説明

フマル酸誘導体およびそれを用いた眼用レンズ

【構成】 本発明はフマル酸誘導体およびそれを用いた眼用レンズに関する。さらに詳しくは、同一分子内に親水基とシリコン含有アルキル基を有するフマル酸ジエステルであって、それを用いたコンタクトレンズまたは眼内レンズに関する。
【効果】 本発明のフマル酸誘導体は、分子構造中にシリコン含有アルキルを有することにより優れた酸素透過性を与え、他方親水性置換基を同一分子内に有することにより、他の親水性モノマーとの相溶性を向上させることができる。また、当該フマル酸誘導体を含有するモノマー組成物を重合することにより得られる眼用レンズを、例えば含水性レンズとして構成した場合には、併用する親水性モノマーとの相溶性に優れ、種々の混合比による組み合わせが可能で、含水率に依存しない高度の酸素透過性および透明性に優れたレンズが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフマル酸誘導体およびそれを用いた眼用レンズに関する。さらに詳しくは、同一分子内に親水基とシリコン含有アルキル基を有するフマル酸誘導体であって、それを用いたコンタクトレンズまたは眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用材料、特にコンタクトレンズまたは眼内レンズなどの眼用レンズ材料の分野において、その素材として用いることができる各種モノマーが検討されている。中でもフマル酸エステル系については、レンズに加工したときの透明性、機械的強度、酸素透過性などに優れた物性を示すことから、従来より多くの提案がなされている。これらの物性はそれぞれ眼用レンズが生体に直接接触して使用されるという関係ゆえに、その材料として用いられる物質が備えていなければならないとも言うべき特性である。
【0003】
フマル酸は、白色の結晶性粉末であり食品添加剤、医薬原料、浴用剤などとして工業的に広く用いられている物質である。その化学構造式は不飽和結合を有する炭化水素基を挟んでカルボキシル基を2個有しており、このカルボキシル基にエステル結合により種々の置換基を導入することによって、フマル酸エステル系のコンタクトレンズ原料モノマーとして研究されてきた。例えば置換基に直鎖または分岐アルキル、シクロアルキルなどの疎水性のアルキルを有するジアルキルフマレートについては、特公平2−50450号、特公平6−85030号、特公平8−23630号などに、ホスホリルコリン基やヒドロキシアルキル基などの親水性置換基を導入したものについては、特許3240696号、特許3227811号、特許3612349号等において開示されている。また、シリコン含有アルキルを有するジ(シリコン含有アルキル)フマレートについては特公平6−77115号、特許3050586号、特許3453224号などに、フッ素置換アルキル基を有するジ(フルオロアルキル)フマレートについては特許3060586号にそれぞれ開示されている。
【0004】
前記各種フマレートは置換基が基本的に同一の、いわゆる対称型である。これらのフマレートは主に酸素透過性の向上を目的として合成され、実際優れた特性を発揮している。一方、前記各公報中にも一部開示されているが、置換基が相異なるいわゆる非対称型についても研究され、例えばシリコン含有アルキルとフルオロアルキルとを有するフマレート(特公平6−25832号など)や、直鎖・分岐または環状アルキルとポリオキシエチレン鎖とを有するフマレート(特開平4−335007号など)、炭素数1〜20のアルキルとホスホリルコリンを有するフマレート(WO97/8177号など)をコンタクトレンズに用いた例がある。
【0005】
これらは、コンタクトレンズとして使用したときに必要な角膜への酸素供給を促進するだけでなく、適度な水濡れ性、光学材料としての透明性および、生体適合性、耐汚れ付着性などをも目的として、開発されているものである。
【0006】
ところで、前記各公報により提案されているフマル酸エステルは、優れた酸素透過性を有するレンズ材料を提供することができるにもかかわらず、市場においては、シリコン含有メタクリレートもしくはポリジメチルシロキサン系マクロマーを用いたレンズ材料にその主流を譲っているのが現状である。コンタクトレンズ分野は、大きく分けて酸素透過性ハードレンズ、含水性ソフトコンタクトレンズ、そして近年上市されたシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズがあるが、酸素透過性ハードレンズやシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズにはシリコン含有メタクリレートもしくは前記マクロマーなどが用いられており、含水性ソフトコンタクトレンズにはアクリルアミド系モノマーやN−ビニルラクタム、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、メタクリル酸などが用いられているのである。
【0007】
このようにフマル酸エステルを実際に採用したレンズがなかなか製品化されない理由は、それを特定することは必ずしも適切ではないが、一つにはフマル酸エステル単独で用いるには原料コストが高くつき、他の汎用モノマーと組み合わせて用いるには、モノマー同士の相溶性に問題があることが挙げられる。すなわち、酸素透過性を向上させるにはシリコン含有アルキルを置喚基に有するフマル酸エステルを多量に用いることが望ましいが、レンズ材料の適度な水濡れ性を保証するためには、親水性モノマーを共重合させる必要がある。しかし、一般的にシリコン含有アルキルフマレートは親水性モノマーとの相溶性が良くないため、限られた組成比での使用に制限されるし、また含水性ソフトコンタクトレンズを得ようとする場合には、元々相溶性に問題があるだけでなく、併用するモノマー相互の重合反応性に差があるために均一なポリマーが得難く、特に含水後に白濁するなどの問題が生じやすいことが挙げられる。
【0008】
【特許文献1】 特公平2−50450号
【特許文献2】 特公平6−85030号
【特許文献3】 特公平8−23630号
【特許文献4】 特許3240696号
【特許文献5】 特許3227811号
【特許文献6】 特許3612349号
【特許文献7】 特公平6−77115号
【特許文献8】 特許3050586号
【特許文献9】 特許3453224号
【特許文献10】 特公平6−25832号
【特許文献11】 特開平4−335007号
【特許文献12】 WO97/8177号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、フマル酸誘導体モノマーを用いた場合の優れた特徴である透明性、機械的強度、酸素透過性などの利点を生かしつつ、他の併用モノマー特に親水性モノマー類との相溶性を向上させることのできる新規なフマル酸誘導体およびそれを用いたコンタクトレンズ又は眼内レンズなどの眼用レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、フマル酸のカルボキシル基の一方に親水性置換基、他方にシリコン含有アルキルを導入することにより、前記目的を達成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される親水基(R)及びシリコン含有アルキル基を有するフマル酸誘導体および、それを含む組成物を重合して得られることを特徴とする眼用レンズに関する。
【化4】

