十分な供給流量Qを確保し、アシスト要求の低い状態では、「スタンバイモード」として、ポンプ本体21に還流されるフルードの分配比率を高めることにより、圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図るようになっている。
【0042】
図5に示すように、本実施形態では、マイコン51は、第2ECU(IFSECU)31において算出されたACT指令角θta*に基づいて操舵輪6の目標舵角、即ち目標タイヤ角θt*を演算する演算手段としての目標タイヤ角演算部53を備えている。そして、第1ECU(VFCECU)16は、この目標タイヤ角θt*に基づいて上記の流量可変制御を実行する。
【0043】
詳述すると、本実施形態では、マイコン51には、車速V、操舵角θs及び操舵速度ωsとともに、第2ECU(IFSECU)31において算出されたACT指令角θta*が入力されるようになっており、目標タイヤ角演算部53には、このACT指令角θta*及び操舵角θsが入力される。そして、目標タイヤ角演算部53は、操舵角θsに基づくステア転舵角θts(図3,4参照)にACT指令角θta*を加算することにより目標タイヤ角θt*を演算する。
【0044】
尚、本実施形態のギヤ比可変アクチュエータ30のように、ラックアンドピニオン機構4に入力されるステアリングシャフト3の回転を増速(又は減速)することにより伝達比を可変するものにあっては、「タイヤ角」は、ピニオン軸の角度、即ち「ピニオン角」に対応する(タイヤ角=ピニオン角×ラック&ピニオンのベースギヤ比)。従って、この場合、「目標タイヤ角」を「目標ピニオン角」としても同様であることはいうまでもない。
【0045】
また、マイコン51は、スタンバイ/アシストモードの切替判定を行うスタンバイ/アシスト判定部54と、その判定結果(スタンバイ/アシスト判定値V_as)に基づいて供給流量Qの制御目標量である流量指令値Q*を演算する流量指令値演算部55とを備えている。
【0046】
本実施形態では、スタンバイ/アシスト判定部54には、目標タイヤ角θt*、操舵速度ωs及び車速Vが入力される。そして、スタンバイ/アシスト判定部54は、入力されたこれらの状態量に基づいて、スタンバイ/アシストモードの切替判定を実行する(スタンバイ/アシスト判定)。
【0047】
具体的には、図8のフローチャートに示すように、スタンバイ/アシスト判定部54は、先ず、車速Vが0(Km/h)であるか否か、即ち車両が停止状態にあるか否かについて判定する(ステップ201)。そして、停止状態にあると判定した場合(V=0、ステップ201:YES)には、操舵速度ωsの絶対値が所定の閾値αより大きいか否かについて判定し(ステップ202)、停止状態ではないと判定した場合(|V|>0、ステップ201:NO)には、目標タイヤ角θt*の絶対値が所定の閾値βより大きいか否かについて判定する(ステップ203)。
【0048】
そして、ステップ202において操舵速度ωsの絶対値が閾値αよりも大きいと判定した場合(|ωs|>α、ステップ202:YES)、又はステップ203において目標タイヤ角θt*の絶対値が閾値βよりも大きいと判定した場合(|θt*|>β、ステップ203:YES)には、「アシストON(スタンバイOFF)」と判定する(ステップ204)。
【0049】
一方、上記ステップ202において操舵速度ωsの絶対値が閾値α以下であると判定した場合(|ωs|≦α、ステップ202:NO)、又は上記ステップ203において目標タイヤ角θt*の絶対値が閾値β以下であると判定した場合(|θt*|≦β、ステップ203:NO)には、スタンバイ/アシスト判定部54は、「暫定フラグ」をセットする(ステップ205)。
【0050】
次に、スタンバイ/アシスト判定部54は、暫定フラグが所定時間t以上継続してセットされているか否かについて判定する(ステップ206)。そして、所定時間t以上継続してセットされていると判定した場合(ステップ206:YES)には、「スタンバイON(アシストOFF)」と判定する(ステップ207)。尚、上記ステップ206において、暫定フラグは所定時間t以上継続してセットされていないと判定した場合(ステップ206:NO)には、上記ステップ204において「アシストON(スタンバイOFF)」と判定する。
【0051】
ここで、本実施形態では、操舵速度ωsに関する閾値αは、「0[deg/s]」、目標タイヤ角θt*に関する閾値βは、ステアリング中立近傍のタイヤ角θtの変化に車両進行方向が追従しない領域、即ち「不感帯」に相当する値となっている。
【0052】
