説明

フェナザシリン系重合体および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタ

【課題】均質な膜を容易かつ低廉に作成できるフェナザシリン系重合体および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】下記に示すフェナザシリン化合物を主鎖骨格とする重合体は有機溶媒への溶解性が高く、キャスト法による膜作成が可能である。本発明のフェナザシリン系重合体は、ハロゲン化炭化水素、有機酸、通常の有機溶剤にも容易に溶解するので、スピンコート法、ディップコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できる。よって、有機薄膜トランジスタの構成材料に用いることが可能である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェナザシリン誘導体を主鎖に持つポリマー、即ち、5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン(以下、単に「フェナザシリン」という)化合物を主鎖に持つ新規なフェナザシリン系重合体、および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
フェナザシリン化合物は酸化を防止する化合物として知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、ジェットエンジンの潤滑剤用の耐熱性添加剤としても知られている(例えば、非特許文献2参照)。さらに、フェナザシリンの低分子化合物については、発光素子の正孔輸送材料として好適に用いられることも知られている(例えば、特許文献1,2参照)。一方で、ポリアニリンを初めとする芳香族アミン型ポリマーは、高い電気活性を示すことが知られている。
【非特許文献1】Issled.Obl.Fiz.Khim.Kauch.Rezin,2,14(1973)
【非特許文献1】Ann.N.Y.Acad.Sci.,125,242(1965)
【特許文献1】特開平8−302339号公報
【特許文献2】特開平10−218884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来のフェナザシリンをはじめとする低分子化合物を、発光素子をはじめとする電子素子の構成材料として用いる場合、キャスト法では膜形成がうまくいかないので、真空蒸着等の方法が用いられる。その場合、真空蒸着装置等の高価な機器が必要とされるので、より簡便な手段によって電子素子の構成材料として利用できることが求められていた。また、ポリアニリンを初めとする芳香族アミン型ポリマーは、一般の有機溶媒への溶解性が低いため、膜形成がしにくく、素子化が難しいという問題点があった。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、均質な膜を容易かつ低廉に作成できるフェナザシリン系重合体および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で表されるフェナザシリン化合物を主鎖骨格とする重合体が有機溶媒への溶解性が高いことを発見し、キャスト法による膜作成が可能であることを見いだした。即ち、第一発明の重合体は下記一般式(1)で示されるようなフェナザシリン化合物を主鎖骨格とすることを特徴とする。
【0006】
【化5】

(式中、Rは置換されていてもよい二価のアルキル基を示し、R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、Rは置換されていてもよいアルキル基、アリール基を示す。nは平均重合度である。)
【0007】
第二発明の重合体は、下記一般式(2)で示されるようなフェナザシリン化合物を主鎖骨格とすることを特徴とする。
【化6】

(式中、Rは置換されていてもよい二価のアルキル基を示し、R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、nは平均重合度である。)
【0008】
第三発明の重合体は、下記一般式(3)で示されるようなフェナザシリン化合物を主鎖骨格とすることを特徴とする。
【化7】

(式中、R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、nは平均重合度である。)
【0009】
さらに、本発明によると、一般式(1)〜(3)の重合体を含む一般式(4)に記載の重合体を薄膜に用いることにより、有機トランジスタが提供される。
【化8】

(式中、R,R,Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示す。)
【発明の効果】
【0010】
前記一般式(1)〜(4)において、R,R,R,Rで表されるアルキル基としては、メチル、エチル、n−またはiso−プロピル、n−、iso−またはtert−ブチル、n−、iso−またはneo−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜24、好ましくは1〜12のアルキル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、o−、m−、p−トリル基、1−および2−ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基等の炭素数6〜50、好ましくは6〜32のアリール基が挙げられる。
【0011】
前記一般式(1)〜(4)において、R,R,Rで表されるアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−またはiso−プロポキシ、n−、iso−またはtert−ブトキシ、n−、iso−またはneo−ペントキシ、n−ヘキソキシ、シクロヘキソキシ、n−ヘプトキシ、n−オクトキシ等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜24、好ましくは1〜12のアルコキシ基があげられる。アリーロキシ基としては、フェノキシ基、o−、m−、p−トリロキシ基、1−および2−ナフトキシ基、アントロキシ基、フルオレニル基等の炭素数6〜50、好ましくは6〜32のアリーロキシ基が挙げられる。
【0012】
また、Rで表される二価のアルキル基としては、メチレン、エタン−1,2−ジイル、エタン−1,1−ジイル、プロパン−1,1−ジイル、プロパン−1,2−ジイル、プロパン−1,3−ジイル等の直鎖、分岐の炭素数1〜20、望ましくは2〜8の二価のアルキル基が挙げられる。
【0013】
前記一般式(1)〜(4)における平均重合度nは、1を超える任意の数字を取りうるが、2<n<10000の範囲であることが望ましい。
【0014】
本発明のフェナザシリン系重合体は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロ酢酸等の有機酸、トルエンやTHF等の通常の有機溶剤に容易に結晶化することなく溶解するから、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できるものであり、有機薄膜トランジスタの構成材料に用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0016】
・実施例1
ポリ(5,10−ジメチル−10−{2−[(9H−フルオレン−2−イル)イミノカルボニルオキシ]エチル}−5,10−ジヒドロフェナザシリン−2,8−ジイル)の合成(一般式(1),R=R=メチル基,R=エタン−1,2−ジイル,R=フルオレニル基)
【化9】

