説明

パワートレインシステムの制御方法及びパワートレインシステム

【課題】ディーゼル機関の燃焼室内が変速完了直後に酸素不足になることを確実に防止する。
【解決手段】ディーゼル機関10の機関速度N1と、ディーゼル機関10に要求される要求トルクα1とを検知し、有段式変速機6の変速が開始されたか否かを判定し、変速が開始された後、変速が完了したか否かを判定し、変速が開始されていないとき、検知された機関速度N1と要求トルクα1とに基づき、ディーゼル機関10の燃焼室内の酸素濃度Mを制御し、変速が開始されたとき、変速が完了したときの機関速度N2と要求トルクα2とを予測し、変速が開始されてから完了するまでの間、予測された変速完了時の機関速度N2と要求トルクα2とに基づき、酸素濃度Mを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル機関と有段式変速機とを備えたパワートレインシステムと、このパワートレインシステムを制御する方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関の燃焼室において過剰の酸素が燃焼すると、燃焼室内が過剰に高温・高圧になり、NOx(窒素酸化物)の発生量が増加してしまうため、燃焼室内の酸素濃度を適正に制御する必要がある。酸素濃度の目標値は、例えば、エンジンの機関速度と、エンジンに要求される要求トルクとに応じて設定される。また、酸素濃度の調節は、例えば、エンジンの排気通路からEGR通路を経由して吸気通路へ戻される排気ガスの流量(EGR量)を調節することなどにより行われる。
【0003】
ところで、有段式変速機の変速中は、エンジンの出力が不要である。そのため、図9の実線に示されるように、変速中(時点t1から時点t2までの時間)は燃焼室内の酸素濃度の目標値が最低値に設定される。変速が完了すると、変速完了時の機関速度および要求トルク等に基づいて新たな目標値が設定される。よって、変速完了時、酸素濃度の目標値が瞬間的に著しく上昇することになる。
【0004】
しかし、燃焼室内の酸素濃度を、変速完了と同時に瞬間的に大きく変化させることは技術的に極めて困難である。図9の破線で示されるように、実際の酸素濃度は、変速完了直後において徐々に上昇するため目標値を大きく下回り、燃焼室内が酸素不足となってしまう。
【0005】
このような問題に鑑みて、特許文献1の例えば段落[0046]に記載された技術では、変速完了直後の燃焼室内の酸素不足が抑制されるように、変速中の酸素濃度(EGR量)が制御される。具体的に、特許文献1の技術では、変速中の酸素濃度が、変速直前の酸素濃度に応じた所定濃度に維持される。かかる技術によれば、変速完了時の酸素濃度の変化量を極力小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−38624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術に係る制御が行われても、変速直前の酸素濃度が顕著に低い場合は、変速中の酸素濃度も低く維持されるため、変速完了時において、実際の酸素濃度が目標値よりも著しく低い状態となることがある。この場合、実際の酸素濃度は直ちに目標値に到達できないため、実際の酸素濃度が目標値に達するまでの間、燃焼室内で酸素不足の状態が続いてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、ディーゼル機関の燃焼室内が変速完了直後に酸素不足になることを確実に防止することを、基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1の発明は、ディーゼル機関と、複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機とを備えたパワートレインシステムを制御する方法であって、
前記ディーゼル機関の機関速度と、前記ディーゼル機関に要求される要求トルクとを検知する工程と、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定する工程と、
前記変速が開始された後、該変速が完了したか否かを判定する工程と、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を制御する工程と、
前記変速が開始されたとき、該変速が完了したときの前記機関速度と前記要求トルクとを予測する工程と、
前記変速が開始されてから完了するまでの間、予測された変速完了時の前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記酸素濃度を制御する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本願の第2の発明に係るパワートレインシステムの制御方法は、第1の発明において、
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、前記有段式変速機の変速パターンが同一である条件下において、前記変速の開始直前に検知された前記要求トルクが大きいほど前記酸素濃度を高く制御することを特徴とする。
【0011】
なお、本明細書において、「変速パターン」とは、変速直前の変速段と変速直後の変速段との組み合わせを意味するものとする。また、本明細書において、「変速の開始直前」とは、変速に先駆けて種々の制御パラメータが大きく変化する直前のことを指し、例えば、手動式変速機を搭載した車両においては、アクセル踏み込み量が所定以上の減少率で減少し始める直前のことを指す。
【0012】
本願の第3の発明に係るパワートレインシステムの制御方法は、第1または第2の発明において、
