説明

フェロエレクトレット多層複合材料および平行管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の製造方法

本発明は、順に重ねられて一緒に結合された少なくとも2つのポリマーフィルムを含んでなるフェロエレクトレット多層複合材料(1)であって、ポリマーフィルムの間にボイドが形成され、ボイドが管状の特に平行なチャンネルである、フェロエレクトレット多層複合材料に関する。本発明は更に、平行な管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の製造方法、および前記フェロエレクトレット多層複合材料の製造方法を実施するための装置に関する。前記フェロエレクトレット多層複合材料を含んでなる圧電素子も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェロエレクトレット多層複合材料、並びに管状チャンネル、特に互いに平行に伸びた管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
具体的に調整できる有利な特性(例えば、低重量、熱伝導性、機械的変形性、電気的性質および遮断性)の故に、ポリマーおよびポリマー複合材料は、多数の産業上の用途に使用されている。例えばそれらは、食料品または他の商品のための包装材料として、例えば建築部門または車両構造において、構成材料または絶縁材料として使用されている。しかしながら、機能性ポリマーは、センサー用途またはアクチュエーター用途における動的要素としてますます重要になってきている。この点において1つの重要な応用概念は、電気機械変換器または圧電変換器としてのポリマーの使用に関する。圧電材料は、機械的圧力を電圧信号に線形変換することができる。逆に、圧電材料にかけられた電場は、変換器の形状寸法の変化に変換することができる。圧電性ポリマーは既に、多数の用途における動的要素として組み込まれている。それらは例えば、キーボードまたはタッチパッドのための構造化された圧力センサー、および加速度センサー、マイクロホン、拡声器、並びに医療技術、海洋工学における用途のためまたは材料試験のための超音波変換器を包含する。WO 2006/053528 A1には、例えば、ポリマーフィルムから作られた圧電素子に基づく電気音響変換器が記載されている。
【0003】
ここ数年、新種の圧電性ポリマー、いわゆるフェロエレクトレットに対する研究的興味が高まってきている。フェロエレクトレットは、ピエゾエレクトレットとしても知られている。フェロエレクトレットは、長期にわたって電荷を貯蔵でき、ボイド含有構造を付加的に示す、ポリマー材料からなる。これまでに知られているフェロエレクトレットは、気泡状ボイドを含有する構造を示し、発泡ポリマーフィルムとして、或いはポリマーフィルムまたはポリマー布地から作られた多層系として構成されている。電荷が、ボイドの様々な表面にそれらの極性に応じて分布されるなら、帯電された各ボイドは、電気双極子を示す。ボイドが変形されると、双極子の値は変化し、外部電極間に電流が流れる。フェロエレクトレットは、他の圧電材料と同程度の圧電活性を示すことができる。
【0004】
US 4,654,546は、フェロエレクトレットフィルムの前駆体としての発泡ポリプロピレンフィルムの製造方法を記載している。同方法では、充填材粒子をポリマーフィルムに添加する。充填材として、例えば二酸化チタンを使用する。押出後、充填材粒子周辺のフィルムに小さいボイドが生じるように、ポリプロピレンフィルムを二軸延伸する。ところで、この方法は、他のポリマーにも適用されてきた。例えばM. Wegener, M. Paajanen, O. Voronina, R. Schulze, W. WirgesおよびR. Gerhard-Multhaupt "Voided cyclo-olefin polymer films: Ferroelectrets with high thermal stability", Proceedings, 12th International Symposium on Electrets (IEEE Service Center, Piscataway, New Jersey, USA 2005), 47-50 (2005)並びにEetta Saarimaeki, Mika Paajanen, Ann-Mari Savijaervi, Hannu Minkkinen, Michael Wegener, Olena Voronina, Robert Schulze, Werner WirgesおよびReimund Gerhard-Multhaupt "Novel Heat Durable Electromechanical Film: Processing for Electromechanical and Electret Applications", IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation 13, 963-972 (October 2006)は、シクロオレフィンコポリマー(COC)およびシクロオレフィンポリマー(COP)からのフェロエレクトレットフィルムの製造を記載している。発泡ポリマーフィルムは、ブロードな気泡サイズ分布が生じ得るといった欠点を有する。その結果、後の帯電工程において、全ての気泡が均一に帯電されない可能性が存在する。加えて、発泡ポリマーフィルムを連続ロール・ツー・ロール製法で製造すると、一般的に、気泡サイズを最適化するために更なる加工工程を追加しなければならない。このことは、ロール・ツー・ロール製法を利用しにくくしている。
【0005】
発泡フェロエレクトレットポリマーフィルムの別の製造方法は、均質なフィルムの、超臨界流体(例えば二酸化炭素)による物理的直接発泡である。Advanced Functional Materials 17, 324-329 (2007), Werner Wirges, Michael Wegener, Olena Voronina, Larissa ZirkelおよびReimund Gerhard-Multhaupt "Optimized preparation of elastically soft, highly piezoelectric, cellular ferroelectrets from nonvoided poly(ethylene terephthalate) films"並びにApplied Physics Letters 90, 192908 (2007), P. Fang, M. Wegener, W. WirgesおよびR. Gerhard L. Zirkel "Cellular polyethylene-naphthalate ferroelectrets: Foaming in supercritical carbon dioxide, structural and electrical preparation, and resulting piezoelectricity"には、ポリエステル材料を用いたこの方法が記載されており、Applied Physics A: Materials Science & Processing 90, 615-618 (2008), O. Voronina, M. Wegener, W. Wirges, R. Gerhard, L. ZirkelおよびH. Muenstedt "Physical foaming of fluorinated ethylene-propylene (FEP) copolymers in supercritical carbon dioxide: single film fluoropolymer piezoelectrets"には、フッ素重合体FEP(フッ素化エチレン−プロピレンブロックコポリマー)に対するこの方法が記載されている。今日まで、超臨界二酸化炭素を用いた発泡法をロール・ツー・ロール製法で実施することもまた不可能であった。このことは、工業的用途における同方法の著しい欠点を表している。
