説明

パワーモジュール及びその製造方法

【課題】効果的に部分放電を抑止できる絶縁膜を被覆することで、動作信頼性を向上させるとともに、小型化が可能になるパワーモジュール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】パワーモジュールは絶縁基板1と、絶縁基板1上に形成された導体パターン2と、導体パターン2と接合部材により接続された半導体チップより構成される。半導体チップ上面には電極5が形成されており、パワーモジュールは電極5と、前記半導体チップ外周端面と、前記半導体チップ外周端面と連続する前記接合部材と、導体パターン2と、絶縁基板1の表面とを被覆し、無機材料からなる絶縁膜6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーモジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2等には、絶縁基板に導体パターンを形成し、導体パターン上に半導体チップを接合部材で接続し、半導体チップ上面に形成された電極に電極と導体パターンとを接続する金属ワイヤを結んだパワーモジュールにおいて、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や上記熱硬化性樹脂にアルミナ、シリカ等の無機粒子を含有させた絶縁体を導体パターン端部に被覆する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−51170号公報
【特許文献2】特開平11−297869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パワーモジュールの動作信頼性を阻害する要因の一つにパワーモジュール内部での部分放電の発生がある。特許文献1、特許文献2では、部分放電を抑制するために、導体パターン端部を樹脂で被覆している。しかし、樹脂は被覆する際の膜厚制御が難しく、導体パターン端部に絶縁体を均一に被覆できないため、製品ごとで部分放電抑止効果が大きくばらつく。樹脂による被覆だけでは、部分放電抑止が不十分であるため、パワーモジュールの動作信頼性を確保するためには絶縁沿面距離を大きく設定せざるを得ない。そのため、モジュール設計の自由度が低く、モジュール小型化を阻害する要因になっている。
【0005】
また、パワーモジュールの駆動時には、半導体チップが発熱と冷却を繰り返す。金属ワイヤと半導体チップとの熱望楼率の差に応じた熱応力が電極と金属ワイヤの接合部に発生し、電極と金属ワイヤの接合部において亀裂が進展し、剥離が生じる可能性があり、信頼性の向上が必要であった。
【0006】
上記問題点に鑑み本発明では、効果的に部分放電を抑止できる絶縁膜を被覆することで、パワーモジュールの動作信頼性を向上させるとともに、絶縁沿面距離を小さくすることによるパワーモジュールの小型化が可能になる技術を提供することを目的とする。
【0007】
また、他の観点における本発明では、電極と金属ワイヤの接合部を補強することで、動作の信頼性を確保する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、絶縁基板と、前記絶縁基板上に形成された導体パターンと、前記導体パターンと接合部材により接続された半導体チップと、前記半導体チップ上面に形成された電極と、前記電極と、前記半導体チップと、前記接合部材と、前記導体パターンと、前記絶縁基板の表面とを被覆し、無機材料からなる絶縁膜とを備えることを特徴とするパワーモジュールを提供する。
【0009】
また、他の観点における本発明は、絶縁基板と、前記絶縁基板上に形成された導体パターンと、前記導体パターンと接合部材により接続された半導体チップと、前記半導体チップ上面に形成された電極と、前記電極と前記導体パターンとを接続する金属ワイヤと、前記金属ワイヤと前記電極の接合部の少なくとも一部を被覆する無機材料からなる無機膜とを備えることを特徴とするパワーモジュールを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、効果的に部分放電を抑止できる絶縁膜を被覆することで、パワーモジュールの動作信頼性が向上するとともに、絶縁沿面距離を小さくすることによるパワーモジュールの小型化が可能となる。
【0011】
また、他の観点における本発明によれば、電極と金属ワイヤの接合部を補強することで、動作の信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1によるパワーモジュールの模式平面図。
