説明

フィルタ装置

交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置である。このフィルタ装置は、電力変換器の入力側、出力側あるいは直流側のいずれかの端子と交流回路の入力端子との間に接続されるコモンモードチョークと、交流回路の中性点からの引出し線を、このコモンモードチョークに対してさらに上位側にある電位変動の少ない基準電位点に接続する接続手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置に関する。
【背景技術】
IGBTなどのパワー半導体デバイスの高速化に伴い、これらパワー半導体デバイスを含む交流電動機可変速ドライブシステムのトルク制御および速度制御はより高性能化され、さらにシステム全体の省エネルギー化に大きく貢献している。
その一方で、パワー半導体デバイスを使用した高速スイッチングを起因とする電磁障害(EMI)は、高度に情報化・電子化された現代社会において大きな問題になりつつある。例えば、インバータ駆動の交流電動機における、コモンモード電圧による電動機の軸およびフレーム間に発生する軸電圧や電動機の浮遊容量を通じて流れる高周波の漏れ電流は、軸受に電食を発生させて電動機の回転不良をもたらしかねず、また将来実用化されるであろう電力線インターネットに対して、大きなノイズ源ともなりうる。
既に例えば、パワーエレクトロニクス機器のEMI対策として、「PWMインバータを用いた交流電動機駆動システムが発生するEMI測定とその低減方法」、小笠原、外2名著、電気学会論文誌D、平成8年、116巻、12号、p.1211−1219に記載されているような、リアクトルやコンデンサを用いて電流および電圧の急峻な変化を抑制するためのEMIフィルタが提案されている。
同じくパワーエレクトロニクス機器のEMI対策として、「Active EMI Filter for Switching Noise of High Frequency Inverters(高周波インバータのスイッチングノイズのためのアクティブEMIフィルタ)」、I.Takahashi(高橋)、外3名著、パワーコンバージョンカンファレンス長岡の議事録(Prpceeding of Power Conversion Conference(PCC)−Nagaoka)、平成9年、p.331−334では、トランジスタなどの能動素子を用いてインバータのコモンモード電圧を相殺するEMIフィルタが提案されている。
また、同じくパワーエレクトロニクス機器のEMI対策として、「コモンモード電圧を発生しない三相正弦波電圧出力PEMインバータシステム−パッシブEMIフィルタの設計と特性−」、長谷川、外2名著、電気学会論文誌D、平成14年、122巻、8号、p.845−852では、相電圧を正弦波化するEMIパッシブフィルタが提案されている。これは、ノーマルモードチョーク(いわゆる交流リアクトル)、コモンモードチョーク(いわゆる零相リアクトル)、抵抗、コンデンサなどの受動素子のみからEMIフィルタを構成し、インバータの出力相電圧および線間電圧を正弦波化することができるので、軸電圧をほぼ完全に除去することができる。
また、同じくパワーエレクトロニクス機器のEMI対策として、「Motor Shaft Voltage and Bearing Currents and Their Reduction in Multilevel Medium−Voltage PWM Voltage−Source−Inverter Drive Applications(マルチレベル中間電圧PWM電圧源インバータドライブアプリケーションにおける電動機の軸電圧およびベアリング電流ならびにそれらの低減)」、Fei Wang著、Industry ApplicationsのIEEEトランザクション、平成12年9月および10月、No.5、Vol.36では、電動機の中性点を接地し、直流側の中性点を接地するコモンモード回路が記載されている。
また、特開2001−352792号公報では、交流電動機から発生するノイズを低減し、かつ回転不良を防止することを目的として、中性点における矩形波状の比較的大きな振幅を有する電圧を平滑化する技術が提案されている。
上述した従来の技術は、電磁障害に対して一定の抑制効果はあるものの、未だ不十分である。
またこのうち、上述のトランジスタなどの能動素子を用いたEMIフィルタは、コンプリメンタリートランジスタを必要とし、しかも入手可能なトランジスタの耐圧制限から200ボルト系インバータまでにしか適用することができない。また、構造が複雑であり、したがって製造コストも高いという問題がある。
一方、上述のノーマルモードチョークおよびコモンモードチョークなどを備えるEMIパッシブフィルタは、インバータの出力相電圧および線間電圧を正弦波化することができるので軸電圧を抑制することができるが、そのためにはノーマルモードチョークを必要とするので、装置が大型化し、製造コストも高いという問題がある。
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置において、電磁障害の抑制効果の高い、小型で低価格のフィルタ装置を提供することにある。
【発明の開示】
例えば交流回路として交流電動機を例に挙げる。交流電動機の入力端子にかかるコモンモード電圧をゼロにすれば、交流電動機の軸電圧がゼロになり、漏れ電流(接地線電流)もゼロになる。本発明は、この入力端子にかかるコモンモード電圧をできるだけゼロに近づけることで、軸電圧および漏れ電流をゼロに近づけ、電磁障害を抑制する、という思想に基づく。以下に説明する本発明の構成により、交流電動機(交流回路)の入力端子にかかるコモンモード電圧をゼロに近づけることが可能である。
本発明によるフィルタ装置では、交流回路に接続された電力変換器の入力側、出力側あるいは直流側のいずれかの位置にコモンモードチョークを設置すると共に、交流回路の中性点からの引出し線を、コモンモードチョークに対してさらに上位側に存在する電圧変動の少ない基準電位点へ接続することで閉ループを構成する。
交流回路の例としては、誘導電動機、同期電動機、Y型結線を有する変圧器を備える電気機器、例えばUPS(無停電電源装置)システム、あるいは、Y型結線を有する変圧器を備える電源に接続される太陽電池システム、燃料電池システムもしくは各種バッテリシステムなどがある。
