説明

ビレット材の加熱装置および加熱方法

【課題】鍛造装置が一時的に停止した場合でも、再稼働時に無駄にビレット材を払い出す必要がなく、再稼働した鍛造装置に所定温度としたビレット材を送り込むことができるビレット材の加熱装置の提供を図る。
【解決手段】複数のインダクションヒータ3a〜3dを供給経路Sの終端部に並列に配置し、鍛造プレス機2の一時停止時に、各インダクションヒータのビレット材Bの加熱を抑制し、鍛造プレス機2の再稼働時に、各インダクションヒータ内に存在するビレット材Bの温度を測定し、最も温度の高いビレット材Bが設定温度に達するための加熱時間を予測し、その予測時間を基に他のビレット材Bを所定のサイクルタイムで順に設定温度に加熱することにより、鍛造プレス機2が再稼働された際にビレット材Bの加熱を再開して、ビレット材Bの温度をひとつづつ個別に制御できるため、バイパス材の発生を無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造装置に送り込むビレット材を設定温度に加熱する加熱炉を備え、特に、鍛造装置が一時的に停止した後にバイパス材を発生させることなくビレット材を加熱するようにしたビレット材の加熱装置および加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造装置としてのプレス機にビレット材を送り込む際に、そのビレット材を電磁誘導加熱式の加熱炉(インダクションヒータ)で設定温度に加熱するようになっており、従来ではその加熱炉を直列に複数配置して、それら複数の加熱炉に複数のビレット材を直列に並べて順次通過させるようになっている。この場合、ビレット材は入り口側の加熱炉から徐々に加熱されて、出口側の加熱炉で最終的に設定温度(鍛造加工するに最適なビレット材の温度)となるように加熱される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平6−65118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、かかる従来のビレット材の加熱装置では、鍛造プレス機や付帯設備に軽微な故障が発生してラインが一時的に停止した場合、ビレット材の送り込みは一時停止されることになる。また、一時停止中は、ビレット材の加熱も一時停止することとなるが、加熱装置内の複数のビレット材は温度低下してしまい、再稼働時も通常稼働時の装置内温度を再現できず、バイパス材として鍛造プレス機にかけることなく加熱炉から排出(払い出し)しなければならない。
【0004】
或いは、加熱装置は稼働し続けビレット材をパイパス専用ラインに送り続ける方法もあるが、この場合、再稼働時のタイムロスは少なくなるが、バイパス材は多く発生してしまうこととなる。また、再稼働時までの加熱炉の熱量が無駄となって、多大なエネルギーロスが発生してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、鍛造装置が一時的に停止した場合でも、再稼働時に無駄にビレット材を払い出す必要がなく、再稼働した鍛造装置に所定温度としたビレット材を送り込むことができるビレット材の加熱装置および加熱方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鍛造装置に送り込むビレット材の供給経路に、それぞれ単一のビレット材を収納して所定のサイクルタイムで設定温度に加熱する複数の加熱炉を並列に設け、それら複数の加熱炉から設定温度に加熱されたビレット材を順次鍛造装置に送り込むビレット材の加熱装置であって、鍛造装置が一時的に停止された時に、各加熱炉内のビレット材の加熱を抑制するビレット材過加熱防止手段と、鍛造装置が再稼働された時に、各加熱炉内に存在するビレット材の温度を測定するビレット材温度測定手段と、最も温度の高いビレット材が設定温度に達するための加熱時間を予測し、その予測時間を基に他のビレット材を所定のサイクルタイムで順に設定温度に加熱する炉内熱量設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鍛造装置が一時的に停止された時に、ビレット材過加熱防止手段によってビレット材の加熱が抑制され、その後、鍛造装置が再稼働された時に、ビレット材温度測定手段で測定した各加熱炉内のビレット材の温度に基づいて、炉内熱量設定手段では最も温度の高いビレット材が設定温度に達するための加熱時間を予測して、その予測時間を基に他のビレット材を所定のサイクルタイムで順に設定温度に加熱するようにしたので、鍛造装置が再稼働された際に、ビレット材過加熱防止手段によって加熱が抑制された状態にあるビレット材の加熱が再開されることになる。
