フッ素含有オルガノポリシロキサン及びこれを含む表面処理剤並びに該表面処理剤で表面処理された物品
【課題】基材によく密着し、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成する表面処理剤を提供する。
【解決手段】オルガノポリシロキサンにおいて、
(Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である)置換されている構造を有することを特徴とするオルガノポリシロキサン。
【解決手段】オルガノポリシロキサンにおいて、
(Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である)置換されている構造を有することを特徴とするオルガノポリシロキサン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有オルガノポリシロキサンに関し、詳細には、基材との密着性に優れ、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成するフッ素含有オルガノポリシロキサン及びそれを含む表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーフロロポリエーテル基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、興行的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。
【0003】
しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性があることを示しており、基材表面に塗布することはできても、被膜を形成し密着させることは困難であった。
【0004】
一方、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させるものとしては、シランカップリング剤が良く知られている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)を有する。アルコキシシリル基は、空気中の水分などによって自己縮合反応をおこしてシロキサンとなり被膜を形成する。それと同時に、ガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することによって、耐久性を有する強固な被膜となる。シランカップリング剤はこの性質を利用して各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。
【0005】
これらの特徴を生かしたものとして、下記式(8)で示されるフルオロアミノシラン化合物が開示されている(特許文献1)。
【0006】
【化1】
(式中、R1、R2は炭素数1〜4のアルキル基、Q1はCH2CH2CH2又はCH2CH2NHCH2CH2CH2、hは1〜4の整数、iは2又は3である)
しかしながら、この化合物は、パーフロロポリエーテル基の部分が、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド(HFPO)の2〜5量体と短く、上記パーフロロポリエーテル基の持つ特徴を十分に出すことができなかった。
【0007】
また、ガラス表面の撥水撥油剤として下記式(9)で示される化合物が提示されているが(特許文献2)、
【0008】
【化2】
(式中、Rf1は炭素数1〜20個のポリフルオロアルキル基であってエーテル結合を1個以上含んでもよい。R3は水素原子又は低級アルキル基、Aはアルキレン基、X1は−CON(R4)−Q−又はSO2N(R4)−Q−(但し、R4は低級アルキル基、Qは2価の有機基を示す)、Zは低級アルキル基、Yはハロゲン、アルコキシ基又はR5COO−(但し、R5は水素原子又は低級アルキル基を示す)、sは0又は1の整数、tは1〜3の整数、uは0又は1〜2の整数を示す)
該化合物も含フッ素基の部分の炭素数が1〜20個と少なく、十分な効果が得られていない。
【0009】
特に最近では、建築物の高層化に伴い窓ガラスをメンテナンスフリー化することや、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面に指紋が付きにくくするなど「汚れにくくする」技術や、「汚れを落とし易くする」技術に対する要求は年々高まってきており、これらの要求に応えることのできる材料の開発が望まれていた。
【0010】
上記パーフロロポリエーテル基及びシランカップリング剤の特性を活かし、基材表面に強固な被膜を形成する表面処理剤として、含フッ素シラン化合物を防汚層に用いたレンズが知られている(特許文献3)が、含フッ素シラン化合物は、1分子中の加水分解性基の含有割合は比較的多いものの、片末端にしか存在しないことから、特に基材への密着性が不十分で耐久性の点で問題があり、レンズの表面処理剤として利用した場合には、所望の性能を長期間にわたって持続させ得るものではなく適切なものとはいえなかった。
【0011】
また、視認装置等の表面に設けられることが一般的な反射防止膜にあっては、手垢や指紋、汗や唾液、整髪料等の汚染物が付着し易く、表面反射率が変化したりする。また、付着物が白く浮き出て見えて汚染が目立ち易いという難点もある。そのため、付着防止性や付着汚染の除去性に優れかつ長期に防汚性能を保つ反射防止膜の提供が課題となっている。
【0012】
耐汚染性が向上された反射防止膜としては、PVD法により形成した二酸化ケイ素を主成分とする表面層を有する単層又は多層の無機物層からなる反射防止層の表面に、有機ポリシロキサン系重合物又はパーフロロアルキル基含有重合物からなる硬化層を有するものが知られている(特許文献4)。
【0013】
しかしながら、手垢や指紋等の人体的汚染が付着した場合に、ティッシュペーパーなどで拭き取ることが困難で、汚染が薄膜に押し拡げられ、強く擦ると反射防止膜が傷付くため、満足できる除去を達成できないという問題点があった。
【0014】
反射防止膜として、下記式(10)で示されるパーフロロポリエーテル変性アミノシランを防汚層に用いたものが開示されている(特許文献5)。この反射防止膜は、防汚性等に優れているものの、パーフロロポリエーテル変性アミノシラン1分子中の加水分解性基の割合(重量%)が少ないため、硬化までに時間を要することや、基材への密着性の点などの問題点を有し、表面処理剤として利用する上で改良が望まれている。
【0015】
【化3】
(式中、X3は加水分解性基、R5は低級アルキル基、R6は水素原子又は低級アルキル基、Q2はCH2CH2CH2又はCH2CH2NHCH2CH2CH2、eは6〜50の整数、fは2又は3、c及びdはそれぞれ1〜3の整数)
【0016】
また、下記式(11)で示されるパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤を防汚層に用いた反射防止フィルムが開示されており(特許文献6)、この防汚層に用いられるパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤は、極性基は含有していないものの、1分子中の加水分解性基の割合が十分とは言えず、硬化までに時間を要することや、基材への密着性が劣るなど、表面処理剤として利用する上で十分な性能を有しているとは言えなかった。
【0017】
【化4】
(但し、Rf2は炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状パーフロロアルキル基、R7は炭素数1〜10のアルキル基、kは1〜50の整数、rは0〜6の整数、jは0〜3の整数、lは0〜3の整数であるが、0<j+l≦6である)
【0018】
さらに、片末端に多くの加水分解性基を有するパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤が被膜形成性のよい表面処理剤であるとしている(特許文献7、8)。
【0019】
下記式(12)で示されるパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤は両末端に加水分解性基を2または3個有し、基材との密着性に優れた膜を形成するとされている(特許文献9)。該膜は、汚れにくく、その汚れを拭き取り易い。しかし、耐擦傷性が未だに充分ではない。
【0020】
【化5】
(式中、Rfは二価の直鎖型パーフロロポリエーテル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基、Xは加水分解性基、pは0〜2、qは1〜5の整数、aは2又は3である)
【0021】
【特許文献1】特開昭58−167597号公報
【特許文献2】特開昭58−122979号公報
【特許文献3】特開平9−258003号公報
【特許文献4】特公平6−5324号公報
【特許文献5】特開平11−29585号公報
【特許文献6】特開2001−188102号公報
【特許文献7】特開2002−348370号公報
【特許文献8】特開2003−113244号公報