[式中、YはOまたはNR(Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アリール基の群から選ばれる基)であり;
Rは炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基、−(CHCHO)m−A基(mは1〜10の整数、Aは水素、メチル又はエチルを示す)、下記式:
【化5】

から選択される基であり;
は直鎖または分岐の炭素数3〜10のアルキレン、フェニレン、シクロヘキシレン、−(CHCHO)o−CHCHCH−基(oは1から10の整数)、下記式:
【化6】

で示される基であり;
、X、Xはそれぞれ独立にメチル基、トリメチルシロキシ基、Si原子力が18個以下のオルガノシロキシ基を示す]
【発明の効果】
【0012】
本発明のフマル酸誘導体は、分子構造中にシリコン含有アルキルを有することにより優れた酸素透過性を与え、他方親水性置換基を同一分子内に有することにより、他の親水性モノマーとの相溶性を向上させることができた。また、当該フマル酸誘導体を含有するモノマー組成物を重合することにより得られる眼用レンズは、ハードレンズとして構成した場合には高度の酸素透過性のみならず、表面親水性が高いレンズ材とすることができ、一方含水性レンズとして構成した場合には、併用する親水性モノマーとの相溶性に優れ、種々の混合比による組み合わせが可能で、含水率に依存しない高度の酸素透過性を満足させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のフマル酸誘導体およびその合成方法についてさらに詳細に説明する。本発明のフマル酸誘導体は、一般式(1):
【化7】

[式中、YはOまたはNR(Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アリール基の群から選ばれる基)であり;
Rは炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基、−(CHCHO)m−A基(mは1〜10の整数、Aは水素、メチル又はエチルを示す)、下記式:
【化8】

から選択される基であり;
は直鎖または分岐の炭素数3〜10のアルキレン、フェニレン、シクロヘキシレン、−(CHCHO)o−CHCHCH−基(oは1から10の整数)、下記式:
【化9】

