説明

ビタミン劣化防止剤

【課題】ミネラルの存在下であってもビタミンの劣化、黒茶色等への変色を抑制することができるビタミンの劣化防止剤、ならびに、ミネラルが含有されていても、保存時におけるビタミンの損失、および外観、風味などの悪化を抑制することができるビタミン強化用製剤を提供すること。
【解決手段】水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするビタミン劣化防止剤、ならびに、ビタミンおよび該ビタミン劣化剤を含有するビタミン強化用製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするビタミン劣化防止剤、ならびに、ビタミンおよび該ビタミン劣化防止剤を含有するビタミン強化用製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ミネラル摂取量の不足が指摘され、その原因により引き起こされるとされる成人病の予防や健康維持等に関して、いろいろな種類のミネラルの役割が重要視され始めている。例えば、鉄は血中の蛋白質であるヘモグロビンに結合した状態で存在する事が知られており、鉄不足の状態になると組織中の貯蔵鉄から補われる。貯蔵鉄が不足した状態は潜在性貧血症と呼ばれ、日本人の約60%以上が患っていると言われている。この傾向は、女子高生や若い成人女性において特に顕著であり、その結果鉄欠乏性貧血を起こす女性が多数見られる。
【0003】
また、亜鉛は、ヨウ素、銅、モリブデン、セレン等と同様に生体内に不可欠な微量元素であり、生理作用としては、成長、骨格の発育、味覚・嗅覚の維持、皮膚及びその付属器官の新陳代謝の活性化、創傷治癒、生殖機能維持、精神・行動への影響、免疫機能増加等があげられる。しかし日本における亜鉛の摂取状況は、平成13年度の厚生省国民栄養調査では、成人で目標所要量の80%程度と不足傾向にある。
【0004】
また、マグネシウムは、成人で生体内に通常20〜30gが保有されており、脂肪を除くすべての組織に存在し、その50%以上が骨に存在している。またマグネシウムは、生体にとって、骨の形成、生化学的触媒反応の賦活、神経刺激の伝達等、カルシウムと拮抗的な機能を分担しており、生理学的に重要なミネラルである。また、マグネシウムの欠乏により虚血性心疾患等の心臓血管障害、妄想、不安感、興奮、錯乱等の精神障害、不整脈、基外収縮、頻脈、心室性細動等の循環器障害をもたらすことが認められている。しかし、日本におけるマグネシウムの摂取状況は、「第五次改定日本人の栄養所要量」において目標所要量300mg/日と規定されているにも関わらず、種々の調査によると平均摂取量は250mg/日程度であり不足傾向にあると報告されている。
【0005】
また、ビタミンも摂取が望ましい栄養素の一種であり、ビタミンの栄養強化を目的としたビタミン強化用タブレット等が多く市販されている。
【0006】
ビタミンは、劣化や着色を起こしやすく、特に高温、多湿の条件下では劣化が加速される。上記のようなビタミン強化用タブレット等において、上記したような鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルをビタミンと共に含有させたタブレットは、ミネラルとビタミンとを同時に、また簡便に摂取できるために好都合である。しかし、ビタミンは単独でも着色等の劣化が起こりやすく、ミネラルの存在下では、更にビタミンは非常に劣化しやすく、また黒茶色等に変色しやすいという性質がある。そのため、ミネラルとビタミンとを、共に安定した状態で、タブレット中に含有させることは非常に困難である。
【0007】
例えば、特許文献1には、ビタミンと鉄を同時に配合する技術として、アミノ酸でキレ−ト化された鉄を用いた技術が開示されている。しかし、この技術には、更に着色剤や香料が使用されることから健康上の欠点があり、また、そのビタミン劣化防止効果は満足できるものではなかった。
【0008】
【特許文献1】特表平11−511337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記課題を解決すべくなされたもので、ミネラルの存在下であってもビタミンの劣化、黒茶色等への変色を抑制することができるビタミンの劣化防止剤、ならびに、ミネラルが含有されていても、保存時におけるビタミンの損失、および外観、風味などの悪化を抑制することができるビタミン強化用製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する製剤によれば、ミネラルの存在下でも、ビタミンの劣化およびビタミンの黒茶色等への変色を抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
従って、本発明は、
[1] 水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするビタミン劣化防止剤;
[2] 水不溶性多価金属塩が、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルに被覆されている、[1]記載のビタミン劣化防止剤;
[3] 水不溶性多価金属塩が、酸化亜鉛、ピロリン酸第二鉄またはリン酸マグネシウムである、[1]または[2]記載のビタミン劣化防止剤;
[4] ビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12およびビタミンCからなる群より選択される1以上である、[1]〜[3]いずれか記載のビタミン劣化防止剤;
