説明

フィルタ故障判定システム

【課題】フィルタにおける捕集されたPMの剥離現象を考慮し、より正確なフィルタの故障判定を行うシステムを提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタの故障判定を行うフィルタ故障判定システムにおいて、フィルタによって所定量以上の粒子状物質が捕集され、且つ該フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が所定捕集率より低くなる所定のPM捕集状態において、未燃燃料をフィルタに流れ込む排気に供給した後に、そのフィルタから流れ出る排気中の粒子状物質量又は粒子状物質数に基づいて、フィルタの故障判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に設けられたフィルタの故障判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気に含まれる粒子状物質(以下、「PM」ともいう)を捕集するために、その排気通路にフィルタが設けられる。このフィルタは、使用時の異常発熱等によって破損や溶損して故障する可能性があり、フィルタが故障してしまうと排気中のPMを良好に捕集できなくなることから、フィルタの故障判定技術が求められている。ここで、特許文献1には、フィルタの下流側に設けられたPMセンサの出力に基づいてフィルタの故障判定を行う装置において、その故障判定のための閾値をフィルタに捕集されたPM量に基づいて調整する技術が開示されている。
【0003】
また、フィルタの下流側に設けられたPMセンサについて、一般に、フィルタから排出された排気に多量のPMが含まれている状態では高精度のPM検出が困難となる特性を有していることから、当該PMセンサを用いてフィルタの故障判定を行う場合には、排気中のPM量が少なくなる条件下であることが好ましい。そこで、特許文献2に示す技術では、フィルタに捕集されたPM量が所定量以上であって、当該フィルタによるPMの捕集率が所定捕集率以上となる条件(以下、「従来技術に係る条件」という)のときに、PMセンサを用いたフィルタの故障判定が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−293518号公報
【特許文献2】特開2007−315275号公報
【特許文献3】特開2009−7982号公報
【特許文献4】特開2004−232544号公報
【特許文献5】特開2005−69152号公報
【特許文献6】特開2006−112304号公報
【特許文献7】特開2004−300526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記NOxセンサのように排気中のPMを検出するための装置については、その個体間の検出精度のばらつきが大きいため、排気中に含まれるPM量もしくはPM数が比較的少ない状態において当該検出装置が使用されるのが好ましい。そこで、従来技術では、フィルタのPM捕集量およびフィルタのPM捕集率に関する条件が、上記従来技術に係る条件となる場合には、フィルタから流れ出てくるPM量等が比較的少量となるものとして、検出装置による検出結果を用いたフィルタの故障判定が行われる。
【0006】
しかしながら、従来技術に係る条件が成立した場合であっても、フィルタ内において捕集されていたPMの一部が、排気の流れ等によってフィルタの捕集面から剥離し、その剥離箇所からPMがすり抜けてしまう現象が生じる場合がある。このようなPMすり抜け現象が生じると、結果としてフィルタの下流側において排気中のPM量等が増加するため、上記検出装置を用いたフィルタの故障判定を正確に実施するのが困難となるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、フィルタにおける捕集された
PMの剥離現象を考慮し、より正確なフィルタの故障判定を行うシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、上記課題を解決するために、フィルタにおいて捕集されていたPMが剥離し、その剥離箇所からPMがすり抜ける現象が発生していると考えられる場合においては、その剥離状態をいわば修復したうえでフィルタの故障判定を行うこととした。このような構成を採用することで、正確なフィルタの故障判定を行うことが可能となる。
【0009】
