フィルタ、携帯端末及び電子部品
【課題】TV電波の帯域外における互いに接近した減衰域では急峻で大きな減衰量を得ること、インダクタの使用個数を抑えてデバイスの小型化に寄与できるフィルタを提供すること。
【解決手段】複数の減衰域を夫々形成するための複数の並列腕の弾性波共振子をインダクタを介さずに信号路の同電位点に接続する。あるいは直列共振を起こす複数の素子部の直列回路を信号路に並列腕として接続する。このため複数の減衰域の夫々に大きな減衰量が得られるが、隣り合う極間にはいわば零(ゼロ)点に相当する領域が存在する。しかし零点が存在してもその両側にて急峻に減衰する特性が得られる。そして同電位点に接続した弾性波共振子の組(共振子の組)あるいは前記直列回路からなる並列腕を信号路に複数段接続し、各段間には位相を反転させるためのインダクタを介在させている。
【解決手段】複数の減衰域を夫々形成するための複数の並列腕の弾性波共振子をインダクタを介さずに信号路の同電位点に接続する。あるいは直列共振を起こす複数の素子部の直列回路を信号路に並列腕として接続する。このため複数の減衰域の夫々に大きな減衰量が得られるが、隣り合う極間にはいわば零(ゼロ)点に相当する領域が存在する。しかし零点が存在してもその両側にて急峻に減衰する特性が得られる。そして同電位点に接続した弾性波共振子の組(共振子の組)あるいは前記直列回路からなる並列腕を信号路に複数段接続し、各段間には位相を反転させるためのインダクタを介在させている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)フィルタなどのフィルタ及びこのフィルタを用いた例えばデジタル地上波TV受信機付き携帯端末並びにフィルタを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年より、日本国内のデジタル地上波放送が始まり、また2000年よりヨーロッパを初めとしてデジタル地上波放送のサービスが開始された。一方、携帯端末の普及と伴に、従来の携帯端末の電話機能に対してメール機能などの各種高付加価値のサービスが提供されるようになってきた。このような流れの中で、世界の携帯端末の製造メーカでは、これまでの携帯電話機能に加えて、デジタル地上波用TV放送の受信機能をもたせたデジタル地上波TV受信機付き携帯端末とすることで、デジタル地上波放送を受信するサービスを取り込むことが検討されている。
【0003】
この種の携帯端末向けデジタル地上波TVチューナーモジュールは、携帯端末向けであることにより、受信感度のようなチューナー本来の特性面の課題に加え、小消費電力・小型化・低背化が要求され、さらに送信電波が受信電波を妨害するのを防止することが要求される。
【0004】
図31にデジタル地上波TV受信機付き携帯端末の送受信部の構成図を示す。デジタルTV放送を受信可能な携帯端末では、音声(及びデータ)通信とTV放送の周波数帯の違いにより、デジタルTV放送を受信するためのアンテナ1と、音声(及びデータ)通信信号を送受信するためのアンテナ2の2本のアンテナが近接配置される。ここで、通常、デジタルTV放送波は微弱電波(−90dBm)のため、TVチューナーモジュール10の受信感度は非常に高く設計される。一方、携帯端末としての音声(及びデータ)を送信する音声送信部4の送信波はアンテナ2から非常に強い電波(約+30dBm)を発射させる。このため、音声(及びデータ)通信の送信波はアンテナ1を介してTV放送のチューナーモジュール10まで到達し、TV放送の受信に妨害を与える。このため、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末では、D/U比(Desired/Undesired:希望波とゴースト波の電力比)は120dB必要ともいわれている。
【0005】
ところで日本国内におけるデジタルTV放送の受信帯域は470MHz〜770MHzであり、この受信帯域よりも高周波側に音声通信の送信帯域が近接して存在する。この送信帯域は通信事業者ごとに異なるが、現状では、824〜830MHz、898〜925MHz、1940〜1960MHzの送信帯域が存在する。図32は、デジタルTV放送の受信帯域と通信事業者が使用する音声通信の送信帯域とに夫々対応する通過域と減衰域とを示す特性図である。
【0006】
既述のように、アンテナが近接配置され、送受信電波の帯域が互いに近接した場合、音声やデータ通信の送信電波がアンテナを介してデジタルTV放送受信アンテナに回り込み、TV放送の微弱な受信波に妨害を与える問題がある。この妨害を避けるため、デジタルTV放送の受信アンテナの根元に、急峻な減衰量を持つフィルタを設けることが要求される。
【0007】
図33に、上記の要求を満足するような、デジタル地上波用TVチューナーモジュールの受信系統の構成例を示す。BEF回路(バンド・エリミネーション・フィルタ回路)11は、携帯電話の送受信アンテナ(図示省略)から発射される送信電波周波数帯に急峻な抑圧(−50〜−60dB)特性をもち、アンテナ1で受信するデジタル地上波TV電波を低損失で取り込む。LCフィルタ12は、チップコイルやチップインダクタで構成され、送信電波周波数帯を抑圧(−20〜−40dB)する。バラン回路13は、送信電波周波数帯を抑圧(−10〜−20dB)しながらTV放送波を平衡−不平衡変換する。IC回路14は、変調波になるTV信号をベースバンドに変換する。
【0008】
BEF回路に要求される特性は、デジタルTV放送の受信帯域においては低損失であり(減衰量が小さく)、音声やデータ放送の送信帯域においては減衰が急峻でありかつ大きな減衰量が必要となる。BEF回路として一般に、コイルやキャパシタを使用した受動回路や誘電体の高いQ値を利用した誘電体フィルタ、また前記受動回路をパターン上に配置させ、更に焼結させるLTCCやHTCCのような積層チップ部品がある。しかし、携帯端末の中に実装されるモジュールにおいては、その実装面積とスペースは制限を受けることから、このような構成では限界がある。また、デジタルTV放送の受信帯域と音声やデータ放送の送信帯域は非常に近接しているため、急峻な減衰特性が必要であり、従来のフィルタ設計理論では、急峻度を上げるためには、フィルタの構成要素である共振回路を二段以上に接続させるため、通過帯域の損失は非常に大きなものとなる。
【0009】
そこで小消費電力・小型化・低背化を可能にするフィルタとして、SAW(弾性表面波)フィルタがある。しかしSAW共振子単体でSAWフィルタを構成するのでは広い通過帯域と大きな減衰量を得るのが難しい。一方、特許文献1には並列腕であるSAW共振子を、伝送路(信号路)に設けたインダクタを介して複数段接続する構成が記載されており、この手法を取り込めば、減衰量の小さな通過域とこの通過域に接近しかつ大きな減衰量が得られる減衰域とを確保することができる。図34は、7個の並列腕であるSAW共振子31と位相反転用の(位相を90度ずらすための)インダクタとを接続して構成したSAWフィルタであり、33は入力ポート、34は出力ポートを示している。
【0010】
824〜830MHzの減衰域を第1の減衰域、898〜925MHzの減衰域を第2の減衰域と呼ぶことにすると、7個のSAW共振子31のうちの3個について第1の減衰域にて並列共振するものを割り当て、残りの4個については第2の減衰域にて並列共振するものを割り当てている。図35はこの回路のフィルタ特性を示しており、上記の要求を満足する優れたフィルタ特性が得られることが分かる。そしてこのSAWフィルタにおいては、SAW共振子31の接続段数を増やすことにより一応は大きな減衰量を確保することができる。
【0011】
ところでSAW共振子の接続段数を増やすとそれに伴いインダクタの数も増えるため、デバイスのサイズが次の理由により大きくなってしまう。インダクタを配線パターンにより作成しようとすると、大きなパターンを屈曲させかつ膜厚を大きくする必要があるため導体損失が大きくなり、Q値が低くなることから外付けのコイルを用いることが現実的である。図36は、外付けコイルを用いた場合のSAWフィルタの概略斜視図であり、35は配線基板、36はSAW共振子が形成されたSAWデバイス、37は外付けコイルである。この図から分かるように、外付けコイルの装着数が多くなるとデバイスのサイズが大きくなり、デバイスの小型化を阻む大きな要因になっている。
携帯端末は、機能の多様化などに伴ない、益々の小型化が要求されることから、SAWフィルタデバイスの一層の小型化を図ることのできる技術が要請されている。
【0012】
特許文献2には、互いに異なる共振周波数を備えた複数のSAW共振子を同電位点に接続して、これら複数の共振周波数を組み合わせて一つのバンドパスフィルタを構成する技術が記載されているが、互いに接近した急峻な減衰域に対応するためのフィルタについては記載されていない。
【0013】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−104799号公報
【特許文献2】特開2004−15397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、要求される通過域においては低損失の特性を備えかつ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得るフィルタを提供することにある。本発明の他の目的は、位相反転用のインダクタの使用個数を低減することができて小型化に寄与することができるフィルタを提供することにある。更に本発明の他の目的は、上記のフィルタを備えた携帯端末及び電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす素子部を複数の並列椀として信号路の同電位点に接続したことと、