つまり、スタンバイ/アシスト判定部54は、上記ステップ203において、目標タイヤ角θt*の値に基づき車両が直進状態にあるか否かを判定し、その直進状態(|θt*|≦β、ステップ203:NO)が、所定時間t以上継続する場合(ステップ206:YES)には、流量制御モードをスタンバイモードとすべく「スタンバイON」と判定する。
【0053】
そして、スタンバイ/アシスト判定部54は、上記ステップ201〜ステップ207の処理を繰り返すことにより、スタンバイ/アシスト判定を実行する。尚、本実施形態では、スタンバイ/アシスト判定部54は、「アシストON」と判定した場合には、スタンバイ/アシスト判定値V_asを「0」、「スタンバイON」と判定した場合には、スタンバイ/アシスト判定値V_asを「1」とする。
【0054】
一方、図5に示すように、流量指令値演算部55には、上記のスタンバイ/アシスト判定部54における判定結果であるスタンバイ/アシスト判定値V_as、及び車速V、並びに目標タイヤ角θt*の角速度、即ち目標タイヤ角速度ωt*が入力される。尚、この目標タイヤ角速度ωt*は、目標タイヤ角θt*を時間で微分することにより算出される(以下同様)。そして、流量指令値演算部55は、車速V及び目標タイヤ角速度ωt*に基づいて、スタンバイ/アシストの各モードに対応する流量指令値Q*を演算する(流量指令値演算)。
【0055】
詳述すると、流量指令値演算部55は、スタンバイモードに対応するスタンバイ流量マップ55aと、アシストモードに対応するアシスト流量マップ55bとを備えている。
スタンバイ流量マップ55aには、流量指令値Q*と車速Vとが関連付けられており、流量指令値演算部55は、スタンバイ/アシスト判定結果が「スタンバイON(V_as=1)」である場合には、このスタンバイ流量マップ55aを用いて、入力された車速Vに対応する流量指令値Q*を算出する。
【0056】
尚、本実施形態では、このスタンバイ流量マップ55aにおいて、流量指令値Q*は、車速Vの値に関わらず所定のスタンバイ流量Qsとなるように設定されている。従って、図9に示すように、スタンバイモードにおいては、車速Vに関わらず、一定の流量指令値Q*(スタンバイ流量Qs)が算出されるようになっている。
【0057】
一方、アシスト流量マップ55bは、流量指令値Q*と車速V及び目標タイヤ角速度ωt*とが関連付けられた3次元マップであり、流量指令値演算部55は、スタンバイ/アシスト判定結果が「アシストON(V_as=0)」である場合には、このアシスト流量マップ55bを用いて、入力された車速V及び目標タイヤ角速度ωt*に対応する流量指令値Q*を算出する。
【0058】
具体的には、このアシスト流量マップ55bにおいて、流量指令値Q*は、車速Vが大となるに従って小となるように設定されている。また、流量指令値Q*は、目標タイヤ角速度ωt*が大となるに従って大となるように設定されている。従って、図9に示すように、アシストモードにおいては、車速Vが大となるほど小さな流量指令値Q*が算出されるとともに、目標タイヤ角速度ωt*が大となるほど大きな流量指令値Q*が算出されるようになっている。
【0059】
電圧指令値演算部58は、入力された流量指令値Q*に基づいて、流量制御弁15のソレノイド29に印加する電圧指令値を演算し、その電圧指令値をPWM制御演算部59に入力する。そして、PWM制御演算部59は、入力された電圧指令値に基づいて電圧制御信号を生成(演算)し駆動回路52に出力する(PWM制御演算)。
【0060】
そして、その電圧制御信号に基づいてソレノイド29に駆動電圧が印加されることにより、流量制御弁15の作動、即ちパワーシリンダ12に供給するフルード流量が制御されるようになっている。
【0061】
即ち、図10のフローチャートに示すように、マイコン51は、状態量として上記各センサからセンサ値を取り込むと(ステップ401)、先ずACT指令角θta*に基づいて、目標タイヤ角θt*及び目標タイヤ角速度ωt*を演算する(ステップ402)。
【0062】
次に、マイコン51は、スタンバイ/アシスト判定を実行し(ステップ403)、続いて流量指令値演算を実行することにより流量指令値Q*を演算する(ステップ404)。そして、その流量指令値Q*に基づいて電圧指令値を演算し(ステップ405)、その電圧指令値に基づき生成した電圧制御信号を駆動回路52へと出力する(ステップ406)。
【0063】
(操舵角センサ異常時)
次に、本実施形態のパワーステアリング装置における操舵角センサ異常時のフェールセーフ制御について説明する。
【0064】
