説明

ヒアルロン酸産生促進剤

【課題】日常生活のなかでヒト皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進させることにより、皮膚の老化遅延や防止、ヒアルロン酸の異常分解又はヒアルロン酸産生能の低下による疾病、例えば、リウマチ、変形性関節症、歯肉炎などの治療に使用でき、且つ生態に対し安全なヒアルロン酸産生促進剤を提供すること。
【解決手段】コンドロイチン硫酸を有効成分として含有するヒアルロン酸産生促進剤、当該ヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧品及び医薬品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒアルロン酸産生促進剤に関し、詳細には、ヒト皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進させることにより、皮膚の老化遅延や防止、ヒアルロン酸の異常分解又はヒアルロン酸産生能の低下による疾病治療に使用でき、且つ生体に対して安全なヒアルロン酸産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、動物の皮膚、血管壁、眼硝子体、臍帯などの結合組織の構成成分であり、関節液の主成分でもある。ヒアルロン酸は、細胞間隙に水分を保持する機能、結合組織内にジェリー状のマトリックスを形成して細胞を保持する機能、結合組織の潤滑性と柔軟性を保持する機能、機械的障害等の外力に対する抵抗機能など多くの機能を有している。
【0003】
しかし、皮膚線維芽細胞中のヒアルロン酸は年齢とともに減少するため、小ジワやカサツキなどの老化現象がもたらされる。このような老化した皮膚を改善するために、ヒアルロン酸などの保湿剤を配合した化粧品が数多く提案されている。例えば、1,3−ブチレングリコ−ル,ポリエチレングリコ−ル,マルチト−ル,ソルビトール,フルクトース,グルコース,ポリオキシエチレンメチルグルコシド,ヒアルロン酸などの保湿剤を配合した、浸透圧が200〜600ミリオスモルの化粧料(例えば、特許文献1参照。)がある。しかし、これらの化粧品は皮膚表面の保湿効果をもたらすだけであり、本質的に老化した皮膚を改善したり、老化を防止したりするものではない。その他にも老化した皮膚を改善するために、皮膚細胞賦活剤としてビタミン類や生薬などが使用されている。例えば、ゴマ、サンヤク、トウガラシ、トウキ、ドクダミ、バクモンドウなどの植物抽出物を含有する線維芽細胞増殖促進剤(例えば、特許文献2参照。)、コラーゲン蛋白を配合した新陳代謝促進剤(例えば、特許文献3参照。)などがある。しかし、いずれも老化した皮膚の治療にまでは至っていないのが現状である。
【0004】
また、関節液中のヒアルロン酸は、関節軟骨の表面を覆い、関節機能の円滑な作動に役立っている。胎児の関節液中のヒアルロン酸量が最も多く、約1〜3mg/ml含有するが、成人の関節液中のヒアルロン酸量は約0.3mg/mlまで低下する。慢性関節リウマチの場合は、さらに関節液中のヒアルロン酸量が低下し、同時に関節液の粘度も著しく低下する。また、化膿性関節炎や痛風性関節炎などにおいても関節液中のヒアルロン酸量が低下することが知られている。
【0005】
これらの疾患において、潤滑機能の改善、関節軟骨の被覆・保護、疼痛抑制及び病的関節液の性状改善のために、関節液中のヒアルロン酸量を増加させることが考えられる。例えば、慢性関節リウマチ、外傷性関節症、骨関節炎及び変形性関節症の患者にヒアルロン酸ナトリウムの関節注入療法を行うと、上記の症状の改善が認められること(例えば、非特許文献1参照。)が報告されている。しかし、上記疾患の治療は長期にわたり、しかも医師の処方を必要とする。従って、日常生活の中で手軽に治療できるヒアルロン酸産生促進剤を含有させた医薬品が望まれていた。
【0006】
また、熱傷受傷後の治癒過程で、壊死組織の下方から増生してくる肉芽組織の初期から組織全体が肉芽組織に置き換えられるまでの期間では、肉芽中にヒアルロン酸が著しく増加することが知られており、熱傷の初期の治療薬としても、ヒアルロン酸産生促進剤が期待されている。また、ヒアルロン酸分解酵素であるヒアルロニダーゼ活性が歯肉炎、肝炎などの部位で顕著に増加していること(例えば、非特許文献2参照)が報告されている。これによると、ヒアルロニダーゼ活性の増加によるヒアルロン酸量の低下が歯肉炎の症状を
悪化することが考えられている。
【0007】
