説明

フィルム積層体及びその製造方法

【課題】透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性に優れたフィルム積層体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が70℃以上220℃以下である透明プラスチックフィルムの少なくとも片面に、光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を塗布流延し、該光硬化性樹脂組成物を光硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であると共に、耐熱温度が250℃以上の樹脂層を形成し、かつ、該樹脂層と透明プラスチックフィルムとの厚みの比率(樹脂層の厚み÷透明プラスチックフィルムの厚み)を0.1以上及び5.0以下にしてフィルム積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性に優れ、光学用途に適したフィルム積層体、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET(ポリエチレンテレフタレート)及びCOP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)に代表される透明プラスチックフィルムは、その透明性を生かし、近年、液晶ディスプレイ等に使用される各種光学用材料、フラットパネルディスプレイ等で使用される前面板及び反射防止板等に使用されている。
【0003】
しかし、PET、COP、及びCOC等の透明プラスチックフィルムは、透明性には優れるものの高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性について、性能が不十分である。そこでこれらの透明プラスチックフィルムの表面に光硬化性樹脂組成物を塗工し、表面を保護する方法が提案されている。
【0004】
透明プラスチックフィルムの光硬化性樹脂組成物による積層体に関し、上記に記述した方法についていくつか具体案が提案されている。例えば特開平9−131841号公報(特許文献1)では、ポリエステル樹脂とメラミン系架橋剤とを主たる構成成分とした積層膜を介してPETフィルムに表面硬化度層を設けて、表面硬度性を向上させた表面硬度化フィルムが提案されている。しかしながら、表面硬度性の向上に主眼がおかれ、耐薬品性、耐久性及び耐熱性の向上については為されていない。また、特開2004−130540号公報(特許文献2)では、紫外線硬化型樹脂被覆用組成物をPC(ポリカーボネート)樹脂シートと合成樹脂フィルムとの間に挟み込み、これらを圧着した後に被覆用樹脂組成物を硬化させ、その後合成樹脂シートを剥離させて得るPC樹脂積層体が提案されている。しかしながら、この方法によって得られるフィルム積層体は、透明性、耐擦傷性、耐薬品性等の向上を図ることできても耐熱性については特に検討されていない。更に、特開2003−261819号公報(特許文献3)では、PETフィルムの表面保護性の向上を目的として、電子線や紫外線等の活性エネルギー線の照射によって硬化可能な組成物をPETフィルムに塗工し、硬化させてなるフィルム積層体が提案されている。しかしながら、この方法によってPETに対して密着性に優れた硬化膜を得ることはできるものの、得られるフィルム積層体の耐薬品性、耐久性及び耐熱性の向上については特に為されていない。
【特許文献1】特開平9−131841号公報
【特許文献2】特開2004−130540号公報
【特許文献3】特開2003−261819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性に優れ、光学用途に適したフィルム積層体、およびこのフィルム積層体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、所定のガラス転移温度の透明プラスチックフィルムの表面に、光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を塗布流延し、この光硬化性樹脂組成物を光硬化させて樹脂層を形成することにより、透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性に優れたフィルム積層体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、波長550nmでの光透過率が90%以上であると共に、ガラス転移温度が250℃以上である樹脂層と、ガラス転移温度が70℃以上220℃以下である透明プラスチックフィルムとが積層されてなるフィルム積層体であって、樹脂層が、光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を硬化させて得たものであり、樹脂層と透明プラスチックフィルムとの厚みの比率(樹脂層の厚み÷透明プラスチックフィルムの厚み)が0.1以上及び5.0以下であることを特徴とするフィルム積層体である。
【0008】
また、本発明は、樹脂層と透明プラスチックフィルムとが積層されてなるフィルム積層体の製造方法であって、ガラス転移温度が70℃以上220℃以下である透明プラスチックフィルムの片面に、光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を塗布流延し、該光硬化性樹脂組成物を光硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であると共に、ガラス転移温度が250℃以上の樹脂層を形成し、かつ、該樹脂層と透明プラスチックフィルムとの厚みの比率(樹脂層の厚み÷透明プラスチックフィルムの厚み)を0.1以上及び5.0以下にすることを特徴とするフィルム積層体の製造方法である。