図5に示すように、第1ECU(VFCECU)16側のマイコン51は、操舵角センサ37の出力信号に基づいて同操舵角センサ37の異常を検出するセンサ異常検出部61を備えている。また、本実施形態のパワーステアリング装置1は、ヨーレイト検出手段としてのヨーレイトセンサ62を有しており(図1参照)、このヨーレイトセンサ62により検出されたヨーレイトRyは、車内ネットワーク36を介してマイコン51に入力されるようになっている。そして、マイコン51は、操舵角センサ37に異常が発生した場合には、このヨーレイトRyに基づいて、スタンバイ/アシストモードの切替判定を実行する。
【0065】
詳述すると、センサ異常検出部61の出力する異常検出信号は、ヨーレイトRyとともに、スタンバイ/アシスト判定部54に入力されるようになっている。そして、スタンバイ/アシスト判定部54は、異常検出信号の入力がある、即ち操舵角センサ37に異常が発生した場合には、ヨーレイトRyに基づいて上記スタンバイ/アシスト判定を実行する。
【0066】
具体的には、図11のフローチャートに示すように、スタンバイ/アシスト判定部54は、先ず、異常検出信号の入力があるか否か、即ち操舵角センサに異常が発生したか否かについて判定する(ステップ501)。そして、異常検出信号の入力がある場合(ステップ501:YES)には、検出されたヨーレイトRyの絶対値が所定の閾値βyより大きいか否かについて判定する(ステップ502)。
【0067】
そして、スタンバイ/アシスト判定部54は、ヨーレイトRyの絶対値が所定の閾値βyより大きい場合(|Ry|>βy、ステップ502:YES)には、「アシストON(スタンバイOFF)」と判定し(ステップ503)、ヨーレイトRyの絶対値が所定の閾値βy以下である場合(|Ry|≦βy、ステップ502:NO)には、「スタンバイON(アシストOFF)」と判定する(ステップ504)。
【0068】
尚、上記ステップ501において、異常検出信号の入力がない、即ち操舵角センサ37に異常のない場合(ステップ501:NO)には、スタンバイ/アシスト判定部54は、上記ステップ502〜504の処理を実行しない。そして、図8のフローチャートに示す通常時のスタンバイ/アシスト判定を実行する(ステップ505)。
【0069】
即ち、本実施形態では、スタンバイ/アシスト判定部54は、操舵角センサ37の異常時には、目標タイヤ角θt*に代えて、ヨーレイトRyを用いることにより車両が直進状態にあるか否かの判定を行う(図8中ステップ203参照)。そして、アシスト要求の低い車両直進時(ステップ502:NO)には、流量制御モードを「スタンバイモード」として、ポンプ本体21に還流されるフルードの分配比率を高めるようになっている。
【0070】
このような構成とすれば、操舵角θsを用いることなく、車両が直進状態にあるか否かを判定することができる。従って、操舵角センサ37の異常により目標タイヤ角θt*の演算ができなくなった場合であっても、適切にスタンバイ/アシストモードの切り替えを行うことができ、その結果、フェールセーフ時においても、フルード供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができる。
【0071】
また、本実施形態では、センサ異常検出部61の出力する異常検出信号は、流量指令値演算部55にも入力される。そして、異常検出信号の入力がある場合、流量指令値演算部55は、流量指令値Q*と車速Vとが関連付けられた異常時用のアシスト流量マップ55f(図12参照)を用いて流量指令値演算を実行する。これにより、操舵角センサの異常によるフィールセーフ時においても、車両状態に応じた供給流量を確保して最適なアシスト力を付与することができるようになっている。
【0072】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、ギヤ比可変アクチュエータ30は、ラックアンドピニオン機構4に入力されるステアリングシャフト3の回転を増速(又は減速)することにより伝達比を可変することとした。しかし、これに限らず、ギヤ比可変アクチュエータは、操舵伝達系(ステアリング2から操舵輪6までの間)の何れに設けられてもよい。
【0073】
・本実施形態では、マイコン51は、ACT指令角θta*に基づいて目標タイヤ角θt*を演算する目標タイヤ角演算部53を備え、第1ECU(VFCECU)16は、この目標タイヤ角θt*に基づいて流量可変制御を実行することとした。しかし、これに限らず、ACT角θtaに基づいて操舵輪の実舵角であるタイヤ角θt(図3,4参照)を演算し、目標タイヤ角θt*に代えて、このタイヤ角θtに基づいて流量可変制御を行うこととしてもよい。
【0074】