【0006】
フェロエレクトレット多層系では、とりわけ、間に電荷を有する硬質層および軟質層の配置が知られている。"Double-layer electret transducer", Journal of Electrostatics, 第39巻、第33〜40頁、1997, R. Kacprzyk, A. DobruckiおよびJ. B. Gajewskiは、著しく異なった弾性率を有する固体材料からなる多層系を記載している。該多層系は、その積層系が比較的小さい圧電効果しか示さないといった欠点を有する。
【0007】
フェロエレクトレットの分野における最近の開発は、構造化ポリマー層を提供している。ここ数年にわたる複数の刊行物は、閉じた外側層と多孔性または有孔の中間層とを含んでなる多層系を記載している。それらは、Z. HuおよびH. von Seggernによる論文"Air-breakdown charging mechanism of fibrous polytetrafluoroethylene films", Journal of Applied Physics, 第98巻、paper 014108, 2005および"Breakdown-induced polarization buildup in porous fluoropolymer sandwiches: A thermally stable piezoelectret", Journal of Applied Physics, 第99巻、paper 024102, 2006、並びにH.C. Basso, R.A.P. Altafilm, R.A.C. Altafilm, A. Mellinger, Peng Fang, W. WirgesおよびR. Gerhardによる刊行物"Three-layer ferroelectrets from perforated Teflon -PTFE films fused between two homogeneous Teflon -FEP films" IEEE, 2007 Annual Report Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena, 1−4244−1482−2/07, 453−456 (2007)、並びにJinfeng Huang, Xiaoqing Zhang, Zhongfu XiaおよびXuewen Wangによる論文"Piezoelectrets from laminated sandwiches of porous polytetrafluoroethylene films and nonporous fluoroethylenepropylene films" Journal of Applied Physics, 第103巻、paper 084111, 2008を包含する。多孔性または有孔の中間層を有する該積層系は、先述の系と比べてより大きい圧電定数を有する。しかしながら、しばしば、該中間層は、該固体外側層を伴って確実に積層することができない。更に、該中間層の穿孔は一般に、多大な時間を要する。
【0008】
X. Zhang, J. HillenbrandおよびG. M. Sesslerによる刊行物"Thermally stable fluorocarbon ferroelectrets with high piezoelectric coefficient", Applied Physics A, 第84巻、第139〜142頁、2006および"Ferroelectrets with improved thermal stability made from fused fluorocarbon layers", Journal of Applied Physics, 第101巻、paper 054114, 2007、並びにXiaoqing Zhang, Jinfeng HuangおよびZhongfu Xia, "Piezoelectric activity and thermal stability of cellular fluorocarbon films" PHYSICA SCRIPTA, 第T129巻、第274〜277頁、2007には、交互に順に積重ねられた少なくとも3つのFEP層およびPTFE層からなる積重ねポリマー層の上に金属格子を圧接することによる、ポリマー層の構造化が記載されている。FEPの融点より高くPTFEの融点より低い温度で該格子を介して一緒に層を加圧することによって、ポリマー層は、格子のバーの間でドーム形または気泡形のボイドが矩形ベースを有して生じるように結合され、格子構造に対応する。しかしながらこの方法では、特に層の数が増えるにつれ、均一なボイドの形成を制御することが困難なので、品質のばらついたフェロエレクトレットしか得られない。
【0009】
格子を用いた気泡形ボイドの別の製造方法は、R. A. C. Altafim, H. C. Basso, R. A. P. Altafim, L. Lima, C. V. De Aquino, L. Gonalves NetoおよびR. Gerhard-Multhauptによって"Piezoelectrets from thermo-formed bubble structures of fluoropolymer-electret films", IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, 第13巻、第5号、第979〜985頁、2006に記載されている。この方法では、順に重ねられた2つのテフロン−FEPフィルムを、金属格子と上部円筒形金属部品との間に配置する。この構造物を、真空を適用するための開口部を有する下部円筒形金属部品の上に該金属格子と共に加圧する。上部金属部品を介してFEPフィルムを加熱し、下部金属部品に適用される真空によって、下部フィルムを格子開口部に吸引し、対応するボイドを形成する。多層ポリマー複合材料においてボイドを形成するために格子を使用する上記方法は、コスト高であり、大規模への転換が困難である。
【0010】
フェロエレクトレットの産業上の用途、例えばセンサーシステムおよびアクチュエーターシステムに対する関心は高まり続けている。コストがかからないようにするために、工業規模でフェロエレクトレットを製造できるようにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO 2006/053528 A1
【特許文献2】US 4,654,546
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. Wegener, M. Paajanen, O. Voronina, R. Schulze, W. WirgesおよびR. Gerhard-Multhaupt "Voided cyclo-olefin polymer films: Ferroelectrets with high thermal stability", Proceedings, 12th International Symposium on Electrets (IEEE Service Center, Piscataway, New Jersey, USA 2005), 47-50 (2005)
【非特許文献2】Eetta Saarimaeki, Mika Paajanen, Ann-Mari Savijaervi, Hannu Minkkinen, Michael Wegener, Olena Voronina, Robert Schulze, Werner WirgesおよびReimund Gerhard-Multhaupt "Novel Heat Durable Electromechanical Film: Processing for Electromechanical and Electret Applications", IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation 13, 963-972 (October 2006)