[5] ビタミンおよび[1]〜[4]いずれか記載のビタミン劣化防止剤を含有することを特徴とする、ビタミン強化用製剤;ならびに
[6] 製剤がタブレットである、[5]記載のビタミン強化用製剤;
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のビタミン劣化防止剤は、ミネラルの存在下でも、ビタミンの劣化を抑制し、かつ、ビタミンの黒茶色等への変色を抑制することができるという優れた効果を奏する。また、ビタミンおよび本発明のビタミン劣化防止剤を含有するビタミン強化用製剤は、ミネラルが含有されているにもかかわらず、保存時における、ビタミンの損失、および外観の変化、風味などの悪化を抑制することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のビタミン劣化防止剤は、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを1つの大きな特徴とする。また本発明のビタミン劣化防止剤は、好ましくは水不溶性多価金属塩が酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルによって被覆されているため、ビタミンと共に存在させても、本発明のビタミン劣化防止剤中のミネラルとビタミンとが反応を起こしにくい。そのため、本発明のビタミン劣化防止剤は、ビタミンを含むビタミン強化用製剤中に含有させても、ビタミンの劣化および黒茶色等への変色を抑制することができる。そのため本発明のビタミン強化用製剤は、ミネラルが含有されているにもかかわらず、保存時における、ビタミンの損失、および外観の変化、風味などの悪化を抑制することができるという優れた効果を奏する。
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明における製剤とは、その形状に限定されるものではなく、例えば、タブレット、顆粒、粉末、液体等が挙げられ、この中ではタブレットが好ましい。本発明におけるタブレットとは、粉末や粉状の原料を打錠により固めて成型したものをいう。なお、本発明における製剤は、医薬品、食品、菓子、化粧品、栄養補助食品など、その分野は問わない。
【0015】
本発明に用いられる水不溶性多価金属塩の不溶性とは、特に限定されるものではないが、味、消化管粘膜刺激性等の観点から、日本の第七版食品添加物公定書通則29の試験法において「極めて溶けにくい」(溶質1gを溶かすに要する水の量が1,000ml以上10,000ml未満)又は、「ほとんど溶けない」(溶質1gを溶かすに要する水の量が10,000ml以上)に該当するものをいい、好ましくは、「ほとんど溶けない」に該当するものである。
【0016】
本発明に用いられる水不溶性多価金属塩としては、例えば、塩化銀、ピロリン酸銀、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム、リン酸バリウム、炭酸バリウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化第一鉄、リン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、炭酸第一鉄、ピロリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化第一銅、水酸化マンガン、硫酸マンガン、水酸化ニッケル、リン酸ニッケル、硫酸鉛、酸化亜鉛、リン酸鉛、水酸化亜鉛、ピロリン酸亜鉛等が挙げられる。これらの中では、ピロリン酸第二鉄、リン酸マグネシウムおよび酸化亜鉛が好ましい。これらの水不溶性多価金属塩は、本発明において、鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルの供給源として使用される。
【0017】
本発明に用いられる酵素分解レシチンとしては、例えば、植物レシチンまたは卵黄レシチンをホスホリパーゼによって脂肪酸エステル部分を限定的に加水分解することで得られるものが挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、ホスホリパーゼAを用いて得られるリゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルイノシートル、リゾホスファチジルセリン等のモノアシルグリセロリン脂質、およびホスホリパーゼDを用いて得られるホスファチジル酸、リゾホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルグリセロール等が挙げられる。本発明に用いられる酵素分解レシチンとしては、上記のような酵素分解レシチンを1種で用いてもよく、また、2種以上を併用して用いてもよい。本発明に用いられる酵素分解レシチンとしては、好ましくはリゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリンからなる群より選択される1種または2種以上であり、より好ましくは、リゾホスファチジルコリンである。
【0018】
酵素分解レシチンの製造に際し、酵素分解に用いるホスホリパーゼとしては、豚膵臓等の動物起源、キャベツ等の植物起源、またはカビ類等の微生物起源等の由来を問わず、ホスホリパーゼAおよび/またはD活性を有したものであればいずれも好ましく使用できる。
【0019】
