説明

フェノール類を含む排水の処理方法

【課題】 フェノール類を含む高COD排水に対し、従来の生物学的処理法に比べてオペレーション技術の簡易化、設備の小型化、エネルギーコストの削減が可能な排水処理方法を提案する。
【解決方法】
該排水の電導度が2mS/cm以上の場合、鉄を電極にした電気分解を行う。pHを6以上9未満に調整し微粒子を発生させ、これを沈殿除去後水酸化第2鉄コロイド粒子を加えて沈殿除去する。孔拡散・ろ過法で固液分離する。
電導度が2mS/cm未満の場合、酸化剤を加えた後に、塩化第1鉄水溶液または塩化第2鉄水溶液を加えるか、あるいは塩化第1鉄と塩化第2鉄を混合した水溶液を加えるか、あるいは平均粒径4nm以上30nm未満の水酸化第2鉄コロイドを加える。pHを5以上9未満に調整してした沈殿物を除去し水酸化第2鉄コロイドの添加および高分子膜を用いての沈殿物の固液分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール類を含有する高COD排水のCOD減少を目的とする排水処理方法に関する。より詳しくは、水酸化第2鉄コロイドを発生させるかあるいは添加してCOD原因物質を微粒子化し、凝集・吸着効果により該排水中のCOD成分を沈殿除去する処理技術に関する。沈殿物は高分子多孔膜で孔拡散・ろ過法により除去するかあるいは遠心力を用いて系外へ効率的除去することにより沈殿工程の短縮化を図る処理技術に関する。
【0002】
本発明はCODのみではなく重金属除去やさらに除去困難なヒ素、シリカ、リン、フッ素等の水溶液中で陰イオンを形成している物質の除去も可能とする処理方法であり、従来の排水処理工程の短縮化を目指す処理技術である。
【背景技術】
【0003】
一般的に、有機性排水の処理においては、活性汚泥法や生物膜法を用いた生物学的処理法が主流である。生物学的処理法とは、微生物の代謝エネルギーを排水中の有機物から取り出し、これを炭酸ガスや水に分解しBODやCODの原因物質を系外に排出することによって良質な処理水を得る浄化技術のことである。しかし生物学的処理法には、以下に示すような問題がある。
【0004】
良質な処理水を得るためには、微生物を適切に維持管理する必要があり、そのためには有機物負荷、pH等の流入水の水質管理、反応槽への酸素供給量の管理等が必要となり高度なオペレーション技術が要求される。また冬季の水温低下時には、微生物の活動量が低下し排水の処理性能にも大きな影響を与えるので、水温管理も重要な監視項目である。
【0005】
生物学的処理法だけでは処理が不十分な場合には、前処理や後処理を付加したり、水で希釈後生物学的処理を行い環境基準や下水道基準を満足させている。例えば、前処理には凝集沈殿処理や浮上分離処理があり、後処理にはオゾン処理、活性炭吸着処理や膜処理等がある。
【0006】
近年、企業の環境保全に対する意識は高く、生産ラインの見直しや変更により排水量が減少しているところでは、反応槽の容量に柔軟性がなく過大な施設となっており、現在の適正規模とミスマッチが生じている。
【0007】
難分解性物質を含む排水の処理が難しい。例えば化学合成品の場合は、自然界では存在しない物が多く、これらの物質はCOD原因物質ともなり生物学的処理法が有効でない場合が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の生物学的処理法に変わり、水酸化第2鉄コロイドの微粒子を発生させるか添加してCOD原因物質を取り込み、沈殿除去するという物理化学的アプローチにより排水処理を行うものである。本発明が導入されれば、COD原因物質の除去に加えて水酸化第2鉄コロイドの微粒子が持つ陰イオンおよび負に荷電した微粒子が除去できる。また設備面においては、運転管理の容易化、設備の小型化、ランニングコストの削減等のメリットがある。本発明でCODに関連した除去対象とする物質は、生物学的処理法では除去が困難であるフェノール類を含むような難分解性のCOD原因物質で、除去対象物質の濃度はCODで1,500mg/l程度までの高濃度排水とする。また該排水には無機系のCOD原因物質を含み、さらにヒ素等の重金属物質も含むことを想定する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の最大の特徴は、フェノール類を含む高COD排水に対し、水酸化第2鉄コロイド(粒子径5〜20nm)の凝集・吸着効果によりCOD原因物質をコロイド内部に取り込み、大粒子化して沈殿除去する点である。
【0010】