【非特許文献3】Advanced Functional Materials 17, 324-329 (2007), Werner Wirges, Michael Wegener, Olena Voronina, Larissa ZirkelおよびReimund Gerhard-Multhaupt "Optimized preparation of elastically soft, highly piezoelectric, cellular ferroelectrets from nonvoided poly(ethylene terephthalate) films"
【非特許文献4】Applied Physics Letters 90, 192908 (2007), P. Fang, M. Wegener, W. WirgesおよびR. Gerhard L. Zirkel "Cellular polyethylene-naphthalate ferroelectrets: Foaming in supercritical carbon dioxide, structural and electrical preparation, and resulting piezoelectricity"
【非特許文献5】Applied Physics A: Materials Science & Letters 90, 615-618 (2008), O. Voronina, M. Wegener, W. Wirges, R. Gerhard, L. ZirkelおよびH. Muenstedt "Physical foaming of fluorinated ethylene-propylene (FEP) copolymers in supercritical carbon dioxide: single film fluoropolymer piezoelectrets"
【非特許文献6】"Double-layer electret transducer", Journal of Electrostatics, 第39巻、第33〜40頁、1997, R. Kacprzyk, A. DobruckiおよびJ. B. Gajewski
【非特許文献7】Z. HuおよびH. von Seggern, "Air-breakdown charging mechanism of fibrous polytetrafluoroethylene films", Journal of Applied Physics, 第98巻、paper 014108, 2005
【非特許文献8】Z. HuおよびH. von Seggern, "Breakdown-induced polarization buildup in porous fluoropolymer sandwiches: A thermally stable piezoelectret", Journal of Applied Physics, 第99巻、paper 024102, 2006
【非特許文献9】H.C. Basso, R.A.P. Altafilm, R.A.C. Altafilm, A. Mellinger, Peng Fang, W. WirgesおよびR. Gerhard, "Three-layer ferroelectrets from perforated Teflon -PTFE films fused between two homogeneous Teflon -FEP films" IEEE, 2007 Annual Report Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena, 1−4244−1482−2/07, 453−456 (2007)
【非特許文献10】Jinfeng Huang, Xiaoqing Zhang, Zhongfu XiaおよびXuewen Wang, "Piezoelectrets from laminated sandwiches of porous polytetrafluoroethylene films and nonporous fluoroethylenepropylene films" Journal of Applied Physics, 第103巻、paper 084111, 2008
【非特許文献11】X. Zhang, J. HillenbrandおよびG. M. Sessler, "Thermally stable fluorocarbon ferroelectrets with high piezoelectric coefficient", Applied Physics A, 第84巻、第139〜142頁、2006
【非特許文献12】X. Zhang, J. HillenbrandおよびG. M. Sessler, "Ferroelectrets with improved thermal stability made from fused fluorocarbon layers", Journal of Applied Physics, 第101巻、paper 054114, 2007
【非特許文献13】Xiaoqing Zhang, Jinfeng HuangおよびZhongfu Xia, "Piezoelectric activity and thermal stability of cellular fluorocarbon films" PHYSICA SCRIPTA, 第T129巻、第274〜277頁、2007
【非特許文献14】R. A. C. Altafim, H. C. Basso, R. A. P. Altafim, L. Lima, C. V. De Aquino, L. Gonalves NetoおよびR. Gerhard-Multhaupt, "Piezoelectrets from thermo-formed bubble structures of fluoropolymer-electret films", IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, 第13巻、第5号、第979〜985頁、2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、代替のフェロエレクトレット多層複合材料を提供し、かつ所定のフェロエレクトレットボイド含有構造を製造でき、大規模および工業規模でさえ簡単かつ安価に実施できる、フェロエレクトレット多層複合材料の代替製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、本発明にしたがって、請求項1に記載のフェロエレクトレット多層複合材料、並びに請求項7に記載の平行管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の製造方法により達成される。
【0015】
本発明によれば、順に重ねられて一緒に結合された少なくとも2つのポリマーフィルムを含んでなるフェロエレクトレット多層複合材料であって、ポリマーフィルムの間にボイドが形成され、ボイドが管状チャンネルの形状である、フェロエレクトレット多層複合材料が提供される。管状チャンネルは特に好ましくは互いに平行に伸びている。
【0016】