【特許文献9】特開2003−238577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで、本発明は、基材によく密着し、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成する化合物及びそれを含む表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明者は、下記一般式で示されるポリシロキサン骨格に、フッ素含有基及び加水分解性基を備えたオルガノポリシロキサンが、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成することを見出した。
【0024】
即ち、本発明は、下記一般式(A)、(B)又は(C)で表されるオルガノポリシロキサンにおいて、
(R1は、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基であり、R2は炭素数2〜6のアルキレン基であり、nは2〜40の整数であり、kは1〜3の整数である)、
R1の少なくとも2つが下記式(i)で表される基に、
(Xは、互いに独立に、加水分解性基であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)
及び、
SiR1の1つが下記式(ii)で表される結合に、又は、SiOSi結合の1つが下記式(iii)で表される結合に、
(Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である)
置換されている構造を有することを特徴とするオルガノポリシロキサンである。
【発明の効果】
【0025】
本発明のオルガノポリシロキサンは、撥水撥油性、防汚性に優れた硬化皮膜を与えることができ、種々のコーティング用途に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の表面処理剤の主成分であるオルガノポリシロキサンは、加水分解性シリル基を有しており、該基を介して基材に強固に密着する。また、オルガノポリシロキサン部分を有し、同様の加水分解性シリル基を有する先行技術記載の化合物に比べて、耐擦傷性に優れる。該オルガノポリシロキサン部分はケイ素原子4つ以上の大きさを有し、基材表面にフッ素変性基を適切な間隔で分布させて、優れた撥水撥油性を達成するものと考えられる。
【0027】
本発明のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(A)、(B)又は(C)で表される構造を有する。
式(A)は、鎖状オルガノポリシロキサンを表し、式(B)は環状オルガノポリシロキサンを表し、式(C)は、2つのケイ素原子がアルキレン基で結合されたシルアルキレン構造、即ちSi−R2−Si、を含む鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0028】
式(A)、(B)又は(C)で表される構造として、下記のものが例示される。
上に示すように、式(A)又は(C)で表されるオルガノポリシロキサンは、分岐を有していてよく、ケイ素原子が3つの酸素原子に結合された構造(R1SiO3/2)及び/又は4つの酸素原子に結合された構造(SiO2)を含んでいてよい。
【0029】
R1は、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、R2は炭素数2〜6のアルキレン基、好ましくは2〜4のアルキレン基である。nは2〜40、好ましくは2〜10の整数である。kは1〜3の整数である。
【0030】
少なくとも2つ、好ましくは2〜6、のR1が下記式(i)で表される基に置換されている。
式(i)において、Xは互いに異なっていてよい、加水分解性の基である。その例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0031】
式(i)において、R3は、炭素数1〜4の低級アルキル基又はフェニル基でメチル基、エチル基、フェニル基などであり、中でもメチル基が好適である。yは1〜5、好ましくは1〜2の整数である。aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から3が好ましい。
【0032】
さらに、本発明のオルガノポリシロキサンは、SiR1結合の1つが下記式(ii)で表される結合に、又は、SiOSi結合の1つが下記式(iii)で表される結合に、置換された構造を有する。
Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である。
【0033】
Rf1及びRf2におけるパーフロロエーテル残基は、−CgF2gO−(gは1〜6の整数)の繰り返し単位を1〜500個、好ましくは2〜200個、より好ましくは10〜100個含む。なお、gは繰り返し単位毎に異なっていてよく、好ましくは1〜4である。
【0034】
上記式で示される繰り返し単位−CgF2gO−としては、例えば下記の単位等が挙げられる。なお、上記パーフロロエーテル残基は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CF2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF3)2O−
【0035】
上記繰り返し単位を含むRf1として、下記一般式(2)、(3)、(4)で示される基が好ましい。
【0036】
【化6】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である。YはF又はCF3基)
【0037】
【化7】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である)
【0038】
【化8】
(式中、e、fはそれぞれ0〜200の整数でe+f=2〜200である。該一般式中の繰り返し単位(CF2O)及び(C2F4O)の配列はランダムであってよい)
【0039】
Rf2としては、下記一般式(5)、(6)、(7)で示される基が好ましい。
【0040】
【化9】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基、rは2〜6の整数、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200、sは0〜6の整数である。該一般式中の繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
【0041】
【化10】
(式中、lは1〜200の整数、dは1〜3の整数である)
【0042】
【化11】
(式中、YはF又はCF3基、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200である。該一般式中の繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
【0043】
式(ii)及び(iii)において、QはRf1又はRf2とオルガノポリシロキサンのケイ素原子とを連結する2価の有機基であり、好ましくは、アミド、エーテル、エステル、又はビニル結合を含む、炭素数3〜12の基が挙げられる。Qとして、下記のものが挙げられる。
【0044】
【化12】
上記各基において、左側がRf1又はRf2に、右側がSiに結合される。
【0045】
上記式(A)〜(C)の構造において、式(i)〜(iii)の構造により置換されている部位及び数は、目的に応じて選択することができる。例えば上で例示した構造において、R1がメチル基であり、置換基の無い部分が、式(i)〜(iii)の構造であるものを下に示す。好ましくは、式(i)及び(ii)の構造が末端にある。また、下記構造の、互いに異なっていてよい2つのものが式(iii)の構造で結合され、夫々の末端に式(i)の構造があるものも好ましい。
【0046】
【化13】
【0047】
本発明のオルガノポリシロキサンの調製方法の一例を示す。式(i)の構造は、下記式で表される不飽和基を有する化合物を、
(R1、X、a、yについては上述のとおりであり、zは2y−1又は2yである)を、式(A)〜(C)において、反応させたい部位のR1がHであるオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒、例えば白金化合物、の存在下で、付加反応させることによって得ることができる。
【0048】
同様に、式(ii)の構造は、下記式(v)で示される不飽和基を有する化合物を
Rf1Q’ (v)
(式(v)において、Rf1は上で説明したとおりであり、Q’は、例えば下記で示す不飽和基を含む基である)
式(A)〜(C)において反応させたい部位のR1がHであるオルガノポリシロキサンと、付加反応させることによって得ることができる。
【0049】
式(iii)の構造は、下記式(vi)で示される、Rf2の両側に不飽和基を有する化合物を、
Q’Rf2Q’ (vi)
(式(vi)において、Rf2及びQ’は上述のとおりである)
式(A)〜(C)において、反応させたい部位のR1がHであるオルガノポリシロキサン2分子と付加反応させることによって、得ることができる。該オルガノポリシロキサンは、2種の混合物であってもよい。なお、付加反応は、公知の反応条件で行なってよい。
【0050】
本発明は、上記オルガノポリシロキサンを主成分とする表面処理剤を提供する。該オルガノポリシロキサンを、予め、公知の方法で、ある程度加水分解縮合させて得られる部分加水分解縮合物を用いてもよい。
