説明

フィルターの製造方法及びフィルター

【課題】高性能なフィルターを低コストで容易に製造する。
【解決手段】フィルター20は、複数の孔6が形成されたシリコン単結晶を有し、孔6の開口部が、シリコン単結晶の(110)面に形成され、貫通孔6を形成する面6b1,6b2,6b3,6b4が、シリコン単結晶の(111)面である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中の固体を捕獲するフィルター及びそのフィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な異物等、流体中の固体を捕獲するフィルター又はそのフィルターの製造方法として、綾畳方式や不織布方式、プレス方式、エッチング方式、レーザー直接加工方式、電鋳方式等がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−272631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プレス方式やエッチング方式では、微細な穴を形成することが難しい。すなわち、プレス方式やエッチング方式では、微細な異物の捕獲能力が低い。
また、綾畳方式や不織布方式では、流路抵抗が大きくなる。
また、電鋳方式では、製造コストが高いものとなり、レーザー方式では、フィルター製造時に飛散物が発生する可能性がある。例えば、飛散物(加工による屑)が製品のフィルターに付着すると、製品の品質が低下する可能性がある。
【0005】
このように、従来の技術においては、高性能なフィルターを低コストで容易に製造することが困難であった。
本発明の課題は、高性能なフィルターを低コストで容易に製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明の一態様は、
基材に複数の孔を形成してフィルターを製造するフィルターの製造方法であって、前記基材は、レーザー光の照射により変質された領域のエッチング速度が変質されない領域のエッチング速度よりも大きい材料で構成されており、前記基材にレーザー光を照射して、前記基材の材料を変質させた変質部を前記基材の内部に延在させて形成し、かつ前記延在させた変質部を前記基板内に並列に複数形成する変質部形成工程と、前記基材の表面からエッチングを進行させて前記変質部を除去し、前記基材を貫通する複数の孔を形成するエッチング工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
このような構成により、変質部をエッチングして形成した孔を極細の孔にできる。また、極薄の基材に高密度で孔を形成できる。また、レーザー光を照射してエッチングする工程を経て孔を形成しているので、安価であり、飛散物が発生することもない。
このように、高性能フィルターを低コストで容易に製造することができる。
また、本発明の他の態様は、
前記基材は、単結晶からなる材料で構成されており、前記孔の開口部に対応するパターン形状のエッチングマスク膜を前記基材の表面にパターニングするパターニング工程をさらに有し、前記変質部形成工程では、前記基材の表面において前記パターン形状の孔から露出している範囲と前記範囲をエッチングが進行することで出現するエッチング速度が最も小さい結晶格子面とで囲まれる領域内に前記変質部の端部が存在するように、該変質部を形成することを特徴とする。
【0008】
このような構成により、基材の表面においてパターン形状の孔から露出している範囲とその範囲をエッチング工程でエッチングすることにより出現するエッチング速度が最も(他の方位よりも)小さい結晶格子面とで囲まれる領域内に変質部の端部を存在させることで、該変質部に沿って確実にエッチングを進行させることができる。
また、本発明の他の態様は、
前記基材は、シリコン単結晶で構成されており、前記パターニング工程では、前記エッチングマスク膜を前記基材表面の(110)面にパターニングし、前記エッチング工程では、前記基材を貫通する孔をウェットエッチングにより複数形成することを特徴とする。
【0009】
このような構成により、フィルターは、孔を形成する面が(111)面となり、孔を形成する面が平滑度の高い面又は鏡面状となり、孔の流路抵抗が低いものとなる。
そのため、高性能フィルターを低コストで容易に製造することができる。
また、本発明の他の態様は、
前記変質部形成工程では、前記レーザー光を回折光学素子に透過させて複数のビームに分岐して前記基材に照射することを特徴とする。
【0010】
このような構成により、複数の変質部を同時に形成できる。
また、本発明の他の態様は、
前記変質部形成工程では、光軸に沿って焦点方向に長い線像を作るアキシコン素子に前記レーザー光を透過させることにより前記基材の厚さ方向に延びる前記レーザー光の集光領域を形成し、前記レーザー光の集光領域により前記厚さ方向に延在する変質部を形成することを特徴とする。
【0011】
このような構成により、板状体の厚さ方向に延在する変質部を短時間で形成できる。
また、本発明の他の態様は、
複数の貫通孔が形成されたシリコン単結晶を有し、前記貫通孔の開口部は、前記シリコン単結晶の(110)面に形成され、前記貫通孔を形成する面は、前記シリコン単結晶の(111)面であることを特徴とする。
【0012】
このような構成により、フィルターは、孔を形成する面が(111)面となり、孔を形成する面が平滑度の高い面又は鏡面状となり、孔の流路抵抗が低いものとなる。
そのため、フィルターは、高性能フィルターであり、低コストで容易に製造されたものとなる。
また、本発明の他の態様は、
前記貫通孔は、ウェットエッチングにより形成されていることを特徴とする。
【0013】
このような構成により、ウェットエッチングにより容易に貫通孔を形成できる。
また、本発明の他の態様は、
前記孔の開口部の幅が15μm以上でかつ20μm以下であり、隣接する孔を隔てる壁の厚さが5μm以上でかつ10μm以下である部位を有し、前記孔の長さが200μm以上であることを特徴とする。