換言すると、本発明の多層複合材料は、ポリマーフィルムの積重ね層を示し、2つのポリマーフィルムの間それぞれには、細長いチャンネルがボイドとして特に好ましくは平行に伸びている。ポリマーフィルムはチャンネルと一緒に結合され、結合されていない各領域では、管状チャンネルの壁を形成している。とりわけ、製造公差の範囲内で、本発明における平行配向が10%までの偏差を有することも可能である。本発明にしたがってポリマーフィルムの2つの同じ層の間に形成される平行チャンネルは、本発明において、チャンネル層とも称される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】2つのポリマーフィルムからなる本発明のフェロエレクトレット多層複合材料の断面図を示す。
【図2】マスク層を伴った2つのポリマーフィルムからなる本発明の積重ね層の平面図を示す。
【図3a】本発明にしたがって製造した、2つのポリカーボネートフィルムからなるフェロエレクトレット多層複合材料の上面写真を示す。
【図3b】本発明にしたがって製造した、2つのポリカーボネートフィルムからなるフェロエレクトレット多層複合材料の断面写真を示す。
【図4】本発明にしたがって製造した、3つのポリカーボネートフィルムからなるフェロエレクトレット多層複合材料の断面写真を示す。
【図5】本発明の方法を実施するための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい態様では、チャンネルは、両方の終端で開いているか、或いは一方または両方の終端で閉じることができる。隣接したチャンネルが、例えば周期的な間隔でも、不規則な間隔でも、開いていたり閉じていたりするように、チャンネルを設計することもできる。
【0019】
閉じたチャンネルは、環境に対して密閉されるといった利点を有する。したがって、それらは、浸食環境、例えば高湿雰囲気または水中での用途でさえ、シールされた、即ち閉じたチャンネルを有して使用され得る。
【0020】
本発明の別の好ましい態様では、閉じたチャンネルに気体を充填することができる。この気体は例えば、純窒素(N)、酸化窒素(NO)または六フッ化硫黄(SF)であり得る。気体を充填した結果、有利なことに、本発明のフェロエレクトレット多層複合材料において、著しく高い圧電定数を実現することができる。
【0021】
基本的に、この場合のポリマーフィルムは、ポリマーフィルム間の結合および該フィルム間でのチャンネルの形成を可能にするプラスチックから作ることができる。本発明の好ましい態様では、ポリマーフィルムは、ポリカーボネート、過フッ素化ポリマー、部分フッ素化ポリマー、過フッ素化コポリマーおよび部分フッ素化コポリマー、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、およびポリプロピレン、またはポリマー混合物からなる群から選択される同じまたは異なったポリマー材料からなり得る。これらの材料を用いて、良好または非常に良好な圧電活性を達成することができる。有利なことに、本発明では材料を広範に選択できるので、特定の用途に適合させることも可能である。
【0022】
ポリマーフィルムは、好ましくは、10μm〜200μmの厚さを有し得る。本発明のフェロエレクトレット多層複合材料における種々のポリマーフィルムの厚さは、同じになるようにまたは異なるように、選択し得る。ポリマーフィルムの特に適当な厚さは、有利には、ポリマー材料に応じて、かつ所望の用途を視野に入れて選択され得る。管状チャンネルがボイドとしてつぶれないことが重要である。したがって、より硬質の材料は、比較的より弾性のポリマー材料より薄い構造を有することができる。
【0023】
ポリマーフィルムは、フィルムシートとして、または特に大規模製造を視野に入れて、有利にはフィルムウェブとして設計でき、それらは、順に重ねられて一緒に結合され、管状チャンネルを形成する。この場合のフィルムシートは例えば、矩形、正多角形または不規則な多角形、円い形、例えば、円形、楕円形または卵形のベース形状を有することができ、順に重ねられたフィルムは通常、少なくとも、順に重ねられた領域において、同じベース形状を有する。基本的に、ベース形状は、特定の用途に適合させることもできる。
【0024】
本発明のフェロエレクトレット多層複合材料の1つの好ましい態様では、3つ以上のポリマーフィルムを順に重ねられて一緒に結合できる。この場合、ポリマーフィルムの間に好ましくは互いに平行に伸びているチャンネルは、順に重ねられた層において互いに平行にまたは垂直に配置することができる。換言すれば、そのような多層複合材料の仮想平面図では、隣接層内に配置された平行チャンネルの格子状配置を得ることもできる。本発明では、格子配置のチャンネルは、互いに直角に配置できるだけでなく、他の角度でも配置でき、それらは本発明に含まれる。チャンネルが隣接層内で互いに平行に配向されるならば、それらは順に真上に重ねることもできるし、互いに中心線をずらして配置することもできる。隣接層内のチャンネルが平行に配向されている場合、中心線をずらした配置が好ましい。なぜなら、中心線をずらした配置によって、圧電効果がより均一になり、フェロエレクトレット多層複合材料の表面構造化を最少にできるからである。有利には、フェロエレクトレット多層複合材料において、3つ以上のポリマーフィルムおよび対応して多層の管状チャンネルを供給できる、本発明のこれらの変法を用いて、2つしかポリマーフィルムを有さない複合材料と比べてより軟質になるよう設計することができ、存在する付加的ボイドの結果として、複合材料の感度、したがってd33圧電定数を大きくすることができる。
【0025】
本発明のフェロエレクトレット多層複合材料の1つの好ましい態様では、チャンネルは10μm〜500μmの高さを有し得る。高さは特に、断面における管状チャンネルの最大高さを意味する。高さは、例えばチャンネルの実質上矩形の配置の場合のように、チャンネルの幅方向と同じままであることもでき、または、端から中央に向かって増大することもできる。チャンネルは、特に好ましくは25μm〜250μm、最も好ましくは50μm〜150μmの高さを有し得る。
【0026】
管状チャンネルは、同じまたは異なった寸法を有し得る。例えば、本発明では、交互に広いチャンネルと狭いチャンネルとを供給することができる。チャンネルのそのような配置は有利には、例えば複合材料を曲げる(例として円筒形に導かれるかまたは置かれる)ことが意図される用途で使用され得る。本発明にしたがって製造されるフェロエレクトレット多層複合材料において、狭いチャンネルおよび/または広いチャンネルをそれぞれ有する部分的な領域を提供することも可能である。これによって、特定領域において然るべく感度を調整することが可能になる。このことを利用できる用途の一例は有利には、タッチパッド上の特定領域における感圧性の調整である。
【0027】
別の態様では、チャンネルは、実質上矩形のまたは実質上円い形の断面を有し得る。実質上円い形の断面は、円形、楕円形または卵形を意味することが意図されている。しかしながら、レンズ形またはアーモンド形であることも可能である。上記断面形状が製造しやすいことが有利である。しかしながら基本的に、他の規則的なチャンネル断面形状や不規則なチャンネル断面形状も、本発明において可能である。
【0028】
1つの好ましい態様では、本発明のフェロエレクトレット多層複合材料は、ポリマーフィルムの外面に少なくとも部分的な導電被膜を有し得る。これらの導電性領域は、電極として利用することができる。導電被膜、即ち電極を、平らに適用し得、および/または構造化し得る。例えば、構造化された導電被膜は、ストリップ状にまたは格子として適用された形状をとることができる。結果として、付加的に、フェロエレクトレット多層複合材料の感度に影響を及ぼし、特定の用途に適合させることができる。この変形例は例えば、管状チャンネルを有するポリマーフィルムの層の数を増やすことによって圧電効果の更なる増大を達成できない場合に、有利に使用することができる。
【0029】
同じ極性の導電層(即ち電極)を有する2つ以上のフェロエレクトレット多層複合材料を一緒に結合することもまた、本発明に含まれる。換言すれば、本発明の2つのフェロエレクトレット多層複合材料の間に中間電極を形成することができ、それらを外面の2つの電極に接続することができる。結果として、フェロエレクトレット多層複合材料を直列に接続することになり、圧電効果は二倍または三倍になり得る。