で示される基であり;
、X、Xはそれぞれ独立にメチル基、トリメチルシロキシ基、Si原子が18個以下のオルガノシロキシ基を示す]で示される。
【0014】
前記一般式(1)のR−Y−はフマル酸の一方のカルボキシル基に、親水性の置換基を導入したものであり、Yが酸素(O)であるときはアルコール類とのエステル結合により、また−NR−であるときは、一級乃至二級アミン類とのアミド結合を形成して親水性の置換基を導入するものである。このエステル結合やアミド結合はそれ自体で化合物に若干の親水性を付与するが、それに引き続く置換基Rによってさらに親水化を向上させる。
【0015】
前記Rの炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基の例としては、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシブチル、5−ヒドロキシデカリル、6−ヒドロキシデカリルなどの−OHを1つ有するアルキルや、ジヒドロキシプロピル、ジヒドロキシブチル、トリヒドロキシプロピル、トリヒドロキシブチル、テトラヒドロキシペンチル、ペンタヒドロキシヘキシル、ヘキサヒドロキシヘプチルなどの分子内に−OHを2個以上有するアルキルがあげられる。また、−(CHCHO)m−A基(mは1〜10の整数、Aは水素、メチル又はエチルを示す)の例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ノナエチレングリコール、2−メトキシエチレン、2−エトキシエチレン、ジエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテルなどが上げられる。これらのうち、合成反応の容易性、精製工程の簡略化などの理由から、2−ヒドロキシエチル、2−メトキシエチレン、ジエチレングリコール、(2−メトキシエトキシ)エチレン、トリエチレングリコール、[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチレンが好ましい。これらは市販品として入手が容易でもあり、コスト低減を図ることができる。
【0016】
一般式(1)におけるYは、フマル酸のカルボキシル基とシリコン含有アルキルとを結合する基である。ここで、直鎖または分岐の炭素数3〜10のアルキレンとしては、プロピレン、n−ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、イソプロピレン、イソブチレンなどがあげられる。また前記以外にフェニレンやシクロヘキシレン、−(CHCHO)o−CHCHCH−基(oは1から10の整数)、或いは下記式:
【化10】

で示される基であってもよい。これらは通常シリコン含有アルキルに結合してフマル酸に同時に導入されるので、シリコン含有アルキルの選択に際して適宜決定されるが、プロピレンによるものが一般的であり、入手し易いものでもある。
【0017】
前記式(1)のX、X、Xは、それぞれ独立にメチル、トリメチルシロキシ、ペンタメチルジシロキシ、メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ、トリス(ペンタメチルシロキシ)シロキシ、トリメチルシロキシジメチルシロキシ、メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シロキシ、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シロキシ、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シロキシ、ノナメチルテトラシロキシ、ペンタデカメチルヘプタシロキシ、ヘプタコサメチルトリデカシロキシ、トリス(ペンタメチルジシロキシ)シロキシ、ノナメチルテトラシロキシウンデシルメチルペンタシロキシ、ノナキス(トリメチルシロキシ)テトラシロキシ、などのSi原子が18個以下のオルガノシロキシ基が挙げられる。また、オルガノシロキシ基の末端がメチル、エチル、ブチル、アミルなどのアルキルや、これらの水素がフッ素置換されたアルキルであっても良い。前記例示のうちで、入手が容易な点で、トリメチルシロキシ基が好ましい。
【0018】
本発明のフマル酸誘導体は一例として以下の反応により合成することができる。まず、無水マレイン酸と親水性置換基として導入したい置換基を有するアルコールもしくは多価アルコールとを開環付加反応してマレイン酸モノエステルを得る。得られたマレイン酸モノエステルに塩化チオニルの存在下でフマル酸モノエステルに異性化し、さらに該フマル酸モノエステルをクロライド化する(参照特開平9−77861号、特開2002−265417号など)。こうして得られたフマル酸モノエステルクロライドと、シリコン含有アルキル基を有するアルコールとを反応させて目的とするフマル酸ジエステルを合成するものである。
【0019】
より具体的には、下反応式に示す合成経路を採用することができる。
【0020】
【化11】

【0021】
前記アルコールもしくは多価アルコールの例としては、2−メトキシエタール、2(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノール、メトキシフェノール、2−メトキシ−4−メチルフェノール、4−メトキシベンジルアルコール、2−エトキシエタノール、2(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(ジメチルアミノ)エタノール、2−(2−オキソピロリジニル)エタノールなどのアルコール類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの多価アルコールがあげられる。また、無水マレイン酸とアミド結合を形成して開環付加反応を形成するものとして、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシブチルアミンなどのアミン類を用いることもできる。これらのうち入手が容易でコストの観点から、2−メトキシエタール、2(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、ヒドロキシエチルピロリドンが好ましい。
【0022】
この無水マレイン酸の開環付加反応は容易に進行するが、上記アルコール等は、無水マレイン酸1モルに対して0.8〜1.2のモル比の範囲、さらに好ましくは0.9〜1.1の範囲で用いることが望ましい。モル比0.8未満では反応の収率が低下し、モル比1.2より多くすると副反応が起こりやすいからである。また反応時の温度は40〜150℃の範囲が、反応時間は、1〜6時間の範囲が好ましい。前記温度未満では反応の進行が遅く、前記温度より高いと副反応が起こり易いからである。この時反応を均一に進行させるためにテトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテルなどの反応溶媒や、トリエチルアミンをはじめとする三級アミン類などの反応触媒を適量用いることが好ましい。
【0023】
次いで異性化反応に用いる塩化チオニルは、後工程のフマル酸のクロライド化反応にも兼用される。この使用量としては、マレイン酸モノエステル1モルに対して2〜10のモル比の範囲、さらに好ましくは3〜5の範囲で用いることが望ましい。モル比2未満では反応の収率が低下し、モル比10より多くすると副反応が起こりやすいからである。また反応時の温度は20〜110℃の範囲が、反応時間は、1〜6時間の範囲が好ましい。前記温度未満では反応の進行が遅く、前記温度より高いと副反応が起こり易いからである。
【0024】
こうしてフマル酸モノエステルクロライドを得た後、必要であれば過剰の塩化チオニルは減圧等により留去して反応系より除く。次いで、もう一つの置換基であるシリコン含有アルキル基を導入する目的により、前記酸クロライドと反応させるためのシリコン含有アルキル基を有するアルコールを添加する。
【0025】
このシリコン含有アルキル基を有するアルコールの具体例としては、2−トリメチルシリルエタノール、3−トリメチルシリルプロパノール、3−ペンタメチルジシロキサニルプロパノール、3−ヘプタメチルトリシロキサニルプロパノール、3−ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロパノール、3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロパノール、4−トリス(トリメチルシロキシ)シリルブタノール、5−トリス(トリメチルシロキシ)シリルペンタノール、3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル−3−フェノール、3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル−3−シクロヘキサノールなどの他、3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルに−(CHCHO)o−CHCHCH−基(oは1から10の整数)、或いは下記式を
【化12】