これら複数の素子部からなる素子部の組を信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とする。
更に他の発明は、通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす複数の素子部を互いに直列に接続し、この直列回路を信号路に並列腕として接続したことと、
複数の素子部からなる前記直列回路である素子部の組を前記信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とする。
前記直列共振を起こす素子部の具体例としては、弾性波共振子、弾性表面波共振子、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)共振子、誘電体、及びコイルとコンデンサとからなる共振回路などを挙げることができる。圧電薄膜共振子としては、例えばFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)やSMR(Solid Mounted Resonator)などを挙げることができる。
【0017】
本発明の変形例として、前記素子部の組の接続段数は、前記減衰域の数よりも1個以上多く、
各段の間に接続されたインダクタのうち前記減衰域の数に相当する個数のインダクタには、各々直列共振を起こす素子部が並列に接続されて並列回路が構成され、
これら複数の並列回路の並列共振周波数は、夫々複数の減衰域に対応する周波数に設定されている構成を挙げることができる。本発明のフィルタは、例えばデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする。
【0018】
また本発明に係る携帯端末は、デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、前記受信部に本発明のフィルタが設けられていることを特徴とする。また本発明の電子部品は、上記の本発明のフィルタを備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、複数の減衰域を夫々形成するための複数の並列腕をなす、直列共振を起こす素子部をインダクタを介さずに信号路の同電位点に接続しているため、複数の減衰域の夫々に大きな減衰量が得られるが、互いに隣接している極(最も減衰しているポイント)間には、零(ゼロ)点に相当する領域が存在する。しかし本発明は、各々大きな減衰が要求される複数の減衰域に対応できる伝送特性を目的としているので、零点が存在してもその両側にて急峻に減衰する特性が得られればその目的は達成できる。
そしてこのように同電位点に接続した素子部の組を信号路に複数段接続し、各段間には位相を反転させるためのインダクタを介在させて、各減衰域内においては零点が存在しないようにし、こうして素子部の組を複数段接続することで、より大きな減衰量を確保し、要求される伝送特性に対応できるようにしている。この結果、低損失の特性を備えかつ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得ることができ、しかも位相反転用のインダクタの使用個数を低減することができてデバイスの小型化に寄与することができるという効果がある。従って本発明のフィルタは例えば携帯端末に好適であり、またデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする場合に極めて適しており、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末のTVチューナーにおける送信電波がデジタルTV放送の受信波に妨害を与えるのを防止するのに好適となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】SAW共振子の等価回路を示す回路図、及びアドミタンスの周波数特性を示す特性図。
【図2】SAW共振子を1個用いたSAWフィルタを示す回路図。
【図3】図2のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図4】2個のSAW共振子を同電位点に接続して構成したSAWフィルタの一例を示す回路図。
【図5】図4のSAWフィルタの伝送特性示す特性図。
【図6】直列共振回路をインダクタを介して2段に接続して構成したフィルタを示す回路図。
【図7】図6の回路におけるアドミタンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図。
【図8】直列共振回路を同電位点に2段に接続して構成したフィルタを示す回路図。
【図9】図8の回路におけるアドミタンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図。
【図10】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図。
【図11】図10に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図12】上記の実施形態であるSAWフィルタと比較するための従来のSAWフィルタを示す回路図。
【図13】図12に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図14】本発明の他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図15】図14に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図16】本発明の更に他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図17】図16に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図18】本発明の更に他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図19】図18に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図20】図19に示すSAWフィルタの伝送特性を拡大して示す特性図。
【図21】本発明の更に他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図22】図21に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図23】2個のSAW共振子の直列回路を並列腕として接続して構成したSAWフィルタの一例を示す回路図。
【図24】図23のSAWフィルタの伝送特性示す特性図。
【図25】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図。
【図26】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図27】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図28】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図29】本発明の他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図30】図29に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図31】デジタル地上波TV受信機付き携帯端末の送受信部を示す構成図。
【図32】デジタル地上波用TVチューナーモジュールの受信系統を示す構成図。
【図33】デジタル地上波用TVチューナーのBEF回路に要求される通過域及び減衰域を示す特性図。
【図34】従来の手法により構成したSAWフィルタを示す回路図。
【図35】図34の回路により得られる伝送特性。
【図36】SAWフィルタの概観の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の構成に至った背景、及び既述の要請に見合った伝送特性が得られる理由などについて述べておく。図1(a)は、弾性波共振子であるSAW共振子の等価回路を示しており、図1(b)はSAW共振子の周波数に対するアドミタンス特性を示している。Rsは直列抵抗(動抵抗)、Lsは直列インダクタンス(動インダクタンス)、Csは直列容量(動容量)、Cdは電極容量(制動容量)、R0は外部抵抗である。SAW共振子はこのようなアドミタンス特性を有するため、図2に示すように各々終端インピーダンスが50Ωである入力ポート41と出力ポート42との間に、SAW共振子5を並列腕として設けることによりフィルタを構成すると、図3に示す伝送特性が得られる。
【0022】