【0030】
本発明はまた、平行管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の製造方法に関する。本発明の方法では、以下の工程を実施することになる:
a)第一ポリマーフィルム、第二ポリマーフィルムおよびその間に配置されたマスク層を含有する積重ね層を供給する工程であって、積重ね層の中でマスクが溝によって互いに離れて配置された1つ以上のうね、特に平行なうねを有し、うねが少なくとも一方の終端で結合されていないかまたは分離可能なように結合され、マスクが一方または両方の終端で積重ね層から突出している、積重ね層を供給する工程、
b)工程a)で製造された積重ね層を積層し、ポリマーフィルムを結合してポリマーフィルム複合材料を形成する工程、
c)任意に、一方の終端でマスクのうねを分離する工程、
d)マスクをポリマーフィルム複合材料から引き抜くことによって、マスクをポリマーフィルム複合材料から取り除く工程、
e)工程d)で開通した管状チャンネルの内面を反対電荷で帯電させる工程。
【0031】
本発明の方法を用いて、所定の平行な管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合系を、簡単な方法で製造することができる。マスクを用いることによって、非常に簡単かつ正確に、管の構造および形状を制御することができる。これにより、本発明にしたがって均一なチャンネルを製造することができる。このようにして、不均一な気泡の結果として発泡フェロエレクトレットフィルムにおいて生じるような、種々の共振周波数を回避することができる。本発明の方法を用いて付加的に、特定の用途に対して、共振周波数および圧電活性、特にd33圧電定数を調整することができる。有利なことに、本発明にしたがって製造されたフェロエレクトレット多層複合材料系を使用する比較的広範な分野においても、高くて均一な圧電係数を達成することができる。これによって、これらのフェロエレクトレット多層複合材料製品を、多数の他の用途に使用できるようになる。別の利点は、本発明の方法が材料にほとんど依存しないことである。ポリマーフィルムは基本的に、積層できるポリマー材料から作ることができる。その例は、ポリカーボネート、過フッ素化ポリマーまたは部分フッ素化ポリマー、例えば、PTFE、フルオロエチレンプロピレン(FEP)、ペルフルオロアルコキシエチレン(PFA)、ポリプロピレン、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、またはポリマー混合物である。
【0032】
マスクは通常、各々の場合に選択された操作条件下でポリマーフィルム材料に結合しない材料から選択して作る。
【0033】
本発明の方法の最も単純な態様では、マスクは、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から作った、ポリマーフィルムシートであり得る。マスクのポリマーフィルムの両終端で一緒に結合されている平行なフィルムストリップとしてうねが形成されるように、平行な細長い矩形溝を切り取るかまたは打ち抜く。これは、うねが両終端で固定され、手作業および方法の実施中に滑ったり変形したりしないといった利点を有する。次いで、順に重ねた2つのポリマーフィルムシート(例えばフルオロエチレンプロピレン(FEP))の間にマスクを挿入でき、形成された積重ね層から、マスクの終端を突出させる。続いて、積重ね層を適当な高温で積層できる。この操作中、FEPポリマーフィルムは、マスクの溝の中で一緒に結合され、うねを形成する。そして、マスクが櫛様形状をとり、マスクの一方の終端(ここのうねは結合したままである)でマスクをポリマーフィルム複合材料から引き抜くことによって、マスクをポリマーフィルム複合材料から容易に取り除くことができるように、もう一方の終端でうねを互いに分離することができる。ポリマーフィルム複合材料は、ポリマーフィルム複合材料の一端から反対端まで伸びる平行管状チャンネルを有する2つのポリマーフィルムからなる。
【0034】
本発明によれば、工程d)におけるマスクの除去は、マスク自体を引き抜いて取り除くか、またはポリマー複合材料を引っ張ることによって実施することができる。工程d)において、ポリマー複合材料の移動と、マスクの引き抜きを同時に実施することによって、チャンネルを開通させることもできる。
【0035】
本発明において、チャンネルの幅および高さは、マスクのうねの幅および高さによって規定される。これは、チャンネルの断面形状にも当てはまり、チャンネルの断面形状は、うねの断面形状によって決まる。マスクの溝の幅は、得られるポリマーフィルム複合材料におけるチャンネルの間隔に相当する。
【0036】
本発明の方法の好ましい変法では、工程e)においてチャンネルの表面を帯電させる前および/または後に、ポリマー複合材料の外面に電極を適用することができる。外面への電極の適用は、ポリマー複合材料の外面の少なくとも部分的な領域における、導電性被膜の製造を意味することを意図している。選択される電極材料は、当業者に既知の導電性材料であり得る。
【0037】
本発明によれば例えば、金属、金属合金、導電性オリゴマーまたは導電性ポリマー、例えば、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、導電性酸化物、例えばITOのような混合酸化物、または、導電性充填材を充填したポリマーが、この目的のために適している。導電性充填材を充填したポリマーに適した充填材は例えば、金属、導電性炭素系材料、例として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、或いは導電性オリゴマーまたは導電性ポリマーである。この場合、ポリマーの充填材含有量はパーコレーション閾値を超え、したがって、導電性充填材は連続導電性パスを形成する。
【0038】
電極は、それ自体知られている方法によって、例えば、表面の金属被覆によって、スパッタリング、真空蒸着、化学蒸着(CVD)、印刷、ナイフ塗布、スピンコーティング、既存導電層への接着または圧接によって、或いは導電性プラスチック製噴霧電極を用いて形成することができる。この場合、電極は構造化することができ、例えばストリップ状または格子状に設計することができる。
【0039】
本発明のフェロエレクトレット多層複合材料は、好ましくは、2つの電極を含有する。3つ以上の電極を有する本発明の電気機械変換器は例えば、複数のフェロエレクトレット多層複合材料の積重ね構造であり得る。
【0040】
チャンネルの内面を帯電および分極させるためには、既知の確立されている方法を使用することが有利である。例えば、フェロエレクトレット多層複合材料の外面に電極を適用した後、電圧をかけることによって直接帯電させることが可能である。電極の適用前に、ボイド(即ちチャンネル)の反対端を、例えばコロナ放電を用いて、分極させることができる。有利なことに、コロナ処理は、大規模で非常に良好に使用することもできる。本発明によれば、まず1つの表面に導電性被膜を供給し、次いでポリマー複合材料を帯電させ、最後に第二の電極を反対外面に適用することもできる。
【0041】
本発明の1つの有利な態様では、工程a)において、積重ね層が1つ以上の付加的なポリマーフィルムおよび1つ以上のマスク層を含有し、積重ね層の外面層が常にポリマーフィルムによって形成されている。有利なことに、比較的多数のポリマーフィルムおよびマスク層を有する場合でも、本発明にしたがって均一なチャンネルを形成することができる。
【0042】
この場合、別の好ましい態様では、付加的なポリマーフィルム層およびマスク層が積重ね層において交互に配置される。このように、有利なことに、多層の平行管状チャンネルを有するより多数の層の結果として更に大きな圧電効果(d33)を示し得る、フェロエレクトレット多層複合材料を提供することができる。
【0043】