上記目的を実現するために、本発明の第1の態様においては、交流出力の電力変換器の交流出力端子と交流回路の入力端子との間にコモンモードチョークを設けると共に、交流回路の中性点からの引出し線を、好ましくは直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる受動素子を介して、この電力変換器に対して電源系統側、すなわち電力変換器に対して上位側に存在する電位変動の少ない基準電位点に接続する。
また、上記目的を実現するために、本発明の第1の態様の変形として、交流入力かつ交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置では、交流入力かつ交流出力の電力変換器の交流入力端子側にコモンモードチョークを接続すると共に、交流回路の中性点からの引出し線を、好ましくは直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる受動素子を介して、コモンモードチョークに対して電源系統側、すなわちコモンモードチョークに対して上位側に存在する電位変動の少ない基準電位点に接続する。
また、上記目的を実現するために、本発明の第2の態様によれば、直流入力かつ交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置において、交流回路の入力端子に接続された直流入力かつ交流出力の電力変換器の直流入力端子側にコモンモードチョークを設けると共に、交流回路の中性点からの引出し線を、好ましくは直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる受動素子を介して、コモンモードチョークに対して直流電源側、すなわちコモンモードチョークに対して上位側に存在する電位変動の少ない基準電位点に接続する。
また、上記目的を実現するために、本発明の第2の態様の変形として、交流入力かつ直流出力の電力変換器と直流入力かつ交流出力の電力変換器とからなる電力変換システムに接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置では、交流入力かつ直流出力の電力変換器の直流出力端子と、直流入力かつ交流出力の電力変換器の直流入力端子との間にコモンモードチョークを接続すると共に、交流回路の中性点からの引出し線を、好ましくは直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる受動素子を介して、交流入力かつ直流出力の電力変換器の交流入力端子側もしくは直流出力端子側の、電位変動の少ない基準電位点に接続する。
本発明によれば、フィルタ装置は、コモンモードチョークを設けると共に、交流回路の中性点から電力変換器の電源系統側にある基準電位点への閉ループを構成するだけで電磁障害(EMI)を効果的に抑制することができる。特に、本発明によるフィルタ装置は、従来例のようにノーマルモードチョークやトランジスタなどの構成要素を必要としないので構造が容易であり、フィルタ装置の小型化、低価格化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1の態様によるフィルタ装置のシステム構成図である。
図2は、本発明の第1の態様の変形によるフィルタ装置のシステム構成図である。
図3は、本発明の第1の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
図4は、本発明の第1の実施例の変形例によるフィルタ装置の回路図である。
図5は、本発明の第1の実施例によるフィルタ装置の等価回路図であり、(a)は図3のコモンモードに対するキャリア周波数領域での等価回路を示し、(b)は、(a)で示された等価回路をさらに簡略化した簡易等価回路を示す図である。
図6は、本発明の第2の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
図7は本発明の第2の実施例によるフィルタ装置の等価回路図であって、図6のコモンモードに対するキャリア周波数領域での等価回路を示す図である。
図8は、本発明の第3の実施例によるフィルタ装置の回路図(その1)であって、電力変換器の入力側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在しない場合を例示する図である。
図9は、本発明の第3の実施例によるフィルタ装置の回路図(その2)であって、電力変換器の入力側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在する場合を例示する図である。
図10は、電圧形PWMコンバータ・インバータの回路図である。
図11は、電流形PWMコンバータ・インバータの回路図である。
図12(a)〜(e)は、マトリクスコンバータの回路図である。
図13は、本発明の第4の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
図14は、本発明の第4の実施例によるフィルタ装置おける高圧変換器内に備えられるコンバータインバータユニットの回路図である。
図15は、本発明の第5の実施例によるフィルタ装置の回路図(その1)であって、電力変換器の電源系統側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在しない場合を例示する図である。
図16は、本発明の第5の実施例によるフィルタ装置の回路図(その2)であって、電力変換器の電源系統側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在する場合を例示する図である。
図17は、本発明の第2の態様によるフィルタ装置のシステム構成図である。
図18は、本発明の第2の態様の変形によるフィルタ装置のシステム構成図である。
図19は、本発明の第6の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
図20は、本発明の第6の実施例の変形例によるフィルタ装置の回路図である。
図21は、本発明の第7の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
図22は、本発明の第7の実施例の変形例によるフィルタ装置の回路図である。
【発明を実施するための最良の形態】
まず、本発明の第1の態様によるフィルタ装置について説明する。
図1は、本発明の第1の態様によるフィルタ装置のシステム構成図である。
