説明

フェノール樹脂成形材料

【課題】工場などから排出される産業廃棄物や一般廃棄物中に大量に含まれる、熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを分解および/または可溶化処理して、得られた再生基材を再利用したフェノール樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】フェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを分解および/または可溶化して得られる有機成分により複合されたガラス繊維の再生基材を含むことを特徴とするフェノール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂成形材料に関するものである。さらに詳しくは、本発明は熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを処理して得られる再生基材を含むフェノール樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの中でも熱硬化性樹脂は、優れた電気絶縁性・耐熱性・機械的強度を示すため、電気・電子部品、自動車部品等の材料として広く用いられている。熱硬化性樹脂は、一旦、硬化すると、熱により軟化・融解せず、溶剤にも溶解しないため、その硬化物から有価な化学原料を再生することは、技術的に困難であった。しかし、環境保全と資源循環型社会構築の必要性が検討されている昨今、熱硬化性樹脂のリサイクルに関しても様々な研究が行われている。
【0003】
これらの課題を克服するため、超臨界流体を用いて熱硬化性樹脂を可溶化処理して、化学原料を回収する方法に関する検討がなされている。例えば、超臨界又は亜臨界状態の、単核フェノール化合物又は水/単核フェノール化合物の溶液中で熱硬化性樹脂を可溶化処理して、樹脂成分のオリゴマーを回収する方法が検討されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。この方法では、酸触媒やアルカリ触媒などを加えることなく、10分間程度の短い反応時間で熱硬化性樹脂が可溶化して、分子量200〜10,000のオリゴマー成分を回収でき、そのオリゴマーは化学原料として再利用可能であるとしている。
【0004】
前記リサイクル法において、熱硬化性樹脂に充填材が含まれる場合には、主に充填材からなる分解残渣が生成する。また、熱硬化性樹脂の樹脂成分の分解反応が完了しない場合や、重合炭化化合物が発生した場合は、未分解成分や重合炭化物から成る、分解残渣が生成する。しかし、前記リサイクル方法において、前記分解残渣を特定の範囲に調整する工程を経ずに、そのまま再生基材として再利用した場合には、再生基材の有機分含有量や、粒径、あるいは配合量などによっては、リサイクルプラスチックの機械強度が低下する場合があった。
【0005】
一方、充填材を回収することを目的とした検討では、例えば、超臨界液体または亜臨界液体を用いて樹脂成分だけを取り除き、リサイクル炭素繊維を回収する検討も行われている(例えば、特許文献2)が、回収したリサイクル炭素繊維を用いた再生材料の機械強度に関しては明らかにされていない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−151933号公報(第3−4頁)
【特許文献2】特開2003−190759号公報(第3−4頁)
【非特許文献1】第52回ネットワークポリマー講演討論会講演予稿集,56−59(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを処理して得られる再生基材を含むフェノール樹脂成形材料において、再生基材を用いても、従来法よりも機械強度が良好なフェノール樹脂成形材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、
(1) フェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを分解および/または可溶化して得られる、ガラス繊維を有する再生基材を含むことを特徴とするフェノール樹脂成形材料、
(2) 前記熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックの粒径が0.1μm以上10,000μm以下である、前記第(1)項に記載のフェノール樹脂成形材料、
(3) 前記再生基材は、ガラス強化繊維プラスチックに含まれる有機成分および/または溶媒中に含まれるフェノール化合物と、無機成分とが複合されたものである前記第(1)項または第(2)項に記載のフェノール樹脂成形材料、
(4) 前記無機成分は、ガラス繊維強化プラスチックに含まれるガラス繊維を含むものである前記第(1)項乃至第(3)項に記載のフェノール樹脂成形材料、