を介して末端水酸基を有する化合物があげられる。これらは、目的とする酸素透過性や、原料コストなどを考慮して適宜選択すればよいが、3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロパノールが特に好ましい。
【0026】
前記酸クロライドと反応させるためのシリコン含有アルキル基を有するアルコールを添加するに際して、反応を均一に進めるために溶媒を添加したり、触媒としての三級アミンを添加するのが好ましい。これら溶媒の例としては、テトラヒドロフランやベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、クロロホルム、塩化メチレンなどが、三級アミンとしてはトリエチルアミンなどがあげられる。三級アミンの使用量としては、フマル酸クロリド1モルに対して1.0〜2.0のモル比の範囲、さらに好ましくは1.2〜1.5の範囲で用いることが望ましい。
【0027】
また、前記酸クロライドとシリコン含有アルキル基を有するアルコールとの混合比は、酸クロライド1モルに対して0.5〜1.5の範囲が好ましい。1.5より多いまたは、0.5より少ないと目的化合物の生成量が少ないという問題が生じうるからである。なお、反応温度ならびに反応時間は、−10〜20℃と1〜6時間であり、好ましくは0〜5℃と1〜2時間である。
【0028】
前記異性化方法については、前記塩化チオニルを用いる以外に、シス−トランス異性化触媒として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンやp−トルエンスルホン酸などの有機酸、アセチルクロリドやベンゼンスルホニルクロリド、ピペリジンやモルフォリン、ジエチルアミンのような塩基、トリエチルホスフェイトやトリフェニルホスフィンなどのリン化合物、チオ尿素などを用いる方法(特開昭58−18335号参照)や、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミドなどの4級アンモニウムを用いる方法(特開昭60−181047号参照)、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などを異性化触媒として用いる方法(再公表WO01/060780号参照)などがある。さらに、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属やジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジアセテートなどの有機金属化合物を触媒として用いたエステル交換反応による方法(特開平9−255622号参照)をも例示することができる。いずれの方法を採用するかは目的とするフマル酸ジエステルの収率や製造コストを考慮して選択すればよいが、塩化チオニルを用いる方法を採用した方が、フマル酸クロリドの溶媒に対する溶解性が高いこと、続くエステル化反応、あるいはアミド化反応を均一系で行えるとの理由により本発明の非対称型のフマル酸ジエステルを合成する上で都合が良い。
【0029】
上記工程により得られたフマル酸ジエステルは、他の共重合可能なモノマーと組み合わせることによりコンタクトレンズや眼内レンズなどの眼用レンズ材料とすることができる。以下コンタクトレンズ材料を例に記載するが、基本的に眼内レンズとして用いることも可能である。
【0030】
コンタクトレンズとしては酸素透過性ハードコンタクトレンズとしての用途と、含水性ソフトコンタクトレンズとしての用途などが考えられ、それぞれの用途に応じて組み合わせる他のモノマー並びに組成比が変更される。いずれの用途であっても、本発明のフマル酸ジエステル以外に架橋成分として多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。レンズとしての機械的強度ならびに未反応モノマーなどの溶出を防止するためである。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼンなどがあげられ、これらのうちから1種以上を選択して使用するのが好ましい。また、その使用量は全モノマー混合物の100重量部に対して0.01〜10重量部の範囲が好ましい。
【0031】
そしてハードコンタクトレンズとして用いる場合には、本発明のフマル酸ジエステル以外にこれと共重合可能なモノマー成分として、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートなどのフッ素置換アルキル(メタ)アクリレートがあげられ、これらのうちから1種以上を選択して使用するのが好ましい。これらのフッ素系モノマーはコンタクトレンズへの汚れ付着防止に有効な成分として従来公知である。この使用量は一般に全モノマー中に0〜50重量%の割合で添加される。
【0032】
また、コンタクトレンズの硬度や機械的強度を向上させるために、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレートなどのメタクリレートモノマーや、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニルモノマーがあげられ、これらのうちから1種以上を選択して使用するのが好ましい。これらのモノマーは一般に全モノマー中に0〜30重量%の割合で添加される。
【0033】
さらに、フマル酸ジエステルとともに併用しても酸素透過性を低下させることのない従来公知の有機シロキサンモノマーを使用することもできる。具体的には、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルエチル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチル(メタ)アクリレート、トリス(ペンタメチルジシロキサニルオキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどがあり、これらのうちから1種以上を選択して使用するのが好ましい。これらは、全モノマー中に0〜50重量%の割合で添加される。
【0034】
さらにまた、レンズ表面の涙濡れ性を向上させるため、或いは含水性コンタクトレンズを得るために、他の親水性モノマーを使用することもできる。具体的には、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−ビニルピロリドンなどがあり、これらのうちから1種以上を選択して使用するのが好ましい。置換基にシリコン含有アルキルを有するモノマーは一般に親水性モノマーとの相溶性が悪く自由な組み合わせが困難となることが多いが、本発明のフマル酸ジエステルは一方の置換基にシリコン含有アルキルを有しつつ、他方の置換基には親水性基を有するので、親水性モノマーと混合しても、相溶性が問題となることなく、従来よりもより自由度の高い組成比にて配合が可能である。
【0035】
ここで、ハードコンタクトレンズとして使用する場合には前記親水性モノマーの使用量を抑えて全モノマー中に 5〜30重量%、含水性のソフトコンタクトレンズとして使用する場合には30〜70重量%の範囲に設定することが好ましい。なお、含水性ソフトコンタクトレンズとして用いる場合でも上述のハードコンタクトレンズに用いることが可能なモノマーと同様のモノマーを組み合わせて使用することができ、含水性ソフトコンタクトレンズを目的とする場合には親水性モノマーの占める割合が相対的に高くなり、ハードコンタクトレンズを目的とする場合には、前記親水性モノマー以外の成分の比率が相対的に高くなる。
【0036】
要するに、ハードコンタクトレンズを得る目的の場合は本発明のフマル酸ジエステルを10〜80重量%好ましくは15〜70重量%の範囲で含み、親水性モノマーが5〜30重量%、その他のモノマーが10〜60重量%となるのに対し、含水性ソフトコンタクトレンズを得る目的の場合には本発明のフマル酸ジエステルを5〜80重量%好ましくは10〜70重量%の範囲で含み、親水性モノマーが30〜70重量%、その他のモノマーが10〜50重量%となるのである。
【0037】
そして、上記のように配合されたモノマー混合物に対し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキシドなどのラジカル重合開始剤や、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾフェノンなどの光重合開始剤を一種以上選択して、全モノマー混合物の100重量部に対して0.001〜5重量部程度、好ましくは0.01〜2重量部添加する。
【0038】
こうして調製されたモノマー混合物は、重合用の適当な容器またはコンタクトレンズ形状を有するモールドに収容したのち重合体として成形される。ハードコンタクトレンズには必要な規格が多岐に渡るので、一般的には棒状またはブロック状に重合した後切削研磨により所望のコンタクトレンズとして仕上げられることが多い。一方、ソフトコンタクトレンズの場合には、基本的なベースカーブが1乃至数種であるために規格が少なく、モールド法により重合されることが多い。こうして得られたレンズ成形品は、必要に応じて表面処理、水和処理などを経て、目的の製品とすることができる。
【0039】
なお、本発明のコンタクトレンズには、さらに目的に応じて従来公知の着色剤や、紫外線吸収剤などを添加することもできる。
【実施例】
【0040】
以下本発明をより具体的に明らかにするために、本発明に係る幾つかの実施例を例示する。
【0041】
−化合物1(2−メトキシエチル−3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルフマレート)の合成−
以下に示す反応式により本発明のフマル酸ジエステル(化合物1)を得ることができる。
【0042】
【化13】