交流出力の電力変換器2に接続される交流回路3に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置1は、電力変換器2の交流出力端子Apと交流回路3の入力端子Bpとの間に接続されるコモンモードチョーク11と、交流回路3の中性点Npからの引出し線を、電力変換器2に対して電源系統側にある電位変動の少ない基準電位点rpに接続する接続手段12と、を備える。
接続手段12は、直列接続されたキャパシタおよび抵抗(図示せず)からなるのが好ましい。この場合、キャパシタおよび抵抗の直列回路は、基本周波数成分に対しては高インピーダンス特性を示し、コモンモード電圧の周波数成分に対しては低インピーダンス特性を示す。
上述のように、基準電位点rpは、電力変換器2の電源系統側、すなわち電力変換器2に対して上位側にあって、電位変動の少ない点であればどこでもよい。
例えば、電力変換器が交流入力で交流出力の変換器である場合は、この電力変換器の電源系統側における中性点を基準電位点とすればよい。
また、電力変換器が直流入力で交流出力の変換器すなわちインバータである場合は、このインバータの直流入力側のプラス電位点もしくはマイナス電位点、あるいは可能であれば中世点電位、のいずれかを基準電位点とすればよい。例えば電力変換器が中性点クランプ型インバータである場合は、この中性点クランプ型インバータの直流入力側のプラス電位点、マイナス電位点もしくは中性点のいずれかを基準電位点とすればよい。
本発明の第1の態様によれば、交流回路3の中性点Npから電力変換器2の電源系統側にある基準電位点Rpへの閉ループを構成することによって、コモンモードチョーク11が有効に作用する。すなわち、電力変換器2が発生するコモンモード電圧のほとんどは、コモンモードチョーク11の両端にかかり、交流回路3の入力端子にはコモンモード電圧は生じない。したがって、コモンモード電圧に起因する軸電圧、ベアリング電流、漏れ電流が効果的に抑制される。本発明によるフィルタ装置は、従来例と比べて電磁障害の抑制効果が高い。
図2は、本発明の第1の態様の変形によるフィルタ装置のシステム構成図である。
交流入力かつ交流出力の電力変換器2に接続される交流回路3に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置1は、電力変換器2の交流入力端子Ap側に接続されるコモンモードチョーク11と、交流回路3の中性点Npからの引出し線を、コモンモードチョーク11に対して電源系統側にある電位変動Rpの少ない基準電位点に接続する接続手段12と、を備える。
接続手段12は、直列接続されたキャパシタおよび抵抗(図示せず)からなるのが好ましい。この場合、キャパシタおよび抵抗の直列回路は、基本周波数成分に対しては高インピーダンス特性を示し、コモンモード電圧の周波数成分に対しては低インピーダンス特性を示す。
基準電位点rpは、コモンモードチョーク11の電源系統側、すなわちコモンモードチョーク11に対して上位側にあって、電位変動の少ない点であればどこでもよい。
本発明の第1の態様の変形によれば、交流回路3の中性点Npから、電力変換器2の交流入力端子側Apに接続されたコモンモードチョーク11の電源系統側にある基準電位点rpへの閉ループを構成することによって、コモンモードチョーク11が有効に作用し、上述の図1の場合と同様の効果を奏する。
図3は、本発明の第1の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
本実施例は上述の本発明の第1の態様における実施例に相当し、交流回路を三相の誘導電動機31、交流出力の電力変換器をインバータ32とし、誘導電動機31をインバータ32でインバータ駆動するものとする。図中、誘導電動機31のフレームの接地線lgも示されている。
インバータ32の直流入力側のマイナス端子を接地するため、並列接続されたキャパシタCおよび抵抗Rが設けられる。これらは、高周波成分に対してはキャパシタCによるコンデンサ接地、低周波成分に対しては抵抗Rによる抵抗接地として動作する。
インバータ32の電源系統側には電力貯蔵のための直流コンデンサCdcが設けられる。
インバータ32は、直流コンデンサCdcを介し、系統電圧の三相交流を整流するダイオード整流器33に接続される。ダイオード整流器33は、その交流入力を三相交流とし、ΔY結線の変圧器35を介して三相交流系統電圧34に接続される。なお、ダイオード整流器33の交流入力を単相交流としてもよく、この例としてはインバータエアコン、インバータ冷蔵庫などのようなインバータ家電製品がある。
そして、本発明の第1の実施例では、まず、インバータ32の交流出力端子と誘導電動機31の入力端子との間には、コモンモードチョークLが接続されるということを1つの特徴としている。
コモンモードチョークは、三相の場合でいえば、同じ方向に巻かれた3本の導線を有している。したがって、三相平衡の負荷電流が流れれば、これら負荷電流により磁心に発生する磁束は互いに打ち消されるので、コモンモードチョークは低インピーダンスとなる。しかし、三相平衡以外の負荷電流すなわちコモンモード電流が流れると、上述のような磁束を打ち消し合う作用はないので、コモンモードチョークは高インピーダンスとなる。これらは、コモンモード電流が、コモンモードチョークで抑制されるということを意味する。
さらに、本発明の第1の実施例では、誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、直列接続されたキャパシタCnおよび抵抗Rnからなる接続手段を介して、基準電位点rpに接続されるということをもう1つの特徴としている。
既に説明したように基準電位点rpは電力変換器であるインバータ32の電源系統側に存在する電位変動の少ない点であれば良い。本実施例では、基準電位点rpをインバータ入力のマイナス電位点(すなわち直流コンデンサCdcのマイナス電位点)としたが、インバータ入力のプラス電位点(すなわち直流コンデンサCdcのプラス電位点)であってもよい。
なお、理想的には誘導電動機31の中性点Npから流れ出る基本波電流はゼロであるので、誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、基準電位点rpに直接接続できる。しかし、実際には基本波電流が流出してしまうので、本実施例ではこの基本波電流をカットするためにキャパシタCnを設ける。また、このようなキャパシタCnを設けると、他のパラメータの条件によっては共振を生じてしまう可能性もあるので、この共振を抑制するための減衰抵抗として抵抗Rnをさらに設ける。
図4は、本発明の第1の実施例の変形例によるフィルタ装置の回路図である。