本発明において、ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルをいう。該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度、脂肪酸の種類およびエステル化率については、特に限定されるものではないが、ポリグリセリンの平均重合度としては3以上が好ましく、3〜11がより好ましい。また、該ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数が好ましくは6〜22、より好ましくは8〜18、さらに好ましくは12〜14である飽和または不飽和の、直鎖もしくは分岐鎖中に水酸基を有する脂肪酸であることが好ましい。
【0020】
本発明のビタミンの劣化防止剤は、例えば、上記のような水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを混合、攪拌することによって製造することができる。
【0021】
水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを混合する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、水不溶性多価金属塩の分散液に酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを溶解する方法、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの水溶液に水不溶性多価金属塩を添加する方法などが挙げられる。また、水に水不溶性多価金属塩分散液、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを同時に添加してもよい。
【0022】
水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物を攪拌する方法としても特に限定はなく、例えば、ホモミキサ−、ボ−ルミル、ビ−ズミル、ジェットミルなどを用いた物理的破砕方法、中和造塩方法などが挙げられるが、後述するような好ましい粒子径を有する本発明のビタミン劣化防止剤を簡易、簡便に得やすいという観点から、物理的破砕方法を用いることが好ましい。以下、物理的破砕方法を用いたビタミンの劣化防止剤の製造方法について説明する。
【0023】
上記のように、本発明において、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの混合、攪拌は、例えば水溶液中で行うことができる。混合、攪拌時に使用する水の量としては、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルによる水不溶性多価金属塩の被覆を安定して行うという観点から、水不溶性多価金属塩100重量部に対して水100重量部以上であることが好ましく、300重量部以上であることがより好ましい。使用する水の量の上限としては特に限定はされず、例えば混合、攪拌に使用される容器の大きさ等に応じて、使用可能な水の量を使用すればよい。また、ここで使用される水の種類としては特に限定されるものではないが、例えばイオン交換水などを使用することができる。
【0024】
水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの混合比率としては、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルによる水不溶性多価金属塩の被覆を安定して行うという観点から、水不溶性多価金属塩100重量部に対して、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量が1重量部以上であることが好ましく、5重量部以上であることがより好ましい。また、水不溶性多価金属塩100重量部に対して、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量が2000重量部以下であることが好ましく、1000重量部以下であることがより好ましい。従って、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの混合比率は、水不溶性多価金属塩100重量部に対して酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量が1〜2000重量部であることが好ましく、5〜1000重量部であることがより好ましい。かかる範囲内であれば、本発明のビタミン劣化防止剤をビタミン強化用製剤に含有させた際に、望ましいビタミン劣化防止効果を得ることができ、かつ、本発明のビタミン劣化防止剤をビタミン強化用製剤に含有させた際にも、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステル由来の独特の味により該製剤本来の味が損なわれることがないために、望ましい。
【0025】
また、本発明において、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBは、特に限定されないが、酵素分解レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルを水不溶性多価金属塩により強く被覆させる観点から、好ましくは6〜20であり、より好ましくは8〜18であり、更に好ましくは10〜16である。HLBの値は、例えば本発明において使用する酵素分解レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量の比を調節することにより調整することができる。従って、酵素分解レシチンとポリグリセリン脂肪酸エステルの使用量については、酵素分解レシチン:ポリグリセリン脂肪酸エステルが重量比で1:1〜1:100であることが好ましく、1:2〜1:50であることがより好ましく、1:3〜1:20であることが更に好ましい。