【図2】図1の断面Aにおける模式断面図。
【図3(a)】実施例1の変形例を示すパワーモジュールの模式図。
【図3(b)】実施例1の変形例を示すパワーモジュールの模式図。
【図3(c)】実施例1の変形例を示すパワーモジュールの模式図。
【図3(d)】実施例1の変形例を示すパワーモジュールの模式図。
【図4】実施例1によるパワーモジュールの模式断面図。
【図5】エアロゾルデポジション装置の構成説明図。
【図6】図4の断面Bにおける断面SEM画像。
【図7】図4の断面Cにおける断面SEM画像。
【図8】実施例1のパワーモジュールの絶縁特性を従来構造のそれと比較した結果を示す図。
【図9】実施例2によるパワーモジュールの模式断面図。
【図10】従来構造のパワーモジュールの模式断面図。
【図11】実施例4によるパワーモジュールの模式平面図。
【図12(a)】図11の断面Dにおける模式断面図。
【図12(b)】図11の断面Eにおける模式断面図。
【図13(a)】実施例4の変形例を示すパワーモジュールの模式図。
【図13(b)】実施例4の変形例を示すパワーモジュールの模式図。
【図14】実施例4によるパワーモジュールの断面SEM像。
【図15】図14の拡大SEM像。
【図16】実施例5によるパワーモジュールの模式平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図10は、従来におけるパワーモジュールの模式断面図である。図10に示すように、絶縁基板1に導体パターン2を形成し、導体パターン2上に半導体チップ4を接合部材3aで接続し、半導体チップ4上面に形成された電極5に金属ワイヤ9を結んでいる。絶縁基板1の導体パターン形成面の裏面に形成された接地電極7は金属製の放熱板8と接合部材3bにより接合される。放熱板8の外周に設置されたケース10の内部に絶縁性ゲル剤11を流し込み封止している。
【0014】
パワーモジュールの動作信頼性を阻害する要因の一つにパワーモジュール内部での部分放電の発生がある。動作時のパワーモジュールでは、導体パターン2や電極5と接地された放熱板8の間に数kVの電位差が存在するため、パワーモジュール内部の絶縁特性が不十分であると、導体パターンや電極と放熱板間に部分放電が発生する。パワーモジュール動作時に部分放電が発生するとパワーモジュールとしての性能が得られないだけでなく、部分放電を繰り返すことで絶縁破壊も招く。そのため、十分な絶縁特性を保証する設計を施すことで部分放電を抑止する必要がある。絶縁特性の向上を実現する手段としては、放熱板と導体パターン間、または導体パターン間の絶縁沿面距離を大きく設定することが一般的に知られている。
【0015】
しかし、導体パターンや半導体チップに付着した金属異物、導体パターン形成時にできた絶縁基板上の金属残渣などの表面汚染が存在すると、動作電圧に対して絶縁沿面距離を十分に設定しても、表面汚染を経由して部分放電が発生する場合がある。
【0016】
そこで、特許文献1、2に示すように部分放電を抑制するために、導体パターン端部を樹脂で被覆し絶縁特性を向上させる方法が考案されている。
【0017】
しかし、樹脂は被覆する際の膜厚制御が難しく、導体パターン端部に絶縁体を均一に被覆できないため、製品ごとで部分放電抑止効果が大きくばらつく。樹脂による被覆だけでは、部分放電抑止が不十分であるため、パワーモジュールの動作信頼性を確保するためには絶縁沿面距離を大きく設定せざるを得ない。そのため、モジュール設計の自由度が低く、モジュール小型化を阻害する要因になっている。
【0018】
以下、そこで、上記問題点に鑑みなされた本発明に係る各実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明の実施例1におけるパワーモジュールの模式平面図であり、図2は図1の断面Aにおける模式断面図である。絶縁基板1は金属からなる放熱板8と半導体チップ4を電気的に絶縁するための熱伝導性に優れたセラミックスからなる。絶縁基板1に形成された導体パターン2は半導体チップ4と接合部材3aにより接合される。半導体チップ4としては、IGBTなどのパワー半導体チップやこれらのパワー半導体チップを制御するための制御回路用半導体チップが挙げられる。接地電極7は、通常接地電位であり、放熱板8と接合部材3bで接合される。接合部材3a、3bとしては、はんだや銀などの金属、及び樹脂に銀を加えた銀ペーストなどが挙げられる。