パワー半導体モジュール
【課題】パワー半導体モジュールを構成する部材に、熱膨張係数の異なる部材を用いて半田で接合した場合、温度上昇により半田にせん断応力が働いて半田に亀裂が生じ、熱抵抗が増大して端子の剥離や亀裂が生じる場合がある。
【解決手段】半導体チップを電極材や絶縁材を挟み込んで内部部品とし、その内部部品の上下面から突起部が設けられて板バネ特性を有する薄板を設ける。
この薄板と内部部品の側面をケースで被覆すると共に、冷却ブロックの内面側に冷却媒体の入出口と連通する流通用の溝を設け、この溝側を薄板の突起部側に向けて内部部品と一体的に形成してパワー半導体モジュールを構成する。
【解決手段】半導体チップを電極材や絶縁材を挟み込んで内部部品とし、その内部部品の上下面から突起部が設けられて板バネ特性を有する薄板を設ける。
この薄板と内部部品の側面をケースで被覆すると共に、冷却ブロックの内面側に冷却媒体の入出口と連通する流通用の溝を設け、この溝側を薄板の突起部側に向けて内部部品と一体的に形成してパワー半導体モジュールを構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁形のパワー半導体モジュールに係わり、特に高温動作が要求されるパワー半導体モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な絶縁形パワー半導体モジュールとして、インバータ等の電力変換装置に用いられるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールがある。このIGBTモジュールに代表される絶縁形パワー半導体モジュールなどは、JEC-2407-2007、IEC60747-15にその規格が制定されている。また、一般的な絶縁形パワー半導体モジュールの構造として非特許文献1のp289に開示されている。
【0003】
図9は非特許文献1に記載されたパワー半導体モジュールの構成を示したもので、スイッチング素子であるIGBTやダイオード等の半導体素子20は、半導体素子20の下面電極層を介してDBC基板21の銅回路箔22上に半田付けされ、そのDBC基板21は放熱のための銅ベース24に半田付け部25を介して接着される。ここで、DBC(Direct Bond Copper)基板21とは、セラミックス等からなる絶縁板23に銅回路箔22を直接接合したものである。
【0004】
半導体素子20の上面電極層は、アルミワイヤー26を超音波でボンディングされ、例えばDBC基板21上の銅回路箔22と電気的に結線される。そして、DBC基板21上の銅回路箔22からリードフレームやブスバーよりなる銅端子27を介して外部に導出している。その際の、銅回路箔22と銅端子27との接続は半田付けによって行われており、更にその周りを(スーパー)エンジニアリングプラスチックのケース28で囲み、その中を電気絶縁のためのシリコーンゲル等が充填される。ここで、一般に半導体素子20とDBC基板21を接合する半田は、DBC基板21と銅ベース24を接合する半田に対し融点が高く、2回のリフローにより接合される。
【0005】
近年、半導体素子の動作温度の高温化が進み、175℃〜200℃の動作温度では半田材料の融点に近いため、半田に置換する材料としてBi,Zn,Auの金属系高温半田、Sn−Cuの化合物系高温半田、Ag粉,nanoAgの低温焼結金属等が提案されている。
また、次世代の半導体素子であるSiCは、250℃〜300℃での動作温度が可能であることが報告されている。
【0006】
使用時に発生する熱に基づく応力を緩和して放熱特性をよくするものとして特許文献1が公知となっている。
【0007】
一方、半田を用いないパワー半導体モジュールとしては、非特許文献1のp336や非特許文献2に平形圧接構造パッケージとして開示されている。
図10はそのパッケージを示したもので、半導体素子30の上面電極層がコンタクト端子33に接触した状態でMo板34上に載置されている。そして、半導体素子30の端部には、半導体素子30及びコンタクト端子33の位置決めをするガイド35が備えられている。
【0008】
このように構成された平形圧接構造パッケージは、半導体素子30を上下両面から冷却できると共に、半田付けをしない構造で電気的、熱的に外部と接続できる。このため、一般的に形圧接構造パッケージの両端をヒートシンクで圧接することで平形圧接構造パッケージの両面を冷却し、このヒートシンクを導電部材として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−303340
【特許文献2】特許第4621531
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】コロナ社「パワーデバイス・パワーICハンドブック」p289、p336
【非特許文献2】電気学会誌Vol.118,p276,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
温度サイクル、パワーサイクル等への信頼性向上の課題に対しては、半導体モジュールを構成する部材である半導体素子、金属、セラミックス等の熱膨張の違いによって生じる課題を解決する必要がある。すなわち、DBC基板ー銅ベース間、DBC基板ー銅端子間において、銅とセラミックスの熱膨張係数の差から使用される半田にせん断応力が働いて半田に亀裂が生じ、熱抵抗が増大して端子が剥離する虞がある。さらに、半導体素子ーDBC基板間の半田にも亀裂が生じる場合がある。
また、条件によっては半導体素子上のアルミワイヤーの接続部でも、アルミニウムと半導体素子の熱膨張の差で応力が発生してアルミワイヤーが疲労破断する。
【0012】
年々の電力密度の増加に伴って、使用する半導体素子内部の接合温度が高くなることから、半田のせん断応力、アルミワイヤーの応力が大きくなってきている。これに対して熱膨張の影響が半導体モジュールの設計寿命に至るまでの期間に上記問題が顕在化しないようにする必要がある。このことは、SiCやGaNのような高温で使用できるワイドバンドキャップ半導体素子の出現により、さらに熱膨張の影響の低減が要求されている。