本変形例は、上述の図3に示された第1の実施例において、交流出力の電力変換器を中性点クランプ型のインバータ32’とした例である。
本変形例では、基準電位点rpを、直流コンデンサCdc1およびCdc2のクランプ点にとる。もちろん、インバータ入力のマイナス電位点もしくはプラス電位点であってもよい。
また例えば、大容量インバータにおいて、コンデンサの耐圧の関係から複数の直流コンデンサが直列接続されるような場合は、インバータの直流入力側のプラス電位点、マイナス電位点、または直列接続された直流コンデンサ間で電位が安定する点のいずれかを基準電位点とすればよい。
図3に戻り、本実施例では、三相誘導電動機31の定格出力を200V、3.7kWとする。また、インバータの容量を5kVA、キャリア周波数を15kHzとする。三相交流系統電圧34は三相200V、50Hzとする。また、コモンモードチョークL=28mH、キャパシタCn=0.47μF、抵抗Rn=30Ω、キャパシタC=0.1μF、そして抵抗R=510Ωとする。
なお、上記パラメータの各数値は本発明を限定するものではなく、装置の特性、用途、目的その他を考慮して、その他の数値を設定してもよい。
図5は本発明の第1の実施例によるフィルタ装置の等価回路図であって、(a)は図3のコモンモードに対するキャリア周波数領域での等価回路を示し、また(b)は、(a)で示された等価回路をさらに簡略化した簡易等価回路を示す図である。
一般に、誘導電動機の浮遊容量を介して仮想接地線lgに流れる電流iは、誘導電動機のコモンモードインピーダンス(零相インピーダンス)には関係せず、したがって浮遊容量は誘導電動機の端子間フレームに存在することが知られている。
上記各パラメータを有する図3のフィルタ装置に関し、誘導電動機のコモンモードインピーダンスは、例えば実験により決定する。本実施例における実験では、誘導電動機の中性点Npを基準電位として、誘導電動機のコモンモード電圧ならびに中性点電流inの振幅および位相差を実測し、キャリア周波数領域でのインピーダンス特性から、LCM=1mH、RCM=100Ωに設定した。
また、キャリア周波数領域では、キャパシタCのインピーダンスは十分低いので無視でき、短絡としてみなせる。
また、誘導電動機の浮遊容量Cは、誘導電動機の入力端子への電力線を3本重ね、接地線との間に電圧を印加し、電圧および電流の振幅ならびに位相差を測定し、C=3nFに設定した。
以上より、図3のコモンモードに対する等価回路は、図5(a)のように表すことができる。なお、図4の場合についても同様に図5(a)のように表すことができる。
そして、図5(a)において、誘導電動機の浮遊容量Cのインピーダンス1/ωC=3500Ωであり、また、LCM、RCM、CおよびRの合成インピーダンスは150Ωである。このことから、図5(a)の等価回路は、図5(b)に示すようなLCR直列回路としてさらに簡略化することができる。
図5(b)において、インバータの交流出力端子でのコモンモード電圧vに対する誘導電動機の入力端子でのコモンモード電圧vの振幅比は、vCM/vは、次式のように表すことができる。

したがって、誘導電動機の入力端子におけるコモンモード電圧vCMは、本実施例によるフィルタ装置によって、インバータの交流出力端子でのコモンモード電圧vの5%にまで低減することができる。つまり上式から、図3に示すように誘導電動機31の中性点Npからインバータ32の電源系統側にある基準電位点Rpへの閉ループを構成することで、インバータ32の交流出力端子と誘導電動機31の入力端子との間に設けられたコモンモードチョーク11が有効に作用していることがわかる。すなわち、インバータ32が発生するコモンモード電圧のほとんどは、コモンモードチョークLの両端にかかり、誘導電動機31の入力端子には生じない。したがって、図3における誘導電動機31の軸電圧vshaftおよび漏れ電流iを抑制することができる。
以上説明したように、本発明の第1の実施例によれば、誘導電動機の入力端子にかかるコモンモード電圧をゼロに近づけることができるので、電磁障害を抑制することができる。本実施例の構成は、コモンモードチョークを設けると共に、交流回路の中性点から電力変換器の電源系統側にある基準電位点への閉ループを構成するだけでよく、従来例のようにノーマルモードチョークやトランジスタなどの構成要素を必要としないので、構造が容易であり、小型化、低価格化が可能となる。
次に、本発明の第2の実施例によるフィルタ装置について説明する。
図6は、本発明の第2の実施例によるフィルタ装置の回路図である。また、図7は本発明の第2の実施例によるフィルタ装置の等価回路図であって、図6のコモンモードに対するキャリア周波数領域での等価回路を示す図である。
本実施例は上述の本発明の第1の態様における実施例に相当し、上述の図3に示された第1の実施例において、さらに、メガヘルツ領域での共振を低減する目的で、ノーマルモードチョーク(すなわち交流リアクトル)Lと抵抗Rとの並列回路で構成したノーマルモードフィルタを、インバータ32とコモンモードリアクトルとの間に直列に接続した例である。その他の回路構成については上述の第1の実施例と同様である。
第1の実施例で示した等価回路の考え方と同様に、図6に示すフィルタ回路は、キャリア周波数領域では、図7に示すような等価回路で表すことができる。ここで、キャリア周波数領域では、ノーマルモードチョークLと抵抗Rとで構成されるノーマルモードフィルタは、リアクトルLとして作用するが、このリアクトルLは、コモンモードチョークLよりも十分に小さいのでノーマルモードフィルタは無視できる。このことから、図7の等価回路は、第1の実施例と同様に、図5(b)に示すようなLCR直列回路としてさらに簡略化することができる。したがって、インバータの交流出力端子でのコモンモード電圧vに対する誘導電動機の入力端子でのコモンモード電圧vCMの振幅比は、vCM/vは、既に説明した第1の実施例の場合と同様となる。つまり、本実施例においても、誘導電動機31の軸電圧vshaftおよび漏れ電流iを抑制することができる。
以上説明したように、本発明の第2の実施例によれば、電磁障害を抑制することができる。
続いて、本発明の第3の実施例として、図1で説明した電力変換器が交流入力で交流出力の変換器である場合に適用するフィルタ装置を説明する。
図8は、本発明の第3の実施例によるフィルタ装置の回路図(その1)であって、電力変換器の入力側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在しない場合を例示する図である。また、図9は、本発明の第3の実施例によるフィルタ装置の回路図(その2)であって、電力変換器の入力側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在する場合を例示する図である。