【0009】
ところで、一般に、シートとは薄くその厚さが長さと幅の割りには小さい平らな製品をいい、フィルムとは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通例、ロールの形で供給されるものをいう。従って、シートの中でも厚さの特に薄いものがフィルムであるといえるが、シートとフィルムの境界は定かではなく、明確に区別しにくいので、本明細書ではシートとフィルムの両方を含めて「フィルム」と定義する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフィルム積層体及びその製造方法によれば、光硬化性を有したかご型のシルセスキオキサン樹脂を含んだ光硬化性樹脂組成物を透明プラスチックフィルムに塗布し、この光硬化性樹脂組成物を硬化させて透明プラスチックフィルムに樹脂層を積層するため、透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性に優れたフィルム積層体を得ることができる。このようなフィルム積層体は、特に光学用途に適して、例えば液晶ディスプレイ、タッチパネル、透明電極付きフィルム、レンズシート等の光学フィルムや、透明基板等として好適に用いられる。したがって、このような透明フィルム積層体を得ることが可能となる本発明は、その産業上の利用価値が極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のフィルム積層体及びその製造方法について、好適な実施形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、透明プラスチックフィルムに積層される樹脂層は、波長550nmでの光透過率が90%以上であると共に、ガラス転移温度(耐熱温度)が250℃以上である必要がある。このような樹脂層を形成するに際して、光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を用いるようにする。光硬化性樹脂組成物におけるかご型のシルセスキオキサン樹脂の含有量については、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5〜30重量%含有するようにするのがよい。光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂が3重量%未満であると、得られるフィルム積層体として、タッチパネル他、電子機器等の用途において重要である耐熱特性が不足となる。また、ガラス転移温度はシルセスキオキサン樹脂の含有量が同じ場合でも、シルセスキオキサン樹脂と併用して使用されるその他の樹脂などのガラス転移温度により変動するため、適宜シルセスキオキサン樹脂の含有量を調節する。
【0013】
また、樹脂層の光透過率について、波長550nmでの光透過率が90%未満であると得られるフィルム積層体として、タッチパネル他、電子機器等の透明フィルム用途において重要である光透過性が不足となり、画像の視認性等に問題が生じる。また、樹脂層のガラス転移温度について、ガラス転移温度が250℃未満であると得られるフィルム積層体として、タッチパネル他、電子機器等の用途において重要である耐熱特性が不足となる。積層される樹脂層の耐熱温度は高いほど好ましいものであり、積層される樹脂層の他の品質である透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性を阻害しなければ良い。
【0014】
光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂としては、例えば、次のようなものが適用できる。
先ず、第1の例として、下記一般式(1)
RSiX3 (1)
(但し、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基のいずれか一つを有する有機官能基であり、Xは加水分解性基を示す)で表されるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるかご型シルセスキオキサン樹脂である。
【0015】
また、第2の例として、下記一般式(2)
[RSiO3/2]n (2)
(但し、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基のいずれか一つを有する有機官能基であり、nは8、10、12又は14である)で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂である。
【0016】
更に第3の例として、一般式(1)において、Rが下記一般式(3)、(4)又は(5)
【化1】

(但し、mは1〜3の整数であり、R1 は水素原子又はメチル基を示す)で表される有機官能基であるかご型シルセスキオキサン樹脂である。
【0017】
本発明においては、かご型シルセスキオキサン樹脂がケイ素原子全てに(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基を有する有機官能基からなる反応性官能基を有する、分子量分布及び分子構造の制御されたかご型シルセスキオキサン樹脂であるのが好ましいが、一部がアルキル基、フェニル基等に置き換わっていても差し支えなく、また、完全に閉じた多面体構造ではなく、すなわち、一部が開裂したような構造であってもよい。本発明の光硬化性樹脂組成物には、このようなかご型シルセスキオキサン樹脂、またはこれを主成分として含有する樹脂混合物、また、n数の異なる成分等の他の成分が含まれていてもよく、また、かご型シルセスキオキサン樹脂がオリゴマーであってもよい。ここで、かご型シルセスキオキサン樹脂を主成分として含有する樹脂混合物において、混合に適した樹脂としては、かご型シルセスキオキサン樹脂と相溶性及び反応性を有する樹脂であれば、特に限定するものではないが、(メタ)アクリレート及びエポキシ樹脂等が好ましいものである。さらに光硬化性を阻害しなければ、光硬化性樹脂組成物にフィラー系添加物を加えてもよい。