【0013】
そこで、高信頼性、環境性、利便性を同時に実現するためには、半田接合、あるいはワイヤーボンドを用いず、且つ両面冷却が容易に実現可能で放熱特性の面で有利な圧接型の絶縁形パワー半導体モジュールが再度脚光を浴びてきた。
また、SiCやGaNなどの高温で使用可能な半導体素子の性能を生かすパワー半導体モジュールとしても、温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性向上が求められている。
【0014】
図11は一般的な圧接型のパワー半導体モジュールの主要部を示したもので、圧接型のパワー半導体モジュールには以下の(a),(b)の課題が存在する。
(a).部材間の接触圧力による微妙な変化で放熱性が変化する。放熱性を高く維持するためには部材間の接触圧力を、例えば1MPaのような一定圧力以上に確保する必要があり、そのモジュールの信頼性を高めるためには、接触面全体に対してできるだけ均一な接触圧力を確保する必要がある。
【0015】
すなわち、接触圧が低い箇所が存在すると、その部位の電気伝導度が低下し、結果良好な接触が保たれている箇所に電流が集中し、また、通電によるジュール発熱を放熱するパスも狭くなって特定の部材が局所的に温度上昇する。その結果、局所的に部材が熱膨張して複雑な形状に熱変化し、部材間の接触面において均一な接触圧を維持することが困難になる。同時に局所的に応力が集中し、モジュールの信頼性低下の要因となる。また、半導体チップ表面にはAl等の電極層が蒸着等で膜付けされており、半導体チップへの圧接力が過大になり過ぎるとチップ表面を傷つける懸念があり、半導体チップの表裏面においては特に適切な接触圧を維持することが重要となる。
【0016】
(b).両面冷却構造においては、一般に図9で示すように、絶縁材、3〜5mm程度厚みを有するベース(放熱板)、グリースを経て冷却器内を流れる冷媒と熱交換するため、圧接により全ての部材界面間で良好な接触が確保できた場合でも、半導体チップから冷媒までの熱抵抗がある値以下に下げられないという問題を有している。
【0017】
なお、弾性作用を持った金属板を絶縁板とヒートシンクの間に配置するものとしては、特許文献1と2が公知となっている。特許文献1には、半導体素子上に熱応力緩和のために弾性作用をもたせた突起付きの金属板を配置したことが記載されている。特許文献2には、絶縁板とヒートシンクの間に熱伝導と熱応力緩和のために弾性作用をもたせた突起付きの金属板を配置したことが記載されている。しかし、両特許文献のものは半田を使用して樹脂等を用いて封止する従来型モジュールに関するものである。
【0018】
そこで、本発明が目的とするとこは、半田を用いないパワー半導体モジュールにおいて、その放熱特性を向上し、小型化を実現しつつ信頼性を向上させた圧接型のパワー半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の請求項1は、半導体チップと、この半導体チップを電極材や絶縁材で挟み込んで内部部品とし、内部部品の外側より冷却ブロックを積層する圧接型のパワー半導体モジュールにおいて、
前記内部部品の上下面に、任意分部に突起部が凸設されて力を面で受ける板バネ特性を有する薄板を設け、この薄板と前記内部部品の側面をケースで被覆すると共に、前記冷却ブロックの内面側に冷却媒体の入出口と連通する流通用の溝を設け、この溝側を前記薄板の突起部側に向けて内部部品と一体的に形成したことを特徴としたものである。
【0020】
本発明の請求項2は、前記薄板の突起部は、前記半導体チップの真上相当の位置に設けられることを特徴としたものである。
【0021】
本発明の請求項3は、前記薄板は、周縁部の厚みを厚くして形成し、形成された薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化することを特徴としたものである。
【0022】
本発明の請求項4は、前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化した後に、冷却ブロックから挿入されたボルトにより薄板を介して前記半導体チップに圧接力を伝播することを特徴としたものである。
本発明の請求項5は、前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間の一体化は、接着剤によることを特徴としたものである。
【0023】
本発明の請求項6は、前記冷却媒体流通時に、薄板と冷却ブロック接合面に周期的な突起形状を持たせることを特徴としたものである。
【0024】
本発明の請求項7は、前記薄板は、平板部の肉厚は0.1〜0.5mm、突起部の厚さ0.1〜1.0mmで形成されたことを特徴としたものである。
【0025】
本発明の請求項8は、前記薄板と冷却ブロック接合時に、薄板の突起部が冷却ブロックに最初に接触し、前記接着剤若しくはボルト締め付け時に薄板の突起部に接触圧力がかかるよう構成されたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0026】
以上のとおり、本発明によれば、薄板に突起部を設けることで力を面で受ける板バネとして作用させたものである。これにより、バネ定数は、薄板の厚みや表面に設ける突起部の数等で制御することができ、また、広い面で力を分散して受ける板バネとして作用させることができて、モジュールが片締めになる可能性が大幅に低減でき、モジュールの小型化が出来るものである。
【0027】
また、冷却ブロックに溝を設け、この溝と薄板表面に設けられる突起部とで冷却水の循環水路が形成されることで、循環水路と半導体チップ間の熱抵抗が低減され、熱交換率が向上して放熱性が向上するものである。
さらに本発明では、冷却ブロックと薄板とを一体化する際に接着剤とボルトで
内部部品の周辺部を締め付け、その後に接着剤を硬化させることで冷媒の外部への漏れを防止できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図。