(5) 前記再生基材は、ガラス繊維強化プラスチックに含まれる無機成分100重量部に対して、1〜100重量部の前記プラスチックの分解樹脂成分および/または前記プラスチックの未分解有機成分を含むことを特徴とする、前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料、
(6) 前記再生基材は、再生基材全体に対して、ガラス繊維強化プラスチックに含まれるガラス繊維を10〜99重量%含むものである前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料、
(7) 前記再生基材に含まれるガラス繊維の繊維長は、0.1μm以上5,000μm以下である前記第(4)項乃至第(6)項のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料、
(8) 前記再生基材に含まれるガラス繊維のL/Dは、0.01以上500以下である前記第(4)項乃至第(7)項のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料、
(9) 前記再生基材は、その大きさが0.1μm以下および/または5,000μm以上のものを除去したものである、前記第(1)項乃至第(8)項のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料、
(10) フェノール樹脂100重量部に対して、前記再生基材1〜300重量部を含む前記第(1)項乃至第(9)項のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工場などから排出される産業廃棄物や一般廃棄物中に大量に含まれる、熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを分解および/または可溶化処理して、得られた再生基材を再利用したフェノール樹脂成形材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、フェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを分解および/または可溶化処理して得られる再生基材を含むことを特徴とするフェノール樹脂成形材料である。なお、本発明におけるプラスチックの処理とは、化学的な分解による処理および/または物理的な可溶化による処理を含むものである。
【0011】
本発明で処理される熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックは、硬化した樹脂、未硬化もしくは半硬化の樹脂、これらの樹脂を含有するワニスなどを含むものとする。また、単独の熱硬化性樹脂の他に、ガラス繊維を含むものである。また、それ以外の成分としては、充填材として、金属および金属の酸化物、水酸化物をはじめとする無機充填材や、木材、紙、布などの有機充填材も含むものとする。本発明における再生基材としては、上記熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックに含まれる有機成分や無機成分が挙げられ、前記有機成分としては、前記プラスチックに含まれ分解・可溶化処理により得られる樹脂成分、未分解有機成分などが挙げられ、前記無機成分としては、前記プラスチックに含まれ分解・可溶化処理により得られるガラス繊維、更にはガラス繊維以外の無機充填材を挙げることができる。
【0012】
本発明に適用されるガラス繊維強化プラスチックにおける熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂について、特に効果的に適応できる。更には、フェノール樹脂を含むものが、より好ましい。また、処理に供するガラス繊維強化プラスチックの粒径は0.1μm以上10,000μm以下の範囲が好ましい。粒径が前記範囲より小さい場合は、処理して得られる再生基材の粒径も小さいため、強化材としての効果が得られない場合がある。また、前記範囲よりも大きい場合には、分解および/または可溶化処理に要する時間が増大し処理効率が低下するため、実用的ではない。前記ガラス繊維強化プラスチックの粒径の調整方法としては、粉砕による方法、篩分による方法、重力式分級機による方法、前記調整方法による調整物の混合による方法などが挙げられるが、前記粒径の範囲に調整できればよく、これらの方法に限定されるものではない。前記粉砕による方法としては、例えば、ハンマーミルおよびレイモンドミルなどの粉砕機により粗粉砕する方法、ボールミルなどの粉砕機により微粉砕する方法が挙げられ、これらの粉砕後に、篩い分けにより粒径を調整したものを用いるのが好ましい。
【0013】
1 ガラス繊維強化プラスチックを分解・可溶化する工程
前記熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを、フェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、分解および/または可溶化し、特定の再生基材を用いることにより、強化材として再利用可能な再生基材を得ることができる。
(a)溶媒