【0014】
このような構成により、200μm以上といったように比較的長い孔にする必要がある場合でも、孔の直径を小さくかつ孔の壁の厚さを薄く、すなわち、孔のピッチを小さくできる。
そのため、フィルターは、高性能フィルターであり、低コストで容易に製造されたものとなる。
【0015】
また、本発明の他の態様は、
複数の孔を有するフィルターであって、基材は、レーザー光の照射により変質された領域のエッチング速度が変質されない領域のエッチング速度よりも大きい材料で構成され、前記基材を貫通する孔が等方性エッチングにより複数形成されており、前記孔の長さをtとし、隣り合う前記孔の間隔をpとしたときに、
p<t
の関係が成立する部位を有することを特徴とする。
【0016】
このような構成により、フィルターは、孔の長さにかかわらずピッチが短いものとなり、高密度で孔が形成されたものとなる。
そのため、フィルターは、高性能フィルターであり、低コストで容易に製造されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態のフィルターの製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【図2】フィルターの製造方法の各工程における基板等の模式断面図である。
【図3】図2(d−1)のA部の詳細を示す断面図である。
【図4】変質部が形成された基板内をエッチングが進行する過程を示す断面図である。
【図5】エッチング工程を経た基板の形状を示す断面図である。
【図6】第1の実施形態のフィルターの製造方法により製造されたフィルターの形状を示す図である。
【図7】流路抵抗の説明に使用した矩形断面の流路を示す斜視図である。
【図8】流路抵抗の説明に使用した円管の流路を示す斜視図である。
【図9】レーザー光の照射によりエッチングマスク膜をパターニングする構成の説明に使用した図である。
【図10】レーザーの基本波長光を回折光学素子により多点同時分岐させて複数箇所に同時にレーザー光を照射する構成の説明に使用した図である。
【図11】レーザーの基本波長光をアキシコン素子に透過させる構成の説明に使用した図である。
【図12】第2の実施形態においてエッチング工程を経た基板の形状を示す断面図である。
【図13】第2の実施形態のフィルターの製造方法により製造されたフィルターの形状を示す図である。
【図14】本実施形態に対する比較例を示すものであり、エッチングマスク膜の孔のピッチpが基板の板厚tよりも小さいもの(p<t)を示す図である。
【図15】本実施形態に対する比較例を示すものであり、エッチングマスク膜の孔のピッチpが基板の板厚tよりも大きいもの(p>t)を示す図である。
【図16】保護膜を不要としたときの変質部形成工程及びエッチング工程における基板の形状を示す断面図である。
【図17】基板の一方の面だけにエッチングマスク膜をパターニングしエッチングしたときの基板の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
(構成)
第1の実施形態は、本発明を適用したフィルターの製造方法である。
第1の実施形態では、シリコン単結晶からなる材料で構成される面方位(110)の基板を母材として用いてフィルターを製造している。
【0019】
図1は、本実施形態のフィルターの製造方法の各工程を示す。図2は、各工程における基板10等の模式断面図である。
図1に示すように、本実施形態のフィルターの製造方法は、保護膜形成工程(ステップS1)、パターニング工程(ステップS2)、変質部形成工程(ステップS3)、エッチング工程(ステップS4)、及び保護膜剥離工程(ステップS5)を有する。
【0020】
(ステップS1:保護膜形成工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、先ず保護膜形成工程にて、基板10(図2(a))に対して保護膜2を形成する。この保護膜形成工程では、図2(b)に示すように、保護膜2としてSiO2膜(シリコン酸化膜)を基板10の両面11,12に形成する。なお、この保護膜形成工程では、保護膜2としてSiN膜(シリコン窒化膜)を形成することもできる。
【0021】
(ステップS2:パターニング工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続くパターニング工程(エッチングマスク膜形成工程)にて基板10の両面11,12の保護膜2からエッチングマスク膜3をパターニングする。このパターニング工程では、図2(c)に示すように、フォトリソグラフィー(レジスト膜塗布、露光及び現像)及び保護膜エッチングにより、(110)面となる両面(表面)11,12にエッチングマスク膜3をパターニングする。
【0022】
このとき、パターニング工程では、フィルターを形成する孔に応じてエッチングマスク膜3をパターニングする。すなわち、フィルターにおける孔の形や孔の大きさ、隣接する孔の間のピッチ、孔の配列パターン等に応じてエッチングマスク膜3をパターニングする。第1の実施形態では、孔の配列パターンを正方配列のパターンにしている。
例えば、保護膜形成工程及びパターニング工程によるエッチングマスク膜3の形成過程は以下のようになる。
【0023】
保護膜形成工程では、熱酸化法によりSiO2膜を形成する。続くパターニング工程では、SiO2膜上にスピンコート法によってレジストを塗布し、フォトリソグラフィー技術を用いてレジストパターンを形成する。そして、パターニング工程では、フッ酸溶液等を用いてSiO2膜をレジストパターン形状に従って除去し、不要になったレジストパターンを剥離してエッチングマスク膜3を形成する。
【0024】
(ステップS3:変質部形成工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続く変質部形成工程(レーザー光照射工程)にて赤外線レーザーを基板10に照射して材料の変質部を形成する。