【図2】本発明に使用される薄板の構成図。
【図3】薄板と冷却ブロックの接合説明図。
【図4】本発明のシミュレーションによるモデル図。
【図5】本発明のシミュレーションによるモデル化説明図。
【図6】シミュレーションによる内部部品の変位図。
【図7】シミュレーションによる応力分布図。
【図8】シミュレーションによる半導体チップへの圧力図。
【図9】従来のパワー半導体モジュール部分構成図。
【図10】従来の平型圧接構造パッケージの構成図。
【図11】従来の圧接型パワー半導体モジュールの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、パワー半導体モジュールに使用されるベース(放熱板)を薄膜化形状として小さいバネ定数を持たせ、加圧力に比例して弾性的に変形させる。この弾性を有するベースと冷却ブロックを一体化して構成部品の公差、厚み方向の熱膨張等が原因の公差を吸収しつつ一定の圧接力を与えると共に、冷媒をベースと冷却ブロック間に流すことで放熱性を高めたものである。
以下、図に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の実施例を示す構成図である。1は半導体チップ(半導体素子)で、複数設けられた各半導体チップの上下(表裏)方向にはそれぞれコンタクト材2(2a,2b)を介して電極材3(3a,3b)が積層されている。コンタクト材2は、半導体チップ1の表面の所定領域をコントロールされた所定圧力で押圧し、半導体チップ1との界面でのせん断応力を低減させる。このため、コンタクト材2は熱膨張係数が半導体チップ1に近い材料用いられ、例えば、半導体チップ1がシリコンの場合には、熱膨張係数は3ppm/℃に近いものが使用され、電気伝導率が高いという条件からグラファイト材料、モリブデン、タングステン等、グラファイトを含有した金属(合金、C−CuMo等)を例示することができる。
【0031】
コンタクト材2を介して外部に電流を取り出す電極材3は、Cu合金等が使用され3a,3bの各一端はケース7を貫通して外部に突出される。また、この電極材3a,3bの外側には、通電領域を外部から絶縁するための窒化珪素等かになる絶縁材4a,4bが配置される。さらに、この絶縁材4a,4bの外側には、
一般的なバネ用材料である炭素鋼系、オーステナイト系ステンレス等からなる薄板5(5a,5b)が配置される。
【0032】
薄板5は、例えば、平面部が0.3mm程度(0.1〜0.5mm)の肉厚からなるもので、平板でも加えた力に比例して弾性的に変形し、加えた力をはずすことで元に戻る一定のバネ効果を有するが、本発明では、よりバネ定数を下げる(力に対して変位量を増大させる)ために、図2に示すように片面に一定厚みの突起部5cが形成されている。突起部5cは、例えばその高さは0.5mm程度(0.1〜1.0)の突起形状で、その突起部が角状の場合には4mm角程度とされる。また、この薄板5は、図3で示すようにその周縁部分は突起部5cの高さと同程度の厚みを有し、ボルトを介して冷却ブロック6を一体化するためのネジ穴が螺設されている。
勿論、薄板および薄板の突起部の寸法や形状は限定的なものではなく、その形状や大きさは半導体チップの大きさ等によって自由に選択できる。
【0033】
1〜5を積層した各部材の外周部をケース7によって囲繞する。ケース7はPPS等の樹脂よるなる絶縁物で、積層された薄板5a,5bを挟み込むようにして囲み、接着剤によって固定し、1〜5の部材を外部から遮断して酸化、汚染による部品の劣化を防止している。薄板5の、さらに外側には冷却ブロック6(6a,6b)が積層される。
【0034】
冷却ブロック6は、アルミニウムや銅合金よりなって、内面となる側には冷媒の流路となる溝6cが設けられ、任意位置に流入口6dが穿設されている。冷却ブロック6を薄板5に積層するとき、薄板5の突起部5cが図1及び図3で示すように冷却ブロック6に設けられた溝6cを避けた位置に位置決めされて接触した状態で一体化される。一体化に当たっては、パッキン(Oリング)などによる一体化でもよいが、例えば、室温以上で200℃以下で硬化接着する接着剤を外部から薄板5と冷却ブロック6間に流し込み、その後、孔6eにボルトを挿し込んで薄板5と冷却ブロック6間の間隔が適切な厚みとなったときに、適切な締付トルクとなるようボルトを締め付けて接着剤の硬化処理を行う。
【0035】
ボルト締付時に発生する下方向(若しくは上方向)への垂直圧力が冷却ブロック6→薄板5の突起部5c→絶縁材4→電極材3→コンタクト材2→半導体チップ1の順番で応力伝達させることができる。
なお、冷却ブロック6と薄板5間の接着剤は、ケース7とその内部部品(絶縁材、電極材3、コンタクト材2、半導体チップ1)の厚みの微妙なずれ、内部部品の熱膨張によるケース7と内部部品の厚みのずれ調整の役割を担い、パワー半導体モジュール動作時に部材間に、例えば2〜24MPaの接触圧がかかるよう接着剤層の厚みが調節される。
【0036】
以上のように本発明は、薄板5を凹凸形状とすることでバネ特性を持たせることができ、内部部品に圧縮応力を加えることを可能とする圧接型パワー半導体モジュールを構成したものである。
図4〜図8は薄板5が内部部品に対して相当の接触圧を与えているかを検証した検証結果を示したものである。
【0037】
解析はANSYSを用いて実施したもので、図4は解析上のモデル、図5は境界条件を示したものである。この解析ではモデルの簡略化のために、パワー半導体モジュールは、上面側の薄板5及び冷却ブロック6を設け、冷却ブロック周辺部でのボルト締めによる圧力は、図5で示すように一定の厚みの周辺部に10MPaの下向き圧力を与えることで模擬した。検証に供した薄板5の厚みを0.3mm、突起部5cの厚み(高さ)0.5mmとし、この突起部5cは半導体チップ1の真上に相当する位置に6個設けた。また、半導体チップ1を挟んで積層される1〜4の内部部品の厚み(高さ)はケース内面高さより0.1mm薄いと仮定し、ボルト締めによる下向きの応力により薄板5が変形して内部部品に圧接力をかける状況を模擬した。
【0038】