【0018】
また、光硬化性樹脂組成物には、通常、光重合開始剤が配合される。また、本発明では、適当な溶媒を希釈剤として用い光硬化性樹脂組成物の粘度調整等して用いることもできるが、溶媒の揮発除去工程を考慮すると時間を要し生産効率が低下すること、硬化後に得られる樹脂層内部に残留溶媒等が存在して成形フィルムの特性低下につながることなどから、塗布される光硬化性樹脂組成物中、溶媒の含有量は5%以下にとどめておくことがよく、実質的には溶媒が含有されていないものを使用することが好ましい。
【0019】
「樹脂層−透明プラスチックフィルム」からなるフィルム積層体において、光硬化性樹脂組成物を硬化して得る樹脂層の厚みについて、樹脂層と透明プラスチックフィルムとの厚みの比率(樹脂層の厚み÷透明プラスチックフィルムの厚み)が0.1以上及び5.0以下となるようにする。この厚みの比率が0.1に満たないと樹脂層が薄くなり過ぎて、光硬化性樹脂組成物の特徴である高耐熱性の効果が十分に発揮されず、ベースに用いる透明プラスチックフィルムの耐熱特性の向上が見込めなくなる。一方、厚みの比率が5.0を超えると樹脂層が厚くなり過ぎて、樹脂層が割れやすくなり、特に加熱により樹脂層にクラックが発生しやすくなり、得られるフィルム積層体が破損しやすくなるおそれがある。同時に、樹脂層にクラックが発生することにより、フィルム積層体自体の耐熱性が低下する。また、本発明においては、ベースの透明プラスチックフィルムの両面に光硬化性樹脂組成物を塗工し硬化させて、「樹脂層−透明プラスチックフィルム−樹脂層」の三層構造からなるフィルム積層体にすることが好ましい。樹脂層を片面のみに設けた「樹脂層−透明プラスチックフィルム」に比べてフィルム積層体の反りや変形等を更に低減させることができる。尚、透明プラスチックフィルムの両面に樹脂層を形成する場合には、それぞれの樹脂層が本発明で規定する各条件を満たすようにするのが好ましい。すなわち、例えば樹脂層と透明プラスチックフィルムとの厚みの比率は各樹脂層単独で透明プラスチックフィルムとの厚み比率が上述した範囲となるようにするのがよい。また、両樹脂層を同一成分のから形成してもよく、各面に塗布する光硬化性樹脂組成物を異なるようにしてもよい。
【0020】
また、透明プラスチックフィルムについては、波長550nmでの光透過率は80%以上であることが好ましい。光透過率が80%未満であると得られるフィルム積層体として、タッチパネル他、電子機器等の透明フィルム用途において重要である光透過性が不足となり、画像の視認性等に問題が生じる。また、この透明プラスチックフィルムについてはガラス転移温度(耐熱温度)が70℃以上であるものを用いる。ガラス転移温度が70℃未満であると車載用等の高温となる使用環境下において熱によるうねり、そりが発生するおそれがある。そして、ガラス転移温度が220℃以下の透明プラスチックフィルムが有効である。透明プラスチックフィルムの耐熱温度が220℃を越える場合、これらのフィルムは十分に耐熱性を有しており、本発明である積層体構造を作成する意図が小さくなるものである。このような透明プラスチックフィルムの材質として、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、COC(シクロオレフィンコポリマー)、PC(ポリカーボネート)、アセテート、アクリル、フッ化ビニル、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン樹脂系、等のフィルムを例示することができ、これらのフィルムを単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。特に耐熱性と透明性に優れ、諸特性のバランスのとれたPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、及びCOC(シクロオレフィンコポリマー)が好ましい。また、樹脂層との密着性に優れた透明プラスチックフィルムを使用するのが望ましいが、樹脂層との密着性をより向上させるために、例えばフィルムの表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理等の表面活性処理を行ってもよい。
【0021】
透明プラスチックフィルムの厚みについては、樹脂層との厚みの比率を満たすことが必要であるが、単独の厚みとしては好ましくは0.05mm以上であるのがよい。透明プラスチックフィルムの厚さが0.05mmに満たない場合、樹脂層の硬化時の収縮による変形の発生のおそれや塗工時の張力に耐えられないおそれがある。尚、透明プラスチックフィルムの表面形状については、平坦性を有するものであっても、表面に凹凸加工が施されているものであってもよい。ただし、透明性を阻害しない表面形状が好ましい。
【0022】
光硬化性樹脂組成物は、液状であることから公知の塗布装置で塗布できるが、塗布ヘッドを用いて硬化反応を起こすとゲル状の付着物が筋や異物の原因となるため、望ましくは塗布ヘッドには紫外線が当たらないようにするのがよい。塗布方式としては、グラビアコート、ロールコート、リバースコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ドクターコート、エクストルージョンコート、スライドコート、ワイヤーバーコート、カーテンコート、押出コート、スピナーコート等の公知の方法を用いることができる。また、厚み制御が容易であることから、いったん別の支持体に樹脂層を形成してから透明プラスチックフィルム上に転写により樹脂層を形成する方法を採用してもよい。