まず、フィルタにおける捕集PMの剥離状態を修復する側面から捉えた本発明について説明する。この場合、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタから流出する排気中に含まれる粒子状物質の量、又は該粒子状物質の数を検出するPM検出部と、前記フィルタに対して、該フィルタに流れ込む排気を介して未燃燃料を供給する未燃燃料供給部と、前記フィルタによって所定量以上の粒子状物質が捕集され、且つ該フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が所定捕集率より低くなる所定のPM捕集状態において、前記未燃燃料供給部によって未燃燃料の供給制御を行う制御部と、前記制御部によって未燃燃料の供給制御が行われた前記フィルタに関し、前記PM検出部によって検出された粒子状物質量又は粒子状物質数に基づいて、前記フィルタの故障判定を行う判定部と、を備える、フィルタ故障判定システムである。
【0010】
上記発明に係るフィルタ故障判定システムは、排気通路に設けられたフィルタの故障を判定する。ここで、フィルタは、排気中の粒子状物質(PM)を捕集する機能を有し、フィルタが故障状態にあれば、フィルタをすり抜けて多量のPMが外部に放出されることになるため、上記発明においては、PM検出部によって検出された、フィルタから流出する排気に含まれるPM量又はPM数(以下、「PM量等」という)に基づいて、その故障判定が行われる。
【0011】
ここで、フィルタに順次内燃機関からの排気が流れ込んで、そこに含まれるPMがフィルタで捕集されていくが、フィルタに捕集されているPM量がある程度の量に至ると、フィルタの内部において、捕集PMが、その捕集面(フィルタ内部でフィルタが捕集されている壁面)から剥離する現象が生じる場合がある。この捕集PMの剥離現象は、PMに含まれているSOFの一部が、排気から受ける熱等によって気化することで、SOFをバインダーとしてまとめられていたスート(煤)が排気の脈動によってフィルタ内で動きやすくなってしまうために生じるものと考えられる。このようにフィルタで捕集PMの剥離が生じると、その剥離箇所では、フィルタの捕集面が露出されることになるため、そこからPMがフィルタをすり抜けて外部に流出しやすくなる。
【0012】
このような状態でフィルタの故障判定のためにPM検出部によるPM検出が行われても、排気中のPM量等が多いため高精度のPM検出が難しい。そこで、本発明に係るフィルタ故障判定システムでは、フィルタで捕集PMの剥離現象が生じていると考えられるとき、すなわち、フィルタによって所定量以上の粒子状物質が捕集され、且つ該フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が所定捕集率より低くなる所定のPM捕集状態時には、制御部によって、フィルタに流れ込む排気に未燃燃料の供給制御が行われる。このように供給された未燃燃料はSOFとして機能することから、供給された未燃燃料(SOF)がバインダーとして働きスートとともに捕集面に捕集されやすくなる。その結果、捕集PMの剥離状態が修復され、以てフィルタから流れ出る排気に含まれるPM量等を少ない状態、すなわちPM検出部を用いて正確なPM量等を検出することが可能となる。
【0013】
なお、上記所定量および上記所定捕集率は、フィルタにおいて捕集PMの剥離現象が生じていると合理的に考えられるように、適宜設定されればよい。例えば、フィルタに捕集
されたPMを酸化除去するフィルタ再生部を備える場合、フィルタ再生部によるPMの酸化除去が行われた直後は、フィルタに捕集されたPM量も少なく、そのためPMの捕集率も低いが、使用とともに捕集PM量が増加し、またPMの捕集率も上昇する。しかし、その後、捕集PMの剥離現象が生じると、捕集PM量は剥離の前後で大きく変わらなくとも捕集率が剥離現象により大きく低下する。このようなフィルタにおける捕集PM量の推移と、PM捕集率の推移を踏まえて、上記所定量および上記所定捕集率が設定されるのが好ましい。
【0014】
そして、上記のようにフィルタにおいて所定のPM捕集状態が形成されている場合であっても、未燃燃料の供給により捕集PMの剥離状態を修復することで、正確なPM量等の検出を可能とし、以て、判定部によるフィルタの故障判定がより正確に行われることになる。なお、判定部による故障判定は、たとえば、PM検出部によって検出されたPM量等が、判定のための閾値を越えた場合には、フィルタが故障していると判定することができる。
【0015】
ここで上記フィルタ故障判定システムにおいて、前記制御部は、前記フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が前記所定捕集率以上となるまで、未燃燃料の供給制御を継続するようにしてもよい。このように未燃燃料の供給制御を継続することで、フィルタ内でのPMの捕集状態を、より確実に、捕集PMの剥離が起きていない状態に戻すことが可能となり、以て、より正確なフィルタの故障判定が可能となる。