【0008】
従って、鍛造装置の再稼働に伴ってビレット材が加熱再開された際に、並列に設けた複数の加熱炉内のビレット材の温度をひとつづつ個別に制御できるため、無駄となるバイパス材の発生を無くすことが可能となり、ひいては、エネルギーロスを最小限に抑えることができる。
【0009】
そのとき、前記ビレット材温度測定手段および上記炉内熱量設定手段を設けたことによって、それぞれの加熱炉内のビレット材を設定温度に加熱するための熱量が最小で済み、かつ、最短時間で設定温度まで上昇させることができるため、鍛造装置の再稼働時のビレット材の送り込みを迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。図1〜図3は本発明にかかるビレット材の加熱装置の一実施形態を示し、図1は加熱装置を用いた鍛造装置の概略構成図、図2は加熱装置を温度制御するための流れを示す説明図、図3は鍛造装置が一時停止された際に複数の加熱装置を温度制御するタイムチャートである。
【0011】
本実施形態のビレット材の加熱装置1は、図1に示すように鍛造装置としての鍛造プレス機2にビレット材Bを送り込む供給経路S(S1〜S4)に設けられ、その加熱装置1は加熱炉としての複数(本実施形態では4個)の第1〜第4インダクションヒータ3a,3b,3c,3dを備えている。
【0012】
複数のインダクションヒータ3a〜3dは、それぞれ単一のビレット材Bを収納して電磁誘導加熱するようになっており、それらインダクションヒータ3a〜3dは供給経路Sの終端部(鍛造プレス機2への入り口部分)にそれぞれ並列に配置されている。
【0013】
従って、前記供給経路Sはそれぞれのインダクションヒータ3a〜3dを終端とする複数列の分岐経路S1,S2,S3,S4が設けられ、各分岐経路S1〜S4にそれぞれ複数のビレット材Bが直列に整列されて待機し、各インダクションヒータ3a〜3dからビレット材Bが鍛造プレス機2に送り込まれた後、後続のレット材Bが1つづつ空となったインダクションヒータ3a〜3dに送られる。各インダクションヒータ3a〜3dでは、ビレット材Bを設定温度(ビレット材を鍛造するのに最適な温度、例えば1250゜C)に加熱した後に鍛造プレス機2に送り込むようになっている。
【0014】
このとき、各インダクションヒータ3a〜3dは、所定のサイクルタイムTでビレット材Bを順に前記設定温度に加熱するようになっており、本実施形態では第1インダクションヒータ3aから第4インダクションヒータ3dへと一定の時間T間隔をもってビレット材Bを順次加熱し、そして、前記設定温度に到達した順にビレット材Bが1つづつ鍛造プレス機2に送り込まれる。
【0015】
ここで、本実施形態の加熱装置1では、図1に示すように鍛造プレス機2が一時的に停止された時に、各インダクションヒータ3a〜3d内のビレット材Bの加熱を抑制するビレット材過加熱防止手段10と、鍛造プレス機2が再稼働された時に、各インダクションヒータ3a〜3d内に存在するビレット材Bの温度を測定するビレット材温度測定手段11と、最も温度の高いビレット材Bが前記設定温度に達するための加熱時間を予測し、その予測時間を基に他のビレット材Bを所定のサイクルタイムで順に前記設定温度に加熱する炉内熱量設定手段12と、を設けてある。
【0016】
そして、前記加熱装置1を用いたビレット材の加熱方法では、鍛造プレス機2が一時的に停止された後に再稼働された時に、各インダクションヒータ3a〜3d内に存在するビレット材Bのうち、最も温度の高いビレット材Bが設定温度に達するための加熱時間を予測し、その予測した時間を基に他のビレット材Bが所定のサイクルタイムTで順に設定温度に達するように加熱する。
【0017】
前記ビレット材過加熱防止手段10、前記ビレット材温度測定手段11および前記炉内熱量設定手段12は、図示を省略する制御装置で制御されており、前記鍛造プレス機2が一時的に停止された場合に、図2に示す如きビレット材Bの温度制御を実行するようになっている。
【0018】
以下、図2の温度制御の流れを図3のタイムチャートを参照しつつ説明すると、まず、図3に示すように第1〜第4インダクションヒータ3a〜3dによって、それぞれに収納したビレット材Bを第1〜第4の順に所定のサイクルタイム(ビレット材を鍛造した後、次のビレット材が鍛造されるまでの間の時間)Tで加熱する途中、P1時点で鍛造プレス機2が一時停止した場合、図2のステップS1では鍛造プレス機2の停止情報が入力される。
【0019】