赤外線レーザーは、シリコン単結晶からなる材料で構成される基板10に対して透過性のあるレーザーとなる。ここで用いる赤外線レーザーは、例えば、YAGレーザー、YVO4レーザー又はYLFレーザーである。
この変質部形成工程では、赤外線レーザーの基本波長光30をレンズ31で透過させて基板10内に集光させる。そして、変質部形成工程では、集光点を基板10の厚さ方向に移動させる。
【0025】
このとき、基板10の厚さ方向に沿う集光点の移動方向は、レーザーが入射される側の表面11から、該表面11とは反対側の表面12側に向かう方向となる。すなわち、基板10の厚さ方向に沿う集光点の移動方向は、基板10の表面11を起点とした厚さ方向となる。なお、基板10の厚さ方向に沿う集光点の移動方向をそれとは反対方向とすることもできる。
【0026】
以下の説明では、基板10の表面又は両面11,12のうち、レーザーが入射される側の面11を第1面11といい、その第1面11とは反対側の面12を第2面12という。
このように集光点の移動方向を第2面12側から第1面11側に向かう方向にした場合、図2(d−1)に示すように、第2面12側の所定の位置P1を集光点の移動開始位置にする。そして、変質部形成工程では、図2(d−2)に示すように、基板10の厚さ方向に第2面12側から第1面11側に集光点を移動させる。それから、変質部形成工程では、第1面11側の所定の位置P2に集光点が達した時点で移動及びレーザー光の照射を終了する。
【0027】
前述の第1面11側の所定の位置P2及び基板10の第2面12側の所定の位置P1については後で詳述する。
また、変質部形成工程では、レーザー光の強度や集光度合い(焦点深度)を集光点の移動に応じて適宜制御することが好ましい。具体的には、変質部形成工程では、集光点が第2面12側に近いほど集光点のレーザー光のエネルギーを大きくする制御をすることが好ましい。
【0028】
以上のようなレーザー光の照射により、基板10内には、該基板10の厚さ方向に沿う集光点の移動経路に沿って材料の変質部4が形成される(図2(d−3))。
そして、変質部形成工程では、エッチングマスク膜3のパターン形状の孔3a,3bの配置に対応させてレーザー光を照射して、図2(d−3)に示すように、基板10内に並列に(幅方向又は面方向に)複数の変質部4を形成する。
【0029】
そのため、変質部形成工程では、基板10の幅方向に該基板10とレーザーとを相対的に移動させつつ、前述のように基板10にレーザー光を照射する。例えば、変質部形成工程では、XYテーブルにより基板10を移動させるワーク移動を行い、移動する基板10にレーザー光を照射する。
なお、変質部形成工程では、ガルバノスキャナーによりレーザー光の方を移動させることもできる。
【0030】
(ステップS4:エッチング工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続くエッチング工程にて基板10に複数の孔を形成する。このエッチング工程では、ウェットエッチングにより異方性エッチングを行う。具体的には、エッチング工程では、水酸化カリウム(KOH)の水溶液5に基板10を浸漬させる。これにより、エッチング工程では、図2(e)及び図2(f)に示すように、エッチングマスク膜3のパターン形状の孔3a,3bに対応させてエッチングを進行させて基板10にその両面11,12を貫通する孔6を複数形成する。
【0031】
ここで、前述のように移動開始時及び移動終了時の集光点の位置を所定の位置P1、P2としている理由を説明する。
図3は、前記図2(d−1)のA部の詳細を示す。
エッチングを行うと、その初期段階では、図3に示すように、エッチングマスク膜3の孔(パターン形状の孔)3bにより基板10の第2面12で露出している面(以下、基板露出面という。)12aがエッチングを受ける。そして、エッチングをそのまま継続すると、基板10の第2面12におけるパターン形状の孔3bの縁部13a,13bから、基板10の第2面12に対して所定の角度をもって該孔3bの中心軸方向に延びる面14a,14bが出現するようになる。
【0032】
ここで、面14a,14bは、結晶格子面である(111)面であり、他の方位と比較してエッチング速度が極端に小さい又はエッチングがされ難い面となる。そのため、エッチングは、この面14a,14bで停止する。
このようなことから、移動開始時の集光点の位置となる所定の位置P1は、第2面12の基板露出面12aとエッチングが停止する面14a,14bとにより囲まれる領域内の任意の位置となる。よって、第2面12の基板露出面12aから所定の位置P1までの垂直深さは、同基板露出面12aから面14aと面14bとのなす交点までの垂直深さよりも浅くなる。
【0033】
このように、変質部形成工程では、第2面12の基板露出面12aと基板10内の第2面12側の面14a,14bとにより囲まれる領域内に一方の端部4bが存在するように変質部4を形成する。
また、移動終了時の集光点の位置となる所定の位置(P2)についても同様である。すなわち、移動終了時の集光点の位置となる所定の位置は、第1面11の基板露出面と第1面11側でエッチングが停止する面とにより囲まれる領域内の任意の位置になる。
【0034】
図4は、変質部4が形成された基板10内をエッチングが進行する過程を示す。
図4(a)に示すように、エッチングの初期段階では、両面11,12の基板露出面11a,12aがエッチングを受ける。そして、エッチング速度の遅い面((111)面)14a,14b,15a,15bは、エッチングの初期段階から現れるようになる。これにより、この面14a,14b,15a,15bで囲まれた基板露出面11a,12aがエッチングを受けるようになる。さらに、基板露出面11a,12aのエッチングが進行すると、エッチングは、変質部4(具体的にはその端部4a,4b)に到達する。
【0035】
ここで、変質部4は、シリコン単結晶にレーザー光が照射されることにより、単結晶中の原子の結合が切断されたり、微小なクラックが発生したり、結晶性が破壊されたりして形成されたものである。そして、変質部4のエッチング速度は、変質されていない材料の領域と比較すると格段に大きい。すなわち、変質部4は、変質されていない材料の領域と比較してエッチングされ易い。