ヒアルロン酸の減少による状態を改善するために、種々のヒアルロン酸合成促進物質が見出されている。例えば、β−カロテン、トコフェロールなどのイソプレノイド鎖を有する化合物を必須成分とするヒアルロン酸産生促進剤(例えば、特許文献4参照。)、コナゲニンを有効成分とするヒアルロン酸産生促進剤(例えば、特許文献5参照。)、アロエ抽出物、オクラ抽出物、水溶性β−1,3−グルカン誘導体、酵母抽出物などを含有するヒアルロン酸合成促進剤(例えば、特許文献6参照。)、ツカサノリ科トサカモドキ属に属する海藻の抽出物を含有する生体ヒアルロン酸合成促進剤(例えば、特許文献7参照。)、ラベンダー抽出液を含有するヒアルロン酸合成促進剤(例えば、特許文献8参照。)、ダービリア科ダービリア属に属する海藻の抽出物を含有する生体ヒアルロン酸合成促進剤(例えば、特許文献9参照。)などが知られている。
【0008】
その他のヒアルロン酸産生促進作用を有する成分として、例えば、レチノールとダイズタンパク質のサーモリシン分解物との併用(例えば、特許文献10参照。)、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物(例えば、特許文献11参照。)、レチノール類と特定のアミノ酸配列を有する特定ペプチド類との併用(例えば、特許文献12参照。)、海藻アナアオサの抽出物(例えば、特許文献13参照。)、メソイの植物抽出物(例えば、特許文献14参照。)、フノリ科フノリ属に属する海藻の抽出物(例えば、特許文献15参照。)、アオサ科アオサ属(Ulva)(但し、アナアオサ(Ulva pertusa)を除く)、アオサ科アオノリ属(Enteromorpha)、オゴノリ科オゴノリ属(Gracilaria)、テングサ科マクサ属(Gelidium)、ミリン科キリンサイ属(Eucheuma)、コンブ科アラメ属(Eisenia)、アイヌワカメ科ワカメ属(Undaria)、ホンダワラ科ヒジキ属(Hizikia)またはヒバマタ科アスコフィラム属(Ascophyllum)に属する海藻の抽出物(例えば、特許文献16参照。)、N−メチル−L−セリン、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン(例えば、特許文献17参照。)、哺乳動物(ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジおよびブタ)の乳清を特定条件で処理した乳清由来成分(例えば、特許文献18参照。)、コラーゲン又はゼラチンのコラゲナーゼによる分解物であり、特定のアミノ酸配列で表されるコラーゲントリペプチドからなる特定のコラーゲンペプチド(例えば、特許文献19参照。)、キシロオリゴ糖分子中にウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖(例えば、特許文献20参照。)、チャングバット、マルバチチシャノキ、リュウキュウチシャノキ及びチシャノキの抽出物(例えば、特許文献21参照。)、特定のホスフェート誘導体(例えば、特許文献22参照。)などが知られている。
【0009】
一方、コンドロイチン硫酸は、保湿剤、感触改良剤、増粘剤、乳化安定剤等として、通常ナトリウム塩として市販されており、化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品などに用いられている。このようなものとしては、皮膚保湿のための水中油型乳剤性ローション剤(例えば、特許文献23参照。)や、創傷(潰瘍)のようなコラーゲン原線維形成に関連する疾患又は状態を治療するための医薬品(例えば、特許文献24参照。)や、眼圧上昇の危険を減少させる眼科外科用の弾粘性溶液(例えば、特許文献25参照。)などがある。また、結合組織由来の正常皮膚線維芽細胞がヒアルロン酸分解活性を持ち、その分解がコンドロイチン硫酸C誘導体によって促進されること(例えば、特許文献26参照。)が知られている。しかしながら、コンドロイチン硫酸自体にヒト皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生促進作用があることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−170641号公報
【特許文献2】特開平10−45615号公報
【特許文献3】特開平7−278012号公報
【特許文献4】特開2004−359573号公報
【特許文献5】国際公開第2007/11066号
【特許文献6】特開2004−51533号公報
【特許文献7】特開2000−136147号公報
【特許文献8】特開平10−182402号公報
【特許文献9】特開平09−176036号公報
【特許文献10】特開2008−24704号公報
【特許文献11】国際公開第2007/49400号
【特許文献12】国際公開第2007/148804号
【特許文献13】特開平6−9422号公報
【特許文献14】特開平9−87163号公報
【特許文献15】特開平8−198741号公報
【特許文献16】特開平7−101871号公報
【特許文献17】特開平6−189780号公報
【特許文献18】特開平11−335234号公報
【特許文献19】特開2004−123637号公報
【特許文献20】特開2004−59480号公報
【特許文献21】特開2002−363087号公報