【0017】
まず、氷浴中で5.07gのN−メチル−2,2’,4,4’−テトラブロモジフェニルアミンを80mLのエーテルに懸濁させた後に13.0mLのn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)を加えた。さらにジクロロメチルビニルシランを1.43g加え、沈殿が生成した後に氷浴を外して24時間攪拌した。反応液を氷水に注ぎ、エーテルで抽出した後にヘキサンで洗浄することにより2.86gの2,8−ジブロモ−5,10−ジメチル−10−ビニル−5,10−ジヒドロフェナザシリンを白い粉末として単離した。
【0018】
続いて、400mgの2,8−ジブロモ−5,10−ジメチル−10−ビニル−5,10−ジヒドロフェナザシリンを10mLのTHFに溶かした溶液に、660mgの9−BBNダイマーを加えて3日攪拌した。さらに、5mLの34.5%過酸化水素水、7mLの3N水酸化ナトリウム水溶液を加えて一日攪拌した。生成物を酢酸エチルで抽出し、シリカゲルのカラムで精製したものをさらにヘキサンで洗浄することにより、314mgの2,8−ジブロモ−5,10−ジメチル−10−(2−ヒドロキシエチル)−5,10−ジヒドロフェナザシリンを得た。
【0019】
さらに、2,8−ジブロモ−5,10−ジメチル−10−(2−ヒドロキシエチル)−5,10−ジヒドロフェナザシリン0.44gを10mLのトルエンに溶かした溶液に、9H−フルオレン−2−イルイソシアネートを0.22g加えて100℃にて攪拌した。反応溶液をヘキサンに注いで得られた沈殿をろ過することにより、黄色い粉末として2,8−ジブロモ−5,10−ジメチル−10−{2−[(9H−フルオレン−2−イル)イミノカルボニルオキシ]エチル}−5,10−ジヒドロフェナザシリンを0.56g単離した。
【0020】
さらに、窒素雰囲気下で320mgのビス(シクロオクタジエン)ニッケル(0)に1,5−シクロオクタジエン1mLを加えた後にトルエン5mLを加えて懸濁させた。さらに2,2’−ビピリジル190mgを加えて攪拌した。さらに484mg(0.76mmol)の2,8−ジブロモ−5,10−ジメチル−10−{2−[(9H−フルオレン−2−イル)イミノカルボニルオキシ]エチル}−5,10−ジヒドロフェナザシリンを加えた後に60℃に昇温して48時間攪拌した。反応液をメタノールに注いで析出した粉末を水、ついでメタノールで洗浄した。さらにこの粉末をクロロホルムに溶かしてヘキサンで再沈殿することにより上記重合体(ポリマー1)を315mg(モノマーユニットとして0.66mmol)を単離した。
【0021】
得られたポリマー1の数平均分子量は4200(n=8.9)、重量平均分子量は8200(n=17.3)であり、キャストフィルムを作製するためには十分な重合度であった。また、本物質は、IRおよびH−NMRスペクトルで同定した。
【0022】
・実施例2
下記に示すポリ(5,10−ジメチル−10−ビニル−5,10−ジヒドロフェナザシリン−2,8−ジイル)の合成(一般式(3),R=R=メチル基)
【化10】