本発明に用いるフェノール化合物は、芳香環の炭素に結合する水素の少なくとも一つが水酸基に置換しているものであり、これを単独又は水との混合物の溶媒として、ガラス繊維強化プラスチックを、後述する条件において、分解および/または可溶化処理し得るフェノール化合物であれば、特に限定されない。通常、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、及びアルキル置換フェノールなどの単核フェノール化合物、または、1−ナフトール、2−ナフトールなどのフェノール化合物が好適に挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。これらの内、コスト面及び分解および/または可溶化反応に与える効果から、フェノールが好ましい。また、前記フェノール化合物が、本発明のガラス繊維強化プラスチックの処理方法により、プラスチックを分解および/または可溶化した後、分離・精製して得られるフェノール化合物を含むものを用いることができる。
【0014】
前記溶媒として、フェノール化合物以外の、他の溶媒との混合物を用いる場合、他の溶媒としては、水をはじめとして、メタノールおよびエタノール等のモノマーアルコール類、エチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、有機酸類、酸無水物類など、通常の化学反応において溶媒として用いられるものは、いずれを用いても良く、また、複数の溶媒を使用しても良い。また、フェノール化合物に対する他の溶媒の混合割合としては、フェノール化合物100重量部に対して他の溶媒1〜500重量部の割合で混合して用いることが好ましく、さらに好ましくは、フェノール化合物100重量部に対して他の溶媒1〜100重量部の割合である。
【0015】
また、本発明における、フェノール化合物を必須成分とする溶媒の使用割合は、ガラス繊維強化プラスチック100重量部に対して、50〜1000重量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは100〜400重量部の範囲である。反応溶媒が前記下限値よりも少なくなると、ガラス繊維強化プラスチックの分解および/または可溶化反応を円滑に進行させるのが困難になることがある。一方、前記上限値よりも多くなると、反応溶媒を加熱するために多大な熱量を必要とし熱エネルギーの消費が多くなる反面、格別な効果が得られない場合がある。
【0016】
(b)処理条件
本発明における分解および/または可溶化処理条件としては、前記フェノール化合物を必須成分とする溶媒を温度及び圧力により調整することができる。前記温度としては、通常、100〜500℃の範囲が好ましく、より好ましくは200〜450℃の範囲である。温度が前記下限値よりも低くなると、ガラス繊維強化プラスチックの分解および/または可溶化速度が低下し、短時間での処理が困難になる場合がある。一方、温度が前記上限値よりも高くなると、熱分解や脱水反応などの副反応が併発して、回収したガラス繊維強化プラスチックの樹脂成分や再生基材の化学構造が変化するため、化学原料としての再利用が困難になる場合がある。また、前記圧力としては、通常、1〜60MPaが好ましく、より好ましくは2〜40MPaの範囲である。圧力が前記下限値よりも低くなると、分解および/または可溶化速度が低下してしまい、ガラス繊維強化プラスチックの処理自体が困難になる場合がある。圧力が前記上限値より高くなると、より過酷な条件で運転可能な設備が必要となり、高圧を維持するために必要なエネルギーが増加する反面、分解および/または可溶化速度はほとんど向上せず、格段な効果が得られない場合がある。さらに、分解および/または可溶化処理の雰囲気としては、空気雰囲気下、窒素などの不活性ガス雰囲気下のどちらを選択してもよく、処理容器は開放系でも密封系でもどちらの系でも行うことができ、特に限定されることはないが、一例としては、オートクレーブをはじめとする加熱加圧処理容器などが挙げられる。分解・可溶化工程の時間は、1〜60分の範囲で調節できるが、通常は3〜30分程度で処理が完了する。
【0017】
(c)触媒
ガラス繊維強化プラスチックの分解・可溶化においては、処理速度を促進する触媒を用いた方がより効果的である。その場合の触媒としては、特に限定はないが、例えば、ブレンステッド酸塩基・ルイス酸塩基、あるいは、天然無機・有機化合物、さらには金属酸化物で水和反応等によって同等の効果を示す化合物などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、前記触媒の添加量は、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0018】
2.再生基材の調整方法
前記再生基材は、上記の処理を行った加熱加圧処理容器の内容物から、溶媒(フェノール化合物、水など)及び有機成分から分離することによって得られ、フェノール樹脂成形材料の強化材として再利用することができる。