本発明は、無定形の水酸化鉄コロイド粒子がフェノール類と接触した場合にこれを吸着し大粒子化し沈殿する現象を見出し、本発明に至った。この吸着に効果的なコロイド粒子は4nm以上で30nm未満であり、水溶液のpHが5以上9未満にある場合である。
【0011】
水酸化第2鉄コロイド発生させるには、2つの方法がる。該排水の電導度が2mS/cm以上の時には鉄を陽極とした電気分解を行い、電導度が2mS/cm未満の場合には塩化鉄1水溶液あるいは塩化第2鉄水溶液を単独で添加するか、あるいは塩化第1鉄および塩化第2鉄の水溶液を同時に加えるか、あるいは水酸化第2鉄コロイド水溶液を添加する。いずれの方法も排水が酸化状態にあることが必要である。酸化状態下にあるかどうかは第1鉄イオン濃度と第2鉄イオン濃度の比が10以下であるかどうかで判断される。
【0012】
該排水の電気伝導度が2mS/cm以上の場合には、鉄を陽極とした電気分解を行う。その際、陰極と陽極との間に多孔性の隔膜を設け、それぞれの電極で起きている酸化還元反応の溶液が混合しないようにする。陰極では還元反応が起こり、陰極廻りにナトリウムイオン等の陽イオンが集まり、イオン化傾向の序列で主に水素ガスが発生する。一方、陽極では酸化反応が進み、電極である鉄から電子が奪われ、第1鉄イオンが排水中に溶けこむ。排水が酸化状態下にあると第1鉄イオンは第2鉄イオンに変化し、同時にコロイド粒子が発生することが明らかになった。逆に還元状態下にあると、陰極での反応により水への溶解性が変化し、新たな相分離が起こる場合もある。
【0013】
電気分解終了後、排水のpHを6以上9未満に調整する。pHの調整方法は陰極側と陽極側の排水の混合により行う。陰極側と陽極側の排水を混合すると、排水中の水酸化第1鉄は一挙に酸化され、水酸化第2鉄となりコロイド化し、コロイド粒子は微粒子化・大型化して大量の沈殿物が発生する。pHが4.5以下であれば水酸化第2鉄コロイドはコロイドとして安定化しているが、pHが5以上になり指定範囲内になるとコロイドは不安定化し水酸化第2鉄コロイドが核となって水酸化第1鉄を取り込みつつ他の陰イオンや負に荷電した粒子を取り込み大粒子化が進む。この大粒子化の過程でCOD原因物質を凝集・吸着しているものと考えられる。
【0014】
水酸化第2鉄コロイド水溶液を添加する場合には、処理対象とする排水のpHは6以上が望ましい。pHが8以上であれば、排水が還元状態であっても短時間で粒子を膜除去すればCOD低下効果が保持される。
【0015】
上記処理で生じた沈殿物除去が重要である。除去後の上澄水に、平均粒径10nm以上で20nm未満の水酸化第2鉄コロイド溶液(pHが2.2〜4.7に調整)を添加し、電気分解では除去しきれなかった陰イオン性の無機物質や、負に荷電した粒子でCOD原因物質の除去を行う。除去可能な無機物質として、ヒ素イオン、シアンイオン、珪酸イオンがある。沈殿物を除去せずに混在下で同様の処理を実施しても溶液のpHが設計通りにならない場合があり処理効果が低下する場合が多い。例えば、ヒ素イオン除去を目的にする場合には、pHが7前後に調整した後、上記コロイドを添加して添加後にpHが5になるように添加量を定める。
【0016】
電導度が2mS/cm未満の場合には、塩化第1鉄水溶液あるいは塩化第2水溶液、あるいは塩化第1鉄と塩化第2鉄とを混合した水溶液、あるいは平均粒径4nm以上で30nm未満の水酸化第2鉄コロイドの水溶液を加えて、水酸化第2鉄コロイドを発生させる。また、これらの水溶液の添加前には、あらかじめアルカリ性を示す次亜塩素酸等の酸化剤を添加しておくのが効果的である。排水をアルカリ性に振ることによって、フェノール類などの難分解性物質を負に荷電させ、正に荷電している水酸化第2鉄コロイドと微粒子化し易くするためである。水酸化第2鉄コロイドの微粒子化を有効に働かすために、pHを5以上9未満に調整する。
【0017】
本発明のもう一つの特徴は、最終的に生じた沈殿物の除去技術に高分子多孔膜を用いた孔拡散・ろ過法を採用した点である。孔拡散・ろ過法とは、高分子多孔膜の平均孔径と同一粒径を持つ粒子の膜中の孔にろ過による侵入速度を粒子の持つブラウン運動の速度以下にするろ過方法である。具体的には膜間差圧を0.3気圧以下でクロスフローろ過を行えば大部分孔拡散・ろ過に近づく。孔拡散・ろ過法を採用することにより目詰まりの起こりにくいろ過が可能となり、従来の膜ろ過法に比べて物理洗浄や薬品洗浄の頻度が少なくなる。また膜ろ過法を採用することによりコロイドの大型化に要する時間が短縮可能になり設備の小型化が可能となる。
【0018】