上記合成についてはまず、無水マレイン酸5.0g(51mmol)と2−メトキシエタノール3.9g(51mmol)を混合し、テトラヒドロフラン(以下THFと略す)30mlを加えて溶解した。そしてトリエチルアミン(以下EtNと略す)を73mg(0.72mmol)添加して、70℃で2時間反応させた。反応溶液にエーテル/THF混合溶媒を添加して抽出し硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。
【0043】
得られた2−メトキシエチルマレエート6.5g(37mmol)を塩化チオニル(以下SOClと略す)10ml添加して窒素雰囲気下で1時間加熱還流した後、過剰のSOClを1時間かけて減圧留去した。そこにTHF120mlと3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルアルコールを7.9g(22mmol)加えて溶かし、氷浴で冷却しつつ、4−ジメチルアミノピリジンを250mg(2.2mmol)、続いてEtNを7.5g(74mmol)加えて1時間反応させた。次いで、1N塩酸を加えて中和し、エーテル100mlで抽出後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去したのち、減圧蒸留によって目的とする化合物1を得た。収率62%
【0044】
化合物1のH−核磁気共鳴スペクトルおよび13C−核磁気共鳴スペクトルは、日本電子製JNMα−400型式を用い、重水素化クロロホルム中、25℃、H−核磁気共鳴スペクトルは積算回数8回、13C−核磁気共鳴スペクトルは積算回数128回で測定した。
その結果は次に示すとおりである。
【化14】

