説明

フェノール樹脂成型体、成型用材料およびその製法

【課題】低収縮性を有するとともに、高強度で高性能の難燃性であるフェノール樹脂成型体の提供。
【解決手段】フリーフェノール含有量が8重量%以下であるフェノール樹脂を使用することにより硬化成型工程での細孔量を低減でき、また揮発成分またはフリーの水をトラップする特定粒度分布の無機充填材を併用することにより微細孔の生成を抑えることができ、それにより100〜10000オングストロームの近似直径範囲の細孔容積が0.20ml/g以下であるフェノール樹脂成型体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用部材、車両用部材をはじめとする各種成型体として使用されるレゾール型フェノール樹脂成型体とその成型用材料およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂成型用材料は液状レゾール型フェノール樹脂、無機充填剤、また必要に応じて硬化性調整剤、離型剤などを混ぜたペーストをガラス繊維に含浸させてシート状にし、必要に応じて熟成処理を行い半硬化させた成型用材料である。通常、このフェノール樹脂成型用材料を金型により加熱加圧成型することにより成型体が得られる。このようにして得られた成型体は、その優れた耐久性、機械強度、軽量性から、建築用材料、車両用材料をはじめとする各種成型体として広く用いられる。近年、特に難燃性、低発煙性の要求が高まり、難燃性、低発煙性に優れたフェノール樹脂を用いた成型体と材料の研究、開発は盛んに行われている。
【0003】
一例として、特開平4−1259公報ではカルボン酸基含有成分を含むレゾール型フェノール樹脂をベースとした増粘性、成型時の型内流動性及び長期の保存安定性を有するレゾール型フェノール樹脂成型用材料が開示されている。
しかし、これらフェノール樹脂成型用材料の欠点としては、樹脂硬化時の縮合反応等によって起こる反り及び変形等の寸法安定性の問題がある。そのため、寸法安定性の改良として低収縮剤を添加する方法がある。一例として、特開平8−269297号公報ではポリ酢酸ビニルを添加した低収縮性で且つ高難燃性のフェノール樹脂成型用材料が開示されている。しかしこの公報記載の技術では低収縮性を達成しうるが、車両用難燃性試験では「極難燃性」相当を示すものの車両用天井材、床材に求められる高性能の「不燃性」レベルまでの難燃性を達成することは難しい。
【特許文献1】特開平4−1259号公報
【特許文献2】特開平8−269297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情を背景に、低収縮性を有するとともに、高強度で高性能の難燃性であるフェノール樹脂成型体とその成型用材料およびその製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以上のような現状を背景に、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、フリーフェノール含有量が8重量%以下であるフェノール樹脂を使用することにより硬化成型工程での細孔量を低減でき、また揮発成分またはフリーの水をトラップする特定粒度分布の無機充填材を併用することにより微細孔の生成を抑えることができることを見出し、そして100〜10000オングストロームの近似直径範囲の細孔容積が0.20ml/g以下であるフェノール樹脂成型体において、低収縮性に特に優れた成型体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
従来技術では反り及び変形について、低収縮剤として例えばポリ酢酸ビニルを添加して解決しようとしているが、鋭意研究した結果、フェノール樹脂成型体における反り及び変形は成型体に内在する細孔構造に起因していることを明らかにした。すなわちフェノール樹脂の硬化反応が不十分な場合、あるいは揮発成分が多く残存する場合には成型体構造に微細孔が多く存在するためにそこに水分等が吸着及び脱離することで材料の寸法変化を引き起こす問題が発生していた。この点に鑑み、本発明では100〜10000オングストロームの近似直径範囲の細孔容積が0.20ml/g以下である細孔構造をもつフェノール樹脂成型体において、環境変化および長期での寸法変化を小さくすることができることを見出し、達成したものである。より望ましくは細孔容積が0.15ml/g以下である。
【0007】
この成型体を製造する一例としては、フリーフェノール含有量が8重量%以下であるフェノール樹脂を使用することにより硬化成型工程での細孔量を低減できる。フリーフェノールはガスクロマトグラフィにより定量化した単量体のフェノールである。このフリーフェノール含有量が8%より多い樹脂を原料とした場合では成型体の硬化性を低下させるので、成型体に残存する細孔量が多くなる傾向がある。なお、従来は強度などへの影響は小さいため、フリーフェノールが15%程度含有されるフェノール樹脂が使用されていた。
もちろん、このフリーフェノール量の低減は有効な方法であるが、フリーフェノール成分を低減することのみでは完全には低収縮性に特に優れた成形体を達成することは難しい。そこで、われわれは、揮発成分またはフリーの水をトラップする特定粒度分布の無機充填材を併用することにより微細孔の生成を抑えることができることを見出し、目標とする寸法安定性を達成することができた。