・本実施形態では、流量制御弁15は、同油圧ポンプ11内に組み込まれ、ポンプポート22からリターンポート23に還流するフルードの分配比率を変化させることにより、同ポンプポート22から圧送されるフルード流量、即ちパワーシリンダ12に供給するフルード流量を変更することとした。しかし、これに限らず、流量制御弁15は、油圧ポンプ11以外の場所に設けてもよい。尚、流量制御弁15の構成は、図2に示すものに限らないことはいうまでもない。
【0075】
・本実施形態では、ヨーレイトセンサ62を設け、操舵角センサ37に異常が発生した場合には、そのヨーレイトRyの絶対値と所定の閾値βyとの比較に基づいてスタンバイ/アシスト判定を行うこととした。しかし、これに限らず、車輪速差検出手段としての車輪速センサを設けて左右の操舵輪6の車輪速差Wdiffを検出し、図13のフローチャートに示すように、その車輪速差Wdiffと所定の閾値βwとの比較(ステップ602)に基づいてスタンバイ/アシスト判定を行う。又は、横方向加速度検出手段としての横方向加速度(横G)センサを設け、図14のフローチャートに示すように、検出された横方向加速度Fsと所定の閾値βsとの比較(ステップ702)に基づいてスタンバイ/アシスト判定を行うこととしてもよい。更に、上記ヨーレイトRy、車輪速差Wdiff及び横方向加速度Fsの任意の組み合わせに基づいてスタンバイ/アシスト判定を行うこととしてもよい。
【0076】
尚、図13のフローチャートにおけるステップ601,603〜605、並びに図14のフローチャートにおけるステップ701,703〜705は、図11に示す本実施形態の操舵角センサ異常時のスタンバイ/アシスト判定の処理手順を示すフローチャートにおけるステップ501,503〜505と同一であるため、その説明を省略する。
【0077】
・本実施形態では、異常検出手段としてのセンサ異常検出部61により操舵角センサ37の異常を検出し、同操舵角センサ37に異常ある場合には、上記ヨーレイトRyに基づくスタンバイ/アシスト判定を行うこととした。しかし、これに限らず、ギヤ比可変アクチュエータ30の異常を検出する第2の異常検出手段を設け、同ギヤ比可変アクチュエータ30の異常を検出した場合にも、上記ヨーレイトRyに基づくスタンバイ/アシスト判定を行うこととしてもよい。
【0078】
このような構成とすれば、ギヤ比可変アクチュエータ30の異常発生時においても、適切にスタンバイ/アシストモードの切り替えを行うことができ、その結果、フェールセーフ時においても、フルード供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0079】
・本実施形態では、操舵角センサ異常時のスタンバイ/アシスト判定においてヨーレイトRyとの比較に用いられる閾値βyは所定の値としたが、公知の車両運動モデルである「2輪モデル」を適用して、通常時の直進状態判定における目標タイヤ角θt*の閾値β(図8中ステップ203参照)をこの閾値βyに換算する構成としてもよい。
【0080】
・また、図15に示すパワーステアリング装置70のように、第1ECU71側のマイコン72に、車速V及びヨーレイトRyに基づいて推定タイヤ角θthを演算する推定舵角演算手段としての推定タイヤ角演算部73を設ける。尚、上記推定タイヤ角θthの演算は、公知の車両モデルを用いて容易に行うことができるため、その説明は省略する。そして、スタンバイ/アシスト判定部74及び流量指令値演算部75は、異常検出信号入力時には、それぞれ、操舵速度ωs、目標タイヤ角θt*、目標タイヤ角速度ωt*に代えて、上記推定タイヤ角演算部73により算出された推定タイヤ角θth、及び同推定タイヤ角θthに基づき算出された推定タイヤ角速度ωth及び推定操舵速度ωshに基づいて、スタンバイ/アシスト判定及び流量指令値演算を実行することととしてもよい。
【0081】
このような構成とすれば、操舵角センサ37の異常により目標タイヤ角θt*の演算ができなくなった場合であっても、スタンバイ/アシストモードの切り替えを含む流量可変制御を続行することができる。その結果、フェールセーフ時においても、車両状態に応じた最適なアシスト力を操舵系に付与しつつ、フルード供給に伴う圧力損失を抑えてエネルギー消費の低減を図ることができるようになる。
【0082】
・本実施形態では、本発明を、伝達比可変装置を備えたパワーステアリング装置に具体化したが、これに限らず、伝達比可変装置の有無によらず、操舵角θsに基づいて上記のような流量可変制御を行う油圧式のパワーステアリング装置に具体化してもよい。
【0083】
・また、操舵輪6の実舵角であるタイヤ角θtを検出するための実舵角センサを備え、検出されたタイヤ角θtに基づいて上記流量可変制御を行うパワーステアリング装置に本発明を具体化してもよい。即ち、実舵角センサの異常を検出する異常検出手段を設け、実舵角センサに異常ある場合には、実舵角に代えて、ヨーレイトRy、車輪速差Wdiff及び横方向加速度Fsのうちの少なくとも一つに基づいてスタンバイ/アシスト判定を行う構成としてもよい。また、上記別例のごとく、推定タイヤ角演算手段を設けて、その推定タイヤ角に基づいてスタンバイ/アシストモードの切り替えを含む流量可変制御を続行する構成としてもよい。