図6はボルト締め、接着剤硬化後に室温に戻したときの各部材のボルト締前との厚み方向の変位を示したものである。図6によると、ケースと内部部品の厚み方向の寸法誤差が0.1mmの場合でのボルト締めによる圧接後の各部材の厚み方向の変位は、例えば点線で囲んだアの部位では−20〜−40[μm]程度変位し、イの部分では−0.0001[m]程度変位し、下部の絶縁材4に接触して応力を伝播している。
【0039】
図7は、各内部部品及び薄板5にかかる相当応力分布を示したもので、(a)図は相当応力分布、(b)図は薄板にかかる相当応力分布ある。
薄板の材質はSUS301としたもので、その結果、ケース7の内周側壁や薄板5変形部にかかる応力は、点線で囲んだウの部位で示すように4e7〜2e8[Pa]と最大200MPa程度となっている。これは、炭素鋼系、オーステナイト系ステンレス(例えばSUS301-CSP Hなど)の弾性上限(バネ限界値)の500MPa以上に比べると十分に余裕があり、材質SUS301は薄板のバネ機能として問題ないことが明らかである。薄板の材質に関しては放熱性、加工性、耐水性の高いほうが望ましく、例えばアルミニウム合金や銅合金もそれぞれ適切な厚み、形状で設計することで採用が可能である。
【0040】
図8は複数(ここでは6個)の半導体チップの上面側表面にかかる接触圧力分布を示したものである。点線で囲んだ部分は半導体チップ上に位置するコンタクト材2の接触面形状で、半導体チップ上面側では1e7〜2.4e7[Pa]となっており、コンタクト材2に接触させた位置での圧力は、2〜24MPaの圧力で印加できていることが確認できた。
なお、接触圧力は、冷却ブロックの周辺部にかける圧力値、すなわち、孔6eを介して薄板5を螺合する締付度合いとボルトの配置やその本数などによって制御することができる。
【0041】
また、パワー半導体モジュールを図1のように構成することで、次の理由によって放熱性が向上する。
(1)冷却ブロックの厚みを薄くすることができるため、冷却ブロック自身の熱抵抗を低減することができる。
(2)溝6cを含む冷媒を流す領域に周期的突起が存在することで、冷媒の流れが安定流、層流にはならずに乱されることで、冷媒と薄板、冷却ブロック間の熱交換率が高められる。
よって、放熱性が良好で信頼性の高いパワー半導体モジュールの提供が可能となる。
【0042】
以上のように本発明は、薄板に突起部を設けることで力を面で受ける板バネとして作用させたものである。
その際、バネ定数は、薄板の厚みや表面に設ける突起部の数等で制御することができ、また、広い面で力を分散して受ける板バネとして作用させることができる。これによって、非特許文献1のようにモジュール外周にバネ定数の等しいバネを複数設ける場合に比較して、モジュールが片締めになる可能性が大幅に低減する。また、従来設けていた大型のバネをモジュール外側に設ける必要もなく、モジュールの小型化が出来るものである。
また、薄板上に設ける表面凹凸形状を半導体チップの真上のみに設けた場合には、半導体チップに効率的に力を伝播させることが可能となるものである。
【0043】
冷却ブロックに溝6cを設け、この溝6cと薄板表面に設けられる突起部5cとで冷却水の循環水路が形成され、両者の機能が相乗されて半導体チップ側に対する循環水路の面積が広く形成されるため、循環水路と半導体チップ間の熱抵抗が低減されると共に、熱交換率が向上して放熱性が向上するものである。特に、半導体チップが配設される真上の相当位置に薄板の凹凸形状を位置させた場合には、凹凸形状近傍では冷媒と内部部品間の熱交換率が最大となるため、半導体チップ真上方向の放熱性が向上するものである。
【0044】
さらに本発明では、冷却ブロックと薄板とを一体化する際に接着剤とボルトで
内部部品の周辺部を締め付け、その後に接着剤を硬化させるという簡単な手法により圧接力を確保し、冷媒の外部への漏れを防止することができる。接着剤の層(厚さ)を変更することで、内部部品とケースの厚み方向のズレ(公差)に対応できるものである。
【符号の説明】
【0045】
1… 半導体チップ
2… コンタクト材
3… 電極材
4… 絶縁材
5… 薄板
6… 冷却ブロック
7… ケース
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁形のパワー半導体モジュールに係わり、特に高温動作が要求されるパワー半導体モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な絶縁形パワー半導体モジュールとして、インバータ等の電力変換装置に用いられるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールがある。このIGBTモジュールに代表される絶縁形パワー半導体モジュールなどは、JEC-2407-2007、IEC60747-15にその規格が制定されている。また、一般的な絶縁形パワー半導体モジュールの構造として非特許文献1のp289に開示されている。
【0003】
図9は非特許文献1に記載されたパワー半導体モジュールの構成を示したもので、スイッチング素子であるIGBTやダイオード等の半導体素子20は、半導体素子20の下面電極層を介してDBC基板21の銅回路箔22上に半田付けされ、そのDBC基板21は放熱のための銅ベース24に半田付け部25を介して接着される。ここで、DBC(Direct Bond Copper)基板21とは、セラミックス等からなる絶縁板23に銅回路箔22を直接接合したものである。
【0004】
半導体素子20の上面電極層は、アルミワイヤー26を超音波でボンディングされ、例えばDBC基板21上の銅回路箔22と電気的に結線される。そして、DBC基板21上の銅回路箔22からリードフレームやブスバーよりなる銅端子27を介して外部に導出している。その際の、銅回路箔22と銅端子27との接続は半田付けによって行われており、更にその周りを(スーパー)エンジニアリングプラスチックのケース28で囲み、その中を電気絶縁のためのシリコーンゲル等が充填される。ここで、一般に半導体素子20とDBC基板21を接合する半田は、DBC基板21と銅ベース24を接合する半田に対し融点が高く、2回のリフローにより接合される。