本実施例は、上述の本発明の第1の態様の変形における実施例に相当し、フィルタ装置1では、図8および9の電力変換器2を交流入力交流出力の変換器とし、三相の誘導電動機31を電力変換器2でインバータ駆動するものとする。電力変換器2は、交流入力交流出力の従来からある変換器であってもよく、交流−直流−交流変換器(AC−DC−AC変換器)や交流を交流に直接変換するマトリクスコンバータなどでよい。ここでは、図8および9の電力変換器2に該当する変換器の例として、図10〜12に例示するが、これ以外の交流入力交流出力の変換器であってもよい。図10は電圧形PWMコンバータ・インバータの回路図であり、図11は電流形PWMコンバータ・インバータの回路図であり、図12(a)〜(e)はマトリクスコンバータの回路図である。なお、図12(a)のマトリクスコンバータにおいて、図12(b)に示すようなスイッチ41は、図12(c)〜(e)に示すような、ダイオードおよびトランジスタもしくサイリスタで構成されるごく一般的なスイッチ手段である。
図8および9に示す本発明の第3の実施例によるフィルタ装置1では、第1の実施例で既に説明したように、変換器2の交流出力端子と誘導電動機の入力端子との間にコモンモードチョーク11が接続される。
一方、誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、キャパシタCnおよび抵抗Rnを介して基準電位点rpに接続されるが、図8と図9とでは基準電位点のとり方が異なる。
図8は、電力変換器2の電源系統側すなわち交流入力側に、上述の基準電位点となり得る電圧変動の少ない点が存在しない場合に有効であり、変換器2の交流入力端子の各相にそれぞれ抵抗Cn/3を並列に接続して中性点を構成し、この中性点を基準電位点rpとする。
一方、図9は、電圧変動の少ない点が存在する場合を示している。例えば、変圧器のY結線の中性点において系統側が接地される場合がこれに相当する。この中性点は、電圧変動の少ない点の1つであるので、図9のような場合は、中性点を基準電位点rpと設定すればよい。なお、誘導電動機31からの接地線については、誘導電動機31を内部に含む筐体(図示せず)内で誘導電動機31の中性点Npからの引出し線と接続し、その上で基準電位点に接続してもよい。
このように、本発明の第3の実施例によれば、様々な種類の交流入力交流出力変換器で駆動される誘導電動機の電磁障害抑制にも適用することができる。この場合、交流入力側に中性点が存在すればここを基準電位点とし、電力変換器2の電源系統側すなわち交流入力側に、電圧変動の少ない点が存在しなければ、中性点を新たに構成してここを基準電位点とすれば、電磁障害抑制を目的とした用途に容易に適用可能である。
次に、本発明の第4の実施例として、近年注目されている手法による電動機制御に対し、その電磁障害抑制に本発明を適用した場合について説明する。
図13は、本発明の第4の実施例によるフィルタ装置の回路図である。また、図14は、本発明の第4の実施例によるフィルタ装置おける高圧変換器内に備えられるコンバータインバータユニットの回路図である。
本実施例では、多相変圧器(multi−winding transformer)を用いた電動機制御に対して、本発明を適用したものである。多相変圧器を備える高圧変換器による電動機制御の詳細は、P.W.Hammond著、「A new approach to enhance power quality for medium voltageAC drives」、平成9年、IEEE Transaction、Industry Applications、vol33、No.1、p202−208に記載されているので、本明細書では、多相変圧器を備える高圧変換器の回路構成については簡単な説明にとどめる。
まず、図13において、高圧変換器2内の多相変圧器50は、1つの1次巻線51と、2次巻線として複数の巻線セット52を備える。なお、1次巻線51の入力および2次側の各巻線セット52の出力は三相交流である。各巻線ユニット52の三相出力は、コンバータインバータユニット53(U、U、U、U、V、V、V、V、W、W、W、W)の入力にそれぞれ接続される。
図14は、コンバータインバータユニット53の回路構成を示す。コンバータインバータユニット53は、コンデンサCを備えるDCリンクを介してコンバータとインバータとが接続された構造を有しており、その入力は三相交流(u相、v相、w相)であり、出力は二相交流(a相、b相)である。
図13に示す高圧変換器2では、コンバータインバータユニット53の出力が、図示のように、誘導電動機31の三相に対応して各相ごとに縦続接続されている。
そして、高圧変換器2は、その一方の三相出力端子は結線されて中性点として構成され、もう一方の三相出力端子に例えば誘導電動機などの三相負荷回路が接続されて使用される。
このような回路構成を有する高圧変換器に対し、本発明を適用すると次のようである。
本実施例では、図13に示すように、まず、高圧変換器2の一方の出力端子と誘導電動機31の入力端子との間にコモンモードチョーク11が接続される。そして、高圧変換器2のもう一方の出力端子には既に中性点が構成されているので、本実施例ではこれを基準電位点rpとして利用する。この基準電位点rpには、キャパシタCnおよび抵抗Rnを介して誘導電動機31の中性点Npが接続される。以上のような回路を構成すれば、多相変圧器を備える変換器による電動機制御に対しても本発明を適用することができる。
続いて、本発明の第5の実施例として、図2で概略を説明したような、交流入力かつ交流出力の電力変換器に接続された交流回路の電磁障害を抑制するフィルタ装置を説明する。
図15は、本発明の第5の実施例によるフィルタ装置の回路図(その1)であって、電力変換器の電源系統側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在しない場合を例示する図である。また、図16は、本発明の第5の実施例によるフィルタ装置の回路図(その2)であって、電力変換器の電源系統側に、基準電位点となる電圧変動の少ない点が存在する場合を例示する図である。