【特許文献22】特開2002−363081号公報
【特許文献23】特開平11−180821号公報
【特許文献24】特表2007−534749号公報
【特許文献25】特許第3224815号公報
【特許文献26】特開平11−80205号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】奥山隆ら著「動物成分利用集成 陸産動物篇」株式会社R&Dプランニング、2002年6月25日、p753−755
【非特許文献2】掛川寿夫ら著「炎症」4巻(1984年)4号、p437−438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、日常生活のなかでヒト皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進させることにより、皮膚の老化遅延や防止、ヒアルロン酸の異常分解又はヒアルロン酸産生能の低下による疾病、例えば、リウマチ、変形性関節症、歯肉炎などの治療に使用でき、且つ生体に対し安全なヒアルロン酸産生促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究を行った結果、コンドロイチン硫酸がヒアルロン酸産生促進作用を有することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明はコンドロイチン硫酸を有効成分として含有するヒアルロン酸産生促進剤である。本発明は上記ヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧品及び医薬品も包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、日常生活のなかでヒト皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進できることから、皮膚の老化遅延や防止、ヒアルロン酸の異常分解又はヒアルロン酸合成能の低下による疾病、例えば、リウマチ、変形性関節症、歯肉炎などの治療に応用でき、且つ生体に対して安全である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のヒアルロン酸産生能を示すグラフである。
【図2】肌弾力性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤に用いるコンドロイチン硫酸としては、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B、コンドロイチン硫酸C、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、コンドロイチン硫酸K及びこれらの塩が挙げられる。コンドロイチン硫酸の塩としては、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ルビジウム塩などのアルカリ金属塩、ベリリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩などのアルカリ土類金属塩が挙げられる。上記コンドロイチン硫酸は、鮭、サメ、イカ、鯨、ウシ及び豚などの動物から得られ、通常は軟骨、皮膚などの部位が用いられる。上記コンドロイチン硫酸は市販品を用いることができる。例えば、「コンドロイチン硫酸A.ナトリウム塩(クジラ軟骨).SSG」、「コンドロイチン硫酸A.ナトリウム塩(クジラ軟骨).SG」、「コンドロイチン硫酸A.ナトリウム塩(チョウザメ脊索)」、「コンドロイチン硫酸B.ナトリウム塩(ブタ皮)」、「コンドロイチン硫酸C.ナトリウム塩(サメ軟骨).SSG」、「コンドロイチン硫酸C.ナトリウム塩(サメ軟骨).SG」、「コンドロイチン硫酸Dナトリウム塩(サメ軟骨)」、「コンドロイチン硫酸E.ナトリウム塩(イカ軟骨)」など(以上、生化学バイオビジネス株式会社)、秋鮭鼻軟骨由来のコンドロイチン硫酸ナトリウムであってコンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cが混在する「MCマリンコンドロイチン」及び「SCSマリンコンドロイチン」(ともに株式会社日本バリアフリー)、豚気管軟骨由来の「コンドロイチン硫酸ナトリウム(外原基)」、「コンドロイチン硫酸ナトリウム(局外基)FDT−P」及び「コンドロイチン硫酸ナトリウム(局外基)FDC−P」(以上、BiofacA/S)などが挙げられる。上記コンドロイチン硫酸のなかでは、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C及びこれらのナトリウム塩が好ましいが、現時点ではその作用メカニズムは明らかではない。これらコンドロイチン硫酸は、1種単独又は2種以上を有効成分として本発明のヒアルロン酸産生促進剤に配合する。コンドロイチン硫酸は化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品などに用いられてきた物質であって安全性に問題はなく、安定性においても優れている。