【0051】
該表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫などが望ましい。添加量は触媒量であり、通常、オルガノポリシロキサン及び/又はその部分加水分解縮合物100重量部に対して0.01〜5重量部、特に0.1〜1重量部である。
【0052】
該表面処理剤は、適当な溶剤を含んでよい。このような溶媒としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフロロヘプタン、パーフロロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフロロブチルエーテル、エチルパーフロロブチルエーテル、パーフロロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフロロトリブチルアミン、パーフロロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、m−キシレンヘキサフロライド、パーフロロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフロロトリブチルアミン、エチルパーフロロブチルエーテルが好ましい。
【0053】
上記溶媒はその2種以上を混合してもよく、本発明のオルガノポリシロキサンを均一に溶解させることが好ましい。該オルガノポリシロキサン及び/又はその部分加水分解縮合物の濃度は、処理方法により最適濃度は異なるが、0.01〜50重量%、特に0.05〜20重量%であることが好ましい。
【0054】
表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。また、処理温度は、処理方法によって異なるが、例えば刷毛塗りやディッピングで施与した場合は、室温から120℃の範囲が望ましい。処理湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。また、硬化皮膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1nm〜5μm、特に1〜100nmである。
【0055】
上記表面処理剤で処理される基材は、特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミックなど各種材質のものであってよく、これらに撥水撥油性、離型製、防汚性を付与することができる。
【0056】
本発明の表面処理剤で処理される物品及び処理目的としては、例えば、眼鏡レンズ、反射防止フィルターなど光学部材の指紋、皮脂付着防止コーティング;浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の撥水、防汚コーティング;自動車、電車、航空機などの窓ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング;外壁用建材の撥水、防汚コーティング;台所用建材の油汚れ防止用コーティング;コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング;その他、塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質、テープ、フィルムなどの潤滑性の向上などが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0058】
実施例1
反応容器に、下記式
【0059】
【化14】
で示される片末端にα−不飽和結合を有するパーフロロポリエーテル化合物50gと、m−キシレンヘキサフロライド70.3g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10−6モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。得られた混合物に、下記式に示すオルガノポリシロキサン(H4Q)21.93gを滴下して90℃で3時間熟成し、1H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤及び未反応のH4Qを減圧溜去した。蒸留残渣を活性炭処理し、無色透明の液体パーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン77.5gを得た。
【0060】
【化15】
【0061】
次いで、反応容器に、上で得たパーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン25gと、m−キシレンヘキサフロライド30g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0225g(Pt単体として.2.2×10−6モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。これに、ビニルトリメトキシシラン4.63gを滴下して80℃で3時間熟成し、溶剤を減圧溜去した後、無色透明の液体(化合物1)26.8gを得た。このものの比重は1.55、屈折率は1.336であった。
【0062】
化合物1のIR、NMRチャートを図1、2に示す。また、化合物1の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0063】
【化16】
【0064】
以上の結果から、得られた化合物の構造式は
【0065】
【化17】
【0066】
【化18】
であることがわかった。
【0067】
実施例2
合成例1で用いた化合物のうち、H4Qの代わりに、テトラメチルシクロテトラシロキサン(環状シロキサンH4)を14.5g用いた他は、合成例1と同様の方法で下記に示す化合物2を得た。このものの比重は1.55、屈折率は1.343であった。
化合物2のIR、NMRチャートを図3、4に示す。また、化合物2の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0068】
【化19】
【0069】
以上の結果から、得られた化合物2の構造式は
【0070】
【化20】
であることがわかった。
【0071】
実施例3
合成例1で用いた化合物のうち、H4Qの代わりに、下記式で示す、シルエチレン基を有するオルガノポリシロキサンを37.3g用いた他は、合成例1と同様の方法で下記に示す化合物3を得た。このものの比重は1.71、屈折率は1.330であった。
【化21】
化合物3のIR、NMRチャートを図5、6に示す。また、化合物3の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0072】
【化22】
【0073】
以上の結果から、得られた化合物3の構造式は
【0074】
【化23】
であることがわかった。
【0075】
実施例4
反応容器に、下記式(II)
【0076】
【化24】
(p/q=0.9、p+qの平均は約45)
で示される両末端にα−不飽和結合を有するパーフロロポリエーテル50gと、m−キシレンヘキサフロライド70g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10−7モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。得られた混合物に、下記に示すH4Qの49.3gを滴下して90℃で3時間熟成し、1H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤及び未反応のH4Qを減圧溜去した。蒸留残渣を活性炭処理し、無色透明の液体パーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン46.4gを得た。
【0077】
【化25】
【0078】
反応容器に、得られたパーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン30gと、m−キシレンヘキサフロライド30g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0223g(Pt単体として5.6×10−8モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。ここに、ビニルトリメトキシシラン5.76gを滴下して、80℃で3時間熟成し、溶剤を減圧溜去したところ、無色透明の液体(化合物4)33.7gを得た。このものの比重は1.71、屈折率は1.327であった。
【0079】
化合物4のIR、NMRチャートを図7、8に示す。また、化合物4の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0080】
【化26】
【0081】
以上の結果から、得られた化合物4の構造式は
【0082】
【化27】
Rf:−CF2(OC2F4)p(OCF2)qOCF2−
(p/q=0.9、Mwは約4000〜約6000)
であることがわかった。
【0083】
実施例5
合成例2で用いた化合物のうち、式(I)に示す片末端パーフロロポリエーテルの代わりに、合成例4で用いた両末端パーフロロポリエーテル(II)を30.4g用いた他は、合成例2と同様の方法で下記に示す化合物5を得た。このものの比重は1.72、屈折率は1.330であった。