【0036】
このようなことから、エッチングが変質部4に到達すると、図4(b)に示すように、その変質部4に沿ってエッチングが進行するようになる。これにより、基板10には、エッチングにより除去された変質部4に沿って孔6aが先行して形成される。
そして、このように先行して形成された孔6aがエッチングを誘導する孔となり、エッチングが進行する。この孔(以下、エッチング誘導孔という。)6aによるエッチングの進行により、図4(c)に示すように、基板10の厚さ方向に平行な面16,17が出現する。この面16,17は、(111)面により形成されている。
【0037】
そして、エッチングは、図4(d)に示すように、それらの面16,17同士が繋がった段階で停止する。これにより、基板10には、両面11,12を貫通する孔6が形成される。
以上のように、エッチング工程では、変質部4に沿ったエッチング誘導孔6aが形成されて、エッチングによりそのエッチング誘導孔6aが拡大して、基板10の両面11,12を貫通する孔6が最終的に形成される。
【0038】
図2(f)及び図5は、エッチング工程を経た基板10の形状を示す。図5(a)は、基板10の平面図であり、図5(b)(図2(f))は、図5(a)に示す矢示A−Aの基板10の断面図である。図2(f)及び図5に示すように、基板10には、エッチングマスク膜3に応じた孔6が複数形成されている。そして、その孔6の断面形状はひし形になる。
【0039】
ここで、前述したように、エッチング工程では、面16,17同士が繋がってエッチングが停止して孔6が形成されている。このとき、面16と面17とは、同一平面内に位置する(111)面によって構成されている。よって、孔6を形成する各面6b1,6b2,6b3,6b4は、同一平面内に位置する(111)面によって構成されていることになる。
【0040】
(ステップS5:保護膜剥離工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続く保護膜剥離工程にて基板10から保護膜(エッチングマスク膜3)を剥離する。ここで、保護膜がSiO2膜の場合、HF系の保護膜剥離液を用いてウェットエッチングにより剥離する。また、保護膜がSiN膜の場合、ドライエッチングにより剥離する。
本実施形態のフィルターの製造方法では、以上の各工程を経てフィルター20を製造している。
【0041】
図2(g)及び図6は、そのフィルター20の形状を示す。図6(a)は、フィルター20の平面図であり、図6(b)(図2(g))は、図6(a)に示す矢示B−Bのフィルター20の断面図である。図2(g)及び図6に示すように、フィルター20は、正方配列とされた複数の孔6を有している。ここで、孔6の開口部6cは、(110)面に形成されている。
【0042】
(作用及び効果)
前述のように、本実施形態のフィルターの製造方法では、エッチング工程の初期段階でエッチング速度が小さくなる面14a,14b,15a,15b((111)面)が出現するようになる。
【0043】
これに対して、本実施形態のフィルターの製造方法では、エッチング工程の前工程の変質部形成工程にて基板10に予め変質部4を形成している。これにより、本実施形態のフィルターの製造方法では、エッチングによりエッチング速度が小さくなる面14a,14b,15a,15bを除去して、両面11,12を貫通する孔6を形成している。
そして、本実施形態のフィルターの製造方法では、変質部4の大きさ(直径)を小さくすることで、フィルター20の孔を極細にできる。例えば、フィルター20の孔の径(最大径)を20μm以下、具体的には15μm程度にすることができる。
【0044】
さらに、本実施形態のフィルターの製造方法では、フィルター20で隣接する孔6を隔てる壁を極薄にできる。具体的には、本実施形態のフィルターの製造方法では、隣接する孔6を隔てる壁の厚さ(図2(g)に示す壁18の厚さw)を、5μm以上でかつ10μm以下にすることができる。また、本実施形態のフィルターの製造方法では、隣接する孔6を隔てる壁の厚さを、5μm未満にすることもできる。
【0045】
なお、本実施形態のフィルターの製造方法では、エッチングマスク膜3で隣接する孔(3aと3a及び3bと3b)の間のピッチを狭くしておくことで、フィルター20で隣接する孔6を隔てる壁を極薄にすることができる。
以上のように、本実施形態のフィルターの製造方法では、孔6の径が小さくかつ孔6を隔てる壁が薄いフィルター20、すなわち、孔6のピッチが狭いフィルター20を製造できる。この結果、フィルターは、孔6の密度が極めて高いものとなる。
【0046】
ここで、孔6のピッチとは、隣り合う孔6の開口部6cの中心間の距離である。
また、本実施形態のフィルターの製造方法では、フィルター20に形成される孔6の形状が変質部4の形状に依存する。そのため、本実施形態のフィルターの製造方法では、変質部4を形成する精度(レーザー光の照射精度等)を高くすることで、フィルター20に形成する孔6の形状の精度を高くすることができる。この結果、本実施形態のフィルターの製造方法では、孔6の形状のばらつきを抑えることができる。
【0047】
また、本実施形態のフィルターの製造方法では、基板10の厚さ方向における変質部4の長さを確保できる限り基板10に孔6を形成できるので、厚さを制限することなくフィルター20を製造できる。すなわち、本実施形態のフィルターの製造方法では、フィルター20の厚さの自由度を高くすることができる。
例えば、フィルターに孔を形成する一手法として、本実施形態のようなレーザー光の照射(変質部の形成)をせず、シリコン単結晶の面方位(110)の基板に対してドライエッチングだけで孔を形成する手法も考えられる。
【0048】
ここで、ドライエッチの深さ(掘り込み量)は、通常、比較的大きい大面積を対象とすれば最大で200μm程度である。