【0018】
上記コンドロイチン硫酸は、例えば次の製造方法によって得られる。まず原料として、鮭、サメ、イカ、鯨、ウシ又は豚由来の軟骨又は皮膚を適宜使用する。次に、この原料に常法による酵素処理を施して、タンパク質を除去する。さらに常法による脱カルシウム処理、脱脂処理、脱色処理及び脱臭処理を施す。各処理工程を経て得られた溶液にトリクロル酢酸を添加し、トリクロル酢酸の最終濃度が10%になるように調製する。調製液を4℃で24時間静置した後、遠心分離し、得られた上清を24時間透析する。透析内液に10%酢酸ナトリウムを加えて、得られた上清にエタノールを添加し、得られる沈殿物をコンドロイチン硫酸の粗抽出物として回収する。コンドロイチン硫酸の粗抽出物はゲルろ過クロマトグラフィー用担体「セファデックスG−25」(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて精製し、得られた精製物を粉末にして回収する。
【0019】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤の剤型としては、上記製造方法例により得られた粉末状のほか、適宜溶媒を用いて液状にしたり、適宜賦形剤を用いて顆粒状にしたりするなど使用し易い状態に製剤化されたものを用いればよい。
【0020】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤には、有効成分である上記コンドロイチン硫酸以外に、目的に応じて化粧品又は医薬品に通常使用されている成分又は使用が許容されている成分を、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜配合することができる。
【0021】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧品又は医薬品において、有効成分であるコンドロイチン硫酸の配合量は、化粧品又は医薬品の総量を基準として、乾燥固形分換算で0.005質量%(以下、wt%と表記する。)以上、10wt%以下が効果の発現性や原価の点から考えて好ましい。特に0.005wt%以上、5wt%以下が製品に配合して応用する際に好ましい。
【0022】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤を化粧品又は医薬品に配合する際に、ヒアルロン酸産生促進剤とともに配合する他の成分としては、化粧品又は医薬品のそれぞれにおいて通常使用できるものなら全て使用でき、効能、効果に応じ適宜選択する。
【0023】
本発明の化粧品の形態は特に限定されるものではないが、例えばクリーム、乳液、化粧水、エッセンス、洗顔料、クレンジング料、パックなどの基礎化粧品、口紅、ファンデーション、アイカラーなどのメイクアップ化粧品、ボディソープ、石鹸、シャンプー、リンス、コンデッショナーなどのトイレタリー製品、毛髪用セット剤などの毛髪用化粧品として用いることができる。本発明のヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧品は、皮膚老化防止効果に優れることから、皮膚外用形態の化粧品が好適である。
【0024】
上記化粧品には、例えば一般に化粧品に用いられている賦形剤、香料などをはじめ、油脂類、界面活性剤、保湿剤、美白剤、pH調整剤、粘結剤類、多価アルコール類、精油及び香料類、増粘剤、防腐剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、顔料、植物粉砕物及び生薬類、無機塩類及び無機酸類、洗浄剤、乳化剤などの各種化粧品成分を適宜配合することができる。
【0025】
本発明の化粧品は、上記配合可能な化粧品成分のなかでもN−アセチルグルコサミンを、コンドロイチン硫酸を有効成分として含有するヒアルロン酸産生促進剤とともに配合することが好ましい。両者を併用した場合、肌弾力性など老化した皮膚の改善効果がより優れたものとなる。N−アセチルグルコサミンの配合量は特に限定されないが、化粧品の総量を基準として、乾燥固形分換算で0.005wt%以上、10wt%以下が効果の発現性や原価の点から考えて好ましい。
【0026】
本発明の医薬品の剤型としては特に限定されず、経口投与製剤でも非経口投与製剤のいずれであっても構わない。具体的には、エアゾール剤、液剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセル)、顆粒剤、丸剤、眼軟膏剤、経皮吸収型製剤、懸濁剤、乳剤、坐剤(含膣剤)、散剤、酒精剤、錠剤(素錠、コーティング錠、特殊錠)、シロップ剤、浸剤・煎剤、注射剤(水溶性注射剤、非水溶性注射剤)、貼付剤、チンキ剤、点眼剤、トローチ剤、軟膏剤、パップ剤、芳香水剤、リニメント剤、リモナーデ剤、流エキス剤、ローション剤などが挙げられる。これらの製剤は、製剤技術分野における慣用方法にて製造でき、例えば日本薬局方記載の方法で製造することができる。これらの製剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して安全に投与することができるものである。