前記分離方法としては、特に限定されるものではなく、通常の固液分離で用いられる、サイクロン・ろ過・重力沈降などの方法が挙げられる。また、処理で得られた再生基材と有機成分とを含む混合物を、有機溶媒で希釈した後に、サイクロン・ろ過・重力沈降などの固液分離操作をしても良い。
【0019】
前記再生基材は、0.1μm以上5,000μm以下の範囲に、その大きさが調整されたものを用いることが好ましい。前記再生基材の大きさの調整方法としては、開口径が0.1μmの篩を未通過で、開口径が5,000μmの篩を通過したものを用いる方法を挙げることができる。前記範囲よりも粒径が小さな再生基材を配合した場合には、再生基材として得られるガラス繊維の繊維長が必要以上に短くなり強化材としての効果が小さくなるため、再生基材を用いたフェノール樹脂成形材料の機械強度が低下する場合がある。また、前記範囲よりも粒径が大きな再生基材を配合した場合には、フェノール樹脂成形材料中の再生基材が均一に分散せずに、成形不良を生じる場合がある。尚、前記再生基材を篩い分けする工程は、再生基材を乾燥した後でも、溶媒中に分散した状態でも行うことができる。
【0020】
前記再生基材は、ガラス繊維強化プラスチックに含まれる無機成分100重量部に対し、1〜100重量部の前記ガラス繊維強化プラスチックに含まれ分解・可溶化処理により得られる分解樹脂成分および/または未分解有機成分が複合されたものであることがより好ましい。
本発明においては、物理的に、前記有機成分が、無機成分、特にガラス繊維の表面を複合化吸着する場合もあるが、ガラス繊維の表面上で有機成分が化学反応によって複合化する場合もある。
さらに、本発明によって得られる再生基材中のガラス繊維の表面には、ガラス繊維強化プラスチックの分解および/または可溶化処理時に、溶媒として用いたフェノールが物理および/または化学的に複合化されている場合もある。このように、再生基材中の無機成分と有機成分が物理および/または化学的に複合されることによって、再生基材と新たに配合した樹脂成分との界面における密着性が向上し、再生基材を用いたフェノール樹脂成形材料の機械強度が向上する。
【0021】
前記再生基材に含まれるガラス繊維は、再生基材全体に対して10〜99重量%の割合であることが好ましい。前記範囲より割合が少ない場合は再生基材が有する強化材としての効果が得られない場合があり、前記範囲より多い場合には有機成分をほとんど含まないため、それを用いたフェノール樹脂成形材料中の樹脂成分との密着性に大きな効果が得られない場合や、再生基材中の無機成分を集束するバインダーとしての樹脂成分による効果が得られない場合がある。また、ガラス繊維の繊維長は0.1μm〜5,000μmの範囲であることが好ましく、ガラス繊維のL/Dは0.01〜500の範囲であることがより好ましい。前記範囲よりL/Dが小さい場合には、ガラス繊維の強化材としての効果が十分得られない場合がある。なお、前記範囲よりも大きなガラス繊維として得るためには、分解および/または可溶化工程に供するガラス繊維強化プラスチックの粒度を大きくする必要があり、処理に要するエネルギーが非常に増大するため実用的ではない。
【0022】
再生基材中のガラス繊維は、前記ガラス繊維強化プラスチックに含まれる有機成分および/または溶媒として用いるフェノール化合物によって、その表面が物理的あるいは化学的、さらにはその両方によって複合された状態で存在する。例えば、物理的にはガラス繊維の表面を前記有機成分がコーティングする場合や、化学的には珪素や、シロキサン結合の酸素、あるいは水酸基部位に前記有機成分が化学結合する場合がある。
【0023】
上記有機成分は、通常、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物を含むものである。ここで、本発明における分子量とは、重量平均分子量を意味するものとする。200〜100,000の分子量は、通常のフェノール樹脂など熱硬化性樹脂から構成されるプラスチック、中でも、成形材料を製造する際に用いられる化学原料(プレポリマー)と同程度であるため、必要に応じて精製を行うことにより、プレポリマーとして再利用することができる。前記樹脂成分の代表的な例としては、プラスチックがフェノール樹脂で構成される場合、フェノール骨格の核間がメチレン結合で結合した、フェノール樹脂またはオリゴマーが挙げられる。その他の例としては、フェノール樹脂以外にメラミン樹脂で構成される場合、メラミン骨格の核間がメチレン結合で結合したメラミン樹脂構造を含むフェノール樹脂またはオリゴマー、フェノール樹脂以外にユリア樹脂で構成される場合、ユリア骨格の核間がメチレン結合で結合したユリア樹脂構造を含むフェノール樹脂またはオリゴマー、あるいは、これらそれぞれを含む場合、上記それぞれの樹脂またはオリゴマーや、フェノール骨格、メラミン骨格、ユリア骨格のそれぞれがメチレン結合で共重合した構造を含むフェノール樹脂などが挙げられるが、これらの成分は一例であり、前記樹脂成分は何ら限定されるものではない。ここで、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とするとは、ここで示した分子量の樹脂成分が50%以上含まれることを言うが、主体とする分子量の他に、分子量100,000以上の樹脂成分も含まれる。また、200〜100,000の分子量を有する樹脂成分としては、通常のフェノール樹脂の場合は、原料モノマーの2〜1,000核体程度である。また、前記200〜100,000の分子量を有する樹脂成分を主体とする化合物は、プラスチック中のフェノール樹脂など樹脂成分から得られる成分だけでなく、プラスチック中に含まれる有機質系充填材や基材から得られる成分を含む場合がある。