半導体チップ4上面には、電極5が形成されており、金属ワイヤ9が接合される。そして、半導体チップ4上面に形成された電極5、及び半導体チップ4外周端面を含み、半導体チップ4外周端面と連続する接合部材3a、導体パターン2、絶縁基板1の表面をセラミックスなどの無機材料からなる絶縁膜6で被覆する。絶縁膜に使用する無機材料としては、電気的に絶縁性であれば、従来公知のいずれの材料も使用できる。例えば、酸化アルミニウム等の酸化物系セラミックス、または窒化アルミニウムや窒化珪素等の窒化物系セラミックス等が挙げられるが、絶縁特性、大気中での取り扱い、及びコストの点において、酸化アルミニウムが望ましい。絶縁膜6は、絶縁基板1の表面の一部を含んでいれば良く、図3(a)に示すように絶縁膜6が絶縁基板1の端部まで被覆する場合、図3(b)に示すように絶縁膜6が放熱板8と対向する絶縁基板表面まで被覆する場合も本実施例に含まれる。また、図3(c)に示すように、絶縁膜6が接地電極7や放熱板8の一部を被覆していても良い。部分放電は電極5または導体パターン2から接地電位に向かって生じるため、接地電位である接地電極7や放熱板8を被覆することで、部分放電の抑制効果がさらに得られる。本発明は、絶縁膜6が半導体チップ4の外周端部を全て被覆する必要はなく、絶縁膜6が半導体チップ4の外周端部の一部のみを被覆していても、表面汚染に起因する部分放電の抑止効果がある。また、図3(d)のように、絶縁膜6を半導体チップ4に対して複数に分割して成膜しても良い。
【0020】
半導体チップ上面の電極から、絶縁基板までを無機材料の絶縁膜により一括して被覆することで、部分放電発生箇所である電極端部、及び導体パターン端部を同時に被覆し、部分放電を効果的に抑止できる。さらに、従来の構造に比べ広い領域に膜厚が制御された絶縁膜を被覆することで、付着金属異物や金属残渣などの表面汚染に起因する部分放電に対しても十分な絶縁特性を保つことができる。絶縁膜の膜厚制御が容易であるため、絶縁膜の絶縁特性をもとに部分放電を確実に抑制する設計が可能になる。したがって、従来の構造よりも小さな絶縁沿面距離で絶縁仕様を満足できるようになり、パワーモジュールの小型化が可能となる。
【0021】
ここで、実施例1におけるパワーモジュールを製造方法について説明する。図4に模式断面図を示す。このパワーモジュールの構成について説明する。絶縁基板1は窒化シリコン焼結基板であり、絶縁基板の両面にはそれぞれ銅板が導体パターン2及び接地電極7として接合されている。導体パターン上にはIGBT、及びIGBTを制御するための制御回路用半導体チップが配置されている。これらの半導体チップ4は高温はんだ3aにより導体パターン2に接続される。半導体チップ4上面にはアルミ電極5が形成されており、半導体チップ4間および、半導体チップ4と導体パターン2がアルミワイヤ9により結線される。接地電極7は銅の放熱板8と低温はんだ3bにより接続される。そして、電極5、及び半導体チップ4外周端面を含み、半導体チップ4外周端面と連続する接合部材3a、導体パターン2、絶縁基板1の表面を無機材料の絶縁膜6で被覆する。無機材料として、絶縁性セラミックスである酸化アルミニウムを使用した。絶縁膜6はエアロゾルデポジション法により成膜した。その後、放熱板8の周囲にケース10を接着させ、シリコン系の絶縁性ゲル剤11を充填して硬化させた後、上部を封止してモジュールを完成させる。
【0022】
次に、エアロゾルデポジション法による成膜方法を説明する。エアロゾルデポジション装置の構成説明図を図5に示す。高圧ガスボンベ21を開栓し、搬送ガスをガス搬送管22を通してエアロゾル発生器23に導入させる。エアロゾル発生器23にはあらかじめ酸化アルミニウムの微粒子を入れており、搬送ガスと混合されることで、酸化アルミニウム微粒子を含むエアロゾルが発生する。使用可能な搬送ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。エアロゾルは、搬送管24を通してノズル26へと送られ、XYステージ27に設置された基板28に向けてノズルの開口より高速で噴出される。このとき真空ポンプ29の作動により、真空チャンバー25内は数100Paの減圧となる。原料粉末として平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム微粒子を使用し、搬送ガスとして窒素ガスを3〜15L/minの流量で装置内に流した。
【0023】