【0027】
前記薬理学的に許容される担体としては特に限定されず、製剤素材として公知である各種担体物質を使用することができる。前記担体物質としては特に限定されず、例えば、固形製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等を挙げることができる。前記担体物質に加えて、更に、防腐剤、着色剤、天然色素、甘味剤等の製剤添加物も必要に応じて用いることができる。これらの物質として、乳糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、カルメロースカルシウム、無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が具体的に例示できるが、これらに限られるものではない。
【0028】
液状製剤における前記担体物質としては特に限定されず、例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤等として配合されるもの等を挙げることができる。更に、防腐剤、着色剤、水不溶性レーキ色素、甘味剤等の製剤添加物も必要に応じて用いることができる。これらの物質として、マンニトール、塩化ナトリウム、グルコース、ソルビトール、グリセロール、キシリトール、フルクトース、マルトース、マンノース等の等張化剤、亜硫酸ナトリウム等の安定化剤、ベンジルアルコール、パラヒドロキシ安息香酸メチル等の保存剤等の他、溶解補助剤、無痛化剤やpH調整剤等が具体的に例示できるが、これらに限られるものではない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を例示することにより、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0030】
(コンドロイチン硫酸の抽出・調製)
鮭の鼻軟骨を常法による酵素処理を施して、タンパク質を除去した。次に、常法による脱カルシウム処理、脱脂処理、脱色処理及び脱臭処理を施した。各処理工程を経て得られた溶液にトリクロル酢酸を添加し、トリクロル酢酸の最終濃度が10%になるように調整した。調製液を4℃で24時間静置した後、遠心分離し、得られた上清を24時間透析した。透析内液に10%酢酸ナトリウムを加えて、得られた上清にエタノールを添加し、得られた沈殿物をコンドロイチン硫酸の粗抽出物として回収した。コンドロイチン硫酸の粗抽出物はゲルろ過クロマトグラフィー用担体「セファデックスG−25」(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて精製し、得られた精製物を粉末にして回収した。粉末回収したコンドロイチン硫酸を以下の評価試験に用いた。
【0031】
(評価試験1:ヒアルロン酸産生能の測定)
正常ヒト線維芽細胞(倉敷紡績株式会社)の細胞数を、10%非動化FBSを含むMEM培地にて1×10個/mlに調製した。調製した細胞を、24ウェルプレート(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に0.5mlずつ播種し、37℃、5%CO気相下で48時間静置培養した。
【0032】
0.25%非動化FBSを含むMEM培地にて、コンドロイチン硫酸の終濃度が0.2mg/ml、0.4mg/ml、0.8mg/mlの各濃度になるように、粉末回収したコンドロイチン硫酸を調製した。48時間静置培養したウェルプレートの培養上清液を吸引除去し、調製した各コンドロイチン硫酸を0.5mlずつ各ウェル(各濃度で4ウェルずつ)に添加した。コンドロイチン硫酸を添加しないウェルをコントロール(4ウェル)とした。72時間静置培養後、培養上清を回収し、培養上清中のヒアルロン酸含量を市販のヒアルロン酸測定キット(生化学工業株式会社)にて測定した。
【0033】
得られたデータはt−検定を用いデータの有意差検定を行った。有意水準5%にて*(p<0.05)を示す。結果を図1に示す。なお、各濃度におけるヒアルロン酸量は、コントロールにおけるヒアルロン酸量を100%としたときの相対値である。
【0034】
図1に示した結果から明らかなように、コンドロイチン硫酸は濃度依存的にヒアルロン酸の産生を促進した。
【0035】
(評価試験2:ヒアルロン酸合成酵素のmRNA測定)