【0016】
次に、捕集PMの剥離状態の修復に関し別の側面から捉えた本発明について説明する。この場合、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタから流出する排気中に含まれる粒子状物質の量、又は該粒子状物質の数を検出するPM検出部と、前記フィルタに流れ込む排気温度を上昇させる排気昇温部と、前記フィルタに流れ込む排気に含まれる粒子状物質の濃度を上昇させるように前記内燃機関における燃焼状態を調整する燃焼調整部と、前記フィルタによって所定量以上の粒子状物質が捕集され、且つ該フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が所定捕集率より低くなる所定のPM捕集状態において、前記排気昇温部によって排気温度を所定温度まで昇温させた後に、前記燃焼調整部によって該フィルタに流れ込む排気に含まれる粒子状物質濃度を所定の高濃度状態に制御する制御部と、前記制御部によって粒子状物質濃度が制御された排気が流れ込んだ前記フィルタに関し、該フィルタによる粒子状物質の捕集率に基づいて、前記フィルタの故障判定を行う判定部と、を備える、フィルタ故障判定システムである。
【0017】
上記フィルタ故障判定システムでは、排気昇温部によって排気温度を所定温度まで昇温させた後に、燃焼調整部によって該フィルタに流れ込む排気に含まれる粒子状物質濃度が所定の高濃度状態に制御される。排気温度が所定温度まで昇温されることで、フィルタに捕集されているPMのうち剥離しやすい状態にあるPM、すなわちPM中のSOFの気化が進みバインダーとしての機能が低下しているPMが剥離されることになる。換言すれば、排気昇温部による排気昇温は、意図的なPM剥離現象を生じさせるものである。そして、その後、燃焼調整部によって該フィルタに流れ込む排気に含まれる粒子状物質濃度が所定の高濃度状態に制御されることで、フィルタにPMを効率的に捕集させることになる。この結果、フィルタが故障していなければ、フィルタにおけるPMの捕集状態については、剥離状態、もしくは剥離するおそれのある状態が解消されるとともに、より安定的なPMの捕集状態が形成されることになる。したがって、フィルタにおいて安定したPMの捕集状態の下で、判定部によるフィルタの故障判定が可能となり、以て、より正確な故障判定が期待できる。
【0018】
ここで、上記排気昇温部によって昇温される排気に関する所定温度は、前記フィルタに
捕集されている粒子状物質におけるSOFを気化させ得る温度であってもよく、例えば、300度程度である。このように所定温度を設定することで、フィルタに捕集されているPMのうち剥離しやすい状態にあるPMを、より確実に剥離させることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フィルタにおける捕集されたPMの剥離現象を考慮し、より正確なフィルタの故障判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るフィルタ故障判定システムが搭載される内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。
【図2】フィルタにおけるPMの捕集状態、特に、既に捕集されていたPMの一部が剥離した場合のPMの挙動について説明する図である。
【図3】本発明に係るフィルタ故障判定システムにおいて実行される、フィルタの故障判定のための制御に関する第一のフローチャートである。
【図4】フィルタにおける捕集PM量と、フィルタからの排気に含まれるPM量の相関を示す図である。
【図5】図3に示すフィルタ故障判定制御が実行される際の、フィルタにおけるPMの捕集状態を示す図である。
【図6】本発明に係るフィルタ故障判定システムにおいて実行される、フィルタの故障判定のための制御に関する第二のフローチャートである。
【図7】図6に示すフィルタ故障判定制御が実行される際の、フィルタにおけるPMの捕集状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明に係るフィルタ故障判定システムが搭載される内燃機関1の排気系の概略構成を示す。内燃機関1は車両駆動用のディーゼルエンジンである。内燃機関1には排気通路2が接続されている。なお、図1においては、内燃機関1の吸気系の記載は省略している。排気通路2には、排気中のPMを捕集するパティキュレートフィルタ4(以下、単に「フィルタ」という。)が設けられている。また、排気通路2におけるフィルタ4より上流側には、いわゆる吸蔵還元型NOx触媒3(以下、NOx触媒3という。)が備えられている。NOx触媒3は、流入する排気の酸素濃度が高いときは排気中のNOxを吸蔵し、流入する排気の酸素濃度が低下し且つ還元剤が存在するときは吸蔵していたNOxをNに還元する機能を有する。