【0005】
近年、半導体素子の動作温度の高温化が進み、175℃〜200℃の動作温度では半田材料の融点に近いため、半田に置換する材料としてBi,Zn,Auの金属系高温半田、Sn−Cuの化合物系高温半田、Ag粉,nanoAgの低温焼結金属等が提案されている。
また、次世代の半導体素子であるSiCは、250℃〜300℃での動作温度が可能であることが報告されている。
【0006】
使用時に発生する熱に基づく応力を緩和して放熱特性をよくするものとして特許文献1が公知となっている。
【0007】
一方、半田を用いないパワー半導体モジュールとしては、非特許文献1のp336や非特許文献2に平形圧接構造パッケージとして開示されている。
図10はそのパッケージを示したもので、半導体素子30の上面電極層がコンタクト端子33に接触した状態でMo板34上に載置されている。そして、半導体素子30の端部には、半導体素子30及びコンタクト端子33の位置決めをするガイド35が備えられている。
【0008】
このように構成された平形圧接構造パッケージは、半導体素子30を上下両面から冷却できると共に、半田付けをしない構造で電気的、熱的に外部と接続できる。このため、一般的に形圧接構造パッケージの両端をヒートシンクで圧接することで平形圧接構造パッケージの両面を冷却し、このヒートシンクを導電部材として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−303340
【特許文献2】特許第4621531
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】コロナ社「パワーデバイス・パワーICハンドブック」p289、p336
【非特許文献2】電気学会誌Vol.118,p276,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
温度サイクル、パワーサイクル等への信頼性向上の課題に対しては、半導体モジュールを構成する部材である半導体素子、金属、セラミックス等の熱膨張の違いによって生じる課題を解決する必要がある。すなわち、DBC基板ー銅ベース間、DBC基板ー銅端子間において、銅とセラミックスの熱膨張係数の差から使用される半田にせん断応力が働いて半田に亀裂が生じ、熱抵抗が増大して端子が剥離する虞がある。さらに、半導体素子ーDBC基板間の半田にも亀裂が生じる場合がある。
また、条件によっては半導体素子上のアルミワイヤーの接続部でも、アルミニウムと半導体素子の熱膨張の差で応力が発生してアルミワイヤーが疲労破断する。
【0012】
年々の電力密度の増加に伴って、使用する半導体素子内部の接合温度が高くなることから、半田のせん断応力、アルミワイヤーの応力が大きくなってきている。これに対して熱膨張の影響が半導体モジュールの設計寿命に至るまでの期間に上記問題が顕在化しないようにする必要がある。このことは、SiCやGaNのような高温で使用できるワイドバンドキャップ半導体素子の出現により、さらに熱膨張の影響の低減が要求されている。
【0013】
そこで、高信頼性、環境性、利便性を同時に実現するためには、半田接合、あるいはワイヤーボンドを用いず、且つ両面冷却が容易に実現可能で放熱特性の面で有利な圧接型の絶縁形パワー半導体モジュールが再度脚光を浴びてきた。
また、SiCやGaNなどの高温で使用可能な半導体素子の性能を生かすパワー半導体モジュールとしても、温度サイクル、パワーサイクル等の信頼性向上が求められている。
【0014】
図11は一般的な圧接型のパワー半導体モジュールの主要部を示したもので、圧接型のパワー半導体モジュールには以下の(a),(b)の課題が存在する。
(a).部材間の接触圧力による微妙な変化で放熱性が変化する。放熱性を高く維持するためには部材間の接触圧力を、例えば1MPaのような一定圧力以上に確保する必要があり、そのモジュールの信頼性を高めるためには、接触面全体に対してできるだけ均一な接触圧力を確保する必要がある。
【0015】
すなわち、接触圧が低い箇所が存在すると、その部位の電気伝導度が低下し、結果良好な接触が保たれている箇所に電流が集中し、また、通電によるジュール発熱を放熱するパスも狭くなって特定の部材が局所的に温度上昇する。その結果、局所的に部材が熱膨張して複雑な形状に熱変化し、部材間の接触面において均一な接触圧を維持することが困難になる。同時に局所的に応力が集中し、モジュールの信頼性低下の要因となる。また、半導体チップ表面にはAl等の電極層が蒸着等で膜付けされており、半導体チップへの圧接力が過大になり過ぎるとチップ表面を傷つける懸念があり、半導体チップの表裏面においては特に適切な接触圧を維持することが重要となる。
【0016】
(b).両面冷却構造においては、一般に図9で示すように、絶縁材、3〜5mm程度厚みを有するベース(放熱板)、グリースを経て冷却器内を流れる冷媒と熱交換するため、圧接により全ての部材界面間で良好な接触が確保できた場合でも、半導体チップから冷媒までの熱抵抗がある値以下に下げられないという問題を有している。
【0017】
なお、弾性作用を持った金属板を絶縁板とヒートシンクの間に配置するものとしては、特許文献1と2が公知となっている。特許文献1には、半導体素子上に熱応力緩和のために弾性作用をもたせた突起付きの金属板を配置したことが記載されている。特許文献2には、絶縁板とヒートシンクの間に熱伝導と熱応力緩和のために弾性作用をもたせた突起付きの金属板を配置したことが記載されている。しかし、両特許文献のものは半田を使用して樹脂等を用いて封止する従来型モジュールに関するものである。
【0018】
そこで、本発明が目的とするとこは、半田を用いないパワー半導体モジュールにおいて、その放熱特性を向上し、小型化を実現しつつ信頼性を向上させた圧接型のパワー半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の請求項1は、半導体チップと、この半導体チップを電極材や絶縁材で挟み込んで内部部品とし、内部部品の外側より冷却ブロックを積層する圧接型のパワー半導体モジュールにおいて、