【0084】
・本実施形態では、制御対象毎に第1ECU(VFCECU)16と第2ECU(IFSECU)31との2つのECUを設けたが、これらを統合した一つのECUで流量制御弁15及びギヤ比可変アクチュエータ30の制御を行う構成としてもよい。
【0085】
次に、以上の実施形態から把握することのできる請求項以外の技術的思想を記載する。
(イ)請求項3に記載のパワーステアリング装置において、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有し、前記操舵角に基づいて、前記アシストモード又はスタンバイモードの切替判定を行うとともに、前記操舵角センサの異常検出時には、前記推定舵角に基づいて前記切替判定を行うこと、を特徴とするパワーステアリング装置。
【0086】
(ロ)油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段と、操舵輪の実舵角を検出するための実舵角センサとを備え、前記制御手段は、前記検出された実舵角に基づいて前記流量を変更するパワーステアリング装置であって、前記実舵角センサの異常を検出する異常検出手段と、ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段と、前記ヨーレイト及び車速に基づいて操舵輪の推定舵角を演算する推定舵角演算手段とを備え、前記制御手段は、前記実舵角センサの異常検出時には、前記推定舵角に基づいて前記流量を変更すること、を特徴とするパワーステアリング装置。
【0087】
(ハ)上記(ロ)に記載のパワーステアリング装置において、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有し、前記実舵角に基づいて、車両走行時の前記アシストモード又はスタンバイモードの切替判定を行うとともに、前記実舵角センサの異常検出時には、前記推定舵角に基づいて前記切替判定を行うこと、を特徴とするパワーステアリング装置。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】パワーステアリング装置の概略構成図。
【図2】油圧ポンプ及び流量制御弁の概略構成図。
【図3】ギヤ比可変制御の説明図。
【図4】ギヤ比可変制御の説明図。
【図5】パワーステアリング装置の制御ブロック図。
【図6】第2ECU(IFSECU)側のマイコンによる演算処理手順を示すフローチャート。
【図7】スタンバイ/アシストモードの説明図。
【図8】スタンバイ/アシスト判定の処理手順を示すフローチャート。
【図9】流量指令値演算の説明図。
【図10】第1ECU(VFCECU)側のマイコンによる演算処理手順を示すフローチャート。
【図11】操舵角センサ異常時のスタンバイ/アシスト判定の処理手順を示すフローチャート。
【図12】操舵角センサ異常時用のアシスト流量マップの概略構成図。
【図13】別例のスタンバイ/アシスト判定の処理手順を示すフローチャート。
【図14】別例のスタンバイ/アシスト判定の処理手順を示すフローチャート。
【図15】別例のパワーステアリング装置の制御ブロック図。
【符号の説明】
【0089】
1,70…パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、6…操舵輪、11…油圧ポンプ、12…パワーシリンダ、15…流量制御弁、16,71…第1ECU(VFCECU)、21…ポンプ本体、22…ポンプポート、23…リターンポート、24…可変オリフィス、26…スプール、28…戻り流路、29…ソレノイド、30…ギヤ比可変アクチュエータ、31…第2ECU(IFSECU)、35…モータ、37…操舵角センサ、38…車速センサ、39…回転角センサ、41…マイコン、42…駆動回路、44…ギヤ比可変制御演算部、45…微分ステア制御演算部、46…加算器、51,72…マイコン、52…駆動回路、53…目標タイヤ角演算部、54,74…スタンバイ/アシスト判定部、55,75…流量指令値演算部、55a…スタンバイ流量マップ、55b,55f…アシスト流量マップ、58…電圧指令値演算部、59…PWM制御演算部、61…異常検出部、62…ヨーレイトセンサ、73…推定タイヤ角演算部、Q…供給流量、V…車速、θs…操舵角、ωs…操舵速度、θt…タイヤ角、Q*…流量指令値、Qa…アシスト流量、Qs…スタンバイ流量、θt*…目標