作製したパワーモジュールの電極端部(図4の断面B)、及び導体パターン端部(図4の断面C)での絶縁膜の断面SEM画像を図6、図7にそれぞれ示す。下地との接合界面、及び膜中にボイドのない緻密な膜が成膜された。図6、図7に示す絶縁膜の膜厚は約10μmであるが、膜厚は成膜条件を変えることで容易に制御可能である。
【0024】
図8は実施例1におけるパワーモジュールの絶縁特性を絶縁破壊電圧で示し、導体パターン端部を樹脂で被覆した従来構造のパワーモジュールのそれと比較した結果を示している。従来構造の場合、絶縁破壊電圧のばらつきが大きい。これは導体パターン端部に樹脂が均一に被覆されておらず、製品ごとにその絶縁特性がばらつくためである。パワーモジュールの絶縁設計をするうえでは、ばらつきの最低値を考慮しなければならず、結果として十分な絶縁特性を保持させるためには、絶縁沿面距離を大きくするなどの手段が必要となる。一方、本実施例の構造では、絶縁破壊電圧が従来構造に比べ大きいうえ、そのばらつきも小さい。これは、半導体チップ上面の電極から、絶縁基板までを絶縁膜で一括して被覆することで、部分放電発生箇所である電極端部、及び導体パターン端部を同時に被覆しできるうえ、従来の構造に比べ広い領域に絶縁膜を被覆することで、付着金属異物や金属残渣などの表面汚染に起因する放電に対しても十分な絶縁特性をもつためである。また、絶縁膜の膜厚制御が容易であり、均一な絶縁膜を被覆できるため、絶縁破壊電圧のばらつきも小さい。本実施例におけるパワーモジュールでは、絶縁膜の絶縁特性をもとに部分放電を確実に抑制する設計が可能になる。したがって、従来の構造に比べパワーモジュールの動作信頼性が向上するとともに、小さな絶縁沿面距離で絶縁仕様を満足できるようになるため、パワーモジュールの小型化が可能となる。
【実施例2】
【0025】
図9を用いて、本発明の実施例2を説明する。本実施例では実施例1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。図9は実施例2におけるパワーモジュールの模式断面図である。実施例2においては、実施例1に記載の絶縁膜6が、半導体チップ4上面に形成された電気的に独立した複数の電極5a、5bの表面、及び電極5aと電極5bの間を被覆していること以外は実施例1と同様に構成される。
【0026】
半導体チップ4上面に電気的に独立した複数の電極5a、5bが形成されている場合、電極間に十分な絶縁を保障する距離をとらなければならない。半導体チップ上の電極間を無機材料からなる絶縁膜で被覆することで、電極間の絶縁強化が可能になる。膜厚が制御された絶縁膜を被覆することで、十分な絶縁特性を確保できる設計が可能になるため、従来構造よりも電極間の距離を小さく設定できる。これにより、電極パターンの微細化、さらにはモジュールの小型化が可能となる。
【実施例3】
【0027】
実施例3においては、実施例1に記載の絶縁膜6を構成する無機材料が1種類の無機材料又は2種類以上の無機材料の複合物からなり、上記絶縁膜6が導体パターン2の熱膨張率より小さい値の熱膨張率を有すること以外は実施例1と同様に構成される。
【0028】
絶縁膜6は半導体チップ4、導体パターン2、絶縁基板1などの複数の基材に成膜されており、これらの基材はそれぞれ熱膨張率が異なる。例えば、半導体チップに使われる珪素の熱膨張率は3ppm/℃程度、導体パターンに使われる銅の熱膨張率は17ppm/℃程度、絶縁基板に使われる窒化珪素の熱膨張率は3ppm/℃程度である。パワーモジュールの駆動時は、半導体チップ4が発熱、冷却を繰り返す。したがって、このような熱サイクルの下では、絶縁膜6と基材間の界面に熱膨張率の差に応じた熱応力が発生する。この熱応力は、絶縁膜の剥離や、絶縁膜中の欠陥導入による部分放電抑制効果の低下を引き起こす可能性がある。そこで、絶縁膜6の熱膨張率を基材に近づけ、絶縁膜6と基材との界面に働く熱応力を最小限に抑える必要がある。半導体チップ4、導体パターン2、絶縁基板1の熱膨張率をαc、αe、αsとすると、一般に熱膨張率にはαc、αs<αeの大小関係がある。したがって、絶縁膜6の熱膨張率をαiとしたとき、αc、αs<αi<αeとなるような無機材料を絶縁膜として選択すれば、絶縁膜6と各基材間の熱膨張率の差を均等に低減することができる。例えば、半導体チップに珪素(熱膨張率は3ppm/℃程度)、導体パターンに銅(熱膨張率17ppm/℃程度)、絶縁基板に窒化珪素(熱膨張率3ppm/℃程度)を使用した場合、酸化アルミニウム(熱膨張率7ppm/℃程度)、窒化アルミニウム(熱膨張率5ppm/℃程度)等が絶縁膜として適している。