前記内部部品の上下面に、任意分部に突起部が凸設されて力を面で受ける板バネ特性を有する薄板を設け、この薄板と前記内部部品の側面をケースで被覆すると共に、前記冷却ブロックの内面側に冷却媒体の入出口と連通する流通用の溝を設け、この溝側を前記薄板の突起部側に向けて内部部品と一体的に形成したことを特徴としたものである。
【0020】
本発明の請求項2は、前記薄板の突起部は、前記半導体チップの真上相当の位置に設けられることを特徴としたものである。
【0021】
本発明の請求項3は、前記薄板は、周縁部の厚みを厚くして形成し、形成された薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化することを特徴としたものである。
【0022】
本発明の請求項4は、前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化した後に、冷却ブロックから挿入されたボルトにより薄板を介して前記半導体チップに圧接力を伝播することを特徴としたものである。
本発明の請求項5は、前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間の一体化は、接着剤によることを特徴としたものである。
【0023】
本発明の請求項6は、前記冷却媒体流通時に、薄板と冷却ブロック接合面に周期的な突起形状を持たせることを特徴としたものである。
【0024】
本発明の請求項7は、前記薄板は、平板部の肉厚は0.1〜0.5mm、突起部の厚さ0.1〜1.0mmで形成されたことを特徴としたものである。
【0025】
本発明の請求項8は、前記薄板と冷却ブロック接合時に、薄板の突起部が冷却ブロックに最初に接触し、前記接着剤若しくはボルト締め付け時に薄板の突起部に接触圧力がかかるよう構成されたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0026】
以上のとおり、本発明によれば、薄板に突起部を設けることで力を面で受ける板バネとして作用させたものである。これにより、バネ定数は、薄板の厚みや表面に設ける突起部の数等で制御することができ、また、広い面で力を分散して受ける板バネとして作用させることができて、モジュールが片締めになる可能性が大幅に低減でき、モジュールの小型化が出来るものである。
【0027】
また、冷却ブロックに溝を設け、この溝と薄板表面に設けられる突起部とで冷却水の循環水路が形成されることで、循環水路と半導体チップ間の熱抵抗が低減され、熱交換率が向上して放熱性が向上するものである。
さらに本発明では、冷却ブロックと薄板とを一体化する際に接着剤とボルトで
内部部品の周辺部を締め付け、その後に接着剤を硬化させることで冷媒の外部への漏れを防止できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図。
【図2】本発明に使用される薄板の構成図。
【図3】薄板と冷却ブロックの接合説明図。
【図4】本発明のシミュレーションによるモデル図。
【図5】本発明のシミュレーションによるモデル化説明図。
【図6】シミュレーションによる内部部品の変位図。
【図7】シミュレーションによる応力分布図。
【図8】シミュレーションによる半導体チップへの圧力図。
【図9】従来のパワー半導体モジュール部分構成図。
【図10】従来の平型圧接構造パッケージの構成図。
【図11】従来の圧接型パワー半導体モジュールの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、パワー半導体モジュールに使用されるベース(放熱板)を薄膜化形状として小さいバネ定数を持たせ、加圧力に比例して弾性的に変形させる。この弾性を有するベースと冷却ブロックを一体化して構成部品の公差、厚み方向の熱膨張等が原因の公差を吸収しつつ一定の圧接力を与えると共に、冷媒をベースと冷却ブロック間に流すことで放熱性を高めたものである。
以下、図に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の実施例を示す構成図である。1は半導体チップ(半導体素子)で、複数設けられた各半導体チップの上下(表裏)方向にはそれぞれコンタクト材2(2a,2b)を介して電極材3(3a,3b)が積層されている。コンタクト材2は、半導体チップ1の表面の所定領域をコントロールされた所定圧力で押圧し、半導体チップ1との界面でのせん断応力を低減させる。このため、コンタクト材2は熱膨張係数が半導体チップ1に近い材料用いられ、例えば、半導体チップ1がシリコンの場合には、熱膨張係数は3ppm/℃に近いものが使用され、電気伝導率が高いという条件からグラファイト材料、モリブデン、タングステン等、グラファイトを含有した金属(合金、C−CuMo等)を例示することができる。
【0031】
コンタクト材2を介して外部に電流を取り出す電極材3は、Cu合金等が使用され3a,3bの各一端はケース7を貫通して外部に突出される。また、この電極材3a,3bの外側には、通電領域を外部から絶縁するための窒化珪素等かになる絶縁材4a,4bが配置される。さらに、この絶縁材4a,4bの外側には、
一般的なバネ用材料である炭素鋼系、オーステナイト系ステンレス等からなる薄板5(5a,5b)が配置される。
【0032】
薄板5は、例えば、平面部が0.3mm程度(0.1〜0.5mm)の肉厚からなるもので、平板でも加えた力に比例して弾性的に変形し、加えた力をはずすことで元に戻る一定のバネ効果を有するが、本発明では、よりバネ定数を下げる(力に対して変位量を増大させる)ために、図2に示すように片面に一定厚みの突起部5cが形成されている。突起部5cは、例えばその高さは0.5mm程度(0.1〜1.0)の突起形状で、その突起部が角状の場合には4mm角程度とされる。また、この薄板5は、図3で示すようにその周縁部分は突起部5cの高さと同程度の厚みを有し、ボルトを介して冷却ブロック6を一体化するためのネジ穴が螺設されている。