【0024】
3.再生基材を含むフェノール樹脂成形材料
本発明のフェノール樹脂成形材料において、上記の熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックの処理方法、および再生基材の調整方法により得られた再生基材を、フェノール樹脂成形材料の原料として再利用するものである。
【0025】
前記熱硬化性樹脂を含むプラスチックより得られる再生基材を、上記成形材料の原料として再利用する方法としては、前記再生基材を他の原材料と混合して公知の製造方法により再利用できるが、その際、新たな基材を用いることなく前記再生基材だけを原材料として用いても良いし、他の化学原料および/または充填材と併用して用いても良い。前記再生基材の含有量としては、フェノール樹脂100重量部に対して、1〜300重量部の範囲であればよく、フェノール樹脂成形材料全体に対しては、好ましくは2〜80重量%であり、より好ましくは5〜60重量%である。
【0026】
前記フェノール樹脂成形材料に用いるフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂が挙げられる。
前記フェノール樹脂成形材料においてノボラック型フェノール樹脂を用いる場合、通常、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用するが、ヘキサメチレンテトラミンの含有量としては、通常のフェノール樹脂成形材料と同様に、10〜25重量部が好ましい。ノボラック型フェノール樹脂の含有量は、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用する場合はそれも含めて、フェノール樹脂成形材料全体に対して20〜80重量%とすることが好ましく、さらに好ましくは30〜60重量%である。また、フェノール樹脂成形材料の硬化速度を調整するために、必要に応じて酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどを硬化助剤として用いることができる。
【0027】
また、フェノール樹脂成形材料の原材料として、前記再生基材を通常の充填材と併用する場合、併用する充填材としては、特に限定されないが、通常のフェノール樹脂成形材料で用いる、無機基材および/または有機基材を用いることができる。前記無機基材としては、例えば、炭酸カルシウム、焼成クレー、タルク、シリカ、ケイソウ土、アルミナおよび酸化マグネシウムなどが挙げられる。これらの無機基材は、成形品の用途等により必要に応じて選択することができる。また、有機基材としては、例えば、木粉、パルプ、合板粉、紙粉砕粉および布粉砕粉などが挙げられる。
【0028】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、上記成分を適宜配合して混合し、これを、加熱ロールや加熱ニーダーなどの混練機を用いて混練した後、粉末など形状して得ることができる。
また、このようにして得られたフェノール樹脂成形材料は、圧縮成形法、移送成形法や射出成形法などの方法により成形して、成形品として、種々の用途に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これによって何ら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
(1)ガラス繊維強化プラスチック硬化物の準備
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製、PR−51714):35重量部、ヘキサメチレンテトラミン(和光純薬製、特級):10重量部をクッキングミル(松下電器製、ファイバーミキサー)で乾式混合して、その混合物にEガラス繊維(日本板硝子製、チョップドストランド):55重量部を加え、袋の中で乾式混合することによってフェノール樹脂成形材料を得た。これを、プレス成形機(温度:175℃、圧力:10MPa、成形時間:3分間)により成形し、ガラス繊維強化プラスチック硬化物を得た。
(2)ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理
上記で得たガラス繊維強化プラスチックの硬化物を粉砕後、篩いわけして、粒子径を0.1μm以上1,000μm以下に調整したものを用いた。