図3中、P1は通過特性、P2は反射特性であり、SAW共振子5が短絡する周波数即ち直列共振周波数(共振点)において通過特性が最も落ち込んで極が形成され、またSAW共振子5がオープンになる周波数即ち並列共振周波数(反共振点)において反射特性が最も落ち込んで零点が形成される。図4は、互いに接近する2個の減衰域にて夫々急峻な減衰量が得られるように互いに異なる共振点が設定された2個のSAW共振子5、6を信号路の同電位点に並列腕として接続して構成したSAWフィルタである。図5は図4のSAWフィルタにおける伝送特性を示し、目的とする2つの減衰域において各々通過特性に極が存在すると共に、2つの極の間に反射特性の零点が存在することが分かる。即ちこの伝送特性は2つの減衰域の間に極めて低損失な領域が存在する。
【0023】
この理由についてSAW共振子の代わりに直列共振回路を用いて考察する。図6は並列腕をなす直列共振回路101、102であり、これら直列共振回路101、102の間の信号路には位相を反転させるためのインダクタ103が介在して設けられている。直列共振回路101、102の共振周波数は夫々f1(824MHz)及びf2(898MHz)に調整されている。この場合、各直列共振回路101(102)の周波数に対するアドミタンス特性は、図7の上段に示すように夫々Y1、Y2として表されるが、インダクタ103が介在しているため、アドミタンス特性Y2は反転し、このためフィルタ回路全体のアドミタンス特性はY0のように表される。従って図7の下段に示すように伝送特性においては周波数f1とf2との間が減衰しており、f1〜f2に至る帯域阻止フィルタが形成されることになる。
【0024】
これに対して、同様に共振周波数が調整された直列共振回路101、102を図8に示すように信号路の同電位点に並列腕として接続した場合には、各直列共振回路101、102の周波数に対するアドミタンス特性Y1、Y2は、図9の上段の左側に示すように表され、フィルタ回路全体におけるアドミタンス特性Y0は図9の右側に示すように表される。即ち、インダクタ103が介在しないのでアドミタンス特性Y2は反転せず、このため周波数f1、f2の間にアドミタンスがゼロになる周波数(零点)が存在し、従って伝送特性は図9の下段に示すように表される。即ち通過特性は周波数f1、f2において急峻に落ち込むがその間にゼロ点が存在し、このため帯域阻止フィルタとしては不都合がある。
【0025】
一方、既述の図32に示されるように、デジタルTV放送の受信帯域を通過域とし、通信事業者が使用する音声通信の送信帯域を減衰域とするためのフィルタに対しては、図9の伝送特性はむしろ都合がよいといえる。即ち、各々狭い帯域である複数の減衰域に対応するフィルタとしては、各減衰域に対応する複数のSAW共振子を信号路の同電位点に並列腕として接続することにより、目的とする伝送特性を得ることができると共にインダクタの使用個数を低減できる。例えば通過域の高域側に設けられる2つの狭い減衰域において大きな減衰量が要求される場合、その直列共振周波数が夫々前記2つの減衰域内に調整されている2つのSAW共振子が用いられる。
【0026】
しかしながら図4に示すように2つのSAW共振子5、6からなる組が一組だけの場合には減衰域において十分な減衰量を確保することができない。そこで本発明では、図10に示すように信号路の同電位点に接続した2個のSAW共振子の組を例えばコイルからなるインダクタ81を介して2段接続するようにしている。図10において、SAW共振子51、52はいずれも第1の減衰域(824〜830MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものであり、SAW共振子61、62はいずれも第2の減衰域(898〜925MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものである。従ってSAW共振子51、52の各直列共振周波数は第1の減衰域内に調整されているが、第1の減衰域から少し外れていてもよい。またSAW共振子61、62の各直列共振周波数は第2の減衰域内に調整されているが、第2の減衰域から少し外れていてもよい。即ち、SAW共振子51、52の各直列共振周波数は第1の減衰域の周波数に対応する周波数に設定され、またSAW共振子61、62の各直列共振周波数は第2の減衰域の周波数に対応する周波数に設定されている。
そして第1の減衰域内に調整されているSAW共振子51、52の共振周波数は互いに異なるものとされ、また第2の減衰域内に調整されているSAW共振子61、62の共振周波数は互いに異なるものとされている。このように同一の減衰域内にて信号レベル(電力レベル)を減衰させるための2つのSAW共振子51、52(あるいは61、62)の共振周波数を互いに異ならせている理由は、狭いながらも要求される減衰域において減衰帯域を確保するためである。なお、減衰帯域を確保できるのであれば、SAW共振子51、52の共振周波数が同じであってもよく、またSAW共振子61、62の共振周波数が同じであってもよい。
【0027】
この実施の形態で用いられるSAW共振子は、直列共振を起こす素子部に相当する。またSAW共振子51、52及びSAW共振子61、62は、各々「共振子の組」に相当し、特許請求の範囲の用語と対応させると、「素子部の組」に相当する。このように「共振子の組」を2段接続することにより図11に示す伝送特性が得られる。図11中の括弧内の数字は、減衰に寄与したSAW共振子を示している。
【0028】
この伝送特性から分かるように図10の回路では、図4に示す1組の場合の伝送特性(図5参照)に比べて減衰域内にて大きな減衰量を確保できる。なお信号路における各段の間(SAW共振子51、52及びSAW共振子61、62の間)にはインダクタ81が設けられているが、このインダクタ81を設けないとSAW共振子51、52(あるいは61、62)により形成される各極の間に零点が形成されてしまう。従ってインダクタ81は、位相を反転させる役割を果たすものであり、更にまた第2の減衰域よりも高域側の信号レベルを減衰させる役割をも果たすものである。
【0029】
ここでSAW共振子51、52及びSAW共振子61、62を用い、従来の手法(特許文献1による手法)により回路を構成したSAWフィルタを図12に示す。この回路においては、SAW共振子51、52及びSAW共振子61、62の各々をインダクタ81、82及び83を介して接続している。図13は、図12の回路における伝送特性であり、図11の伝送特性と同等である。このことは、本発明のSAWフィルタの実施の形態である図10の回路によれば、従来の回路と同等の伝送特性を得ながら、インダクタの数を減らすことができるということである。
【0030】
図14は、本発明の他の実施の形態に係る回路を示しており、信号路における同電位点に接続された2つのSAW共振子の組がインダクタ81、82を介して3段に接続されている。SAW共振子51、52、53の共振周波数は、前記第1の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、またSAW共振子61、62、63の共振周波数は、前記第2の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されている。図15は、図14の回路の伝送特性を示し、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において、3つのSAW共振子51、52、53(61、62、63)に対応して3つの極が形成されていることがわかる。
【0031】
図16は、本発明の更に他の実施の形態に係る回路を示しており、信号路における同電位点に接続された2つのSAW共振子の組がインダクタ81、82、83を介して4段に接続されている。図16において、各SAW共振子の組のみを用いた場合の伝送特性を各組に対応付けて示している。SAW共振子51、52、53、54の共振周波数は、前記第1の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、またSAW共振子61、62、63、64の共振周波数は、前記第2の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されている。
【0032】
図17は、図16の回路の伝送特性を示し、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において、4つのSAW共振子51、52、53、54(61、62、63、64)に対応して4つの極が形成されていることがわかる。図11、図15及び図17を比較することにより理解されるように、2つのSAW共振子の組の接続段数を増やすことにより、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において減衰量を大きくすることができる。
【0033】