【0023】
NOx触媒3の上流側に、該NOx触媒3に流れ込む排気に燃料(未燃燃料)を供給する燃料供給弁5が設けられている。また、NOx触媒3から流れ出る排気の温度を測定する温度センサ6が、該NOx触媒3の下流に設けられている。また、フィルタ4の周辺においては、フィルタ4の下流側の排気通路2を流れる排気に含まれるPM量を検出するPMセンサ7が設けられ、更に、フィルタ4を挟んだ上流側および下流側の排気通路における排気圧力差を検出する差圧センサ8も設けられている。
【0024】
そして、内燃機関1には電子制御ユニット(ECU)10が併設されており、該ECU10は内燃機関1の運転状態等を制御するユニットである。このECU10には、上述した燃料供給弁5や温度センサ6、PMセンサ7、差圧センサ8の他、エアフローメータ(
図示略)、クランクポジションセンサ11及びアクセル開度センサ12が電気的に接続されている。したがって、燃料供給弁5は、ECU10からの指示に従い、排気への燃料供給を行う。また、クランクポジションセンサ11は内燃機関1のクランク角を検出し、アクセル開度センサ12は内燃機関1を搭載した車両のアクセル開度を検出し、ECU10へと送る。その結果、ECU10は、クランクポジションセンサ11の検出値に基づいて内燃機関1の機関回転速度を導出し、アクセル開度センサ12の検出値に基づいて内燃機関1の機関負荷を導出する。また、ECU10は、温度センサ6の検出値に基づいてNOx触媒3の温度を推定し、またフィルタ4に流れ込む排気温度も推定する。
【0025】
更に、ECU10は、PMセンサ7の検出値を用いて、フィルタ4によるPM捕集率を推定する。当該PM捕集率は、フィルタ4に流れ込む排気中のPMがフィルタ4によってどの程度捕集されたかを示すパラメータであり、以下の式に従って定義される。
PM捕集率 = 1−(PMセンサ7によるPM検出量/内燃機関1の運転状態(機関負荷、機関回転速度等)から推定される排出PM量)
なお、フィルタ4の上流側に追加のPMセンサを設置し、当該上流側でのPM検出量をフィルタ4に流れ込む排気中のPM量として扱うことで、PM捕集率を算出してもよい。
また、フィルタ4において捕集されたPMの総量(捕集PM量)は、差圧センサ8の検出値に基づいて算出される。当該捕集PM量の算出は、従来技術による。
【0026】
上記の通り構成される内燃機関1の排気系では、概略的には、排気に含まれるNOxがNOx触媒3によって還元浄化され、排気に含まれるPM(粒子状物質)はフィルタ4によって捕集され、外部への放出が抑制される。そして、フィルタ4によって捕集されたPMは、フィルタ4での限界捕集量まで堆積すると排気通路2における背圧が上昇するため、排気温度の上昇等の手法により酸化除去され、フィルタ4の捕集機能の再生が図られる。当該捕集機能再生のための制御を、本明細書では、単に「再生制御」ともいう。
【0027】
このように再生制御により、フィルタ4におけるPMの捕集状態は、再生制御直後の捕集PM量が極少の状態から、再生制御直前の捕集PM量が限界捕集量に到達した状態までの推移を一サイクルとして、適宜PMの捕集状態の変遷が繰り返されることになる。このようなPMの捕集状態の繰り返しの中で、図2に示すような捕集されていたPMの一部が、その捕集面から剥離してしまう現象(以下、「剥離現象」という)が生じる場合がある。以下、この剥離現象について説明する。なお、PMは、概略的には、未燃燃料等を含む液体性状を有するSOFと、煤等の固体性状を有するスートを含んでおり、このSOFがその粘性等によりいわばバインダーとして機能し、固体性状を有するスートをくっつけて、まとまったPMとして存在している。
【0028】
一般に、フィルタ4で再生制御が行われてからある程度の時間は、図2の状態に示すように排気中のPMがフィルタ4の捕集面に順次捕集され、そこにPMが堆積していく。しかし、時間経過とともに捕集されたPMが排気から受ける熱等によって、PMに含まれるSOFの一部が気化していくと、スートを結合させていたSOFが消失することにより、堆積していたPMにおけるPM同士のつながりが弱くなる。そして、たとえば排気が大きく脈動したときに排気から受ける力等によって、捕集されていたPMの一部が、その捕集面から剥離してしまう場合がある(図2の中段を参照)。このように捕集PMの剥離現象が生じると、その剥離箇所ではフィルタ4の捕集面が露出した状態になるため、排気中のPMを効率的に捕集できず、PMが下流側にすり抜けてしまう可能性が高くなる(図2の下段を参照)。