この場合、異なった隣接層におけるチャンネルは、互いに平行または垂直に配置することができる。したがって、本発明の方法の有利な発展形では、隣接層において、マスクのうねを互いに平行または垂直に配向し得る。本発明によれば、チャンネルは、格子配置において互いに直角にしか配置できないのではなく、互いに別の角度を有して配置することができる。したがって、本発明は、うねを互いに直角に配置するだけでなく、互いに別の角度を有して配置することも含む。平面図では、この変法における隣接マスク層は、フェンス形状または格子形状を与えている。隣接層またはマスク層においてマスクのうねを互いに平行に配置するならば、それらは互いに中心線をずらした位置に配置することもできるし、または互いに真上に配置することもできる。特定の用途に対しては、格子配置が有利であり得る。平行チャンネルが同時に中心線をずらして配置されている場合は、別の層を交差配置することが表面の均質性にとって有利であり得る。
【0044】
本発明の方法の別の好ましい態様によれば、工程b)において、熱によってまたは超音波を用いて、積層できる。有利なことに、これによって、ポリマーフィルム用材料の選択の幅がより広くなり得る。
【0045】
別の好ましい態様では、ポリマーフィルムを接着および積層によって一緒に結合できる。この接着は、例えばアクリレート接着剤を用いて実施できる。これによって、ポリマーフィルムの機械的結合を補い、改善することが可能になる。
【0046】
1つの好ましい態様では、マスクのうねを一方の終端で結合せず、工程a)、b)およびd)を連続ロール・ツー・ロール製法で実施できる。このことは、本発明の方法を、大規模および工業規模に実施する際に特に有利である。本発明の製造方法の少なくとも一部を自動化することは、本発明の方法を簡素化し、平行管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の安価な製造を可能にする。基本的に、有利には、本発明によれば、工程a)〜e)の全ての工程を連続的におよび/または自動的に、例えばロール・ツー・ロール製法として実施できる。
【0047】
本発明はまた、本発明のフェロエレクトレット多層複合材料を含有する圧電素子に関する。これは特に、センサー素子またはアクチュエーター素子であり得る。有利なことに、本発明は広範な用途に組み入れることができる。その典型例は、圧力センサー、電気音響変換器、マイクロホン、拡声器、および「インテリジェント」フロアである。
【0048】
加えて、本発明のフェロエレクトレット多層複合材料を製造するための装置は、管状チャンネル(特に互いに平行に伸びている管状チャンネル)を形成する手段を含んでなる。
【0049】
この場合、平行管状チャンネルを形成する手段がマスクを含んでなることが好ましい。該マスクは、溝によって互いに離れて配置された2つ以上のうね(特に平行なうね)を有し、うねは結合されていないか、または少なくとも一方の終端で分離可能なように結合されている。
【0050】
本発明によれば、マスクは通常、各々の場合に選択された操作条件下でポリマーフィルム材料に結合しない材料から作られる。本発明によれば、マスクは好ましくは、ポリマー材料、金属材料および/または複合材料から作ることができる。本発明によれば、複合材料はまた、ポリマーフィルム複合材料からのマスクの除去を容易にする非粘着性被膜をマスクのポリマー材料または金属材料が備える可能性も有する。マスクが少なくとも部分的に金属磁性材料から作られているならば、別の有利な態様では、うねは、本発明の装置内の磁石または磁気素子の適当な配置によって適当な位置および形状に保たれる。これによって、装置の耐用年数を長くすることができ、製造されるフェロエレクトレットポリマー複合材料の品質を改善し、長期にわたって保証および保持することができる。
【0051】
本発明はまた、少なくとも以下の構成要素:
a)積層装置、
b)溝によって互いに離れて配置された2つ以上の平行なうねを有するマスクであって、うねが積層装置の内部に少なくとも部分的に配置されているマスク、
c)積重ね層を形成するために、少なくとも1つのポリマーフィルムをマスクの上方に、そして少なくとも1つのポリマーフィルムをマスクの下方に連続供給するための供給装置を各々の場合において1つ以上、および
d)供給装置に面する終端で一緒に結合し、反対端で互いに分離している、マスクのうね
を含む、方法を実施するための装置に関する。
【0052】
有利には、少なくとも部分的に連続法として、大規模でさえ、好ましくはロール・ツー・ロール製法として、該装置を用いて本発明を実施することができる。このことは、本発明の方法を工業規模に実施する際に特に有利である。本発明の製造方法の少なくとも一部を自動化することは、該方法を簡素化し、平行管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の安価な製造を可能にする。
【0053】
1つの有利な発展形では、積層装置は構造化された積層ロールを1つ以上有し得る。構造化は、有利には、結合されるポリマーフィルムの領域により高い圧力がかかるように適合することができ、したがって、ポリマーフィルムの結合が向上する。代わりにまたは付加的に、積層ロールの構造化はまた、例えば、ロール表面上の突出部がうね間の溝に加わってうねを包囲し、それらを適当な位置に保持し、装置の耐用年数を有利に長くするよう構成することもできる。
【0054】
概して、製造されるフェロエレクトレット多層複合材料の品質は、積層ロールの構造化によって更に改善することができる。
【0055】
少なくともマスクのうねが金属磁性材料から作られているならば、本発明はまた、積層装置がうねの上方および下方に磁気素子を有することを提供し得る。有利なことに、この方法によって、うねを所望の位置に保持できる。このことは、マスクの寸法安定性および耐久性に寄与する。結果として、製造されるフェロエレクトレット多層複合材料製品の品質を改善することができ、長期にわたって保持および保証することができる。
【0056】
以下においては、図面を参照し、例として本発明を説明するが、本発明はそれら態様に限定されない。
【0057】
図は以下を示している:
図1:2つのポリマーフィルムからなる本発明のフェロエレクトレット多層複合材料の断面図、
図2:マスク層を伴った2つのポリマーフィルムからなる本発明の積重ね層の平面図、
図3a:本発明にしたがって製造した、2つのポリカーボネートフィルムからなるフェロエレクトレット多層複合材料の上面写真、
図3b:本発明にしたがって製造した、2つのポリカーボネートフィルムからなるフェロエレクトレット多層複合材料の断面写真、
図4:本発明にしたがって製造した、3つのポリカーボネートフィルムからなるフェロエレクトレット多層複合材料の断面写真、および
図5:本発明の方法を実施するための装置の概略図。
【0058】
図1は、2つのポリマーフィルム2aおよび2bからなる本発明のフェロエレクトレット多層複合材料1の断面図を示す。ポリマーフィルム2aおよび2bの間には、互いに平行に配置された一層の管状チャンネル3が形成されている。チャンネル3は矩形断面を有する。有利なことに、この断面形状の形成は特に簡単である。ポリマーフィルム2aおよび2bは、チャンネルの間で一緒に結合しており、説明のために離れて示されているにすぎない。
【0059】