H NMR(CDCl),δ,ppm a)6.89(s,2H) b)4.37−4.33(m,2H) c)4.14(t,J=6.9 Hz,2H) d)3.66−3.63(m,2H) e)3.40(s, 3H) f)1.75−1.56(m,2H) g)0.51−0.44(m,2H) h)0.10(s,27H)
【0045】
【化15】

13C NMR(CDCl),δ,ppm a)165.0,164.9 b)134.2,133.0 c)70.2 d)67.5 e)64.3 f)59.0 g)22.6 h)10.3 i)1.7
IR(NaCl).cm−1 2960(vC−H).1727(vC=O),1645(vC=C),1255(vSi−C),1297,1156(vC(=O)−O),1060(vO−Si−O
【0046】
−化合物1を用いた含水性コンタクトレンズ用材料の重合(実施例1、2および比較例1、2)−
化合物1の50(重量)部とN−ビニルピロリドン(以下NVPと表す)33(重量)部および2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下2−HEMAと表す)17(重量)部に対して、架橋剤としてエチレングリコールジ(メタ)アクリレート0.3部、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3部を添加して溶解したのち、2枚のガラス板(76mm×25mm×2mm)の間にナイロンシートおよびφ16にくりぬいた厚さ0.2mmのシリコーン製スペーサーをサンドした冶具に該溶液を注入した。
次にかかる冶具を液もれしないようにクリップにて止め、プログラム昇温式オーブン中にて室温から60℃まで1時間で昇温し、同温度で2時間保ち、次いで75℃まで1時間で昇温し、同温度で2時間保持した。さらに90℃まで1時間で昇温し、同温度で2時間加熱したのち室温まで徐々に冷却して厚さ0.2mmのフィルム状の重合体を得た。得られたフィルムは透明で硬質であった。このフィルムを生理食塩水中にて水和させ、各物性を以下の方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
(イ)含水率(重量%)
35℃における前記フィルムの含水率は次式に基づいて求めた。
含水率(重量%)={(W−W)/W}×100
ただし、Wは水和処理後の平衡含水状態での試験フィルムの重量(g)、Wは水和処理後、乾燥機中にて乾燥した状態でのフィルムの重量(g)を表す。
【0048】
(ロ)酸素透過係数(Dk0.2
酸素透過性の評価として、ツクバ・リカセイキ(株)製の酸素透過率計を用いて、35℃の生理食塩水中にてフィルムの厚さが約0.2mmのときの酸素透過係数の値に1011を乗じた数値で示す。単位:(cm/sec)・(mlO/ml・mmHg)
【0049】
(ハ)透過率(%)
透明性の評価として、SHIMADZU(株)製のUV測定器を用いて含水状態のフィルムの波長380〜780nmにおける透過率(%)として表す。
【0050】
【表1】

なお、表中のモノマー成分に関する略号は以下の通りである。
TRIS:トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート
NVP :N−ビニルピロリドン
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
【0051】
表1の結果から、従来シリコン系モノマーとして主に用いられてきたTRISを使用した場合には、他のモノマー成分との組み合わせによっては含水時における透明性に欠けるという問題があり、一方、本発明の化合物1の場合には、透明性に優れていることからフマル酸ジエステルの構造上、親水基とシリコン含有アルキルを一つの分子内に有するモノマーを使用することによる効果が発現されていることが理解できる。なお、酸素透過性については両者共にシリコン系モノマーを含有する量に依存して高い値を示している。
【0052】
−実施例3〜8および比較例3〜7−
実施例1において、重合成分の組成を表2(実施例3〜8)および表3(比較例3〜7)に示すように変更したほかは実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムを実施例1と同様に各物性の測定を行って、下記表2並びに表3に示す結果を得た。
【0053】
【表2】