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、前記変速がシフトアップである場合、前記変速がシフトダウンである場合に比べて、前記酸素濃度を高く制御することを特徴とする。
【0013】
本願の第4の発明に係るパワートレインシステムの制御方法は、第3の発明において、
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、前記変速の開始直前に検知された前記要求トルクが所定トルク以上である場合、前記変速の開始直前に検知された前記要求トルクが前記所定トルクよりも小さい場合に比べて、前記変速がシフトアップである場合の前記酸素濃度と、前記変速がシフトダウンである場合の前記酸素濃度との差が大きくなるように、前記酸素濃度を制御することを特徴とする。
【0014】
本願の第5の発明に係るパワートレインシステムの制御方法は、
ディーゼル機関と、複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機とを備えたパワートレインシステムを制御する方法であって、
前記ディーゼル機関の機関速度と、前記ディーゼル機関に要求される要求トルクとを検知する工程と、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定する工程と、
前記変速の開始後、該変速が完了したか否かを判定する工程と、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を制御する工程と、
前記変速が開始されてから完了するまでの間、該変速の開始直前に検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記酸素濃度を制御する工程と、を有し、
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、
前記変速が任意のシフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度に制御し、
前記変速が任意のシフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前の前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1濃度よりも第1の差だけ低い第2濃度に制御し、
前記変速が前記シフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクよりも小さな第2トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度よりも低い第3濃度に制御し、
前記変速が前記シフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前に検知された前記要求トルクが第2トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1の差よりも大きな第2の差だけ第3濃度よりも低い第4濃度に制御することを特徴とする。
【0015】
本願の第6の発明に係るパワートレインシステムの制御方法は、第1〜第5の発明において、
前記ディーゼル機関の排気通路と吸気通路とに連通する排気再循環通路を通過して前記排気通路から前記吸気通路へ戻される空気量を制御することにより、前記酸素濃度を制御することを特徴とする。
【0016】
本願の第7の発明に係るパワートレインシステムは、
ディーゼル機関と、
複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機と、
前記ディーゼル機関の機関速度を検知する機関速度検知手段と、
前記ディーゼル機関に要求される要求トルクを検知する要求トルク検知手段と、
前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段と、
該酸素濃度調節手段の動作を制御する制御器と、を有し、
該制御器は、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定し、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御し、
前記変速が開始されたとき、該変速が完了したときの前記機関速度と前記要求トルクとを予測して、予測された変速完了時の前記機関速度と前記要求トルクとに基づき前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御することを特徴とする。
【0017】
本願の第8の発明に係るパワートレインシステムは、
ディーゼル機関と、
複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機と、
前記ディーゼル機関の機関速度を検知する機関速度検知手段と、
前記ディーゼル機関に要求される要求トルクを検知する要求トルク検知手段と、
前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段と、
該酸素濃度調節手段の動作を制御する制御器と、を有し、
該制御器は、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定し、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御し、
前記変速が開始されたとき、該変速の開始直前に検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御し、
前記変速が開始されたときに前記酸素濃度調節手段を制御する際、
前記変速が任意のシフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度に制御し、