図18は、本発明の更にまた他の実施の形態に係る回路を示している。この回路は、3つの減衰域において信号レベルを急峻に減衰させかつその減衰量を大きく確保しようとするものである。この回路においては、信号路における同電位点に接続された3つのSAW共振子の組がインダクタ81、82を介して3段に接続されている。これら3つの減衰域を第1の減衰域、第2の減衰域、第3の減衰域と呼ぶことにすると、SAW共振子51、52、53の共振周波数は、前記第1の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、またSAW共振子61、62、63の共振周波数は、前記第2の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、更にまたSAW共振子71、72、73の共振周波数は、前記第3の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されている。図19及び図20は、図18の回路の伝送特性を示し、第1の減衰域、第2の減衰域及び第3の減衰域の各々において、3つのSAW共振子51、52、53、(61、62、63)(71、72、73)に対応して3つの極が形成されていることがわかる。
【0034】
[第2の実施の形態]
更に本発明では、第1の減衰域及び第2の減衰域において信号レベルを減衰させる場合に、図21に示す構成を採用してもよい。この回路は、既述の図14に示したSAW共振子の組を3段に接続することに加えて、SAW共振子の組をもう一組用意し、この組を構成する2つのSAW共振子54、64の一方及び他方を夫々インダクタ81、82に対して並列に接続している。そしてこれら並列回路810及び820は、夫々第1の減衰域及び第2の減衰域内にて並列共振するように構成されている。なお並列回路810及び820は、得られた伝送特性が満足されるものであれば、夫々第1の減衰域及び第2の減衰域よりも少し外れていてもよい。
【0035】
即ち、図21に示す回路は、並列腕のSAW共振子を直列共振させて減衰量を確保することに加えて、並列回路810及び820の並列共振を利用して減衰量を確保しようとするものである。図22は、図21の回路の伝送特性を示すものであり、SAW共振子の組が3段でありながら、SAW共振子の組を4段接続した場合の伝送特性(図17)と同様に−50dB付近の減衰量が得られている。従ってこのような回路を採用することにより、インダクタの数をより一層減らすことができる。このような回路を構成する場合には、前記SAW共振子の組の接続段数は、前記減衰域の数よりも1個以上多いことが必要であり、図21の例では、SAW共振子の組の接続段数が3段であり、減衰域の数は2個である。
【0036】
[第3の実施の形態]
第1の実施の形態は、信号路の同電位点に接続した複数個例えば2個のSAW共振子の組を、インダクタを介して複数段例えば2段接続する構成であった。これに対して第3の実施の形態は、複数個のSAW共振子を互いに直列に接続した直列回路を並列腕として構成し、この並列腕であるSAW共振子の組を、インダクタを介して複数段接続してなるものである。
図23は、互いに接近する2個の減衰域にて夫々急峻な減衰量が得られるように互いに異なる共振点が設定された2個のSAW共振子5、6を信号路の同電位点に並列腕として接続して構成したSAWフィルタである。図24は図23のSAWフィルタにおける伝送特性を示し、目的とする2つの減衰域において各々通過特性に極が存在すると共に、2つの極の間に反射特性の零点が存在することが分かる。図24において括弧書きで記載した符号は、同符号のSAW共振子の共振周波数に対応する極を示している。従ってこの伝送特性においても、2つの減衰域の間に極めて低損失な領域が存在することが分かる。図23を図10と比較すると、図10では信号路の同電位にSAW共振子5とSAW共振子6とが各々並列腕として接続されているが、図23ではSAW共振子5、6の直列回路が並列腕として接続されている点で相違する。
図25は、第1の実施の形態の図10の例に相当するものであり、互いに直列接続した2個のSAW共振子からなる並列腕をインダクタ81を介して2段接続するようにしている。図25において、SAW共振子51、52はいずれも第1の減衰域(824〜830MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものであり、SAW共振子61、62はいずれも第2の減衰域(898〜925MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものである。
【0037】
この第3の実施の形態においても、前記並列腕を3段以上接続してもよいし、各並列腕を構成するSAW共振子を3個以上として、これら3個のSAW共振子により夫々3つの減衰域における減衰量を確保するようにしてもよい。更にまたこの第3の実施の形態においても、図21で採用した構成と同様な構成を採用してもよい。図26、図27、図28及び図29の各構成は、夫々第1の実施の形態における図14、図18、図21及び図16の各構成に対応するものである。図29において、各SAW共振子の組(各並列腕)のみを用いた場合の伝送特性を各組に対応付けて示している。
図30は、図29の回路の伝送特性を示し、第1の実施の形態における4段接続の例の場合(図17参照)と同様に、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において、4つのSAW共振子51、52、53、54(61、62、63、64)に対応して4つの極が形成されていることがわかる。このように第3の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0038】
以上のように本発明の実施の形態によればインダクタの数を少なくしながら目的とする伝送特性、即ち通過特性の高域側に設定されている複数の減衰域にて急峻で大きな減衰量を確保できる伝送特性を得ることができる。なお複数の減衰域は通過域の低域側に存在していてもよい。既述のようにインダクタは外付け部品であるコイルにより構成されることが得策であるが、その場合部品のサイズが大きくなることから、インダクタの数を少なくできることはデバイスの小型化に寄与することができ、例えば携帯端末に組み込む弾性波フィルタとしては極めて好適である。
【0039】
以上において、弾性波共振子は、弾性表面波を利用した共振子(SAW共振子)に限られず、最近になって公表されている圧電基板の表面よりも内部を伝播する弾性波を利用した共振子であってもよい。
更に本発明のフィルタの構成要素である直列共振を起こす素子部としてはSAW共振子に限られず、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS共振子、誘電体であってもよい。圧電薄膜共振子としては、例えばFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)やSMR(Solid Mounted Resonator)などを挙げることができる。誘電体を素子部として用いる場合には、マイクロストリップラインの両側に誘電体を設けた構成となる。更に前記素子部としては、コイルとコンデンサとからなる共振回路(LC共振回路)も含まれる。この場合であってもLC共振回路を用いて従来のフィルタを構成する場合と比べて位相反転用のインダクタを減らすことができるので、部品点数を少なくできるという効果がある。
また背景技術の項目にて説明した図31に携帯端末が示されているが、本発明の携帯端末は、図31の携帯端末のTVチューナに例えば上述の実施の形態の弾性表面波フィルタを適用したものである。また本発明の電子部品としては、例えばSAWBEFに上述の実施の形態の弾性表面波フィルタを適用したデジタル地上波TVチューナモジュールを挙げることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 デジタル地上波TV放送用アンテナ
2 携帯電話用アンテナ
10 TVチューナーモジュール
20 音声送信部
41 入力ポート
42 出力ポート
5、51〜54、61〜64 SAW共振子
81〜83 インダクタ
810、820 並列回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)フィルタなどのフィルタ及びこのフィルタを用いた例えばデジタル地上波TV受信機付き携帯端末並びにフィルタを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年より、日本国内のデジタル地上波放送が始まり、また2000年よりヨーロッパを初めとしてデジタル地上波放送のサービスが開始された。一方、携帯端末の普及と伴に、従来の携帯端末の電話機能に対してメール機能などの各種高付加価値のサービスが提供されるようになってきた。このような流れの中で、世界の携帯端末の製造メーカでは、これまでの携帯電話機能に加えて、デジタル地上波用TV放送の受信機能をもたせたデジタル地上波TV受信機付き携帯端末とすることで、デジタル地上波放送を受信するサービスを取り込むことが検討されている。
【0003】
この種の携帯端末向けデジタル地上波TVチューナーモジュールは、携帯端末向けであることにより、受信感度のようなチューナー本来の特性面の課題に加え、小消費電力・小型化・低背化が要求され、さらに送信電波が受信電波を妨害するのを防止することが要求される。
【0004】