【0084】
化合物5のIR、NMRチャートを図9、10に示す。また、化合物5の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0085】
【化28】
【0086】
以上の結果から、得られた化合物5の構造式は
【0087】
【化29】
であることがわかった。
【0088】
実施例6
反応容器に、上記パーフルオロポリエーテル(II)50gと、m−キシレンヘキサフロライド75g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10-7モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。得られた混合物に、下記式(III)に示すテトラメチルジシロキサン(HM)とビニルトリメトキシシラン(VMS)との1:1付加反応物(HM−VMS)8.4gを滴下して、90℃で2時間熟成した。1H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤及び未反応のHM−VMSを減圧溜去したところ、液状パーフルオロポリエーテル(化合物6)56.3g(比重:1.63 屈折率:1.319)を得た。
【化30】
【0089】
得られた化合物6のIRチャート及びNMRチャートを図11、12に示す。1H−NMR(TMS基準、ppm)のデータを次に示す。
【化31】
【0090】
以上の結果から、得られた化合物6の構造式は下記であることがわかった。
【化32】
(p/q=0.9、p+qの平均は約45)
【0091】
ここでXは、下記式で示される。
【化33】
【0092】
表面処理剤の調製
化合物1〜6の各々を、0.1wt%濃度になるように、エチルパーフロロブチルエーテル(HFE7200、住友3M社製)に溶解して、表面処理剤1〜6を調製した。反射防止フイルム(8×15×0.2cm、Southwall Technologies社製)を処理剤に10秒間浸漬後150mm/分の速度で引き上げ、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間放置し、硬化皮膜を形成させた。
【0093】
比較例1、2
下記化合物7、8の各々を、0.1wt%濃度になるように、エチルパーフロロブチルエーテルに溶解して、表面処理剤7、8を調製し、上記同様の方法で反射防止フイルムを処理した。
化合物7
【化34】
化合物8
【化35】
(p/q=0.9、Mwは約4000〜約6000)
【0094】
得られた硬化皮膜を、下記の試験法により評価した。結果を表1に示す。
[撥水撥油性]
接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて、硬化皮膜の水接触角及びオレイン酸に対する後退接触角を滑落法により測定した。
【0095】
[耐擦傷性]
ラビングテスター(新東科学社製)を用いて、以下の条件で擦りテストを行なった。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(1.5cm×1.5cm)に不織布を8枚重ねて包み、輪ゴムで固定したもの。
移動距離(片道)4cm
移動速度500cm/分
荷重:1kg
擦り回数:1000回
擦り試験後に処理表面に油性マジック(ゼブラ株式会社製「ハイマッキー」)を塗り、マジックハジキ性を目視により観察し、下記基準で、耐擦傷性を評価した。
A:インキを良くはじく。
B:インキをはじく部分とはじかない部分がある。
C:インキを全くはじかない。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例の化合物を夫々含む表面処理剤で処理された紙は、比較例の化合物を含む表面処理剤で処理された紙に比較して顕著に耐擦傷性が優れる。また、撥水撥油性についても、比較例に劣らない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のオルガノポリシロキサンは、基材表面に強固に密着した、撥水撥油性、耐擦傷性に優れた皮膜を形成し、各種基材の表面処理剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】化合物1のIRチャートである。
【図2】化合物1のNMRチャートである。
【図3】化合物2のIRチャートである。
【図4】化合物2のNMRチャートである。
【図5】化合物3のIRチャートである。
【図6】化合物3のNMRチャートである。
【図7】化合物4のIRチャートである。
【図8】化合物4のNMRチャートである。
【図9】化合物5のIRチャートである。
【図10】化合物5のNMRチャートである。
【図11】化合物6のIRチャートである。
【図12】化合物6のNMRチャートである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有オルガノポリシロキサンに関し、詳細には、基材との密着性に優れ、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成するフッ素含有オルガノポリシロキサン及びそれを含む表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パーフロロポリエーテル基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、興行的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。
【0003】
しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性があることを示しており、基材表面に塗布することはできても、被膜を形成し密着させることは困難であった。
【0004】
一方、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させるものとしては、シランカップリング剤が良く知られている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基)を有する。アルコキシシリル基は、空気中の水分などによって自己縮合反応をおこしてシロキサンとなり被膜を形成する。それと同時に、ガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することによって、耐久性を有する強固な被膜となる。シランカップリング剤はこの性質を利用して各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。
【0005】
これらの特徴を生かしたものとして、下記式(8)で示されるフルオロアミノシラン化合物が開示されている(特許文献1)。
【0006】
【化1】
(式中、R1、R2は炭素数1〜4のアルキル基、Q1はCH2CH2CH2又はCH2CH2NHCH2CH2CH2、hは1〜4の整数、iは2又は3である)
しかしながら、この化合物は、パーフロロポリエーテル基の部分が、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド(HFPO)の2〜5量体と短く、上記パーフロロポリエーテル基の持つ特徴を十分に出すことができなかった。
【0007】
また、ガラス表面の撥水撥油剤として下記式(9)で示される化合物が提示されているが(特許文献2)、
【0008】
【化2】
(式中、Rf1は炭素数1〜20個のポリフルオロアルキル基であってエーテル結合を1個以上含んでもよい。R3は水素原子又は低級アルキル基、Aはアルキレン基、X1は−CON(R4)−Q−又はSO2N(R4)−Q−(但し、R4は低級アルキル基、Qは2価の有機基を示す)、Zは低級アルキル基、Yはハロゲン、アルコキシ基又はR5COO−(但し、R5は水素原子又は低級アルキル基を示す)、sは0又は1の整数、tは1〜3の整数、uは0又は1〜2の整数を示す)
該化合物も含フッ素基の部分の炭素数が1〜20個と少なく、十分な効果が得られていない。
【0009】
特に最近では、建築物の高層化に伴い窓ガラスをメンテナンスフリー化することや、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面に指紋が付きにくくするなど「汚れにくくする」技術や、「汚れを落とし易くする」技術に対する要求は年々高まってきており、これらの要求に応えることのできる材料の開発が望まれていた。
【0010】
上記パーフロロポリエーテル基及びシランカップリング剤の特性を活かし、基材表面に強固な被膜を形成する表面処理剤として、含フッ素シラン化合物を防汚層に用いたレンズが知られている(特許文献3)が、含フッ素シラン化合物は、1分子中の加水分解性基の含有割合は比較的多いものの、片末端にしか存在しないことから、特に基材への密着性が不十分で耐久性の点で問題があり、レンズの表面処理剤として利用した場合には、所望の性能を長期間にわたって持続させ得るものではなく適切なものとはいえなかった。
【0011】
また、視認装置等の表面に設けられることが一般的な反射防止膜にあっては、手垢や指紋、汗や唾液、整髪料等の汚染物が付着し易く、表面反射率が変化したりする。また、付着物が白く浮き出て見えて汚染が目立ち易いという難点もある。そのため、付着防止性や付着汚染の除去性に優れかつ長期に防汚性能を保つ反射防止膜の提供が課題となっている。