前記変速が任意のシフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前の前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1濃度よりも第1の差だけ低い第2濃度に制御し、
前記変速が前記シフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクよりも小さな第2トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度よりも低い第3濃度に制御し、
前記変速が前記シフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前に検知された前記要求トルクが第2トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1の差よりも大きな第2の差だけ第3濃度よりも低い第4濃度に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本願の第1の発明によれば、変速が開始されてから完了するまでの間、ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度が、変速開始時に予想される変速完了時の運転状況に応じて制御されるため、変速が完了したとき、燃焼室内の酸素濃度を速やかに適正に制御することができる。よって、変速完了直後における燃焼室内の酸素不足を回避することができる。
【0019】
本願の第2の発明によれば、変速の開始直前の要求トルクに応じて変速中の酸素濃度が制御されるため、変速が完了したとき、変速の開始直前と同等の車輪トルクを速やかに発生させることができる。
【0020】
本願の第3の発明によれば、シフトアップが行われる場合、シフトダウンが行われる場合に比べて、変速中の酸素濃度が高く制御されるため、シフトアップに伴う車輪トルクの低下を補うように、シフトアップ完了時のエンジントルクを高めることができる。
【0021】
本願の第4の発明によれば、変速開始直前の要求トルクが大きいときほど、第3の発明の効果が高められるため、変速が完了したとき、変速前と同等レベルの車両の加速要求が継続される可能性が高いことに対応して、より適切な大きさのエンジントルクを得ることができる。
【0022】
本願の第5の発明によれば、変速中におけるディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度が、変速開始直前の機関速度と要求トルクとに基づき、且つ、変速がシフトアップ又はシフトダウンのいずれであるかに応じて制御されるため、変速が完了したとき、燃焼室内の酸素濃度を速やかに適正に制御することができる。しかも、第5の発明によれば、シフトアップが行われる場合、シフトダウンが行われる場合に比べて、変速中の酸素濃度が高く制御され、且つ、変速開始直前の要求トルクが大きいときほど、シフトダウン中の酸素濃度とシフトアップ中の酸素濃度との差が大きくなるように酸素濃度が制御される。そのため、シフトアップに伴う車輪トルクの低下を補うように、シフトアップ完了時のエンジントルクを高めることを実現しつつ、変速が完了したとき、変速前と同等レベルの車両の加速要求が継続される可能性が高いことに対応して、より適切な大きさのエンジントルクを得ることができる。
【0023】
本願の第6の発明によれば、排気再循環通路を通過して排気通路から吸気通路へ戻される空気を利用して、燃焼室内の酸素濃度を制御することができる。
【0024】
本願の第7の発明によれば、変速が開始されてから完了するまでの間、ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度が、変速開始時に予想される変速完了時の運転状況に応じて制御されるため、変速が完了したとき、燃焼室内の酸素濃度を速やかに適正に制御することができる。よって、変速完了直後における燃焼室内の酸素不足を回避することができる。
【0025】
本願の第8の発明によれば、変速中におけるディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度が、変速開始直前の機関速度と要求トルクとに基づき、且つ、変速がシフトアップ又はシフトダウンのいずれであるかに応じて制御されるため、変速が完了したとき、燃焼室内の酸素濃度を速やかに適正に制御することができる。しかも、第5の発明によれば、シフトアップが行われる場合、シフトダウンが行われる場合に比べて、変速中の酸素濃度が高く制御され、且つ、変速開始直前の要求トルクが大きいときほど、シフトダウン中の酸素濃度とシフトアップ中の酸素濃度との差が大きくなるように酸素濃度が制御される。そのため、シフトアップに伴う車輪トルクの低下を補うように、シフトアップ完了時のエンジントルクを高めることを実現しつつ、変速が完了したとき、変速前と同等レベルの車両の加速要求が継続される可能性が高いことに対応して、より適切な大きさのエンジントルクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るパワートレインシステムを示す概略図である。
【図2】ディーゼルエンジンの吸排気系の構成を示す図である。
【図3】パワートレインシステムの制御系を示すブロック図である。
【図4】時間の経過に伴いシフトアップを行う状況を示すグラフである。
【図5】図4に示す状況に応じて変化するエンジン回転数を示すグラフである。
【図6】酸素濃度の目標値を設定するためのマップの一例である。
【図7】図4に示す状況下における酸素濃度の目標値の推移を示すグラフである。