なお、表中のモノマー成分に関する略号は以下の通りである。
6FP :ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート
NVP :N−ビニルピロリドン
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
【0054】
【表3】

【0055】
前記表2並びに表3の結果より、本発明例においてはDk0.2は、含水率依存型の素材(比較例)の1.5倍以上であった。
【0056】
また、含水率と酸素透過係数に着目して、実施例1〜8および比較例3〜7について、その関係を図1に示す。図より従来の含水率依存型ソフトコンタクトレンズに比して、本発明のレンズ材料は含水率に係わらず高い酸素透過性を維持することがわかる。
【0057】
−化合物2の合成−
以下に示す反応式よりフマル酸ジエステル(化合物2)を得ることができる。
【0058】
【化16】

【0059】
2−メトキシエチルマレート3.6g(20mmol)、以下の構造のポリオルガノシロキサン化合物1 11.3g(10mmol)、4−ジメチルアミノピリジン245mg(2.0mmol)を塩化メチレン40mlに溶解させた。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下EDCと略す)3.9g(20mmol)を添加し、室温で3時間撹拌した。1N塩酸で反応系を洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)にて精製を行い、目的とする化合物2を得た。収率95%。
【0060】
【化17】

ポリオルガノシロキサン化合物1(平均重合度n=10):
【0061】
化合物2のH−核磁気共鳴スペクトルおよび13C−核磁気共鳴スペクトルは、日本電子製JNMα−400型式を用い、重水素化クロロホルム中、25℃、H−核磁気共鳴スペクトルは積算回数8回、13C−核磁気共鳴スペクトルは、積算回数128回で測定した。
その結果は次に示すとおりである。
【化18】

H NMR(CDCl),δ,ppm a)6.92(s,2H) b)4.37−4.32(m,4H) c)3.68−3.68(m,4H) d)3.45−3.41(m,2H) e)3.39(s,3H) f)1.64−1.57(m,4H) g)1.33−1.25(m,2H) h)0.90−0.85(m,3H) i)0.55−0.49(m,4H) j)0.07(s,many)
【0062】
【化19】

13C NMR(CDCl),δ,ppm a)164.8 b)133.7,133.5 c)74.1 d)70.2 e)68.2 f)64.5,64.2 g)58.9 h)26.3 i)25.4 j)23.4;23.3,23.2 k)17.9 l)14.0 m)13.7 n)1.9,1.8,1.6,1.5,1.1,1.0,0.5,0.4,0.3 o)0.1
IR(NaCl)cm−1 2962(vC−H),1729(vC=O),1646(vC=C),1260(vSi−C),1296,1091(vC(=O)−O),1025(vO−Si−O
【0063】
−化合物3の合成−
以下に示す反応式よりフマル酸ジエステル(化合物3)を得ることができる。
【0064】
【化20】

上述合成についてはまず、無水マレイン酸10g(102mmol)と1−(2−ヒドロキシエチエチル)−2−ピロリジノン13g(102mmol)を混合し、THF20mlを加えて溶解させた。そして、EtNを0.5ml添加し室温で2時間反応させた。反応溶液から、目的物を析出物としてろ別し単離した。収率96%。
得られた2−(2−オキソピロリジニル)エチルマレート1.0g(4.4mmol)、ポリオルガノシロキサン化合物1 2.5g(2.2mmol)、4−ジメチルアミノピリジン54mg(0.44mmol)を塩化メチレン5mlに溶解させた。EDC0.84g(4.4mmol)を添加し、室温で84時間撹拌した。1N塩酸で反応系を洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/酢酸エチル=10/1)にて精製を行い、目的とする化合物3を得た。収率49%。
【0065】
化合物3のH−核磁気共鳴スペクトルおよび13C−核磁気共鳴スペクトルは、日本電子製JNMα−400型式を用い、重水素化クロロホルム中、25℃、H−核磁気共鳴スペクトルは積算回数8回、13C−核磁気共鳴スペクトルは、積算回数128回で測定した。
その結果は次に示すとおりである。
【化21】

H NMR(CDCl),δ,ppm a)6.90(s,2H) b)4.36−4.32(m,4H) c)3.68(t,J=4.7 Hz,2H) d)3.60(t,J=5.4 Hz,2H) e)3.50−3.41(m,4H) f)2.38(t,J=8.3 Hz,2H) g)2.07−2.01(m,2H) h)1.65−1.58(m,2H) i)1.33−1.25(m,4H) j)0.88(t,J=6.9 Hz,3H) k)0.55−0.49(m,4H) l)0.08−0.05(m,many)
【0066】
【化22】