本実施例によるフィルタ装置1では、図15および16の電力変換器2を交流入力かつ交流出力の変換器とし、三相の誘導電動機31を電力変換器2でインバータ駆動するものとする。電力変換器2は、交流入力かつ交流出力の従来からある変換器であってもよく、交流−直流−交流変換器(AC−DC−AC変換器)や交流を交流に直接変換するマトリクスコンバータなどでよい。例えば、図15および16の電力変換器2に該当する変換器としては、上述の図9〜11に例示したものがある。ただし、本実施例では、電力変換器2は、交流−直流変換器(AC−DC変換器、すなわち整流器)がダイオード整流器である場合を含まないことに注意されたい。
図15および16に示す本発明の第5の実施例によるフィルタ装置1では、電力変換器2の交流入力端子側にコモンモードチョーク11が接続される。
一方、誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、キャパシタCnおよび抵抗Rnを介して基準電位点rpに接続されるが、図15と図16とでは基準電位点のとり方が異なる。
図15は、コモンモードチョーク11の電源系統側に、基準電位点となり得る電圧変動の少ない点が存在しない場合に有効であり、コモンモードチョーク11の電源系統側にそれぞれ抵抗Cn/3を並列に接続して中性点を構成し、この中性点を基準電位点rpとする。
一方、図16は、電圧変動の少ない点が存在する場合を示している。例えば、変圧器のY結線の中性点において系統側が接地される場合がこれに相当する。この中性点は、電圧変動の少ない点の1つであるので、図16のような場合は、中性点を基準電位点rpと設定すればよい。なお、誘導電動機31からの接地線については、誘導電動機31を内部に含む筐体(図示せず)内で誘導電動機31の中性点Npからの引出し線と接続し、その上で基準電位点に接続してもよい。
このような本発明の第5の実施例によっても電磁障害を抑制することができる。
さらにまた、第5の実施例を、図13および図14を参照して第4の実施例として説明した、多相変圧器(multi−winding transformer)を備える高圧変換器による電動機制御に対して適用してもよい。
この場合は、第4の実施例の図12では高圧変換器2の一方の出力端子と誘導電動機31の入力端子との間に接続されていたコモンモードチョーク11を、基準電位点rpとこの基準電位点rpに最も近いコンバータインバータユニット53との間にそれぞれ接続すればよい。
続いて、本発明の第2の態様によるフィルタ装置について説明する。
図17は、本発明の第2の態様によるフィルタ装置のシステム構成図である。
直流入力かつ交流出力の電力変換器2(すなわちインバータ)に接続される交流回路3に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置1は、交流回路3の入力端子に接続された電力変換器2の直流入力端子Bpに接続されるコモンモードチョーク11と、交流回路3の中性点Npからの引出し線を、コモンモードチョーク11に対して直流電源側にある電位変動の少ない基準電位点rpに接続する接続手段12と、を備える。
接続手段12は、上述した第1の態様と同様に、直列接続されたキャパシタおよび抵抗(図示せず)からなるのが好ましい。
基準電位点rpは、コモンモードチョーク11の直流電源側、すなわちコモンモードチョーク11に対して上位側にあって、電位変動の少ない点であればどこでもよい。
例えば、電力変換器2の直流入力側のプラス電位点もしくはマイナス電位点、あるいは可能であれば中性点電位、のいずれかを基準電位点とすればよい。例えば電力変換器が中性点クランプ型インバータである場合は、この中性点クランプ型インバータの直流入力側のプラス電位点、マイナス電位点もしくは中性点のいずれかを基準電位点とすればよい。
本発明の第2の態様によれば、交流回路3の中性点Npから電力変換器2の電源系統側にある基準電位点rpへの閉ループを構成することによって、コモンモードチョーク11が有効に作用する。すなわち、電力変換器2が発生するコモンモード電圧のほとんどは、コモンモードチョーク11の両端にかかり、交流回路3の入力端子にはコモンモード電圧は生じない。したがって、コモンモード電圧に起因する軸電圧、ベアリング電流、漏れ電流が効果的に抑制される。本発明によるフィルタ装置は、従来例と比べて電磁障害の抑制効果が高い。
図18は、本発明の第2の態様の変形によるフィルタ装置のシステム構成図である。
交流入力かつ直流出力の電力変換器2’と直流入力かつ交流出力の電力変換器2とからなる電力変換システムに接続される交流回路3に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置1は、交流入力かつ直流出力の電力変換器2’の直流出力端子Apと直流入力かつ交流出力の電力変換器2の直流入力端子Bpとの間に接続されるコモンモードチョーク11と、交流回路3の中性点Npからの引出し線を、交流入力かつ直流出力の電力変換器2’の交流入力端子側もしくは直流入力端子Bp側の、電位変動の少ない基準電位点rpに接続する接続手段12と、を備える。
接続手段12は、上述した第1の態様と同様に、直列接続されたキャパシタおよび抵抗(図示せず)からなるのが好ましい。
基準電位点rpは、交流入力かつ直流出力の電力変換器2’の交流入力端子側もしくは直流入力端子Bp側にあって、電位変動の少ない点であればどこでもよい。
本発明の第2の態様の変形によれば、交流回路3の中性点Npから、電力変換器2の直流入力端子側Bpに接続されたコモンモードチョーク11の上位側にある基準電位点rpへの閉ループを構成することによって、コモンモードチョーク11が有効に作用し、上述の図1の場合と同様の効果を奏する。
図19は、本発明の第6の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
本実施例は上述の図17に示した本発明の第2の態様における実施例に相当する。本実施例では、交流回路を三相の誘導電動機31、直流入力かつ交流出力の電力変換器をインバータ32とし、誘導電動機31を、インバータ32を介してバッテリなどの直流電源Eでインバータ駆動する。図中、誘導電動機31のフレームの接地線lgも示されている。
インバータ32の直流入力側のマイナス端子を接地するため、並列接続されたキャパシタCおよび抵抗Rが設けられる。これらは、高周波成分に対してはキャパシタCによるコンデンサ接地、低周波成分に対しては抵抗Rによる抵抗接地として動作する。
コモンモードチョークLは、インバータ32の直流入力端子側に接続される。本実施例におけるコモンモードチョークLは、直流線路中に設置されるので、同じ方向に巻かれた2本の導線を有している。すなわち本実施例によれば、同じ方向に巻かれた3本の導線からなる上述した第1〜第5の実施例のコモンモードチョークよりもさらに、装置を小型化しコストも低減することができる。