【0012】
耐汚染性が向上された反射防止膜としては、PVD法により形成した二酸化ケイ素を主成分とする表面層を有する単層又は多層の無機物層からなる反射防止層の表面に、有機ポリシロキサン系重合物又はパーフロロアルキル基含有重合物からなる硬化層を有するものが知られている(特許文献4)。
【0013】
しかしながら、手垢や指紋等の人体的汚染が付着した場合に、ティッシュペーパーなどで拭き取ることが困難で、汚染が薄膜に押し拡げられ、強く擦ると反射防止膜が傷付くため、満足できる除去を達成できないという問題点があった。
【0014】
反射防止膜として、下記式(10)で示されるパーフロロポリエーテル変性アミノシランを防汚層に用いたものが開示されている(特許文献5)。この反射防止膜は、防汚性等に優れているものの、パーフロロポリエーテル変性アミノシラン1分子中の加水分解性基の割合(重量%)が少ないため、硬化までに時間を要することや、基材への密着性の点などの問題点を有し、表面処理剤として利用する上で改良が望まれている。
【0015】
【化3】
(式中、X3は加水分解性基、R5は低級アルキル基、R6は水素原子又は低級アルキル基、Q2はCH2CH2CH2又はCH2CH2NHCH2CH2CH2、eは6〜50の整数、fは2又は3、c及びdはそれぞれ1〜3の整数)
【0016】
また、下記式(11)で示されるパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤を防汚層に用いた反射防止フィルムが開示されており(特許文献6)、この防汚層に用いられるパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤は、極性基は含有していないものの、1分子中の加水分解性基の割合が十分とは言えず、硬化までに時間を要することや、基材への密着性が劣るなど、表面処理剤として利用する上で十分な性能を有しているとは言えなかった。
【0017】
【化4】
(但し、Rf2は炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状パーフロロアルキル基、R7は炭素数1〜10のアルキル基、kは1〜50の整数、rは0〜6の整数、jは0〜3の整数、lは0〜3の整数であるが、0<j+l≦6である)
【0018】
さらに、片末端に多くの加水分解性基を有するパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤が被膜形成性のよい表面処理剤であるとしている(特許文献7、8)。
【0019】
下記式(12)で示されるパーフロロポリエーテル基含有シランカップリング剤は両末端に加水分解性基を2または3個有し、基材との密着性に優れた膜を形成するとされている(特許文献9)。該膜は、汚れにくく、その汚れを拭き取り易い。しかし、耐擦傷性が未だに充分ではない。
【0020】
【化5】
(式中、Rfは二価の直鎖型パーフロロポリエーテル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基、Xは加水分解性基、pは0〜2、qは1〜5の整数、aは2又は3である)
【0021】
【特許文献1】特開昭58−167597号公報
【特許文献2】特開昭58−122979号公報
【特許文献3】特開平9−258003号公報
【特許文献4】特公平6−5324号公報
【特許文献5】特開平11−29585号公報
【特許文献6】特開2001−188102号公報
【特許文献7】特開2002−348370号公報
【特許文献8】特開2003−113244号公報
【特許文献9】特開2003−238577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで、本発明は、基材によく密着し、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成する化合物及びそれを含む表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明者は、下記一般式で示されるポリシロキサン骨格に、フッ素含有基及び加水分解性基を備えたオルガノポリシロキサンが、耐擦傷性に優れた撥水撥油性の層を形成することを見出した。
【0024】
即ち、本発明は、下記一般式(A)、(B)又は(C)で表されるオルガノポリシロキサンにおいて、
(R1は、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基であり、R2は炭素数2〜6のアルキレン基であり、nは2〜40の整数であり、kは1〜3の整数である)、
R1の少なくとも2つが下記式(i)で表される基に、
(Xは、互いに独立に、加水分解性基であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)
及び、
SiR1の1つが下記式(ii)で表される結合に、又は、SiOSi結合の1つが下記式(iii)で表される結合に、
(Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である)
置換されている構造を有することを特徴とするオルガノポリシロキサンである。
【発明の効果】
【0025】
本発明のオルガノポリシロキサンは、撥水撥油性、防汚性に優れた硬化皮膜を与えることができ、種々のコーティング用途に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の表面処理剤の主成分であるオルガノポリシロキサンは、加水分解性シリル基を有しており、該基を介して基材に強固に密着する。また、オルガノポリシロキサン部分を有し、同様の加水分解性シリル基を有する先行技術記載の化合物に比べて、耐擦傷性に優れる。該オルガノポリシロキサン部分はケイ素原子4つ以上の大きさを有し、基材表面にフッ素変性基を適切な間隔で分布させて、優れた撥水撥油性を達成するものと考えられる。
【0027】
本発明のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(A)、(B)又は(C)で表される構造を有する。
式(A)は、鎖状オルガノポリシロキサンを表し、式(B)は環状オルガノポリシロキサンを表し、式(C)は、2つのケイ素原子がアルキレン基で結合されたシルアルキレン構造、即ちSi−R2−Si、を含む鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0028】
式(A)、(B)又は(C)で表される構造として、下記のものが例示される。
上に示すように、式(A)又は(C)で表されるオルガノポリシロキサンは、分岐を有していてよく、ケイ素原子が3つの酸素原子に結合された構造(R1SiO3/2)及び/又は4つの酸素原子に結合された構造(SiO2)を含んでいてよい。
【0029】
R1は、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、R2は炭素数2〜6のアルキレン基、好ましくは2〜4のアルキレン基である。nは2〜40、好ましくは2〜10の整数である。kは1〜3の整数である。
【0030】
少なくとも2つ、好ましくは2〜6、のR1が下記式(i)で表される基に置換されている。
式(i)において、Xは互いに異なっていてよい、加水分解性の基である。その例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0031】
式(i)において、R3は、炭素数1〜4の低級アルキル基又はフェニル基でメチル基、エチル基、フェニル基などであり、中でもメチル基が好適である。yは1〜5、好ましくは1〜2の整数である。aは2又は3であり、反応性、基材に対する密着性の観点から3が好ましい。
【0032】
さらに、本発明のオルガノポリシロキサンは、SiR1結合の1つが下記式(ii)で表される結合に、又は、SiOSi結合の1つが下記式(iii)で表される結合に、置換された構造を有する。
Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である。
【0033】
Rf1及びRf2におけるパーフロロエーテル残基は、−CgF2gO−(gは1〜6の整数)の繰り返し単位を1〜500個、好ましくは2〜200個、より好ましくは10〜100個含む。なお、gは繰り返し単位毎に異なっていてよく、好ましくは1〜4である。
【0034】
上記式で示される繰り返し単位−CgF2gO−としては、例えば下記の単位等が挙げられる。なお、上記パーフロロエーテル残基は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CF2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF3)2O−
【0035】
上記繰り返し単位を含むRf1として、下記一般式(2)、(3)、(4)で示される基が好ましい。
【0036】
【化6】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である。YはF又はCF3基)
【0037】