正常ヒト線維芽細胞(倉敷紡績株式会社)の細胞数を、10%非動化FBSを含むMEM培地にて1×10個/mlに調製した。調製した細胞を、3枚の6ウェルプレート(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に2mlずつ播種し、37℃、5%CO気相下で48時間静置培養した。
【0036】
0.25%非動化FBSを含むMEM培地にて、コンドロイチン硫酸の終濃度が0.1mg/ml、0.2mg/ml、0.4mg/ml、0.8mg/mlの各濃度になるように、粉末回収したコンドロイチン硫酸を調製した。48時間静置培養したウェルプレートの培養上静液を吸引除去し、調整した各コンドロイチン硫酸を2mlずつ各ウェル(各濃度で3ウェルずつ)に添加した。コンドロイチン硫酸を添加しないウェルをコントロール(3ウェル)とした。
【0037】
さらに72時間静置培養した後、ウェルプレートの培養上清を吸引除去し、RNA安定化溶液(Life Technologies Inc.)を0.5mlずつ各ウェルに添加した。各ウェルからスクレーパーで細胞溶液を取り、市販のトータルRNA精製用キット(株式会社キアゲン「RNeasy Mini Kit」)にて総RNAを抽出した。抽出に際して、それぞれの細胞溶液のRNA量を分光光度計にて測定し、総RNA濃度が200μg/mlになるように総RNAを調整した。
【0038】
この総RNAを鋳型とし、内部標準であるGAPDH及びHAS2(Hyaluronan Synthase 2)のmRNA発現量を測定した。検出は市販のリアルタイムPCR装置(Cepheid「Smart cycler」)を用いて、市販のRT−PCR試薬キット(タカラバイオ株式会社「SYBR Prime Script RT−PCR kit II(Perfect Real Time)」)による2ステップリアルタイムRT−PCR反応により行った。HAS2の発現量は、総RNAの値を基にしてGAPDHの値で補正値を求め、更に試料無添加の補正値を100とした場合のコンドロイチン硫酸添加によるHAS2のmRNA発現促進量(%)を算出した。
【0039】
HAS2 mRNA発現促進率(%)=A/B×100
A:コンドロイチン硫酸添加時の補正値
B:試料無添加時の補正値
を表す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、コンドロイチン硫酸添加によってHAS2のmRNA発現量の促進が確認された。このように、コンドロイチン硫酸は、ヒアルロン酸合成酵素HAS2の遺伝子に働きかけ、ヒアルロン酸を促進していることが分かった。
【0042】
以下に、本発明のヒアルロン酸促進剤を含有する化粧品及び医薬品の実施例を示す。組成はwt%で示す。なお、以下の実施例では、コンドロイチン硫酸ナトリウムとして「SCSマリンコンドロイチン」(株式会社日本バリアフリー)を用いた
【0043】
(実施例1) 化粧水 wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 0.1
N−アセチルグルコサミン 0.05
エタノール 7.5
プラセンタエキス 0.05
D−パントテニルアルコール 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
フェノキシエタノール 0.3
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 0.3
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.05
エデト酸二ナトリウム 0.05
濃グリセリン 3.5
1,3−ブチレングリコール 2.5
ポリグリセリン 0.5
キサンタンガム 0.5
ソルビット液 5.0
カルボキシビニルポリマー 0.1
精製水 to 100
【0044】
(実施例2)乳液 wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 0.1
D−パントテニルアルコール 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
流動パラフィン 10.0
濃グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 10.0
ソルビット液 5.0
サラシミツロウ 0.5
流動パラフィン 1.5
親油型モノステアリン酸グリセリル 0.1
ステアリン酸 0.3
メチルポリシロキサン 1.0
ワセリン 1.0
コレステロール 0.02
ベントナイト 0.1
N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム 0.3
キサンタンガム 0.2
ベヘニルアルコール 0.3
フェノキシエタノール 0.2
ヒアルロン酸ナトリウム(2) 0.05
水溶性コラーゲン(F) 0.1
鮭卵巣抽出物 0.1
パラオキシ安息香酸エステル 0.1
N−アセチルグルコサミン 0.05
精製水 to 100