【図8】酸素濃度を制御するための各処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】従来の制御により設定される酸素濃度の目標値の推移と、実際の酸素濃度の推移とを比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係るパワートレインシステム2の概略構成を示す。パワートレインシステム2は、ディーゼルエンジン10と、有段式変速機6とを備えている。変速機6は、複数の変速段を有し、ディーゼルエンジン10の出力を変速段毎に異なる減速比で減速させて車両の駆動輪8に伝達する。本実施形態において、変速機6は手動式変速機であるが、本発明は自動変速機を使用する場合にも適用することができる。
【0029】
図2は、ディーゼルエンジン10の吸排気系11の一実施形態を示す。吸排気系11は、エンジン10の吸気ガスが通過する吸気通路14と、エンジン10の排気ガスが通過する排気通路12とを有する。
【0030】
吸気通路14には、吸気ガスを清浄化するためのエアクリーナ28と、吸気ガスを冷却するためのインタークーラ26とが設けられている。インタークーラ26は、吸気通路14においてエアクリーナ28よりも下流側に配置されている。
【0031】
排気通路12には、排気ガス中の煤を捕集するパティキュレートフィルタ22と、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を処理(トラップ)して外部へのNOxの排出を抑制するリーンNOxトラップ触媒(以下、「NOx触媒」という。)24とが設けられている。NOx触媒24は、排気通路12においてパティキュレートフィルタ22よりも下流側に配置されている。
【0032】
吸排気系11には排気ターボ過給機20が設けられ、排気ターボ過給機20は、排気通路12に配置されたタービン20aと、吸気通路14に配置されたコンプレッサ20bとを備えている。タービン20aは、排気通路12においてパティキュレートフィルタ22よりも上流側に配置されている。コンプレッサ20bは、吸気通路14においてエアクリーナ28よりも下流側で且つインタークーラ26よりも上流側に配置されている。
【0033】
吸排気系11はまた、エンジン4の排気ガスの一部を排気通路12から吸気通路14に還流するためのEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムを有する。吸排気系11には、EGRシステムを構成するための例えば2つのEGR通路16,18が、それぞれ排気通路12と吸気通路14とに跨って設けられている。
【0034】
一方のEGR通路16は、比較的高圧の排気ガスを還流させるために使用される高圧EGR通路である。高圧EGR通路16は、タービン20aよりも上流側の排気通路12部分と、コンプレッサ20bよりも下流側の吸気通路14部分とを連通させている。具体的に、高圧EGR通路16は、吸気通路14に対してインタークーラ26よりも下流側の部分で連通している。高圧EGR通路16には、この通路16を通過する排気ガスの還流量(以下、「EGR量」ともいう。)を調節するための高圧EGR弁16aが設けられている。
【0035】
他方のEGR通路18は、比較的低圧の排気ガスを還流させるために使用される低圧EGR通路である。低圧EGR通路18は、タービン20aよりも下流側の排気通路12部分と、コンプレッサ20bよりも上流側の吸気通路14部分とを連通させている。具体的に、低圧EGR通路18は、排気通路12に対してパティキュレートフィルタ22よりも下流側で且つNOx触媒24よりも上流側の部分で連通し、吸気通路14に対してエアクリーナ28よりも下流側の部分で連通している。低圧EGR通路18には、この通路18を通過する排気ガスのEGR量を調節するための低圧EGR弁18aと、還流排気ガスを冷却するEGRクーラ18bとが設けられている。
【0036】
また、吸気通路14には負圧調整弁30とスロットル弁32とが設けられている。
【0037】
負圧調整弁30は、吸気通路14におけるエアクリーナ28よりも下流側で且つ低圧EGR通路18との合流部よりも上流側の部分に設けられている。負圧調整弁30は、コンプレッサ20bよりも上流側における吸気通路14内の圧力を調整する弁であり、負圧調整弁30の開度量の制御により吸気通路14への外気の流入量が調節される。低圧EGR通路18を通過する排気ガスのEGR量を調節する際、これに併せて吸気通路14への外気流入量を調節する必要があるため、低圧EGR弁18aの開度量とともに負圧調整弁30の開度量も調整される。
【0038】
スロットル弁32は、吸気通路14におけるインタークーラ26よりも下流側で且つ高圧EGR通路16との合流部よりも上流側の部分に設けられている。スロットル弁32は、エンジン10の吸気量を調節するために用いられる。エンジン10の吸気量は、スロットル弁32を通過する吸気ガスと、高圧EGR通路16を通過する還流排気ガスとの合計量によって決まるため、高圧EGR通路16を通過する排気ガスのEGR量を調節する際は、高圧EGR弁16aの開度量とともにスロットル弁32の開度量も調整される。
【0039】
ディーゼルエンジン10及び吸排気系11に関する種々の制御は、図3に示す制御装置50により行われる。制御装置50は、各種センサから送られる信号に基づき、負圧調整弁30、スロットル弁32、高圧EGR弁16a、低圧EGR弁18a、及びエンジン10の燃料噴射ノズル10bの動作を制御する。
【0040】
制御装置50に信号を送るセンサとしては、例えば、アクセル開度センサ52、エンジン回転数センサ54、変速段センサ60、及びクラッチセンサ62が用いられる。
【0041】
