説明

フラックス処理装置

【課題】III 族窒化物の育成後にフラックスを安全に除去できるフラックス処理装置を提供する。
【解決手段】フラックス法にてIII族窒化物結晶を育成した後に、その反応容器107を処理溶液218に浸漬してフラックスを除去する処理を行うフラックス処理装置を、処理溶液218を入れる処理容器301と、同処理溶液218についての温度センサー219および温度調整器221とを有し、温度センサー219による測定結果をもとに温度調整器221を介して処理溶液218の温度を所定の温度領域に制御するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス法にて育成したIII族窒化物単結晶を取り出すべくフラックスを処理するフラックス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などのIII族窒化物化合物半導体(以下、III族窒化物半導体またはGaN系半導体という場合がある)は、青色や紫外光を発光する半導体素子の材料として注目されている。青色レーザダイオード(LD)は高密度光ディスクやディスプレイなどに応用され、青色発光ダイオード(LED)はディスプレイや照明などに応用されている。また、紫外線LDはバイオテクノロジなどへの応用が期待され、紫外線LEDは蛍光灯の紫外線源として期待されている。
【0003】
LDやLED用のIII族窒化物半導体(例えば、GaN)基板は通常、サファイア基板上に、気相エピタキシャル成長法を用いて、III族窒化物単結晶をヘテロエピタキシャル成長させることによって形成されている。気相成長法としては、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition法)、水素化物気相成長法(HVPE法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などがある。
【0004】
最近では、液相成長(LPE:Liquid Phase Epitaxy)法を用いて、アンモニアを含む窒素ガス雰囲気下においてガリウム(Ga)とナトリウム(Na)との混合物を800℃、50気圧で溶融させ、この融解液を用いて96時間の結晶育成を行うことが報告されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−293696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した育成法は、ナトリウムをフラックスとして用いるものであるが、育成終了後に反応容器が降温するにしたがってフラックスが固化し、その固化物で育成結晶が被われた状態になる。結晶を取り出すためには、反応容器をたとえば常温まで放冷してから、アルコール類や蒸留水を用いてフラックスを除去する処理が必要である。ナトリウム以外のアルカリ金属やアルカリ土類金属を用いる場合も同様である。
【0006】
しかしナトリウム等は、水分やアルコール類と激しく反応して温度上昇や水素ガスの発生を来たす性質を有しており、最悪の場合、アルコール類への着火や水素ガスの爆発等の危険性を伴う。処理するフラックス量が多くなると、アルコール類の温度上昇が激しくなり、発生する水素ガス量も多くなるため、危険性が高くなり、安全対策が重要となる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、III 族窒化物の育成後にフラックスを安全に除去できるフラックス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のフラックス処理装置は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をフラックスとして用いてIII族窒化物結晶を育成した後に、その反応容器をアルコール類と水の少なくとも一方である処理溶液に浸漬してフラックスを除去する処理を行うフラックス処理装置において、前記処理溶液を入れる処理容器と、前記処理容器内の処理溶液の温度を検出する温度センサーと、前記処理容器内の処理溶液の温度を調節する温度調節手段とを有し、前記温度センサーによる測定結果をもとに前記温度調節手段により前記処理容器内の処理溶液の温度を所定の温度領域に制御するように構成したことを特徴とする。この場合、処理溶液の温度領域は20℃から沸点以下であることが好ましい。20℃未満であるとフラックスの処理に時間がかかり、沸点を超えると着火、爆発の危険性が高まるからである。
【0009】
また本発明のフラックス処理装置は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をフラックスとして用いてIII族窒化物結晶を育成した後に、その反応容器をアルコール類と水の少なくとも一方である処理溶液に浸漬してフラックスを除去する処理を行うフラックス処理装置において、前記処理溶液を入れる処理容器と、前記処理容器内の水素ガス濃度を測定する水素ガス濃度センサーと、前記処理容器に対し不活性ガスを供給し排気を行う給排気手段とを有し、前記水素ガス濃度センサーによる測定結果をもとに前記給排気手段により前記処理容器内の水素ガス濃度を所定の濃度領域に制御するように構成したことを特徴とする。この場合、水素ガスの濃度領域は4%以下であることが好ましい。4%を超えると、爆発の危険性が高まるからである。
【0010】