例えば、ドライエッチの深さ(掘り込み量)が200μm以上になると、保護膜の消耗を考慮し、保護膜を極端に厚くしておくか、ドライエッチの最中に消失する保護膜をその消失の都度形成する必要がある。また、ドライエッチの深さを確保しようとすると、サイドエッチの発生や保護膜の後退等により孔を形成すること自体、又は孔の形状の精度を確保することが難しくなる。
【0049】
このように、ドライエッチの深さ(掘り込み量)を200μm以上にしようとすると、実用的ではなくなってしまう。そのため、ドライエッチの深さ(掘り込み量)は、前述のように最大で200μm程度になる。つまり、ドライエッチングにより孔を形成する場合に取り扱えるフィルターの厚さ又は孔の長さは最大で200μm程度である。
これに対して、本実施形態のフィルターの製造方法では、前述のように、厚さを制限することなくフィルター20を製造できる。すなわち、本実施形態のフィルターの製造方法によれば、ドライエッチで限界の厚さ又は孔6の長さとなる200μm以上のフィルター20を製造できる。
【0050】
ここで、孔6の長さとは、第1面11に形成される開口部6cの中心と第2面12に形成される開口部6cの中心との距離である。
また、本実施形態のフィルターの製造方法によれば、厚さの下限値側を10μm程度にすることもできる。このように、本実施形態のフィルターの製造方法によれば、フィルター20の厚さの自由度は高いものとなる。この結果、本実施形態のフィルターの製造方法によれば、フィルター20の設計自由度を高くすることができる。
【0051】
ここで、管路内の流路抵抗を算出する一般的な式を説明する。図7及び図8を用いて説明する。
図7に示すような、矩形断面の長辺がa、矩形断面の短辺がb、流路の長さがLの矩形管(矩形孔)の場合、粘度をηとすると、その流路抵抗を以下の式により得られる値Rとして示すことができる。
【0052】
R=(64・η・L/(a・b3)・(16/3−1024・b/(π5・a)・(tanh(π・a/(2・b))+1/35・tanh(3・π・a/(2・b)))
また、図8に示すような、円管の直径がd、流路の長さがLの円管の場合、粘度をηとすると、その流路抵抗を以下の式により得られる値Rとして示すことができる。
R=128・η・L/(π・d4
以上の流路抵抗の式によれば、管径(a、b、又はd)が小さかったり、管(L)が長かったりすると、流路抵抗は大きくなる。この関係をフィルター20について当てはめると、フィルター20の孔6の径が小さいと、流路抵抗が大きくなる。また、フィルター20の孔6の全長が長いと(フィルター20が厚いと)、流路抵抗が大きくなる。その一方で、フィルター20は、孔6の径が小さいと、微細な異物の捕獲能力が高くなり、フィルターとしての機能が高くなる。
【0053】
このようなことから、流路抵抗を抑えつつも微細な異物の捕獲能力を高くするには、フィルター20には、孔6が極細かつ高密度に形成され(孔6の数が単位面積当りで多く)、さらには極薄であることが要求される。
【0054】
これに対して、本実施形態のフィルターの製造方法によれば、前述のように極細の孔6を高密度に形成できる。さらには、本実施形態のフィルターの製造方法によれば、前述のように厚さに自由度があり、フィルター20を極薄にできる。よって、本実施形態のフィルターの製造方法によれば、流路抵抗を抑えつつも微細な異物の捕獲能力が高い性能のフィルター20を提供することができる。つまり、本実施形態のフィルターの製造方法は、高性能フィルターを低コストで容易に製造することができる。
【0055】
また、前述のように、孔6を形成する各面(4方の面)は、同一平面内に位置する(111)面によって構成されているため、結晶格子のオーダーで平滑度が高い面又は鏡面状となる。これにより、孔6の流路抵抗は小さくなっている。
以上より、本実施形態のフィルターの製造方法により製造されたフィルター20の特徴をまとめると次のようになる。
【0056】
(1)孔6が極細である。そのため、微細な異物を捕獲でき、微細な異物の捕獲能力が高い。
(2)孔6が高密度である。そのため、フィルター20全体として流路抵抗が小さい。これにより、小型化してもなお捕獲能力が高い。
(3)孔6の形状(径)のばらつきが小さい。そのため、微細な異物の捕獲選択性が高い。
【0057】
(4)加工過程で屑が発生しない。そのため、屑の付着がなく汚染がない。これにより、高品質である。
(5)フィルター20の材料を酸化処理したシリコンとすることで、薬品耐性が高いものとなる。
【0058】
例えば、このような特徴を有するフィルター20を、インクジェットヘッドのインク流路中に配置することができる。また、μTAS(Micro Total Analysis System)やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術が適用された液体流路、例えば薬液流路中に配置することができる。
【0059】
また、前述のように、変質部形成工程では、基板10内を第2面12側から第1面11側に集光点を移動させている。これにより、変質部形成工程では、集光点を形成するレーザー光が既に形成した変質部4と干渉してしまうのを防止できる。この結果、変質部形成工程では、高い精度で変質部4を形成できる。
【0060】
(第1の実施形態の変形例)
(変形例1)
パターニング工程では、フォトリソグラフィー技術ではなく、図9に示すように、レーザー光の照射により保護膜2の不要部分(基板10の孔形成箇所)を除去してエッチングマスク膜3をパターニングすることもできる。
【0061】
これにより、フィルター20を製造するための一工程となるフォトリソグラフィーの工程を省略できる。そして、変質部形成工程で使用するレーザー光の照射設備を利用すれば、結果としてフィルター20を安価に提供できる。なお、膜加工専用のレーザー光の照射設備により保護膜2を加工できることは言うまでもない。
【0062】
(変形例2)
変質部形成工程では、図10に示すように、レーザーの基本波長光30を回折光学素子32により多点同時分岐させて目標の複数箇所に同時にレーザー光を照射することもできる。