図31にデジタル地上波TV受信機付き携帯端末の送受信部の構成図を示す。デジタルTV放送を受信可能な携帯端末では、音声(及びデータ)通信とTV放送の周波数帯の違いにより、デジタルTV放送を受信するためのアンテナ1と、音声(及びデータ)通信信号を送受信するためのアンテナ2の2本のアンテナが近接配置される。ここで、通常、デジタルTV放送波は微弱電波(−90dBm)のため、TVチューナーモジュール10の受信感度は非常に高く設計される。一方、携帯端末としての音声(及びデータ)を送信する音声送信部4の送信波はアンテナ2から非常に強い電波(約+30dBm)を発射させる。このため、音声(及びデータ)通信の送信波はアンテナ1を介してTV放送のチューナーモジュール10まで到達し、TV放送の受信に妨害を与える。このため、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末では、D/U比(Desired/Undesired:希望波とゴースト波の電力比)は120dB必要ともいわれている。
【0005】
ところで日本国内におけるデジタルTV放送の受信帯域は470MHz〜770MHzであり、この受信帯域よりも高周波側に音声通信の送信帯域が近接して存在する。この送信帯域は通信事業者ごとに異なるが、現状では、824〜830MHz、898〜925MHz、1940〜1960MHzの送信帯域が存在する。図32は、デジタルTV放送の受信帯域と通信事業者が使用する音声通信の送信帯域とに夫々対応する通過域と減衰域とを示す特性図である。
【0006】
既述のように、アンテナが近接配置され、送受信電波の帯域が互いに近接した場合、音声やデータ通信の送信電波がアンテナを介してデジタルTV放送受信アンテナに回り込み、TV放送の微弱な受信波に妨害を与える問題がある。この妨害を避けるため、デジタルTV放送の受信アンテナの根元に、急峻な減衰量を持つフィルタを設けることが要求される。
【0007】
図33に、上記の要求を満足するような、デジタル地上波用TVチューナーモジュールの受信系統の構成例を示す。BEF回路(バンド・エリミネーション・フィルタ回路)11は、携帯電話の送受信アンテナ(図示省略)から発射される送信電波周波数帯に急峻な抑圧(−50〜−60dB)特性をもち、アンテナ1で受信するデジタル地上波TV電波を低損失で取り込む。LCフィルタ12は、チップコイルやチップインダクタで構成され、送信電波周波数帯を抑圧(−20〜−40dB)する。バラン回路13は、送信電波周波数帯を抑圧(−10〜−20dB)しながらTV放送波を平衡−不平衡変換する。IC回路14は、変調波になるTV信号をベースバンドに変換する。
【0008】
BEF回路に要求される特性は、デジタルTV放送の受信帯域においては低損失であり(減衰量が小さく)、音声やデータ放送の送信帯域においては減衰が急峻でありかつ大きな減衰量が必要となる。BEF回路として一般に、コイルやキャパシタを使用した受動回路や誘電体の高いQ値を利用した誘電体フィルタ、また前記受動回路をパターン上に配置させ、更に焼結させるLTCCやHTCCのような積層チップ部品がある。しかし、携帯端末の中に実装されるモジュールにおいては、その実装面積とスペースは制限を受けることから、このような構成では限界がある。また、デジタルTV放送の受信帯域と音声やデータ放送の送信帯域は非常に近接しているため、急峻な減衰特性が必要であり、従来のフィルタ設計理論では、急峻度を上げるためには、フィルタの構成要素である共振回路を二段以上に接続させるため、通過帯域の損失は非常に大きなものとなる。
【0009】
そこで小消費電力・小型化・低背化を可能にするフィルタとして、SAW(弾性表面波)フィルタがある。しかしSAW共振子単体でSAWフィルタを構成するのでは広い通過帯域と大きな減衰量を得るのが難しい。一方、特許文献1には並列腕であるSAW共振子を、伝送路(信号路)に設けたインダクタを介して複数段接続する構成が記載されており、この手法を取り込めば、減衰量の小さな通過域とこの通過域に接近しかつ大きな減衰量が得られる減衰域とを確保することができる。図34は、7個の並列腕であるSAW共振子31と位相反転用の(位相を90度ずらすための)インダクタとを接続して構成したSAWフィルタであり、33は入力ポート、34は出力ポートを示している。
【0010】
824〜830MHzの減衰域を第1の減衰域、898〜925MHzの減衰域を第2の減衰域と呼ぶことにすると、7個のSAW共振子31のうちの3個について第1の減衰域にて並列共振するものを割り当て、残りの4個については第2の減衰域にて並列共振するものを割り当てている。図35はこの回路のフィルタ特性を示しており、上記の要求を満足する優れたフィルタ特性が得られることが分かる。そしてこのSAWフィルタにおいては、SAW共振子31の接続段数を増やすことにより一応は大きな減衰量を確保することができる。
【0011】
ところでSAW共振子の接続段数を増やすとそれに伴いインダクタの数も増えるため、デバイスのサイズが次の理由により大きくなってしまう。インダクタを配線パターンにより作成しようとすると、大きなパターンを屈曲させかつ膜厚を大きくする必要があるため導体損失が大きくなり、Q値が低くなることから外付けのコイルを用いることが現実的である。図36は、外付けコイルを用いた場合のSAWフィルタの概略斜視図であり、35は配線基板、36はSAW共振子が形成されたSAWデバイス、37は外付けコイルである。この図から分かるように、外付けコイルの装着数が多くなるとデバイスのサイズが大きくなり、デバイスの小型化を阻む大きな要因になっている。
携帯端末は、機能の多様化などに伴ない、益々の小型化が要求されることから、SAWフィルタデバイスの一層の小型化を図ることのできる技術が要請されている。
【0012】
特許文献2には、互いに異なる共振周波数を備えた複数のSAW共振子を同電位点に接続して、これら複数の共振周波数を組み合わせて一つのバンドパスフィルタを構成する技術が記載されているが、互いに接近した急峻な減衰域に対応するためのフィルタについては記載されていない。
【0013】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−104799号公報
【特許文献2】特開2004−15397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、要求される通過域においては低損失の特性を備えかつ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得るフィルタを提供することにある。本発明の他の目的は、位相反転用のインダクタの使用個数を低減することができて小型化に寄与することができるフィルタを提供することにある。更に本発明の他の目的は、上記のフィルタを備えた携帯端末及び電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす素子部を複数の並列椀として信号路の同電位点に接続したことと、
これら複数の素子部からなる素子部の組を信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とする。
更に他の発明は、通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす複数の素子部を互いに直列に接続し、この直列回路を信号路に並列腕として接続したことと、
複数の素子部からなる前記直列回路である素子部の組を前記信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とする。
前記直列共振を起こす素子部の具体例としては、弾性波共振子、弾性表面波共振子、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)共振子、誘電体、及びコイルとコンデンサとからなる共振回路などを挙げることができる。圧電薄膜共振子としては、例えばFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)やSMR(Solid Mounted Resonator)などを挙げることができる。
【0017】
本発明の変形例として、前記素子部の組の接続段数は、前記減衰域の数よりも1個以上多く、
各段の間に接続されたインダクタのうち前記減衰域の数に相当する個数のインダクタには、各々直列共振を起こす素子部が並列に接続されて並列回路が構成され、
これら複数の並列回路の並列共振周波数は、夫々複数の減衰域に対応する周波数に設定されている構成を挙げることができる。本発明のフィルタは、例えばデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする。
【0018】
また本発明に係る携帯端末は、デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、前記受信部に本発明のフィルタが設けられていることを特徴とする。また本発明の電子部品は、上記の本発明のフィルタを備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、複数の減衰域を夫々形成するための複数の並列腕をなす、直列共振を起こす素子部をインダクタを介さずに信号路の同電位点に接続しているため、複数の減衰域の夫々に大きな減衰量が得られるが、互いに隣接している極(最も減衰しているポイント)間には、零(ゼロ)点に相当する領域が存在する。しかし本発明は、各々大きな減衰が要求される複数の減衰域に対応できる伝送特性を目的としているので、零点が存在してもその両側にて急峻に減衰する特性が得られればその目的は達成できる。