【0029】
ここで、フィルタ4においては、使用時における異常発熱等によってフィルタ内部が溶損、破損し、フィルタとしてのPM捕集機能を果たせなくなる状態、すなわち故障状態に陥る場合があり、そのような場合には、フィルタ4の修理、交換を行う必要があることか
ら、適切なフィルタ4の故障判定が望まれる。本実施例においては、PMセンサ7によって検出されるPM量を利用してフィルタ4の故障判定が行われるが、PMセンサ7については、その個体間のばらつきが大きいため、排気中のPM量が比較的多い状態ではそのばらつきの影響を受けやすくなることから、排気中のPM量が比較的少量となる条件下でフィルタ4の故障判定を行うのが好ましい。一般には、再生制御が行われた直後のフィルタ4では、その捕集率は低い状態にあり、捕集PM量が増加するに従ってその捕集率も向上していく傾向がある。フィルタ4の捕集率が向上すれば、フィルタ4の下流側では、排気中に含まれるPM量が比較的少ない状態に形成されるため、PMセンサ7によるフィルタ4の故障判定には適した状態と言える。
【0030】
しかしながら、図2に示したように、フィルタ4にある程度のPMが捕集されると、その捕集PMの一部が剥離してしまう現象が生じる場合があり、その場合、PMセンサ7は、比較的多くのPMを含む排気に晒されることになり、正確なフィルタ4の故障判定が困難となる。そこで、このような捕集PMの剥離現象が生じているフィルタ4の故障判定を、より正確に行うための判定制御について図3−図5に基づいて説明する。図3は、本実施例に係るフィルタ故障判定制御のフローを示す。当該触媒劣化判定制御は、ECU10によって適宜繰り返し実行されるものである。また、図4は、フィルタ4における捕集PM量と、フィルタ4からの排気に含まれるPM量の相関を示す図である。なお、図の横軸は、左側から右側に進むに従って捕集PM量は増加する。したがって、横軸の最も左側は、再生制御が行われた直後の捕集PM量を示し、横軸のSmaxは、次の再生制御が行われる直前の捕集PM量、すなわち限界捕集量を示す。そして、横軸のS0は、上記剥離現象が生じた時点での捕集PM量を示している。そのため、S0からSmaxで表わされる領域では、剥離現象によってPMの下流側へのすり抜けが生じているため、フィルタ4から流出するPM量が、顕著に多くなっている。
【0031】
以上を踏まえて、図3に示すフィルタ故障判定制御について説明する。まず、S101では、フィルタ4において捕集されているPMの総量、すなわち差圧センサ8の検出値に基づいて算出される捕集PM量が、所定量S0を超えているか否かが判定される。すなわち、S101は、フィルタ4において捕集PMの剥離現象が生じている可能性があるか否かについて、捕集PM量の観点から判断を行うステップである。なお、所定量S0は、図4に示す捕集PM量と流出PM量との相関に基づいて設定することができる。たとえば、上記相関を踏まえ、再生制御が実行されていから所定時間が経過したフィルタ4において流出PM量の増加が顕著となる捕集PM量を、所定量S0として設定できる。S101で肯定判定されるとS102へ進み、否定判定されると本制御を終了する。
【0032】
次にS102では、フィルタ4によるPM捕集率が所定捕集率S1より低いか否かが判定される。フィルタ4において捕集PM量が所定量S0を超えている場合、常に剥離現象が生じているとは限らないことから、S101で肯定判定された場合には、更にS102において上記判定を行うことで、剥離現象の発生をより正確に推定する。なお、所定捕集率S1は、正確なフィルタ4の故障判定が阻害される程度のPMのすり抜けが生じている場合の捕集率として定義される。たとえば、99%程度の値を、所定捕集率S1としてもよい。S102で肯定判定されるとS103へ進み、否定判定されるとS103を飛ばしてS104へ進む。
【0033】
ここで、S103では、燃料供給弁5を介して排気中に未燃燃料の供給が行われる。この未燃燃料は液体性状を有することから、フィルタ4へ到達すると、PMにおけるSOFとして機能することになる。これにより、剥離現象の要因と考えられる気化によるSOF分の減少を補うことができ、以てスート同士の分離を抑制することができる。その結果、フィルタ4における剥離現象の進行を抑制し、その剥離状態を修復することが可能となる。したがって、剥離状態を修復するという観点に立てば、フィルタ4によるPM捕集率が
所定捕集率S1に戻るまで、未燃燃料の供給を継続するのが好ましい。S103の処理が終了すると、S104へ進む。
【0034】