【化7】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である)
【0038】
【化8】
(式中、e、fはそれぞれ0〜200の整数でe+f=2〜200である。該一般式中の繰り返し単位(CF2O)及び(C2F4O)の配列はランダムであってよい)
【0039】
Rf2としては、下記一般式(5)、(6)、(7)で示される基が好ましい。
【0040】
【化9】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基、rは2〜6の整数、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200、sは0〜6の整数である。該一般式中の繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
【0041】
【化10】
(式中、lは1〜200の整数、dは1〜3の整数である)
【0042】
【化11】
(式中、YはF又はCF3基、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200である。該一般式中の繰り返し単位の配列はランダムであってよい)
【0043】
式(ii)及び(iii)において、QはRf1又はRf2とオルガノポリシロキサンのケイ素原子とを連結する2価の有機基であり、好ましくは、アミド、エーテル、エステル、又はビニル結合を含む、炭素数3〜12の基が挙げられる。Qとして、下記のものが挙げられる。
【0044】
【化12】
上記各基において、左側がRf1又はRf2に、右側がSiに結合される。
【0045】
上記式(A)〜(C)の構造において、式(i)〜(iii)の構造により置換されている部位及び数は、目的に応じて選択することができる。例えば上で例示した構造において、R1がメチル基であり、置換基の無い部分が、式(i)〜(iii)の構造であるものを下に示す。好ましくは、式(i)及び(ii)の構造が末端にある。また、下記構造の、互いに異なっていてよい2つのものが式(iii)の構造で結合され、夫々の末端に式(i)の構造があるものも好ましい。
【0046】
【化13】
【0047】
本発明のオルガノポリシロキサンの調製方法の一例を示す。式(i)の構造は、下記式で表される不飽和基を有する化合物を、
(R1、X、a、yについては上述のとおりであり、zは2y−1又は2yである)を、式(A)〜(C)において、反応させたい部位のR1がHであるオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒、例えば白金化合物、の存在下で、付加反応させることによって得ることができる。
【0048】
同様に、式(ii)の構造は、下記式(v)で示される不飽和基を有する化合物を
Rf1Q’ (v)
(式(v)において、Rf1は上で説明したとおりであり、Q’は、例えば下記で示す不飽和基を含む基である)
式(A)〜(C)において反応させたい部位のR1がHであるオルガノポリシロキサンと、付加反応させることによって得ることができる。
【0049】
式(iii)の構造は、下記式(vi)で示される、Rf2の両側に不飽和基を有する化合物を、
Q’Rf2Q’ (vi)
(式(vi)において、Rf2及びQ’は上述のとおりである)
式(A)〜(C)において、反応させたい部位のR1がHであるオルガノポリシロキサン2分子と付加反応させることによって、得ることができる。該オルガノポリシロキサンは、2種の混合物であってもよい。なお、付加反応は、公知の反応条件で行なってよい。
【0050】
本発明は、上記オルガノポリシロキサンを主成分とする表面処理剤を提供する。該オルガノポリシロキサンを、予め、公知の方法で、ある程度加水分解縮合させて得られる部分加水分解縮合物を用いてもよい。
【0051】
該表面処理剤には、必要に応じて、加水分解縮合触媒、例えば、有機錫化合物(ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリン酸ジブチル錫など)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、有機酸(酢酸、メタンスルホン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)を添加してもよい。これらの中では、特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリン酸ジブチル錫などが望ましい。添加量は触媒量であり、通常、オルガノポリシロキサン及び/又はその部分加水分解縮合物100重量部に対して0.01〜5重量部、特に0.1〜1重量部である。
【0052】
該表面処理剤は、適当な溶剤を含んでよい。このような溶媒としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフロロヘプタン、パーフロロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフロロブチルエーテル、エチルパーフロロブチルエーテル、パーフロロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフロロトリブチルアミン、パーフロロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素変性された溶剤が望ましく、特には、m−キシレンヘキサフロライド、パーフロロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフロロトリブチルアミン、エチルパーフロロブチルエーテルが好ましい。
【0053】
上記溶媒はその2種以上を混合してもよく、本発明のオルガノポリシロキサンを均一に溶解させることが好ましい。該オルガノポリシロキサン及び/又はその部分加水分解縮合物の濃度は、処理方法により最適濃度は異なるが、0.01〜50重量%、特に0.05〜20重量%であることが好ましい。
【0054】
表面処理剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で基材に施与することができる。また、処理温度は、処理方法によって異なるが、例えば刷毛塗りやディッピングで施与した場合は、室温から120℃の範囲が望ましい。処理湿度としては、加湿下で行うことが反応を促進する上で望ましい。また、硬化皮膜の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1nm〜5μm、特に1〜100nmである。
【0055】
上記表面処理剤で処理される基材は、特に制限されず、紙、布、金属及びその酸化物、ガラス、プラスチック、セラミックなど各種材質のものであってよく、これらに撥水撥油性、離型製、防汚性を付与することができる。
【0056】
本発明の表面処理剤で処理される物品及び処理目的としては、例えば、眼鏡レンズ、反射防止フィルターなど光学部材の指紋、皮脂付着防止コーティング;浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の撥水、防汚コーティング;自動車、電車、航空機などの窓ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング;外壁用建材の撥水、防汚コーティング;台所用建材の油汚れ防止用コーティング;コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング;その他、塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質、テープ、フィルムなどの潤滑性の向上などが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0058】
実施例1
反応容器に、下記式
【0059】
【化14】
で示される片末端にα−不飽和結合を有するパーフロロポリエーテル化合物50gと、m−キシレンヘキサフロライド70.3g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10−6モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。得られた混合物に、下記式に示すオルガノポリシロキサン(H4Q)21.93gを滴下して90℃で3時間熟成し、1H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤及び未反応のH4Qを減圧溜去した。蒸留残渣を活性炭処理し、無色透明の液体パーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン77.5gを得た。
【0060】
【化15】
【0061】
次いで、反応容器に、上で得たパーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン25gと、m−キシレンヘキサフロライド30g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0225g(Pt単体として.2.2×10−6モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。これに、ビニルトリメトキシシラン4.63gを滴下して80℃で3時間熟成し、溶剤を減圧溜去した後、無色透明の液体(化合物1)26.8gを得た。このものの比重は1.55、屈折率は1.336であった。