さらに本発明のフラックス処理装置は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をフラックスとして用いてIII族窒化物結晶を育成した後に、その反応容器をアルコール類と水の少なくとも一方である処理溶液に浸漬してフラックスを除去する処理を行うフラックス処理装置において、前記処理溶液を入れる処理容器と、前記処理容器内の処理溶液の温度を検出する温度センサーと、前記処理容器内の処理溶液の温度を調節する温度調節手段と、前記処理容器内の水素ガス濃度を測定する水素ガス濃度センサーと、前記処理容器に対し不活性ガスを供給し排気を行う給排気手段とを有し、前記温度センサーによる測定結果をもとに前記温度調節手段により前記処理容器内の処理溶液の温度を所定の温度領域に制御するとともに、前記水素ガス濃度センサーによる測定結果をもとに前記給排気手段により前記処理容器内の水素ガス濃度を所定の濃度領域に制御するように構成したことを特徴とする。この場合、処理溶液の温度領域は20℃から沸点以下であり、水素ガスの濃度領域は4%以下であることが好ましい。
【0011】
温度調節手段はヒータまたはペルチェ素子であってよい。また温度調節手段は、処理容器に対し処理溶液を供給排出する給排液手段であってよい。
たとえば、フラックスがナトリウムであり、III族窒化物が窒化ガリウムであるときに、好適に処理できる。アルコール類は、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールの内の1種または複数種であってよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフラックス処理装置によれば、フラックス法にてIII族窒化物結晶を育成した後、結晶周囲で固化したフラックスを安全にかつ迅速に除去して、III族窒化物結晶を取り出すことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
はじめに、従来よりある結晶育成装置およびそれを用いた結晶育成法について、窒化ガリウム結晶を育成するものとして説明する。
【0014】
図5に示す結晶育成装置は、原料ガス供給装置101および圧力調整器102と、結晶育成を行うための密閉性耐圧耐熱容器103と、この密閉性耐圧耐熱容器103が内部に設置される育成炉100とにより構成されている。
【0015】
原料ガス供給装置101は原料ガス109を加圧供給できればよく、圧力調整器102が配管を通じて育成雰囲気の圧力を常圧〜100気圧の範囲の所望圧力に制御する。ストップバルブ105,リーク弁106は、圧力を一定に保つために設けられているもので、圧力調整器102に電気的に連動する。原料ガス109は、窒素ガス、アンモニアガス、窒素ガスとアンモニアガスの混合ガス等が用いられる。
【0016】
密閉性耐圧耐熱容器103は、常温〜1100℃、常圧〜100気圧の範囲の高温高圧で密閉性を保つ容器であればよく、SUS316などのSUS系材料、インコネル、ハステロイ若しくはインコロイなどの高温高圧に耐性のある材料で作製することができる。これらの内、インコネル、ハステロイ若しくはインコロイなどの材料は、高温高圧下における酸化に対しても耐性があり、不活性ガス以外の雰囲気でも利用できるため、再利用、耐久性の点から好ましい。
【0017】
密閉性耐圧耐熱容器103(以下、耐圧耐熱容器103という)の内部には、反応容器としての坩堝107が設置されている。坩堝107は、アルミナ(Al)、サファイア、イットリア(Y)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、窒化ホウ素(BN)、タングステン(W)などの、III族元素やアルカリ金属と反応しにくい材料で作製することができる。
【0018】
坩堝107内には、テンプレート201が設置されている。テンプレート201とは、サファイアなどの基板上に組成式AlGaIn1−u+vN(ただし、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦u+v≦1)で表される半導体層や、組成式AlGaIn1−u+vN(ただし、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦u+v≦1)で表される単結晶などを形成したものを意味する。110は原料とフラックスとの融解液を示している。テンプレート201を種結晶として用いることで、テンプレート201上に厚膜の単結晶を育成させることができ、容易に大面積の単結晶の育成が可能となる。
【0019】
育成炉100は、断熱材111と加熱装置112とを具備している。加熱装置112としては、誘導加熱型ヒータ(高周波コイル)、抵抗加熱ヒータ(ニクロム、カンタル、SiC、MoSi2ヒータ等)等を使用することができる。これらの内、高温時に不純物ガスの発生が少ない誘導加熱型ヒータが好ましい。
【0020】
また育成炉100は、熱電対113などにより炉内の温度管理が可能とされており、フラックスの凝集を防止する観点から耐圧耐熱容器103の温度が均一に保持されることが好ましいため、炉内温度は常温〜1100℃まで制御される。圧力調整器102によって、炉内の雰囲気圧力を100気圧以下の範囲で制御可能でもある。融解液110の攪拌のために、図示した揺動軸114で育成炉100全体を揺動させることや、育成炉100内に上下の温度差をつけることで熱対流を発生させることも可能である。
【0021】
上記の結晶育成装置を用いた結晶育成法を説明する。
図6(a)に示すように、坩堝107内に、サファイア基板上に組成式AlGaIn1−u+vN(ただし、0≦u≦1、0≦v≦1、0≦u+v≦1)で表される半導体層を有するテンプレート201を設置する。