これにより、変質部形成工程では、一度のレーザー光照射のスキャンで基板10内に複数の変質部4を形成できる。この結果、変質部形成工程では、レーザー光照射のスキャン回数を減らすことができ、フィルター20の製造時間の短縮を可能にする。
【0063】
(変形例3)
変質部形成工程では、図11に示すように、レーザーの基本波長光30をアキシコン素子33に透過させることもできる。アキシコン素子33は、光軸に沿って焦点方向に長い線像を作る光学素子であるため、レーザー光は、基板10の厚さ方向に延在する集光領域(長焦点)を形成するようになる。
これにより、変質部形成工程では、一度のレーザー光照射で基板10の厚さ方向に延びる変質部4を形成でき、フィルター20の製造時間の短縮を可能にする。
【0064】
(変形例4)
変質部形成工程では、基板10を高速回転させつつ、固定配置したレーザーのオン及びオフを基板10の回転に同期させて適宜切り替えることで変質部4を形成することもできる。
これにより、XYテーブルで基板10を移動させるときのような基板10を加減速させる移動をなくし、製造時間の無駄を軽減できる。
【0065】
(変形例5)
シリコン単結晶からなる材料で構成される面方位(100)の基板10を母材として用いてフィルター20を製造することもできる。
【0066】
(第2の実施形態)
(構成)
第2の実施形態は、本発明を適用したフィルターの製造方法である。
第2の実施形態では、ガラスを材料とする基板を母材として用いてフィルターを製造している。
第2の実施形態のフィルターの製造方法の工程は、前記図1に示した前記第1の実施形態のフィルターの製造方法の工程と同様である。
【0067】
(ステップS1:保護膜形成工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、先ず保護膜形成工程にて、基板10(図2(a))に対して保護膜2を形成する。この保護膜形成工程では、保護膜2としてCr/Au膜を基板10の両面11,12に形成する(図2(b))。なお、この保護膜形成工程では、保護膜2としてSi膜を形成することもできる。
【0068】
(ステップS2:パターニング工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続くパターニング工程(エッチングマスク膜形成工程)にてエッチングマスク膜3をパターニングする。このパターニング工程では、前記第1の実施形態と同様に、フォトリソグラフィー(レジスト膜塗布、露光及び現像)及び保護膜エッチングによりエッチングマスク膜3をパターニングする(図2(c))。
【0069】
このとき、フィルター20を形成する孔に応じてエッチングマスク膜3をパターニングする。すなわち、フィルター20における孔の形や孔の大きさ、隣接する孔の間のピッチ、孔の配列パターン等に応じてエッチングマスク膜3をパターニングする。第2の実施形態では、孔の配列パターンを千鳥配列パターンにしている。
【0070】
(ステップS3:変質部形成工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続く変質部形成工程(レーザー光照射工程)にてレーザー光を基板10に照射して変質部4を形成する。第2の実施形態では、レーザーとして超短パルスレーザーを用いる。超短パルスレーザーは、例えば、p秒(ピコ秒)やf秒(フェムト秒)等のパルスレーザーである。
【0071】
そして、前記第1の実施形態と同様に、変質部形成工程では、レーザーの基本波長光30をレンズ31で基板10内に集光させ、その集光点を基板10の厚さ方向(第2面12側から第1面11側に向かう方向)に移動させる。
このようなレーザー光の照射により、基板10内には集光点の移動経路(基板10の厚さ方向)に沿って材料の変質部4が形成される(図2(d−3))。
【0072】
ここで、前記第1の実施形態では、基板10内にエッチング速度が遅くなる部位((111)面)が存在していた。これに対して、第2の実施形態では、基板10がガラスであるため、そのようにエッチング速度が遅くなる部位が存在しない。そのため、第2の実施形態では、移動開始時及び移動終了時の集光点の位置を考慮することなく、レーザー光の集光点を基板10の厚さ方向に移動させることができる。
【0073】
(ステップS4:エッチング工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続くエッチング工程にて基板10に複数の孔6を形成する。このエッチング工程では、ウェットエッチングによる等方性エッチングを行う。具体的には、エッチング工程では、HF(フッ酸)やBHF(バッファードフッ酸)等の水溶液5に基板10を浸漬させる。これにより、エッチング工程では、図2(e)及び図2(f)に示すように、エッチングマスク膜3のパターン形状の孔3a,3bに対応させてエッチングを進行させて基板10にその両面11,12を貫通する孔6を複数形成する。このとき、エッチング工程では、エッチング時間を設定することでエッチングの進行を制御し、目標の孔径にしている。
【0074】
図12は、エッチング工程を経た基板10の形状を示す。図12(a)は、基板10の平面図であり、図12(b)は、図12(a)に示す矢示C−Cの基板10の断面図である。図12に示すように、基板10には、エッチングマスク膜3に応じた孔6が複数形成されている。そして、その孔6の断面形状は円形になる。詳しくは、孔6は、両面11,12それぞれの近傍で直径が大きく中間部で直径が小さくなる、略鼓形状をなしている。例えば、エッチング工程でエッチング時間を適切に設定することで、孔6の中間部の最小径を制御できる。
【0075】
(ステップS5:保護膜剥離工程)
本実施形態のフィルターの製造方法では、続く保護膜剥離工程にて基板10から保護膜(エッチングマスク膜3)を剥離する。ここで、保護膜がSi膜の場合、水酸化カリウム(KOH)の保護膜剥離液を用いて剥離する。