13C NMR(CDCl),δ,ppm a)175.3 b)164.6,164.4 c)133.9,133.6 d)68.2 e)64.5 f)62.7 g)47.9 h)41.5 i)30.5 j)26.2 k)25.3 l)23.3 m)18.0 n)17.8 o)14.0 p)13.7 q)1.6,1.5,1.0,0.9,0.5,0.4 r)0
IR(NaCl)cm−1 2961,2872(vC−H),1726,1693(vC=O),1294(vC(=O)−O),1259(vSi−C),1015(vO−Si−O
【0067】
また、ポリオルガノシロキサン化合物1に替えて、以下の構造のポリオルガノシロキサン化合物2を使用した他は、前記と同様の方法にて下記化合物(4)を得た。
【0068】
【化23】

【0069】
【化24】

ポリオルガノシロキサン化合物2(平均重合度n=10):
【0070】
−実施例9〜24−
前記により得られた化合物(2)〜(4)を用いて、共重合成分の組成を表4〜7に示すように調製した。そして、実施例1、2と同様の方法により以下の温度条件で重合した。室温から90℃まで30分で昇温し、同温度で1時間保ち、次いで110℃まで30分で昇温し、同温度で1時間加熱したのち、室温まで徐冷した。こうして、厚さ0.2mmのフィルム状の重合物を得た。得られたフィルムを蒸留水中にて水和させ、各物性を調べた。その結果を表4〜6に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
表4〜6中の略記号はそれぞれ以下の化合物を示す。
TRIS:トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート FM7711:両末端サイラプレーン(商標)チッソ(株)製 平均分子量1000 3FE:トリフルオロエチル(メタ)アクリレート NVP:N−ビニルピロリドン DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
【0075】
−比較例8〜10−
共重合成分の組成を表7のように変更したほかは、実施例9〜24と同様にして厚さ0.2mmのフィルム状の重合物を得た。得られたフィルムを蒸留水中にて水和させ、各物性を調べた。その結果を表7に示す。
【0076】
【表7】

【0077】
表4〜6の結果から、本発明により得られたフィルムは含水状態において優れた透明性を呈することが分かる。また、表7の比較例9および10のように、従来汎用されているポリジメチルシロキサン系メタクリレートを使用した場合に比べて一層高い酸素透過性を示した。本発明例の酸素透過性Dk0.2は、含水率依存型の素材(比較例3〜7)の1.5〜2.5倍であった。
【0078】
さらに、従来シリコン系モノマーとして主に用いられてきたTRISやポリジメチルシロキサン系メタクリレートを使用した場合には、含水率は使用量に応じて顕著に低下する傾向がある(比較例8〜10)が、化合物2および化合物3を使用すれば配合量に応じて僅かに上昇したことから、本発明のフマル酸ジエステルの構造において、親水基とシリコン含有アルキルをひとつの分子内に有するモノマーを使用することによる効果が現れていることがわかる。なお、化合物4については含水率が使用量に応じ僅かに減少したが、実施例24と比較例10を比較すると、化合物4の使用が特に高い酸素透過性と含水率を維持していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明例の1〜8および比較例3〜7について含水率と酸素透過係数の関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される親水基(R)及びシリコン含有アルキル基を有するフマル酸誘導体。
【化1】

[式中、YはOまたはNR(Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アリール基の群から選ばれる基)であり;
Rは炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基、−(CHCHO)m−A基(mは1〜10の整数、Aは水素、メチル又はエチルを示す)、下記式:
【化2】

から選択される基であり;
は直鎖または分岐の炭素数3〜10のアルキレン、フェニレン、シクロヘキシレン、−(CHCHO)o−CHCHCH−基(oは1から10の整数)、下記式:
【化3】

で示される基であり;
、X、Xはそれぞれ独立にメチル基、トリメチルシロキシ基、Si原子が18個以下のオルガノシロキシ基を示す]
【請求項2】
請求項1記載のフマル酸誘導体を含む組成物を重合して得られることを特徴とする眼用レンズ。
【請求項3】
請求項1記載のフマル酸誘導体10〜80重量%と他の共重合成分90〜20重量%を重合させてなる共重合体からなる請求項2記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記他の共重合成分が、前記請求項1記載のフマル酸誘導体以外のフマル酸ジエステル、フマル酸ジアミド、フマル酸アミドエステル、Nビニルラクタム、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシルエチル〈メタ〉アクリル酸エステルから選択された一種以上の重合成分であることを特徴とする請求項3記載の眼用レンズ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−186512(P2007−186512A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357020(P2006−357020)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(505300612)株式会社イーブレイン (5)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】