【0008】
本発明において使用される無機充填材の粒度分布は2μm〜10μmの範囲である。フェノールの硬化反応は脱水縮合であるため、多量に発生する水分を樹脂構造より排出することが重要である。そこで発生する水分を樹脂構造よりも移動しやすい無機充填材粒子間に捕捉することで、好ましい細孔構造が得られ、製品寸法変化を小さくできることを見出し、達成したものである。そのため無機充填材の粒度分布は平均粒径で2〜10μmの範囲で、好ましくは4〜8μmである。平均粒径が小さく、すなわち粒子表面積が大きいほど、フェノール脱水縮合で生成する水分を粒子間に捕捉させることができる。しかしながら粒子表面積がより大きく、平均粒径が2μmよりも小さくなるとシートモールディングコンパウンド(以下SMCと略称)などを作成する際のペースト粘度が上昇してガラス繊維への含浸性が低下するため、2μm以上の平均粒径が好ましく、また10μmより大きくなると先の水分を捕捉する効果が小さくなる。請求の範囲である平均粒径の無機充填材が水分の補足性ならびに含浸性の両方を満足する範囲に適しているものである。
【0009】
本発明において使用されるレゾール型フェノール樹脂量は10〜30重量部である。従来技術では30重量部以上の樹脂を使用する製法が多いものであったが、本発明ではフリーフェノールの少ないフェノール樹脂を使用し、かつ無機充填材粒径の最適化により少ない樹脂量でも高強度を達成することができる。この樹脂量を30重量部以下にすることで、寸法変化量もより小さくなりかつ、燃焼試験でも性能を改善することができる。また、10重量部より少なくなると成型体強度が十分ではない。
【0010】
本発明において使用される無機充填剤としては、カオリンクレイのほかに水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、けい砂、マイカ、タルク、珪酸カルシウム水和物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが挙げられ、これらの中で特にカオリンクレイが好ましく、無機充填材の中で3割以上はカオリンクレイを使用するとよい。またカオリンクレイ、水酸化アルミニウムの組み合わせは難燃性、成型性、流動性の点からより好ましい。
本発明で使用される他の材料には内部離型剤として一般に使用されるステアリン酸亜鉛等が使用される。
本発明において使用される繊維補強材はガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等であり、その繊維長さは通常1.5〜50mmのものが使用される。繊維補強材の使用量は成型用材料全体の10〜50重量%である。
【0011】
次に代表的な製造例を挙げれば、上述フェノール樹脂ペーストを上下に配置されたキャリアフィルムにSMC用ペーストの厚みが0.3mm以上、10mm以下の範囲の厚みでほぼ均一な厚さとなるように塗布し、下部のキャリアフィルムに塗布されたペースト上に所定のサイズに切断されたガラス繊維を散布し、上下のキャリアフィルム上のペーストでガラス繊維を挟み込み、次いで全体を含浸ロール間に通してSMC用ペーストをガラス繊維に含浸させ、必要に応じて熟成処理をすることによってSMCが作製される。ここでキャリアフィルムとしてはポリエチレンフィルムや、ポリプロピレンフィルムを用いるのが一般的である。また、熟成処理とは成型前の前処理の一つで、20℃から90℃で、1時間から20日間程度の範囲で熱処理を行うことが好ましい。
【0012】
上記のようにして得られたフェノール樹脂成型用材料は高温で加圧することにより容易に成型でき、建築用部材、車両用部材および自動車用部材等として使用される種々の成型体にすることができる。特に本発明のフェノール樹脂成型用材料を用いた成型体は低収縮性かつ高強度で非常に高い難燃特性を有することから、新幹線など鉄道用車両内装材のうち天井材、床材など不燃材用パネルとして非常に適している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、従来のフェノール樹脂成型用材料の欠点である反り、変形等が改良された、低収縮性かつ高強度で高難燃性のフェノール樹脂成型用材料を提供することができ、産業上大いに有用である。車両用難燃性試験で「不燃性」レベルが達成でき、鉄道車両天井材、床材等の部材に使用できる繊維補強フェノール樹脂成型体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、実施例、比較例に基づいて更に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
実施例、比較例における物性の評価、流動性、成型性の評価は以下の方法で行った。
(1)難燃性
難燃性は国交省鉄運81号に定める「国交省法」に準じて測定した。
(2)曲げ強度
実施例、比較例で得られた平板から3点曲げ試験用サンプルを切り出し、万能試験機(ミネベア(株)製、TCM−500型万能引張圧縮試験機)を用いて、JIS K7017に従い3点曲げによる曲げ強度測定を行った。
(3)反り
反りはJISK6911に準じて測定した。
(4)フリーフェノール含有量
フリーフェノールの測定はガスクロマトグラフィーで測定した。
(5)細孔容積
水銀ポロシ法により測定した。
[実施例1、2、参考例1]
【0016】