本発明処理を実施する際、処理対象の排水に対して曝気処理を施しながら水酸化第2鉄コロイド粒子の発生や添加を行うことにより撹拌効果と酸化状態を維持でき、特に低分子有機物除去に効果的である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、フェノール樹脂等を製造している工場の排水処理に適用可能である。例えば、イオン交換樹脂を製造する際には、高分子架橋物を必要とするが、この架橋物をレゾルシン等のポリフェノール化合物を利用する場合がその例である。低分子量のフェノール化合物は生物活性を不活化し、生分解性が劣る。そのためフェノール類を含有する高COD排水においては、従来の生物学的処理法の適用が困難である。本発明方法では生物学的処理の困難な排水に対しても適用が可能となり、さらに運転管理の容易化、設備の小型化、ランニングコストの削減等が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
電導度2mS/cm以上の場合、電気分解を行う。装置の構造は、電極の材質は両極とも鉄とし、陰極と陽極との間を隔膜で仕切る。電気分解終了後、陰極と陽極の排水を混合する。混合した排水のpHが6以上9未満になっていれば、水酸化第2鉄コロイドを核とした微粒子が発生し、沈殿化する。次に、上澄水と沈殿物を固液分離し、上澄水に平均粒径10nm以上20nm未満で鉄換算重量濃度5,000ppmの水酸化第2鉄コロイドを排水1l当たり2ml添加し撹拌する。静置後、処理水と沈殿物に分離する。
【0021】
電導度2mS/cm以下の場合、あらかじめサラシ粉を1.0g/lを溶解しpH9未満にした該排水に塩化第1鉄水溶液あるいは塩化第2鉄水溶液、あるいは塩化第1鉄と塩化第2鉄を混合した水溶液、あるいは平均粒径4nm以上30nm未満の水酸化第2鉄コロイド、のいずれかを添加し撹拌する。添加量は、塩化第1鉄は鉄換算重量濃度15,000ppmで注入率2ml/l、塩化第2鉄は鉄換算重量濃度20,000ppmで注入率2ml/l、水酸化第2鉄コロイドは鉄換算重量濃度5,000ppmで2ml/l、とする。撹拌後、排水のpHが5以上9未満の範囲から外れていたら、アルカリ性水溶液または酸水溶液で調整する。pHが上記の範囲にあるとき、水酸化第2鉄コロイドを核とした微粒子が発生する。静置後、固液分離以降の操作は電導度2mS/cm以上の場合と同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類を溶解したCODの高い排水のCODを減少させる排水処理方法において、酸化状態下において(1)塩化第1鉄水溶液あるいは塩化第2鉄水溶液、あるいは塩化第1鉄と塩化第2鉄とを混合した水溶液、あるいは平均粒径4nm以上で30nm未満の水酸化第2鉄コロイドの水溶液を加えるか、あるいは鉄を陽極として該排水に電気分解を行うことによって鉄イオンを発生させた後に、(2)当該排水のpHを5以上9未満にアルカリ水溶液または酸水溶液を混入させることにより調整し、(3)生じた沈殿物を除去後、(4)平均粒径10nm以上で20nm未満の水酸化第2鉄コロイド水溶液を添加し、沈殿物を除去することを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1の排水処理方法において該排水の電導度が2mS/cm以上の場合には、(1)において鉄を陽極として電気分解を行い、その際、陰極と陽極との間に多孔性の隔膜を設け、(2)においては該陰極側と陽極側の溶液を混合することによってpHを6以上9未満にし、(3)および(4)の沈殿物の除去法として高分子多孔膜を用いた孔拡散・ろ過法を採用することを特徴とする処理方法
【請求項3】
請求項1または請求項2の排水処理方法において該排水の電導度が2mS/cm未満の場合には、あらかじめアルカリ性を示す次亜塩素酸等の酸化剤を添加して、(1)、(2)、(3)、(4)を実施することを特徴とする処理方法。
【請求項4】
請求項1において、該排水に対して曝気処理を施しつつ(1)を実施することを特徴とする処理方法。

【公開番号】特開2012−196657(P2012−196657A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85782(P2011−85782)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(500553372)株式会社クロサキ (8)
【Fターム(参考)】