【0029】
絶縁膜6の熱膨張率は、成膜に用いる原料粉末の熱膨張率と等しい。熱膨張率が異なる2種類以上の無機材料の混合粉末を原料粉末に用いることにより、その混合比に応じた熱膨張率を有する絶縁膜が得られる。そのため、パワーモジュールに使われる導体パターンや絶縁基板の熱膨張率に応じて、適切な熱膨張率をもつ絶縁膜を形成することができる。さらに、成膜箇所に応じて、絶縁膜の熱膨張率を変化させることも可能である。つまり、原料粉末の混合比を変化させながら絶縁膜を成膜することで、絶縁膜の熱膨張率が絶縁基板上では絶縁基板の熱膨張率に近く、導体パターン上では導体パターンの熱膨張率に近くなるように成膜でき、熱応力を効果的に抑制できる。
【実施例4】
【0030】
図11は本発明の実施例4におけるパワーモジュールの模式平面図であり、図12(a)、(b)はそれぞれ図11の断面D、断面Eにおける模式断面図である。本実施例では実施例1と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。ただし、本実施例においては無機材料からなる絶縁膜6は必ずしも絶縁性をもつ膜である必要はないため、無機膜60と表記し、絶縁膜6と区別する。実施例4においては、無機膜60が、半導体チップ4上面に形成された電極5と金属ワイヤ9の接合部の少なくとも一部を被覆している。
【0031】
パワーモジュールの動作信頼性を阻害する要因の一つに熱サイクルに伴う金属ワイヤの剥離がある。金属ワイヤ9は、導体パターン2と電極5とを接続するもので、半導体チップ4と半導体チップ4上の電極5を介して接続されている。パワーモジュールの駆動時は、半導体チップ4が発熱、冷却を繰り返す。したがって、このような熱サイクルの下では、半導体チップ4と金属ワイヤ9の熱膨張率の差に応じた熱応力が電極5と金属ワイヤ9の接合界面に発生する。熱応力により、電極5と金属ワイヤ9の界面部分で亀裂が発生する。駆動時間が長くなると亀裂が進展し最終的には金属ワイヤ9の剥離が生じる。パワーモジュールの動作安定性を確保するためには、部分放電の抑制とともに、金属ワイヤ9の剥離を防ぐ必要がある。金属ワイヤ接合部の補強として、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂やシリカ等の無機粒子を含有させた上記熱硬化性樹脂で金属ワイヤ接合部を補強する方法が考案されている。しかし、上記樹脂では被覆する際の膜厚制御が難しく、金属ワイヤ接合部に樹脂を均一に被覆できない。熱膨張率が大きい樹脂による接合部の不均一な被覆は、金属ワイヤの剥離を促すこともある。そのため、製品ごとで金属ワイヤ接合部の補強効果がばらつき、パワーモジュールの動作信頼性を確保できない。
【0032】
そこで、実施例4においては、セラミックスなどの無機材料からなる無機膜60が、半導体チップ4上面に形成された電極5及び電極5との接続部における金属ワイヤ9の表面の少なくとも一部を被覆している構造をとる。金属ワイヤ9より熱膨張率の小さいセラミックスなどの無機材料で接続部の金属ワイヤ表面を被覆することで、高温時の金属ワイヤ9の熱膨張を抑え、電極5と金属ワイヤ9の接合界面にはたらく熱応力を低減することができる。これにより、接合界面の亀裂の発生、及び亀裂の進展を抑制することができ、金属ワイヤの剥離に起因するパワーモジュールの破壊を抑制することができる。
【0033】
さらに、成膜時に室温において無機膜60に圧縮応力を残留させることが可能である。このとき、無機膜60の基板側となる電極5と半導体チップ4には引張応力が残留する。室温において半導体チップ4に加わる引張応力は、高温時に接合部材3aに加わる熱応力を低減する効果がある。これにより、熱サイクルによる接合部材3aの疲労低減に効果があり、接合部材3a内のクラック進展に起因するパワーモジュールの破壊も抑制することができる。
【0034】
無機膜60に使用する無機材料としては、金属ワイヤ9より熱膨張率が小さければ、いずれの材料も使用できる。例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の酸化物系セラミックス、または窒化アルミニウムや窒化珪素等の窒化物系セラミックス、または炭化珪素等の炭化物系セラミックス等が挙げられる。また、無機膜を構成する無機材料は1種類である必要は無く、2種類以上の無機材料が混在していても良い。無機膜の熱膨張率は、成膜に用いる原料粉末の熱膨張率と等しい。熱膨張率が異なる2種類以上の無機材料の混合粉末を原料粉末に用いることにより、その混合比に応じた熱膨張率を有する膜が得られる。そのため、パワーモジュールに使われる金属ワイヤや半導体チップの熱膨張率に応じて、適切な熱膨張率をもつ無機膜を形成することができる。