【0045】
(実施例3) クリーム wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 0.1
D−パントテニルアルコール 1.0
グリチルリチン酸ジカリウム 0.5
流動パラフィン 4.0
サラシミツロウ 0.5
コレステロール 1.0
メチルシクロポリシロキサン 2.0
ジプロピレングリコール 7.0
親油型モノステアリン酸グリセリル 0.3
セチル硫酸ナトリウム 1.0
モノステアリン酸ポリエチレングリコール 1.0
ヒアルロン酸ナトリウム(2) 0.5
水溶性コラーゲン(F) 0.1
フェノキシエタノール 0.5
エデト酸二ナトリウム 0.05
N−アセチルグルコサミン 0.05
精製水 to 100
【0046】
(実施例4) 栄養クリーム wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 1.0
ステアリン酸 2.5
ステアリルアルコール 8.0
スクワラン 5.0
オクチルドデカノール 7.0
グリセリルモノステアレート 4.0
防腐剤 適 量
香料 適 量
グリセリン 6.0
ソルビトール 13.0
乳酸カリウム 0.5
精製水 to 100
【0047】
(実施例5) リップトリートメント wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 0.1
キャンデリラロウ 12.0
固形パラフィン 8.0
ミツロウ 5.0
カルナバロウ 2.0
ラノリン 14.0
マンニット 15.0
イソプロピルミリステート 10.0
香料 適 量
酸化防止剤 適 量
ヒマシ油 to 100
【0048】
(実施例6 ) 乳液 wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 0.05
D−パントテニルアルコール 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
濃グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 10.0
ソルビット液 5.0
サラシミツロウ 0.5
流動パラフィン 1.5
親油型モノステアリン酸グリセリル 0.1
ステアリン酸 0.3
メチルポリシロキサン 1.0
ワセリン 1.0
コレステロール 0.02
ベントナイト 0.1
N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム 0.3
キサンタンガム 0.2
ベヘニルアルコール 0.3
フェノキシエタノール 0.2
ヒアルロン酸ナトリウム(2) 0.05
水溶性コラーゲン(F) 0.1
鮭卵巣抽出物 0.1
パラオキシ安息香酸エステル 0.1
N−アセチルグルコサミン 0.04
精製水 to 100
【0049】
(実施例7) パック wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 0.5
タルク 25.0
プロピレングリコール 6.0
塩化カリウム 0.1
香料 適 量
カオリン to 100
【0050】
(実施例8) 栄養クリーム wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 1.0
ステアリン酸 2.0
ステアリルアルコール 8.0
還元ラノリン 2.0
スクワラン 8.0
オクチルドデカノール 6.0
防腐剤 適 量
香料 適 量
プロピレングリコール 5.0
グリセリン 3.0
乳酸 0.3
クエン酸ナトリウム 0.5
精製水 to 100
【0051】
(実施例9 ) スリミングマッサージジェル wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 2.0
グリセリン 60.0
ポリエチレングリコール200 14.0
ポリビニルアルコール 0.2
精製水 to 100
【0052】
(実施例10) スリミングマッサージソープ wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 5.0
ラウリン酸 10.0
水酸化カリウム 2.8
ヤシ油脂肪酸カリウム液 30.0
エデト酸2ナトリウム 0.15
メチルセルロース 0.5
ラウリン酸アミノプロピルベタイン液 2.0
グリセリン 8.0
香料 適 量
精製水 to 100
【0053】
(実施例11) マッサージ用ジェル wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 0.5
カフェイン 0.1
カルボキシビニルポリマー 0.5
ポリビニルアルコール 3.0
グリセリン 35.0
ポリエチレングリコール400 45.0
エタノール 適 量
防腐剤 適 量
精製水 to 100
【0054】