【0023】
光硬化性樹脂組成物は、透明プラスチックフィルムに塗工し流延させた後、光硬化を実施するが、この光硬化としては、紫外線照射法が一般的であり、例えば紫外線ランプを使用して紫外線を発生させて照射することができる。紫外線ランプには、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、パルス型キセノンランプ、キセノン/水銀混合ランプ、低圧殺菌ランプ、無電極ランプ等があり、いずれも使用することができる。これらの紫外線ランプの中でも、メタルハライドランプもしくは高圧水銀ランプが好ましい。照射条件はそれぞれのランプ条件によって異なるが、照射露光量が20〜10000mj/cm2程度であればよく、好ましくは100〜10000mj/cm2である。また、光エネルギーの有効利用の観点から、紫外線ランプには楕円型、放物線型、拡散型等の反射板を取り付けるのが好ましく、さらには、冷却対策として熱カットフィルター等を装着するようにしてもよい。
【0024】
また、紫外線ランプの照射箇所には、冷却装置を有していることが好ましい。この冷却装置により、紫外線ランプからの発生する熱に誘発される透明プラスチックフィルム等の熱変形を抑制することができる。冷却方式としては、空冷方式、水冷方式等の公知の方法がある。
【0025】
紫外線硬化反応はラジカル反応であるため酸素による反応阻害を受ける。そのため、光硬化性樹脂組成物は、透明プラスチックフィルムへ塗工、流延後、光硬化を実施するが、塗工、流延後、酸素阻害を防止するため、光硬化性樹脂組成物上へ透明カバーフィルムを施し、流延された原料の液状光硬化性樹脂の表面では酸素濃度を1%以下にすることが好ましく、0.1%以下にすることがより好ましい。酸素濃度を小さくするには、表面に空孔がなく、酸素透過率の小さい透明カバーフィルムを採用する必要がある。透明カバーフィルムとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ポリプロピレン、ポリエチレン、アセテート、アクリル、フッ化ビニル、ポリアミド、ポリアリレート、セロファン、ポリエーテルスルホン、ノルボルネン樹脂系、等のフィルムを単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。ただし、光硬化性樹脂組成物との剥離が可能でなければならない。この為、これらの透明カバーフィルムの表面にシリコン塗布、フッ素塗布等の易剥離処理が施されているものが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明のフィルム積層体及びその製造方法について、実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例もしくは比較例中の部は重量部を表す。また、各実施例及び比較例で用いた透明プラスチックフィルムのガラス転移温度、並びに形成した各樹脂層の光透過率及びガラス転移温度を表1にまとめて示す。光透過率は波長400〜800nmの範囲にて分光透過スペクトルを紫外可視分光光度計で測定し、代表値として波長550nmでの透過率を示した。ガラス転移温度はTMA(熱機械分析)法により、熱分析装置にて加熱による熱膨張量の変化を計測し、求めたものを示した。なお、各樹脂層の測定おいては、あらかじめ透明プラスチックフィルムの表面に剥離処理を施したものを使用した以外は実施例及び比較例と同一条件で作成し、その後樹脂層のみを剥離して光透過率及びガラス転移温度を測定した。
【0027】
[実施例1]
トリメチロールプロパントアクリレート(日本化薬社製KS-TMPA)80部、シルセスキオキサンオリゴマー(下記構造式1)20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGACURE 184)2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得たのち、本液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.05mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.05mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.05mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:0.2mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【化2】

【0028】
[実施例2]
上記実施例1で得た光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(COC:シクロオレフィンコポリマーフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率85%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.05mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.05mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.05mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:0.2mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【0029】
[実施例3]