すると、次のステップS2ではビレット材過加熱防止手段10が働いてインダクションヒータ3a〜3dの保温設定を起動する。この場合、本実施形態の保温設定では、ビレット材Bを一定温度αに保持するようになっており、ビレット材Bの温度が前記一定温度αよりも高い場合(図3中第1・第2インダクションヒータ3a,3b)は、その高くなったインダクションヒータ3a,3bの電源をオフにする一方、ビレット材Bの温度が一定温度αよりも低い場合(図3中第3・第4インダクションヒータ3c,3d)は電源を継続してオンにしておく。
【0020】
従って、第3・第4インダクションヒータ3c,3dでは、鍛造プレス機2の一時停止後もビレット材Bの温度(インダクションヒータ内温度)が前記一定温度αに達するまで加熱が継続される。
【0021】
そして、ステップS3で鍛造プレス機2が再稼働(図3中P2位置)された情報が入力されると、ステップS4ではビレット材温度測定手段11が働いて各インダクションヒータ3a〜3dの温度、つまり、それらインダクションヒータ3a〜3d内のビレット材Bの温度を測定して、次のステップS5では鍛造プレス機2に送り込むビレット材Bの順序(ビレット材Bの温度が高い順)を決定する。
【0022】
次に、ステップS6では炉内熱量設定手段12が働き、図3に示すようにインダクションヒータ3a〜3dのうち最も温度の高いビレット材B(第1インダクションヒータ3a)が、通常の駆動電圧をもって設定温度(1250゜C)に達するための加熱時間Tfを予測し、その予測時間Tfから他のビレット材Bを所定のサイクルタイムTで設定温度(1250゜C)に加熱するための電圧V1〜V4(V1>V2>V3>V4)をそれぞれ演算する。
【0023】
このように、各インダクションヒータ3a〜3dの駆動電圧が決定されると、図2のステップS7では、それらインダクションヒータ3a〜3dを決定された駆動電圧V1〜V4に基づいて再起動する。
【0024】
すると、図3に示すように第1インダクションヒータ3a内温度が最も早く立ち上がって、P3位置で設定温度(1250゜C)に到達し、この時点で第1インダクションヒータ3a内のビレット材Bが鍛造プレス機2に送り込まれる。
【0025】
他のインダクションヒータ3b〜3dは、これらの順に大きくなった温度の立ち上がり傾きをもって加熱され、第2インダクションヒータ3b内のビレット材Bは、第1インダクションヒータ3aから所定のサイクルタイムTの後に設定温度(1250゜C)に到達して鍛造プレス機2に送り込まれ、以下、同様にして第3インダクションヒータ3c内のビレット材Bおよび第4インダクションヒータ3d内のビレット材Bが順に所定のサイクルタイムT後に設定温度(1250゜C)に到達して鍛造プレス機2に送り込まれる。
【0026】
勿論、このように鍛造プレス機2の一時停止後に、各インダクションヒータ3a〜3dの温度制御が一巡した後は、それぞれのインダクションヒータ3a〜3dは通常の駆動電圧Vをもって加熱されることになり、このときの温度の立ち上がり傾きは全てのインダクションヒータ3a〜3dで一定となる。
【0027】
以上の構成により本実施形態のビレット材Bの加熱装置1および加熱方法によれば、並列に設けた複数のインダクションヒータ3a〜3dにはそれぞれ単一のビレット材Bのみが収納されて、それぞれのビレット材Bは所定のサイクルタイムTで設定温度に加熱されるようになっており、鍛造プレス機2が一時的に停止された時にビレット材過加熱防止手段10によってビレット材Bの加熱が抑制される。
【0028】
その後、鍛造プレス機2が再稼働された時に、ビレット材温度測定手段11で測定した各インダクションヒータ3a〜3d内のビレット材Bの温度に基づいて、炉内熱量設定手段12では最も温度の高いビレット材Bが設定温度に達するための加熱時間Tfを予測して、その予測時間Tfを基に他のビレット材Bを所定のサイクルタイムTで順に設定温度に加熱するようにしたので、鍛造プレス機2が再稼働された際に、ビレット材過加熱防止手段10によって加熱が抑制された状態にあるビレット材Bの加熱が再開されて、複数のインダクションヒータ3a〜3d内のビレット材Bの温度をひとつづつ個別に制御できるため、無駄となるバイパス材の発生を無くすことが可能となり、ひいては、エネルギーロスを最小限に抑えることができる。
【0029】
そのとき、前記ビレット材温度測定手段11および上記炉内熱量設定手段12を設けたことによって、それぞれのインダクションヒータ3a〜3d内のビレット材Bを設定温度に加熱するための熱量が最小で済み、かつ、最短時間で設定温度まで上昇させることができるため、鍛造プレス機2の再稼働時のビレット材Bの送り込みを迅速に行うことができる。
【0030】
尚、前記ビレット材温度測定手段11では、ビレット材Bの温度を測定するようにしたが、これに限ることなくインダクションヒータ3a〜3b内の温度も測定して、それぞれの加熱条件を加味させることにより、より精度の良い温度制御が可能となる。
【0031】