レゾール系フェノール樹脂(旭有機材工業(株)製 フリーフェノール5.5%)、またはレゾール系フェノール樹脂(コーロン社製 フリーフェノール8%、KRP−25L)、硬化性調整剤として水酸化カルシウム(和光純薬工業(株)製 試薬特級)、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(関東化学(株)製 試薬1級)、無機充填材として水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製 ハイジライトH32)及びカオリンクレイ(ENGELHARD社製 ASP−400P)、シランカップリング剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、エポキシシランと言う。)(信越化学(株)製 KBM−403)をハンドミキサーにて約10分間混合攪拌してSMC用ペーストを得た。キャリアフィルムに厚み40μmのポリプロピレン製フィルム(サン・トックス(株)製、サン・トックスCP)を用い、SMC製造装置を用いて上記SMCペースト75重量部に対してガラス繊維(日東紡績(株)製、RS240PB−548AC、平均繊維径11μm、平均繊維長25mm、Eガラス)25重量部の割合で散布してペーストの間にはさみ込み含浸させ、その後、60℃で15時間熟成処理を行い、フェノール樹脂成型用材料を得た。次に金型温度180℃で真空引きと同時に加圧を行い、引き続き同温度で圧力1.17×10Paの条件下で3分間圧縮成型して150mm×150mm×2mmの成型体を得た。
[比較例1、2]
【0017】
レゾール系フェノール樹脂(旭有機材工業(株)製)、またはレゾール系フェノール樹脂(昭和高分子工業(株)製 フリーフェノール13%)、硬化性調整剤として水酸化カルシウム(和光純薬工業(株)製 試薬特級)、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(関東化学(株)製 試薬1級)、無機充填材として水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製 ハイジライトH32)及びカオリンクレイ(平均粒径 12μm)、シランカップリング剤としてエポキシシラン(信越化学(株)製 KBM−403)をハンドミキサーにて約10分間混合攪拌してSMC用ペーストを得た。キャリアフィルムに厚み40μmのポリプロピレン製フィルム(サン・トックス(株)製、サン・トックスCP)を用い、SMC製造装置を用いて上記SMCペースト75重量部に対してガラス繊維(日東紡績(株)製、RS240PB−548AC、平均繊維径11μm、平均繊維長25mm、Eガラス)25重量部の割合で散布してペーストの間にはさみ込み含浸させ、その後、60℃で15時間熟成処理を行い、フェノール樹脂成型用材料を得た。次に金型温度180℃で真空引きと同時に加圧を行い、引き続き同温度で圧力1.17×10Paの条件下で3分間圧縮成型して150mm×150mm×2mmの成型体を得た。
【0018】
【表1】

寸法安定性の評価結果からフリーフェノール含有率の低いフェノール樹脂を使用することで寸法安定性は著しく向上することがわかる(実施例1〜2、比較例1)。またフリーフェノール含有量の低いフェノール樹脂を使用しても粒度の粗いカオリンを使用した場合には寸法安定性は低下している(参考例)難燃性の評価結果から、フリーフェノール含有量の高いフェノール樹脂を使用し、樹脂含有量の多い成型体では不燃性の向上は見られない(比較例1)。フリーフェノール含有量も多く、かつ無機充填材の平均粒径を大きくした場合にはさらに寸法安定性は低下している(比較例2)。
これらのことより、フリーフェノール含有率の低いフェノール樹脂を使用し、特定粒度のカオリンクレイを無機充填剤として組み合わせることによって寸法安定性と同時に難燃性が飛躍的に向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、建築用部材、車両用部材をはじめとする各種成型体として好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100〜10000オングストロームの近似直径範囲の細孔容積が0.20ml/g以下であることを特徴とするフェノール樹脂成型体
【請求項2】
フェノール樹脂、補強繊維、無機充填材からなり、フェノール樹脂のフリーフェノール含有量が8重量%以下であることを特徴とするフェノール樹脂成型用材料
【請求項3】
無機充填材の粒度分布が2μm〜10μmの範囲であることを特徴とする請求項2記載のフェノール樹脂成型用材料
【請求項4】
フェノール樹脂量が10〜30重量部、補強繊維量が10〜50重量%および無機充填材量が20〜80重量%であることを特徴とする請求項2乃至3記載のフェノール樹脂成型用材料
【請求項5】
請求項2乃至4記載のフェノール樹脂成型用材料を使用して加熱加圧成型してなることを特徴とするフェノール樹脂成型体の製法

【公開番号】特開2006−131732(P2006−131732A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321731(P2004−321731)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】