そしてこのように同電位点に接続した素子部の組を信号路に複数段接続し、各段間には位相を反転させるためのインダクタを介在させて、各減衰域内においては零点が存在しないようにし、こうして素子部の組を複数段接続することで、より大きな減衰量を確保し、要求される伝送特性に対応できるようにしている。この結果、低損失の特性を備えかつ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得ることができ、しかも位相反転用のインダクタの使用個数を低減することができてデバイスの小型化に寄与することができるという効果がある。従って本発明のフィルタは例えば携帯端末に好適であり、またデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする場合に極めて適しており、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末のTVチューナーにおける送信電波がデジタルTV放送の受信波に妨害を与えるのを防止するのに好適となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】SAW共振子の等価回路を示す回路図、及びアドミタンスの周波数特性を示す特性図。
【図2】SAW共振子を1個用いたSAWフィルタを示す回路図。
【図3】図2のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図4】2個のSAW共振子を同電位点に接続して構成したSAWフィルタの一例を示す回路図。
【図5】図4のSAWフィルタの伝送特性示す特性図。
【図6】直列共振回路をインダクタを介して2段に接続して構成したフィルタを示す回路図。
【図7】図6の回路におけるアドミタンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図。
【図8】直列共振回路を同電位点に2段に接続して構成したフィルタを示す回路図。
【図9】図8の回路におけるアドミタンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図。
【図10】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図。
【図11】図10に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図12】上記の実施形態であるSAWフィルタと比較するための従来のSAWフィルタを示す回路図。
【図13】図12に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図14】本発明の他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図15】図14に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図16】本発明の更に他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図17】図16に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図18】本発明の更に他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図19】図18に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図20】図19に示すSAWフィルタの伝送特性を拡大して示す特性図。
【図21】本発明の更に他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図22】図21に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図23】2個のSAW共振子の直列回路を並列腕として接続して構成したSAWフィルタの一例を示す回路図。
【図24】図23のSAWフィルタの伝送特性示す特性図。
【図25】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図。
【図26】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図27】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図28】本発明の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図29】本発明の他の実施形態であるSAWフィルタを示す回路図
【図30】図29に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図。
【図31】デジタル地上波TV受信機付き携帯端末の送受信部を示す構成図。
【図32】デジタル地上波用TVチューナーモジュールの受信系統を示す構成図。
【図33】デジタル地上波用TVチューナーのBEF回路に要求される通過域及び減衰域を示す特性図。
【図34】従来の手法により構成したSAWフィルタを示す回路図。
【図35】図34の回路により得られる伝送特性。
【図36】SAWフィルタの概観の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の構成に至った背景、及び既述の要請に見合った伝送特性が得られる理由などについて述べておく。図1(a)は、弾性波共振子であるSAW共振子の等価回路を示しており、図1(b)はSAW共振子の周波数に対するアドミタンス特性を示している。Rsは直列抵抗(動抵抗)、Lsは直列インダクタンス(動インダクタンス)、Csは直列容量(動容量)、Cdは電極容量(制動容量)、R0は外部抵抗である。SAW共振子はこのようなアドミタンス特性を有するため、図2に示すように各々終端インピーダンスが50Ωである入力ポート41と出力ポート42との間に、SAW共振子5を並列腕として設けることによりフィルタを構成すると、図3に示す伝送特性が得られる。
【0022】
図3中、P1は通過特性、P2は反射特性であり、SAW共振子5が短絡する周波数即ち直列共振周波数(共振点)において通過特性が最も落ち込んで極が形成され、またSAW共振子5がオープンになる周波数即ち並列共振周波数(反共振点)において反射特性が最も落ち込んで零点が形成される。図4は、互いに接近する2個の減衰域にて夫々急峻な減衰量が得られるように互いに異なる共振点が設定された2個のSAW共振子5、6を信号路の同電位点に並列腕として接続して構成したSAWフィルタである。図5は図4のSAWフィルタにおける伝送特性を示し、目的とする2つの減衰域において各々通過特性に極が存在すると共に、2つの極の間に反射特性の零点が存在することが分かる。即ちこの伝送特性は2つの減衰域の間に極めて低損失な領域が存在する。
【0023】
この理由についてSAW共振子の代わりに直列共振回路を用いて考察する。図6は並列腕をなす直列共振回路101、102であり、これら直列共振回路101、102の間の信号路には位相を反転させるためのインダクタ103が介在して設けられている。直列共振回路101、102の共振周波数は夫々f1(824MHz)及びf2(898MHz)に調整されている。この場合、各直列共振回路101(102)の周波数に対するアドミタンス特性は、図7の上段に示すように夫々Y1、Y2として表されるが、インダクタ103が介在しているため、アドミタンス特性Y2は反転し、このためフィルタ回路全体のアドミタンス特性はY0のように表される。従って図7の下段に示すように伝送特性においては周波数f1とf2との間が減衰しており、f1〜f2に至る帯域阻止フィルタが形成されることになる。
【0024】
これに対して、同様に共振周波数が調整された直列共振回路101、102を図8に示すように信号路の同電位点に並列腕として接続した場合には、各直列共振回路101、102の周波数に対するアドミタンス特性Y1、Y2は、図9の上段の左側に示すように表され、フィルタ回路全体におけるアドミタンス特性Y0は図9の右側に示すように表される。即ち、インダクタ103が介在しないのでアドミタンス特性Y2は反転せず、このため周波数f1、f2の間にアドミタンスがゼロになる周波数(零点)が存在し、従って伝送特性は図9の下段に示すように表される。即ち通過特性は周波数f1、f2において急峻に落ち込むがその間にゼロ点が存在し、このため帯域阻止フィルタとしては不都合がある。
【0025】
一方、既述の図32に示されるように、デジタルTV放送の受信帯域を通過域とし、通信事業者が使用する音声通信の送信帯域を減衰域とするためのフィルタに対しては、図9の伝送特性はむしろ都合がよいといえる。即ち、各々狭い帯域である複数の減衰域に対応するフィルタとしては、各減衰域に対応する複数のSAW共振子を信号路の同電位点に並列腕として接続することにより、目的とする伝送特性を得ることができると共にインダクタの使用個数を低減できる。例えば通過域の高域側に設けられる2つの狭い減衰域において大きな減衰量が要求される場合、その直列共振周波数が夫々前記2つの減衰域内に調整されている2つのSAW共振子が用いられる。
【0026】