【0062】
化合物1のIR、NMRチャートを図1、2に示す。また、化合物1の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0063】
【化16】
【0064】
以上の結果から、得られた化合物の構造式は
【0065】
【化17】
【0066】
【化18】
であることがわかった。
【0067】
実施例2
合成例1で用いた化合物のうち、H4Qの代わりに、テトラメチルシクロテトラシロキサン(環状シロキサンH4)を14.5g用いた他は、合成例1と同様の方法で下記に示す化合物2を得た。このものの比重は1.55、屈折率は1.343であった。
化合物2のIR、NMRチャートを図3、4に示す。また、化合物2の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0068】
【化19】
【0069】
以上の結果から、得られた化合物2の構造式は
【0070】
【化20】
であることがわかった。
【0071】
実施例3
合成例1で用いた化合物のうち、H4Qの代わりに、下記式で示す、シルエチレン基を有するオルガノポリシロキサンを37.3g用いた他は、合成例1と同様の方法で下記に示す化合物3を得た。このものの比重は1.71、屈折率は1.330であった。
【化21】
化合物3のIR、NMRチャートを図5、6に示す。また、化合物3の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0072】
【化22】
【0073】
以上の結果から、得られた化合物3の構造式は
【0074】
【化23】
であることがわかった。
【0075】
実施例4
反応容器に、下記式(II)
【0076】
【化24】
(p/q=0.9、p+qの平均は約45)
で示される両末端にα−不飽和結合を有するパーフロロポリエーテル50gと、m−キシレンヘキサフロライド70g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10−7モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。得られた混合物に、下記に示すH4Qの49.3gを滴下して90℃で3時間熟成し、1H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤及び未反応のH4Qを減圧溜去した。蒸留残渣を活性炭処理し、無色透明の液体パーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン46.4gを得た。
【0077】
【化25】
【0078】
反応容器に、得られたパーフロロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン30gと、m−キシレンヘキサフロライド30g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0223g(Pt単体として5.6×10−8モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。ここに、ビニルトリメトキシシラン5.76gを滴下して、80℃で3時間熟成し、溶剤を減圧溜去したところ、無色透明の液体(化合物4)33.7gを得た。このものの比重は1.71、屈折率は1.327であった。
【0079】
化合物4のIR、NMRチャートを図7、8に示す。また、化合物4の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0080】
【化26】
【0081】
以上の結果から、得られた化合物4の構造式は
【0082】
【化27】
Rf:−CF2(OC2F4)p(OCF2)qOCF2−
(p/q=0.9、Mwは約4000〜約6000)
であることがわかった。
【0083】
実施例5
合成例2で用いた化合物のうち、式(I)に示す片末端パーフロロポリエーテルの代わりに、合成例4で用いた両末端パーフロロポリエーテル(II)を30.4g用いた他は、合成例2と同様の方法で下記に示す化合物5を得た。このものの比重は1.72、屈折率は1.330であった。
【0084】
化合物5のIR、NMRチャートを図9、10に示す。また、化合物5の1H−NMRのデータを次に示す。
1H−NMR(TMS基準、ppm)
【0085】
【化28】
【0086】
以上の結果から、得られた化合物5の構造式は
【0087】
【化29】
であることがわかった。
【0088】
実施例6
反応容器に、上記パーフルオロポリエーテル(II)50gと、m−キシレンヘキサフロライド75g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10-7モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。得られた混合物に、下記式(III)に示すテトラメチルジシロキサン(HM)とビニルトリメトキシシラン(VMS)との1:1付加反応物(HM−VMS)8.4gを滴下して、90℃で2時間熟成した。1H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤及び未反応のHM−VMSを減圧溜去したところ、液状パーフルオロポリエーテル(化合物6)56.3g(比重:1.63 屈折率:1.319)を得た。
【化30】
【0089】
得られた化合物6のIRチャート及びNMRチャートを図11、12に示す。1H−NMR(TMS基準、ppm)のデータを次に示す。
【化31】
【0090】
以上の結果から、得られた化合物6の構造式は下記であることがわかった。
【化32】
(p/q=0.9、p+qの平均は約45)
【0091】
ここでXは、下記式で示される。
【化33】
【0092】
表面処理剤の調製
化合物1〜6の各々を、0.1wt%濃度になるように、エチルパーフロロブチルエーテル(HFE7200、住友3M社製)に溶解して、表面処理剤1〜6を調製した。反射防止フイルム(8×15×0.2cm、Southwall Technologies社製)を処理剤に10秒間浸漬後150mm/分の速度で引き上げ、25℃、湿度40%の雰囲気下で24時間放置し、硬化皮膜を形成させた。
【0093】
比較例1、2
下記化合物7、8の各々を、0.1wt%濃度になるように、エチルパーフロロブチルエーテルに溶解して、表面処理剤7、8を調製し、上記同様の方法で反射防止フイルムを処理した。
化合物7
【化34】
化合物8
【化35】
(p/q=0.9、Mwは約4000〜約6000)
【0094】
得られた硬化皮膜を、下記の試験法により評価した。結果を表1に示す。
[撥水撥油性]
接触角計(協和界面科学社製A3型)を用いて、硬化皮膜の水接触角及びオレイン酸に対する後退接触角を滑落法により測定した。
【0095】
[耐擦傷性]
ラビングテスター(新東科学社製)を用いて、以下の条件で擦りテストを行なった。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(1.5cm×1.5cm)に不織布を8枚重ねて包み、輪ゴムで固定したもの。
移動距離(片道)4cm
移動速度500cm/分
荷重:1kg
擦り回数:1000回
擦り試験後に処理表面に油性マジック(ゼブラ株式会社製「ハイマッキー」)を塗り、マジックハジキ性を目視により観察し、下記基準で、耐擦傷性を評価した。
A:インキを良くはじく。
B:インキをはじく部分とはじかない部分がある。
C:インキを全くはじかない。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例の化合物を夫々含む表面処理剤で処理された紙は、比較例の化合物を含む表面処理剤で処理された紙に比較して顕著に耐擦傷性が優れる。また、撥水撥油性についても、比較例に劣らない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のオルガノポリシロキサンは、基材表面に強固に密着した、撥水撥油性、耐擦傷性に優れた皮膜を形成し、各種基材の表面処理剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】化合物1のIRチャートである。
【図2】化合物1のNMRチャートである。
【図3】化合物2のIRチャートである。
【図4】化合物2のNMRチャートである。
【図5】化合物3のIRチャートである。
【図6】化合物3のNMRチャートである。
【図7】化合物4のIRチャートである。
【図8】化合物4のNMRチャートである。
【図9】化合物5のIRチャートである。
【図10】化合物5のNMRチャートである。
【図11】化合物6のIRチャートである。
【図12】化合物6のNMRチャートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)、(B)又は(C)で表されるオルガノポリシロキサンにおいて、
(R1は、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基であり、R2は炭素数2〜6のアルキレン基であり、nは2〜40の整数であり、kは1〜3の整数である)、