本実施形態のフィルターの製造方法では、以上の各工程を経てフィルター20を製造している。
【0076】
図13及び前記図2(g)は、フィルター20の形状を示す。図13(a)は、フィルター20の平面図であり、図13(b)(前記図2(g))は、図13(a)に示す矢示D−Dのフィルター20の断面図である。図13及び図2(g)に示すように、フィルター20は、千鳥配列とされた複数の孔6を有している。
【0077】
(作用及び効果)
第2の実施形態でも、前記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
すなわち、第2の実施形態のフィルターの製造方法では、前述のように、変質部形成工程にて基板10に変質部4を形成してからエッチング工程により基板10に孔6を形成している。
【0078】
このとき、変質部4のエッチング速度が、変質されていない部位と比較すると格段に大きいため、変質部4及びその変質部4により形成されたエッチング誘導孔6aに依存して孔6が形成されている。
【0079】
これにより、第2の実施形態のフィルターの製造方法では、変質部4の大きさ(直径)を小さくすることで、フィルター20の孔6を極細にできる。すなわち例えば、第2の実施形態のフィルターの製造方法では、エッチング工程でのエッチング時間を調整してエッチング誘導孔6aが形成された時点でエッチングを終了したとすれば、極細の孔6を形成できることになる。
なお、エッチング誘導孔6aが先行して形成されるため、フィルター20の孔6は、前記図12(b)に示すように略鼓形状になっている。
【0080】
以上のようなことから、第2の実施形態のフィルターの製造方法でも、孔6の径が小さくかつ孔6を隔てる壁が薄いフィルター20、すなわち、孔6のピッチが狭いフィルター20を製造できる。この結果、フィルターは、孔6の密度が極めて高いものとなる。
また、第2の実施形態のフィルターの製造方法では、等方性エッチングの影響を受けることなく、その孔6を極細に形成できる。
【0081】
図14及び図15は、本実施形態の比較例を示す。比較例は、変質部を形成することなく(レーザー光を照射することなく)等方性エッチングにより孔を形成する例である。すなわち、比較例は、等方性エッチングの特性を利用して孔を形成する例である。
図14は、エッチングマスク膜3の孔3a,3bのピッチpが、基板10の板厚tよりも小さい場合(p<t)を示す。また、図15は、エッチングマスク膜3の孔3a,3bのピッチpが、基板10の板厚tよりも大きい場合(p>t)を示す。
【0082】
図14に示すように、等方性エッチングでは、両面11,12においてエッチングマスク膜3の孔3a,3bにより露出している基板露出面11a,12aが球面状に削られていく(図14(a)、図14(b))。そのため、エッチングが進むと、エッチングマスク膜3の裏面側に回り込んで基板10が削られるようになる(図14(c))。そして、さらにエッチングが進むと、両面11,12それぞれから進行する穴形状の基板露出面11a,12a同士が貫通する前に、両面11,12それぞれで隣接する基板露出面(11aと11a及び12aと12a)同士が貫通してしまう(図14(d))。
【0083】
このように、ピッチpが板厚tよりも小さいと、等方性エッチングでは、両面11,12を貫通する孔を形成することができない。
このようなことから、図15に示すように、等方性エッチングの特性を利用する場合、ピッチpを板厚tよりも大きくする必要がある(図15(a))。この場合でも、図14と同様に、基板10の両面11,12の基板露出面11a,12aが球面状に削られ、エッチングマスク膜3の裏面側に回り込んで基板10が削られるようになる(図15(a)、図15(b)、図15(c))。しかし、両面11,12それぞれで隣接する基板露出面(11aと11a及び12aと12a)同士が貫通する前に、両面11,12それぞれから進行する穴形状の基板露出面11a,12a同士を貫通さることができる(図15(d))。
【0084】
このように、等方性エッチングの特性を利用する場合には、ピッチpを板厚tよりも大きくすることで両面11,12を貫通する孔6を形成することができる。しかし、この場合、板厚tが厚くすると、エッチングマスク膜3の孔3a,3bのピッチp、すなわちフィルター20の孔6のピッチpも大きくなり、さらにはフィルター20の孔6の径も大きくなってしまう。
【0085】
これに対して、本実施形態のフィルターの製造方法では、変質部4の形成によりエッチング誘導孔6aを先行して形成することで、板厚tにかかわらず、ピッチpを小さくしつつも極細の孔6を形成することができる。すなわち、本実施形態のフィルターの製造方法では、等方性エッチングでは不可能である、孔6のピッチpが基板10の板厚tよりも小さい(p<t)フィルター20を製造することができる。
以上より、第2の実施形態のフィルターの製造方法でも、高性能フィルターを低コストで容易に製造することができる。
【0086】
(第2の実施形態の変形例)
(変形例1)
保護膜2を不要とすることもできる。
図16(a)は、変質部形成工程にて変質部4が形成された基板10を示し、図16(b)は、エッチング工程にてエッチングされた基板10を示す。この図16に示すように、保護膜2を形成することなくエッチングすることもできる。この場合、図16(a)から図16(b)への変化として示されるように、基板10全体がエッチングを受けて板厚が薄くなる。
【0087】
このように保護膜2を不要にすることで、エッチングで板厚が薄くなることや孔6の形状の精度を問わなければ、保護膜形成工程、パターニング工程、及び保護膜剥離工程を省略することができる。
また、保護膜2を形成しない場合、エッチングにより基板10が薄くなるため、本実施形態のフィルターの製造方法において、フィルターに薄板加工したのと同等の効果を得ることができる。例えば、薄型化により孔6が短くなるため、フィルター全体の流路抵抗を小さくすることができる。
【0088】