しかしながら図4に示すように2つのSAW共振子5、6からなる組が一組だけの場合には減衰域において十分な減衰量を確保することができない。そこで本発明では、図10に示すように信号路の同電位点に接続した2個のSAW共振子の組を例えばコイルからなるインダクタ81を介して2段接続するようにしている。図10において、SAW共振子51、52はいずれも第1の減衰域(824〜830MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものであり、SAW共振子61、62はいずれも第2の減衰域(898〜925MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものである。従ってSAW共振子51、52の各直列共振周波数は第1の減衰域内に調整されているが、第1の減衰域から少し外れていてもよい。またSAW共振子61、62の各直列共振周波数は第2の減衰域内に調整されているが、第2の減衰域から少し外れていてもよい。即ち、SAW共振子51、52の各直列共振周波数は第1の減衰域の周波数に対応する周波数に設定され、またSAW共振子61、62の各直列共振周波数は第2の減衰域の周波数に対応する周波数に設定されている。
そして第1の減衰域内に調整されているSAW共振子51、52の共振周波数は互いに異なるものとされ、また第2の減衰域内に調整されているSAW共振子61、62の共振周波数は互いに異なるものとされている。このように同一の減衰域内にて信号レベル(電力レベル)を減衰させるための2つのSAW共振子51、52(あるいは61、62)の共振周波数を互いに異ならせている理由は、狭いながらも要求される減衰域において減衰帯域を確保するためである。なお、減衰帯域を確保できるのであれば、SAW共振子51、52の共振周波数が同じであってもよく、またSAW共振子61、62の共振周波数が同じであってもよい。
【0027】
この実施の形態で用いられるSAW共振子は、直列共振を起こす素子部に相当する。またSAW共振子51、52及びSAW共振子61、62は、各々「共振子の組」に相当し、特許請求の範囲の用語と対応させると、「素子部の組」に相当する。このように「共振子の組」を2段接続することにより図11に示す伝送特性が得られる。図11中の括弧内の数字は、減衰に寄与したSAW共振子を示している。
【0028】
この伝送特性から分かるように図10の回路では、図4に示す1組の場合の伝送特性(図5参照)に比べて減衰域内にて大きな減衰量を確保できる。なお信号路における各段の間(SAW共振子51、52及びSAW共振子61、62の間)にはインダクタ81が設けられているが、このインダクタ81を設けないとSAW共振子51、52(あるいは61、62)により形成される各極の間に零点が形成されてしまう。従ってインダクタ81は、位相を反転させる役割を果たすものであり、更にまた第2の減衰域よりも高域側の信号レベルを減衰させる役割をも果たすものである。
【0029】
ここでSAW共振子51、52及びSAW共振子61、62を用い、従来の手法(特許文献1による手法)により回路を構成したSAWフィルタを図12に示す。この回路においては、SAW共振子51、52及びSAW共振子61、62の各々をインダクタ81、82及び83を介して接続している。図13は、図12の回路における伝送特性であり、図11の伝送特性と同等である。このことは、本発明のSAWフィルタの実施の形態である図10の回路によれば、従来の回路と同等の伝送特性を得ながら、インダクタの数を減らすことができるということである。
【0030】
図14は、本発明の他の実施の形態に係る回路を示しており、信号路における同電位点に接続された2つのSAW共振子の組がインダクタ81、82を介して3段に接続されている。SAW共振子51、52、53の共振周波数は、前記第1の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、またSAW共振子61、62、63の共振周波数は、前記第2の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されている。図15は、図14の回路の伝送特性を示し、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において、3つのSAW共振子51、52、53(61、62、63)に対応して3つの極が形成されていることがわかる。
【0031】
図16は、本発明の更に他の実施の形態に係る回路を示しており、信号路における同電位点に接続された2つのSAW共振子の組がインダクタ81、82、83を介して4段に接続されている。図16において、各SAW共振子の組のみを用いた場合の伝送特性を各組に対応付けて示している。SAW共振子51、52、53、54の共振周波数は、前記第1の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、またSAW共振子61、62、63、64の共振周波数は、前記第2の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されている。
【0032】
図17は、図16の回路の伝送特性を示し、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において、4つのSAW共振子51、52、53、54(61、62、63、64)に対応して4つの極が形成されていることがわかる。図11、図15及び図17を比較することにより理解されるように、2つのSAW共振子の組の接続段数を増やすことにより、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において減衰量を大きくすることができる。
【0033】
図18は、本発明の更にまた他の実施の形態に係る回路を示している。この回路は、3つの減衰域において信号レベルを急峻に減衰させかつその減衰量を大きく確保しようとするものである。この回路においては、信号路における同電位点に接続された3つのSAW共振子の組がインダクタ81、82を介して3段に接続されている。これら3つの減衰域を第1の減衰域、第2の減衰域、第3の減衰域と呼ぶことにすると、SAW共振子51、52、53の共振周波数は、前記第1の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、またSAW共振子61、62、63の共振周波数は、前記第2の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されており、更にまたSAW共振子71、72、73の共振周波数は、前記第3の減衰域に対応する周波数であってかつ互いに異なる周波数に設定されている。図19及び図20は、図18の回路の伝送特性を示し、第1の減衰域、第2の減衰域及び第3の減衰域の各々において、3つのSAW共振子51、52、53、(61、62、63)(71、72、73)に対応して3つの極が形成されていることがわかる。
【0034】
[第2の実施の形態]
更に本発明では、第1の減衰域及び第2の減衰域において信号レベルを減衰させる場合に、図21に示す構成を採用してもよい。この回路は、既述の図14に示したSAW共振子の組を3段に接続することに加えて、SAW共振子の組をもう一組用意し、この組を構成する2つのSAW共振子54、64の一方及び他方を夫々インダクタ81、82に対して並列に接続している。そしてこれら並列回路810及び820は、夫々第1の減衰域及び第2の減衰域内にて並列共振するように構成されている。なお並列回路810及び820は、得られた伝送特性が満足されるものであれば、夫々第1の減衰域及び第2の減衰域よりも少し外れていてもよい。
【0035】
即ち、図21に示す回路は、並列腕のSAW共振子を直列共振させて減衰量を確保することに加えて、並列回路810及び820の並列共振を利用して減衰量を確保しようとするものである。図22は、図21の回路の伝送特性を示すものであり、SAW共振子の組が3段でありながら、SAW共振子の組を4段接続した場合の伝送特性(図17)と同様に−50dB付近の減衰量が得られている。従ってこのような回路を採用することにより、インダクタの数をより一層減らすことができる。このような回路を構成する場合には、前記SAW共振子の組の接続段数は、前記減衰域の数よりも1個以上多いことが必要であり、図21の例では、SAW共振子の組の接続段数が3段であり、減衰域の数は2個である。
【0036】
[第3の実施の形態]
第1の実施の形態は、信号路の同電位点に接続した複数個例えば2個のSAW共振子の組を、インダクタを介して複数段例えば2段接続する構成であった。これに対して第3の実施の形態は、複数個のSAW共振子を互いに直列に接続した直列回路を並列腕として構成し、この並列腕であるSAW共振子の組を、インダクタを介して複数段接続してなるものである。
図23は、互いに接近する2個の減衰域にて夫々急峻な減衰量が得られるように互いに異なる共振点が設定された2個のSAW共振子5、6を信号路の同電位点に並列腕として接続して構成したSAWフィルタである。図24は図23のSAWフィルタにおける伝送特性を示し、目的とする2つの減衰域において各々通過特性に極が存在すると共に、2つの極の間に反射特性の零点が存在することが分かる。図24において括弧書きで記載した符号は、同符号のSAW共振子の共振周波数に対応する極を示している。従ってこの伝送特性においても、2つの減衰域の間に極めて低損失な領域が存在することが分かる。図23を図10と比較すると、図10では信号路の同電位にSAW共振子5とSAW共振子6とが各々並列腕として接続されているが、図23ではSAW共振子5、6の直列回路が並列腕として接続されている点で相違する。