上記実施例1で得た光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PEN:ポリエチレンナフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率85%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.05mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.05mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.05mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:0.2mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【0030】
[実施例4]
上記実施例1で得た光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.2mm、波長550nmでの光透過率90%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.02mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.02mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.2mm)−樹脂層(厚さ:0.02mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:0.24mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【0031】
[実施例5]
上記実施例1で得た光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.5mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.5mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.5mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:1.1mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【0032】
[実施例6]
トリメチロールプロパントアクリレート(日本化薬社製KS-TMPA)80部、シルセスキオキサンオリゴマー(下記構造式2)20部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGACURE 184)2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得たのち、本液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.05mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.05mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.05mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:0.2mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【化3】

【0033】
[比較例1]
上記実施例1で得た光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.005mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.005mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.005mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:0.11mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【0034】
[比較例2]
上記実施例1で得た光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.6mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.6mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.6mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:1.3mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上となった。
【0035】
[比較例3]
ジメチロール‐トリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学社製ライトアクリレートDCP−A)90部、シルセスキオキサンオリゴマー(前記構造式1と同じ)10部、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGACURE 184)2.5部を均一に攪拌混合した後、脱泡して液状の光硬化性樹脂組成物を得たのち、本液状の光硬化性樹脂組成物を塗工装置へ投入し、これを毎分1mで巻き出した透明フィルム(PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、波長550nmでの光透過率90%以上)上へスロットダイコーター法にて両面に同時に塗布した。そして、透明カバーフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、幅300mm、厚さ0.1mm、光透過率90%以上)を塗工した光硬化性樹脂へ両面から圧着したのち、メタルハライドランプにて紫外線を500mj/cm2の割合で両面から照射した。硬化して得られた樹脂層の片側の厚みはそれぞれ0.05mmとなるようにした。その後、透明カバーフィルムを剥離除去し、「樹脂層(厚さ:0.05mm)−透明プラスチックフィルム(厚さ:0.1mm)−樹脂層(厚さ:0.05mm)」の三層構造からなるフィルム積層体(合計厚さ:0.2mm)を得た。尚、各樹脂層の反応率を測定した結果は85%以上であった。
【0036】
【表1】

【0037】
上記実施例及び比較例で得たフィルム積層体について、以下のとおり評価を行った。
[評価方法:表面硬度測定試験]
鉛筆硬度法(JIS−K5400)に準じて、各種硬度の鉛筆を90度の角度で得られたフィルム積層体の表面(樹脂層)に当て、荷重1kgで引っ掻き、傷が発生した時の鉛筆の硬さで表示した。その結果を表2に示す。
【0038】
[評価方法:耐熱評価試験]
熱風オーブンを使用し、得られたフィルム積層体を加熱温度200℃で1時間加熱した後の物性値(引っ張り弾性率)の変化を次の基準で評価した。
○:耐熱試験後にて物性値の低下無し
×:耐熱試験後にて物性値の低下有り
その結果を表2に示す。
【0039】
[評価方法:外観評価]
得られたフィルム積層体の製造後の外観評価を次の基準で評価した。
○:積層体の表面にクラック等の外観異常無し
×:積層体の表面にクラック等の外観異常有り
その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は光硬化性樹脂組成物を用いて得たフィルム積層体を提供し、また、その製造方法を提供するものである。得られたフィルム積層体は、透明性、高表面硬度性、耐候性、耐薬品性、耐久性及び耐熱性が要求される光学分野に適しており、具体的には、液晶をはじめとした各種ディスプレイで使用されるディスプレイ基板、タッチパネル、透明電極付きフィルム、レンズシート、光導波路、太陽電池基板、光ディスク、各種透明基板等の多様な用途で好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長550nmでの光透過率が90%以上であると共に、ガラス転移温度が250℃以上である樹脂層と、ガラス転移温度が70℃以上220℃以下である透明プラスチックフィルムとが積層されてなるフィルム積層体であって、樹脂層が、光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を硬化させて得たものであり、樹脂層と透明プラスチックフィルムとの厚みの比率(樹脂層の厚み÷透明プラスチックフィルムの厚み)が0.1以上及び5.0以下であることを特徴とするフィルム積層体。
【請求項2】
樹脂層をフィルム積層体の透明プラスチックフィルムの両面側に積層させたことを特徴とする請求項1に記載のフィルム積層体。
【請求項3】
かご型のシルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(2)
[RSiO3/2]n (2)
(但し、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はビニル基のいずれか一つを有する有機官能基であり、nは8、10、12又は14である)で表されるかご型シルセスキオキサン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム積層体。
【請求項4】
かご型のシルセスキオキサン樹脂が、下記一般式(1)
RSiX3 (1)
(但し、Rは(メタ)アクリロイル基、グリシジル基若しくはビニル基のいずれか一つを有する有機官能基、又は下記一般式(3)、(4)若しくは(5)
【化1】

(但し、mは1〜3の整数であり、R1 は水素原子又はメチル基を示す)
であり、Xは加水分解性基を示す)で表されるケイ素化合物を有機極性溶媒及び塩基性触媒存在下で加水分解反応させると共に一部縮合させ、得られた加水分解生成物を更に非極性溶媒及び塩基性触媒存在下で再縮合させてなるかご型シルセスキオキサン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム積層体。
【請求項5】
樹脂層と透明プラスチックフィルムとが積層されてなるフィルム積層体の製造方法であって、ガラス転移温度が70℃以上220℃以下である透明プラスチックフィルムの少なくとも片面に、光硬化性を有するかご型のシルセスキオキサン樹脂を含有した光硬化性樹脂組成物を塗布流延し、該光硬化性樹脂組成物を光硬化させて、波長550nmでの光透過率が90%以上であると共に、ガラス転移温度が250℃以上の樹脂層を形成し、かつ、該樹脂層と透明プラスチックフィルムとの厚みの比率(樹脂層の厚み÷透明プラスチックフィルムの厚み)を0.1以上及び5.0以下にすることを特徴とするフィルム積層体の製造方法。
【請求項6】
透明プラスチックフィルムの残りの片面側に、上記光硬化性樹脂組成物を塗布又は転写により流延し、該光硬化性樹脂組成物を光硬化させて、更に樹脂層を形成する請求項5に記載のフィルム積層体の製造方法。

【公開番号】特開2008−37101(P2008−37101A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176542(P2007−176542)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】