S103で未燃燃料の供給が行われることで、フィルタ4における剥離状態が修復される。そのため、図5に示すように、フィルタ4によるPM捕集率が回復し、フィルタ4からの流出PM量が比較的少ない状態を形成することができる。そこで、S104では、PMセンサ7を用いたフィルタ4の故障判定を行うために、PMセンサ7によるPM検出量が、基準PM量S2以上であるか否かが判定される。この基準PM量S2は、フィルタ4の故障判定を判断するための閾値であり、フィルタ4の構造や大きさ等を考慮して適宜設定される。そして、S104で肯定判定されるとS105へ進み、S105でフィルタ4は故障状態にあると判定される。一方で、S104で否定判定されるとS106へ進み、S106でフィルタ4は正常状態にあると判定される。
【0035】
このように本制御によれば、仮にフィルタ4において捕集PMの剥離現象が生じている場合でも、SOFとしての未燃燃料の供給が行われることでフィルタ4におけるPMのすり抜けが抑止され、その後に、PMセンサ7を用いたフィルタ4の故障判定が行われる。そのため、剥離現象によるPMのすり抜けに影響されない条件下でPMセンサ7を利用することができ、以てより正確なフィルタ4の故障判定が実現される。
【0036】
なお、上記制御では、フィルタ4にSOFとしての未燃燃料を到達させる手法として、燃料供給弁5からの燃料供給を例示したが、それに代えて、内燃機関1における燃料噴射について、主噴射後の膨張行程に追加的な燃料噴射を行うポスト噴射や、燃料噴射時期を遅角化させて排気中に比較的多量の未燃成分を残存させる燃焼制御等を行うことで、フィルタ4に未燃燃料を到達させてもよい。また、内燃機関1は、火花点火式の内燃機関であってもよい。
【実施例2】
【0037】
本発明に係るフィルタ故障判定システムにおいて実行されるフィルタ故障判定制御の第二の実施例について、図6、図7に基づいて説明する。なお、図6に示すフィルタ故障判定制御に含まれる処理のうち図3に示すフィルタ故障判定制御に含まれる処理と同等のものについては、同じ参照番号を付すことで、その詳細な説明は割愛する。また、図7は、図6に示す制御が行われているときの、フィルタ4におけるPMの捕集状態の推移を示す図である。
【0038】
そこで、図6に示すフィルタ故障判定制御では、S102において肯定判定されると、すなわち、フィルタ4において捕集PMの剥離現象が生じていると判定されると、S201へ進む。S201では、内燃機関1の排気温度を昇温させる排気昇温制御が行われる。当該排気昇温制御は、従来の様々な手法が利用できるが、例えば、内燃機関1における燃料噴射時期の遅角化によってもよい。この排気昇温制御は、フィルタ4に捕集されているPMにおいて、剥離しやすそうな状態にあるPM、すなわちSOFの気化が進んでいることでスートとの結合力が弱まっているPMを意図的に剥離するために、そのSOFを気化させる程度に排気温度を昇温させるものである。例えば、排気温度センサ6による検出温度が、約300度程度となるように、内燃機関1の排気温度が昇温されればよい。S201の処理が行われている際のフィルタ4でのPMの捕集状態が、図7の上から二段目に表わされている。S201の処理が終了すると、S202へ進む。
【0039】
S202では、S201での排気昇温処理によって、フィルタ4によるPM捕集率が低下したか否かが判定される。すなわち、S202は、当該排気昇温処理の効果があったか否かの確認を行う。具体的には、排気昇温処理が行われる前のPM捕集率に対して、所定の割合分だけのPM捕集率の低下が認められる場合には、S202では肯定判定される。
S202の処理でPM捕集率の低下が認められる際のフィルタ4でのPMの捕集状態が、図7の上から三段目に表わされている。S202で肯定判定されるとS203へ進み、否定判定されると本制御を終了する。
【0040】
次にS203では、内燃機関1から排出される排気中のPMを増加させる排出PM増加制御が行われる。当該排出PM増加制御は、従来の様々な手法が利用できるが、例えば、内燃機関1における燃料噴射時期の遅角化や、内燃機関1に排気再循環装置(EGR装置)が設けられている場合には、そのEGR量を増量させる制御を行ってもよい。この排出PM増加制御が行われることで、意図的な剥離状態が形成されたフィルタ4に対して多量のPMが供給されることになるため、仮に、フィルタ4が故障していないのであれば、安定したPMの捕集状態を形成することができるはずである。このように形成された安定したPMの捕集状態が、図7の上から四段目に表わされている。S203の処理が終了すると、S204へ進む。
【0041】