アクセル開度センサ52は、アクセルペダル40の踏み込み位置を検知するセンサであり、エンジン10に要求される要求トルクを検知する要求トルク検知手段として機能する。エンジン回転数センサ54は、エンジン10の回転数を検知するセンサであり、エンジン10の機関速度を検知する機関速度検知手段として機能する。変速段センサ60は、変速機6がいずれの変速段に設定されているかを検知するセンサである。具体的に、変速段センサ60としては、例えば、変速機6のシフト操作のオン・オフを検知するスイッチを変速段毎に設けることが考えられる。クラッチセンサ62は、クラッチ4の接続及び遮断を検知するセンサである。具体的に、クラッチセンサ62としては、クラッチ4が切断されたか否かを検知するクラッチカットスイッチ、クラッチ4が接続されたか否かを検知するクラッチスイッチ、又はクラッチペダル42の踏み込み位置を検知するストロークセンサのいずれか1つ又は複数が使用される。
【0042】
以下、制御装置50によりエンジン10の燃焼室内の酸素濃度Mを制御する構成について説明する。
【0043】
本実施形態において、酸素濃度Mの制御は、EGR通路16,18を通過して排気通路12から吸気通路14へ戻される排気ガスのEGR量を制御することにより行われる。具体的に、酸素濃度Mは、EGR量を多くすることで低下し、EGR量を少なくすることで上昇する。
【0044】
EGR量の制御は、高圧EGR通路16を通過する還流排気ガスの量(高圧EGR量)、又は、低圧EGR通路18を通過する還流排気ガスの量(低圧EGR量)の少なくとも一方を制御することによって行われる。
【0045】
高圧EGR通路16を通過する排気ガスは、高温のままエンジン10の燃焼室に戻されるのに対して、低圧EGR通路18を通過する排気ガスは、EGRクーラ18b及びインタークーラ26によって冷却されてからエンジン10の燃焼室に戻される。そのため、高圧EGR通路16を通過する排気ガスは、低圧EGR通路18を通過する排気ガスに比べて、ガス密度が低い。よって、エンジン10の燃焼室内の酸素量を維持したまま酸素濃度Mをより低くするためには、低圧EGR量を多くすればよい。
【0046】
酸素濃度Mの制御に際しては、酸素濃度Mの目標値MTが適宜設定され、酸素濃度Mが目標値MTに一致するように高圧EGR量または低圧EGR量の少なくとも一方が制御される。
【0047】
図4〜図7を参照しながら、酸素濃度Mの目標値MTを設定する構成について説明する。
【0048】
図4に示すように、変速機6の変速段を第1速に設定した状態でA時点からB時点までの時間に車両を加速させた後、変速機6を第2速に変速し、さらにC時点からD時点までの時間に車両を加速させる状況を想定する。この場合、エンジン10の回転数は、例えば図5に示すように、第1速での加速中に増加し、変速中に著しく減少した後、第2速での加速中に再び増加する。
【0049】
このとき、エンジン10の燃料噴射量は、運転者のアクセルペダル40の踏み込み量に応じて、第1速での加速中には例えば図6の破線Xabで示されるように変化し、第2速での加速中には例えば図6の破線Xcdで示されるように変化する。一方、第1速から第2速への変速中はアクセルペダル40が踏み込まれないため、クラッチ接続状態では燃料噴射量はほぼゼロであり、クラッチ切断状態ではアイドルに必要な量まで噴射量は減少する。
【0050】
図4〜図6に示される状況を想定しつつ、酸素濃度Mの目標値MTを設定する構成について説明する。
【0051】
酸素濃度Mの目標値MTは、エンジン10の回転数と燃料噴射量とに基づき設定される。具体的に説明すると、例えば図6の複数の実線に示されるように、エンジン10の回転数と燃料噴射量とに応じて目標値MTを設定するためのマップが予め制御装置50に記憶されており、変速中でないときは、エンジン10の回転数と燃料噴射量とマップとに基づき目標値MTが適宜設定される。なお、図6のマップにおいて実線で示される複数の目標値MTは、図において上から順に高い値とされる。
【0052】
一方、変速中は燃料噴射量が極めて少なくなるため、酸素濃度Mの目標値MTは、非変速時とは別の方法で設定される。変速中のクラッチ接続状態ではエンジン10の燃焼室内で燃料を燃焼させる必要がないため、従来は、例えば図7の一点鎖線で示されるように、変速中(時点Bから時点Cまでの間)の目標値MTは最低値に設定されていた。しかし、このように変速中の目標値MTを設定すると、変速完了時(時点C)に目標値MTが瞬間的に著しく上昇するため、実際の酸素濃度Mが目標値MTに追いつくまでの間、エンジン10の燃焼室内が酸素不足になる不具合がある(図9参照)。
【0053】
そのため、本実施形態においては、変速が開始されたときに変速完了時のエンジン回転数と燃料噴射量とが予測され、変速が開始されてから完了するまでの間は、予測された変速完了時のエンジン回転数と燃料噴射量とに応じた目標値MTが例えば図6のマップに基づき設定され、この目標値MTに一致するように酸素濃度Mが制御される。
【0054】
なお、本実施形態では、変速機6の変速段が次の変速段に切り替えられることを「変速の開始」といい、変速段の切り替え後にクラッチを接続することを「変速の完了」というものとする。
【0055】
上記のような予測に基づき変速中の酸素濃度Mの目標値MTを設定することで、図7の実線で示されるように、変速完了時(時点C)に目標値MTがほとんど変化しないため、変速が完了したとき、実際の酸素濃度Mを迅速に目標値MTに一致させることができ、エンジン10の燃焼室に十分な量の酸素を供給することができる。
【0056】
変速完了時のエンジン回転数および燃料噴射量は、変速開始直前のエンジン回転数、変速開始直前の燃料噴射量、及び変速パターン(変速前後の変速段)等に基づき予測され、これに応じて変速中の酸素濃度Mの目標値MTが設定される。
【0057】
具体的に説明すると、例えば、変速パターンが同一である条件下において、変速開始直前に検知された燃料噴射量が大きいほど、変速完了時の燃料噴射量も大きいと予測され、これに応じて変速中の酸素濃度Mの目標値MTが高く設定される。これにより、変速完了時、変速開始直前と同等の車輪トルクを速やかに発生させることができるように、酸素濃度Mが速やかに適正に制御される。