図2は、マスク層5を伴った2つのポリマーフィルム2aおよび2bからなる本発明の積重ね層4の平面図を示し、また、図1で示されるフェロエレクトレット多層複合材料を製造する簡単な方法を説明している。マスク層5は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の、ポリマーフィルムシートであり得る。ポリマーマスクフィルム5の両終端5aおよび5bで一緒に結合しているうね7が平行フィルムストリップとして形成されるように、平行な細長い矩形溝6を切り取るか打ち抜く。これは、うね7がマスク5の両終端5aおよび5bで固定され、特に手作業の間および方法の実施中に滑ったり変形したりしないといった利点を有する。マスクフィルム5の終端5aおよび5bは、形成された積重ね層4から突出している。次いで、積重ね層4を適当な高温で積層できる。この操作中、ポリマーフィルム2aおよび2bは、マスク5の溝6の中で一緒に結合され、うね7を形成する。続いて、一方の終端5aで、点線Xに沿って例えば単純に切り取ることによって、うねを互いに分離できる。これによって、マスク5は、櫛様形状を有することになり、矢印Aの方向にポリマーフィルム複合材料から容易に引き抜くことができ、除去される。ポリマーフィルム複合材料の一端から反対端まで連続的に伸びる平行管状チャンネル3を有する2つのポリマーフィルム2aおよび2bからなるポリマーフィルム複合材料1が得られる。
【0060】
図3aは、形成された5つの平行管状チャンネル3を伴って、2つのポリカーボネートフィルムから図2に関する説明に記載された方法と同様に製造された、フェロエレクトレット多層複合材料1の、立体光学顕微鏡で撮影した写真を示す。
【0061】
図3bは、4つの平行管状チャンネル3を伴って、2つのポリカーボネートフィルムから図2に関する記載にしたがって製造された、フェロエレクトレット多層複合材料1の、立体光学顕微鏡で撮影した写真を示す。
【0062】
図4は、3つのポリカーボネートフィルムから本発明にしたがって製造されたフェロエレクトレット多層複合材料1の断面の、光学顕微鏡写真を示す。この断面は、隣接層において互いに平行に配置された2つのチャンネル3を示している。隣接層に見られるチャンネル3は、互いに平行に配向され、互いにやや中心線をずらして配置されている。
【0063】
図5は、ロール・ツー・ロール製法で本発明の方法の工程a)、b)およびd)を実施するための装置8の概略図を示す。少なくとも1つのポリマーフィルム2aをマスク5の上方に、そして少なくとも1つのポリマーフィルム2bをマスク5の下方に連続供給するために、第一供給ロール9aおよび第二供給ロール9bを供給装置として使用して、積重ね層4を形成する。用語「上部」、「下部」、「上方」および「下方」はそれぞれ、相互の関連で層のみに関し、場合により置き換え可能である。マスク5のうねは、供給ロール9aおよび9bに面する終端で一緒に結合しており、反対端で互いに分離している。基本的に、マスクの他の配向、例えば製造方向と直角な配置を考えることができる。加えて、示されている装置8は、各々の場合に製造方向に、マスク5の上方および下方に、第一積層ロール10、加熱装置11および第二積層ロール12から形成されている積層装置を含む。積層装置では、ポリマーフィルム2aおよび2bをマスク5の溝6の中で一緒に圧接し、一緒に結合してチャンネル3を形成する。その後、管状チャンネル3を伴って形成されたポリマー複合材料1を、矢印Aの方向に連続的に引っ張り、移動することができる。このようにして、いわば無限に長いチャンネル3を伴って、多層複合材料を得ることができる。チャンネルの寸法および間隔は、マスク5を適当に設計することによって決定できる。提案されている方法が広範囲で材料に依存しないことは大きな利点であり、これによって広範な用途が可能になる。有利なことに、本発明の装置を用いて、本発明の方法を、少なくとも部分的に連続法として、大規模であっても、ロール・ツー・ロール製法として、実施することができる。有利なことに、基本的に全ての工程、即ち内部チャンネル表面の分極を含む全ての工程を、連続的におよび/または自動的に実施できる。このことは、工業規模で本発明の方法を実施する際に特に有利である。本発明の製造方法の少なくとも一部を自動化することは、該方法を簡素化し、平行管状チャンネル3を有するフェロエレクトレット多層複合材料の安価な製造を可能にする。
【0064】
要約すれば、本発明にしたがって、管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の製造方法が提供され、該方法は、大規模であっても簡単に安価に実施することができる。本発明の方法によって製造されるフェロエレクトレット多層構造物はまた、正確に規定されたボイド含有構造を有する多数の層を伴って製造することができる。断面形状および寸法の可変調節機能、本発明にしたがって製造される管状チャンネルの数、層の順序および管状チャンネルの層の数、並びに使用されるポリマーフィルム用材料の広範な選択によって、本発明にしたがって製造されるフェロエレクトレットを、適当な応用分野に特に良好に適合することが可能になる。
【0065】
以下に記載の実施例は、本発明を更に説明することを意図しているが、本発明はそれら実施例に限定されない。
【実施例】
【0066】
実施例1
ポリカーボネートフィルムからのフェロエレクトレット多層複合材料の製造
2つのポリカーボネートポリマーフィルムシートの間に、PTFEポリマーフィルムシートをマスクとして挿入した。ポリカーボネートフィルムは各々50μmの厚さを有していた。うねが幅1.3mmの平行フィルムストリップ形状をとるように、互いに平行に伸びた細長い矩形溝をマスクから切り取った。うねはマスクの両終端で結合していた。マスクの両終端は、形成された積重ね層の外に突出していた。マスクフィルムは200μmの厚さを有していた。次いで、積重ね層を180℃の温度で積層した。この操作中、ポリカーボネートフィルムは、マスクの溝の領域で一緒に結合され、うねを形成した。一方の終端で、マスクフィルムの終端を単純に切り取ることによって、うねを互いに分離した。これによって、マスクは、櫛様形状を有することになり、もう一方の終端(こちらのうねは、なお結合している)を引っ張ることによってポリカーボネートフィルム複合材料から容易に除去することができた。連続平行管状チャンネルを伴った2つのポリカーボネートからなるポリマーフィルム複合材料を得た。チャンネルの幅および高さは、うねの幅および高さによって規定された。チャンネルの高さは200μmであった。続いて、ポリカーボネートフィルムの外面に、厚さ50nmのアルミニウム電極を取り付け、3kVの電流を直接流すことによって分極させた。
2週間後、d33圧電係数を測定した。
d33ポリカーボネート試料1:350pC/N
d33ポリカーボネート試料2:600pC/N
【0067】
実施例2
FEPフィルムからのフェロエレクトレット多層複合材料の製造
厚さ50μmのFEPフィルムおよび厚さ200μmとうね幅1.3mmとを有するPTFEのマスクを用いて、実施例1のようにフェロエレクトレット多層複合材料を製造した。積層によるFEPフィルムの結合は、300℃の温度で実施した。2週間後、d33圧電係数を測定した。
【0068】
同様に、厚さ50μmのFEPフィルムから、厚さ25μm、50μm、100μm、200μmおよび300μmのPTFEマスク層を用いて、別のフェロエレクトレット多層複合材料の試料を製造した。各々の場合に、使用したマスク層厚さ1つにつき、10個の試料を作った。これらのポリマーフィルム片は、4cm×4cm〜10cm×13cmの寸法を有していた。実施例3の手順にしたがって、2週間後、各試料を5回測定した。次いで、全測定値から、平均および標準偏差を決定した。それらを、以下の表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例3
d33圧電定数の機械的測定のための試験装備および測定の実施