実施例1から実施例11の製法は通常の化粧品の方法に準じた。いずれの化粧品も連用により、肌のしわ、水分量、弾力性などが改善された。
【0055】
(実施例12) 顆粒剤 wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 10.0
デンプン 30.0
乳糖 49.0
結晶セルロース to 100
【0056】
上記の各重量部を均一に混合し、常法により作製し顆粒剤とした。なお、コンドロイチン硫酸ナトリウムとして「コンドロイチン硫酸ナトリウム(局外基)FDT−P」(BiofacA/S)を使用した。1包2g(コンドロイチン硫酸ナトリウム200mg)を骨関節炎の患者に1日3回食後に服用したところ、6ヶ月経過後に骨関節の痛みが緩和された。
【0057】
(実施例13) 錠剤 wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 10.0
結晶セルロース 1.5
ビタミンC 20.0
香料 1.0
グアガム 0.1
ショ糖脂肪酸エステル 1.5
粉糖 to 100
【0058】
上記の各重量部を均一に混合し、常法により作製し錠剤とした。なお、コンドロイチン硫酸ナトリウムとして「コンドロイチン硫酸ナトリウム(局外基)FDT−P」(BiofacA/S)を使用した。1錠1500mg(コンドロイチン硫酸ナトリウム150mg)を毎晩就寝前に4錠服用したところ、6ヶ月経過後に骨関節の痛みが緩和された。
【0059】
(実施例14) ソフトカプセル剤 wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 20.0
ビタミンE 20.0
小麦胚芽油 15.0
グリセリン脂肪酸エステル 5.0
ミツロウ 2.0
シソ油 to 100
【0060】
上記成分を混合し、ゼラチン、グリセリンからなるセラチン皮膜に充填し常法に準じソフトカプセルとした。なお、コンドロイチン硫酸ナトリウムとして「コンドロイチン硫酸ナトリウム(局外基)FDC−P」(BiofacA/S)を使用した。1カプセル500mg(コンドロイチン硫酸ナトリウム100mg)を朝晩食後に服用したところ、6ヶ月経過後に骨関節の痛みが緩和された。
【0061】
(実施例15) ハードカプセル剤 wt%
コンドロイチン硫酸ナトリウム 15.0
アスコルビン酸ナトリウム 18.0
デキストリン 24.0
グリセリン脂肪酸エステル 0.5
粉糖 to 100
【0062】
上記成分を混合し、ゼラチンからなるカプセル容器に充填し常法に準じハードカプセルとした。1カプセル500mg(コンドロイチン硫酸ナトリウム75mg)を3カプセル毎晩就寝前に服用したところ、6ヶ月経過後に慢性関節リウマチ患者の痛みが緩和された。
【0063】
(比較例1〜3)
コンドロイチン硫酸ナトリウム及びN−アセチルグルコサミンを配合しない以外は、実施例1〜3と同様にして、比較例1〜3の化粧水、乳液及びクリームを得た。
【0064】
(実用試験:肌の弾力性)
実施例1〜3の化粧水、乳液及びクリームを使用するP群と、比較例1〜3の化粧品、乳液及びクリームを使用するQ群に分けた。P群及びQ群に対し、男性10名及び女性8名のそれぞれ14名が6週間連用した。連用前後の肌の弾力性について皮膚粘弾性測定装置(Courage + Khazaka Electronic GmbH「Cutometer MPA580」)を使用して測定した。
【0065】
得られたデータはt−検定を用いデータの有意差検定を行った。有意水準5%にて*(p<0.05)を示す。結果を図2に示す。なお、各群の値は連用前における値を100としたときの相対値である。
【0066】
図2に示した結果から明らかなように、6週間の連用によりP群、Q群のいずれも連用前に比べ肌弾力性が上がったが、Q群には有意性はみられなかった。P群はQ群よりも高い弾力性を示し、有意性もみられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンドロイチン硫酸を有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のヒアルロン酸産生促進剤を含有する化粧品。
【請求項3】
さらにN−アセチルグルコサミンを含有する請求項2に記載の化粧品。
【請求項4】
請求項1に記載のヒアルロン酸産生促進剤を含有する医薬品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31123(P2012−31123A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173779(P2010−173779)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(306018365)クラシエホームプロダクツ株式会社 (188)
【Fターム(参考)】