タイヤ角、ωt*…目標タイヤ角速度、θta…ACT角、θta*…ACT指令角、θts…ステア転舵角、θgr*…ギヤ比可変ACT指令角、θls*…微分ステアACT指令角、V_as…スタンバイ/アシスト判定値、Ry…ヨーレイト、Wdiff…車輪速差、Fs…横方向加速度(横G)、θth…推定タイヤ角、ωth…推定タイヤ角速度、ωsh…推定操舵速度、α,β,βy,βw,βs…閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段と、ステアリングホイールの操舵角を検出するための操舵角センサとを備え、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有し、前記検出された操舵角に基づいて、前記アシストモード又はスタンバイモードの切替判定を行うパワーステアリング装置であって、
前記操舵角センサの異常を検出する異常検出手段と、
ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段、左右の操舵輪の車輪速差を検出する車輪速差検出手段、及び横方向加速度を検出する横方向加速度検出手段のうちの少なくとも一つを備え、
前記制御手段は、前記操舵角センサの異常検出時には、前記ヨーレイト、車輪速差、及び横方向加速度のうちの少なくとも一つに基づいて、前記切替判定を行うこと、
を特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーステアリング装置において、
前記操舵角に基づく操舵輪の第1の舵角にモータ駆動に基づく前記操舵輪の第2の舵角を上乗せすることにより前記ステアリングホイールと前記操舵輪との間の伝達比を可変させる伝達比可変装置と、
前記操舵角と前記第2の舵角の制御目標量に基づいて前記操舵輪の目標舵角を演算する演算手段と、
前記伝達比可変装置の異常を検出する第2の異常検出手段を備え、
前記制御手段は、前記目標舵角に基づいて前記切替判定を行うとともに、前記伝達比可変装置の異常検出時には、前記ヨーレイト、車輪速差、及び横方向加速度のうちの少なくとも一つに基づいて、前記切替判定を行うこと、を特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項3】
油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段と、ステアリングホイールの操舵角を検出するための操舵角センサとを備え、前記制御手段は、前記検出された操舵角に基づいて前記流量を変更するパワーステアリング装置であって、
前記操舵角センサの異常を検出する異常検出手段と、
ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段と、
前記ヨーレイト及び車速に基づいて操舵輪の推定舵角を演算する推定舵角演算手段とを備え、
前記制御手段は、前記操舵角センサの異常検出時には、前記推定舵角に基づいて前記流量を変更すること、を特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項4】
油圧ポンプと、その油圧に基づいて操舵系にアシスト力を付与するパワーシリンダと、前記油圧ポンプに還流する圧油の分配比率を変化させることにより前記パワーシリンダに供給する圧油の流量を変更可能な流量制御装置と、前記流量制御装置を制御する制御手段と、操舵輪の実舵角を検出するための実舵角センサとを備え、前記制御手段は、前記アシスト力を付与するための前記流量を確保するアシストモードと、前記流量を前記アシストモードにおける流量よりも小とするスタンバイモードとを有し、前記検出された実舵角に基づいて、前記アシストモード又はスタンバイモードの切替判定を行うパワーステアリング装置であって、
前記実舵角センサの異常を検出する異常検出手段と、
ヨーレイトを検出するヨーレイト検出手段、左右の操舵輪の車輪速差を検出する車輪速差検出手段、及び横方向加速度を検出する横方向加速度検出手段のうちの少なくとも一つを備え、
前記制御手段は、前記実舵角センサの異常検出時には、前記ヨーレイト、車輪速差、及び横方向加速度のうちの少なくとも一つに基づいて、前記切替判定を行うこと、
を特徴とするパワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−56448(P2006−56448A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242437(P2004−242437)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】