【0058】
続いて、変速が任意のシフトアップであり、且つ、シフトアップ開始直前に検知されたエンジン回転数が第1速度であり、且つ、シフトアップ開始直前に検知された燃料噴射量が第1の検知量であるとき、シフトアップ完了時の燃料噴射量が第1の予測量であると予測される場合を想定する。この場合、変速が任意のシフトダウンであり、且つ、シフトダウン開始直前に検知されたエンジン回転数が第1速度であり、且つ、シフトダウン開始直前に検知された燃料噴射量が第1の検知量であるとき、シフトダウン完了時の燃料噴射量は、第1の予測量よりも第1の差だけ小さな第2の予測量であると予測される。すなわち、変速がシフトアップである場合、変速がシフトダウンである場合に比べて、変速完了時の燃料噴射量が大きいと予測され、これに伴い変速中の酸素濃度Mの目標値MTも高く設定される。よって、シフトアップ完了時、高いエンジントルクが得られるように、酸素濃度Mが速やかに適正に制御される。
【0059】
また、上記のように想定した場合、変速が上記と同一パターンのシフトアップであり、且つ、シフトアップ開始直前に検知されたエンジン回転数が第1速度であり、且つ、シフトアップ開始直前に検知された燃料噴射量が第1の検知量よりも小さな第2の検知量であるとき、シフトアップ完了時の燃料噴射量は、第1の予測量よりも小さな第3の予測量であると予測される。さらに、変速が上記同一パターンのシフトダウンであり、且つ、シフトダウン開始直前に検知されたエンジン回転数が第1速度であり、且つ、シフトダウン開始直前に検知された燃料噴射量が第2の検知量であるとき、シフトダウン完了時の燃料噴射量は、第1の差よりも大きな第2の差だけ第3の予測量よりも小さな第4の予測量であると予測される。すなわち、変速開始直前に検知された燃料噴射量が所定量以上である場合、変速開始直前に検知された燃料噴射量が前記所定量よりも小さい場合に比べて、変速完了時の燃料噴射量が、変速がシフトアップである場合と変速がシフトダウンである場合との差が大きくなるように予測される。かかる予測により、変速中の酸素濃度Mの目標値MTは、変速開始直前の燃料噴射量が大きいほどシフトアップである場合とシフトダウンである場合との差が大きくなるように設定される。そのため、シフトアップ開始直前の燃料噴射量が大きいときほど、シフトアップ完了時に得られるエンジントルクが高くなるように、変速中の酸素濃度Mが制御される。
【0060】
以下、図8に示すフローチャートを参照しながら、酸素濃度Mを制御するための具体的な処理の流れについて説明する。
【0061】
先ず、ステップS1において、各種センサから送られる信号が読み込まれる。具体的には、アクセル開度センサ52により検知されたアクセル開度α1、エンジン回転数センサ54により検知されたエンジン10の回転数N1、変速段センサ60により検知された変速段の情報、及び、クラッチセンサ62により検知されたクラッチ4のオン・オフの情報が読み込まれる。ステップS1ではまた、読み込まれた各種情報が記憶される。
【0062】
続くステップS2では、ステップS1で読み込まれたアクセル開度α1とエンジン回転数N1とに基づき、予め設定された計算式又はマップにより、エンジン10の燃料噴射量の目標値FPと、燃料噴射のタイミングとが算出される。
【0063】
次のステップS3では、変速フラグFが立てられている(F=1にセットされている)か否かが判断される。変速フラグFは、変速中であるか否かを判定するためのフラグであり、後述のステップS4で変速が開始されたと判定されたときにフラグFが立てられ(F=1にセットされ)、後述のステップS11で変速が完了したと判定されるとフラグFがオフにされる(F=0にセットされる)。
【0064】
ステップS3において、変速フラグFが立てられていない、すなわち、変速中でないと判断されるとステップS4に進む。
【0065】
ステップS4では、変速が開始されたか否か、すなわち変速機6の変速段が変更されたか否かが判断される。具体的には、今回のルーチンのステップS1で読み込まれた変速段の情報が、前回のルーチンのステップS1で読み込まれた変速段の情報と異なるか否かによって、変速段の開始の有無が判断される。
【0066】
ステップS4において、変速が開始されていないと判断されると、ステップS5〜ステップS7において基本制御が行われる。
【0067】
具体的に、ステップS5では、ステップS1で読み込まれたアクセル開度α1とエンジン回転数N1とに基づき、予め設定された例えば図6に示すマップによりエンジン10の燃焼室内の酸素濃度Mの目標値MTが算出される。
【0068】
続くステップS6では、ステップS5で算出された酸素濃度Mの目標値MTと、ステップS2で算出された燃料噴射量の目標値FPと、ステップS1で読み込まれたエンジン回転数E1とに基づき、負圧調整弁30、スロットル弁32、高圧EGR弁16a及び低圧EGR弁18aの開度が算出される。
【0069】
さらに続くステップS7では、ステップS2とステップS6で算出された制御パラメータに基づき、各種アクチュエータが制御される。具体的には、燃料噴射量がステップS2で算出された目標値FPとなるように、且つ、噴射タイミングがステップS2で算出されたタイミングとなるように燃料噴射ノズル10bが制御され、吸排気系11の各種バルブ16a,18a,30,32がステップS6で算出された開度に制御される。これにより、エンジン10の燃焼室内の酸素濃度Mが、非変速時の運転状況に応じた適切な濃度に制御される。
【0070】
一方、ステップS4において、変速が開始されたと判断されるとステップS8に進み、変速フラグFが立てられる(F=1にセットされる)。