【0022】
そして、坩堝107内、テンプレート201の上に、原料であるガリウム215、フラックスであるナトリウム214を入れる。ナトリウム214のほか、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属を用いることができる。アルカリ金属に代えて、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、ベリリウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属を用いることもできる。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
これらガリウム215およびナトリウム214の秤量や取り扱いは、ナトリウム214の酸化や水分吸着を回避するために、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガスなどの不活性ガスで置換された雰囲気中、たとえばグローブボックス中で行う。そして、図6(b)に示すように、ガリウム215およびナトリウム214を入れた坩堝107を耐圧耐熱容器103に入れ、上蓋104を閉め、ストップバルブ105を閉じた後に、グローブボックスから取り出す。
【0024】
その後に、先の図5に示したように、耐圧耐熱容器103を原料ガス供給装置101に接続し、ストップバルブ105を開放し、耐圧耐熱容器103に原料ガスを注入する。注入後に、耐圧耐熱容器103内を図示していないロータリーポンプやターボポンプなどで真空引きし、再び原料ガスを注入して置換することが好ましい。
【0025】
次に、耐圧耐熱容器103を育成炉100内に固定し、坩堝107内で結晶成長させる。溶融および育成条件は、フラックスの成分や原料ガス成分およびその圧力によって異なるが、上述のガリウム215、ナトリウム214、原料ガスとして窒素ガスを用いる場合は、例えば、温度は700℃〜1100℃、好ましくは700℃〜900℃という低温で育成が行われる。圧力は20気圧以上、好ましくは30気圧〜100気圧以下とされる。
【0026】
このような溶融および育成条件とすることにより、ナトリウム214とガリウム215との融液110を坩堝107内に形成し、耐圧耐熱容器103内で、原料ガス109を融解液110中に溶け込ませてガリウム215と反応させ、窒化ガリウム結晶を育成する。なおこのときには、育成炉100内にアルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンなどの不活性ガスが充填されていることが好ましい。空気中で耐圧耐熱容器103を高温下に保持すると酸化して再利用が困難となるからである。
【0027】
次に、上述のように育成した窒化ガリウム結晶を取り出すための、本発明に係るフラックス処理装置について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す。
【0028】
このフラックス処理装置は、処理溶液218を入れる処理容器301および蓋302と、処理容器301内の処理溶液218の温度を検出する温度センサー219および表示計220と、同処理溶液218の温度を調節するための温度調節器221と、温度センサー219の出力をもとに温度調節器221を介して処理溶液218の温度を所定の温度領域に制御する温度制御装置222とを有している。
【0029】
処理対象の反応容器107は、育成した窒化ガリウム結晶216(テンプレート+窒化ガリウム結晶)と固化したフラックス110′(厳密にはナトリウムだけでなく未反応のガリウムが少し含まれている)とが入った状態である。
【0030】
処理溶液218は、アルコール類、その水希釈液、または水である。アルコール類は、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等であり、これらの内の1種類を単独で使用してもよいし、若しくは2種類以上を併用してもよい。水が多いと、フラックス110′との反応が急激に進行して水素ガス217が大量に発生するため、注意を要する。
【0031】
処理容器301と蓋302は、反応容器107および処理溶液218が入る容積を有し、密閉できるものであればよく、アルカリ性に強く、100℃程度の温度に耐えられる材料であれば用いることが出来る。ステンレス系材料やテフロン系材料が好ましい。
【0032】
温度センサー219は、処理溶液218の温度を測定でき、且つその結果を出力できればよく、たとえば、熱伝対を用いることができる。温度調整器221は、処理容器301を介して処理溶液218を任意の温度に調節できればよく、たとえば、ヒータやペルチェ素子を使用することが可能である。
【0033】
以上のフラックス処理装置を用いたフラックス処理方法を説明する。
処理容器301の中に、反応容器107を入れ、処理溶液218としてのエタノールを入れ、蓋302を閉じる。処理溶液218を処理容器301に入れると同時に、フラックス110′の主体であるナトリウムがエタノールと反応して溶解し、熱と水素ガス217が発生するので、温度センサー219の出力をもとに、温度制御装置222によって温度調整器221を介して処理溶液218の温度を20℃から60℃に制御する。
【0034】