【0035】
本実施例によるパワーモジュールでは、無機膜60が半導体チップ4上の電極5、及び電極5との接合部における金属ワイヤ9表面の一部を被覆していれば良く、図13(a)、(b)に示すように、金属ワイヤ9表面、及び電極5表面に膜が成膜されていない箇所があっても良い。
【0036】
実施例4におけるパワーモジュールの作製方法を説明する。無機膜60以外のパワーモジュールの構成要素は実施例1と同じであるため、説明を省略する。無機膜60の構成材料として、酸化アルミニウムを選択し、エアロゾルデポジション法により、無機膜60が、半導体チップ4上面に形成された電極5及び電極5との接続部における金属ワイヤ9の表面の少なくとも一部を被覆するように成膜した。エアロゾルデポジション法による成膜では、原料粉末として平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム微粒子を使用し、搬送ガスとして窒素ガスを3〜15L/minの流量で装置内に流した。
【0037】
作製したパワーモジュールの金属ワイヤ接合部におけるSEM画像を図14に示す。また無機膜と下地の電極、及び金属ワイヤの接合界面を拡大したSEM画像を図15に示す。下地との接合界面、及び膜中にボイドのない緻密な膜が成膜された。図14、図15に示す酸化アルミニウム膜の膜厚は約20μmであるが、膜厚は成膜条件を変えることで容易に制御可能である。
【0038】
酸化アルミニウム膜および半導体チップにはたらく残留応力をX線のsin2Ψ法により調べた。成膜により、酸化アルミニウム膜には50〜200MPa程度の圧縮応力、半導体チップには0〜200MPa程度の引張応力が付与されていることを確認した。室温において半導体チップ4に加わる引張応力は、高温時にはんだに加わる熱応力を低減するため、パワーサイクル時のはんだ疲労の低減に効果があり、はんだのクラック進展に起因するパワーモジュールの破壊も抑制することができる。
【0039】
以上の構成でパワーサイクル試験を行った結果、ジャンクション温度50〜150℃では、40000サイクルでもパワーモジュールが破壊されないことを確認した。一方、金属ワイヤ接合部の補強として、樹脂を用いた従来構造では、パワーサイクルの寿命が40000サイクルに到達しない。これは、樹脂では被覆する際の、膜厚制御が難しく、熱膨張率が大きい樹脂による接合部の不均一な被覆が金属ワイヤの剥離を促すためである。本実施例におけるパワーモジュールでは、半導体チップ上面に形成された電極及び電極との接続部における金属ワイヤの表面を無機膜により被覆し、さらに無機膜に圧縮応力を付与することで、パワーモジュールの動作信頼性を向上させることができる。
【実施例5】
【0040】
図16は本発明の実施例5におけるパワーモジュールの模式平面図である。本実施例では実施例4と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。本実施例においては、無機材料として電気的に絶縁性の材料を選択し、無機膜60を半導体チップ4上の電極5から、絶縁基板1までを一括して被覆することを特徴とする。
【0041】
無機材料に絶縁性の材料を選択することで、実施例5に記載したパワーサイクル特性の向上だけでなく、実施例4に記載したパワーモジュールの絶縁特性の向上、及びパワーモジュールの小型化も可能となる。その際、絶縁膜に使用する無機材料としては、電気的に絶縁性であれば、従来公知のいずれの材料も使用できる。例えば、酸化アルミニウム等の酸化物系セラミックス、または窒化アルミニウムや窒化珪素等の窒化物系セラミックス等が挙げられるが、絶縁特性、大気中での取り扱い、及びコストの点において、酸化アルミニウムが望ましい。
【0042】
これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 絶縁基板
2 導体パターン
3a、3b 接合部材
4 半導体チップ
5、5a、5b 電極
6 絶縁膜
7 接地電極
8 放熱板
9 金属ワイヤ
10 ケース
11 絶縁性ゲル剤
21 高圧ガスボンベ
22、24 搬送管
23 エアロゾル発生器
25 真空チャンバー
26 ノズル
27 XYステージ