試験装置には、基本的に以下の3つの主要素が必要とされる:力発生器、力測定器および電荷測定器。Brueel & Kjaer社製タイプ4810電気振盪機を、力発生器として選択した。該振盪機によって、入力電圧に応じて所定の力を作用させることが可能になる。この振盪機を可動プラットホームに取り付けた。その位置は、垂直方向に手動で調節することができる。振盪機の高さ調節機能は、試料を固定するのに必要である。加えて、それによって、測定に必要とされる静的予備圧力(static pre-pressure)を調節することができる。振盪機を制御するために、Stanford Research Systems社製DS345関数発生器を、Brueel & Kjaer社製タイプ2718電力増幅器と組み合わせて使用した。Burster社製タイプ8435力センサーを、力測定装置として使用した。該力センサーは、0〜200Nの範囲での圧力測定および引張荷重測定の両方について設計されている。しかしながら、力はもっぱら垂直に加えられなければならないので、横方向の分力またはトルクはセンサーに影響を与えてはならない。このことを確実にするために、力センサーは、その中でほとんど摩擦を伴わずスライドするステンレススチール製ピンを有する円筒形圧力ガイドランナーを備えていた。該ピンの自由端に、試料のための支持表面として機能する幅2cmの研磨されたプレートを備えていた。力センサーからの信号は、Burster社製タイプ9243増幅器モジュールを用いて検出され、GOULD 4094オシロスコープに送られた。
【0071】
電荷測定装置として、Brueel & Kjaer社製タイプ2635電荷増幅器を使用した。該電荷増幅器によって、0.1pCまでの電荷を検出することができる。表面電荷を測定するために、試料の両側を電荷増幅器に電気的に接続しなければならない。試料下側への電気的接続は支持表面によって可能となり、装備全体に接続されている。試料上側は、真鍮製加圧スタンプによって電荷増幅器に接続した。該スタンプは、振盪機上のプレクシグラス製蓋によって装備の残りの部分から電気的に絶縁されており、ケーブルによって電荷増幅器に接続されている。
【0072】
該ケーブルは、機械的応力、したがって試験結果の改変を回避するために可能な限り細くて可撓性でなければならない。測定された信号は、最終的に、電荷増幅器からオシロスコープに送られる。
【0073】
3Nの(静的)予備圧力を標準として設定し、1Nの(動的)振幅で測定を実施した。
【符号の説明】
【0074】
1 フェロエレクトレット多層複合材料
2a ポリマーフィルム
2b ポリマーフィルム
3 平行管状チャンネル
4 積重ね層
5 マスク
5a マスクの終端
5b マスクの終端
6 マスクの溝
7 マスクのうね
8 ロール・ツー・ロール製法で本発明の方法の工程a)、b)およびd)を実施するための装置
9a 第一供給ロール
9b 第二供給ロール
10 第一積層ロール
11 加熱装置
12 第二積層ロール
A ポリマーフィルム複合材料からマスクを引き抜く方向
X これに沿って、例えば単純に切り取ることによって、うねを互いに分離する線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に重ねられ一緒に結合された少なくとも2つのポリマーフィルムを含んでなるフェロエレクトレット多層複合材料であって、ポリマーフィルムの間にボイドが形成され、ボイドが管状チャンネルであることを特徴とする、フェロエレクトレット多層複合材料。
【請求項2】
ボイドが互いに平行に伸びる管状チャンネルであることを特徴とする、請求項1に記載のフェロエレクトレット多層複合材料。
【請求項3】
ポリマーフィルムが、ポリカーボネート、フッ素化ポリマーおよびフッ素化コポリマー、ポリエステル、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーおよびポリプロピレンからなる群から選択される同じまたは異なったポリマー材料からなることを特徴とする、請求項1に記載のフェロエレクトレット多層複合材料。
【請求項4】
3つ以上のポリマーフィルムが順に重ねられて一緒に結合され、ポリマーフィルムの間の管状チャンネルが、順に重ねられた層において互いに平行にまたは垂直に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のフェロエレクトレット多層複合材料。
【請求項5】
チャンネル(3)が両方の終端で開いているか、或いは一方または両方の終端で閉じていることを特徴とする、請求項1に記載のフェロエレクトレット多層複合材料。
【請求項6】
導電被膜が、ポリマーフィルムの外面に少なくとも部分的に適用されていることを特徴とする、請求項1に記載のフェロエレクトレット多層複合材料。
【請求項7】
a)第一ポリマーフィルム、第二ポリマーフィルムおよびその間に配置されたマスク層を含有する積重ね層を供給する工程であって、積重ね層の中でマスクが溝によって互いに離れて配置された1つ以上の平行なうねを有し、うねが少なくとも一方の終端で結合されていないかまたは分離可能なように結合され、マスクが一方または両方の終端で積重ね層から突出している、積重ね層を供給する工程、
b)工程a)で製造された積重ね層を積層し、ポリマーフィルムを結合してポリマーフィルム複合材料を形成する工程、
c)任意に、一方の終端でマスクのうねを分離する工程、
d)マスクをポリマーフィルム複合材料から引き抜くことによって、マスクをポリマーフィルム複合材料から取り除く工程、
e)工程d)で開通した管状チャンネルの内面を反対電荷で帯電させる工程
を特徴とする、平行管状チャンネルを有するフェロエレクトレット多層複合材料の製造方法。
【請求項8】
工程e)においてチャンネルの内面を帯電させる前および/または後に、ポリマー複合材料の外面に電極を適用することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程a)において、積重ね層が、1つ以上の付加的なポリマーフィルムおよび1つ以上のマスク層を含有し、積重ね層の外側層がポリマーフィルムによって形成されていることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
付加的なポリマーフィルムおよびマスク層を、積重ね層において交互に配置することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
マスクのうねが一方の終端で結合されておらず、工程a)、b)およびd)を連続ロール・ツー・ロール製法として実施することを特徴とする、請求項7に記載に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のフェロエレクトレット多層複合材料を含有する圧電素子。
【請求項13】
センサー素子またはアクチュエーター素子であることを特徴とする、請求項12に記載の圧電素子。
【請求項14】
管状チャンネルを形成する手段を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載のフェロエレクトレット多層複合材料を製造するための装置。
【請求項15】
少なくとも以下の構成要素:
a.積層装置、
b.溝によって互いに離れて配置された2つ以上の平行なうねを有するマスクであって、うねが積層装置の内部に少なくとも部分的に配置されているマスク、
c.積重ね層を形成するために、少なくとも1つのポリマーフィルムをマスクの上方に、そして少なくとも1つのポリマーフィルムをマスクの下方に連続供給するための供給装置を各々の場合において1つ以上、および
d.供給装置に面する終端で一緒に結合し、反対端で互いに分離している、マスクのうね
を含むことを特徴とする、請求項7または11に記載の方法を実施するための装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−511443(P2012−511443A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539919(P2011−539919)
【出願日】平成21年11月28日(2009.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008478
【国際公開番号】WO2010/066347
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
2.テフロン
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】