勿論、薄板および薄板の突起部の寸法や形状は限定的なものではなく、その形状や大きさは半導体チップの大きさ等によって自由に選択できる。
【0033】
1〜5を積層した各部材の外周部をケース7によって囲繞する。ケース7はPPS等の樹脂よるなる絶縁物で、積層された薄板5a,5bを挟み込むようにして囲み、接着剤によって固定し、1〜5の部材を外部から遮断して酸化、汚染による部品の劣化を防止している。薄板5の、さらに外側には冷却ブロック6(6a,6b)が積層される。
【0034】
冷却ブロック6は、アルミニウムや銅合金よりなって、内面となる側には冷媒の流路となる溝6cが設けられ、任意位置に流入口6dが穿設されている。冷却ブロック6を薄板5に積層するとき、薄板5の突起部5cが図1及び図3で示すように冷却ブロック6に設けられた溝6cを避けた位置に位置決めされて接触した状態で一体化される。一体化に当たっては、パッキン(Oリング)などによる一体化でもよいが、例えば、室温以上で200℃以下で硬化接着する接着剤を外部から薄板5と冷却ブロック6間に流し込み、その後、孔6eにボルトを挿し込んで薄板5と冷却ブロック6間の間隔が適切な厚みとなったときに、適切な締付トルクとなるようボルトを締め付けて接着剤の硬化処理を行う。
【0035】
ボルト締付時に発生する下方向(若しくは上方向)への垂直圧力が冷却ブロック6→薄板5の突起部5c→絶縁材4→電極材3→コンタクト材2→半導体チップ1の順番で応力伝達させることができる。
なお、冷却ブロック6と薄板5間の接着剤は、ケース7とその内部部品(絶縁材、電極材3、コンタクト材2、半導体チップ1)の厚みの微妙なずれ、内部部品の熱膨張によるケース7と内部部品の厚みのずれ調整の役割を担い、パワー半導体モジュール動作時に部材間に、例えば2〜24MPaの接触圧がかかるよう接着剤層の厚みが調節される。
【0036】
以上のように本発明は、薄板5を凹凸形状とすることでバネ特性を持たせることができ、内部部品に圧縮応力を加えることを可能とする圧接型パワー半導体モジュールを構成したものである。
図4〜図8は薄板5が内部部品に対して相当の接触圧を与えているかを検証した検証結果を示したものである。
【0037】
解析はANSYSを用いて実施したもので、図4は解析上のモデル、図5は境界条件を示したものである。この解析ではモデルの簡略化のために、パワー半導体モジュールは、上面側の薄板5及び冷却ブロック6を設け、冷却ブロック周辺部でのボルト締めによる圧力は、図5で示すように一定の厚みの周辺部に10MPaの下向き圧力を与えることで模擬した。検証に供した薄板5の厚みを0.3mm、突起部5cの厚み(高さ)0.5mmとし、この突起部5cは半導体チップ1の真上に相当する位置に6個設けた。また、半導体チップ1を挟んで積層される1〜4の内部部品の厚み(高さ)はケース内面高さより0.1mm薄いと仮定し、ボルト締めによる下向きの応力により薄板5が変形して内部部品に圧接力をかける状況を模擬した。
【0038】
図6はボルト締め、接着剤硬化後に室温に戻したときの各部材のボルト締前との厚み方向の変位を示したものである。図6によると、ケースと内部部品の厚み方向の寸法誤差が0.1mmの場合でのボルト締めによる圧接後の各部材の厚み方向の変位は、例えば点線で囲んだアの部位では−20〜−40[μm]程度変位し、イの部分では−0.0001[m]程度変位し、下部の絶縁材4に接触して応力を伝播している。
【0039】
図7は、各内部部品及び薄板5にかかる相当応力分布を示したもので、(a)図は相当応力分布、(b)図は薄板にかかる相当応力分布ある。
薄板の材質はSUS301としたもので、その結果、ケース7の内周側壁や薄板5変形部にかかる応力は、点線で囲んだウの部位で示すように4e7〜2e8[Pa]と最大200MPa程度となっている。これは、炭素鋼系、オーステナイト系ステンレス(例えばSUS301-CSP Hなど)の弾性上限(バネ限界値)の500MPa以上に比べると十分に余裕があり、材質SUS301は薄板のバネ機能として問題ないことが明らかである。薄板の材質に関しては放熱性、加工性、耐水性の高いほうが望ましく、例えばアルミニウム合金や銅合金もそれぞれ適切な厚み、形状で設計することで採用が可能である。
【0040】
図8は複数(ここでは6個)の半導体チップの上面側表面にかかる接触圧力分布を示したものである。点線で囲んだ部分は半導体チップ上に位置するコンタクト材2の接触面形状で、半導体チップ上面側では1e7〜2.4e7[Pa]となっており、コンタクト材2に接触させた位置での圧力は、2〜24MPaの圧力で印加できていることが確認できた。
なお、接触圧力は、冷却ブロックの周辺部にかける圧力値、すなわち、孔6eを介して薄板5を螺合する締付度合いとボルトの配置やその本数などによって制御することができる。
【0041】
また、パワー半導体モジュールを図1のように構成することで、次の理由によって放熱性が向上する。
(1)冷却ブロックの厚みを薄くすることができるため、冷却ブロック自身の熱抵抗を低減することができる。
(2)溝6cを含む冷媒を流す領域に周期的突起が存在することで、冷媒の流れが安定流、層流にはならずに乱されることで、冷媒と薄板、冷却ブロック間の熱交換率が高められる。
よって、放熱性が良好で信頼性の高いパワー半導体モジュールの提供が可能となる。
【0042】
以上のように本発明は、薄板に突起部を設けることで力を面で受ける板バネとして作用させたものである。
その際、バネ定数は、薄板の厚みや表面に設ける突起部の数等で制御することができ、また、広い面で力を分散して受ける板バネとして作用させることができる。これによって、非特許文献1のようにモジュール外周にバネ定数の等しいバネを複数設ける場合に比較して、モジュールが片締めになる可能性が大幅に低減する。また、従来設けていた大型のバネをモジュール外側に設ける必要もなく、モジュールの小型化が出来るものである。
また、薄板上に設ける表面凹凸形状を半導体チップの真上のみに設けた場合には、半導体チップに効率的に力を伝播させることが可能となるものである。
【0043】