【0026】
上記のような割合で、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸が水溶液中に含有された混合液を、例えば、ホモミキサ−、ボ−ルミル、ビ−ズミル、ジェットミルなどを用いて攪拌することができる。攪拌時間、温度、攪拌の強さなどは特に限定されるものではなく、攪拌に使用するミキサーの種類等に応じて、水不溶性多価金属塩が酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルに被覆された状態となるように適宜設定されればよい。
【0027】
なお、水不溶性多価金属塩が酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルに被覆されたかどうかの確認は、例えば以下のようにして行うことができる。混合、攪拌後の水不溶性多価金属塩と酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する水溶液を、例えばCellulose Acetate(0.1μm;ADVANTEC製)等のフィルターを使用してフィルター濾過することにより水不溶性多価金属塩を取り除く。残りの水溶液中に存在する酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの量を測定し、用いた酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの全量と比較する。以上により、水不溶性多価金属塩の被覆に使用された酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの量を確認でき、水不溶性多価金属塩が酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルに被覆されたかどうかを間接的に確認することができる。また、電子顕微鏡等を使用して、水不溶性多価金属塩が酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルに被覆されているかどうかを直接的に確認してもよい。
【0028】
上記の方法によれば、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチン、およびポリグリセリン脂肪酸エステルが、水溶液中に粒子状に分散された状態の、本発明のビタミン劣化防止剤を得ることができる。この際、上記のように、水不溶性多価金属塩は、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルによって被覆されている状態にあることが好ましい。水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチン、およびポリグリセリン脂肪酸エステルからなる該粒子の平均粒子径としては、
酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルによる被覆の均一性の観点から、該水不溶性多価金属塩の平均粒子径として、好ましくは3μm以下であり、好ましくは1μm以下であり、更に好ましくは0.5μm以下である。ここで、平均粒子径の測定については既存の方法を用いることができ、特に限定されるものではなく、例えば動的光散乱法やレーザー回折光散乱法を用いることができる。また、平均粒子径は、例えば、前記したような攪拌の強さや攪拌時間を調整することによって好ましい範囲に調整することができる。
【0029】
本発明のビタミン劣化防止剤としては、上記のような水溶液状態のものをそのまま使用してもよく、また、例えば、噴霧乾燥などによって、粉末化したものを使用してもよい。噴霧乾燥の方法は特に限定されるものではなく、例えば、スプレ−ドライヤ−等を用いて行うことができる。
【0030】
上記のようにして、水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする、本発明のビタミン劣化防止剤を得ることができる。
【0031】
本発明におけるビタミンとしては、例えば、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12およびビタミンCからなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
本発明のビタミン強化用製剤は、上記のようにして得られた本発明のビタミン劣化防止剤とビタミンとを含有していることを特徴とする。本発明のビタミン強化用製剤の形状としては、特に限定はされないが、一般的な嗜好の形態の観点から、タブレットが好ましい。
【0033】
ビタミン強化用タブレットの製造方法としては、特に限定されるものではなく、従来知られているタブレットの製造方法を用いて製造すればよい。本発明のビタミン強化用タブレット中における本発明のビタミン劣化防止剤の含有量としては、所望の効果が得られれば特に限定はされないが、ビタミンの劣化を効率的に抑制する観点から、例えばビタミンB1を含有するタブレットの場合、ビタミン強化用タブレット中のビタミンB1、100重量部に対して、本発明のビタミン劣化防止剤中の水不溶性多価金属塩の量として10〜3000重量部であることが好ましく、20〜2000重量部であることがより好ましく、30〜1000重量部であることが更に好ましい。他のビタミンB群についても、ビタミンの劣化を効率的に抑制する観点から、適宜決定すればよい。他の形状のビタミン強化用製剤についても、それぞれの形状の製剤について従来知られている製造方法を用いて、上記のような好ましい範囲の量でビタミン劣化防止剤が含有されるように、製造することができる。