上記のフェノール樹脂成形材料硬化物:58.3gと、フェノール:85.6gと水:21.3gの混合物からなる反応溶媒とを混合する際に、塩基性触媒として、粉末状の水酸化カルシウム(関東化学社製)0.6gを加えた。上記の混合物を、オートクレーブ(日東高圧(株)製 内容積200cm)に仕込んだのち、300rpmで攪拌しながら、内温を300℃とすることで、反応器内圧を5.0MPaまで上昇させ、20分保持して分解・可溶化処理を行った後、空冷して、常温・常圧に戻した。前記処理による生成物と未反応溶媒の混合物にメタノールを加え樹脂成分を溶解させたのち、孔径1.0μmのフィルターでろ過して、そのろ残を回収した。さらに、回収したろ残に対して等量のメタノールを加え、攪拌しながら40℃で30分間洗浄し、再度1.0μmのフィルターでろ過したのちに、120℃で2時間乾燥させることによって再生基材30gを得た。
【0031】
上記で得られた再生基材を篩い分けによって、0.1μm〜1,000μmの範囲の粒径に調整した。また、再生基材に含まれる有機成分は、500℃で5時間燃焼した後の重量減少を測定することによって求め、その結果、無機物に対して10重量部であった。なお、再生基材中の無機物中には分解・可溶化処理に用いた水酸化カルシウムが含まれているため、無機物中のガラス繊維の割合は98重量%であり、再生基材全体に対する割合は88重量%である。さらに、再生基材1重量部に対して99重量部の塩化カリウムを配合し、フーリエ変換赤外分光光度計によって分析を行ったところ、ガラス成分に由来するスペクトル以外に、フェノール、フェノール樹脂あるいはその硬化物に由来するピークがあることを確認した。
【0032】
(3)ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物のリサイクル
上記の処理方法によって得られた再生基材を用いて、リサイクルフェノール樹脂成形材料を作製し、成形材料の機械強度は、曲げ強度・曲げ弾性率を測定することによって評価した。
【0033】
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製、PR−51714):35重量部、ヘキサメチレンテトラミン(和光純薬製、特級):10重量部をクッキングミル(松下電器製、ファイバーミキサー)で乾式混合し、その混合物にEガラス繊維(日本板硝子製、チョップドストランド):45重量部、および上記の処理方法によって得られた再生基材:10重量部を加え、袋の中で乾式混合することによって、フェノール樹脂成形材料を得た。これを、プレス成形機(温度:175℃、圧力:10MPa、成形時間:3分間)により、成形し、曲げ強度・曲げ弾性率の試験片を作製した。曲げ強度及び曲げ弾性率の測定は、JIS−K6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠して行った。その結果、曲げ強度:210MPa、曲げ弾性率:18,000MPaを得た。
【0034】
[実施例2]ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、再生基材を、40℃、30分でメタノールを用いて洗浄を行う工程を除いた以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0035】
[実施例3]ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、リサイクルフェノール樹脂成形材料の配合を、再生基材10重量部から20重量部に代え、Eガラス繊維45重量部を35重量部と代えた以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0036】
[実施例4]ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、分解・可溶化処理時間を20分から0分とした以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0037】
[実施例5]ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、分解・可溶化処理時間を20分から120分に代えた以外は、実施例1と同様な操作で処理を行い、リサイクルしたフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0038】
[実施例6]ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、リサイクルフェノール樹脂成形材料の配合を、再生基材10重量部から40重量部に代え、Eガラス繊維45重量部を15重量部に代えた以外は、実施例1と同様な操作で、リサイクルフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0039】
[実施例7]ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理及びリサイクル
実施例1において、再生基材を篩い分けする工程を除いた以外は、実施例1と同様な操作で、リサイクルフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0040】