インバータ32は、コモンモードチョークLを介し、直流電源Eに接続される。
誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、直列接続されたキャパシタCnおよび抵抗Rnからなる接続手段を介して、基準電位点rpに接続される。
既に説明したように基準電位点rpはコモンモードチョークLの直流電源側に存在する電位変動の少ない点であれば良い。本実施例では、基準電位点rpを直流電源Eのマイナス電位点としたが、直流電源Eのプラス電位点としてもよい。
なお、理想的には誘導電動機31の中性点Npから流れ出る基本波電流はゼロであるので、誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、基準電位点rpに直接接続できる。しかし、実際には基本波電流が流出してしまうので、本実施例ではこの基本波電流をカットするためにキャパシタCnを設ける。また、このようなキャパシタCnを設けると、他のパラメータの条件によっては共振を生じてしまう可能性もあるので、この共振を抑制するための減衰抵抗として抵抗Rnをさらに設ける。
図20は、本発明の第6の実施例の変形例によるフィルタ装置の回路図である。
本変形例は、上述の図19に示した第6の実施例において、基準電位点rpを、直流コンデンサCdc1およびCdc2のクランプ点とした変形例である。
なお、例えば、直流電源が大容量である場合は、コンデンサの耐圧の関係から複数の直流コンデンサを直列接続し、そして基準電位を、直流電源の直流入力側のプラス電位点、マイナス電位点、または直列接続された直流コンデンサ間で電位が安定する点のいずれかにすればよい。
図21は、本発明の第7の実施例によるフィルタ装置の回路図である。
本実施例は上述の図18に示した本発明の第2の態様の変形における実施例に相当する。
本実施例では、交流回路を三相の誘導電動機31、直流入力かつ交流出力の電力変換器をインバータ32、交流入力かつ直流出力の電力変換器をコンバータ33とし、三相の誘導電動機31をインバータ32とコンバータ33とからなる電力変換システムを用いてインバータ駆動するものとする。なお、インバータ32およびコンバータ33の例は、図10〜12を参照して説明したとおりである。
図21に示す本発明の第7の実施例によるフィルタ装置1では、コモンモードチョーク11は、コンバータ33の直流出力端子Apとインバータ32の直流入力端子Bpとの間に接続される。本実施例におけるコモンモードチョーク11は、上述の第6の実施例と同様に直流線路中に設置されるので、同じ方向に巻かれた2本の導線を有している。すなわち本実施例によれば、同じ方向に巻かれた3本の導線からなる上述した第1〜第5の実施例のコモンモードチョークよりもさらに、装置を小型化しコストも低減することができる。
誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、キャパシタCnおよび抵抗Rnを介して基準電位点rpに接続される。
本実施例では、変換器2の交流入力端子の各相にそれぞれ抵抗Cn/3を並列に接続して中性点を構成し、この中性点を基準電位点rpとする。この手法は、電力変換器2の電源系統側すなわち交流入力側に、上述の基準電位点となり得る電圧変動の少ない点が存在しない場合に有効である。
このように、本発明の第7の実施例によれば、インバータ・コンバータシステムのような電力変換システムインバータ駆動される誘導電動機の電磁障害抑制にも適用することができる。
電力変換器の電源系統側すなわち交流入力側に、電圧変動の少ない点が存在しなければ、図20に示すように中性点を新たに構成してここを基準電位点とすれば、電磁障害抑制を目的とした用途に容易に適用可能である。なお、本実施例において、コンバータ33の直流出力側に基準電位点rpを設けてもよく、例えば図19もしくは図20を参照して説明したように実現してもよい。
図22は、本発明の第7の実施例の変形例によるフィルタ装置の回路図である。
本変形例は、上述の図21に示した第7の実施例において、誘導電動機31の中性点Npからの引出し線が接続される基準電位点の取り方の変形例である。電力変換器の電源系統側すなわち交流入力側に、電圧変動の少ない点が存在する場合、例えば、変圧器のY結線の中性点において系統側が接地される場合が本変形例に該当する。
誘導電動機31の中性点Npからの引出し線は、キャパシタCnおよび抵抗Rnを介して基準電位点rpに接続される。
本変形例では、図22に示すように、中性点を基準電位点rpと設定すればよい。なお、誘導電動機31からの接地線については、誘導電動機31を内部に含む筐体(図示せず)内で誘導電動機31の中性点Npからの引出し線と接続し、その上で基準電位点に接続してもよい。
このように、本発明の第7の実施例の変形例によれば、様々な種類の交流入力交流出力変換器で駆動される誘導電動機の電磁障害抑制にも適用することができる。この場合、交流入力側に中性点が存在すればここを基準電位点とすれば、電磁障害抑制を目的とした用途に容易に適用可能である。なお、本実施例において、コンバータ33の直流出力側に基準電位点rpを設けてもよく、例えば図19もしくは図20を参照して説明したように実現してもよい。
なお、本発明の第1〜第7の実施例では、交流回路を誘導電動機としたが、同期電動機であってもよい。また、Y型結線を有する変圧器を備える電気機器、例えばUPS(無停電電源装置)システムや、同じくY型結線を有する変圧器を備える電源に接続される太陽電池システム、燃料電池システムもしくは各種バッテリシステムなどであってもよい。
基準電位点に対して接続される引出し線の起点となる中性点は、例えば、同期電動機の場合は上述の誘導電動機の場合と同様にその内部にある中性点を利用すればよい。また例えば、Y型結線を有する変圧器を備える電気機器の場合は、変圧器の1次側をY結線、そして2次側をΔ結線とした上で、1次側のY結線中の中性点を利用すればよい。
なお、系統電圧側は、三相に限らず、二相もしくは単相であってもよく、いずれの場合においても、少なくとも交流出力を交流回路に印加するような電力変換器を必ず設ける回路構成であれば、本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、電磁障害を抑制するフィルタ装置において、コモンモードチョークを設けると共に、交流回路の中性点から電力変換器の電源系統側にある基準電位点への閉ループを構成するだけで、効果的に電磁障害(EMI)を抑制することができ、なおかつ、従来例のようにノーマルモードチョークやトランジスタなどの構成要素を必要としないので、構造が容易であり、小型化、低価格化が可能となる。