ここで、保護膜2又はエッチングマスク膜3がなくとも孔6が形成されるのは、変質してしない非変質部(レーザー非照射部)のエッチングの進行よりも、変質部4のエッチングの進行が速く、その結果、変質部4に沿って両面11,12が貫通するからである。
【0089】
(変形例2)
基板10の両面11,12にエッチングマスク膜3をパターニング(両面パターニング)するのではなく、基板10の一方の面だけにエッチングマスク膜3をパターニング(他方の面をべた膜の片側パターニング)することもできる。
【0090】
図17は、基板10の一方の面だけにエッチングマスク膜3をパターニングしエッチングしたときの基板10の形状を示す。図17(a)は、基板10の平面図であり、図17(b)は、図17(a)に示す矢示E−Eの基板10の断面図である。図17に示すように、孔6は、底に近づくほど直径が小さくなる、略コーン形状になる。
これにより、フィルター20は、孔6の最小径部分がより小さくなり、微細な異物の捕獲能力が高くなる。
【0091】
(変形例3)
ガラスに限らず、石英や水晶、サファイアを材料とする基板を母材として用いてフィルターを製造することもできる。すなわち、レーザー光の照射により変質された変質部のエッチング速度が変質されない非変質部よりも大きい材料であれば、本実施形態のフィルターの製造方法によりフィルターを製造することができる。
【0092】
例えば、このような材料により形成されたフィルター20の孔6の断面形状は、前述のような略鼓形状や略コーン形状になる。なお、シリコン単結晶からなる材料で構成される面方位(100)の基板10により形成されたフィルター20の孔6の断面形状も、前述のような略鼓形状や略コーン形状になる。
【0093】
(変形例4)
変質部形成工程では、前述の例のレーザーに限定されず、材料に対して透過性があり、基板の変質部を形成することができるものであれば他のレーザーを用いることもできる。例えば、基板の材質によっては紫外光レーザーを用いることもできる。
【符号の説明】
【0094】
2 保護膜、3 エッチングマスク膜、4 変質部、6 孔、10 基板、11 第1面、12 第2面、20 フィルター、30 基本波長光(レーザー光)、S1 保護膜形成工程、S2 パターニング工程、S3 変質部形成工程、S4 エッチング工程、S5 保護膜剥離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に複数の孔を形成してフィルターを製造するフィルターの製造方法であって、
前記基材は、レーザー光の照射により変質された領域のエッチング速度が変質されない領域のエッチング速度よりも大きい材料で構成されており、
前記基材にレーザー光を照射して、前記基材の材料を変質させた変質部を前記基材の内部に延在させて形成し、かつ前記延在させた変質部を前記基板内に並列に複数形成する変質部形成工程と、
前記基材の表面からエッチングを進行させて前記変質部を除去し、前記基材を貫通する複数の孔を形成するエッチング工程と、
を有することを特徴とするフィルターの製造方法。
【請求項2】
前記基材は、単結晶からなる材料で構成されており、
前記孔の開口部に対応するパターン形状のエッチングマスク膜を前記基材の表面にパターニングするパターニング工程をさらに有し、
前記変質部形成工程では、前記基材の表面において前記パターン形状の孔から露出している範囲と前記範囲をエッチングが進行することで出現するエッチング速度が最も小さい結晶格子面とで囲まれる領域内に前記変質部の端部が存在するように、該変質部を形成すること
を特徴とする請求項1に記載のフィルターの製造方法。
【請求項3】
前記基材は、シリコン単結晶で構成されており、
前記パターニング工程では、前記エッチングマスク膜を前記基材表面の(110)面にパターニングし、
前記エッチング工程では、前記基材を貫通する孔をウェットエッチングにより複数形成すること
を特徴とする請求項2に記載のフィルターの製造方法。
【請求項4】
前記変質部形成工程では、前記レーザー光を回折光学素子に透過させて複数のビームに分岐して前記基材に照射することを特徴とする請求項1又は3に記載のフィルターの製造方法。
【請求項5】
前記変質部形成工程では、光軸に沿って焦点方向に長い線像を作るアキシコン素子に前記レーザー光を透過させることにより前記基材の厚さ方向に延びる前記レーザー光の集光領域を形成し、前記レーザー光の集光領域により前記厚さ方向に延在する変質部を形成することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のフィルターの製造方法。
【請求項6】
複数の貫通孔が形成されたシリコン単結晶を有し、
前記貫通孔の開口部は、前記シリコン単結晶の(110)面に形成され、
前記貫通孔を形成する面は、前記シリコン単結晶の(111)面であること
を特徴とするフィルター。
【請求項7】
前記貫通孔は、ウェットエッチングにより形成されていることを特徴とする請求項6に記載のフィルター。
【請求項8】
前記孔の開口部の幅が15μm以上でかつ20μm以下であり、
隣接する孔を隔てる壁の厚さが5μm以上でかつ10μm以下である部位を有し、
前記孔の長さが200μm以上であること
を特徴とする請求項6又は7に記載のフィルター。
【請求項9】
複数の孔を有するフィルターであって、
基材は、レーザー光の照射により変質された領域のエッチング速度が変質されない領域のエッチング速度よりも大きい材料で構成され、
前記基材を貫通する孔が等方性エッチングにより複数形成されており、
前記孔の長さをtとし、隣り合う前記孔の間隔をpとしたときに、
p<t
の関係が成立する部位を有すること
を特徴とするフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−88107(P2011−88107A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245274(P2009−245274)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】