【0071】
次のステップS9では、変速完了時のアクセル開度α2とエンジン回転数E2とが予測される。具体的には、例えば、変速直前のアクセル開度と、変速直前のエンジン回転数と、変速パターン(変速前後の変速段)と、に基づき、変速パターン毎に予め設定されたマップにより、変速完了時のアクセル開度α2とエンジン回転数E2とが予測される。
【0072】
続くステップS10では、ステップS9で予測された変速完了時のアクセル開度α2とエンジン回転数E2とに基づき、例えば図6に示すマップにより酸素濃度Mの目標値MTが算出される。
【0073】
ステップS10において、ステップS9の予測に基づいた酸素濃度Mの目標値MTが算出されると、上述の基本制御と同様、ステップS6及びステップS7の処理が行われる。これにより、変速中におけるエンジン10の燃焼室内の酸素濃度Mは、変速完了時の運転状況に対応した濃度に制御される。
【0074】
このようにして変速中の酸素濃度Mの制御が開始されると、次回のルーチンのステップS3では、変速フラグFが立てられている、すなわち、変速中であると判断される。
【0075】
ステップS3において、変速フラグFが立てられていると判断されるとステップS11に進む。
【0076】
ステップS11では、変速が完了したか否かが判断される。具体的には、変速段を切り替えるために遮断されていたクラッチ4が再接続されたか否かが判断される。
【0077】
ステップS11で変速が完了したと判断されると、ステップS13で変速フラグFがオフにされて(F=0にセットされて)、ステップS4に進み、上述の各処理が行われる。
【0078】
一方、ステップS11で変速が完了していないと判断されると、ステップS12において、酸素濃度Mの目標値MTが、ステップS10で算出された値に固定された後、上述したステップS6とステップS7の処理がなされる。これにより、変速が開始してから変速が完了するまでの間、エンジン10の燃焼室内の酸素濃度Mは、予測される変速完了時の運転状況に応じた濃度に維持されるため、変速完了時、酸素濃度Mを大きく上昇させる必要がない。そのため、変速完了直後において燃焼室内の酸素不足が生じることを回避することができる。
【0079】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0080】
2:パワートレインシステム、4:クラッチ、6:有段式変速機、8:車輪、10:ディーゼルエンジン、10b:燃料噴射ノズル、11:吸排気系、12:排気経路、14:吸気経路、16:高圧EGR通路、16a:高圧EGR弁、18:低圧EGR通路、18a:低圧EGR弁、30:負圧調整弁、32:スロットル弁、40:アクセルペダル、42:クラッチペダル、50:制御装置、52:アクセル開度センサ、54:エンジン回転数センサ、60:変速段センサ、62:クラッチセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル機関と、複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機とを備えたパワートレインシステムを制御する方法であって、
前記ディーゼル機関の機関速度と、前記ディーゼル機関に要求される要求トルクとを検知する工程と、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定する工程と、
前記変速が開始された後、該変速が完了したか否かを判定する工程と、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を制御する工程と、
前記変速が開始されたとき、該変速が完了したときの前記機関速度と前記要求トルクとを予測する工程と、
前記変速が開始されてから完了するまでの間、予測された変速完了時の前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記酸素濃度を制御する工程と、を有することを特徴とするパワートレインシステムの制御方法。
【請求項2】
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、前記有段式変速機の変速パターンが同一である条件下において、前記変速の開始直前に検知された前記要求トルクが大きいほど前記酸素濃度を高く制御することを特徴とする請求項1に記載のパワートレインシステムの制御方法。
【請求項3】
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、前記変速がシフトアップである場合、前記変速がシフトダウンである場合に比べて、前記酸素濃度を高く制御することを特徴とする請求項1または2に記載のパワートレインシステムの制御方法。
【請求項4】
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、前記変速の開始直前に検知された前記要求トルクが所定トルク以上である場合、前記変速の開始直前に検知された前記要求トルクが前記所定トルクよりも小さい場合に比べて、前記変速がシフトアップである場合の前記酸素濃度と、前記変速がシフトダウンである場合の前記酸素濃度との差が大きくなるように、前記酸素濃度を制御することを特徴とする請求項3に記載のパワートレインシステムの制御方法。
【請求項5】
ディーゼル機関と、複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機とを備えたパワートレインシステムを制御する方法であって、
前記ディーゼル機関の機関速度と、前記ディーゼル機関に要求される要求トルクとを検知する工程と、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定する工程と、