これは、そのまま放置すると、時間の経過とともに処理溶液218の温度が上昇し、当該処理溶液218の沸点に達し、エタノール蒸気が発生して非常に着火しやすくなり、着火した場合には、火災や水素ガス217の爆発などを引き起こす危険性が高くなるので、沸点以下に保持しておくためである。また、処理溶液218の温度が常温(20℃)以下では、ナトリウムの処理時間が非常に遅くなるからである。ここで、エタノールの沸点は78℃であり、60℃という温度は、処理溶液218がエタノール100%であるか否かに関わらず着火の観点からは十分に低い温度である。
【0035】
このようにして、処理溶液218の過剰な温度上昇を防ぎ、安全を確保しながら、フラックス110′を除去する処理を迅速に行うことができ、育成結晶216を速やかに取り出すことが可能になる。超音波装置を併用すると、さらに処理時間を短縮することが可能である。
【0036】
図2は本発明の第2の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す。
このフラックス処理装置には、処理溶液218を処理容器301に対して注入するための注入配管230と排出配管231とポンプ装置232とが設けられている。第1の実施形態のフラックス処理装置で設けられていた温度調整器221は設けられていない。ポンプ装置232には図示していない温度制御装置が接続されている。その他の構成は第1の実施形態のフラックス処理装置と同様である。
【0037】
上記構成により、温度センサー219の出力をもとに、ポンプ装置232によって処理溶液218の注入排出を行うことで、処理容器301内の処理溶液218の温度を20℃から60℃に制御する。このことにより上記と同様の効果が得られる。
【0038】
たとえば、処理容器301内の処理溶液218の温度が60℃に近づいた場合に、処理容器301内の処理溶液218を排出配管231より排出するとともに、排出量にほぼ見合う量の低温の処理溶液218を注入配管230より処理容器301内に注入することで、温度上昇を抑える。
【0039】
処理溶液218を注入配管230と排出配管231とを用いて注入排出することは、フラックスの処理を迅速に行うためにも有効である。たとえば、フラックス処理が進むにしたがって処理溶液218のpHが高くなり、反応が遅くなるため、pHを下げるように処理溶液218を注入排出することは好ましい。
【0040】
フラックス110′の処理状態に応じて、処理溶液218の成分を変化させることも好ましい。たとえば、処理開始時には100%アルコールを用い、処理が進むにつれて水の割合を高めることで、処理速度を速くすることが可能である。育成結晶216の裏側に入り込んだフラックス110′を処理する最終段階になると、発生する水素ガスが邪魔してフラックス110′に対する処理溶液218の接触面積が小さくなるため、反応が遅くなると考えられるので、アルコールよりも反応性の高い水を徐々に混入させてその割合を高めることにより、部分的にも反応を早めて滞留ガスを押し出すことで、処理を促進する。水ではなく、アルキル基の異なるアルコール、たとえばアルキル基の小さいアルコールを用いても反応性が高くなる。
【0041】
フラックス110′の処理状態は、フラックス110′の容器底からの高さを機械的に検出する手段を装備して残量を求めたり、あるいは、発生する水素量を、後述するセンサや目視またはCCDを用いる画像認識で検出して反応の進行を判断することなどにより、検知することができる。
【0042】
図3は本発明の第3の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す。
このフラックス処理装置には、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス)のガス供給源239と、ガス供給源239のガスを処理容器301に対して注入するための注入配管240と排出配管241とが設けられている。また、処理容器301内の水素ガスの濃度を測定する水素ガス濃度センサー242とその表示系243とが設けられている。第1の実施形態のフラックス処理装置で設けられていた温度センサー219、温度調整器221は設けられていない。その他の構成は第1の実施形態のフラックス処理装置と同様である。
【0043】
上記構成により、フラックス110′と処理溶液218との反応で発生した水素ガスの濃度を水素ガス濃度センサー242で測定し、水素ガス濃度センサーの出力をもとに、ガス供給源239、注入配管240、排出配管241によって不活性ガスなどを注入し排気を行うことで、処理容器301内の水素ガス濃度を規定の濃度範囲内に、つまり、少なくとも、水素爆発が起こる濃度下限値である4%以上にならないように、制御する。
【0044】
たとえば、処理容器301内の水素ガス濃度が4%に近づいた場合に、処理容器301内のガスを排出配管241より排出するとともに、注入配管240より処理容器301内に窒素ガスを注入することで、水素ガス濃度の上昇を抑える。
【0045】
このようにして、処理容器301内の水素ガス濃度の過剰な上昇を防ぎ、安全を確保しながら、フラックス110′を迅速に除去する処理を行うことができ、育成結晶216を速やかに取り出すことが可能になる。超音波装置を併用すると、さらに処理を早くすることが可能である。
【0046】
図4は本発明の第4の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す。
このフラックス処理装置は、上述した第1〜第3の実施形態のフラックス処理装置の構成を併せ持っており、各フラックス処理装置について説明したフラックス処理方法を平行に行う。
【0047】
このフラックス処理装置によれば、処理容器301内の処理溶液218の過剰な温度上昇を2系統で防ぎ、かつ、水素ガス濃度を爆発下限界以下に抑えるので、より安全で且つ処理時間の早いフラックス処理が可能になる。