本発明によれは、電力変換器の交流出力端子と交流回路の入力端子との間に設けられたコモンモードチョークは、交流回路の中性点から電力変換器の電源系統側にある基準電位点への閉ループを構成することによって、より一層有効に作用することになる。すなわち、電力変換器が発生するコモンモード電圧のほとんどは、コモンモードチョークの両端にかかり、交流回路の入力端子には生じない。このことはコモンモード電圧に起因する軸電圧、ベアリング電流および漏れ電流が効果的に抑制されることを意味しており、電磁障害は抑制効果が高いといえる。
本発明は、系統電源の種類には依存せず、少なくとも交流出力を交流回路に印加するような電力変換器を有する回路構成であれば、本発明を適用することは可能である。したがって、本発明によるフィルタ装置は、産業用電気機器から、インバータエアコンもしくはインバータ冷蔵庫などの民生機器に対して幅広く適用することができる。
また、将来実用化されるであろう電力線インターネットに対して、大きなノイズ源ともなりうる負荷交流回路および/または電力変換機に対するフィルタ装置として本発明は有効である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置であって、
前記電力変換器の交流出力端子と前記交流回路の入力端子との間に接続されるコモンモードチョークと、
前記交流回路の中性点からの引出し線を、前記電力変換器に対して電源系統側にある電位変動の少ない基準電位点に接続する接続手段と、を備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項2】
前記接続手段は、直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記基準電位点は、前記電力変換器の電源系統側における中性点である請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記電力変換器は、インバータであり、
前記基準電位点は、前記インバータの直流入力側のプラス電位点、マイナス電位点もしくは中性点のいずれかである請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
交流入力かつ交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置であって、
前記電力変換器の交流入力端子側に接続されるコモンモードチョークと、
前記交流回路の中性点からの引出し線を、前記コモンモードチョークに対して電源系統側にある電位変動の少ない基準電位点に接続する接続手段と、を備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項6】
前記接続手段は、直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる請求項5に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記基準電位点は、前記コモンモードの電源系統側における中性点である請求項5に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
直流入力かつ交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置であって、
前記電力変換器の直流入力端子に接続されるコモンモードチョークと、
前記交流回路の中性点からの引出し線を、前記コモンモードチョークに対して直流電源側にある電位変動の少ない基準電位点に接続する接続手段と、を備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項9】
前記接続手段は、直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる請求項8に記載のフィルタ装置。
【請求項10】
前記基準電位点は、前記電力変換器の直流入力側のプラス電位点、マイナス電位点もしくは中性点のいずれかである請求項8に記載のフィルタ装置。
【請求項11】
交流入力かつ直流出力の第1の電力変換器と直流入力かつ交流出力の第2の電力変換器とからなる電力変換システムに接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置であって、
前記第1の電力変換器の直流出力端子と、前記交流回路に接続される前記第2の電力変換器の直流入力端子と、の間に接続されるコモンモードチョークと、
前記交流回路の中性点からの引出し線を、前記第1の電力変換器の交流入力端子側もしくは直流入力端子側の、電位変動の少ない基準電位点に接続する接続手段と、を備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項12】
前記接続手段は、直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる請求項11に記載のフィルタ装置。
【請求項13】
前記基準電位点は、前記第1の電力変換器の電源系統側における中性点である請求項11に記載のフィルタ装置。
【請求項14】
交流出力の電力変換器に接続される交流回路に発生する電磁障害を抑制するフィルタ装置であって、
前記電力変換器の入力側、出力側あるいは直流側のいずれかの位置に配置されるコモンモードチョークと、
前記交流回路の中性点からの引出し線を、前記コモンモードチョークに対してさらに上位側に存在する基準電位点へ接続する接続手段と、を備えることを特徴とするフィルタ装置。
【請求項15】
前記接続手段は、直列接続されたキャパシタおよび抵抗からなる請求項14に記載のフィルタ装置。
【請求項16】
前記基準電位点は、電圧変動の少ない点である請求項14に記載のフィルタ装置。

【国際公開番号】WO2004/045055
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551184(P2004−551184)
【国際出願番号】PCT/JP2003/003119
【国際出願日】平成15年3月14日(2003.3.14)
【出願人】(899000013)財団法人理工学振興会 (81)
【Fターム(参考)】