前記変速の開始後、該変速が完了したか否かを判定する工程と、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を制御する工程と、
前記変速が開始されてから完了するまでの間、該変速の開始直前に検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記酸素濃度を制御する工程と、を有し、
前記変速が開始されてから完了するまでの間に前記酸素濃度を制御する工程において、
前記変速が任意のシフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度に制御し、
前記変速が任意のシフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前の前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1濃度よりも第1の差だけ低い第2濃度に制御し、
前記変速が前記シフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクよりも小さな第2トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度よりも低い第3濃度に制御し、
前記変速が前記シフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前に検知された前記要求トルクが第2トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1の差よりも大きな第2の差だけ第3濃度よりも低い第4濃度に制御することを特徴とするパワートレインシステムの制御方法。
【請求項6】
前記ディーゼル機関の排気通路と吸気通路とに連通する排気再循環通路を通過して前記排気通路から前記吸気通路へ戻される空気量を制御することにより、前記酸素濃度を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のパワートレインシステムの制御方法。
【請求項7】
ディーゼル機関と、
複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機と、
前記ディーゼル機関の機関速度を検知する機関速度検知手段と、
前記ディーゼル機関に要求される要求トルクを検知する要求トルク検知手段と、
前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段と、
該酸素濃度調節手段の動作を制御する制御器と、を有し、
該制御器は、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定し、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御し、
前記変速が開始されたとき、該変速が完了したときの前記機関速度と前記要求トルクとを予測して、予測された変速完了時の前記機関速度と前記要求トルクとに基づき前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御することを特徴とするパワートレインシステム。
【請求項8】
ディーゼル機関と、
複数の変速段を有し且つ変速段毎に異なる減速比で前記ディーゼル機関の出力を減速させる有段式変速機と、
前記ディーゼル機関の機関速度を検知する機関速度検知手段と、
前記ディーゼル機関に要求される要求トルクを検知する要求トルク検知手段と、
前記ディーゼル機関の燃焼室内の酸素濃度を調節する酸素濃度調節手段と、
該酸素濃度調節手段の動作を制御する制御器と、を有し、
該制御器は、
前記有段式変速機の変速が開始されたか否かを判定し、
前記変速が開始されていないとき、検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御し、
前記変速が開始されたとき、該変速の開始直前に検知された前記機関速度と前記要求トルクとに基づき、前記酸素濃度を調節するように前記酸素濃度調節手段を制御し、
前記変速が開始されたときに前記酸素濃度調節手段を制御する際、
前記変速が任意のシフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度に制御し、
前記変速が任意のシフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前の前記要求トルクが第1トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1濃度よりも第1の差だけ低い第2濃度に制御し、
前記変速が前記シフトアップであり、且つ、該シフトアップの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトアップの開始直前に検知された前記要求トルクが第1トルクよりも小さな第2トルクであるとき、前記酸素濃度を第1濃度よりも低い第3濃度に制御し、
前記変速が前記シフトダウンであり、且つ、該シフトダウンの開始直前に検知された前記機関速度が第1速度であり、且つ、前記シフトダウンの開始直前に検知された前記要求トルクが第2トルクであるとき、前記酸素濃度を、第1の差よりも大きな第2の差だけ第3濃度よりも低い第4濃度に制御することを特徴とするパワートレインシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−261377(P2010−261377A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113443(P2009−113443)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】