[比較例1]バージン材のガラス繊維のみを用いたフェノール樹脂成形材料の作製及び機械強度の評価
実施例1において、リサイクルフェノール樹脂成形材料の配合を、再生基材10重量部、Eガラス繊維45重量部から、Eガラス繊維を55重量部に代えた以外は、実施例1と同様な操作でフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0041】
[比較例2]水のみで処理した再生基材を用いたフェノール樹脂成形材料の作製及び機械強度の評価
実施例1において、溶媒の組成をフェノール85.6g、水21.3gから水106.9gとし、分解・可溶化処理温度を300℃から380℃、処理圧力を5MPaから25MPaとした以外は、実施例1と同様な操作でフェノール樹脂成形材料を得た。結果を、表1にまとめて示した。
【0042】
【表1】

表1.ガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料硬化物の処理結果及びリサイクル結果
【0043】
表1に示した結果からわかるように、実施例1〜3の再生基材を用いたフェノール樹脂成形材料の曲げ強度は、比較例1のバージン材のガラス繊維のみを用いたフェノール樹脂成形材料とほぼ同等である。また、再生基材中の含有有機成分が多い場合(実施例4)や、有機成分を含まない場合(実施例5)、再生基材の配合量をフェノール樹脂100重量部に対して、10重量部添加した場合(実施例6)、および篩い分け工程を経ない場合(実施例7)には、僅かに曲げ強度・弾性率の低下が確認されるが、実用上問題ない範囲である。これに対して、分解・可溶化処理溶媒に必須成分であるフェノールを含まずに水のみを用いた場合(比較例2)には、再生基材が有する強化材としての効果が小さく、曲げ強度・弾性率が低下していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール化合物を必須成分とする溶媒中で、熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックを分解および/または可溶化して得られる、ガラス繊維を有する再生基材を含むことを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂を含むガラス繊維強化プラスチックの粒径が0.1μm以上10,000μm以下である、請求項1に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項3】
前記再生基材は、ガラス強化繊維プラスチックに含まれる有機成分および/または溶媒中に含まれるフェノール化合物と、無機成分とが複合されたものである請求項1または2に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項4】
前記無機成分は、ガラス繊維強化プラスチックに含まれるガラス繊維を含むものである請求項1乃至4に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項5】
前記再生基材は、ガラス繊維強化プラスチックに含まれる無機成分100重量部に対して、1〜100重量部の前記プラスチックの分解樹脂成分および/または前記プラスチックの未分解有機成分を含むものである請求項1乃至4のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項6】
前記再生基材は、再生基材全体に対してガラス繊維強化プラスチックに含まれるガラス繊維を10〜99重量%含むものである請求項1乃至5のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項7】
前記再生基材に含まれるガラス繊維の繊維長は、0.1μm以上5,000μm以下である請求項4乃至6のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項8】
前記再生基材に含まれるガラス繊維のL/Dは、0.01以上500以下である請求項4乃至7のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料
【請求項9】
前記再生基材は、その大きさが0.1μm以下および/または5,000μm以上のものを除去したものである、請求項1乃至8のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項10】
フェノール樹脂100重量部に対して、前記再生基材1〜300重量部を含む請求項1乃至9のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。

【公開番号】特開2006−233141(P2006−233141A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53623(P2005−53623)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】