また、本実施形態のビレット材過加熱防止手段10では、鍛造プレス機2が一時停止された際に、各インダクションヒータ3a〜3b内のビレット材Bを一定温度αに保持するようにしたが、これに限ることなくインダクションヒータ3a〜3d内に存在するビレット材Bの鍛造プレス機2が一時停止された時の温度を、鍛造プレス機2が再稼働されるまで維持する構成とすることができる。
【0032】
このように、ビレット材Bの鍛造プレス機2が一時停止された時の温度を、鍛造プレス機2が再稼働されるまで維持することにより、例えば、図3中破線で示すように、第1インダクションヒータ3aおよび第2インダクションヒータ3bでは一定温度αまで温度降下することなく、鍛造プレス機2の再稼働時にビレット材Bを設定温度(1250゜C)までより迅速に立ち上げることができる。
【0033】
ところで、本発明は前記実施形態に例をとって説明したが、これら実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態における加熱装置を用いた鍛造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における加熱装置を温度制御するための処理を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態における鍛造装置が一時停止された際に複数の加熱装置を温度制御するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0035】
1 加熱装置
2 鍛造プレス機(鍛造装置)
3a〜3d 第1〜第4インダクションヒータ(加熱炉)
10 ビレット材過加熱防止手段
11 ビレット材温度測定手段
12 炉内熱量設定手段
B ビレット材
S 供給経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造装置に送り込むビレット材の供給経路に、それぞれ単一のビレット材を収納して所定のサイクルタイムで設定温度に加熱する複数の加熱炉を並列に設け、それら複数の加熱炉から設定温度に加熱されたビレット材を順次鍛造装置に送り込むビレット材の加熱装置であって、
前記鍛造装置が一時的に停止された時に、前記各加熱炉内のビレット材の加熱を抑制するビレット材過加熱防止手段と、
前記鍛造装置が再稼働された時に、前記各加熱炉内に存在するビレット材の温度を測定するビレット材温度測定手段と、
最も温度の高いビレット材が前記設定温度に達するための加熱時間を予測し、その予測時間を基に他のビレット材を所定のサイクルタイムで順に前記設定温度に加熱する炉内熱量設定手段とを備えた
ことを特徴とするビレット材の加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載のビレット材の加熱装置であって、
前記ビレット材過加熱防止手段は、前記加熱炉内に存在するビレット材の鍛造装置が一時停止された時の温度を、前記鍛造装置が再稼働されるまで維持する
ことを特徴とするビレット材の加熱装置。
【請求項3】
鍛造装置に送り込むビレット材の供給経路に、それぞれ単一のビレット材を収納して所定のサイクルタイムで設定温度に加熱する複数の加熱炉を並列に設け、それら複数の加熱炉から設定温度に加熱されたビレット材を順次鍛造装置に送り込むビレット材の加熱方法であって、
前記鍛造装置が一時的に停止された後に再稼働された時に、前記各加熱炉内に存在するビレット材のうち、最も温度の高いビレット材が前記設定温度に達するための加熱時間を予測し、その予測した時間を基に他のビレット材が所定のサイクルタイムで順に前記設定温度に達するように加熱する
ことを特徴とするビレット材の加熱方法。
【請求項4】
請求項3に記載のビレット材の加熱方法であって、
前記鍛造装置が再稼働された時に、前記各加熱炉内に存在するビレット材の温度及び前記各加熱炉内の温度を測定する
ことを特徴とするビレット材の加熱方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のビレット材の加熱方法であって、
前記加熱炉内に存在するビレット材の前記鍛造装置が一時停止された時の温度を、該鍛造装置が再稼働されるまで維持する
ことを特徴とするビレット材の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−253224(P2007−253224A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84225(P2006−84225)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】