【実施例】
【0034】
実施例1
イオン交換水5223gを60℃に加温し、ポリグリセリン脂肪酸エステル(サンソフトQ−14US、太陽化学株式会社製)44g、酵素分解レシチン(エマルトップHL−50IP、日本シイベルヘグナ−株式会社製)13.8g、および酸化亜鉛(酸化亜鉛、ZCA社製)220gを加え、混合液を調製した。該混合液を、ダイノ−ミル(シンマルエンタ−プライゼス株式会社製)を用いて粉砕を1パス行って、酸化亜鉛分散組成物3070gを得た。得られた酸化亜鉛分散組成物のうち10gを水100gに希釈した後、超音波発振機UD−200(株式会社トミ−精工社製)を用いて目盛3の強さで2分間超音波処理を行い、レーザー回折型粒度分布測定機(ベックマンコ−ルカウンタ−230、ベックマン社製)を用いて該酸化亜鉛の平均粒子径を測定したところ、該酸化亜鉛の平均粒子径は0.25μmであった。次に、得られた酸化亜鉛分散組成物3060gに賦型剤としてマルトデキストリン1090gを加え、80℃で30分間加熱殺菌した。その後、噴霧乾燥することにより、亜鉛含量が70mg/gである粉末品、1045gを得た。これを本発明品1とした。
【0035】
試験例1:ビタミンB6含有混合品における、黒茶色変化抑制効果試験
実施例1で得られた本発明品1のビタミンの黒茶色変化抑制効果を、以下のようにして調べた。本発明品1とビタミンB6を、本発明品1中の亜鉛含量とビタミンB6が重量比で1:1の割合になるように混合した。得られた混合物を、透明パウチに充填後、シーラーにより密閉し、ビタミンB6含有混合品を準備した。比較区として、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛のそれぞれについて、本発明品1と同様にビタミンB6と混合し、同様に処理したビタミンB6含有混合品を準備した。また、対照区として、亜鉛を含有せず、ビタミンB6のみを透明パウチに充填後、シーラーにより密閉したビタミンB6含有混合品を準備した。
【0036】
各ビタミンB6含有混合品を、37℃で6ヶ月間保存した。6ヶ月後、各ビタミンB6含有混合品の色を目視により観察した。各ビタミンB6含有混合品の黒茶色の変化度を、全く変化しないを1、完全に黒色に変化するを10として、10段階で評価を行なった。
【0037】
試験例2:ビタミンB群含有混合品における、黒茶色変化抑制効果試験
本発明品1とビタミンB群(重量比で、ビタミンB1:B2:B6:B12=1:0.8:0.85:0.002)を、本発明品1中の亜鉛含量とビタミンB群中のビタミンB1群が重量比で5:1の割合になるように混合した。得られた混合物を、試験例1と同様に処理し、ビタミンB群含有混合品を得た。比較区として、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛のそれぞれについても、本発明品1と同様の割合でビタミンB群と混合し、同様に処理したビタミンB群含有混合品を準備した。また、対照区として、亜鉛を含有せず、ビタミンB群のみを透明パウチに充填後、シーラーにより密閉したビタミンB群含有混合品を準備した。
【0038】
上記のようにして得られたビタミンB群含有混合品の黒茶色の変化度を、試験例1と同様に評価した。
【0039】
試験例3:ビタミンCおよびB群含有混合品における、黒茶色変化抑制効果試験
本発明品1とビタミンCおよびB群(重量比で、ビタミンC:ビタミンB群=8:1、ビタミンB群の組成は、試験例2と同様である。)を、本発明品1中の亜鉛含量とビタミンCおよびB群が重量比で2:10の割合となるように混合した。得られた混合物を、試験例1と同様に処理し、ビタミンCおよびB群含有混合品を得た。比較区として、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛のそれぞれについても、本発明品1と同様の割合でビタミンCおよびB群と混合し、同様に処理したビタミンCおよびB群含有混合品を準備した。また、対照区として、亜鉛を含有せず、ビタミンCおよびB群のみを透明パウチに充填後、シーラーにより密閉したビタミンCおよびB群含有混合品を準備した。
【0040】
上記のようにして得られたビタミンCおよびB群含有混合品の黒茶色の変化度を、試験例1と同様に評価した。
【0041】
試験例1〜3の結果を、10名のパネラーによる黒茶色変化度の評価の平均値として、以下の表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、本発明品1によれば、ビタミン含有混合品の黒茶色変化を抑制することができることが確認された。これに対して、他の亜鉛素材を添加すると、ビタミン含有混合品は黒茶色に大きく変化する結果となった(比較区1〜3)。また、亜鉛を添加せず、ビタミンのみを単独で保存したビタミン含有混合品も、本発明品1を加えたものと比較して、より黒茶色に変化するという結果となった(対照区)。
【0044】
試験例4:ビタミンB群含有混合品における、ビタミン残存量確認試験