窒素雰囲気下で280mgのビス(シクロオクタジエン)ニッケル(0)に1,5−シクロオクタジエン1mLを加えた後にトルエン10mLを加えて懸濁させた。さらに2,2’−ビピリジル160mgを加えて攪拌した。さらに191mg(0.38mmol)の2,8−ジブロモ−5,10−ジメチル−10−ビニル−5,10−ジヒドロフェナザシリンを加えた後に60℃に昇温して48時間攪拌した。反応液に水を加え、さらにクロロホルムで抽出した後、有機層の溶媒を留去させることにより上記化合物(ポリマー2)を138mg(モノマーユニットとして0.12mmol)を単離した。
【0023】
ポリマー2のクロロホルム可溶部の数平均分子量は1300(n=5.2)、重量平均分子量は1900(n=7.6)であった。なお、本物質は、IRおよびH−NMRスペクトルで同定した。
【0024】
・実施例3
下記に示すポリ(5,10−ジメチル−10−(2−ヒドロキシメチル)−5,10−ジヒドロフェナザシリン−2,8−ジイル)の合成(一般式2,R=エタン−1,2−ジイル,R=R=メチル基)
【化11】

窒素雰囲気下、ポリ(5,10−ジメチル−10−ビニル−5,10−ジヒドロフェナザシリン−2,8−ジイル)53.9mgを5mLのTHFに分散させ、続いて0.16gの9−BBNダイマーを加えて1日攪拌した。さらに、5mLの34.5%過酸化水素水、7mLの3N水酸化ナトリウム水溶液を加えて一日攪拌した。反応液を水に注いで析出した粉末を、2M塩酸、次いで水で洗浄することにより、43.4mgのポリ(5,10−ジメチル−10−(2−ヒドロキシエチル)−5,10−ジヒドロフェナザシリン−2,8−ジイル)を単離した。
【0025】
・実施例4
ポリフェナザシリンを用いたトランジスタの作成
図1は、有機薄膜トランジスタ10の概略断面図を示したものである。基板6には厚さ0.7mmのガラス板を用い、このガラス板を超純水と有機溶媒を用いた超音波洗浄をした後、ゲート電極5としてアルミニウムを50nm真空蒸着した。
【0026】
次に、オゾン洗浄を行った後、ゲート電極5上にポリイミド前駆体をスピンコート法で成膜し、200℃でベークして厚さ270nmのゲート絶縁層4とした。その後、背面露光を用いてゲート電極5上にレジストを形成し、この上から金を50nm真空蒸着で成膜した後リフトオフを行うことでソース電極2とドレイン電極3を形成した。この上からポリフェナザシリンの1.5wt%トルエン溶液をスピンコート法で成膜することによりポリマー層とし、有機薄膜トランジスタ10の作製を行った。
【0027】
ポリフェナザシリンとして、ポリ(10,10−ジオクチル−5−メチルフェナザシリン)(一般式(4),R=R=オクチル基,R=メチル基)を用い、ゲート長193μm、ゲート幅688μmで作製された素子は、移動度2.14×10−[cm/Vs]、on−off比1010、閾値電圧−25.5Vのp型トランジスタ特性を示した。
【化12】

【0028】
・実施例5
実施例4に記載の方法にて作成された素子におけるポリマーとして、ポリマー1(一般式(4),R=R=メチル基,R=2−[(9H−フルオレン−2−イル)イミノカルボニルオキシ]エチル基)を用い、ゲート長50μm、ゲート幅700μmで作製された素子は、移動度3.38×10−[cm/Vs]、on−off比1009、閾値電圧−9.83Vのp型トランジスタ特性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】有機薄膜トランジスタ素子10の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ポリフェナザシリン
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート絶縁層
5 ゲート電極
6 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン化合物を主鎖骨格とするフェナザシリン系重合体。
【化1】

(式中、Rは置換されていてもよい二価のアルキル基を示し、R,R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、nは平均重合度である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で示される5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン化合物を主鎖骨格とするフェナザシリン系重合体。
【化2】

(式中、Rは置換されていてもよい二価のアルキル基を示し、R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、nは平均重合度である。)
【請求項3】
下記一般式(3)で示される5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン化合物を主鎖骨格とするフェナザシリン系重合体。
【化3】

(式中、R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、nは平均重合度である。)
【請求項4】
下記一般式(4)に示すフェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタ。
【化4】

(式中、R,R,Rはそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリーロキシ基または水素原子を示す。)

【図1】
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【公開番号】特開2009−298921(P2009−298921A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155080(P2008−155080)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】