冷却ブロックに溝6cを設け、この溝6cと薄板表面に設けられる突起部5cとで冷却水の循環水路が形成され、両者の機能が相乗されて半導体チップ側に対する循環水路の面積が広く形成されるため、循環水路と半導体チップ間の熱抵抗が低減されると共に、熱交換率が向上して放熱性が向上するものである。特に、半導体チップが配設される真上の相当位置に薄板の凹凸形状を位置させた場合には、凹凸形状近傍では冷媒と内部部品間の熱交換率が最大となるため、半導体チップ真上方向の放熱性が向上するものである。
【0044】
さらに本発明では、冷却ブロックと薄板とを一体化する際に接着剤とボルトで
内部部品の周辺部を締め付け、その後に接着剤を硬化させるという簡単な手法により圧接力を確保し、冷媒の外部への漏れを防止することができる。接着剤の層(厚さ)を変更することで、内部部品とケースの厚み方向のズレ(公差)に対応できるものである。
【符号の説明】
【0045】
1… 半導体チップ
2… コンタクト材
3… 電極材
4… 絶縁材
5… 薄板
6… 冷却ブロック
7… ケース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと、この半導体チップを電極材や絶縁材で挟み込んで内部部品とし、内部部品の外側より冷却ブロックを積層する圧接型のパワー半導体モジュールにおいて、
前記内部部品の上下面に、任意分部に突起部が凸設されて力を面で受ける板バネ特性を有する薄板を設け、この薄板と前記内部部品の側面をケースで被覆すると共に、前記冷却ブロックの内面側に冷却媒体の入出口と連通する流通用の溝を設け、この溝側を前記薄板の突起部側に向けて内部部品と一体的に形成したことを特徴としたパワー半導体モジュール。
【請求項2】
前記薄板の突起部は、前記半導体チップの真上相当の位置に設けられることを特徴とした請求項1記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記薄板は、周縁部の厚みを厚くして形成し、形成された薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化することを特徴とした請求項1又は2記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化した後に、冷却ブロックから挿入されたボルトにより薄板を介して前記半導体チップに圧接力を伝播することを特徴とした請求項3記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間の一体化は、接着剤によることを特徴とした請求項3又は4記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
前記冷却媒体流通時に、薄板と冷却ブロック接合面に周期的な突起形状を持たせることを特徴とした請求項1乃至5の何れかに記載のパワー半導体モジュール。
【請求項7】
前記薄板は、平板部の肉厚は0.1〜0.5mm、突起部の厚さ0.1〜1.0mmで形成されたことを特徴とした請求項1乃至6の何れかに記載のパワー半導体モジュール。
【請求項8】
前記薄板と冷却ブロック接合時に、薄板の突起部が冷却ブロックに最初に接触し、前記接着剤若しくはボルト締め付け時に薄板の突起部に接触圧力がかかるよう構成されたことを特徴とした請求項1乃至6の何れかに記載のパワー半導体モジュール。
【請求項1】
半導体チップと、この半導体チップを電極材や絶縁材で挟み込んで内部部品とし、内部部品の外側より冷却ブロックを積層する圧接型のパワー半導体モジュールにおいて、
前記内部部品の上下面に、任意分部に突起部が凸設されて力を面で受ける板バネ特性を有する薄板を設け、この薄板と前記内部部品の側面をケースで被覆すると共に、前記冷却ブロックの内面側に冷却媒体の入出口と連通する流通用の溝を設け、この溝側を前記薄板の突起部側に向けて内部部品と一体的に形成したことを特徴としたパワー半導体モジュール。
【請求項2】
前記薄板の突起部は、前記半導体チップの真上相当の位置に設けられることを特徴とした請求項1記載のパワー半導体モジュール。
【請求項3】
前記薄板は、周縁部の厚みを厚くして形成し、形成された薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化することを特徴とした請求項1又は2記載のパワー半導体モジュール。
【請求項4】
前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間を一体化した後に、冷却ブロックから挿入されたボルトにより薄板を介して前記半導体チップに圧接力を伝播することを特徴とした請求項3記載のパワー半導体モジュール。
【請求項5】
前記薄板の厚い層と前記冷却ブロック間の一体化は、接着剤によることを特徴とした請求項3又は4記載のパワー半導体モジュール。
【請求項6】
前記冷却媒体流通時に、薄板と冷却ブロック接合面に周期的な突起形状を持たせることを特徴とした請求項1乃至5の何れかに記載のパワー半導体モジュール。
【請求項7】
前記薄板は、平板部の肉厚は0.1〜0.5mm、突起部の厚さ0.1〜1.0mmで形成されたことを特徴とした請求項1乃至6の何れかに記載のパワー半導体モジュール。
【請求項8】
前記薄板と冷却ブロック接合時に、薄板の突起部が冷却ブロックに最初に接触し、前記接着剤若しくはボルト締め付け時に薄板の突起部に接触圧力がかかるよう構成されたことを特徴とした請求項1乃至6の何れかに記載のパワー半導体モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−12641(P2013−12641A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145350(P2011−145350)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
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