S204では、S203の制御が行われたフィルタ4によるPM捕集率が、所定捕集率S3を超えているか否かが判定される。所定捕集率S3は、フィルタ4が故障していなければ当該フィルタ4が発揮し得るPM捕集率であり、S203で行われた排出PM増加制御によって排出されたPM量に応じて適宜設定されてもよく、その一例としては、上述した所定捕集率S1と同値であってもよい。S204で肯定判定されると、S203の制御で供給されたPMによって、フィルタ4には適切な、換言すれば剥離状態の少ない、安定したPMの捕集状態が形成されていることを意味する。したがって、この場合は、S101およびS102の判定結果は、フィルタ4においてPMのすり抜けが生じていることを示唆するものであったが、それは捕集PMの剥離現象による一過性の捕集率低下であり、フィルタ4の故障ではないと判定することができる(S205の処理)。
【0042】
一方で、S204で否定判定されると、S203の制御で供給されたPMによって、フィルタ4には適切なPMの捕集状態が形成されていないことを意味する。したがって、この場合は、S101およびS102の判定結果は、フィルタ4においてPMのすり抜けが生じていることを示唆するものであったが、それは上記のような一過性の捕集率低下ではなく、何らかの定常的な捕集率の低下が存在することを示すものであって、フィルタ4が故障していると判定することができる(S206の処理)。
【0043】
このように本制御によれば、フィルタ4において剥離しやすそうな状態にある捕集PMを意図的に除去し、その後、多量のPMを供給することで、フィルタ4が正常であれば、そこに安定したPMの捕集状態を形成することができる。そのため、捕集PMの剥離現象に影響されない、安定したフィルタの故障判定が実現される。
【符号の説明】
【0044】
1 内燃機関
2 排気通路
3 吸蔵還元型NOx触媒(NOx触媒)
4 フィルタ
5 噴射弁
6 排気温度センサ
7 PMセンサ
8 差圧センサ
10 ECU
11 アクセルペダル
12 アクセル開度センサ
13 クランクポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタから流出する排気中に含まれる粒子状物質の量、又は該粒子状物質の数を検出するPM検出部と、
前記フィルタに対して、該フィルタに流れ込む排気を介して未燃燃料を供給する未燃燃料供給部と、
前記フィルタによって所定量以上の粒子状物質が捕集され、且つ該フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が所定捕集率より低くなる所定のPM捕集状態において、前記未燃燃料供給部によって未燃燃料の供給制御を行う制御部と、
前記制御部によって未燃燃料の供給制御が行われた前記フィルタに関し、前記PM検出部によって検出された粒子状物質量又は粒子状物質数に基づいて、前記フィルタの故障判定を行う判定部と、
を備える、フィルタ故障判定システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が前記所定捕集率以上となるまで、未燃燃料の供給制御を継続する、
請求項1に記載のフィルタ故障判定システム。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に設けられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記フィルタから流出する排気中に含まれる粒子状物質の量、又は該粒子状物質の数を検出するPM検出部と、
前記フィルタに流れ込む排気温度を上昇させる排気昇温部と、
前記フィルタに流れ込む排気に含まれる粒子状物質の濃度を上昇させるように前記内燃機関における燃焼状態を調整する燃焼調整部と、
前記フィルタによって所定量以上の粒子状物質が捕集され、且つ該フィルタによる排気中の粒子状物質の捕集率が所定捕集率より低くなる所定のPM捕集状態において、前記排気昇温部によって排気温度を所定温度まで昇温させた後に、前記燃焼調整部によって該フィルタに流れ込む排気に含まれる粒子状物質濃度を所定の高濃度状態に制御する制御部と、
前記制御部によって粒子状物質濃度が制御された排気が流れ込んだ前記フィルタに関し、該フィルタによる粒子状物質の捕集率に基づいて、前記フィルタの故障判定を行う判定部と、
を備える、フィルタ故障判定システム。
【請求項4】
前記所定温度は、前記フィルタに捕集されている粒子状物質におけるSOFを気化させ得る温度である、
請求項3に記載のフィルタ故障判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104349(P2013−104349A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248596(P2011−248596)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】