図25は、第1の実施の形態の図10の例に相当するものであり、互いに直列接続した2個のSAW共振子からなる並列腕をインダクタ81を介して2段接続するようにしている。図25において、SAW共振子51、52はいずれも第1の減衰域(824〜830MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものであり、SAW共振子61、62はいずれも第2の減衰域(898〜925MHzの減衰域)において大きな減衰量を確保するためのものである。
【0037】
この第3の実施の形態においても、前記並列腕を3段以上接続してもよいし、各並列腕を構成するSAW共振子を3個以上として、これら3個のSAW共振子により夫々3つの減衰域における減衰量を確保するようにしてもよい。更にまたこの第3の実施の形態においても、図21で採用した構成と同様な構成を採用してもよい。図26、図27、図28及び図29の各構成は、夫々第1の実施の形態における図14、図18、図21及び図16の各構成に対応するものである。図29において、各SAW共振子の組(各並列腕)のみを用いた場合の伝送特性を各組に対応付けて示している。
図30は、図29の回路の伝送特性を示し、第1の実施の形態における4段接続の例の場合(図17参照)と同様に、第1の減衰域及び第2の減衰域の各々において、4つのSAW共振子51、52、53、54(61、62、63、64)に対応して4つの極が形成されていることがわかる。このように第3の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0038】
以上のように本発明の実施の形態によればインダクタの数を少なくしながら目的とする伝送特性、即ち通過特性の高域側に設定されている複数の減衰域にて急峻で大きな減衰量を確保できる伝送特性を得ることができる。なお複数の減衰域は通過域の低域側に存在していてもよい。既述のようにインダクタは外付け部品であるコイルにより構成されることが得策であるが、その場合部品のサイズが大きくなることから、インダクタの数を少なくできることはデバイスの小型化に寄与することができ、例えば携帯端末に組み込む弾性波フィルタとしては極めて好適である。
【0039】
以上において、弾性波共振子は、弾性表面波を利用した共振子(SAW共振子)に限られず、最近になって公表されている圧電基板の表面よりも内部を伝播する弾性波を利用した共振子であってもよい。
更に本発明のフィルタの構成要素である直列共振を起こす素子部としてはSAW共振子に限られず、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS共振子、誘電体であってもよい。圧電薄膜共振子としては、例えばFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)やSMR(Solid Mounted Resonator)などを挙げることができる。誘電体を素子部として用いる場合には、マイクロストリップラインの両側に誘電体を設けた構成となる。更に前記素子部としては、コイルとコンデンサとからなる共振回路(LC共振回路)も含まれる。この場合であってもLC共振回路を用いて従来のフィルタを構成する場合と比べて位相反転用のインダクタを減らすことができるので、部品点数を少なくできるという効果がある。
また背景技術の項目にて説明した図31に携帯端末が示されているが、本発明の携帯端末は、図31の携帯端末のTVチューナに例えば上述の実施の形態の弾性表面波フィルタを適用したものである。また本発明の電子部品としては、例えばSAWBEFに上述の実施の形態の弾性表面波フィルタを適用したデジタル地上波TVチューナモジュールを挙げることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 デジタル地上波TV放送用アンテナ
2 携帯電話用アンテナ
10 TVチューナーモジュール
20 音声送信部
41 入力ポート
42 出力ポート
5、51〜54、61〜64 SAW共振子
81〜83 インダクタ
810、820 並列回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす素子部を複数の並列椀として信号路の同電位点に接続したことと、
これら複数の素子部からなる素子部の組を信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす複数の素子部を互いに直列に接続し、この直列回路を信号路に並列腕として接続したことと、
複数の素子部からなる前記直列回路である素子部の組を前記信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項3】
前記素子部の組の接続段数は、前記減衰域の数よりも1個以上多く、
各段の間に接続されたインダクタのうち前記減衰域の数に相当する個数のインダクタには、各々直列共振を起こす素子部が並列に接続されて並列回路が構成され、
これら複数の並列回路の並列共振周波数は、夫々複数の減衰域に対応する周波数に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のフィルタ。
【請求項4】
前記直列共振を起こす素子部は、弾性波共振子、弾性表面波共振子、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS共振子、誘電体、及びコイルとコンデンサとからなる共振回路から選択されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のフィルタ。
【請求項5】
デジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載のフィルタ。
【請求項6】
デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、
前記受信部に請求項1ないし5のいずれか一つに記載のフィルタが設けられていることを特徴とする携帯端末。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載のフィルタを備えたことを特徴とする電子部品。
【請求項1】
通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす素子部を複数の並列椀として信号路の同電位点に接続したことと、
これら複数の素子部からなる素子部の組を信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で直列共振を起こす複数の素子部を互いに直列に接続し、この直列回路を信号路に並列腕として接続したことと、
複数の素子部からなる前記直列回路である素子部の組を前記信号路に複数段接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に位相反転用のインダクタを設けたことと、を備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項3】
前記素子部の組の接続段数は、前記減衰域の数よりも1個以上多く、
各段の間に接続されたインダクタのうち前記減衰域の数に相当する個数のインダクタには、各々直列共振を起こす素子部が並列に接続されて並列回路が構成され、
これら複数の並列回路の並列共振周波数は、夫々複数の減衰域に対応する周波数に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のフィルタ。
【請求項4】
前記直列共振を起こす素子部は、弾性波共振子、弾性表面波共振子、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS共振子、誘電体、及びコイルとコンデンサとからなる共振回路から選択されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のフィルタ。
【請求項5】
デジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載のフィルタ。
【請求項6】
デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、
前記受信部に請求項1ないし5のいずれか一つに記載のフィルタが設けられていることを特徴とする携帯端末。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載のフィルタを備えたことを特徴とする電子部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2010−35132(P2010−35132A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24581(P2009−24581)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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