【0048】
以上、窒化ガリウム結晶をナトリウムフラックスを用いて育成する場合のフラックス処理について説明したが、他のIII族窒化物結晶を育成する場合、他のフラックスを用いる場合についても、同様に処理して同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のフラックス処理装置は、フラックス法にてIII族窒化物単結晶を育成した後のフラックスの処理に広く有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す断面図
【図2】本発明の第2の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す断面図
【図3】本発明の第3の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す断面図
【図4】本発明の第4の実施形態のフラックス処理装置の構成を示す断面図
【図5】従来よりある結晶育成装置の構成を示す断面図
【図6】図5の結晶育成装置による結晶育成法の一部工程を示す断面図
【符号の説明】
【0051】
107 反応容器
110′ フラックス
216 窒化ガリウム結晶
217 水素ガス
218 処理溶液
219 温度センサー
221 温度調整器
222 温度制御装置
230 注入配管
231 排出配管
240 注入配管
241 排出配管
242 水素ガス濃度センサー
301 処理容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属をフラックスとして用いてIII族窒化物結晶を育成した後に、その反応容器をアルコール類と水の少なくとも一方である処理溶液に浸漬してフラックスを除去する処理を行うフラックス処理装置であって、
前記処理溶液を入れる処理容器と、前記処理容器内の処理溶液の温度を検出する温度センサーと、前記処理容器内の処理溶液の温度を調節する温度調節手段とを有し、前記温度センサーによる測定結果をもとに前記温度調節手段により前記処理容器内の処理溶液の温度を所定の温度領域に制御するように構成したことを特徴とするフラックス処理装置。
【請求項2】
処理溶液の温度領域は20℃から沸点以下であることを特徴とする請求項1記載のフラックス処理装置。
【請求項3】
温度調節手段はヒータまたはペルチェ素子であることを特徴とする請求項1記載のフラックス処理装置。
【請求項4】
温度調節手段は処理容器に対し処理溶液を供給排出する給排液手段であることを特徴とする請求項1記載のフラックス処理装置。
【請求項5】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属をフラックスとして用いてIII族窒化物結晶を育成した後に、その反応容器をアルコール類と水の少なくとも一方である処理溶液に浸漬してフラックスを除去する処理を行うフラックス処理装置であって、
前記処理溶液を入れる処理容器と、前記処理容器内の水素ガス濃度を測定する水素ガス濃度センサーと、前記処理容器に対し不活性ガスを供給し排気を行う給排気手段とを有し、前記水素ガス濃度センサーによる測定結果をもとに前記給排気手段により前記処理容器内の水素ガス濃度を所定の濃度領域に制御するように構成したことを特徴とするフラックス処理装置。
【請求項6】
水素ガスの濃度領域は4%以下であることを特徴とする請求項5記載のフラックス処理装置。
【請求項7】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属をフラックスとして用いてIII族窒化物結晶を育成した後に、その反応容器をアルコール類と水の少なくとも一方である処理溶液に浸漬してフラックスを除去する処理を行うフラックス処理装置であって、
前記処理溶液を入れる処理容器と、前記処理容器内の処理溶液の温度を検出する温度センサーと、前記処理容器内の処理溶液の温度を調節する温度調節手段と、前記処理容器内の水素ガス濃度を測定する水素ガス濃度センサーと、前記処理容器に対し不活性ガスを供給し排気を行う給排気手段とを有し、前記温度センサーによる測定結果をもとに前記温度調節手段により前記処理容器内の処理溶液の温度を所定の温度領域に制御するとともに、前記水素ガス濃度センサーによる測定結果をもとに前記給排気手段により前記処理容器内の水素ガス濃度を所定の濃度領域に制御するように構成したことを特徴とするフラックス処理装置。
【請求項8】
処理溶液の温度領域は20℃から沸点以下であり、水素ガスの濃度領域は4%までであることを特徴とする請求項7記載のフラックス処理装置。
【請求項9】
フラックスがナトリウムであり、III族窒化物が窒化ガリウムであることを特徴とする請求項1、5、7のいずれかに記載のフラックス処理装置。
【請求項10】
アルコール類は、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールの内の1種または複数種であることを特徴とする請求項1、5、7のいずれかに記載のフラックス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215085(P2009−215085A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57112(P2008−57112)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】