28 基板
29 真空ポンプ
60 無機膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上に形成された導体パターンと、
前記導体パターンと接合部材により接続された半導体チップと、
前記半導体チップ上面に形成された電極と、
前記電極と、前記半導体チップと、前記接合部材と、前記導体パターンと、前記絶縁基板の表面とを被覆し、無機材料からなる絶縁膜とを備えることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項2】
前記絶縁基板の前記導体パターンが形成された面と反対側の面に形成された接地電極と、前記接地電極上に形成された放熱板を備え、前記接地電極と前記放熱板を無機材料からなる絶縁膜で被覆することを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール。
【請求項3】
前記電極は電気的に独立した複数の電極より形成され、前記絶縁膜が半導体チップ上に形成された電気的に独立した複数の電極の表面及び前記電極間を被覆することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項4】
前記絶縁膜が、酸化アルミニウムから構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項5】
前記絶縁膜を構成する無機材料が1種類の無機材料又は2種類以上の無機材料の複合物からなり、前記絶縁膜が前記導体パターンの熱膨張率より小さい値の熱膨張率を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項6】
前記絶縁膜がエアロゾルデポジション法に代表される粒子衝突成膜法により形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項7】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上に形成された導体パターンと、
前記導体パターンと接合部材により接続された半導体チップと、
前記半導体チップ上面に形成された電極と、
前記電極と前記導体パターンとを接続する金属ワイヤと、
前記金属ワイヤと前記電極の接合部の少なくとも一部を被覆する無機材料からなる無機膜とを備えることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項8】
前記無機膜を構成する無機材料が絶縁性の材料からなり、前記半導体チップ外周端面と、前記半導体チップ外周端面と連続する前記接合部材と、前記導体パターンと、前記絶縁基板の表面とを被覆することを特徴とする請求項7に記載のパワーモジュール。
【請求項9】
前記無機膜を構成する無機材料が1種類の無機材料又は2種類以上の無機材料の複合物からなり、前記無機膜が前記金属ワイヤの熱膨張率より小さい値の熱膨張率を有することを特徴とする請求項7または8に記載のパワーモジュール。
【請求項10】
前記無機膜に圧縮応力が残留することを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項11】
前記無機膜がエアロゾルデポジション法に代表される粒子衝突成膜法により形成されることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載のパワーモジュールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3(a)】
image rotate

【図3(b)】
image rotate

【図3(c)】
image rotate

【図3(d)】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12(a)】
image rotate

【図12(b)】
image rotate

【図13(a)】
image rotate

【図13(b)】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−84835(P2012−84835A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34100(P2011−34100)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】