R1の少なくとも2つが下記式(i)で表される基に、
(Xは、互いに独立に、加水分解性基であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)
及び、
SiR1の1つが下記式(ii)で表される結合に、又は、SiOSi結合の1つが下記式(iii)で表される結合に、
(Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である)
置換されている構造を有することを特徴とするオルガノポリシロキサン。
【請求項2】
nが2〜10であることを特徴とする請求項1記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項3】
一般式(A)又は(C)で表され、(SiO2)単位を有することを特徴とする請求項1または2記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項4】
R1が、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項5】
前記パーフロロエーテル残基が、下記一般式で表される繰り返し単位
−CgF2gO−
(gは、単位毎に独立に、1〜6の整数である)
1〜500個を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項6】
Rf1が下記一般式(2)、(3)、(4)で示される基から選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【化1】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である。YはF又はCF3基)
【化2】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である)
【化3】
(式中、e、fはそれぞれ0〜200の整数でe+f=2〜200であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
【請求項7】
Rf2が下記一般式(5)、(6)、(7)で示される基から選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【化4】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基、rは2〜6の整数、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200、sは0〜6の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
【化5】
(式中、lは1〜200の整数、dは1〜3の整数である)
【化6】
(式中、YはF又はCF3基、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
【請求項8】
Qが、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、及びビニル結合からなる群より選ばれる少なくとも1つの結合を含んでよい、炭素数3〜12の炭化水素基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項9】
加水分解性基Xが、アルコキシ基、オキシアルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、及びハロゲン基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項10】
加水分解性基Xがメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、及びクロル基から選ばれることを特徴とする請求項9に記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン及び/又はその部分加水分解縮合物を主成分とする表面処理剤。
【請求項12】
請求項11記載の表面処理剤で処理された物品。
【請求項1】
下記一般式(A)、(B)又は(C)で表されるオルガノポリシロキサンにおいて、
(R1は、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基であり、R2は炭素数2〜6のアルキレン基であり、nは2〜40の整数であり、kは1〜3の整数である)、
R1の少なくとも2つが下記式(i)で表される基に、
(Xは、互いに独立に、加水分解性基であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5の整数であり、aは2又は3である)
及び、
SiR1の1つが下記式(ii)で表される結合に、又は、SiOSi結合の1つが下記式(iii)で表される結合に、
(Rf1はパーフロロエーテル残基を有する1価の基であり、Rf2はパーフロロエーテル残基を有する2価の基であり、Qは2価の有機基である)
置換されている構造を有することを特徴とするオルガノポリシロキサン。
【請求項2】
nが2〜10であることを特徴とする請求項1記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項3】
一般式(A)又は(C)で表され、(SiO2)単位を有することを特徴とする請求項1または2記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項4】
R1が、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項5】
前記パーフロロエーテル残基が、下記一般式で表される繰り返し単位
−CgF2gO−
(gは、単位毎に独立に、1〜6の整数である)
1〜500個を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項6】
Rf1が下記一般式(2)、(3)、(4)で示される基から選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【化1】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である。YはF又はCF3基)
【化2】
(式中、mは2〜200、dは1〜3の整数である)
【化3】
(式中、e、fはそれぞれ0〜200の整数でe+f=2〜200であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
【請求項7】
Rf2が下記一般式(5)、(6)、(7)で示される基から選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン。
【化4】
(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF3基、rは2〜6の整数、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200、sは0〜6の整数であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
【化5】
(式中、lは1〜200の整数、dは1〜3の整数である)
【化6】
(式中、YはF又はCF3基、dは1〜3の整数、m、nはそれぞれ0〜200の整数でm+nは2〜200であり、繰り返し単位はランダムに結合されていてよい)
【請求項8】
Qが、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、及びビニル結合からなる群より選ばれる少なくとも1つの結合を含んでよい、炭素数3〜12の炭化水素基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項9】
加水分解性基Xが、アルコキシ基、オキシアルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、及びハロゲン基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項10】
加水分解性基Xがメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、及びクロル基から選ばれることを特徴とする請求項9に記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン及び/又はその部分加水分解縮合物を主成分とする表面処理剤。
【請求項12】
請求項11記載の表面処理剤で処理された物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−197425(P2007−197425A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343447(P2006−343447)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】
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