本発明品1とビタミンB群(重量比で、ビタミンB1:B2:B6:B12=1:0.8:0.85:0.002)とを、本発明品1中の亜鉛含量とビタミンB群中のビタミンB1が重量比で2.5:1となるような量で、イオン水100mlに加えて混合し、ビタミンB群含有混合液を得た。次いで、該ビタミンB群含有混合液を、25℃で14日間保存した。比較区として、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、酸化亜鉛のそれぞれについても、本発明品1と同様の割合でビタミンB群と混合し、同様に処理したビタミンB群含有混合液を準備した。また、対照区として、亜鉛を含有せず、ビタミンB群のみを同様に処理したビタミンB群含有混合液を準備した。保存後の各ビタミンB群含有混合液中の各種ビタミンBの残存量を、五訂日本食品標準成分表分析マニュアルの解説に準じてビタミンB1、B2は高速液体クロマトグラフ法、ビタミンB6、B12は微生物定量法により測定した。結果を以下の表2に示す。なお、表2中の数値(%)は、混合直後の各種ビタミンBの重量を100とした場合の、保存後の各種ビタミンBの重量の割合を示すものである。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示すように、本発明品1によれば、保存後もビタミンの残存量が維持されることが確認された。これに対して、他の亜鉛素材を添加すると、ビタミン残存量は大きく減少した(比較区1〜3)。また、亜鉛を添加せず、ビタミンのみを保存した場合も、本発明品1を加えた場合と比較して、ビタミン残存量が減少する結果となった(対照区)。
【0047】
実施例2
イオン交換水4334gを60℃に加温し、ポリグリセリン脂肪酸エステル132g(サンソフトQ−14US、太陽化学株式会社製)、酵素分解レシチン(エマルトップHL−50IP 日本シイベルヘグナ−株式会社製)44g、およびアラビアガム(五協産業株式会社製)55gを加え、混合液を調製した。該混合液に、リン酸マグネシウム935g(平均粒子径約1μm、太平化学産業社製)を加え、懸濁液を調製した。該懸濁液をダイノ−ミル(シンマルエンタ−プライゼス株式会社製)にて粉砕を2パス行って、リン酸マグネシウム分散組成物3070gを得た。得られたリン酸マグネシウム分散組成物10gを水100gに希釈した後、超音波発振機UD−200(株式会社トミ−精工)を用いて目盛3の強さで2分間超音波処理を行って粒子を均一に分散させ、レーザー回折型粒度分布測定機(ベックマンコ−ルカウンタ−230、ベックマン 社製)を用いて該リン酸マグネシウムの平均粒子径を測定したところ、該リン酸マグネシウムの平均粒子径は0.4μmであった。得られたリン酸マグネシウム分散組成物3060gにマルトデキストリンを600g加えて、80℃、30分加熱殺菌後、スプレ−ドライにてマグネシウム含量:70mg/gの粉末品、1020gを得た。これを本発明品2とした。
【0048】
試験例5:実施例2で得られた本発明品2のビタミン黒茶色変化抑制効果を、試験例2と同様にして、比較区として塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウムを用いて行ったところ、本発明品は試験例2と同様に、ビタミンB群含有混合品の黒茶色変化を抑制することが確認された。
【0049】
以上の実施例によって、本発明品のビタミン劣化防止剤は、ビタミンとミネラルの反応によるものと思われるビタミンの劣化促進を抑制できるという優れた効果を有することが示された。また、以上の実施例によって、本発明のビタミン劣化防止剤は、ミネラルの非存在下でのビタミンの自然劣化さえも、抑制することができるという優れた効果を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする本発明のビタミン劣化防止剤は、ビタミンの劣化、およびビタミンの黒茶色等への変化を抑制することができる。よって、該ビタミン劣化防止剤が含有されるビタミン強化用製剤は、保存時におけるビタミンの損失、および外観、風味などの悪化を抑制することができるため、例えば、最近需要が伸びているサプリメント等として、産業上の意義は非常に大きい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性多価金属塩、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするビタミン劣化防止剤。
【請求項2】
水不溶性多価金属塩が、酵素分解レシチンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルに被覆されている、請求項1記載のビタミン劣化防止剤。
【請求項3】
水不溶性多価金属塩が、酸化亜鉛、ピロリン酸第二鉄またはリン酸マグネシウムである、請求項1または2記載のビタミン劣化防止剤。
【請求項4】
ビタミンが、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12およびビタミンCからなる群より選択される1以上である、請求項1〜3いずれか記載のビタミン劣化防止剤。
【請求項5】
ビタミンおよび請求項1〜4いずれか記載のビタミン劣化防止剤を含有することを特徴とする、ビタミン強化用製剤。
【請求項6】
製剤がタブレットである、請求項5記載のビタミン強化用製剤。

【公開番号】特開2007−22928(P2007−22928A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203371(P2005−203371)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】